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万国博覧会

第1話                  
                 


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万国博覧会 第一話「三つの国」

俺の名前は川松和弘(かわまつかずひろ)。
ごくごく普通の高校生……じゃないんだな、これが。
いや、俺自身は普通なんだが、境遇がちょっと……な。
というのも俺の親父が外交官だった為に、小さい頃から海外を転々としていたんだ。
まあそれだけなら色んな国に行けて楽しいんだろうけど、問題は親父の教育方針だ。

「せっかく来たんだ。日本語学校じゃなくて現地の学校に行け」

確かに現地の学校に行けば嫌でも言葉を覚えるし、現地の友達も出来るだろう。
だけどもしその友達に逢うことによって人生が変わったら?

例えば中国で家出した女の子と一晩付き合ったり
例えばアメリカで狙撃された女の子を守る為に身を挺して守ったり
例えばイタリアでハグ好きの女の子に一目惚れされたり

もちろん当時はこの後起こる騒動のことなんて知る由も無いから、
ただ単に出会いと別れを繰り返していたけれど、もし彼女らが他愛無い「約束」を忘れることなく、
しかも履行するために、数年後乗り込んでくると知っていたら、
安易な「約束」なんてしなかったはずなんだ。

とはいえ、今まで「約束」を交わした女の子はハッキリ言って可愛いかった。
だから1人だけだったら別に問題なかったんだ。
それがよりにもよって三人共相当嫉妬深い上に、ほぼ同時期に来日って……
おっと、もう夢の時間は終わりだ。また朝の喧騒が始まるな……

普段通りの朝。住宅地の隙間から差し込む光は時間を追う毎に大きくなり、
その光を合図に新聞配達のバイク音や雀の鳴き声などが聞こえてくる。
そんなどこの街にもある日常の朝の光景だが、唯1つだけ「この街だけの朝の日常」があった。

開始の合図は皿が割れる音。「パリーーン!!」「ガシャーーン!!」
次に聞こえたのは銃声の音「パーーン!!」
そして最後は中国語と英語の金切り声だった。

この街一番大きい家で毎朝起きる騒動に周りも慣れたもので、特に気にも留めなかった。
もちろん当事者は毎朝のこととはいえ、生きた心地などしていなかったのだが……

 

二階の和弘の部屋で毎朝のように起きている言い争い。
言い争いの発端も毎朝同じで、和弘のベットに侵入した女が朝起こしに来た女に怒られている、
というパターンだ。

侵入したのは長い金髪の髪に、出ている所は出て、
引っ込んでいる所は引っ込んでるメリハリのきいた体。
その体を薄い布切れで辛うじて隠し、真っ白い肌に透き通った青い瞳を持つ、
アメリカ人の「オリビア・シール」

そのアメリカ人に怒っているのは、切れ長の目に腰まで伸びたスリットが入ったチャイナ服を着て、
頭に二つのおダンゴを付けた中国人の「黄 倖」(コウ ユキ)

しかも黄はかなり怒っている為、片言の日本語じゃなく、中国語で怒鳴っていた。

「你又侵略了和弘的特的!!已不被恕的!!」
(あんたまたカズヒロのベットに侵入したアルね!!もう許さないアル!!)

「ん〜やっぱりカズヒロのベットはキモチイイワーー」

「离好的程度的!!」
(いい加減離れるアル!!)

どうやら朝、和弘のベットに侵入したオリビアが匂いと和弘の感触を楽しんでいた時、
和弘を起こしに来た黄が部屋に入ってその姿を見て怒ったようだ。
しかもオリビアは中国語は分からないので、叫んでいる黄を無視して指先1つ動かさないで硬直している
和弘の体に胸や股間を押し当てていた。

「カズヒロ〜〜、このままエッチしようか?」

「エッチ」。その言葉にピクンと反応した倖は、切れ長の目が更に細められ、
紅いチャイナ服の裾に手を入れ、取り出したるは、大振りで曲刀の青龍刀だった。

「死气沉沉的」
(死ぬヨロシ)

中国語が分からないオリビアだったが、さすがに黄が青龍刀を出してくると今の事態を理解したのか、
枕の下をゴソゴソと弄り

「在地獄掉下来!!」
(地獄に堕ちるヨロシ!!)
「アマイ!!」

 

2人の動きがピタリと止まった。

黄の眉間にはオリビア自慢の銃器コレクションの1つ、S&W社の「M500」を押し当て
オリビアの頭頂部には黄の青龍刀を寸止めし

まさに殺人ショー寸前の状態だ。

だが不幸中の幸いか、黄はこの状態で頭に昇った血が引いていき、冷静に話す

「……何度言えば分かるアル?和弘の寝所には入るなって言ったアル。
その無駄にデカイ胸で考えるヨロシ」

あくまで警戒を解かずに挑発する黄。対してオリビアは

「ラブラブカップルがベットでドッキング。ヘンじゃないね」
「前提からして間違っているアル。和弘はオマエの彼氏じゃないアル」
「ノーーーー!!」
「脳?脳がどうしたアル?」
「brainじゃない!!イエスノーの「ノー」!!」
「どっちでもいいアル。じゃあそこまでそう言い張るなら和弘に聞くアル」

「オーー、イエローにしてはナイスアイディアネ。ヒロ、もちろんオリビアをえらぶわよね」
「ふん、体の相性や文化の共通性から考えても同じアジア人の私を選ぶに決まってるアル。
そうだろ、和弘……和弘?」
「ヒロ、イエス?ノー?……ヒロ?」

2人とも相手のことばかりに集中していた為、
和弘がいつの間にか居なくなったことに今やっと気付いた。

「和弘、どこ隠れたアル?出てくるアル」
「ヒローー、ヒローー」

クローゼット、ベットの下、屋根裏、机の引き出し……

「居ないアル……」
「イエローー!!オマエのせいダ!!オマエがソードなんかだすからヒロがいないんだ!!」

明らかに言い掛かりだった。だが、売り言葉に買い言葉。黄も黙ってはいなかった。

「それはコッチの台詞アル!!お前が銃なんか出すから和弘が怖がって逃げるアル!!
……これだから銃を振り回すしか能の無い単細胞のアメリカ人は……」
「!!!……もういちどいってみろ」

人一倍愛国心の強いオリビアにとって、今の黄の台詞は聞き捨てならなかった。

 「聞こえなかったアルか?正義の押し売りをして、
逆らえば武力で捻じ伏せるアメリカは大っっっっっ嫌いと言ったアル」

みるみる眉間に皺を寄せ、頭に血が昇り始めたオリビアは、
和弘のことも忘れて手に握っていた銃を黄に向けて

「Withdraw there mark that you said now. I'll kill you if you refuse it.」
(今言った発言を撤回しろ。拒否したら殺す。)

「何言ってるか分からないアルが、そうね……多分こう言えばいいわね。ノーーー!!!」

「Be reborn as an insect to come again!!」
(虫けらに生まれ変わって出直しな!!)

オリビアの手に力が込められ、黄もポケットに入っていたパチンコ玉を数個握り、
「指弾」の構えをしていた。
だが、2人が動く直前、一階から2人を呼ぶ声が聞こえた。

「おーーい、オリビアーー、倖ーー、朝御飯が出来たぞ!!早く降りて来い」

「ヒロ?」
「和弘?」

2人が喧嘩している時、素早く一階に逃げていた和弘は朝食の準備が出来ると、
二階にいたオリビアと黄を呼んだ。
二人ともピクッと耳が動き、冷静になったオリビアと黄は瞬時に和弘の声に反応して全てを理解した。

(なーーんだ、下に居たんだ。ん?朝食?……しまった!!)

2人が同時に同じ事を考え、そして2人同時に動いた。
朝食を食べるのは居間。和弘の右隣はあの女が陣取っているはず。残るは、左のみ!!

そこに一瞬で気付いたオリビアと黄は、同時に部屋出口に向かって走った。
だが、位置的に近かったオリビアが先に出口のドアに手を掛け……
ようとしたが、足に何かが絡まり、豪快に顔から床に激突した。

「ブベッ!!」

後にいた黄がオリビアの足に向けてアメリカンクラッカーを投げ、足に絡ませたのだ。
だがただのクラッカーではない。紐の部分は鎖。そして鎖の両端には鉄球が付けられているという、
黄の対オリビア捕縛器具の一つだ。

「じゃ〜〜ね〜〜、そこで寝てるヨロシ」

遠くから聞こえるオリビアの泣き叫ぶ声に快感を覚えつつ、
早速一階の居間まで来たが、何故かすぐには入らなかった。

(アイツのせいで服がしわくちゃアル……よし、これでいいアル)

黄は決して和弘の前では乱れた格好はしなかった。
何時、何処であろうとも和弘が居れば、服の乱れがあれば直し、髪の毛が乱れていれば整えた。
黄が乱れる時……それは結ばれる時。それは黄自身が「和弘には常に綺麗な私を見て欲しい」
という想いから生まれた、自分自身を縛る戒め……

(和弘に嫌われたらもう生きて行けないアル……)

黄は臆病な心を押し殺し、今日も満面の笑みで和弘に言う。

「和弘!!おはようアル!!!」

2008/01/05 To be continued.....

 

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