INDEX > SS > あるアキバ系男の彼女たち

あるアキバ系男の彼女たち

第1回


1

「はぁ、クリスマスだってのに俺に居るのは二次元の嫁だけか・・・」

大好きなあの人はコートを着込むとPCの電源を落とし最後に部屋の灯りを消す。

「いやいや、フィギュアもある意味三次元!・・・虚しい、さっさとコンビニ行ってこよう」

そして私たちの愛の巣であるアパートの扉から出て行き、鍵を閉めました。

そして人間が誰も居なくなったこの空間は私たちの世界となります。

 

「ご主人様・・・」

誰もいないはずの暗いアパートの部屋から聞こえる呟き。
それを発したのは人間ではなく、人間を模して作られた人形(ヒトガタ)でした。

本のない本棚に佇む女の子は、西洋風の甲冑を着て剣を手に持った少女。
"戦乙女ヴァルキリー"        ・・・のフィギュア。それが彼女です。

「そう、去年は"制服少女シリーズNo04"だったけど、今年は負けないわ!」

そう言ってヴァルキリーは手に持った剣を無造作に薙ぎ払い、一緒に並べられていた
フィギュア・食玩・プラモなどに斬りつけ始めました。

「毎年12/24にご主人様はいつも"私たちのうち誰か"とケーキを食べるところを
  デジカメで撮影して画像掲示板に投稿する、即ちそれを果たせばふたりは公認カップル!」

端から見れば負け組みの自虐も交えた精一杯のネタも、彼女たちにとっては聖なる夜のようです。
なお去年の覇者制服少女シリーズNo04は次の日に嫉妬に狂った他の彼女たちに破壊されてます。
逃げ惑うガシャポンのガンダムを50体ほど無双したところで、突然ヴァルキリーの足元に
何本もの手裏剣が突き刺さりました。

「何者!?」
「"くノ一シリーズNo02"参上!お館様の愛は私の物よ!」

と叫びながら隣の本棚から飛び掛ってくる露出度の高い忍装束を着た女の子。
よく見ると部屋中で戦いが繰り広げられています。

ガンプラが撃ったビームをメイドさんフィギュアが箒で受け止め、戦艦プラモの46cm砲を受け
四散する歴代戦隊ヒーロー食玩たち。
タッグを組んだらしいバイクプラモに乗ったライダーフィギュアの突進から逃げ惑うキン消しに、
萌え司令官るーでるに率いられ一糸乱れぬ行動でZOIDSを駆逐していく戦車食玩。
40cm近くあるゴジラのフィギュアに体当たりを敢行する猫耳少女たちに至っては地獄絵図です。

「"巫女さんシリーズNo1"前からあんた気に入らなかったのよ!」
「そんな弾速の遅い武器なんて当たらないわよ"戦闘工兵隊12"!」
「抜き手!中段蹴り!正拳突き!回し蹴り回し蹴り、必殺昇竜拳!」
「ぐるるるるるるる!がおーっ、放射能熱線!!」
「奥義分身の術!拙者の動きが見切れるか!?」
「うわっ、本当に見分けがつかない・・・って、片方シークレットの色変えverじゃん!」
「おーぷんげっと!」「ぱいるだーおん!」「れっつこんばいん!」「れっつぼるといん!」
「くらえエアシューター!」「タイム連打連打連打!うわっ、竜巻相手じゃ意味がない!」

・・・・・・・・・・・・そして小1時間後。
死屍累々と横たわるフィギュアなどの残骸。
そして数え切れぬほどの残骸を積み上げられた山の頂点で佇む一体の少女。
身体中にヒビが入り今にも崩れそうなボロボロな状態ですが今年の勝利者は彼女のようです。

「うふふ、あはは、あーっはっはっはっは!これでご主人様の愛は私の物よ!
  昨日までご主人様のお気に入りだったアイツも、毎週シリーズが増えるアイツも、
  パテで衣装を制作して貰ったアイツも!お友達に『嫁』と自慢していたアイツも、
  憎いアイツも殺したいアイツもマッチで燃やしたいアイツもシンナーで溶かしたいアイツも
  アイツもアイツもアイツもアイツもアイツもアイツもアイツもアイツも、もういない!」

「私だけがご主人様の『お嫁さん』なのよ!」

彼女の乾いた笑い声が木霊するアパート。
そのとき机の上から彼女と最後まで戦った戦車の残骸が落下して、その拍子に偶然下にあった
TVのリモコンの電源スイッチを押す。

「・・・でした。さて、次のニュースをお伝えします。たった今起こったニュースのようです」

誰も居ないはずのアパートに鳴り響く乾いた笑いのキャスターの声。

「・・・区在住の男性が、コンビニで女性に包丁で刺され亡くなりました」

TVに映し出されているのは淡々と原稿を読むキャスター、と彼女たちの良く知る人物。

「容疑者の女性は取調で『私は彼を世界一愛していたのに、彼はフィギュアを買ってばかりで
  私の思いに気付かない。だから殺せば身も心も私の物になると思った』と供述しており・・・」

パキッと音がしてダメージで自重に耐えられなくなった彼女の身体が崩壊したときも
彼女は最後まで笑い続けていた。

2007/12/24 完結

 

inserted by FC2 system