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飼い猫と蛇神憑き

第1回      
 


1

一般人ならば、パソコンの解読は無理と思うだろう。
さらに文字と数列を交えて6文字以上にしてより難解にすれば、
解読の難易度と時間は文字数の桁に比例し膨大になっていく。

OSをCDから読み込んだり、HDDを他のPCで解析したり、
設備や知識があるか悪意を以って使用するならば話は別だが。
だがそれ程の手間を掛けてまで俺のPCに価値はない。

●●7のようにソ連の機密情報があるわけでもなし、
かといってクレジットカードを電子商法で使うわけでもなし、
実は世紀の大発明が・・・なんてことはないわけである。

 

極論から言おう。

削除されていたわけである、
自身のPCからことごとく画像ファイルや恋愛シュミレーションゲームが。

高校合格のお祝いに祖父から有難く頂戴した軍資金。
それを元手に購入したノートPCが俺の愛機。
エロゲにHDDの7割が占領されていたわけであるがすっかりと空き容量が出来ている。
勿論、javaやc言語で使用する領域なんてたかが知れてるお。

さて、では何故このような事態に見舞われているのだろうか?
帰宅後にいつもはしないスタンバイ状況のパソコンを立ち上げてみれば、
数年前に中古問題が活発化していたナギ様とつぐみの壁紙ではなかった。
さらにはテキストエディタに、『好きです。付き合ってください』との書き込み。

「どういう悪戯だよ、これは」

秋の鹿は笛に寄るとは良く言ったもので、まさに言の裏を読めない俺にとって破滅を招きかねない。
小学高等部で学校一の美少女と言われた長門さんに告白して、
速攻でお返事を貰った(※ただしお断り)位外見が安倍礼二な訳で。
もっとも、自宅に忍び込んで人のPCを弄ぶ人なんてお断りであるが。

ウイルス検査を奔らせながら、スタートメニューや最近使った項目を開き、
異常が無いことを確認し、愕然とした。
ご丁寧なことにセーブファイルまでもがおじゃんになっていた。

「大丈―――うはっ!?ありえねーーーー」

ましてや昨晩攻略開始したばかりのエ■ゲ、
『ドキッ☆ヤンデレばかりの病み鍋ぱぁーてぃー♪』までもだ。

「犯人め、許し難し」

 

クラスメイトの鶴屋さんという俺の嫁を攻略できたのに・・・
ヤンデレがもう少しで見れたところなのに・・・
と、悲壮感哀愁感残念さが漂う背中で、ぶつぶつと呟く。
これからすぐさま全シーンコンプリートしなきゃと、決意を固める。
(勿論、ツンデレは抜きでだ。なぜならば、ツンデレにヤンデレを合わせたら大変だ、
ニコニコ動画で混ぜるな危険タグが付くように。
俺は、どMではないし何より贄殿遮那や爆発魔法、木刀で撲殺なんてされたくないのだ。)

ふぅ、と精神を落ち着かせてから、はっと真剣な表情である答えに行き着く。

「あーー、また最初からやるのかよっ!?」

やり場のない憤怒を露わにしたところで滾る殺意を無理に収めた。
椅子に深く座り直して推考を。

「落ち着け、落ち着け。俺 KOOLになれ、KE-ITI」

まず、鍵のチェック。鍵、予備のも手元にあった。
自宅は特殊な鍵なので複製はまず無茶と見てよい。
そして、現金とカード類。
生活費は盗まれてはいないことを確認。

普段は注意を向けない癖に自宅の自室を注意深く、見回す。
日中には西日の差す、唯一出入りできそうなベランダの窓――内側からの鍵が掛かっている。
他には素っ気無いデスクや煎餅布団、押入れがあるのみだ。

数分掛けて実家の部屋と言う部屋を確認して、
不法侵入された証拠がない事実だけが突きつけられた。
そこまでしてパソコンに視線を再度向ける。

「何故、こいつだけ弄られていますかね」

ハァ、と溜飲が下がらぬ様子にため息を吐いて、押入れと衣装箪笥が目に止まる。

 

「まてよ・・・いや、まさかな」

鈍器として使用出来そうな懐中電灯を片手に箪笥の取っ手を引っ張って、

「―――――ッ!?!??」

ドクッドクッと不安と興奮と恐怖が入り混じった感情のまま凝視した。

正に女の子が存在していて開いた口が塞がらない様子でいたのだ。
女の子はそそくさと箪笥から這い出してすぅっと素通りしようとした。

「だが、待て!」
「痛い痛いってばぁ〜、けー君の馬鹿ぁ〜」

少し間延びした口調で喋り出す女子高生を両の手の拳骨でギリギリと音を立て攻める。
勿論、手加減はしているつもりだがけー君と呼ばれた青年加賀見京介は止める気配がない。

すらっと伸びた手足、少し茶色いセミロング、残念ですと言わんばかりの胸(当社比40%)。
猫俣舞。京介の幼馴染として腐れ縁の関係を未だに続けるボケ娘である。
京介はこんなボケボケでもたまにラブレターを自慢するあたりは、
やっぱり世の中顔だ、顔って思うわけだ。

「これで料理洗濯掃除・・・家事が出来なければms.MUNOUの座を送りたい。」
もっとも、考査の順位では舞には100番以上の差を付けられるわけだが。

「舞、お前PCをいじくるんじゃありません。
穏便を売りにしている英国紳士でも流石に切れますよ?」
「うえぇーん、そんなんじゃないよぉ〜。舞にパソコンが使えないの知ってる癖にぃ。
それに英国紳士って言ってもお茶が飲みたいからって阿片漬けにする国まともじゃないよぉ。」
「ふむ。よく考えればお前にできるわけがないよな、機械音痴だし。」

とりあえず歴史が義務教育の9年間平均2の京介はスルーして、結論に至る。
舞が利用出来るのがテレビや家事に関連するものだけであることは京介自体が一番理解している。
勿論、同じ情報科に入学して以来の機械音痴でパソコンの立ち上げさえままならないことも。
普通科や特進コース、情報科があるなか、何故情報と体育以外オール5の舞が学科を
変えなかったのか摩訶不思議である。

 

本題に戻ろう。では、誰が?何のために?何故俺のPCを?
疑念が京介の心中でざわめき無性に苛立たせる。

「まぁいいや、何故衣装箪笥に進入したかは聞かん。それと便座カバー」
「え?聞かないの? っていうか便座カバーってぇ?」

きょとんと首を可愛らしく傾げるようすを見て、
思いの他胸にグサッときてしまった京介は舞からエロ本を取り戻そうと試みる。
衣装箪笥に潜り込んだのとて、どうせエロ本を発見故の奇行であろう、そう京介は結論付ける。

「教えん!! 手に持ってるズリネタは下ろしとけ。」
「なんでぇ? これは可南子さんに随時報告しなきゃ」

また母親にネチネチと説教を喰らい、
ボケボケとした舞が母の後ろでニヤニヤしてるかと思うと、
溜息を零すしかない。

「性欲真っ盛りに捌け口をなくされても困る。
それにチクるならばいいがお前に処理させるぞゴラァ」
「それなら・・・・」まるで恋する乙女の視線。

真正面から切っ先を受け止めれず京介は顔を逸らして返答する。

「なんだ? それに・・・旨い飯食わせてくれんだろ?
大方食材が切れてたしな。今晩は何作ってくれるんだ?」
「う、うん。けー君の夕飯は、ハンバーグ!」

天真爛漫な向日葵の如く笑顔を振りまきながら舞は、
京介に手を引かれるままスーパーへと走り出した。

「美味しく作るねっ♪ けー君」

 

如何に幼馴染のボケ脳から艶本を切り離すかにリソースを注ぎ、
本来の目的である犯人の捜索とやらを京介がすっかり忘れる頃合になってだ。

 

ガタッと、"誰も居ない筈の"押入れから黒い糸が出てきた。

 

否、それは頭髪だ。押し黙り二人をじっと凝視して観察した少女の。
彼らが買い物を出掛ける時機を見計らって少女は表情を映さぬ貌で柱を殴りつけた。

「あの雌猫っ、京介様の部屋に馴れ馴れしく入りやがってッ!!」

腰まで伸ばした漆黒の髪を揺らし、和人形のようなある種の邪気を纏った少女だった。

二人は気付かない。舞が来るまで一人の女性が京介の私物に頬ずりし、漁っていたことを。
二人は気付かない。京介のPCを解読していた人物の正体を。
二人は気付かない。愛憎さえ超上する少女の京介への病んだ想いを。

「京介様・・・、あの雌猫は絶対、消すべきだよね?いや、消すんだ絶対に。」

邪魔者を消し去った恍惚と愛すべき人と結べる情欲を、少女は脳裏に浮かべる。
少女は想い人のTシャツから芳しき匂いを吸い込んで、

「京介様、あなたのためならば、私は・・・」

青年の忌忌しい幼馴染を消す算段をただひたすら幾重にも頭脳で描いた。

 

to be continue...

2009/07/10 To be continued....

 

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