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サマー・オブ・ラブ

第1回


1

僕は一人で屋上にあるベンチに座り、青い空を見上げる。
雲一つない青空は、手を伸ばせば届きそうなほど澄んでいる。
自由に空を飛べればどれだけ幸せだろうと考えていると、
「ご飯、一緒に」
か細い声が隣から聞こえる。
振り向くと、幼馴染みの一人である刹那が座っていた。
小学生高学年と間違われる身体と無表情だけど可愛らしい顔。
その白くて小さな手にはお弁当を二人分持っていた。
「今日はみんな用事があるから」
姉様も?って聞くと、こくんと頷く。
「生徒会の仕事」
大変だねって言うと、そうだねって呟いた。
刹那からお弁当を受け取り中を開く。
もう一人の幼馴染みが毎朝早くに作ってくれるお弁当。
美味しいし、健康の事を考えて創意工夫してくれるのは嬉しいんだけど、
ご飯にLOVEは止めてほしい。
だってそれを見る刹那の目が毎回怖いから。
「私も料理覚えようかな」
ぼそりと呟いた刹那の言葉に、身体の動きが止まってしまう。
以前、僕の為にと料理を作ってくれた事があった。
出来上がった料理らしき物体は、外道スライム今後ともよろしくってものでした。
だからあれほど注意したんです。
妖神グルメは教科書にはならないと。
僕は人間であって、邪神クトゥルーの眷属ではありません。
本当に勘弁してくださいと土下座しました。
幼い頃に異常者に殺されかかりましたが、この時ほど命が危ういと感じた事はありません。
そう、と刹那の悲しげな声を聞くのは大変心苦しいですが、まだ死にたくないです。

会話らしい会話もなく、僕と刹那はお弁当を食べ終わる。
いつもの様にお弁当を片付けると、刹那は鞄から一冊の本を取り出した。
愛蔵版女神転生。
僕も好きなんですが、小声で「私が礼子だったらいいのに」と呟くのも勘弁してください。
嫉妬深いアマテラスを制御できる自信はありませんから。

本を読む刹那の横顔を見る。
可愛らしい顔。
漆黒の髪と雪のように白い肌。
身長の関係で特注の制服を着ている彼女は百人中百人が認める美少女だ。
僕のような人間と拘るべきではない。
なのに彼女は「貴方と姉様がいればいい」と言う。
それが僕にはとても悲しい。
刹那に友達ができるように姉様に相談しよう。
学園一の才女である姉様ならいいアイディアがあるはずだ。

僕はその時気がつくべきだった。
本を読んでいた刹那の顔がこちらを向いていた事を。
その目に暗い炎が宿っていた事を。
彼女が一番独占欲が強い事を。

2006/10/27 To be continued.....

 

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