[Katuki Side]
バスケットボールは籠に入れるというルーツの球技だ。
「なのに、なんで俺はカエルジャンプしてんだよっ」
ボードに連続十回触れるまでジャンプし続ける。
しかもそれを10セットという無茶苦茶なメニューを
文句だらだら、汗だらだらでこなしていた。
「黙っとれ、この馬鹿ちんが。自主休部は認めんっつってんだろ」
そういうのは、俺がサボらないように睨む男顧問。
それ位なら他のメンバーを見張らんかい。
他の男子メンバーは女子に混ざって団体練習をしていた。
この部のの顧問は、部活になるとマジの目付きになる。
いまどき熱血の教師なんて似合わないっての。
たとえSLAM DUNKその世代でも、それなんて時代遅れです。
だからキザな二枚目の癖して全然モテないんだよ。
「聞こえてんぞ、こら。腹筋腕立て百回追加ね」
「ひぃぃっ!!てめぇふざけんじゃねぇーーー」
「いやぁーやってるねー。克樹」
ぎゃあぎゃあ言い合いをしている中、途中から会話に参加してきたのは華凛だ。
気づけば向こう側のコートでは、女子バスの試合が初まっていた。
華凛はシックスマン・・・つまりは秘密兵器的なものだと思って良い。
だから試合に入れなかった彼女は、おおかたシュート練習でもしに来たのだろう。
というかよく考えてみれば、端に備え付けられたゴールはあと二つある。
だが、それにも関わらず一番奥のこのゴールに・・・。
「じゃっシュート打つね♪」
「ついでだ、ボールに対して反射神経鍛えとけ」
「のーーーー、ってかやめぇい」
「って別に他のゴールに移っても」
「却下♪」
どこから持ってきたのか、この顧問は竹刀を振り回し、筋トレの再開をせかす。
「大丈夫だよ、克樹。愛のパワーで♪」
「無茶だーーーー!!」
「アレ、お前ら出来てたっけ?」
「え、先生知らなかったんですか?私と克樹の仲」
「ずいぶんとませてるなー」
「ってちょっと、華凛さんや。シュート成功率ガタ落ちですけどー」
ゴールを弾いてこちらへ飛んできたボールを、頭をそらして避ける。
「大体ッ、無理が、あんすよっ!」
「なんだぁー?貴様、俺様にケチつけんな」
「だってッ、男子部員ッ、4名しかッ、いないじゃッ、ないっすかッ」
「ま、そりゃそうだよね」
相槌を打つ華凛・・・もっともな話だ。
克樹たちのバスケットボール部は、克樹を含め、男子は四人しかいない。
インターハイなど、夢のまた夢だった。常識的に無理な話だ。
だが、いまだ俺は懸命に飛び跳ねていた。
「8、9ッ、10ッ終わり」
息を荒げてハァーハァと膝に手を当てる。
無理難題な練習量に躯は休憩を求めていた。
無常にも顧問は、
「あー、克樹。まだ腹筋腕立て百回ずつね」
「鬼ぃぃーーーー!!?」
「先生ぇー、女子の試合終わりましたけどー?」
「ん、じゃぁ、克樹出ろ。男子対女子で始めるぞ」
でも、やっぱり『終わったらすく筋トレ再開なー』
と残酷な事を、顧問は告げやがった。
「しかし、スパルタだよな」
「いやー、しょうがないっしょ克樹」
「女子と戦うために重り合計10キロも付けてるんだぜ?
ありえねぇーちゅうの」
「ははは、だって男の子だもんねー」
「抜かせ、お前にごぼう抜きされた数は少なくないぞ」
女子の一人を借りて、彼女たちと一コーター。
8分マッチののバスケットを行うことになった。
何故か、レギュラーを外して、かつ華凛を相手チームに入れるって
なんでだよとは思ったものの、付き合ってる奴らを同じチームにしたくないって言う
あのもてない顧問のくだらない策略だと考え、自己完結的に思考を閉ざした。
シューターガードと、フォワードセンターを兼任する俺。
明らかにぶつかりあわないけれども、彼女はカットインしてくるだろう。
余裕の表情で我が男子部ガード信二君をフェイントで避け、
ヘルプに出たフォワードの伊藤を初速で振り切る。
俺は華凛を、正面から迎え撃った。
「克樹甘いよっ」
「ふん、華凛に負けるほど鈍っちゃいねぇー」
足元で止まった一歩目、フェイクだ。
二歩目、本命がやってくる。俺はジャンプした。
「打たせるかっ」
しかし、彼女は無茶な回転を掛けて向かって斜め右へと跳んだ。
フェイダウェイかっ!?
そう思った僕は届きそうに無いボールをを、無理やり、気迫で弾いた。
「しゃぁーーー。どうだ見たかっ!!」
だが現実には、ピーーと笛が鳴り、審判がバイオレーションと叫んだ。
つまりはスローインで女子チームの攻撃で始まる。
「あはは、克樹。あれじゃぁ弾きすぎだよー」
と彼女は汗を煌かせてにこやかに笑った。
顧問は克樹の姿を見て、「お前は桜木花道かっての」と一人呟いていた。
同時刻
[Megumi side]
愛[めぐみ]は前掛けエプロンを付け、上機嫌に具材を炒めていた。
克樹君、やっぱり私の手料理が最高って云うことだよね。
うんうん、よく判ってる。伊達に6年以上も作っているわけじゃないのだ。
あれは決してあの女狐を寂しがらせないとかじゃなくて、部活動のためなのだから。
克樹君はなんて優しくて心が広い人なんだろう。と私は自分に言い聞かせた。
でも、やっぱり私に一番注いで欲しいな。
あなたの気持ちを。
私は煮汁や炒めた具材を、鍋に移して煮始めた。
それを見つめて、私は閃いた。
・・・私が彼を襲うんじゃなくて、彼が襲ってくれればいいんだ。
私は火をいったん止めると、駆け足で自宅に戻った。
自分の部屋に入り、鍵が掛かる引き出しをそっとあけた。
媚薬とバイアグラ。
もし克樹君が私以外の汚らわしい泥棒猫に取り付かれたら、
彼に既成事実を作ってもらって取り返すために、と考えた切り札の一つだ。
通信販売で購入したときは、火が顔に出るくらいだったけど。
でも、そろそろ仕掛けないと、泥棒猫共にかっさらわられるかも?
そう考えていると、だんだんと私は一抹の不安に駆られた。
結局私はその二つの瓶を克樹君ちまで持ち出し、
ビンの中身と砕いた錠剤を”すべて”鍋の中に入れた。
私が彼を襲うかもしれないけど、
それでも彼は物理的に拒否は出来ないだろう。
もし、駄目だというならば・・・・・・流しに置いた包丁を、じっと見つめた。
[Karin side]
彼と会って本当に楽しいと思う。
私が試合中にわざわざカットインで切り込むのも、
司令塔なのにも彼の場所へ攻め込もうとするのも、
試合の後、汗を気にしつつも彼に擦り寄るのも、
全てが克樹を愛しているから。
あなたがいるだけでいい、その事実があれば。
克樹は、表沙汰には、付き合っているとは云わないから、
だから行動で皆に、知らしめる必要がある。
もし駄目なら、私があなたを。
スポーツバックの奥底に眠る、あるものの感触を確かめる。
私が、彼から奪い取って、それでも女狐に言い寄られたときの最終兵器。
硬い柄の部分を握り締めて、私は克樹に微笑んだ。
もちろん、克樹が夕飯に誘った女狐に、
見せ付けるように、胸を押し付けてだ。
[Sayako side]
私は、一度、コンビニに寄った。
もちろん、克樹さんと雌犬には気づかれないよう。
カッターと剃刀、それにカモフラージュのため図形用紙と洗顔材を買った。
これで準備万端。
彼に擦り寄る雌犬を排除できる、機会があれば良いな・・・。
横で克樹さんに淫らな事をしている、雌犬。
克樹さんには、見えないように、睨み付けた。
[Katuki side]
そういえば、じいちゃんにもらったアレ。
最近、振ってなかったな。
あの趣味・・・というか習慣だけは、
付き合いの長い愛にも話したことは無かったんだよな。
磨いてもないし久しぶりに、油も注ごうと、思った。
唯一、自宅で僕の管理下にある一振りを、
思い描いていた僕は華凛に抱きつかれた。
何故だろう、僕には、華凛が影になって鞘が見えないのだけども。
殺気だったオーラを出している気がして、ならない。
修羅場にならないと、いいな。
そう思う僕は、まだこの数時間後の出来事を、知る由も無かったんだ。 |