・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いってえ。
彰人は、目を覚ました。
そこは自分の部屋。
にもかかわらず、1週間前までの眺めとは全く違って見える、寒々とした空間。
―――――1週間?
壁掛けの時計が叩き割られ、窓のカーテンはテープで固定され、時間の感覚が無くなって大分立つ。
あれから何日たつのかも彼にはもはや把握できない。
縛られっぱなしの両手の感覚もそろそろ無くなりつつある。後ろ手だから見えないが、
さぞや見るも無残な紫色に変化していることだろう。
「―――――うっ・・・・・・・・・!」
身体を動かすと全身の骨が軋みを上げる。無理も無い。この体勢に縛り上げられてから
一体何十時間経過したのだろう?
ふと自分の身体に眼をやると、全身の痣の上から更に新しい痣が腫れあがっているのが見える。
昨日受けた『お仕置き』の傷痕だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彰美(あけみ)のやつもやってくれるよな・・・・・・・・。
彰人は、ここにいない妹の、まだ幼さの残る容貌を思い浮かべながら、僅かに苦笑した。
あの大人しい、未だに初見の人間には人見知りのクセすら残っている妹が、よくもまあ、
ここまでの暴力を実の兄に振るえるものだ。
実際、彼の全身は今、打撲による発熱で燃えるような熱を持っていた。そう思った瞬間に、
彰人は自分が焼けつくような喉の渇きに見舞われている事に気付いた。
「・・・・・・・・・おーい、いるのか? いるんだろ?・・・・・・・・・・・・・のど、渇いたんだよ・・・・・・」
もう声すらまともに出ない。ひゅーひゅーという音とともに、ようやく彰人はそれだけの言葉を
硬く閉ざされた扉に向かって放つ。返事は返ってこない。だが油断は出来ない。
部屋のカメラで、彼の渇きに苦しむ様を眺めているだけかも知れないからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・頼むよ・・・・・・・・・いるんだろ・・・・・・・・・・・喉が渇いて死にそうなんだ・・・・・・・・・・・・・・・・
頼むよ・・・・・・・・・」
この老人のようにひび割れた声が、かつて大学の劇団で看板俳優の座にあった自分の声だとは、
監禁以前の彰人なら、例えテープで実際に聞かされても信じなかっただろう。
彰人は芋虫のように這いずりながらドアに近付く。全身に刻まれた打撲傷が、
畳にこすれて激痛を発する。だが、それでも、動くのを止めるわけにはいかない。
――――――――要求は、可能な限り卑屈に。ブザマに。惨めったらしく。
サディズムの権化のようになった妹を動かす手っ取り早い方法は二つ。して欲しい事を
敢えて全身で拒絶する『饅頭怖い』方式。そしてもう一つが、この『土下座外交』方式。
どちらをチョイスするかは、勿論その場の空気や流れ次第だが、そいつを読み違えると結構ヤバイ。
しかし彰人には、そこいら辺の自信はまだあった。何と言っても妹をここまで追い込んだのは
自分自身だからだ。
―――――――数分と待つ事無くドアは開いた。廊下の照明が逆光になって、地べたの彰人には
妹の表情を窺うことが出来ない。厳しいのはここからだ。今日のこいつはどっちだ!?
「―――――――全く、ホント辛抱が足りない男ね。そんなだらしないオス豚に、
あたしと結婚する資格があると思ってるの?」
・・・・・・・・・・・やばい、『まひる』だ・・・・・・・・・・そろそろ『彰美』に変わる頃のはずなのに!
「彰人、やっぱりお前は、まだまだ鍛え直す必要がありそうね・・・・・・・・!」
『まひる』は、彰人の髪を掴んで部屋の中央まで引きずると、嬉しそうに呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・いつの頃からか、妹にもう一人の人格が現れるようになった。
『まひる』・・・・・・・・・・・彰人の幼馴染みと同じ名を持つこの人格は、とんでもなく凶暴で、
とんでもなく我儘で、そして、とんでもなく魅力的だった。おそらくは、当の幼馴染み本人以上に。
「そんなに飲みたきゃ飲ませてあげる。ただし、こっちの口からね・・・・・・・・・・!」
そう言いながら『まひる』は、切れるような笑顔を浮かべながら、その手に持った小道具を
彰人に見せつけた。――――――浣腸器と1・5Lのコーラのペットボトルを。
「ひいいっ!!」
「喉が渇いたんでしょう? お望みどおりタップリ振舞ってあげるわ」
『まひる』は散らかった部屋から洗面器を拾い上げると、なみなみとコーラを注ぎ込んだ。
シュワーっという炭酸の音が、死神の笛のように聞こえる。
「美味しいよぉ・・・・・・・・・ちゃーんと味わってね、だ・ん・な・さ・ま」
その瞬間、うつ伏せに引っくり返された彰人の肛門から、氷のように冷たい液体が注入された。
「あああああああああああ!!!!!!!」
「ほーら、おかわり、おかわり」
『まひる』は一気に彰人のアナルにコーラを注ぎ込むと間髪入れずに、
洗面器から次弾の装填を完了させ、また彼の体内に送り込む。
そうやって、瞬く間に1・5Lのコーラは全て彰人の腹腔内に納まってしまった。
ただし、通常の手段とは全く逆の手順で。
「あああああああ・・・・・・・・・・・・・・・いたい・・・・・・・・・おなかいたいよう・・・・・・・・」
「そう・・・・・・・・・・・よかったわね」
妊婦のように膨らんだ彰人の腹部を見つめながら『まひる』がうっとりと呟く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは贖罪だ。彰人は地獄の苦悶の中でそう思う。
まひるが死んだ事を彰美の所為にし、無言でなじり続けたその罪。当然受けねばならない罰。
「・・・・・・・・・・・お願いです・・・・・・・・・トイレに・・・・・・・・・トイレに・・・・・・・・行かせて下さい・・・・・・・・・・・」
「い〜や」
歌うようにそう言うと、彼女はガサガサと透明の大型ビニールのゴミ袋を取り出し、
凄艶な笑顔を彼に向けた。
「これな〜んだ?」
「・・・・・・・・・・・・なっ、何・・・・・・・・・??」
彰人の腹腔内は、もはやマグニチュード6クラスの激震が続き、その激痛は彼から
尋常な思考力を奪っている。
当然と言えば当然だ。何しろコーラを直腸に注入されたのだ。
「正解したら、トイレを使わせてあげる」
それだけ言うと、彼女は彰人の背後から覆い被さり、アナルに中指と人差し指を一気に挿入した。
「ぎあああああああああああ!!!!!!!」
その激痛にコンマ数秒、彰人は意識を失ったようだ。瞬間、眼球が裏返り、奥歯が舌を噛む。
排便を堪えようと踏ん張る括約筋の中に、一気に指を二本も突き立てられ、
脳に高圧電流のような衝撃が走る。
「あああああああああああああ!!!!!!!!!ああああああああ!!!!!!!!」
一週間にわたる監禁生活で全身綿のようになっているはずなのに、まだこんな大声を出せる体力が
残っていた自分に、彰人自身驚く余裕すらない。そして『まひる』はと言えば、
キュッと指を締め付ける眼前の男の括約筋に、残忍な光ををたたえて見下ろす。
「ほ〜ら早く言わないと、この薄汚れた部屋が更に汚れる事になるよ〜。
――――オス豚のビチグソでねぇ・・・・・・・・・・!」
そう言いながら彼女は、彰人の前立腺にまで中指を這わせ、そのまま耳元で囁いた。
「それとも・・・・・・・・・・・・このまま出しちゃうかい・・・・・・・・・・・・?」
「まっ!まひるぅぅ!!!!」
「あたしはいいんだよ・・・・・・・・・・・別にどっちでもさ・・・・・・・・・・・」 |