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黒魔法の塔

第1回  
 


1

“魔法”が限られた者にしか使えなかった時代。
 
  その能力は多くの分野にて重宝され、
  異能を扱える者は、破格の待遇で国や王家に囲われていた。
 
  特に、隣国との争いが激しい国では。
  魔法使いは国の貴重な“資源”として。
  その異能を、存分に振るうことを期待されていた。
 
  故に。
 
  国の意向に添わない魔法使いは。
  天災のようなものとして、忌み嫌われていた。
 
  そんな、時代。
 

 

「さて、どうしよう?」
 
  困り果てて、脇にいた使い魔に顔を向けると、何故かそっぽを向かれました。
 
  ううむと唸って頬をポリポリ。
  樫の椅子に体重を掛け、石造りの天井を見上げる。
  ……あ、蔦の色がおかしくなってる。栄養足りてないのかな?
 
『……マスター。現実逃避しないでください』
「そっぽを向いた奴が何を言う。……ああいや、冗談だって」
『それで……どうするんですか?』
「正直どうすればいいかわからないから、お昼ご飯にしようか」
『引っ掻きますよ?』
 
  なんか爪を出された。
  引っ掻かれるのは嫌なので、ちょいと真面目に現状に当たってみよう。
 
 
  足下には気絶した全裸の少女。
 
 
  現状把握完了。
  どうしろと?
 
『……扱いに困っているなら、私が処分しますけど』
「…………あー、それはまずい。ヤメテ。っていうか何でそんなに怖い顔なの?」
『……気のせいです』
「さいですか。まあそれはそれとして、殺しちゃうのはまずい。
  だってこの子――」
 
 
  言いかけたとき。
  微かな呻き声が、部屋の空気を揺らしていた。
 
 
「……ぅ……ぁ……?」
 
 
  ゆっくりと、瞼が開かれる。
  輝く金髪に映える翠。霞みながらも強そうな光が、暗い室内に光っていた。
 
  ぼんやりとした瞳が、ゆっくりと部屋の中を見回して。
  そして、こちらを向いた、瞬間。
 
 

「――うわっ!?」
 
  少女のものとは思えない瞬発力で、飛び掛かってきた。
  こちらは椅子に腰掛けた無防備な姿勢。咄嗟に反応するのは難しかった。
  が。
 
「きゃっ!?」
『動くな。次は喉笛を食い千切る』
 
  隣に控えていた黒豹に、少女はあっさり取り押さえられた
 
「ありがと、モス」
『……(ぷい)』
 
  優秀な使い魔に感謝の意を伝えるも、何故だか顔を背けられました。
  ……反抗期?
 
「こ、このっ! 無礼者が!
  私を誰だと思ってるの!? 離しなさい!」
『……殺されたいの?』
「ふ、ふん! 私が誰だかわかっていないようね!
  まあ、貴方の主人は礼儀作法も知らない田舎者だから仕方ないでしょうけ――痛っ!」
「こらこらモスってば。手荒なのは禁止だってば」
『……マスターがそう仰るのであれば』
 
  するり、と静かに黒豹――モスが少女から離れた。
  喉を押さえられていた少女は、咳き込みながらも気丈にこちらを睨み付ける。
 
 

「――ふん、随分とまあ、使い魔の躾が疎かですのね」
「教育は苦手でね」
「言い訳する気?
  ……まずは、私の身分を明かした方よさそうね。
  その無礼な態度、見続けたら眼が腐ってしまいそう。
  いいこと? 私は――」
 
 
「――九字公国第3息女。カキア・ディン・なんとか姫。
  お姫様のくせに剣の腕が立つ、通称“剣姫”だっけ?」
 
 
  出自をあっさり言ってみせると、
  お姫様は面白い顔で口をパクパクさせていた。
  数秒呆然とした後、やがて我に返るなり叫んでくる。
 
「ナインワード・カキア・ディン・ヴラ・ゴートメイラーよっ!
  ……あと、その渾名はやめてください!」
「OK、覚えるのを一瞬で諦められる名前だ。
  えっと――カキア姫でいいや」
「ぶっ、無礼者――」
 
  激昂したカキア姫は、勢いよく立ち上がり、
  きっといつものように剣を抜こうとして、腰の辺りで手を空振っていた。
  ……全裸で、腰の辺りに手をふらふら。――笑いを堪えるのが困難すぎる。
 
「あら……? …………? ………………」
 
  ようやく、自分の今の姿に意識がいったようで。
  一糸まとわぬ己の姿を見下ろして、
 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!?」
 
 
  塔が揺れた。
  高精度の聴覚を持つモスがのたうち回っていた。
  音響兵器は顔を真っ赤にしてしゃがみ込む。
 
「なんで!? 服は!? もしかしてずっと……!?
  ……う、ぐす、嫌ぁ……」
 
  ひっくひっくと震える剣姫。
  流石に可哀相だなーと思ってしまい、ついつい優しい声をかけてしまう。
 
「あー、とりあえず服を貸そうか。
  それで、落ち着いたら城に帰るといいよ。使い魔に森の外まで案内させるから」
 
  が、全裸のお姫様は、きっとこちらを睨み付けて。
 
「そ、それはできません!
  私は、貴方を連れて行かなければならないのですから!」
 
 
  ああ、やっぱりか、と思った。
  こういうことには慣れっこだが、しかしお姫様が来るとはまあ。
  自分の名前も、そこまで売れたということか。
 
 
「“黒魔法の塔”の主にして、黒魔法の当代継承者、イネス!
  ――貴方を我が公国に従属させるのが、私の役目なのですから!」

2008/03/31 To be continued.....

 

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