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僕(俺)の日常は変わり始める

第1話  
 


1

『○○地方は曇りのち晴れ、××地方は曇り……』

 目覚まし代わりに使う事が多いコンポから、ラジオ放送の天気予報が聞こえ出して来た。
  毎朝か毎夜……と、学生か社会人か専業主婦とか、
都合によりけりで人それぞれ活動する時間等は変わるが。
  人が規則的に社会生活を廻す上では繰り返して行くのであろう営みであり、
行動でも有ろうもので。
  そんな事に何となく疲れを感じつつも、
予定調和された日常を今日も刻んで行く為にベッドから体を起こす。

「はぁ……、だるいなぁ〜ほんっっっっと」
……とか無意味に口に出してはみるけど、別に何か変化が起きる訳でも無し。
  何かこう、どうしても起きてからの数十分ってのは気が滅入る。

「今の時間は……」

 丁度七時きっかり。
  学校まで歩いて十分ぐらいで着く居住区域に住んで居るからか、まだまだ余裕がある。
  時間確認をしてから、何ともなしに頭を手を遣ってみる。

「んー、ちっとばかしぼさぼさになってるかもしんない」

 普段滅多に寝癖が付く事が無いせいか、身支度等は大抵十五分ぐらいで終わる事が多い。
  寝癖が付いている事に気付いた以上はどうもそういう訳にも行かなくなりそうだ。

「今日は面倒な事が続くかもな」

 何時もはしない事に時間を掛けるというのは、
面倒臭がりな性分の僕にとっては随分と骨を折る様な気になるのだ。

「って! そんなどうでも良い事考えてたらそれこそ本当にどんどん時間が無くなるじゃないか!
  早く用意済ましてご飯食べなきゃ」

 洗面所に向かい、身支度を開始する。

「〜〜♪ 〜〜〜♪」

 点けっぱなしにしてあるコンポからは有名だった国民的な人気を誇っていた
子役俳優の持ち歌の一つだった
有名な曲が流れている。
  その子役俳優(兼業歌手でも有った)は一昨年の夏頃に突然引退宣言をし、
(彼女のファンや僕らの様な学生とか、自分たちの親ぐらいの年代の人や流行廃りには疎いであろう
年配の人まで。老若男女問わず、幅広い人気を獲得していた珍しい芸能人だった)
毎年師走の最後の日に放送される国営放送の歌合戦の番組を最後に
芸能界からは身を引いたのである。 

 
「それにしても、なんで彼女って理由を明かさずに引退したんだろ?」

 自分には全くと言って関係は無い話しでは有るが、
あれだけ世代を問わず有名だったのに、突然どうして辞めたのかは特に好きな
芸能人とかが居なかった自分でも流石に気にはなってしまう。
  と――耳に入って来た曲が終わり番組のDJが喋り始める。

『はい、「竹上 ゆうみ」の曲で<君をみつめていたくて>をお送りいたしましたぁ〜♪ 
それにしても、未だに彼女の引退理由に関して、様々な憶測や予想等々、
彼女のファンや業界関係者でも芸能界を退いてから一年半近くも経つのに
その話題で特設番組が設けられる程、今も色褪せて居ない彼女ですが。
俺……いえ、私個人の気持ちとしてももう一度復活してまた彼女自身に
羽ばたいて貰って活躍して欲しいなって思います。
さて、そろそろ次の曲のリクエストをお送りしましょう♪
  続いての曲は<追いかけて届けてあげるから>です♪ 
六時から八時半迄毎日番組を承って居ますのでどしどしリクエスト等、
ご意見ご感想等をお寄せくださいませ♪
お待ちしています。CM明けにすぐ曲を掛けますので……』

 流されてる放送に意識を向けるのを止めた。こうしたゆったりとした時間を過ごして居ると、
こんな時は早めに起きて良かったと感じる。
  6:40分頃にタイマー設定を施して眠り、おおよそ7:00時頃に目覚めて
支度をする様にしている。まぁ、そうしておくのは余裕を持ちたいが為に
やる様にはしているんだけど。
  そういう風に過ごして居ると、何時もこのDJの放送をこうして途中から聞く機会が多く、
今流行って居る事柄や話題や趣味、そして芸能関係や娯楽等の情報を
何故かこの放送は先んじて流す事が多い。
  そのおかげと言って良いのかどうかはわからないけど、
そういう情報に疎い傾向が有る僕でも何ともなしに学校で興じられる話しとかなんかに対して
色々と理解出来る事が多く。
  そうした時に、このDJの番組のお陰かな……と、感じる部分は多分に有ると思う、正直な所。

「七時二十五分っと」

 放送を聞きつつ身支度を済ますとそこそこ時間が経っているのに気付く。
  この家に住んで居るのは自分一人なのでそこそこ適当に片付けて置いても誰に気兼ねする事なく
こうして気分としては良い面も有るけど、一人暮らしをしているからあんまりにも放っておくと
後々大変な事になるのでそういった所は嫌なもんだと感じる。

『(食パンとスープか何かでも食べるか……)』

「……味気ない」

 食パンは昨日買った物で、スープは一ヶ月前に大量購入したインスタントの物で……。
  まぁ〜成長期に入っている青少年としては素っ気ないメニューではあるが、
手軽に用意出来るこういった食べ物は正直ありがたいものだ。
  まともに食材買って作るとどうしても量が多くなっちゃうし、
スーパーの食材とかって言うのはどうも一人分用意しようとしたら
まったく適して居ないんじゃないかと思う。
  じゃあ、コンビニで買えば良いとそこで思う所ではあるのだけど、
スーパーと比べると格段に値段が違うし、同じ食材買った場合、
下手したら一食分の値段に相当し兼ねない面が有ったりしてあんまり買いには行こうとは思わない。
  そもそも、コンビニ行くんだったら日用品が切れた時や、雑誌とか立ち読むか、
緊急で使いたい調味料を買いに行く時だったり、お菓子やら飲み物を買う(新製品とか含めて)
ぐらいしか利用しようとは思わないし、後は時間潰し程度に寄るぐらいだ。
 

「それになぁ……」
 
「毎日作るのメンドいもんね、マジで」と、声を出しながらも、こまめに毎日やる……
なんていう自身に成り得て居ない己にうんざりしつつも
そんな愚痴やら反省やらをしながら朝食を食べ終え――。

「『七時五十分』……か」

 そろそろ登校しないとな。
  こう変な癖らしい(友達に言われて気付いたのだけど)のだが、どうも僕は時間を確認する時や、
何か行動を起す時に無意識に結構声に出して喋る事が多い……
のだそうで、その度に意識はしていても中々癖が抜けない。
  別にそれはそれで良いのかも知れないけど、
それを指摘された時それなりに恥ずかしい思いをしたのを時折。
いや、何でも無い時にその場面が呼び起こされて身悶えしそうな気分になり、
その都度自分の中で『直さなきゃっ』と決意を抱くのだが、
癖が抜け切って無いと言うか直ってないらしい。
  はぁ〜……ま、良いんだけど今は。それはそれとして……、何だか暑い上になんというか。

「ねむっ」

 そう、充分眠った筈なのにどうしても登校途中とかって眠くなってしまう。
不思議な事に。そこはまぁ無視する事にして。

 自宅から学校の位置として、家の有る部分が元々山だった所を開拓し、
人の住める様に先人達が努力した成果の現れなのだろう現在(いま)では
昔は自然等が豊かな土地だったなんて知らされなきゃ分からないと言うか、
想像はすごくしづらいと思う。
  そんな所に住んで居るので、この区域は坂が凄く多い。
  学校は坂の麓と言うか、平地に建てて居るため、
山道を下って行くという表現が説明として良いのかもしれないけど、
ここの山がそもそも標高が高く無く、数百m程度なので、
見た感じ土地が盛り上がってるっていうか、緩やかに開拓し、成形して有るので、
徐々に坂を上がる様に歩道や道路も整えられている。
  一部分急な坂になっている場所もあるが、そういう所は階段が用意されて居て、
手すりとかも備えて居る為、有る程度は安全に上り下り出来る様に作って有るらしい。
(そういう場所には行かないので確認した事が無いが)
  学校の近くには駅も在って、電車通学の人は学校が近くだからそういう面では
助かってるとは思うのではないだろうか。
(って言っても家から駅まで行って、そこから電車に揺られて通学してくるのだから
そう感じる人は少ないと思うけど)

「はぁ、そろそろ着くな」

 まだ周りには人が居ない(部活とかの朝練をしてる人は運動場とかに流石に居るけど)、
まだ登校時刻としては早い時間なので当然かもしれないけど。
 

「八時二分……」。また声に出してしまって居る。この癖はやはり抜け辛いかも……。

「はぁ……」。ま、気にしてもしょうがない、
なんて何十回でも思うが取り敢えず学校に着いたので下駄箱に向おう。

 僕は一年生なので校舎は三階に有る。学年の階数の割り当てとして二年生が一階で、
三年生が二階という風に決められている。
  それと、制服のネームプレートも決められていて、
長方形の数・程度の白地の物に名前が学年毎に色が変えられているのだ。
  一年生が黒、二年生が(緑っぽい)青、三年生が赤……と言った具合に。
(一年生の色が黄だったら信号機みたいだと入学当初は思ってた)
  この学校は夜間学校も有るので
(家の都合で全日制の時間で通うのが出来なくなった人とかが移る事も有る)
全校生徒数を両方含めると大体920名(全日制は805人、夜間制は115人)と、
少子化の現代の高校としてはそれなりの規模だとは思う。

「ん?」

 下駄箱に向かう途中で人を見掛ける。
  何をしているのか気になる。何故かと言うと、じーっと校舎を見ていたり、
通路を見ていたり、校庭がある方向を見ていたり。
  辺りをゆっくりと見渡しつつ何か考え込む様な仕草を取って居るからだ。

「どうしようか? 声を掛けてみるかな? ん〜……」

 声をかけるべきかどうか、考えあぐねていると。

「あの……」

「……」

「あのぉ〜……」

「んー……」

「あの、1つお聞きしたい事があるのですけど……」

「んーどうするべきかね……」
(どうしようか、声を掛けてみるのも良いと思うけど、
興味本位で話しかけられる性分じゃないし……ホントどうしようかな?)

 等と考え込み始めて居た時に肩を軽く叩かれている事に気付いた。

「あのぉ……」

「はい」

(しまった!)

 自分がどうしようかとまごついてる間に話しかけられていた様だ。

「……あはっ、ごめんごめん」

「いえ」

「……(考えてるのが無駄になったのは良いけどなんか気まずい)」

「ええ〜っと、その……ですね、この学校に9月から転入する事になったものですから、
クラスへの挨拶がてら全体の見学でもして行こうと思い立ってきたのですが……」

「ええ」

「学校全体が広過ぎて学生用の玄関口がわからなくなってしまいまして」

「はい」

「どこに行けば着くのか悩んで居た時に偶然彼方が立ちすくんで居るのをお見掛けしたので」

「ええ」

「それで場所がどの辺りに有るのかをお聞きしたかったので呼びかけてみたのですが……」

「御迷惑でしたか?」

「いえいえ、大丈夫です、ホントに。なんかすいませんでした、気付かなくてホント」

「……そうでしたか、良かったです。私に話し掛けられるのが嫌で反応を示して下さらないのかと
思って少々物悲しく成り掛けちゃいました」

「いや、実は最初に校門から入った時に貴女を見掛けた時に、
何かあちこち見渡してたのを見てたんで、声を掛けようかどうしようか迷ってて、
色々とどうしようかなって考え込んでさ。それで中々気付けなかったんだ。
君が問い掛けてたのにも関わらずにね」

「だからさ、嫌な気分にさせちゃってたかも知れないけど許してくれたら凄く嬉しいです。はい」
(ってかこれで許してくれないとキツイなマジで)

「いえいえ♪ 彼方がどうしてすぐに答えてくれなかったのか、
その訳というか性格の一端が窺い知れたのでなんだかほっとしました♪」

「悲しくなってた気持ちなんてもうすっかり吹き飛んじゃいましたから安心して下さい♪
  で、よろしかったら私に道案内なんて等をしつつ
この学校のお話しを色々聴きたいのですが大丈夫でしょうか?」

「え! あっ、あ〜っと……もっ、もっ、もちろん! OKですよそんなの!」

「ふふっ♪ ありがとうございます」

 まぁ本人が実際まだどう思ってるかはどうしても気になる部分は生まれてしまうけど、
こうやって形式上お互いに話しを出来る状態には持って行けたのでこれで良しとしておこう。

 と、こんな風に、最初の出会いは何だかどうにも締まりが悪いと言うか
どう考えてもぐだぐだ感が漂う感じで初対面が始まった訳だが。
この出会いがふとした何でも無い昔の記憶やら、これからの疲れるんだか喜ばしいのか。
  どう評して良いのかというのか、どう気分を表して行けば良いのかまったくわからない。
  洒落にならない、困惑する状況やら常にある意味追い込まれる状況に発生すると、
自分では予想出来て居なかった。
  そんなのは当たり前(未来の事なんだから)なのだろうが。
  それでも、それでも。今の自分に未来から、何か言葉を掛けてやれるならこう言いたい。

『面倒だと感じる事が多くなるが、まぁ頑張れよ……』と。

 そんな未来の思いはもちろん普通の人間なので感じ取れる事は無いけど。
  それはそれとして、現在(いま)の時間は流れて行く……。

「え〜、じゃ、じゃあ行きますか一緒に」

「はい♪」    

 

                          第一話終了?

 

 

 

 

「なんとなくつぶやいた、面倒な事が有るかもなっていうのがこれなのかな? だとしたら大変だ」
(はぁ……)

「えっ?」

 

 

 

本当に第一話終了。

2008/04/13 To be continued.....

 

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