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たった一人の…

第1話 第2話
 


1

「菜々、今日はなんか嬉しそうだね。何かあったの?」
  そんなに顔に出ていたかな。
「そう見える?」
「そう見えているから、聞いてるんじゃない。教えなさいよ。」
 
  私が今日機嫌がいい理由、それは隆太、りゅうくんがこの町に戻ってくることだ。
  私とりゅうくんは世間一般で言う幼馴染なんだけど、彼の両親が交通事故で亡くなって
  親戚に引き取られてからなかなか会えなかった。だけど、
  お姉さんがこの町の大学に進学することになって一緒にこの町に戻ってくる。
  嬉しくないはずがない。だって私は、りゅうくんのことが昔から好きだったから。
 

 今日は、部活が終わったら急いで家に帰った。二人が家に挨拶に来るらしい。
  早くりゅうくんの顔がみたい。はやる気持ちそのままに玄関を開ける。

「お母さん、りゅうくん達きた?」
「あら、そんなに慌てちゃって、りゅうくん達はまだ来てないよ。」

 な〜んだ、まだ来てないのか。お母さんにまず着替えなさいと言われて部屋にもどる。

 りゅうくんに会うの久しぶりだな、この間の冬休みに会って以来かな、早く来ないかな

「隆太、ついたよ。」
「ん…、あれ、俺寝ちゃってた?」
「ふふっ、かわいい寝顔だったよ。」
「ったく、やめてくれよ姉さん。」

 私は須藤敦子。大学進学を機会に故郷の町に戻ってきた。やっぱり生まれ育った町だから、
  弟やお父さんお母さんとの思い出のある町だから戻ってきたかった。
  叔父さん叔母さんにはもっと上の大学でもいいんじゃないかと言われたけどそんなものは関係ない。
  何より隆太が一緒について来てくれるのは嬉しかった。隆太、私の大切な弟。
  お父さんお母さんが突然死んじゃって…すごく悲しくて…そんな私を隆太は一生懸命励ましてくれた。
  自分も悲しかったのにお姉ちゃんを元気だしてと言ってくれた。
  そのときから私は、隆太を守らなきゃ、大切なたった一人の家族なんだから。
  そう思うようになった。
  だけど最近はそんな気持ちも変わりつつある。弟だけど、家族だけど…私は隆太のことが…

「…さん…姉さん!」
「えっ、何。」
「何じゃないよ、今の話聞いてた?家に行く前に藤村さんちに行くか荷物置いてから行くかどっちにするか。」
「あっ、うん…。荷物置いてから行こっか。」
 
  そのまま行ってもいいかも知れないけどもう少し二人きりでいたかった。
  藤村さんちのおじさんおばさんには、昔お世話になってたからすぐに行ってもよかったけど
  あの家には菜々ちゃんがいるから…。
 
「姉さん、大丈夫?さっきからぼけっとして。」
「うん、大丈夫だよ。相変わらず心配性ね。」
「疲れたのなら俺だけで挨拶に行ってこようか?」
「大丈夫よ!別に疲れてないし、それに…」
「姉さん?」
「ううん、なんでもないよ。ありがとね、隆太。」

 言えないよね、菜々ちゃんのいる家なんかに一人では行ってほしくないなんて。
  なにより、隆太に心配かけっぱなしだ、もっとしっかりしないと!
  そう心の中で決意を新たにして駅からバス乗り場へ向かった。

2

「りゅうくん!」
「おう、元気そうだな。」
  ああ、久しぶりにりゅうくんに会えた。会うだけでも嬉しいのにこれからは毎日会える
  なんて。まるで夢のようだ!
「久しぶりね、菜々ちゃん。」
「あっ、お久しぶりです敦子さん。」
「ふふふっ、元気そうで何よりだわ。」
  あいかわらず、りゅうくんにくっついているね。ブラコンにもほどがあるわ。
「それじゃ、早く上がってよ。私とお母さんで引っ越し祝いの料理作ったんだ!」
「おいちょっと、ひっぱんなよ。姉さんも早く上がろうぜ。」
「…うん。」
  みせつけるようにりゅうくんの手を引っ張り家に上がってもらう。あ〜あ、敦子さん
  そんな顔しちゃって。りゅうくんにまた心配かけて気を引こうとしてるの?

「いや〜、写真では見ていたけど敦子も隆太もすっかり大きくなったな。」
「そうよね〜、あんなに小さかったのに立派になっちゃって。」
  嬉しそうなおじさんたちを見て、俺も嬉しくなった。それにしてもうまいな〜料理。
「料理うまいですね、特にこのから揚げ。」
「あら、それは菜々が作ってくれたのよ。良かったねりゅうくんに褒められて。」
「おかあさん!もう…。」
「姉さんもそう思うよな。…姉さん聞いてる?」
「えっ、あっうんおいしいね。でも私はから揚げよりお味噌汁の方がおいしいかな。」
  ん…また反応が鈍い。やっぱり姉さん無理してるんじゃないかな。本当は具合悪いんじゃ…。

「それじゃ、また来ます。」
「本当にありがとうございます。わざわざおもてなししていただいて。」
「いえいえ、おそまつさまでした。それじゃ、また来てね。」
「りゅうくん、敦子さんまたね!」
  結局晩御飯を食べた後、りゅうくん達は帰ることになった。もうちょっとゆっくりして欲しかったのにな。
  まあいいや、これからいくらでもすぐに会うことができるんだから!
  問題は敦子さんね…。前から弟としてりゅうくんを見ていないんじゃないかと思ってたんだけど…。
  向こうにいた時は私がいない間のちょうどいい虫除けになったけど、はっきりいってもう
  邪魔。ただのブラコンかも知れないけど一応警戒しないとね。
  それよりりゅうくん私の作ったから揚げおいしいって言ってくれた。嬉しかったな。
  明日も何か作って持っていってあげようかな。そう思いながら私は後片付けの手伝いに向かった。

「姉さん、やっぱり具合良くないんでしょ。俺に隠さなくていいよ。さっきだってあんまりしゃべらかったし。」
「ん、ごめんね。心配かけて。でも大丈夫よ!明日は引越し業者さん来るしがんばろうね!」
「…本当に無理しないでよ。」
  ああ、やっぱり隆太は優しい。こんな優しいくていい子を手放すなんてしたくない。絶対に渡すもんか。
  菜々ちゃん、やっぱり隆太を狙ってる。昔から隆太によくなついていたし…。
「ねえ隆太。」
「なに?姉さん。」
「手、つなごっか。」
  本当は隆太の腕に抱きつきたかったけどそれはできない。隆太は私のことを姉としか思ってないだろうから…。
「どうしたんだよ、ほんと。まっ、いいけどさ。」
「ありがとね。」
  手を通じて、隆太のぬくもりが伝わってくる。
「ふふっ、照れてる?」
「…なに言ってんだよ。もうはなすよ。」
  結局家に着くまでなんだかんだ言いながら手をつないでくれた。すれ違う人には私たちはどう見えたかな。
  恋人同士に見えたかな。そう思うと少し幸せな気持ちになれる。

 今日の姉さんはやっぱりおかしい。なんかぼけっとしてる時がおおかったし、
  藤村さんちに行ったときもこっちから話題をふらないとしゃべらなかったし…。
  やっぱり明日の荷物整理は俺が頑張らないと!姉さん無理することが多いからな。
  俺がまだ頼りないからかもしれないけど・・・。
「隆太、先にお風呂に入れてくれてありがと。はいっていいよ。」
「ああ…、って姉さん!!パジャマ着てくれよ!」
  姉さんは下着だけで風呂場から出てきた。不覚にもドキドキしてしまう自分が情けない…。
「ああ、ちょっと持っていくの忘れちゃって。」
「あ〜〜、もういいからすぐに着てくれ!!。」
  はぁ…、今日は姉さんに振り回されっぱなしだな。こんなんだから頼りないって思われるのかな…。

 う〜ん、照れてる照れてる。隆太ったらやっぱり純情ね。
  まあ個人的にはこのまま私を押し倒してもらってもに構わないんだけど。
  もしかして隆太も姉さんのこと女として意識してくれてるのかな…そんなわけないよね。
  藤村さんちにいたとき、そんなに不自然だったかな。
  普通に振舞っていたつもりだけど隆太と菜々ちゃんが楽しそうに話してたり、
  隆太が菜々ちゃんの料理を褒めたりしたときはすごく嫌だった。だけど露骨には出さないようにしてたのに…。
  とにかく、向こうでも隆太には悪い虫がつかないように注意してたし今回も同じように注意すればいい。
  ほんと、向こうでは苦労したわ。隆太は素直な性格だからたぶらかそうとする泥棒猫がいっぱい
  いるんだもん。こっちでも油断はできないわ。どうしようかしら、まず学校までは一緒に登校しようかな。
  ちょうど大学に行くために電車に少し乗るから、隆太の学校は駅の通り道にあるし。うん、そうしよう!
  それでお弁当も毎日作ってあげて…。学校が始まったら忙しくなりそうだな…いろんな意味で…ね。

2006/03/09 To be continued...

 

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