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月夜の華

第1回 第2回 第3回
   


1

 私には幼馴染、最近になって恋人へと関係を変えた人がいる
  南雲和地・・・・スポーツ万能容姿端麗
  少女マンガに出てきても可笑しくない彼を持てて幸せなはずなのだけ・・・・ど!
  一つ、彼には欠点がある、それは・・・・
「どわ!」
  私が少し近づくと彼は私が近づいた分だけ私との距離を開けた
  1m、近くて遠いその距離を私は毎日のように歯がゆく思っていた
  彼の欠点それは、女性恐怖症・・・・女の人に触られただけで失神してしまうほどにそれは酷い
  理由は・・・・解らない
  でも小さい頃はそうではなかった、なにか理由があったんだ
  その理由を聞いても彼がはぐらかすだけ
  そして、少しは縮まったと思った距離も彼の女性恐怖症を境に途方もない距離に変わってしまった
  そんなある日私は賭けに出た
「あなたが私以上に好きな人が出来るまででいいから、付き合ってくれないかな」
  断られる、そう思った瞬間だった、彼は二つ返事で告白を受けてくれた
  け・・・・ど!
  和地の女性恐怖症は相も変わらず、なのだ・・・・はぁ
  そりゃ、ため息も付きたくなるよ

 そんなこんなで今日も退屈でしかない日常が始まる
  けれども今日は少し違った
  転校生が来る、普段とは違う刺激を受けクラスが歓喜している
  まぁ、私にはあまり関係ない話だ
  担任が教室に入ってきた瞬間、クラスがさらに沸いた
「な、あぁぁぁ―――――!!!!!」
  その姿を見た瞬間私ははしたなく大声を上げて担任と共に転校生を指差した
「な、おい!優華どうしたんだよいきなり、大声上げて・・・・」
  和地が両手で耳を覆い私の奇声をシャットアウトしながらそう言ってきた
  けれどもそれどころではなかった、教壇に立ちにこやかに笑んでいたのは私の親友の月夜だった
「あれれ〜、大声出しちゃって、はしたないな〜」
  アニメ声が私に向けられる、瞬間クラスの男が沸き涙した
「おお!女神だ!この学校に二人目の女神が舞い降りた!」
  口々に二代目の女神が誕生しらことを喜んでいる
  月夜はおどけて見せると私の元に・・・・
「あれ?」
  私をすり抜け後ろの席の和地のほうへと歩みを進めた
「リアルで逢うのは初めてだね、アラトさん♪」
  アラト?なにそれ?この人の名前は和地なのに・・・・なにを言ってるの?
「キミ、誰・・・・?」
  知らなくて当然か、とばかりに月夜はため息を付くと前かがみになり和地と目線を合わせた
「月夜を逆にしてみてよ」
「夜月?ヨズキ!?」
  な、なに?まったく付いていけないんだけど
「おぉ〜、ようやく解ってくれたのね〜」
  月夜は嬉しそうに和地の首に手を回し思い切りに抱きついた
「な!」
  胸がもやもたした、明らかに嫉妬だ、けれども彼には女性恐怖症がある
  すぐに発作を起こして拒絶を・・・・
「―――――あわわ」
  自分でも信じられないといった感じで戸惑う和地
  なぜに?そうなるのですか?
  私は嫉妬に任せて二人を無理やりに引き離した
「ああ〜、リアルでのめぐり逢いを二人で抱擁という形で喜んでいたのに!!!」
  不満げな声を出し、月夜は私を可愛らしく睨んだ
「・・・・」
  収まらない、モヤモヤも嫉妬も・・・・
  この子は私がしたくて仕方のないことを平然とやってのけた
  親友とはいえ、許せなかった

2

「ネトゲ?なにそれ――――?」
「ああ、ネットに対応したゲームだよ、そこで知り合ったんだ」
  放課後、優華がしつこく月夜との関係を聞いてきた
  最初は軽く流すつもりでいたけど、最後には根負けし結局話してしまった
「はぁ〜ん、ほぉ〜、ふぅ〜ん、現実では女の子に指一本触れられないからネットに逃げたんだ」
  おいおい、お前も普通にチャットとかしてるじゃないか、顔も知らない―――
  もうリアルで逢っちゃったけどね、そんな相手になぜに嫉妬する
  それに俺だってお年頃だ、お前とあ〜んなことやこ〜んなことなんかをして充実した
  恋人ライフを送りたいよ
  けど、身体が拒絶する、怖いと逃げる、行くなと抑える
  俺が女性恐怖症になったのは数年前だ、理由は解らない
  数年前にと時期はわかっているのになぜ理由が解かは――――その時期の記憶が曖昧なのだ
  あれは優華の誕生日だった
  その日、俺は彼女にプレゼントを渡そうと優華の家に向かう途中だった
  急に意識がなくなり、目覚めたとき俺は女性恐怖症になっていた
  そのとき何があったのか俺にはわからない、けどあの時から俺の中の本能のようなものが訴えてくる
  女に近づくな・・・・と
  まぁ、そんなことはいいとして・・・・
「お前、穂華・・・・だろ?」
「あら、気づいていましたの?」
  時同じくして優華は二重人格となってしまった
  本人は知らない、知っているのは穂華本人と俺だけだ
「なぜにキミが?」
「心配しておりましたのよ?和地が小汚いメスブタに騙されているのではないかと」
「何度も言うようだけど、俺の恋人は優華でキミじゃない・・・・お分かり?」
  優華もそうだけど、彼女――――穂華もなぜか俺に好意的なんだよな
  それも度が過ぎるほどに
  正直な話、恋人としては間違いなく役不足な俺を好きでいてくれるのはすさまじく嬉しい の、
  だが・・・・俺が好きなのは優華であって穂華ではない

「あら、身体は同じなのですよ?それに性格だって優華よりは・・・・」
「そういうこと言うから、ダメなの」
  そう言うと優華は不満げに俯いてしまった
「あの〜?」
  泣いているのでは?逃げようとする身体を必死で引っ張り近づいて顔を覗く
「和地♪」
  不意をついた穂華が俺の頬に口付けた
  寒気と共に温もりが伝わった、身体は・・・・大丈夫、拒絶反応は示していない
「うぅ〜ん、そろそろ戻らないと優華が気づきそうなので私は戻りますね?
  あとのフォローはお願いします」
  ぺこりと頭を下げると目を閉じ一瞬よろめいた
「――――――あれ?私?」
「ああ〜、なんだまた夢遊病じゃないか?」
「え、またなの?うぅ〜、自分では意識ないからわからないよ」
  普通気づくだろうに、突然意識がなくなるんだぜ?
  それでも優華は気づかない、神様・・・・優華を天然に生んでくれてありがとう
「・・・・」
  あれ?どうした?俺の顔をジッと見て
「口紅・・・・」
  寒気がした、その視線が俺の頬一点に集中している
  さっき穂華が付けたキスマークだ、急すぎて拭くのをすっかり忘れていた
  それに、穂華の奴・・・・完全に狙ってやがる
「ああ〜、それはお前さんが付けたものですよ〜」
  完全に目が泳いでしまっているのが解る
  嘘ではない、嘘ではないのだが・・・・つうか俺の立場が微妙すぎる
  当然のこと動揺する俺に優華は疑いのまなざしを向けている
「浮気したら・・・・あんた殺して私も死ぬからね・・・・」
  していません、神に誓って・・・・
  完全に目が据わっている彼女に俺は心で念じた
  あれは浮気ではない、しかも不可抗力だ
「あはは〜、冗談がうまいな優華は」
  ガシ!俺に腕を優華の手が掴んだそれも物凄い力で――――
  身体が拒絶反応を示す、身体中から汗が流れ、内に秘めるものが逃げろと訴えてくる
「冗談だと・・・・思う?」
  優華の奴、最初こそ俺に自分より好きな人が出来るまでと言っておきながら
  俺が告白を受けた瞬間からその独占欲が爆発した
  元々俺は触れられるのがダメなだけで女性自体が嫌いではない
  声高らかというのもなんだが、女の人が大好きだ
  なので話したりするのは大丈夫、けど・・・・
  最近は俺が優華以外の女の人と会話するだけで不機嫌になり、あとでネチネチ言ってくる
  それに触れられないんだから浮気なんて出来ようもない
  まぁ、最近は度が過ぎる優華のスキンシップのおかげでだいぶマシになったな
  腕を掴まれた瞬間は拒絶を示した身体も今は落ち着いている
「いい、覚えておいて、私を捨てたら――――どうなるか」
  はい、ベタ惚れしております――――優華さま
  食い込む指を一本一本見つめ俺は心に念じた

「ただいま」
「お帰り〜♪」
  帰るなり黄色い声が俺を出迎えた
  パタパタと音を立てて今から一人の女性が出てきた
  ウェーブの掛かった髪がはらはらと舞い女性の喜びを表現した
「なんですか?この新婚家庭のようなお出迎えは」
「あら、違うの?あ・な・た♪」
  可愛らしく小首をかしげる女性
  この人は茜さん、俺の義母だ
  父の再婚相手とかそういうのではない
  正確に言えば叔母さんさんだ
  俺の両親が墓標に入ってしまったので今は茜さんが俺の面倒を見てくれている
  歳も7つしか違わないので母というよりも姉に近いかもしれない
「なにか良いことでもあったの」
「それがね〜」
  パンパカパ〜ン♪
  と、音を立て両手を広げた茜さん、身体をずらし後ろの景色を見せた
「ども、今日から同居することになった月夜です、よろしくです」
  終わった、俺の人生終わった
「なんか照れるな〜、てへり♪」
  頭の中で嫉妬に狂う優華がナイフを持って俺を追いかけてくる姿を想像し俺はそう思った

3

「これはストーカーですね」
  大きな目でパソコンのディスプレイに映し出された物を見てなんの躊躇いもなく風乃は言った
  長く艶やかな、長く黒い髪が俺の頬に触れた
  『普通』の男ならくすぐったさの中に感じる仄かな香りにノックアウトだろう
  けど、俺は世間一般で言う『普通』とは少し違う
  全身に廻る冷ややかな物に負け少し距離を取る
「・・・・・」
  その瞳には多少の怒りが伺える
  普段あまり感情を表に出さない、彼女の珍しく見せる感情
  人間離れした美貌にしばし見惚れてしまいそうになってしまう
  優華がさばさばとした美少女なら、今目の前にいる少女は純和風の美少女だ
  中学の頃、二人と一緒に出かけると嫉妬の嵐に飲み込まれそうになることがしばしばあった
  名は上島芹
  付け加えるなら超大金持ちだ
  そして、ここは俺の部屋だ、なぜそんな超絶美少女が俺の部屋にいるかと言うと・・・・
  ヨズキ、最近俺のクラスの転校してきたこれまた超絶美少女のネットでの名
  そのヨズキとのメールでのやり取りと、オンラインゲームでのログを見てもらっているのだ
  優華に相談しても良かったのだが、親友だという話しだし・・・・
  けど付き合いが長いので彼女の話をすると優華が不機嫌になるのがわかってしまう
  それに加え、優華は嫉妬深い・・・・どんな攻撃を受けるのか想像するだけで身震いする

 なので、芹に頼んだのだが・・・・
  怒っている、なぜだか・・・・怒っている
 
  話を戻そう、なぜログを見せているかと言うと・・・・・
  ヨズキは男だと言って、俺に近づいて来たからだ
  しかしリアルで逢ったヨズキは優華や芹に引けを取らない美少女
  これは戸惑わずには入れない
  そして、俺はログを見返して顔を真っ青にした
  俺はヨズキは男だと信じて疑わずに女の人には言えないようなことを何度も相談している
  もちろん、女体の神秘についても・・・・
  最後のやり取りが最近『彼女』ができたことを伝える物だった
「訴えましょ!すぐに社会的に抹消しましょう!ついでに優華とも縁をきりましょう!」
  普段大人しい子がこうも興奮しながら迫ってこられるとすさまじく怖いものがある
  顔が整っているの余計にだ
「なんで優華が出てくるんだ」
「あ、いえ・・・・つい本音が・・・・」
  本音?ま、いいか・・・・ひとまず保留だ
  今回のはただ怖くて人に話を聞いて欲しくて相談したのであって
  月夜に報復するためのものではなかったからだ
  不満げに頬を膨らませる芹をなだめて家まで送ると俺はすぐに部屋に戻り瞼を閉じた

『貴方を、私だけのものにしたい・・・・』
  またあの夢だ・・・・そして、大きな音が俺を襲う
  耳元に響くのは女の子の泣き声と近くの大人がざわめく声だけ
  暗い視界が開く

「また・・・・か」
  俺は起き上がるとなにもなかったように、制服に着替え学校に向かった

「和地〜〜〜!!!!!」
  明るい声と共に背中に重みが加わる
  ついでに柔らかな感触・・・・はわぁ〜
  いかん、いかん・・・・・
  なにをしているのだ俺は・・・・
「こら!抱きつくな!」
  例によって女性恐怖症の症状はでない、
  月夜はそれをいいことに毎日このようなスキンシップを取ってくる
「ひぃ!」
  振り返る俺の視線の先には月夜ではなく教室から無言で俺を見つめる優華の姿だった
  俺がガクガクしていると、赤い液体が彼女の身体に降りかかった
  んな!――――背筋が凍った
  ち、血か?ちょっとまった!こんなときは110番だっけ?119番?
  なんだっけ、あわわ・・・・
  あたふたする俺に優華は引きつった顔で笑むと手に持ったトマトジュースのカンを振りかぶった
  どうやら、握力だけで握りつぶしたらしい、中身が噴出すほどだから、
  完全につぶれているに違いない
  あれ?あれれ?おかしいな・・・・カンが迫ってくるよ?
  『カコーン!』と見事に俺の額に直撃するとカランカランと地面に転がった
  あんた、メジャーリーグに行けるよ・・・・はは
  『ふん!』と視線を反らす優華に俺は親指を立てた
  我ながら惚れ惚れするほどの会心の出来だったと思う

2007/03/03 To be continued.....

 

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