体育館の外には夕暮れ空があって、カナカナのもの寂しい鳴き声がこだましていた。
九月も中場を過ぎ、秋の息遣いがはっきりと感じられるようになったのだが、
それでもまだ残暑は続いていた。
体育館内はシーンと静まり返っている。
運動部が残した熱が、まるで熱帯夜のように体にへばりつき、汗がじくじく吹きでて体を流れる。
ここだけ湿度が高いのだ。
「……サウナかよ」
思わず奏翔(かなで・しょう)は呟いた。
ともかく暑い館内は、明らかに外より湿度も気温も高く、体と心を際限なくげんなりさせる。
ズボンの右ポケットに手を突っ込むと、そこには一枚のルーズリーフが綺麗に折り畳まれている。
翔はそのルーズリーフを取りだし、折り目を開いた。
そして、翔は溜め息をつく。
『体育館の部活が終わったら、体育倉庫に来て下さい』
ルーズリーフの表面にはそんなメッセージがくっついている。
翔はこのメッセージに従って、体育館まできたのだ。
もう一度、翔は溜め息をついた。
このルーズリーフを見るたびに、翔はたまらなく憂鬱になるのである。
この普通のメッセージが孕んだ、おかしな文字に。
「普通、新聞の切り抜きなんか使うかよ……」
まるで脅迫文書のようなその文字一つ一つを撫でまわしながら、翔は言った。
べっとりとへばりついた糊の、のっぺりとした匂いが鼻の奥を刺激する。
そして、翔は三度目の溜め息をついた。
この手紙は今朝、下駄箱に入っていたのだ。それを登校時に発見し、泣きそうになった。
同時に一瞬でもラブレターだ、と考えて浮かれた自分が悲しくなった。
おそらくは友達のたちの悪い悪戯だと思う。
脅迫文を装おって、翔を怖がらせようとでも思っているに違いないのだ。
しかし、微妙な学力レベルの私立高に漫画や小説の世界に登場するような不良はいない。
もちろん悪ぶるやつも居るにはいるが、そいつらはトイレでコソコソ煙草を吸うくらいがせいぜいで、
人様に迷惑なんてかけられないだろう。
私立は校則が厳しいし、翔が通う高校は大学附属高であるため、
そんな馬鹿な事を起こして内申を下げたくないとみんな思っているはずである。
その時はそう確信し、意気揚々と自分のクラスに向かったのだが、
そんな気分はすぐに消え失せてしまった。クラスメートは誰もその手紙を知らなかったのである。
いかにもそんな下らない事をやりそうな大久保、本田、森の3バカトリオも知らぬ、
存ぜぬと犯人扱いされたためか不機嫌そうな顔で言う。
その顔は嘘を言っているようには見えなかった。彼等はかくれんぼで狭い密室に隠れると、
なぜか笑い出すタイプである。嘘は下手くそだ。
いつの間にかその差し出し人不明の手紙が怖くなっていた。
誰も知らないその手紙には重要な意図が内封されているような気がしたのだ。
自分の顔が青くなり、たらたらと冷や汗が出てくるのを、はっきりと自覚した。
そんな翔に対し、哀れみを抱いたのか3バカトリオは翔の肩をポンと叩き、
何かを手渡してくるのだった。
大久保は湿布。ありがとう、役に立ちそうだよ。
本田は絆創膏。まぁ、妥当だろう。ありがとう。
森はカッターナイフ。森よ、お前は俺に何をさせたいんだ?
そうこうするうちに授業は全て終了し、頭を抱え焦っているうちに部活も終わってしまい、
今、体育倉庫の前まで来たのである。
体育倉庫の鉄製扉は、まるでその奥に魔王でもかくまっているんじゃないかと思うほど重厚で、
檜の匂いに混じる鉄の匂いが不安な気持ちとあいなって場違いな威圧感を漂わせていた。
思わずごっくん、と生唾を飲み込む。心臓が早鐘をうち、体からフッと熱が消えた。
今なら魔王に戦いを挑む勇者の気持ちが分かる。だが反対に、勇者は翔の気持ちを分からないだろう。
翔には仲間も、経験値もないのだから。
たっぷり時間をかけてから、ようやく意を決して、その重厚な扉をノックする。
扉の雄大さから比べれば、その音はかなり小さく、すぐに重厚な鉄に吸い込まれて消えた。
返事はない。
不気味な静まりの中で、カナカナが鳴いていた。その沈黙が、翔の不安を増大させる。
逃げちまおうか、と思う。全てなかった事にして、家に帰って寝ようか、と。
しかし、そうもいかない。翔がばっくれたら、中の人がどんな反応を示すか分からないのだ。
だから下手に刺激せず、直接会ってうまく場をおさめる、それがベストだと思う。思う事にした。
再び、扉をノックする。
やはり返事はない。
気味の悪い感覚を撫でるような汗が流れ落ち、心臓は天井知らずに高鳴る。
そんな感情も感覚も全て吐きだしたくて、ふぅ〜と大きく息をはく。
覚悟を決めた。初めて扉をノックした時使った十倍の勇気を振り絞り、
錆びついたむちゃくちゃ重い扉を肩を当てて無理矢理押し開ける。
キィーッと蝶番が軋む嫌な音が、館内に反響した。
重い鉄扉は一度勢いがつけば一人出に開いていき、暗い体育倉庫の地面に帯状の光が広がっていく。
カビの刺激臭が鼻の奥をつく。
倉庫はひっそりと静まり返っていた。暗くて奥がよく見えないが、人の気配は感じられない。
中に足を滑らせると、不自然に敷きつめられたマットの、柔らかい感触があるだけで、
それ以外におかしな所は見当たらない。
「……誰もいないのか」
翔は問いかけるように、そして同時に自分にいい聞かせるように呟く。沈黙が答えだった。
やはり誰もいないようだ。
安堵の吐息を漏らす。憂鬱な気持ちが胃の中にストンと落ちて、消えたような気がした。
と、なれば長居は無用である。
「帰るか……」
翔が踵を返したその時、
「センパイ」
人に媚を売る仔猫のような甘い声が背中から聞こえた。
驚いて振り返ると、隅の飛び箱の上に少女が座っていた。
暗くて顔はよく見えないが、スラッと伸びる白い足がやけに綺麗で目に残る。
「待ってましたよ」
そう言って少女は飛び箱から飛び降り、大地を撫でるような柔らかな音と共に着地した。
「もう来ないのかなぁ、と思いました」
少女は翔の元にゆっくりと、しかし悠然と近付いてくる。
翔は思わず身を固くした。
この少女が不気味で仕方がなかった。
まるで多種多様の果物の中に一つだけ苺が混じっているような異質さ。
それは遠くで見るかぎりは分からないかもしれないし、実際廊下ですれちがっても分からないだろう。
しかしサシになるとその異質性がよく分かる。
帯状の光の中に侵入した少女の姿が、下半身からジワジワと写し出されていく。
驚いた事に可愛い少女だった。パッチリと大きな瞳はややつり上がり気味だが、
その分意思の強さを物言わずに語っている。
白く、高い鼻はツンと気高く、クローバーのように可憐な唇はぷっくりとしていてみずみずしい。
彼女が歩を進める度に、肩まで伸びた黒髪が柔らかく空を舞う。
胸元の校章が赤い事から、少女が自分より一つ年下の一年生であることが分かったが、
それ以外は何も分からなかった。もちろん名前も知らないし、見た事もない顔だ。
純粋に可愛い娘だとは思う。
この少女が美人かどうか、百人に質問すればまず全員が美人と答えるだろう。
しかし、それでも彼女の評価は二分されるよう翔には思えた。すなわち直感的に好きか、嫌いか。
現に、翔はこの少女はあまり好きなタイプではない。
かわいいとは思うが、それ以上に不快な感じを受ける。
そこに確かな理由や裏付けがあるわけではなく、ただ直感でそう思った。
「何のようだい?」
固まった表情筋を無理矢理緩めて、翔はやんわりと言葉をつむぐ。
少女はふふふと笑った。その笑みがドキリとするほど妖艶に見えた。
まるで獲物を見つめる小悪魔のようだ。
やがて、少女はゆっくりと翔の脇をすり抜けて行く。
柔らかく風に揺られた髪の毛から、甘いシャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。
その芳香に頭がくらくらするような高揚感を覚えつつ、その匂いに魅入られたように動けなかった。
ズシンと腹の底に響くような重低音を背中で聞いて、ようやく翔は我に返る。
背後から照らしていた光が遮断され、鉄格子から真っ直ぐ伸びる赤い光だけの世界に急転した。
鉄扉が口を閉じたのだ。
驚くと同時に慌てて振り返ったその時、いきなり首に手を回されそのまま乱暴に押し倒された。
もう何がどうなったのか理解できなかった。
「セ〜ンパイ」
腰の上で馬乗りになった少女が、押し倒された翔の顔の左右のマットに手をついて、体を傾けてくる。
顔と顔との距離が狭められ、その間にはもう拳一つ分ほどの隙間しかない。
彼女の小さくも甘い吐息がいちいち鼻頭をくすぐる。
「大好きです」
いきなり唇を奪われた。狂った果実のように、どこまでも甘い唇の感触。
しかし、その感触はさざ波のようにすぐに消えていった。
顔をあげた彼女の唇に糸が引いていた。
頭がくらくらする。夢と現の境界線が曖昧になってしまったような気がした。
ふふふ、と少女は満足気に目を細めて、再び唇を合わせてくる。
今度は濃厚でむさぼるように彼女の唇が吸い付き、そのまま唾液を潤滑油にして滑らせるように、
柔らかな舌が口内に侵入してきた。
彼女の舌がなまめかしく、かつ濃密に翔の舌と絡みつく。いやらしい水音が鼓膜の奥から聞こえた。
甘い唾液がじくじくと喉の奥に流し込まれ、それを嚥下する度に思考が恍惚となっていく。
それでも彼女は唇をむさぼる。
そのまま右手を滑らせて、翔の下半身へと手を伸ばす。
片手で器用にズボンのチャックを下ろし、すっかり隆起したペニスを握りこむと、
嬉しそうに目を細め口を離した。
「ふふ、センパイおっきくなってますよぉ〜」
冷たい彼女の指が熱を奪っていく。まるで上半身と下半身が別の体になってしまったかのようで、
夢の中を漂う頭とは対照的な股間の冷たい快楽が直接神経を刺激する。
「どうですかぁ、気持ちいいですかぁ〜?」
言いつつ少女は右手をゆっくりと動かしはじめた。
自分の手では絶対に感じられない快感が、じわじわと神経を刺激する。
この少女の手の動きは熟練の域に達していた。
竿を激しく扱いたと思ったら、滑るように指先を這わせて亀頭を愛撫する。
手の平で敏感な亀頭を優しく撫で回し、カリ首を指でじらすようにつついた。
電撃が走ったような快感にピクン、と翔の体が震える。
「センパイ、ここがいいんだぁ〜」
鼻にかかるような甘い声を出して、少女はカリ首を執拗に刺激する。
雪のように白く細長い指で輪を作り、カリを包んで締め付けてきて、
もどかしい快感が全身を駆け抜けた。
「あはっ、やっぱりここがいいんだぁ。ほら、先っぽから我慢汁が出てきましたよ」
少女は加虐的快楽を享受し、その目をうっとりととろけさせていた。
甘く熱い少女の吐息が激しさをまし、翔の顔にふりかかる。
亀頭から漏れたカウパーを人指し指によく馴染ませ、少女はわざといやらしい音を立てつつ、
カリに指を滑らせていた。
「すごいですよぉ、センパイの我慢汁で手がベトベトです」
芯に届く圧倒的快感。しかし、少女は頂には決して昇らせてくれない。
少女は絶頂の寸前で指を離したり、見当外れな場所を愛撫するのだ。
イキたいが、イカしてくれない。
そんなもどかしさに耐えかねて、翔は無意識のうちに快感を求めて腰を動かしていた。
「あれ、どうしたんですか?センパイ」
その動きを感じ取ったのか、少女はしごいていた右手をピタリと止めた。
それから翔の耳元に口を持っていき、甘く熱い吐息と共に少女は囁く。
「気持ちよくないんですか?」
優しくしごく。
「そんなわけありませんよね?ここはもうこんなに大きくなってますし、
我慢汁だっていっぱい出てます」
頂が見えはじめると、少女の手の動きはピタリと止む。
「まさか、もういっちゃいそうなんですか? まだ五分もたってないですよ。
もしかしてセンパイって早漏さん?」
熱い吐息が耳に絡みつく。
脳の中を直接愛撫されているような錯覚に陥り、脳自らがその快楽を求めている。
「分かったぁ、童貞さんなんだぁ」
にっこりと笑う少女。その唇の隙間から可愛らしい八重歯を覗かせていた。
「センパイ、初めてなんですね。ふふふ、嬉しいです」
フッと耳元でジンジン響いていた彼女の声が遠くなった。少女は中腰に立ち上がったのだ。
その体勢のまま少女は右手でペニスを扱きつつ、左手で器用にパンツを下ろした。
スカートをまくし上げた股間の、うっすらと生えた淫毛の向こうに、ピンクの花が咲き誇っていた。
「ほらぁ、ここに入るんですよぉ。入ったら、童貞卒業です」
彼女は見せつけるように、両手で花びらを押し広げた。
ヒクヒクと脈うつそれは、獲物を待つ食虫植物のように甘い粘液を滴らせている。
「じゃあ、食べちゃいますね」
と、少女は膝立ちになり自分の花びらに、ペニスを押し当てた。
これからもたらされる快感の期待に、翔の体が震える。
「いただきます」
それを合図に少女はゆっくりと腰を落としていく。
翔のペニスが狭い膣を押し広げ、ゆっくりゆっくり奥底へと潜りこんでいく。
肉の花びら一枚一枚が愛液でたっぷりと濡れていて、絡みつくようにまとわりついてくる。
やがて、コツン、と最深部に先端が辿りついた。
「んあ……、お、奥まできました。ふ、ふふふっ、ど、どうですか? 女の子の中に入った感想は?」
そう言って、少女は腰をくねらせた。
暖かくて柔らかい膣の感触。びらびらの一枚一枚がまるで舌のように絡み付き、
ずっとおあずけを食らっていた翔の肉棒はあっさりと限界に達した。
「あん、すごい。ピクピクって、中に出てます」
少女は腰を反らして、止めとばかりに膣を絞め上げる。
まるで巾着のように、貧欲に精を絞りとる肉の壺を前に、白い快楽で頭が塗り潰されていく。
やがて、全ての快楽を吐き出したときには意識が朦朧としていた。
「はははっ、センパイやっぱり早漏さんでしたね。早すぎですよ」
屈辱的な言葉は既に遠く、意識が快楽の中に抱かれて薄れていく。
そして、翔は意識を失った。 |