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ハリネズミの幸福論(仮)

第1回


1

あるところに一匹のハリネズミがいました。
ハリネズミはいつも一人ぼっちです。
ハリネズミは寂しがりやでした。ハリネズミは友達がほしいといつも思っていました。
でもハリネズミが近づくとみんな逃げていきます。
ハリネズミの全身は針で覆われています。
ハリネズミに近づくと怪我をします。
寂しがりやのハリネズミはいつも一人ぼっちでした。
あるとき、ハリネズミは仲間を見つけました。同じハリネズミです。
これなら大丈夫だ――ハリネズミ同士は近きました。
しかし、お互いの針が邪魔で近づくことができません。
二匹のハリネズミは全身の針を震わせながら泣きました。

あるとき、一匹の猫が一匹のハリネズミの前に現れました。
猫はハリネズミを食べようとしますが、針が邪魔で食べることができません。
それでも猫はハリネズミが食べたかったので側にいました。
一方、ハリネズミは猫が近寄ってきたことに驚きました。
自分が近づくとみんな逃げていくのに、猫は自分から寄ってきてくれたのです。
ハリネズミは嬉しかったけれど猫に謝りました。
「ゴメンよ。ボクに触ると怪我をしちゃうんだ。でも近寄ってきてくれてありがとう」
猫は驚きました。
自分が食べようとしているハリネズミがお礼を言ってきたからです。
このハリネズミは勘違いをしている――猫は気付きましたが黙っていました。
猫はハリネズミに興味を持ちました。
猫はハリネズミの側にいつもいるようになりました。
ハリネズミは喜びました。

ある日のこと、もう一匹のハリネズミがやってきました。
ハリネズミは猫を見つけて驚きました。
猫の側にいたハリネズミは言いました。
「ボクにも友達ができたんだ。触れることはできないけど、いつも側にいてくれる自慢の友達さ」
やってきたハリネズミは言いました。
「あなたは騙されているのよ。猫はあなたを食べようと側にいるのよ。
ワタシ達はハリネズミ同士で側にいるのが一番なのよ」
猫のことを悪く言われたハリネズミは怒りました。
「そんなことを言わないでくれ。ボクの友達を悪く言うヤツは君でも許さないよ」
二匹のハリネズミは言い争い、喧嘩別れをしました。
でもハリネズミはもう寂しくありません。猫が側にいてくれるからです。
もう一匹のハリネズミは泣きました。また一人ぼっちになってしまったと泣きました。

ある日のこと、猫に梟が話しかけてきました。
「おや珍しい。ネズミと仲の良い猫がおるとは」
猫は言いました。
「食べたいけど針が邪魔で食べれないのさ。今は隙を探しているのよ」
猫はもうハリネズミを食べようとは思っていませんでした。
恥ずかしがりやの猫はつい嘘をついてしまったのです。
梟は言いました。
「そんなのは簡単さ。ハリネズミは自分の身を守るために針がついている。
つまり弱点を隠すために針がついているんだ。
ハリネズミの腹は針がない。食べたければ腹を出したところを食べてしまえばいいさ」

猫は迷いました。
猫はもうハリネズミを食べようとは思っていません。
逆にハリネズミが好きになっていたからです。
ハリネズミにこのことを教えれば、これで誰とも触れ合うことができると喜ぶと想像はできます。
ですが、それだとハリネズミは自分の側から離れていくかもしれません。
もしかしたらいつか自分で気がついてしまうかもしれない。
喧嘩別れしたハリネズミとも仲直りをしてしまうかもしれません。猫は迷いました。
そして猫はあることに気がついたのです。

――なぁんだ、こうすればいいじゃないか。

猫はハリネズミを見つけました。声をかけるとハリネズミは嬉しそうに走ってやってきます。
猫はごくりと唾を飲み、舌舐めずりをして口を開きました。

喧嘩別れをしたハリネズミが謝りにやってくると、そこには泣いている猫がいました。
猫の足下には腹を食べられて死んでいるハリネズミがいました。
ハリネズミは驚きと怒りに震えて猫を問いつめました。
「どうして彼を食べたの!? 彼はあなたを友達だって言ってたじゃない。
そんな彼を裏切って騙して食べたのね」
猫は泣きながら言いました。
「私は彼を愛していたのよ。だから誰とも近づいてほしくなかったの…独り占めしたかったの……。
彼と一緒になるためにはこうするしかなかったのよ。彼を食べてしまえば
彼と私はずっと一緒だから…ずっと、ずっとずっとず〜っと一緒だから……」
ハリネズミは怒り狂い、泣き続ける猫に跳びかかりました。
ハリネズミの体当たりは全身の針で猫を傷つけました。何度も何度も体当たりをしました。
猫は避けませんでした。針が刺さり、全身から血を流しながらも避けようとはしませんでした。
やがて猫は全身を真っ赤に染めて倒れました。
猫は死んだハリネズミに寄り添うように倒れると、幸せそうに笑い、安らかな顔で死にました。
ハリネズミは全身の針を真っ赤に染めて泣き続けました。
ハリネズミは涙が渇れ果てるまで泣くと、死んだハリネズミの腹の上に寄り添いました。
冷たくなったハリネズミの腹の上で、全身を赤く染めたハリネズミは幸せそうに笑いました。
「やっと触れ合うことができた…これからはずっと一緒だからね……」
ハリネズミは目を瞑ると、二度と目覚めることはありませんでした。

2007/12/23 完結

 

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