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冷たさの中に在るもの

第1回 第2回
 


1

「はぁはぁ、・・・・・・っクソ」

やばいやばいやばい。とんでもなくやばい!
何がやばいかと言うと、今のこの状況がやばい
何故、俺は全力で走っているのだろうか?
本当なら家でゆっくりとしていたかったのに。余りにも不条理じゃないか?

そもそもの発端は1時間前前に遡る・・・

−1時間前−

「ふぅ〜、やっと帰ってきたな」
ぐったりとした感じで、俺は空港の入り口にいた。
なんだか滅茶苦茶眠い。時差ぼけのせいだろうか。

 

俺こと「藤田康明」はそこらにいる普通の高校生である。(自分で言って泣けてくる・・)
ただ、神様は何を思ったのか俺に面白いプレゼントをしてくれた。
           
「留学してみないか?」

は?とその時は冗談かと思ったのだが、事は違った。
親父がアメリカに会社の都合で転勤になってしまったのである。
母も親父に同伴ということだったので、半ば強制だったが、俺は多少迷った末OKした。
理由は簡単である。おもしろそう、だったからだ。(当然、女性関連の事も)

それから2年後の今、俺は再び日本の空港にいる。
「お〜い。康明こっちだ」
親父がクラクションを鳴らしながら車の中でまっている。
ヨシ!懐かしの我が家へいざ帰る。

 

そして・・・、
「うわ〜、全然変わってないな〜」
2年ぶりに我が家を見たわけだが全くといって良いほど変わっていなかった。
「そりゃそうだろう。健さん達がいるんだから」
「えぇ。桃子さん達に会うのも本当に久しぶりですね」

前者は俺の親父の「藤田康介」、後者は母である「藤田明子」
お互いもう40に成ろうかというのに、未だに年中新婚夫婦状態である。
大体、俺の留学も母が親父の海外転勤に対して、
「一緒に連れて行ってくれないなら殺してやる」
という事からはじまったのだ。バカップルぶりがよくわかる。

「よぉ!康介やっと帰ってきたか!」
「アキちゃんおかえりなさい!」
さて、余談は良いとして、家に入った俺達を笑顔で迎えてくれている人達。
左から「吉川恵二」「吉川桃子」 俺の叔父・叔母だ。
俺の家はちょっと変で、二つの世帯が住んでいて、それが「藤田家」と「吉川家」である。
て、あれ誰か1人足りないような・・・。
5人で居間に入って土産などを出していたとき、
「ああ、康くん。冬なら「プルルルルr」」
突然、家の電話が鳴った。

恵二さんがすぐに電話に出た。他の3人は談笑中。
何か話してるようだが・・・え?俺に代われって?何で、誰?
そう思いながら電話を代わる。
「もしもし、どなたですか?」
「康明か?」
へ?え?女の声?って、このクールボイスはもしかして・・・、
「あの〜・・・もしかしなくても・・・・、冬姉?」
「・・・・・・・・・・・」
あれ、もしかして違ったか?
「5分後に公園」
それだけ相手は伝えると電話をきってしまった。
いや間違いなくさっきの声は冬姉だった。
叔父叔母夫婦の娘で、俺の従姉弟である女性。
そして・・・俺にとっての恐怖と畏怖の象徴。
俺は親達には何も言わずダッシュで家を出た。
記憶が正しければ公園までは走っても10分はかかってしまう。
せっかく家でゆっくりできると思ったのに・・・(涙
このときの俺は、きっとオリンピックにもでられる位の早さだった。
それ位に恐ろしいのだ・・・・冬姉は・・・。

 

そして、今に至るという訳。

2

「も、もう駄目。一歩も走れねえ。」

目の前には、真ん中に噴水のある中々に大きな公園。
時計は4:23を指している。
さっき冬姉から電話があったのは15分位だったから、

「やばいな・・・」

急いで公園の中を見渡すと、・・・・・いた。
噴水から少し離れた木の下のベンチに、彼女は座っていた。
ショートヘアで、洗いざらしのジーンズに半袖のシャツという極めてラフな格好だったが、
逆に、そのシンプルな服装が彼女の美しさを引き立たせていた。
目鼻もキリッとしていて、男の俺から見てもかっこいいと思う。
今は、よく言えばクール、悪く言えば無愛想という感じの表情である。

「・・・・・・・・・・・・・・」

は、いけないいけない。観賞している場合ではなかった。早く向こうに行かなければ。
って冬姉、何故にあなたの足元には原型のない空き缶(多分コーヒー)が何本も転がっていルノデスカ?
もしかしなくても俺のせいですか?3分の遅刻で?そうですか。
・・・・・・・それじゃ、俺は死刑宣告されたくないので帰るとしますね。
そう思って俺が足早に帰路に着こうとしたとき、

「どこに行くつもりだ?康明」

ピシッと何かがひび割れる音。
BACKをいつの間にか取られていた。
ヤバイヤバイヤバイ。今後ろを振り返ったら・・・・。
ギチギチと首が鳴っている。
それでも後ろからの威圧には耐え切れず

「もう一度言うぞ。どこに行くつもりだ?」

再度問いかけられる。
(ええい、くそ、もうどうにでも成れ!)
振り返ったその瞬間、

「ゴッ」

世界が真っ暗に反転した。

「うわあああああああああああああああ!!」

ガバ!という擬音がまさしく合うかのように、上半身を布団から起こした俺は、
大音量で絶叫していた。
「はあはあ、なんちゅう夢だよ・・」
悪夢を見ていた。それもとびっきりの。
そう、冬姉に殺されかける夢なんて・・・・。

しばらく深く呼吸をして少しは落ちついた。周りを見渡す。うん、昔のままの俺の部屋だ。
次に時計に目を向けると、針は丁度AM7:30を示していた。
「ということは、さっきのはやはり夢なんだ。」
そう思って溜め息をつく。

「ちゅる、ちゅぱ、じゅぷっ」
「うぁっ・・・・・・・・・・て、はい?」

そんな水気を含む音が、布団の中から聞こえてきた。
なんだか猛烈に嫌な予感がする。
意識が覚醒するにつれ、その違和感はむず痒いような感覚に、 そしてほのかな快感へと変化していく。
その理由を理解した俺は、いきなり布団を振り払う。

「ちゅ、じゅる、っぷは。やあ、やっと起きたか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思考停止。

「中々起きないのだから心配したぞ?まあ下の君は私に反応して
すぐに起きてくれたのだがな。」
ははは、という笑いが妙に部屋に響く。
ナニヲイッテイルンデスカコノヒトハ。
「どうした?私の顔に何かついているか?」
「えっと・・・・・、俺さ、公園で冬姉に会った後の記憶が何故か無いんだけど・・」
「ああ、そのことか。何、愛しい姉の目の前で逃亡を図った愚弟を殴って気絶させて、
仕方ないから家に連れて帰っただけだ。」
うわ〜冬姉の中では敵前逃亡=死ですか
「・・マジデスカ・・・」

それから少し話をした後、
「そんで、何で寝てる間俺のにフェラしてたわけ?」
「心外だな。愛しい弟と2年も離れていたんだぞ?
少しでも早くお前を味わいたいと思うのは当然だと思うがな。」
いえ、十分に当然ではありませんよ?冬姉。
「大体、2年前に私の処女を奪ったのはどこの誰だったかな?」
ニヤリ、という音が聞こえた。
「うう、それを言われると・・・・・」

そう。何を隠そうこの藤田康明、2年前に従姉弟の処女を奪っていたりする。
でもあれは冬姉が俺が留学するのを聞いてその晩に押しかけてきたからというか、
それで俺も冬姉を悲しませたくなかったからというか。
「・・・と、ともかくあれはちゃんと両者合意の上でとやったことなんだから、卑怯じゃないか」
「分かっているさ。そもそもなぜお前の部屋に来たのかわかっているのか?」
「え、よ、夜這い、じゃないの・・・かな?」
「まあそれが第一目的だが、もう一つはだな」
クイックイッと時計を指す。時刻はAM8:00.え〜っと8時といえば・・・。
「あ、成る程。8時ならそろそろ学校の支度をしないとやばいねっ・・ということは・・」
「ふむ。転校初日に遅刻は最悪だと思うな」
「どわ〜〜〜〜〜〜!ち、遅刻だ〜〜〜〜〜〜〜!」

彼はそう言うと急いで学校の支度をして家を出て行ってしまった。

その後姿を2階の彼の部屋の窓から見送る。そして彼の後姿が見えなくなると、
窓を閉め再びまだ彼の体温の残る布団に潜り込む。

「・・・せっかちなのは変わらないな・・・。まあ他のところは結構変わってしまっていたが」
そう言いながら、先ほどまでの口内の感触を思い出す。アレは、2年前とは比べ物にならなかった。
身長が私よりも大きくなっていたのにも驚いたが、やはり一番の驚きはアレの成長だろう。
なにせ自分を貫いたものだ。今は愛おしくさえ思える。
彼には聞きたいことが沢山あった。
向こうの学校の事。2年間の海外生活での事。
そして・・・・手紙に混じっていた一本の金髪の事。
今日の一件はその事も関わっていた。(まあ態度には出さなかったが

思い出したらなんだか無性に彼に会いたくなってきた。
今すぐにでも彼を問い詰めたい。しかし会うための口実がない。
ふと弁当と言う単語が浮かんだ。
今日は、私は大学が休みだ。
ならば、姉が弟に弁当を持っていくのは当然のことではないか。
そう思うと体が勝手に動いていた。

「よし。一仕事するとしようか」

今日はよい一日になりそうだ。

2006/06/11 To be continued....

 

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