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THIS IS ImouTo(仮)

第1回      


1

「おにいちゃん。浩樹おにいちゃん。起きて朝だよ。朝ですよお」
 私は、お寝坊なお兄ちゃんを毎日起こすけれど、お寝坊さんなおにいちゃんは、
 中々、起きてくれない。
「早く起きないと、遅刻しちゃうよ」
 時間は、もう7時半を回っている。夏の日差しが窓からはいってきて、少し眩しい。
 今日も暑くなりそうだ。
「うーん」
「起きないと、ベッドに入っちゃうんだから」
 これを言うと、お兄ちゃんは慌てて外にはいでる。私は、本当に一緒に入りたいんだけれど。

「はい。お弁当」
「さんきゅ、沙里菜」
おにいちゃんは、盛大にあくびをしながら、弁当箱を鞄にいれた。
朝6時に起きてつくったお弁当の中身は、お兄ちゃんの大好きなハンバーグと、たまごやきに、
プチトマト、アスパラを巻いたベーコンと、ネーブルだ。
お兄ちゃんには美味しいものを食べてほしいから、頑張ったんだ。
「いってきまーす」

 しかし、我が家を出て、お兄ちゃんの横に並ぼうとした時、ひとりの女が割り込んできた。
「おはよ。ひろ」
「おっす、由香」
夏目由香さん…… は、私のおにいちゃんの幼馴染み兼、クラスメイトで、
おにいちゃんと付き合っていると勝手に自称している。
黒い髪は腰が届くほど長くて、顔は悔しいけれど相当の美人だ。もちろん性格はサイアク、
私のおにいちゃんを横取りしようとする泥棒猫だ。
「おはよう。沙里菜ちゃん」
「おはようございます。由香さん」
しかし、不快な気分を表に出す程、私は幼稚ではない。由香さんには上っ面だけの笑顔を返す。
「ねえ。ひろ。今日はお弁当をつくってきたの」
立ち止まった由香さんが、鞄に手をのばして弁当箱を取り出そうとする。
「ん、いや、その」
おにいちゃんは困った顔をした。お兄ちゃんの鞄には、私のお弁当が入っているのだ。
由香さんから、お弁当を受け取ったら許さないんだから。

「どうしたの? ひろ」
「あ、ちょっと困ったな。実は、沙里菜がもう作ってくれたんだよ」
そこで、ふつうの女なら、露骨に眉をひそめるもんだが、由香さんは違う。
「あら、そうだったの。ごめんなさい。そうだ。お昼を一緒に食べましょう。
ヒロには私のつくったお弁当から好きなものをあげるわ」
由香さんは偽善者だ。私は、彼女のこういうところが一番嫌いだ。
「そうだな。じゃあ屋上で三人で食うか。沙里菜もそれでいいか? 」
「あっ…… う、うん、もちろんだよ」
私はおにいちゃんに、少しこわばった笑顔をみせた。

「じゃあ、またな」
昇降口でおにいちゃんと由香さんと別れる。学年が違うので、下駄箱の位置が違う。
私は、クラスメイトの幾人かと挨拶を交わしながら廊下を歩き、トイレに入る。
まだ、授業開始までには少し間がある。
鞄から由香さんを模した小さな藁人形と、五寸釘と、金槌を取り出す。
「さてと」
水洗便所の栓をひねって、水が勢いよく流れだしたことを確認してから、
五寸釘を藁人形に思いっきり打ちつける。

「ガン! ガン! ガン! 」
腕をふるって、立て続けに10回程打ちすえると、人形の心臓あたりに釘がしっかりとめり込む。
「ふう」
一息ついてから。鞄からペンチを取り出して、思いっきり釘を引き抜くと、
藁人形は便器の中に落ちる。
それから、もう一回栓をひねってやると、人形は勢いよく流れだした水に流され、
中に吸い込まれて消えた。
「さてと」
トイレでリフレッシュをした私は、スキップをしながら教室に戻っていった。

(おしまい)

2009/07/23 完結

 

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