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双炎

第1話


1

 御館様の様子がどうもおかしい。月に一度は必ず、寝込んでしまわれる。
また、私に対しても、微笑んでおられたかとおもえば、つまらぬ事を酷く叱責されたり、
昨日などお目見えに伺っても某だけが拒まれる。
これでも、童のころは乳兄弟としてお側に侍り、子犬の様にじゃれていたのに。
先月、サキの御館様が亡くなって、炎様が跡を継いでからはずっとこの調子である。
  だが、問題なのはそれだけではない。まれに、御館様が某を妙な目で見ておられることがある。
某はあの目をみたことがある。同僚で衆道という噂の有る者が某をみる目と全く同じだ。
御館様と某はいわゆる義兄弟の関係にはないが、
御館様が望むならば仕える身としてはそれもかまわぬ。
御館様が叱責されたのもヘンネシだったのかもしれぬ。
そういえば、叱責の前に同僚と談笑していたのを、お目にしたのかもしれぬ。
  御館様も、来月には、北の方を迎える方である。その熱もすぐに醒めるであろう。

 

その御館様から今日はお側へ参るようにとのお声がかかった。少し躊躇したが、
参らぬわけにも行かぬ。屋敷をでてから、御館様との子供時代が頭をよぎる。
気づけば、控えの間まできていた。
一見では女子にも見える小姓が呼びに来る。
この小姓も御館様にかわいがられているのかと思えば、複雑である。
お目見えの間ではなく、御寝の間に通され、待つ。この御館様からして変なのである。
元服はとうにすぎ、跡を継がれても、髷はゆわず総髪のままなのである。
また、そのお身体は華奢で、お顔も男とは思えぬ程の美貌で、
その気のない某も色気を感じたことがあるのも事実だ。
この御館様が戦場では鬼炎と呼ばれているのである。その美しい顔を隠すため鬼をかたどった
面のついた兜をかぶり、人間無骨という銘を彫った愛用の槍で、
馬上から敵兵を芋の様に串刺しにするのである。
「典馬よ」
御館様からお声がかかり、いらっしゃったのに気づき慌てて平伏する。
「よいよい、そちとわしの仲じゃ。それよりも今日は頼みがあって呼んだ。その前に、」
御館様は小姓に目をやり下がらせる。やはりそういうことか、妙な汗をかく。

2007/01/22 To be continued.....

 

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