「ねぇ、せっ君これなに?」
パシンと小気味良い音をさせて俺の前に写真とレシートの束が示された。
かなりの厚みがある写真は俺と綾子の笑顔とか、俺とはるか先生の半裸ハグとか、
俺と菜々枝先輩のキスだとか、俺とえーと風呂のは誰だっけ?
レシートはレストランとかまぁ、なんつーかのところとかのもので……。
色々ありすぎてわかんないな。
「紙類。細かく言うならレシート及び写真」
うん、間違ってない。
「私、口って半分ぐらい縫い止めても喋れると思うの」
ミチルは脇にあったバッグから素早くソーイングセットを取り出すと縫い針を光らせた。
常々疑問に思っていたのだけど女の子はどうしてあんなに荷物が多いのか。
そしてそれをあんなに小さい鞄に詰められるのか。
乱雑な俺の部屋で「腹話術とかあるしね」と裁縫道具を手にして微笑む彼女。
うん、絵面としてはなかなか家庭的でよろしい。エプロンをしていたら満点だったろう。
「そうするとミチルのご飯食べられなくて俺、死んじゃうんだけど」
「そうだね、ジワジワ死んじゃうね。それはかわいそうだから一思いにやっちゃう?」
床に落ちていた細いベルトをピンと張らせてさらに微笑む。
あぁ、打ってください女王様! なんつって。
「何回目だと思ってるの?」
「ん? どっち答えたらいい? こうやって写真付きつけられた数? それとも他の娘と……」
最後まで言う前に思いっきり頬を張られた。
乾いた衝撃を認識し終ると、ゆっくり痺れと似ている痛みが広がってくる。
ぼんやり彼女を眺めるとキレイに整えられた眉が歪んで、固く噛んだ唇から微かな声が漏れて、
それを追うように右目から涙がスルリと落ちた。
「……なんでなの、私の何が足りないの? どうしたら私だけで満足してくれるのっ!」
言葉を発するごとにボリュームを上げて最後には叫ぶ彼女はとっても可愛い。
サラサラのストレートが揺れる。
「すぐこうやって問い詰めるから? でも見逃せないの、バレないようにしてくれたら、
でも見つけちゃったんだもん。好きなんだよ、好きなのせっ君が好きなの」
握りしめた指が白くて、愛しい。
そう感じたままに引き寄せて「胸がないから」と言いかけた口をキスして奪う。
歯の形を一つ一つ確認するようになぞって、舌を吸い上あごを舐めあげた。
同時に息を吐いて、濡れた赤に再びくちづける。
「――これが俺のキモチと応えだけど、ミチルはどうしたい?」
「……写真の娘の誰よりも幸せにして」
そう言って彼女はまたキスをねだるように目を閉じた。
俺がシャワーから戻ってベッドへ入ると彼女が馬乗りになってきた。
少し遅れて揺れる大きくて柔らかな胸を下から見上げるのは至福の一言に尽きると思う。
「せーちゃん、このメッセージなぁに?」
控え目なピンクベージュのマニキュアが塗られた爪が摘んでいるのは、俺の携帯。
そして形の良い指が再生ボタンを押した。
あっ、せっ君。今日はごめんね! でもどんなに浮気しても私が一番だってわかったから……
もちろん私の一番もせっ君だからねっ。
キモチ良かったよだいすき――ピー、メッセージが終了しまピッ。
「ああー、伝言入れてくれたんだ」
恥ずかしがって最後の方が早口になっているのが可愛いなー。次はもう少し際どい写真混ぜよう。
なんてぼんやり考えていたら、ひんやりとした感触を首に感じる。
徐々に力がかかり、息苦しくなってきた。
はるか先生もちゃんと見つけてくれるんだよね。
「ミチルって誰」
首を絞められていたら答えらんないな、と言おうにも上手に舌が動かない。
「一番も唯一もわたしでしょ」
腕を伸ばしてなめらかな身体を抱きしめた。
キラキラと瞳を激情で煌めかせて俺だけを見つめている。
次第に薄れゆく意識のなかで思う。
あー、こんなに愛される俺ってば幸せもの。
了
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