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メイド・レヴォリューション!(仮)

第1回
第2弾


1

カラカラ……、カラカラ……

人気のない館の天気の良い朝―――
1人のメイドが朝食を台車に乗せて歩いていた。
その時、ふと歩いていた廊下の窓から、朝日に照らされた庭を眺めていたら―――

(うん、やっぱり椛(もみじ)の淹れてくれたお茶は美味しいよ)
(有難う御座います、御主人様)
(あっ!!、また御主人様って言う……)
(こればかりは……御許しを)
(……そうだ!!僕こと鷹崎陵が木ノ下椛に命じる。僕のことを名前で呼べ!!……これならどお?)
(!!……わ、わかりました、陵様)




「ふふっ……でへへ」

数年前、庭でお茶を嗜んでいた時のことを思い出してつい笑みがこぼれていた。

陵の両親は飛行機事故で亡くなり、ただ一人残った陵は財産目当ての親戚に殺されかけて、
車椅子が欠かせない体になってしまった。
だが、弁護士が預かっていた遺書が残っていてそれによると

「財産は陵が18歳になるまでは後見人の林田橡(はやしだくぬぎ)が預かり、
  18歳になったら陵に相続する」

と書いてあった。
後見人になった橡は、屋敷で働いていた使用人、自称親戚などを全て屋敷から解雇、
もしくは追い出してしまい今、この屋敷にいるのは

当主の鷹崎陵(たかざきりょう)
後見人の林田橡(はやしだくぬぎ)
お世話をしている木ノ下椛(きのしたもみじ)

の三人だけだった。
唯、今の現状は椛からしたら不満があった。

橡の奴、屋敷にいた人間を追い出す所まではいいんだけど、陵様を独占してるのは許せないわ!!
奴にしたらこの屋敷を陵様と自分だけが住むパラダイスにしたかったんだろうけど、残念だったわね。
ああ、今思い出しても私が屋敷に残るって聞いた時の奴の表情は最高だったわ。
後は、奴を…………っと考え事していたら着いちゃったわ。

「食堂」と書かれた扉の前に立つと、一呼吸置き扉をノックした。

コンコンッ

「御主人様、朝食を―――」
「入りなさい」

椛が言い終わる前に、扉の中から抑制の無い冷たい声が響いた。

ちっ、やっぱりいやがったか

「失礼します」

扉を開けて、中に入ると大きいテーブルの前に車椅子に乗った慈愛に満ちた目で椛を見ている陵と
まるで前世からの宿敵を見るかの如く、憎しみが満ち溢れている目で睨んでいた橡がいた。

ま、アンタとだったら前世どころか2,3世代前でも敵同士だったろうな。

「遅かったね椛さん。僕お腹空いちゃったよ」
「まったく、何処でサボってたんだか……早く準備しなさい!!」

うるさいわね、料理も出来ない木偶の坊は黙ってろよ

台車から、二人分のトースト、スープ、デザートなどを手際よくテーブルに並べて
朝食の準備を終えた。

「それでは終わりましたらお呼び下さい」
「うん!!ありがとう椛さん!!」

ああん、陵様貴方のその言葉だけで私は……私は……

「ちょっと!!終わったらさっさと出て行きなさい!!」

てめえ……人の幸せな気分を邪魔しやがって!!
私の特製スープをよ〜〜く味わいやがれ!!
くっくっくっ……




「ご主人様、あまりメイドを甘やかさないほうが宜しいかと思いますが……」
「橡さん」

普段は温厚な陵が少しだけ怒りの篭った声で

「椛さんは確かにメイドだけど、その前に僕の大切な家族なんだ。そんなふうに悪く言わないでよ」
「…………失礼致しました」

必死に怒りを隠していた橡だったが、硬く握った拳が全てを物語っていた

「それでは朝食にしましょう。いただきます」

何でアイツの作った朝食なんか食わなきゃいけないんだか……
全ての使用人を解雇した時、アイツは一番に候補に上げたのにご主人様が
「椛さんはダメ!!」って言うもんだから……くそ!!
炊事洗濯など家事は完璧なんだけど、アイツのご主人様を見る目は普通じゃないわ
多分ご主人様が相続する財産が目的ね。
あんな財産目当ての女に騙されないようにご主人様にも忠告しないと……
私が……私だけが……この世で只一人ご主人様を守り、愛し、添い遂げるんです!!

何時もの様に食事を進めていた橡だったが、急にお腹に異変をきたした。

……うん?あれ?何かお腹が……うううううう、こ、これは?!

「橡さん?どうしたんですか?青ざめた顔でお腹を押さえて……」
「う、う、いえ、何でもありません。私、ちょっと用事を思い出し―――」

ぎゅるるるる

「はうううううう?!し、失礼します!!!!」

バタン!!

何故かお腹とお尻を押さえて橡は、部屋を飛び出していった。

「何時もは躾に厳しい橡さんが……食事中に部屋を出て行くなんて……」

くっそ―――――!!あ、あいつ一服盛ったわね!!
貴重なご主人様との語らいの時間を邪魔しやがって!!
ト、トイレまでも、もう少し―――

全速力で走れずに、お尻を押さえながら小走りでトイレまで到着した橡。
だがそのトイレ入り口に―――

「故障中に付き使用禁止」

膝から崩れ落ちた橡は、全てを開放した……






―――とある夜―――

スケスケのネグリジェを着て、椛は一路陵の部屋にスキップしながら向かっていた。

多分今頃一人寂しく夜鳴きしてるかもね。
まだ小さいころは夜一人で寝てると、突然起きてわんわん泣いてたっけな……
そのたんびに陵様と一緒に添い寝して落ち着かせてたわね。
寝付くと、何故かオッパイを吸う仕草をしていたから私のを口に当てたら
赤ちゃんのように吸ってたのは可愛かったわーー。
早く母乳が出るように陵様に協力してもらおうかしら。

暗闇の廊下を歩いていたら、陵の部屋までもう少しという所で、突然空気を切り裂く音と共に、
顔面を何かが掠っていった。

「!!!!!………あと半歩踏み出していたら、脳天に突き刺さっていたわね」

横の壁を見てみると、投擲された日本刀が深々と刺さっていた。

「全く……夜更かしは肌に悪いのよ、あ、もう気にする歳でもないか」
「まだ30未満よ!!」

椛の挑発に乗せられて、暗闇から橡がスーツ姿で出てきた。

「現れたわね、関東平野」
「だ、だれが関東平野よ!!やっとバストが70超えたんだから!!って違う!!」

肩でゼーハー、ゼーハーと息をしている橡に椛はさらに追い討ちを掛けた。

「大体アンタ、こないだトイレの前でピーーしたわね。後始末する身にもなりなさいよ」
「あ、あんた何で知ってるの?!」

あらあら、うろたえちゃってーー、かーーわいいーーププッ

「私は何でも知ってるのよ。そ・れ・に貴方放心状態でフラフラとどっかに行っちゃったから
  気付いてなかったようだけど、私、運が良いことにあの時デジカメ持ってたのよねーー」
「!!!!!!!まままま、まさか?!で、でもあれはアンタがーーーーー」
「あ、そろそろ陵……っとご主人様と添い寝しなくちゃ。じゃ〜〜ね〜〜」

廊下の奥に椛が消えて行くのを黙って見ていた橡は、壁に刺さった日本刀を抜き、強く握って

何時までも調子乗ってんじゃないわよ椛!!必ずこの刀の錆びにしてやる!!!
月夜の夜に月明かりを反射した刀は、橡の気持ちに反応するかのように不気味に光っていた

2007/03/03 完結

 

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