「いつも見てるから、見守ってるから・・・私が守ってあげるから・・・」
「だから、・・・・・・・・・・・」
はっ、と目を覚ます。
「懐かしい夢みたな・・・」
そうつぶやいてボサボサの髪を手櫛で整えつつ寝起きの彼、影山(かげやま)正志(まさし)は
タバコに手を伸ばす、たいして旨くはないのだが肺に煙を入れるとなんとなく落ち着く気がする。
彼はまだ法的には喫煙が許される歳ではないのだが・・・
「眠ぃ・・・」
一服した後、一人で住むには広すぎるマンションのダイニングキッチンで彼は大きなあくびをかく。
冷蔵庫から取り出した牛乳をラッパ飲みしながら固定電話の留守電のボタンを押す。
「やっほ〜、生きてるか我愚弟よ、・・・なぁそろそろうちに来ないか?
いつまでもそっちの馬鹿親父のとこにいる必要はないじゃんよ〜。美人姉と二人暮らしなんて、
思春期の雄なら食いつかないわけないだろ〜。今ならお触りぐらいなら。プツ――」
またか、と呆れながら彼はちいさくため息を吐く。
「親父なんて一月以上顔みてねぇっつの。」
どうせ親父はほとんど家にいないんだ、それに・・・一人のほうがいい――
「そろそろ行くか・・・」身支度を終え、マンションを後にする。
彼は現役の高校生である・・・が、登校時間からはだいぶ遅れている、
しかしいつもの事なので気にはしない。
「おい・・・見ろよ。」
「相変わらず暗ぇな・・・気味悪ぃ・・・」、
「ねぇ・・・あっち行こ。」、
「この前タバコ吸ってるのみたよ・・・」
「あんなのが同じクラスなんて・・・」
―――周りから同じような反応が彼の耳に入ってくる。ちょうど休み時間に入ったようで、
廊下や教室に生徒たちが小さなグループを作って散らばっている。
周りの反応も気にせず彼は教室に入り自分の席に腰を下ろす。
それと同時に周りも各々の話題に戻っていく。
「ねぇ、明日から土日だし、みんなでどこか行こうよ。」
――ふと彼の知っている人物の声が聞こえてきた。彼は視線だけをそちらに向ける。
一際大きなグループの中心にその人物はいた。彼女の名は高杉(たかすぎ)麗(れい)
――肩まで伸ばした髪は色素が薄く茶色っぽいが絹糸のように美しく輝き、
パッチリとした瞳に、リップを塗っているわけでもないのにつややかな唇。
非常にさっぱりした性格で男女ともに人気があるクラスの中心人物。
それでいて成績優秀、運動神経抜群とまさに完璧美少女。
――そして彼、景山正志の幼馴染である。
しかし、幼馴染といっても仲が良かったのは中学の半ばまでで、
彼自身の変化や周りのゴタゴタで今ではすっかり交流はなくなっている。
『あいつは変わんねぇな・・・』
彼は心の中でつぶやく、
『昔から明るくて、みんなの中心で、やっぱり俺なんかとは・・・・』
少し昔を思い出しながら呆けていると、
「あの・・・影山君・・・」
彼の後ろからやけにビクビクした声が聞こえてきた。
「あぁ?」
ちょっとガラ悪く振り向くと、物凄く不安げな顔をしたメガネをかけた少女がいた、
『あぁ、委員長だったっけ?』
進級後の委員長決めで周りから[委員長っぽい]という理由で
半ば無理やり委員長にされた哀れな人物がいたことを思い出した。
彼女も周りの人間と変わらず彼を危険人物と認識しているらしい。
「なに?」
すこし目つきを厳しくして問いかける。
彼女はビクゥと肩を震わすと、軽く深呼吸して
「あの・・・進路表・・・先生が・・・」
と恐る恐る紙を差し出してくる。
「あぁ、ありがと・・・」
そう言って紙を受け取る、彼の対応が意外だったのか彼女は少し驚いた表情をした後、
ほっとしような表情で
「提出は週明けでいいそうです。それから――」
先ほどよりはやわらかい口調で説明した。
「あぁ、わかっ――!!」
説明を受け、了承ついでにもう一度礼を言おうとすると、
どこかから強烈な視線を感じた、驚いて周りを見渡す。
――『気のせいか』
視線を戻すと、委員長の少女が不思議そうな顔で彼をを見ていた。
「じゃ、じゃあ、提出日はまもってくださいね」
そう言って彼女は離れていいく、こころなしかうれしそうな表情をしながら・・・
「あ、あぁ」
彼は離れていく彼女に返事を返す。
返事をしながら彼は先ほどの視線が誰からのものなのか気になって仕方がなかった。
しかし再度周りを見回してもこちらに視線を向けるものなどいない。
むしろこちらを避けている。
『まぁ、いいか』
やっぱ気のせいだろ――が、どうも落ち着かない、
「一服してくるか」
そう一人つぶやき、もうすぐ授業なのも気にせず屋上へ出るため教室を出て行く。
そんな彼の背中をずっと見つめている視線には気づかずに・・・
「いつも見てるから、見守ってるから・・・」 |