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スクールサバイバル

第1回


1

薄暗い闇、張り詰めた空気。
昼間の喧騒は嘘のように掻き消え、今はただ人を拒むかのような静寂が広がる校舎。
その中を、たった数人の仲間と共に、慎重に、気配を殺して進む。
「こちらウルフリーダ、各自応答せよ」
『こちらはウルフ2、周囲に敵影無し』
『こちらウルフ3、特別校舎内視聴覚室クリア』
トランシーバーからの応答に、ほっと胸を撫で下ろす。
たった12人の仲間は、依然として健在…まて、ウルフ4からの連絡が無いぞ。
「ウルフ4、応答しろウルフ4!……おい前崎っ?」
『――――ザザ―――…はぁ〜い、ご機嫌いかがかしらダーリン?』
「―――ッ!?」
一瞬の雑音の後に聞こえた女の声に、声にならない言葉。
「その声…品川かッ」
『あん、苗字で呼ぶなんてつれないんだから…でもそんな所も好きよ、和佐田君♪』
通信機の向こうから聞こえる声は、からかいと妖艶が混じった声で俺の名を呼ぶ。
なんて事だ、開始からまだ10分なのに、既にウルフ4…前田・来嶋・長谷の三名が殺られたのかッ
『待っててね、直に邪魔な雌猫と、雄犬達を駆除して…貴方を手に入れて見せるわ…うふふふふ…』
その通信を最後に、ウルフ4への通信は途絶えた。
恐らく通信機を捨てたのだろう、壊してないだろうな、借り物だぞこれ。
「どうするよ和磨、敵さん既に俺達の真下だぜ?」
仲間の松田の言葉にマスクの下で顔を歪める。
俺達が現在居るのは本校舎の二階。三階にはウルフ2、隣接する特別校舎一階にウルフ3。
ウルフ4には一階の制圧と体育館への通路の封鎖を命じていたが…予想以上に敵の進軍が早い。
このままでは前方と後方からの挟み撃ちにされるな…。
「総員、後方に注意しつつ前進、ウルフ2と合流した後、屋上から特別校舎へと移動するぞッ」
「「「了解っ!」」」
頼れるクラスメイトの声に、俺は手に持ったM4SーSystemのグリップを握り直した。
敵は足が速い、恐らく突撃装備のD組B部隊だ。品川がリーダーを務めているのだから間違いない。
まさか日野や牧原が前に来るとは考えられない。
C組の動きが気になるが、うだうだ言っていて撃たれたら洒落にもならない。
「階段前クリア、敵影無し」
「後方、敵影視認できず」
「松田はそのまま後方警戒、安部、援護しろ」
「了解!」
銃を構え、暗い階段を身を屈めたまま上り始める。
安部は俺の後方から銃を構えて追走し、階段下は浦河が見張っている。
仲間であるウルフ2が居るのは三階の西階段前のはず。
今俺達が居るのは二階中央階段。もし敵が東階段から攻めていたらウルフ2と合流する前に
接敵する事になる。

緊張感から流れ出る冷や汗を拭いつつ、なんでこうなったのかと思い返してみた……

 

事の始まりは、LHRの教師の一言からだった。

「あ〜、学園祭での出し物なんだがなぁ…カブッた、変えろ」

面倒とちょっとだけのすまなそうな顔の担任、早瀬ひよりの言葉に、クラスメイト、
特に女子が大ブーイング。
うちの学園、私立青城学園はちょっと前まで女子学園だった所。
よって全校生徒の数は圧倒的に女子が多く、俺のクラスも男子は7名。
隣のクラスの男子を含めても13名と少ない。
まぁ、元々募集人数が15人で、しかも二人辞めたしな。
二年にはクラスが4クラス存在し、A組とB組は福祉や介護専攻のクラス。
C組、俺達D組は普通コースだ。
「いったいどこのクラスとカブッたんですか、喫茶店!」
クラスの委員長こと前園 亜樹が机を叩きつつ立ち上がる。
委員長と言えば三つ編眼鏡だろうが、残念ながら前園はショートヘアーだ。
「あははは………C組」
その一言に、クラスメイト達から殺意が溢れ出す。
そう、うちのクラスと隣のC組は、仲がものごっつい悪いのだ。
正し、それは女子限定。男子は広い学園内で肩身の狭い男同士助け合って生活している。
「それで何故うちのクラスが変更せねばならないのです、先生?」
凛とした雰囲気のロングヘアー少女、波瀬 昴が仮にも担任の教師を睨みながら問いただす。
流石弓道部、視線だけで鳥も落とせそうだ。いや、弓道関係ないか。
「いや、だって書類提出したの向こうが先だしなぁ…あ、あと向こうさんからの要請で
喫茶店のウェイターとして和佐田を借りるとも言って――」

「なんですってぇぇぇぇぇっ!?!?」×23

吼えた。クラスメイト、全23人の女子が吼えた。
その声は俺の鼓膜を揺さ振り、窓ガラスを振動させる…あ、ちょっとヒビが…。
「ま、松田、確りしろ松田っ!」
「うぅ、どこだ浦河、聞こえない、お前の声が聞こえないぞ…」
「くぅ、お前、もう耳が…」
なんか松田と河浦が寸劇始めたけど女子は誰一人として見ちゃいない、哀れな。

「あの雌猫どもめ、大義名分(?)をもって和佐田君を奪うつもりねっ」
「自分達のクラスの男子が情けないからって、私の和磨君を奪うなんて許せないっ」
「って何時からアンタのモノになったのよ、和佐田はアタシのなんだからなっ」
「ちょっと皆、勝手なこと言わないで。彼は私と結婚するのよ?」
「「「「アンタが一番勝手だろっ!!」」」」
「兎に角、このままだとC組に和佐田くんが奪われちゃう、いいえ、それだけに終わらず、
あんなことや、そんなこと、あまつさえそこまで!?な事をされちゃうわ!」
「いやそれ、美佳がやりたいことじゃないの?」
「他の男子なら兎も角、彼だけは譲れないわ」
「そうね、他の男子なら死んでもどうでもいいけど、和磨だけは譲れないわ」

教室の中央に寄り集まって、なにやら話し合いを始める女子一同。
洩れてくる単語があまりにも物騒で怖いのですが。
「いやぁ、モテる男は辛いですなぁ」
「松田、いつ回復した。と言うか殺すぞお前」
「でも、和磨君モテるからねぇ…過激な女性に」
安部の言葉に何も言い返せない。
そう、何故か、何故か俺は…過激思考な女性に受けが良いらしい。
今まではまったく女性に縁が無かったが、この学園に入学して全てが変わった。
一癖も二癖もある女性ばかりのC組女子とD組女子。
二つのクラスが何故か俺を取り合い、事あるごとに争いを始める。
最近の事だと、俺と一緒にカラオケ行く為に何故か腕相撲大会が開かれた。
勝者5名とカラオケに行ったが、部屋の外、扉の窓から覗く無数の女子の姿に歌うどころじゃなかった。
色々な意味で怖かったから。

「こうなったら全面戦争よ、塵は塵に、あの雌猫どもに豚のような悲鳴を上げさせるのよっ!!」
『おお〜〜っ!!』×22

え〜、何やらまた騒動が起きるようで…この先の展開を考えると頭痛いよマジで…。
「「「「「「モテる男は辛いねぇ…羨ましくないけど」」」」」」
美人揃いの二クラス。でも変人は勘弁らしい男子クラスメイト達の言葉に
ちょっぴり殺意覚えたLHRだった。

2006/06/25 To be continued...

 

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