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淑女協定

第1話
Appendix


1

「あら、負け組みサラリーマンにしたら、お早い帰宅ね」
マンションの玄関でばったり会った晶はエレベーターを待つ間、呟くように、
でも僕にはっきり聞こえるように言った。
「まあ貧乏暇無しってのは嘘だってことだな。貧乏暇ばっかりってことだ」
晶の言外の意図をあえて無視しておちゃらける。
実際、同い年なのに会社を立ち上げて小さいながらも社長をやっている晶に比べたら
負け組みと呼ばれてもしかたない。
チンと音をたてて1Fに降りてきたエレベーターに乗り込み最上階である12階のボタンを押す。
静かに上昇を続けるエレベーターに2人。沈黙を破ったのはまたも晶だった。
「ねえ」
「ん?」
「明日、よね?」
「今日じゃなけりゃ明日だろ」
できるなら会いたくなかったが、会ったんだからしょうがない。今日じゃないのだ。
視線の持って行き場がなく、階数表示パネルを見上げる。
チンと再び鳴ったエレベーターは12階で止まった。
「じゃ、わたし、こっちだから」
自宅の1201号室に向かう晶。僕は隣室である1202号室の鍵をポケットからとりだす。
「明日ね」
そう言うと晶はさっさと扉を開くと中に消えた。鍵穴に鍵を差し込む前に深呼吸をする。
今までのことは忘れよう。

「ただいま」
玄関を開けると、奥からいい匂いが漂ってきた。
「おかえり〜」
スリッパをぺたぺた言わせてこちらにやってくる妙子はエプロン姿で、
晩御飯をつくっていたことがわかる。
「お仕事お疲れ様。ご飯、もうちょっと待っててね」
何も言わず僕のかばんをもって、上着を脱がせてくれる妙子。そんな彼女に僕はふっと唇を重ねる。
「こ、こら、そんなの反則だぞ。もっと、ちゃんと…」
「ちゃんと?」
片手で細い腰を抱き寄せ、もっと深くキスをする。
最初はびくっとしていた妙子も僕の首に両手をまわし、次第に舌を絡ませるように動きをあわせる。
この何度やっても初々しい妙子の反応がたまらなく好きだった。
たっぷり5分。僕達は玄関で抱き合い、キスをした。1日ぶりだった。
空いた時間を取り戻すかのようなキスが終わったとき、妙子はへたりこむ。
「妙子……」
「……」
「口の中が味噌汁くさい」
「!」
顔を真っ赤にした妙子が、僕のかばんで顔をなぐりつけてきた。

「いいお湯だったよ」
頭をタオルで拭きながら、リビングに戻るとテーブルにはいつもながら
2人では食べられないほどの料理が並んでいた。
炊き込みご飯。味噌汁。焼魚。おひたし。煮物。てんぷら。サイコロステーキ。
成人男性の1日のバランスのいい栄養と摂取カロリーがここにある物だけで満たせそうだ。
妙子が鼻歌まじりにお茶を入れた湯のみをさしだす。
「どうせあっちではお店で作ったものばかりでしょ。それじゃ体壊しちゃうぞ。さ、食べて食べて」
受け取ったお茶を飲みながら、こっちのほうも体壊しそうだなと思ってしまった。
実際、妙子のつくった料理はおいしいからまたやっかいなのだ。気づいたら食べてしまっている。
こりゃあっちの運動を頑張れってことか?
そんなことが顔にでたのだろうか。妙子ははずかしそうにうつむき、小さくそうだよと言った。

結局あれほどあった料理をほとんどたいらげてしまった。さすがに胃が重くて体が動かない。
ベットに横になって目をつぶり体を休める。
どうしてこうなったんだろうか? そもそも何が悪かったんだろうか? それはわかってる。
僕の優柔不断が招いた結果だ。
でも、でも、僕はどちらを選ぶなんてことできない。泣いてる顔なんてみたくないよ。
それがエゴだなんてわかってる。
淑女協定。1日置きに僕の彼女は交代する。
その場しのぎ。
まるで将来がみえないこの提案に、僕は賛成した。
二人がいいっていうから。どこまでもダメな奴。自分の意見がまるでない。
それでもこんな僕を受け入れてくれる女性を、
やはり一人だけ選ぶなんてことはできなかった。
「ねむっちゃったの?」
お風呂上りでパジャマに着替えた妙子が寝室に入ってきた。
そうだね、こんな僕を好きだっていってくれる妙子を裏切ることなんてできないよね。
「ちゃんと起きてるよ。妙子の作った味噌汁がおいしかったなって思い出しただけ」
「んもう」
軽口をたたく僕の横に座る彼女。横になってる僕の髪を指で優しく梳きはじめる。
いいよ、という合図。
僕も手をのばしてまだ半乾きの妙子の髪を触る。
いつもは後ろで二つにしばっている彼女だが、唯一この時間だけ髪をほどいている。
肩まであるそれを優しくなでると彼女はくすぐったそうに笑う。
僕に覆いかぶさって口付けをする前に一言「会えない1日が長かったんだぞ」と彼女は言った。
僕もだよ、妙子。
「ん、んむ、チュ」
僕が舌で彼女の歯列をなぞっている間、彼女は僕の上着のボタンをはずし、
ズボンとパンツを脱がした。
かろうじて両腕にパジャマの袖が通っているだけの姿。
ひんやりとした指が僕の下腹部をさすり、まだ臨戦状態じゃないものを弄ぶ。
「口で、しようか?」
部屋は薄明かりなので彼女の表情までははっきりわからないけど、
きっと言葉にするのも勇気がいったのだろう。
顔をさするとかなりの熱をもっていた。
「口ですると、キスできなくなるから、妙子が脱いで興奮させてよ」
妙子の口というのもとても魅力的だけど、今日はずっとキスをしていた気分だ。
やんわりと注文すると、しょうがないなあといった風にベットの横に立ち、
あっさりとパジャマを脱いでいく。
もうちょっと脱ぎにタメがあればなあ。
薄明かりの中、衣擦れの音が部屋に響く。
体を重ねるようになって初めのうちは、部屋が真っ暗の中でしか事を行おうとはしなかった。
自分の体に自信がないからだろう。
そりゃ、モデルさん達と較べれば数値的に劣っているかもしれないけど、
抱いたときにすっぽり僕の中に収まる彼女の体が大好きだ。
小さいと気にする胸も、きっと垂れることもないだろうし、大きいと嘆くお尻も、
めちゃくちゃHだとわかってないだけだ。
なにより彼女の中に入ると安心するのだ。それだけは譲れない事実。
「どう?」
脱いだパジャマを畳んでベッド脇に置いた彼女は振り向いてこちらを見る。
右腕で乳房を隠し、左手で股間を隠していた。
ストリップとしては不合格だな。彼女の細い左手を掴み、僕の下に組み敷く。
「あんなことやこんなことをしてるのに、まだ恥ずかしがってるの?」
耳元で囁くと、彼女はいやいやをして逃れようとする。
「いや、だめっ」
「だめなもんか」
耳の穴に舌をいれて、右手で乳首をやさしくはじく。弱いところはわかってるんだ。
やわらかいものを僕の唾でなぶり、手で揉み、指でほじる。
「ふわっ。あ、や、や、いっ」
「しー。声が大きい。もうしてあげないよ」
自制できないほどの大声。自分が女性を快楽に導いているという興奮。
彼女の股間も潤い、迎える準備を整えていた。
「ゴム、妙子がつけて」
SEX中はゴムを必ず着用すること。淑女協定の中の一つ。用意したゴムを妙子にわたす。
肩で息をしている妙子はゆっくりと起き上がり
袋を破って中からピンクの薄地を取り出す。
精液だまりを指でつまんでてきぱき僕のに装着するのを上から眺める。だいぶ慣れたようだ。
裸がみられるのは恥ずかしいのに、僕のを見るのは恥ずかしくないのかと思ってしまう。
そんなものか。
妙子が帽子をかぶった僕のにちゅっとすると仰向けになり「いいよ」と言った。
そうだ、と僕は思いつき彼女の右手を僕の股間に導く。
「なに?」
「いいから。入るところを妙子にも見て欲しいんだ」
妙子の手が添えられたモノが狙いを定めて貫く。
「あ、ああああ、ふあああ」
たまらず嬌声をあげる妙子。
「触ってごらん、ほら、妙子の中にはいっていくよ」
僕のモノがどんどんと埋まっていく。く、きつい。
温かく、ぐにょぐにょとして僕のを締め付ける妙子の膣内。
「い、い、いいいいいっ」
歯をくいしばり、シーツを掴む妙子。
そんな姿が愛しくなりおでこに汗ではりついた髪を払い舌をはわす僕。
このままずっと妙子の中にいたいんだけど、
狭くて、気持ちよくてとてもじっくり味わうことはできそうにない。
「ごめん、妙子、もちそうにない。動くよ」
「きてっ、きてっ、あ、いいいい」
その時、ドンと大きく壁が叩かれた。あちゃあ。絶対隣が妙子の声がうるさいから叩いたんだよ。
「妙子、おい、妙子、声小さく、静かにしよう? 隣に迷惑だって」
「あ、あ、べつに、い、い、いいでしょ、せっかく、きも、きもち、いいし、あ、あああああ」
だめだ、全然聞いてない。いつもは本当におとなしい妙子だけど、あえぎ声になると人一倍大きい。
普段を知ってる僕からすればなんか無理矢理声だしてる感じがするけど、そこもまたかわいいんだ。
しかしここは早く妙子にイってもらって静かにしてもらおう。
「だめ、だめ、いっちゃう、いっちゃうううう」
それから10分後、満足した妙子は僕の横で静かに寝息をたてている。隣には悪いことしたなあ。

朝。出勤前に玄関で妙子に見送られる。
「いってくるね」
「……また、明日だね」
「すぐだよ」
朝の出勤前、玄関をあけたらまた明日まで僕達は恋人同士じゃなくなる。
「いってきます」
エレベーターを待っている間に、晶がやってきた。
「おはようございます」
隣としては挨拶をするのが常識だろう。
「今日ね」
「ああ」
腕にだきつく晶。昨日はつけてなかったシャネルの香水が鼻をくすぐる。
「通勤と会社の時間でくっつくのは協定違反じゃないのか?」
「いいのよ。深夜、うちの隣室のアヘ声で全然眠れなかったんだから。
壁叩いてもちっとも静まらないし、いい加減こっちは欲求不満よ。ほら」
紺のタイトスカートをめくると、パンツではなくそこには濡れた陰毛が。
「おい、馬鹿、やめろって」
かばんでとりあえず股間を隠そうとするが、そんなことは意にも介さない晶は堂々と、
「昨晩、あなた達がどんなプレイをしたか知らないけど
それよりも数倍すごいことするわよ。いいわね!」
と高らかに宣言して、ノーパンのままエレベーターに乗り込んだのだった。

淑女協定 完

2007/06/15 完結 Go to Appendix

 

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