INDEX > SS > イマージ

イマージ

第1回 第2回                
                 


1

「ん……っくぅ」
薄暗く広い一室に、艶やかな声が響く。
「りょーへぇ……あぁっ」
部屋の中央に置かれた大きな丸いベッドの上、2つの影が折り重なり、
どちらとも無くお互いの裸身を弄り合っている。
女性の長く綺麗な黒髪が、ことあるごとにベッドの海で揺れていた。
良平の右手が綾の股間を弄るたび、綾はあられもない嬌声をあげる。
「あや、ここが良いんだろう?」
そう囁きながら良平の中指は綾の敏感な突起を責めたてる。
円を描くように撫でまわし、かと思えばリズミカルに指先で弾いてみたり。
「あんっんん、そこ、気持ちいいよりょーへー」
綾も負けじと良平の陰茎を握りたてる。
どこかぎこちなく堅い動きだが良平を昂ぶらせるには十分な刺激だった。
はぁはぁ、と、二人の甘い吐息が重なる。
打ち寄せる快感に目を瞑る綾だが、良平はそんな恋人の唇に濃厚なキスを求める。
「ん……」
綾は自分の舌をおずおずと差し出すと、良平は待ってましたとばかりにその舌先を舐めあげる。
ざらつく良平の舌先から、彼の唾液が送り込まれてくる。恋人のそれを綾は遠慮がちに溜飲した。
その間も良平の右手は綾の秘部を責めたて、彼女の身体はすっかり男を受け入れる準備ができていた。
「きて……りょーへー」
潤んだ瞳で懇願されると、良平は無言で頷くと熱く怒張した自分の分身をゆっくりと綾の中へと進み入れた。
「ああぁぁ……」
焦らすようなひどく緩慢な動きに、綾はため息にも似た嬌声をあげる。
「りょーへー……」
もっと激しく、と言いかけて綾は強く目を瞑りなおす。
「あぁっ!」
不意に、綾の下腹部から大きな快感が響く。
奥まで侵入を許した陰茎が、前触れも無く激しく抜き去られたからだ。
抜けるか抜けないかのぎりぎりのところで、再び最奥を目指して良平自身が猛烈に侵入し直してくる。
不意をつかれた長いストロークに、綾は軽くイッてしまっていたが、
良平はお構い無しに激しいピストン運動を繰り返す。
「いぃっ、いいよっりょうへい!」
「あや……うぅ」
ともすれば単調とも思えるピストン運動を終え、良平は綾の中で子種を迸らせた。
「あぁぁ……」
子宮口をたたく精液を感じながら、綾もまた恋人との情事に幸福感を味わっていた。

「う〜〜〜〜む……」
大学の食堂の入り口にあるショーケースの目の前で呻いている男は、どこか奇抜な感じがした。
髪の毛はくるくるのパーマで、ちょび髭を生やし、遠目に見ると大道芸人か何かに見える。
「唐揚げ定食、は捨てがたい。いやしかし、親子丼もまた……」
ちょび髭男がぶつぶつとメニューを凝視していると、パーンっと小気味良く後頭部を叩かれる。
「いつっ……何をする?!」
素っ頓狂な声を上げながら振り向くと、そこには良平が苦笑いしながら立っていた。
「あのな、こんなところで立ち止まるな翔太郎」
「なぜだ?」
抗議の声を上げたちょび髭男は、自分の後ろに長蛇の列が出来ていることに気付いていなかった。
「こんな変わり映えのしないメニューで悩むのはおまえくらいだよ」
そう言って良平は翔太郎を食堂の中へと押し込んでいく。
「ま、待て待て。いま、唐揚げ定食にするか、親子丼にするかで悩んで……」
「それなら悩むまでも無いな。ほれ」
良平の指差した先に、唐揚げ定食売り切れの札が立っていた。
「わ、私の15分は何だったのだ。。。」
「15分もあそこにいたのかよ」
肩を落とす翔太郎に至極もっともな突っ込みをいれると、
良平は学生で満席になっている食堂内を見渡した。
「お、いたいた。翔太郎。俺も親子丼で良いから、一緒に持ってきてくれよ」
良平はそう言い残すと、窓際で友人と談笑している恋人の席へと寄っていった。

「遅いぞ良平っ」
「わりいわりい、そこで翔太郎が渋滞を作っててさ」
可愛らしく頬を膨らませた恋人の指摘に、苦笑いしながら良平は綾の隣に腰かける。
綾の向かいに座っていた女の子は「翔太郎」の名前に微かに反応していたが、
二人はそれに気付いてはいない。
「良平君、お昼ご飯は?」
「翔太郎に任せてきた。つっても、もう丼モノしか無いけどね。綾と沙弥香は?」
二人の前に食器類は無く、空のコーヒーカップが置いてあるだけだった。
「もうとっくに。良平が遅いんだよ」
ぷぅ、とまたも頬を含まらせた綾は、自慢の黒髪をさらっと掻きあげた。
そんな些細な所作にも、どこと無く色気を感じてしまうのは恋人ゆえの贔屓目だろうか。
実のところ、綾は綺麗だった。長い綺麗なストレートの黒髪に、目鼻立ちの整った顔立ち。
グラマラスといったわけではないが、スレンダーな体型もあいまって、
年上に見られることもしばしばだった。
対照的に、一緒にいる沙弥香はショートカットの似合う茶髪の入った子だった。
顔立ちは整っているが、綾と比べるとその豊満な身体のほうが男どもの視線を一手に集めていた。
そんな二人を独り占めしている気分の良平は、にまっと顔が緩んでしまっている。
「鼻の下が伸びきっているが、お代は頂けるのだろうな?」
どんっと良平の前に親子丼が無造作に置かれる。
お茶の入ったコップ付きなのは翔太郎のマメさだろうか。
「もちろんだとも友よ。月末までつけておいてくれたまえ」
翔太郎の口調を真似ながら、良平はおもむろに箸を割り目の前の丼にがっつき始める。
呆れながらも翔太郎も沙弥香の隣に陣取り、割り箸に手をつけた。
「信じられるか?こいつ15分もメニューと睨めっこしてたんだぜ」
「あははっ翔太郎らしいね」
明るく笑う綾の仕草に照れたのか、翔太郎はぶっきらぼうに呟く。
「しょうがあるまい。選ぶ、という行為は大切なのだからな」
なんだそりゃ、と良平は気にも留めなかった翔太郎の言葉に、沙弥香だけが身を硬くしていた。

初夏の訪れを感じさせる夕暮れの校舎に、男女二人のシルエットが射影される。
だが、そこにある空気は、ほんわかとした周囲のそれとは明らかに違っていた。
「本当に、黙ってくれてるんだ」
自転車置き場となっている校舎脇で翔太郎を待ち伏せしていたのは沙弥香だった。
「私は嘘はつかない。余計な干渉を、するつもりもない」
独特の口調でそう言い放つと、自転車の鍵に手をかけ、翔太郎は帰り支度を始める。
「だが……感心もしないが?」
問い詰めるでもなく、自分に言い聞かせるような物言いに、沙弥香は少しむっとした。
「あなたに何が分かるっていうのよ」
「ふむ。確かに、君たちの間に何があるのかは、私には分からないな」
沙弥香の表情はこわばってしまい、多少きつめの印象を与える彼女だったが、
よりいっそう厳しい表情に見える。
斜陽の赤みがささった頬が、彼女をより怒らせたように見せているのかもしれない。
「分からないが……少なくとも、私なら親友は裏切らない」
「……っ」
大道芸人風の容姿に芝居がかった口調。翔太郎のそんな佇まいが沙弥香の癪に障ってしまう。
「君が、誰と何をしていようと、私は関知しない。が、これだけは、覚えておいて欲しい。
私に見られたということは、他の誰かにも、見られてるかもしれないということだ」
「そんなことっ」
分かってる、と言いかけて、沙弥香は口を閉ざす。
翔太郎の口調に反感を抱くものの、言っている事はまさにその通りだったからだ。
「じゃぁ、やっぱり翔太郎君じゃないんだね……」
ポツリと呟いた沙弥香の顔は、今にも泣き出しそうになっていた。
「うん?何か、あったのかね?」
「……干渉しないんじゃなかったの?」
ふむ。とくるくるの天然パーマ頭を一掻きすると、翔太郎は動かし始めていた自転車を止めなおした。
「私に嫌疑がかけられていれば、それはもはや干渉ではないと思うが?」
嫌疑。翔太郎はそう言う。事実、沙弥香は翔太郎を真っ先に疑っていた。
親友である綾と良平の共通の知人。独特の風体に口調。
かといって、それほど親しいわけではないため、実のところの人間性は分からない。
が、この件で、信頼できるらしいということは沙弥香にも分かっていた。
「たぶん……私と良平君のこと、綾に……ばれてる」
「なんと……」
沙弥香の泣きそうだった表情は、沈みかけた夕日の逆光で、翔太郎からは窺い知る事は出来なかった。

2

ピーーーーッ
火にかけたケトルがけたたましくも自身の役目が終わったことを告げる。
良平はコンロからケトルを取り上げると、手慣れた様子でコーヒーをいれ始めた。
「電気ケトルが欲しいんだよな〜」
「そう?私は火で沸かした方が好きだけどな」
「持ってるからそういうことを言えるんだよ」
ほい、と良平ははカフェオレ仕立てのコーヒーマグを沙弥香に手渡す。
ありがと、と小さく呟き、沙弥香は小さな唇でそっとマグに口をつけた。
「うん、おいし」
良平は沙弥香の満足そうな顔を見ながら、ローソファに座る彼女の隣に腰かけた。
半年前、クリスマスを直前に控えた時期に、当時付き合っていた男の二股が判明し、
大ゲンカの末に別れたのだが、その時に傷心の沙弥香を慰めてくれたのは、親友の綾だった。
その時、綾と一緒に慰めてくれた良平に、傷心の沙弥香が惹かれてしまったのも、
無理のないことなのかもしれない。
良平と沙弥香はいつしか二人きりで会うようになり、
関係を持つようになるのにひと月とかからなかった。

ほんの数時間前、綾に二人の関係を告げたのが翔太郎ではないことを確認したばかりだったが、
翔太郎に目撃されてしまったことを、沙弥香は良平に言いそびれていた。
知り合いに見られたことを良平が知ることで、今の二人の関係が終わってしまわないか、
それが気掛かりだった。
「沙弥香……」
「ん……」
良平の手が沙弥香の豊なバストを弄り始めた。
たぷんとしたボリューム感ある感触が良平の掌に伝わる。
その頂にある小さな突起は興奮で既に堅くなっていた。
「あぁ……」
良平の掌がその突起物をこするたび、沙弥香はため息のような艶っぽい吐息を吐く。
「良平君……いいよ」
沙弥香は良平の手を取り、じっとりと汗ばんだ自分の内股にその手を誘い込む。
タイトなミニスカートが頼りなく沙弥香の下半身を包んでいた。
良平はそのスカートを脱がすこと無く、下着越しにゆっくりと沙弥香の秘部を撫で回した。
「濡れてるな」
「恥ずかしいよ……」
恥ずかしさと、親友を裏切っているという背徳感が沙弥香をより昂ぶらせていた。
「あんっ」
良平の指先が黒の下着をかき分け、遠慮無しに侵入してくる。
沙弥香の膣はしとどに濡れそぼり、無骨な侵入者をしっとりと迎え入れていた。
「これが良いんだ?」
そう言うやいなや、良平は第二間接まで侵入させた指先をぐりっと折り曲げ、
ざらつく膣襞を遮二無二擦りつけた。
「それっ、感じる……」
ビクン、と上体をわななかせると、沙弥香はより強い刺激を求めて腰を淫らにくねらす。
「沙弥香、上に乗って」
隣を見ると、良平は既にその怒張を剥き出しにしており、まっすぐと屹立したペニスを指差していた。
「うん……」
沙弥香は良平をまたぐと、向かい合う様にして首筋に抱きついた。
ペニスが膣口を捉えると、おずおずと沙弥香は腰を落としていく。
「あぁぁ……」
ずぶずぶと良平の陰茎が沙弥香の膣に押し入ってくる。
じわりと広がる快感に、沙弥香思わず視線を泳がせてしまう。
ペニスが深々と突き刺さったことを確認した良平は、そのままの体勢で激しく沙弥香を突き上げた。
「あぁぁっ良平君っいいっ」
ずんっずんっと突き上げるたび、沙弥香のバストが大げさに上下する。
その表情は何かを堪えるような艶かしいものだった。
ぎゅぅっと膣に締め上げられた良平のペニスは、情けないほど早くその限界を迎えようとしていた。
「沙弥香っうぅ……」
「あっああっ……良平君っもっとぉ」
「う……」
良平は恋人の親友と紡いだ背徳感溢れる行為に、自身の欲望を溢れさせた。
「うぅ……」
はぁ、はぁ、と二人で熱く息を紡ぐと、結合したままの二人は、長いキスを楽しんでいた。

暗い……
当然、か。日が沈んでからだいぶ経つもんね。
暗闇の部屋の中、パイプベッドの上で私は丸くなっていた。
何をする気にもなれない。何もしたくない。
自分がここまで落ち込むなんて、考えたことも無かった。
予定していた家庭教師のバイトが急遽キャンセルになり、
良平を驚かしてやろうとこっそり彼の部屋を訪ねてみた。
自慢の手料理でも振舞おうかな、とも考えていた。
なのに……
知らなかった。良平のアパートの薄いドアは、中で行われている出来事を、
包み隠さず外に漏らしていたなんて。
知らなかった。良平と沙弥香がそんな関係だったなんて。
知らなかった。恋人と親友に、同時に裏切られると、こんな気持ちになるなんて。
あのドアをノックする勇気は、私には無かった。
すぐに良平に電話とメールをしたけど、返事なんて無かった。
良平の声が聞きたかった。アノ声はアダルトビデオか何かの音だって、言って欲しかった。
会いたかった。会いたかったけど……私にはあのドアを開けることは出来なかった。
その場から逃げ出すことしか、出来なかった。
いつからなんだろう?私と付き合う前から?
どっちから誘ったんだろう?ソレを知って、私はどうするの?
良平は、何を考えてるんだろう?私、振られたのかな?
頭の中はぐちゃぐちゃだった。
考えたくないのに、色々な妄想が沸き起こる。沙弥香を抱く良平。
沙弥香に愛を囁く良平。私のことを考えてもいない良平。そして、彼を受け入れる沙弥香……
私は私を憂鬱にしていく。
良平から電話も無ければ、メールも来ない。
ばふっと大き目の枕に顔を埋めてみた。涙が止まらなかった。

翔太郎は悩んでいた。
彼の風体、立ち居振る舞い、そして独特の口調。みな面白がるが、それだけ。
決して近くまで来てくれることは無かった。
そんな彼を友人と認め、何かにつけ構ってくれたのが良平だった。
高校で知り合った彼だったが、大学まで一緒になった時は本当に嬉しかった。
だからこそ、昨年、大学に入学したときに知り合い、初めて恋心というものを教えてくれた女性が、
良平と恋人関係になったと聞いたときも、翔太郎は素直に二人を祝福できていた。
親友だと今でも思っている。思っているが……

綾の親友、沙弥香と良平がラブホテルから出てくるのを目撃したのは偶然だった。
たまたま翔太郎がバイトの用事で隣の県まで出向くことになり、
たまたま通りがかったラブホテルの前で、
たまたまホテルから出て来た沙弥香と目が合ってしまったのだ。
沙弥香の隣にいた良平はそのことに気付いてはいないようだった。
沙弥香にしても、目撃されたことを良平に話してはいないらしい。
そうであるなら、翔太郎も自分からこのことで波風を立てるつもりはなかった。
沙弥香もまた、翔太郎にとってはかけがえのない友人の一人なのだから。
しかし……
しかし、このことを綾が知ってしまったとなると、話は別だ。
4人のバランスをどうこうするつもりはなかったが、
今、綾を支えてやれる人は誰がいるのだろう?
沙弥香から良平との秘事を綾に気づかれてると聞いた日から、既に一週間が経とうとしていた。
あの日以来、終ぞ学校で綾を見かけることは無かった。
良平にそれとなく聞いた時も、良平はごまかす風でも無く知らないと話していた。
風邪でも引いたのではないかと。
それなら見舞いの一つにでも行くべきだろうと詰め寄ってみても、
良平にはその素振りが見られなかった。
「ふむ、様子だけでも見に行くべきだろうか」
翔太郎は悩んでいた。
ひとりで女性の家など訪ねたことなど、人生20年のうちにただの一度も無いのだから。
それでも、翔太郎は綾の事が心配だった。
恋人の浮気と親友の裏切りの二重苦が同時に綾を襲っているのだ。
例えば自分ならそんな状況に陥ったらどうするだろう?
似たような自問を繰り返し、その度に怖じけづく。翔太郎はそんな一週間を過ごそうとしていた。

2008/03/21 To be continued.....

 

inserted by FC2 system