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Virtual Insanity(仮)

第1回


1

学校から帰って台所で麦茶を飲んでいると
床下の収納スペースに死んだお母さんが押し込められているのに気がついた

隣の部屋からお父さんが出てきた
「由美?、お母さんは他に好きな人がいたんだ、お前のことも捨てて
  出て行こうとしていたんだ、だからけんかになってさっき殺してしまった」
と泣き出した

私はお父さんを警察に突き出すつもりはない
このまま二人で暮らしていこうと思った

着替えのため自分の部屋に行くとメモ帳の切れ端が落ちていた
「由美、?逃げて お父さんは 狂っている」

私はその切れ端をくしゃくしゃにして、ごみ箱に捨てた。
「お父さんは狂ってないよ?」
収納スペースでもう動かないお母さんに、私は笑みを浮かべた。

翌日

「由美。話があるんだ」
学校から戻ってきた由美に、父は声を掛けた。
「なぁに?」
「ちょっとこっちに」
二人は台所に移動し、テーブルについた。
由美の目の前には、昨日捨てた筈のメモ帳の切れ端が置いてあった。

「これ……」
意図を確かめようと父を見ると、両手をつき、頭を下げていた。
「すまなかった」
しばらくそうして、顔を上げた。
その顔は昨日の様な疲れ果て、何をしたらいいか分からないような顔ではなく、
何か決意を持ったものに見えた。
「お前には怖い思いをさせてしまったかもしれない。
  確かにそうだよな。そのメモの通りだ。お父さんは狂っていた。
  たとえお母さんが浮気をしていたとしたって、殺してしまうなんてどうかしていた。
  挙句それを隠そうとしていたなんて。言い訳なんてできないよな。
  そのメモを見て、やっと気付けたよ。
  分かるか。そのメモを見つけたってことはな、お父さんはお前がいない間に、
  お前の部屋を漁っていたってことだよ。
  もしかしたらお母さんが何か残してるんじゃないかってな。
  本当に最低な父親だよ。
  そのメモのおかげで、自分が今やってることがどれだけおかしいか気付いたんだ。
  昨日自分がやったことが、どれだけ狂っていたか気付いたんだ。
  同時にお前に、どれだけ怖い思いをさせてしまったかもな。
  自分は人を殺しておいて、全部お母さんのせいにして、お前に泣きついて……。
  由美。本当にすまなかった。
  お父さんはこれから警察に行ってくるよ。
  お前を一人にさせてしまうことに悩んだが、それでもやはり、間違ったことは正さなきゃいけない。
  間違ったことがもう戻せなくても、けじめはつけなきゃいけないんだ。
  お前には、そしてお母さんにも、悪いことをしたな」
本当にすまなかった――父はもう一度頭を下げた。
そんな父に、由美は落ち着いた声で言った。
「ねぇ、お父さん。お父さんは、私のこと大事に思ってる?」
突然の質問に、すぐにこそ答えられなかったが、父は言った。
「もちろんだ。昨日は自分のことしか頭になかったが、今は違う。
  お前のことを考えて、どうしたら一番お前にとっていいのか、それを考えた」
「そっか。なら良かったよ」
由美は微笑んだ。
その笑みに、父は何処か違和感を感じた。

「お母さんはね、お父さんが仕事に行っている間、パソコンでチャットをしてたんだよ」
父はさらに困惑した。何故今そんなことを話すのか。
そんな父の様子などまるで気にせず、由美は続けた。
「履歴が残ってたから何処でチャットしてるのかも分かったんだ。
  だからお母さんがチャットしてる時間に、
  私も携帯で見てたんだよ。お母さん、お父さんのこと優しいけどつまらない人って言ってた。
  優しいし真面目だけど、それだけの人だって。別に出会い系とかそういうのじゃなくても、
  チャットって男女で色んな話するところだから、結果的に関係ができちゃったりするんだよね。
  お母さん、最初からそれが目当てってわけじゃなかったんだろうけど、
  何処か期待してた部分もあったと思う。
  だからね、私、これは利用できるって思ったの。
  まず男性のふりして、お母さんに近づいたの。話の内容もお母さんが好きそうなものばっかり。
  お母さん、私たち趣味が合いますね、なんて言ってた。当然よね。
  だって私はお母さんのこと分かってるし、そうなるようにしたんだから。
  その一方でね、今度は別のチャット部屋でお母さんのふりしてやってみたの。
  できるだけお母さんの好きそうな男性と知り合うために。
  探すのは大変だったけど、探してから釣るのは簡単だった。
  その男はお母さんと不倫してもらわないといけないから、
  今までお母さんとしてたチャットの内容は、ちゃんとなぞらせた。
  そうやって二人と仲良くなって、共通の認識もさせて、チャット部屋も移してからは本物の、
  当人同士で会話させてみたわ。
  どこか食い違っちゃってばれちゃうんじゃないかって思ったけど、大丈夫だったみたい。
  後は私が何かしなくても、勝手に外で会うようにもなってくれた。
  ふふふ。
  死んで当然よね。あんな女。
  本当はね、お父さん。別に殺すつもりはなかったの。
  離婚くらいで終わらして、それで私はお父さんに付いて行くってこと考えてたの。
  でもね。やっぱりだめだった。
  お母さんを騙してた私が言うのもなんだけど、せっかくお父さんが私たちのために仕事してるのに、
  この女は何をしてるんだろうって思ってた。チャットの中だけだったらまだしも、
  実際に会ってしまうなんて。
  もしかしたら私は、失敗することを何処か望んでたのかもしれない。もしかしたらお母さんは、
  最後はお父さんを裏切ることはしないって。見事に裏切られてしまったけど。
  だからお父さんがお母さんを殺してしまったのは、ちょっとだけ驚いたよ。
  私がやるつもりだったのに、先にやっちゃうんだもん。
  でも逆に嬉しかった。
  お父さんも、こんなお母さん許せなかったんだって。私と同じこと感じてくれたんだって。
  だからね、お父さん。お父さんが謝る必要なんて、全然ないんだよ」

「ゆ、由美……それは……本当な――」
「本当。お父さんさっき、私のこと大事だって言ってくれたよね。私のこと考えてるって。
  じゃあ、警察になんか出頭しないでね。そんなことしちゃったら、下手したら私まで捕まっちゃうよ?
  私幸せになれないよ? お父さんはさっき、間違ったことは正さなきゃいけないって言ってたよね。
  私にとっては、今この状態こそが、間違いが正された状態なんだよ」
由美は立ち上がると、父の傍まで寄った。
父はそんな由美に目を合わせることもできず、ただ震えるだけだった。
由美は父の肩を優しく包んだ。
「せっかく私とお父さんで、力を合わせてお母さんをやっつけたんだから、
  それを無駄にする必要はないよ。
どうしたの? お父さん。震えてるよ? 寒いの? じゃあ、あったかくなろうね」

2008/12/30 完結

 

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