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私の女難

第1話    
 


1

女性が男性に求めているものは顔の造型の良さ、つまり容姿である。
特に成人しておらずかつ子供がいない女性にはそれが顕著で、
容姿さえ良ければ他の要素で劣っていようともかまわない。
私の通う高等学校もそれに当て嵌まり、容姿の良い男子学生が容姿の良くない男子学生に比べ
明らかに多くの異性交際をしているのである。
何しろ私達学生は親に養ってもらっている身。
社会に出て働いたこともなければ、学校という狭い共同体のなかでしか人間関係を築いていない。
どうして人を見る眼を養うことができようか。
そのような理由で女子学生は容姿を基準にするしかないのだろう。
容姿だけしか取り柄のない愚図と、学力的、人間的に尊敬に値するが容姿の悪い男子学生とでは、
選ばれるのは前者である。
私が独自に調べた学年内での童貞率は、前者がわずか一割であるのに対し、後者はほぼ十割である。
手前味噌なのだが私も容姿が良く、学力が高く、さらに口先が上手いと自負している。
両親から受け継いだこの容姿に見合うだけの後天的な特長を持ち合わせていなければ、
何の苦労もなく手に入ってきたものに満足している先の愚図と変わらないと考えた私は、
日々努力を惜しまない。
勉学にもスポーツにも人間関係にも妥協しないことが大事なのである。
ともなれば私は女子学生の好意の対象になる。何度も告白された。
しかし大半が私の容姿だけを気に入り、中身はどうでも良いらしい馬鹿女だ。
そんな人間に限って外見ばかりを着飾り人間的な部分はからっぽの、
まるで風船のような存在なのだから私としても嬉しくない。
何度も断ることになった。しかし中には例外もいて、私を本当に好きな人もいる。
そのような時、私は言うのだ。

「今のところ君に恋愛感情がないんだけど、それでも付き合う?
もしかしたら好きになるかもしれないし、それでいい?」

このように軽薄な態度を取っても相手からNOと言われたことがないのだから、
正に恋は盲目である。
相手は恋愛感情を芽生えさせようと健気に尽くしてくれるし、私もそれがなかなかに嬉しい。
しかしながら愛情を抱くかと問われれば首を縦に振ることはなく、
たとえ性交渉を終えても添い遂げたいという気持ちが起こらない。
今まで五人の女子学生と性交渉を行うまでに至ったが、結果はいつも同じである。
やはり私に相応しいのは許婚である件の子だけだろう。
十年前に交わした契りは強制ではなく、二人の間にだけ有効な細くて切れやすい糸だ。
他に愛情を共有したい誰かが現れれば解消される脆い関係なのだ。
だが、私にはそのような相手が見つからなかった。
勿論、それらから得た経験値は私を大きく成長させてくれたし、
件の子と結ばれた際には役に立つことだろう。
今度、久しぶりに再会してみようと思う。

先日女子学生から告白された。プライバシーの点でその子をRと呼ぶことにしよう。
Rは男子学生から人気が高く高嶺の花として半ば崇められていた。
なるほど清楚で容姿が良く、人望も厚い。
さらに同年代の娘達より遥かに豊満な肉体で、体育の授業時には男子の目の保養剤になっていた。
そんなRと付き合うことにしたのは数カ月前。
前々から私はRの外見よりも人間的な部分、特にプライドの高い点を評価していた。
誰に媚びることなく己の主張をしっかり持ち、男子からの好奇な目線にも動じない。
そんな彼女が明らかに緊張した様子で誰もいない教室に私を連れて行き、
顔を赤くして交際を申しこんできた時は正直驚いた。
Rにとって自分から告白するのは大分勇気が要ったことだろう。
だが私は敢えていつものように台詞を吐いた。

「君のことは良く知らないし好きという気持ちもない。それでも付き合ってみる?」

何故なら先の言葉が事実であり、
相手の貴賎で態度を変えご機嫌取りをするつもりもないからである。
そして要求に応えるのは私。
圧倒的に有利な立場にあるのだ。
不実な態度に相手が怒って帰ればそれで良し、こちらの条件に甘んじれば付き合う。
据え膳は頂いておいたほうが経験になるからという理由で。
さて、私はRにある期待をしていた。
今まで付き合うことになった女子学生は皆それでもいいと答えたが、Rはどうだろうかと。
怒って帰るのか、もしくは前例に則るのか。実は少し前者に期待していた。
そうなれば今まで巡り会ったことのない経験だからである。
私の答に少し顔を歪めるR。その麗しい唇から発せられるのは前者か後者か、
私は少し心を弾ませつつ待った。しかしRの答はどちらでもなかった。

「ええ……かまわないわ。いずれ貴方をわたくしの虜にして差し上げますから」

なるほど、そうきたか。
どうやら彼女は己の一大決心の告白が軽んじられたことにプライドを傷つけられたらしく、
しかし私への想いがほんの少し上回り、そのような自信に溢れた返答を紡ぎ出したのだ。
自分が交際を申し出せば断る男がいないという潜在的な過信が砕かれ、
だがそうだとしても主導権は握っていたいという心の表れなのだろう。
私はRが気に入った。
もしかすると愛情というものを芽生えさせてくれるかもしれないと思ったからだ。
「よし、付き合う記念ということで接吻をしよう」
私が言うとRはようやく平静を取り戻した顔を再び赤くさせた。
「わ、わたくしをからかってらっしゃるの!?」
その通りである。私も主導権を手渡すつもりは毛頭ない。
「僕を虜にしてくれるんだろう?」
人が、特に女性がうろたえ取り乱す際に見せる表情こそが最も可愛らしい。
Rのそれは特に素晴らしく、平時の近寄りがたい雰囲気との相違が一層引き立たせている。
「したことがないのかい?それなら僕のほうから……」
もっとからかってやろうかと思ったが残念ながら続きをRの唇に阻まれてしまった。
女性からの、しかも半ばやけくその接吻。互いの前歯がカチンと音を立てた。
やはりRは今までの女子学生とは違うと思い嬉しくなった。
「もう少しムードというものがないのかな」
「ふん、そ、そんなことおっしゃるけれどわたくしに……」
今度は私から唇を塞いだ。不意打ちには不意打ちで応えるのが礼儀というものだ。
きっと目の前の女史は驚き目を見開いていることだろう。さらに困らせてやろうと身体に腕を回し、
その柔らかな感触を楽しんだ。
するとRも負けじと抱きしめ返してきた。夕暮れ時の静かな教室に二人。
目を閉じている私は、Rの良い匂いと微かな肢体の震えを一身に感じていた。

私達は間もなく別れることになった。先例通り、愛情など育たなかったのである。
しかしRは別れる気などさらさらないようで、しつこく付き纏うようになった。
まったく、こちらの気持ちを察してもらいたいものである。
少なからずあった情が霧散した相手に何をされようとも、心が揺り動くことはないというのに。

2008/05/30 To be continued.....

 

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