「お兄ちゃん…… お弁当」
「いや、いいよ。ごめんな」
今日も、玄関先で渡そうとしたお弁当の受け取りを拒否されて、心がずきんと痛む。
以前は、ちゃんと受け取ってくれたのに……
私と、お兄ちゃんは一つ違いで同じ高校に通っている。
お兄ちゃんは、特にかっこよくはないし、成績がずば抜けて優れている訳でもない。
かといって、運動神経が抜群という訳でもない。
ごく平均的な生徒だけど、妹である私にはすごく優しくて、
私がお兄ちゃんを好きになる理由としては、それで十分だった。
毎日お兄ちゃんにお弁当を渡して、一緒に学校に行く。お兄ちゃんと一緒に、
お弁当を一緒に食べることはできないけれど、それは無理だというくらいは分かっていた。
しかし、1ヶ月前から、お兄ちゃんはお弁当を受け取らなくなってしまったのだ。
「弁当、いらないから」と、初めて言われた日の衝撃は今でも忘れない。
私達の家はお母さんがいない。お兄ちゃんが自分で作っている様子もなかったから、
お兄ちゃんに好意を寄せている女がいることは明白だった。
大切なお兄ちゃんを奪おうとしている女が誰なのかを調べることにしたけれども、
拍子抜けするくらいあっさりと分かってしまった。お兄ちゃんの同級生が名前を教えてくれたのだ。
遠藤由梨…… あの女の名前を口にするだけで、身の毛がよだつ思いがする。
あの女は、憎たらしいことに新体操部のエースで、生徒会の副会長だ。
成績でも学年で5位以下になったことはないし、何より超がつくほど美人。
容姿だけからみても、男なんていくらでも漁り放題なのに、
よりによって、平凡なお兄ちゃんに猛烈なアタックをかけてきた。
自分で弁当を作ってお兄ちゃんと一緒に食べる。ことあるごとにお兄ちゃんに話しかけて誘惑する。
人のよいお兄ちゃんはあっさりと騙されて、2週間もたたないうちに、
あの女は『彼女』の座におさまってしまった。
私はお兄ちゃんの前では、あの女を悪くいうことはしない。
でもね。
私のお兄ちゃんを奪った報いはきちんと受けてもらわないといけない。
他人の縄張りに入った泥棒猫は追い出されないとね。
もちろん、ナイフでずぶりとやるなんて、はしたないことはしないよ。
だから1日だけ学校裏の倉庫の中で我慢してね。ローターの電源はいつまで持つかわからないし、
途中で警備の人が見つけてくれるかもしれないけど。
ローターが気持ちよすぎて病み付きになるくらいは勘弁してね。
最後に念を押しておくけれど、緊縛された裸の写真をばら撒かれたくなかったら、
今後お兄ちゃんに近づかないでね。遠藤さん。私からのお願いよ。 |