「……なぁくん……」
暗闇の中、隣で眠る愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい弟に呼びかける。
返事は無く、なぁくんは穏やかな寝息を洩らし続けている。
暗闇に慣れた目で、なぁくんを見つめる。
寝てるなぁくんってばかわいいな……
そう思うと、自然と緩んだ笑顔になってしまう。
夢を見ているのか、時々震える睫。
どんな夢を見ているのかな?
勿論、お姉ちゃんの夢だよね?
もし、他の女の子の夢なんて見てたら……メッ!だよ?
「……ん、姉さん……zzz……」
な、なぁくんが呼んでくれた!!!
お姉ちゃんの夢、ちゃんと見てるんだ!!!
嬉しい!!!
喜びの余り、なぁくんを襲っちゃいそうになった。
ダメ、だめ!初めてはなぁくんから優しくして貰うんだ!
は、初めての時は、なぁくんから沢山キスしてもらって、沢山愛してるって言ってもらって、
沢山せ、精液を注いでもらうの。
それでね、子供が出来て、ずぅぅぅっと、ずぅぅぅっと仲良し家族で暮らすの。
そんな甘美な妄想をしているだけで、体は完全に発情してしまった。
「……ハァ、ハァ……なぁくん……」
ダメ、こんなはしたない事。
でも、我慢できない!
服を脱ぎ捨て、なぁくんに跨り、体をなぁくんに擦り付ける。
「あ、あ……なぁくぅん!」
こ、声が漏れちゃう!
なぁくんに聞かれたら……。
その緊張感がより興奮を高める。
「あ、あ、な、なぁくぅん」
腰がかってに動いちゃう!!!
なぁくんの腰にすり付けていた腰が前後し始める。
「お、お姉ちゃん、い、イッちゃ、イっちゃうよぅ!!!」
腰の動きが段々早くなってきた。
「……ん、んぅ……zzz……」
その時、なぁくんがいきなり寝返りをうった。
「ん、んくぅぅぅ!!!」
寝返りをうったなぁくんの腕が、偶然胸の突起を擦った。
その刺激がきっかけで、今まで堪えていた絶頂が一気に溢れ出した。
腰がビクビクと震えて、口からは涎が垂れた。
しばらくして、快感が収まり、なぁくんの横に倒れ込む。
なぁくんにイカされちゃった……。
その幸せを噛み締めながら、眠りに就いた。
ジリリリリリ!!!
目覚ましが鳴ってる。
目を閉じたまま、目覚ましを手探りで止める。
あ、朝か……。
性欲との戦いに勝って、眠りについたんだっけ……。
ゆっくりと瞼を開くと目の前に広がる肌色の……肌色!?
驚いて飛び起きると────
「んぅ……なぁくん……?」
そこには、裸の姉さんが居た。
「────っ!!!姉さん!!!」
「ふぇ?なぁくんどうしたの?」
「いいから早く服来て!!!」
何故かベッドの下に落ちているパジャマを渡して、部屋を出る。
全く、姉さんの脱ぎ癖には困ったものだ。
いくら姉さんだからって、その、裸を見せられると……
下半身に張ったテントがいつもより大きくなっちゃうよ……。
姉さんに興奮するなんて……、と浅ましい自分を戒めながらリビングへと向かう。
しばらくテレビを見て待っていると、姉さんが降りてきた。
「あ……ご、ごめんね?なぁくん…」
そ、そんなうるうるした瞳で上目遣いされたら怒れないよ……。
「怒ってないよ、ただ、寝てる間に裸になる癖、直さないとね?」
「うん……あ、朝ご飯作っちゃうね!」
そう言って、キッチンへと向かう姉さん。
その間に着替えとこうと思って、部屋に戻る。
ズボンを脱ごうとすると、何だか湿ってた。
顔にも涎のあとが有った。
よっぽど熟睡したのだろうか、ぼくは?
着替え終えて、リビングへ向かうと朝食の用意も丁度終わったようだった。
「あっ、なぁくんご飯出来たよ!」
「あ、今日は鯵の干物?」
「うん、安かったし」
やっぱ朝は和食だ!
「じゃ、行ってくるね〜」
「行ってらっしゃーい!」
瞬く間に朝食を終えた僕は家を出た。
玄関のドアを開けると、丁度隣から霞が出てきた。
「おはよう」
「お、おはよう」
挨拶もそこそこに僕らは歩き出した。
ただ黙って歩き続ける。
朝独特の静けさも合わさって、まるで世界に二人だけのようだ。
好きだな、こんな感じ。
霞も僕も、元々あんまり喋らない方だ。
だから、こんな沈黙は嫌いじゃない。
黙々と歩き続ける事二十分ほどで学校に着いた。
教室へ入ると、大体半分位の生徒が揃っていた。
友達と挨拶を交わしながら自分の席に座る。
窓側の後ろから二番目が僕の席だ。
霞はそのすぐ後ろ。
みんな、何で僕らが一緒に登校していることに対して何も言わないのかと言うと、
入学してからずっと続けていて、いい加減つっこむのもめんどくさくなったのだろう。
僕はどうして一緒に登校するのか、と聞かれても、これが僕らの当たり前だから、としか答えない。
霞に至っては、常に近寄りがたいオーラを纏っていて(友人談)、
聞いても一睨みされて、後は無視するからだ。
いくらなんでも、反応がこれだけしかないのだから、みんな飽きるだろう。
席に着いて友達と話していると、教室の戸が開けられ、
うちの担任───外道(そとみち)先生がやって来た。
外道先生は中年のオヤジで、常に脂ぎった頭とギラついた目を光らせている。
ホームルームが終わって、外道先生が出ていった。
「おい尚!見たか?」
いきなり隣から話しかけてきたのは、華山 和人、僕の男友達の中では一番仲がいい友達だ。
「何が?」
「バカ、見なかったのか?ゲドウのケツ!」
ゲドウとは外道先生の通称である。
「ゲドウのケツがどうしたの?」
「ズボンが破けてて、中からパンツが見えて、それが何とイチゴ柄だったのよ!」
ブハハ、と豪快に笑いながらバシバシ肩を叩いてくる。
ギロリと霞が和人を睨むと、ヒッと呻いて笑うのを止めた。
そうこうしている内に授業が始まった。
一限は……英語か。
英語担当教諭のおばさんのとても流暢とは言い難い英語を聞いていると、睡魔が襲ってきた。
どうやら性欲との戦いの疲れがまだ残っていたようだ。
僕は素直に睡魔に負けて、眠りの世界へと突入した。
「うわー!コイツの目の色変だ!!!」
「わーきもちわるー!!!」
「お前なんかどっか行けー!」
「……ヒック……グスッ……」
公園で女の子が石を投げられてる。
あぁ、小学校低学年ぐらいの記憶かな。
この頃、周りのみんなは霞を目の色が違うからと言って、虐めていたんだ。
僕はそれが許せなくって───
「バカ!!!霞をいじめるな!!!」
何て霞の前によく飛び出してた。
で、結局────
「ソイツの味方するお前もきもちわるー!」
「バーカ!」
ガスっ
「う、う、うわぁぁぁん!」
って泣かされるんだ。
改めて見るとカッコ悪いなぁ僕。
そんでもって────
「あんた達ぶっ飛ばす!!!」
って鉄バットを持った霞がいじめっ子を追っ払うんだ。
「ヒック、か、霞ぃだいじょうぶ?」
「う、うん、う、うわぁぁぁん!」
泣きながらも霞を慰める僕。
ここは余り今と変わってないなぁ。
確かこのあと、うちに帰って両親に心配されたりして────「尚!!!」
「うわぁ!!!」
がばり、と突っ伏していた机から飛び起きる。
「な、なんだ、和人か……」
「なんだとはなんだ、それはそうともうお昼なんだけど、よく寝てたなぁ、お前」
お、お昼!?
時計を見ると、確かに十二時の半ばを過ぎたぐらいだった。
「な、何で起こしてくれなかったのさ!」
「いや、俺は起こそうとしたんだけど……宮川が起こすなって……」
慌てて後ろを向く。
「霞、ほんと?」
無言で頷く霞。
「せ、先生とかは何も言わなかったの?」
「それが……」
横目で霞を見る和人。
「何かしたの霞?」
「べつに……ちょっと睨んだだけ」
か、霞……それは授業妨害だよ……
いくら教師と言えど霞に睨まれては何も言えなくなってしまうだろう。
「あぁ……期末も近いのにどうすれば……」
「……尚、これ……」
霞が渡してきたのは午前中の授業のノートだった。
「ありがとう霞!」
「……ん……」
照れくさそうに頭を掻く霞。
ほんのりピンク色に染まった頬が可愛い。
「へぇ……宮川って意外と真面目なんだな……あっ!!!」
言ってから口に手を当てしまったと言うような顔をする和人。
「…………」
無言でそっぽを向く霞。
「ご、ゴメン……」
「霞、ご飯食べにいこうか!」
微妙に気まずい空気を払拭するように、霞を食事に誘った。
食事って言っても、ただ生徒会室でお弁当食べるだけなんだけどね。
あ、ちなみに僕は生徒会長なんだ。肩書きだけみたいなもんだけど。
まぁ詳しい話はまた今度。
「うん」
和人に気にすることないよ、と言い肩を叩いて、霞を引き連れ教室を出た。
「はい」
生徒会室に着いて、霞からお弁当を渡される。
なんで僕が霞からお弁当を受け取っているかと言うと、
姉さんに負担を掛けないように、昼食は購買で済ませていたら、
霞がお弁当を作ってきてくれると言うので、去年から霞に頼んでいる。
僕はそれで浮いた昼食代を飲み物に回したり、出来るだけ霞に還元している。
「ありがと」
「うん……」
ただお礼を言っただけなのに、頬を染める霞。
何だかそわそわしてるなぁ……
「ふぅ、美味しかった」
「お粗末様でした」
霞が作ってきたお弁当は最高だった。
様々な工夫や、色の取り合わせ、栄養にまで気を配ったお弁当だった。
それにしても、霞も料理が上手くなったもんだ。
一年前までは冷凍食品だらけだったのに……成長したなぁ。
「はい、お茶」
「ありがと尚」
昼食後の一服───と言っても、煙草じゃなくて生徒会室に来るとき買ってきたお茶───
を楽しんでいる時、誰かが入ってきた。
「はぁっはぁっ、やっと、見つけた!」
息を荒くしながら生徒会室に入ってきたのは、生徒会担当の先生、加治 姫子(かじひめこ)先生だった。
「先生、そんなに急いでどうしたんですか?」
僕は姫子先生の様子に驚きながらそう尋ねた。
「どーしたもこーしたも……兎に角、ついて来て!!!」
姫子先生はそう言うと、僕と霞の手を掴んで、走り出した。
姫子先生はサッパリとした感じの美人な先生で、その姫子先生に手を掴まれちょっとドキッとした。
その直後、なぜか霞にお尻を抓られた。一体僕が何したって言うんだよ……。
そのまま僕達は姫子先生に引っ張られながら生徒会室を後にした。 |