「で、その二人とはどういう関係?」
「恋人」
「……どっちが?」
「両方。どっちも、俺の愛しい女」
それで、姉さんは爆発した。椅子を鳴らして起ち上がり、もともとつり目気味の目が
もう三角になって、上品な口も怒鳴るために大きく開いた。
「いいかげんにして!」
声は爆音+高周波で、正直つらい。両脇の沙織や里香も目を閉じて身をすくめている。
姉さんと違ってこっちはかわいい。
ダイニングでは、姉さんによる俺への審問が行われていた。
不適切な関係についての釈明を聞くってやつだ。
直接的な証拠を掴まれていないのなら、まだ言い逃れとかごまかしとかも考えてもよかった。
けれども、こうも決定的な場面をみられると、言い訳をしようという気力がわかない。
「それは二股でしょう! 雅史は、二股掛けられる女の子の気持ちがわからないの?」
そんな馬鹿ではない。道徳論がとおらない事態に陥っているだけだし、
そこは俺が最近悩み抜いたところだ。
結論はすでにでている。机にのりだして俺を睨みつける姉さんの目を、
俺はいっさい視線をそらさず見返した。
「気持ちを考えたから、二人と付き合っている。独占させてあげられないつらさはわかるつもりだ。
だから、沙織と里香をできるだけ愛してやり、できるだけ悲しみを少なくするように努力している。
できているかどうかは、わからないところがあるけど」
俺の言葉を聞いた二人がそっと俺の手を握ってくれた。
「馬鹿言わないで! そんなのは都合のいい言い訳よ!」
「じゃあ、どうしろと?」
「別れなさい! 二人に頭を下げて、……ううん、土下座して、謝りなさい!
そして何を言われても耐えなさい。
雅史がやったことは、それだけ酷いことなんだから!」
それも俺がすでに通ってきた道だった。
「で、別れて、誰が幸せになるの?」
「雅史っ! 二股を続けても、女としての幸せはないのよっ!
別れれば、その子達をそれぞれ愛するふさわしい人が出てくるかも知れないのに、
あなたはそれを邪魔しているの。わかる?」
俺はここで初めて姉さんから視点を外し、二人を交互にみた。
「姉さんの言葉に一理はあるけどどうする? 里香や沙織を独占して愛する男が
出てくるかもしれないのはその通り。
女の幸せに関しては、俺にはわからない。でもやっぱりこの関係に耐えられないって言うなら、
それは仕方がないと思う。
相手に負けるみたいで悔しいとかそういうのを抜きにして、もう一度よく考えてみてくれ」
そういうと俺は目を閉じて待った。姉さんも少し落ち着いて腰を椅子に下ろした。
いずれ、明るみに出れば批判は来るし、第三者の目にさらされると保たない関係なら、
今壊れるのも仕方がないと思う。
良い夢を見ることが出来たと思った。俺には過ぎた夢だった。後悔はない。
「私は、矢代くんの側に居たいです。……ううん、矢代くんだけなんです、
私を受け入れてくれたのは。
本当は矢代くんを私だけのものにしたいです。……中塚さんがいると腹が立って悲しいです。
……でも、矢代くんに捨てられるのは、……い……や……です……」
沙織の語尾は泣き声で震えていた。体を震わせてしゃくり上げる沙織を俺は抱き寄せ、
頭を優しく撫でる。
俺を必要としてくれることへの心からの感謝の気持ちで、抱きしめた。
キスして押し倒して入れながら抱きしめたくなったが、それは我慢した。
「お姉さんは、つらかったときに、誰にも理解されなかったときに、
ただ一人側にいてくれて助けてくれた人をあきらめることができますか?」
うつむいていた里香が、眼鏡を光らせながら、姉さんの目をみつめた。
「それに愛してくれる人がまた出てくるなんてどうして言えるんですか?」
「あのね、あなたは雅史に二股……」
「私が矢代くんを奪い返したくて、片桐さんと付き合っていた矢代くんを誘惑しました。
片桐さんに奪われてそれっきりなんて絶対に嫌だったんです。
あきらめたくて、あきらめようとして、毎日泣いて、でも矢代くんは優しくて、
そしてわかってくれるんです。
もう嫌なんです! あんな苦しいのは嫌です!
片桐さんは大っ嫌いだけどそれでも、それでも……」
里香が絶句して、そして透明な滴だけが後から止めどもなく流れ落ちる。
空いた手で、里香を引き寄せて、そっと涙をぬぐう。
途方もなく自分が幸せ者だと気付かされて、
同時に沙織と里香を支えなければいけない責任の重さも感じて、足が震えそうになった。
一人、自分のことだけ考えて気ままに過ごした日々を、懐かしくさえ思った。
かけがえのない愛を二つも手に入れた代わりに、自由も放埒も、たった今失われたのを知った。
子供の日々が終わったのだと、手に入れた愛の重さが告げていた。
「な、何を……、あんたたちは何を言ってるの? ……そんな関係って……雅史!」
呆然として震える姉さんは、俺をみて叫ぶ。でも、すでに俺を呼ぶその声にに力はない。
「姉さん、確かに俺は人に言えないような事をしている。モラルに反している。
姉さんの言うとおりだと思う。
だけど、沙織も里香も俺を必要としてくれるから、応えてやりたいんだ。
モラルに反するからって切り捨てても沙織も里香も幸せにしないんだ。
ほんとは二股なんて悪いことなのに、どうしてだろうね。
……ともかく、俺は自分が二股をかける最低の男って言われても、
それを受け止めることにしたんだ。
自分が正しくあるよりも、沙織と里香が幸せな方が、たぶん、とても大事な事だから。
……ごめん、姉さん。心配をかける悪い弟でごめん。……ごめんなさい」
涙を浮かべて目を見開く姉さんの姿に、頭を下げながら俺の心が痛んだ。
誰かを幸せにしようとして、別の誰かを傷つけていくことが、何よりも悲しい。
けど俺は全員を幸せにする方法を知らない。そんな力を持っていない。
だから、せめて俺を好きになってくれた沙織と里香だけでも幸せにしてやりたい。
もしかしたら俺達の未来が苦い結末に終わり、二人が俺から去り、俺は全てを失うかもしれない。
でもそんな不確定な未来で、彼女達の今の思いを踏みにじる理由にすることはできない。
姉さんはきっと俺を軽蔑し、嫌悪するだろう。だが、それは避けようの無い結果だ。
「ごめん、姉さん。……今までありがとう」
「どうして……どうして……」
姉さんが泣いていた。力なく椅子に座りこんで、嗚咽を殺して、こぼれ落ちる涙を拭きもせず、
静かに泣いていた。
「沙織、里香、行こう」
放って置いていいのかと目で語りかける二人に俺はかぶりを振った。
姉さんの信頼も愛情も裏切った最低の男が、これ以上舌を動かしたとしても、
それは姉さんを傷つけるだけだと思ったのだ。
「泣いていたけどいいの?」
「言い訳をしても二股は二股だから。何を言っても姉さんを傷つけるだけだから」
里香が俺の言葉を聞いて、顔をうなだれさせる。
沙織はつないでいた手に少し力をいれた。
自宅から駅までの夜道を俺達は歩いている。
夜空は晴れ上がって輝く砂粒をばらまいたように満天に星がきらめいていた。
涼風が俺達の間を吹き抜けていき、紙屑を転がしていった。
「でも……お姉さんも矢代くんをすごく愛してるんですね。すこし妬けます」
沙織の言葉に、俺は複雑なものが心をよぎるのを感じた。
「愛してる……か。どうだかな。あの人は本当に俺を愛しているのかな?」
「何を言ってるの? 普通ならあんなに怒らないんだから!」
俺の言葉に里香が少し怒ったような表情をした。
「きっと、姉さんは温かい家庭が欲しかっただけなんだよ。
だけど血のつながらない父親への違和感がどうしても残って。
それでも母親に迷惑掛けたくなくて、だから、俺と仲良くすることでそれを埋めようと頑張って。
……それで昔の俺が無邪気に応えてしまったから、姉さんは俺の世話をすることが、
姉さんの望みにすり替わったんだ。
いまでも俺の世話をして、姉さんが望む、昔の俺達の家が戻ってくると思ってる。
……もう他人なのにな」
心に浮かんだ言葉をふと垂れ流して、俺は周囲の沈黙に気付いた。
沙織も里香も、驚いた目をしていた。
「なに? どうしたの?」
「ちょ、ちょっと待って! 血のつながらない?」
「もう他人ってどういうことです?」
「あっ! ……あ、いや、家庭の事情ということで」
「……おかしいとは思ってたんです。矢代くんの家、女物がありませんでした。
女性が生活している気配が無いんです」
「それどころかいつ来ても誰もいないし、私、二週間ほど通って、初めてお姉さんにあった」
普段はけんかしているくせにこういうとき、女は団結するらしい。
「私も初めてです。実はいろいろと聞きたいことがありました」
「うん、ちょっと嫌だけど、片桐さんに同感。というわけで」
俺の肩に里香の手が掛けられる。沙織が腕を抱き込んだ。
「「詳しい話を聞かせてもらいましょうか?」」
二チャンネルステレオ音声での命令に、俺が逆らえるはずもない。
ファーストフード店のマークが印刷された紙コップに残ったコーヒーはわずかだった。
店内では食欲の解消にいそしんだり、新聞や本を読んだり、
雑談したりと思い思いに客が過ごしている。
「簡単に言えば、姉さんは義理の母の連れ子。俺は親父の連れ子。
そして、義理の母と親父はすでに五年ほど前に離婚ずみ」
俺の前に沙織と里香が珍しく並んで座り、ジュースを飲んでいる。
俺の家庭事情に興味津々というわけなのだが、俺は長々とした自分語りに酔うつもりはなかった。
不幸といえるかも知れないが、悪いことばかりだったわけじゃないからだ。
「あ、あの、変なこと聞いちゃって、ごめんなさい」
「……私は謝らないから。私は矢代くんの事を知りたいし、知るべきだと思う。
矢代くんは弱みを見せたくないって思って、すぐに人の間に壁をつくろうとするけど、
もうこんな関係になったんだから、そういうの私許さない」
頭を下げた沙織が傲然と胸をはる里香を驚きの目で見上げた。
だがその里香の顔もすこしばつの悪そうな色が漂っている。
俺は肩をすくめた。
「いいさ。里香の言うことは正しい。……沙織も、もう謝らなくていい」
「じゃ、突っ込んで聞くけど、実のお母さんは?」
「……四年前の夏休みの時は、ヤクザみたいなヒモの女をしていた」
二人の女の顔が凍り付く。特に尋ねた里香は、顔面を蒼白にしていた。
「気にするなよ。ナイーブな中学生が、親の離婚を契機に本当の母親のことが気になって、
訪ねてみたらそうだったってだけのことだから。
それ以上は知らないよ。良かったら次の質問どうぞ?」
動揺はない。昔の話だし、真実というものが残酷過ぎて小気味良いので、
割り切りやすかったというのもある。
子供を捨てた母親に幻想をみた俺が間抜けなだけという話だ。
「……その」
「謝るのはなし。里香と沙織が俺の家庭事情を知ることのどこが悪い?」
顔を曇らせて頭を下げかける里香を制止する。善意なのだろうけど謝られると惨めな気分になる。
「……義理のお母さんと矢代くんのお父さんが離婚になったのはどうしてですか?」
勇気を出して訊いてみましたって顔をして、沙織が尋ねた。
「義理の母に好きな男が出来たから。義理の母は、前の旦那とよりが戻っちゃったんだよ。
よりが戻りかけても一旦は別れるとかなんとかしたんだけど、結局完全に戻っちゃって、離婚した」
二人の顔がますます重くなる。
これだから身の上話はいやだった。俺は残ったコーヒーを飲み干した。
「ああ、もう。そんな変な顔するなって。俺のお袋達の話はもういいよな?
聞きたいのは姉さんのことだろ? ついでに親父のことも話しておこうか?」
二人は顔を見合わせ、やがて戸惑ったようにうなづく。
「じゃ、親父のことから。親父は今年の初めくらいから三十代のバツ一女性にはまってて、
そっちの家に泊まり込んでる。
少し前に紹介されたから、俺が高校卒業したら結婚するんじゃないかな?」
女達の応えはない。その後悔と罪悪感に満ちた顔を見て、
舌打ちしたい気分になったが、こらえて話をすすめる。
「で、姉さんだけど、さっきも言ったとおり、義理の母の連れ子だから、
血のつながりがなくて離婚したら他人なわけ。
だけど、姉さん的には親父と義理の母にもう一度再婚してほしいらしいんだ」
「それって!」
「無茶だろ? ただ、あの人……ああ、ごめん。義理の母ね。
あの人は前の旦那とよりをもどしたらさっそくそいつにに殴られて酷い目にあったんだってさ。
たぶんあの人は根っからのDVマゾ体質の女なんだよ。
殴られないと愛されている実感が湧かない人なんじゃないかな?
あばらと鼻を折られて離婚したのに、再婚した俺の親父が殴らなかったから、
愛されているかどうか不安になったらしい。
それで、よりが戻ったらまた殴られて、ついには腰の骨折って入院だってさ。
もうどうしようもないよ。
けれども姉さんにとっては、自分の母親だからなんとかなって欲しいって思うんだろうね。
時々俺の親父にもう一度やり直せないかって言ってる」
「そんなの最低の女です……あっ、その……」
沙織の顔が嫌悪に歪み、非難したのが俺の義理の母であることに気付き、あわてた。
「いや、その気持ちはわかるよ。ただ、やり直したいって思ってるのは姉さんで、
昔家族だった時の俺達の温かい関係を取り戻したいらしい。
だからたまに俺の家に来て、俺や親父のために飯を作ってさ、また家族になりたい、
あの人とやり直せないかって訊くんだ。
親父は大人だからさ、姉さんの気持ちを察してはぐらかして答えないんだけどさ、
答えないから姉さんは、まだ希望を持ってる」
二人は、もう一言も発しなかった。
俺は涙を浮かべていた姉さんの顔を思い出す。
ちくちくと刺す胸の痛みは平気な顔を取り繕って耐えた。
「だから、姉さんは、もう他人なのに、昔のように俺の姉さんで居たいんだ。
壊れてしまったものなのに、それでもとりもどしたいんだよ。
でも姉さんはさ、不倫で狂ってたあの人と俺達の間で板挟みになりながら、
必死で頑張って俺を愛してくれた人なんだ。
だからそう言う人をむげにはできないんだけど、……それでも沙織や里香を悲しませてまで、
姉弟ごっこする必要はないよ。
悪いけど、姉さんには本当に悪いけど、俺にはどうすることもできない。
きっと今がそんな空しい夢を終わらせるしおどきなんだと思う」
重たい空気を吹き飛ばしたくて、俺は大きくため息をついた。
「ふぅぅ、さ、つまんない話はこれでおしまい! これ以上遅くなったら怒られるだろ?
もう帰らなきゃ」
起ち上がった俺を四つの瞳が、冴えない色で見上げる。俺は彼女らの手を引いて起ち上がらせた。
「もう終わったことなんだ。今、そんな顔をして悩んでもとりかえしはつかない。
それに、俺達だって偉そうな事は言えない。
俺のやってることは、親父を裏切ったあの人とあまり変わらないから」
その言葉で二人の顔に緊張が戻った。
「だから、俺は沙織や里香をできるだけ幸せにするしかない。
いや、俺が沙織や里香と一緒に幸せになって、姉さんなんかいらないって事を
見せつけてやらなきゃいけないんだ。
そうやって姉さんを俺と過去とあの人から解放してやって、
姉さんがいい人を捜すようにしむけなきゃ。
それが、俺の姉さんに対する最後の恩返しだよ。……さあ、帰ろうぜ」
そうして二人の手をひいて店を出たとき、俺はしゃくり上げる声を聞いた。
振り返ると、二人ともこぼれ落ちる涙を手でふきつつ泣いていた。
「な、なんで泣くわけ?」
彼女たちは答えなかった。だから俺は二人を引き寄せた。
「大丈夫だよ。口で語れば酷いことばかりに聞こえるけど、楽しいこともいっぱいあったんだ。
二人が思うほど酷くて悲しいもんじゃないよ。ただ、ちょっと関係が複雑なだけでさ」
だが彼女たちは泣きやまない。
泣いているのは彼女たちなのに、なぜか俺の心が解放感と温かさに包まれていた。
よくわからなかった。よくわからなかったけど、見上げた空に優しく星が瞬いていた。
この時のことを、俺はずっと後になっても克明に思い出すことが出来た。
二人を送って家に帰ると、電灯は全て消えていた。
姉さんは帰ったのかと思いながら、電灯をつけて俺は息が詰まるほど驚くことになった。
ダイニングの暗闇の中で、姉さんがじっと座っていたのだ。
「姉さん! ど、どうしたんだよ?」
その言葉で目を泣きはらした姉さんが顔をあげる。それを見て、俺の胸が潰れそうに痛んだ。
「……まーくん、……ご飯食べるよね?」
見ると、テーブルには料理が並んでいる。……沙織と里香が作ったものではないが。
「……う、うん。食べるよ」
俺に選択肢があるはずもない。
いそいそと立ち上がってご飯を盛りつけ始める姉さんの目を盗んで俺はゴミ箱をのぞく。
……俺が食べさせてもらっていた料理は無惨な姿でそこにあった。
ため息をついて、俺は見なかったことにした。
「はい、あーん」
そりゃ、ここんとこ毎日こうだったし、楽しんでもいた。だが、
「姉さん、……頼むから箸をよこして下さい」
頭を抱える俺のすぐ横で、姉さんが箸で料理をつまんで、俺の口に運ぼうとしていた。
米飯を茶碗に盛って、お茶を入れると、姉さんは俺の左にわざわざ椅子を寄せ、
密着して座ったのだ。
箸が用意されていなかったから、はじめっからそのつもりだったのだ。
泣きはらした目も、今現在はなぜかきらきらと喜びに輝いていたりする。
「あの子達にさせて、私じゃ駄目なの? 昔は私が食べさせてあげたのに」
「昔って俺が二歳や三歳の頃じゃないですかっ!」
抗議をするが、姉さんはがんとして動かなかった。
俺には姉さんの考えがさっぱりわからなかった。
……俺の周りの女ってどうしてこういうのが多いのだろうかと思った。
「はい、あーん」
「姉さん!」
「……そうなんだ。あの子達の料理は食べられても、私のじゃ駄目なんだ」
見る見るうちに姉さんがしおたれて、うつむいた姉さんの顔から左手の皿に、
涙とおぼしきしずくがしたたり落ちはじめる。
「わ、わかりました。わかりましたってば! 食べますから!」
だが姉さんは顔を上げない。
「ごめんなさい、姉さん。どうか俺に食べさせて下さい。お願いしますから」
「そう? もうまーくんってば、甘えたさんなんだから」
ぱっとあげた顔には満面の笑みが浮かんでいて、涙は一滴も見あたらない。
頭を殴られるような衝撃と共に「また、やられた」という感慨が通り過ぎた。
小さい頃からこの手を何度食ったことか。俺も大概進歩がなかった。
だが姉さんは俺に反撃の隙を与えず、料理がつままれた箸を俺の口に突き出した。
観念して口を開け、入れられたものを咀嚼して飲み込んだ。
「はい、あーん」
姉さんは何か知らないけどやる気だった。
姉さんに飯を食べさせられた後、風呂に入り、俺は自室にひきあげた。
姉さんはこの家に泊まるときは、昔の姉さんの部屋を使っている。
どうせ親子二人には広すぎる家なのだ。
いろいろと精神的に疲れたが、問題集はやっておくべきだったので済ませる。
切りの良いところまで進めると、時間は寝る時間になっていた。
スタンドの蛍光灯を消し、小さくのびをする。
机から起ち上がって、明日の授業の準備を行い、
手帳を見てやり忘れた課題がないかどうかを確かめる。
見落としはなく、必要なものを鞄に詰め、明日着ていくワイシャツと制服を取り出して壁に掛けた。
そのまま部屋の電灯を消して、ベッドに転がり込み、やけにベッドが温かい事に気付く。
手を伸ばして探ると、柔らかく温かいものが触れた。
「姉さん! いつのまに!」
ふとんを剥ぐと、過激なほどセクシーなナイトウェアを来た姉さんが微笑んでいた。
「勉強ご苦労様。集中してたから邪魔しないようにそっと入ったの。さあ、一緒に寝ましょう?
いらっしゃい」
ぽんぽんと自分の隣を軽く叩いて姉さんが俺を誘った。もちろん、いけるわけがない。
「姉さん、俺はもう子供じゃないんだから」
「まだまだ子供よ。私はまーくんのおむつを替えてあげて、ご飯食べさせてあげて、
おっぱいも吸わせてあげたのよ?」
「姉さん!」
「三歳の時、ママのおっぱい欲しいって泣いて、母さんのところに行ったけど、
嫌がられて私のところに来たでしょう?
そのくせ、私のオッパイがぺったんこだって泣かれて、私まで涙が出ちゃったんだから。
私、小学校の四年生だったのに」
こうなると俺に反撃の手段はない。
「いや、あのね」
「その後、私の胸が大きくなったら、まーくんは小学校に入っても、
オッパイ吸いたいって来たわよね?」
「そ、そんなこともあったようななかったような……」
「おねえちゃん大好き、おねえちゃんのおっぱいも大好きって、妙な歌を作って歌ってたわねぇ」
恥ずかしさに身もだえしたくなったが、かろうじて耐えた。
これだから姉さんには勝てない。
「あのかわいい子達に、この話したら、喜んでくれるかしらぁ?」
「よ、喜んで添い寝をさせていただきます、お姉様」
俺はいそいそとベッドに潜り込んだ。
……だから俺は言った。俺の人生はそんなに酷いことばかりじゃないと。
恥ずかしいこともそれなりにあるわけで。
俺がベッドに潜り込むと、姉さんは昔話を始めた。幸せだった頃の話だ。
ディズニーランドに行ったときの話や、温泉旅行の話。初詣に、クリスマス。
本当にそう悪いことばかりじゃなかった。
あの人がおかしくなるまでは、俺達はほんとうの家族だった。
過ぎ去った日々の懐かしい記憶。それをつかのま、俺達は共有していた。
温かい気持ちに浸っていると、不意に姉さんが言った。
「……ねぇ、まーくん」
「ん?」
「姉さんのおっぱい、吸ってみない? なんかおっぱい吸われるの、懐かしくなったのよ」
「いいっ? ちょ、ちょっと?」
「まーくん、驚きすぎ。やらしいこと考えたでしょう?」
驚く俺に姉さんはちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
「あのねぇ、俺の年を考えてくれよ」
「ごめんね。でもなんか、まーくんに吸って欲しい気分なの。いいでしょ?」
「うーーー」
だが俺がうなっている間に、姉さんはいそいそとナイトウェアの胸元を開けていた。
暗闇の中ででっかくて真っ白い柔らかな乳房がさらけ出された。
「さぁ、ほら」
迷っていると頭を抱えられて、乳房に押しつけられる。
正直、始末に困るおっぱいだった。
一人前の男が乳首を吸うだけで満足する訳はない。
だからといって、義理とはいえ姉である人の胸を愛撫するわけにもいかない。
「どうしたの?」
「いや、あのね」
「もう、早くぅ」
さらに胸が押しつけられて、鼻も口も白く柔らかな甘い匂いのする肉に覆われる。
仕方なく、おためごかしに乳首に口をつけた。先端をほんのすこしだけ唇ではさむ。
上目遣いでのぞくと、姉さんの目が満足そうな三日月の形になっていた。
「そうそう。まーくんは私のおっぱいを吸ってればいいの」
頭を抱え込まれ、形だけくわえた乳首が根元まで口の中に滑り込んできた。
足が俺の足に絡みつき、姉さんの股間が俺の太腿に当たり始める。
なぜか、口の中で乳首が太さと硬さをましつつあった。
二人の静かな息づかいだけが部屋に流れる静かな時間が過ぎた後、ぽつりと姉さんがもらした。
「ねぇ、まーくん。もう他の女の子のおっぱいについて行っちゃだめよ?」
姉さんは相変わらず穏やかに笑っていた。
俺は口から乳首を離した。
「……俺、別れないよ。沙織も里香も、大切な女だから」
胸が再び強く押しつけられる。だが俺はもう口を開けなかった。
「姉さんこそ、俺とこんな事をしてちゃいけないよ。……姉さんはそろそろ自分の幸せを考えなきゃ」
俺を胸に押しつける力は弱まらない。
「……姉さんは楽しかった過去に囚われすぎだよ。俺だってもう昔の俺じゃない。
俺はあいつらのことを愛してる。だから、もう姉さんとこんな事はしない。
姉さんも好きな人に抱かれて、その人に愛してもらわなきゃ駄目だ。
姉さんは美人だから、きっと恋人なんてすぐに出来るんだから。その気になれば結婚だって……」
胸から顔をもぎ離し、体を起こして俺は姉さんを見据えた。
……そしてゆっくりと起きあがった姉さんの顔が怒りと悲しみの入り交じったものへと
歪むのを目撃して、俺は絶句した。
「何が恋人よ! 何が結婚よ! 自分の妻を殴って大怪我させて刑務所に行くような父親と、
そんな夫にいまだに未練たっぷりにくっつく母親。
そんな両親を持つ女に幸せが来るって思ってるの? 本気で思ってるの?
どこに私を愛してくれる人がいるの? 犯罪者の父に頭のおかしい母の娘なんて、
誰が受け入れてくれるのよっ!」
手で顔が覆われ、心がねじ切れるような悲痛な嗚咽が漏れ始める。
俺は言葉をなくして、ただ呆然と泣く姉さんを見つめた。
「姉さん……」
「私はまーくんと居るときだけが幸せだったのに! なのに、それも奪われちゃうの!
私は幸せになっちゃいけないの!」
「姉さん! そんなことないから! 姉さんを好きになる人は絶対にいるから!」
「じゃあ、まーくんが私を好きになってよ! 私をまーくんの恋人にしてよ!」
俺にすがりつき泣き叫んで睨む姉さんに、俺は再度絶句する。
頭の血が下がってくるような自失感に襲われて、すがりつく姉さんによってベッドに押し倒された。
「姉さん……」
「まーくんが悪いんだよ。私はまーくんともっと一緒にいようって頑張ってたのに、
まーくんが他の女の子に手を出すから」
そんなことを言いながらすがりついてきた姉さんが、俺のパジャマのズボンを
パンツごと引き下ろす。
気を取り直したときには、姉さんは俺の肉棒を握っていた。
「ね、姉さん! やめろって!」
答は肉棒を強く握る手の動きだった。俺は痛みで何も言えなくなる。
「これ、私のものなのに」
強く握られたまま肉棒が強引に引きずり出される。
手が離れたと思ったら、俺の肉棒は全部、姉さんにくわえられていた。
ためらいどころか、至福の表情すら浮かべて、姉さんは口で俺の肉棒を嬲った。
手は片手で俺の袋を握り、片手で俺の太腿を握っている。
舌が肉棒に巻き付き、先端を這いずった。その動きは奉仕でも愛撫でもなく捕食だった。
舌の一つ一つの動きが、俺をむさぼっていた。
固く張り詰めてきた幹をなめ回すのは、俺を快感に追い落とすためではない。
その肉棒に姉さんの匂いがついた唾液をたっぷりすり込むためだろう。
先端をなめ回すのは、きっと肉棒が快感に震える姿が楽しいからだ。
尿道口の奥まで舌を入れるのは、俺を犯して、精液をすするために違いない。
腰が浮き、目の前に何度も星が散って、姉さんの頭を押しのけるために伸ばしたはずの手が
逆に姉さんの頭を押さえていた。
「駄目だっ! 姉さんっ、くぅぅぁぁぁぁぁぁああ」
爆発してしぶくような勢いで、精液がほとばしり出る。腰から力が抜けて目にかすみがかかる中、
姉さんは笑顔すら浮かべて精液を飲み下している。
それどころか、放出の拍動が終わったばかりの肉棒が、再度吸われた。
残っていた精液が吸い出される快感で、萎えかかっていた肉棒が硬度を取り戻し、
俺は際限なく吸われそうな不安に襲われた。
ようやく肉棒から口を離した姉さんが、俺を吸い尽くすような肉食獣の雌の笑いを浮かべた。
「なんだかんだ言って、まーくんはおちんちん吸ってあげれば素直になるのよね。
でもこんなもので終わりじゃないわよ?」
姉さんが上体を起こし、ナイトウェアを見せつけるように脱ぎ捨て、
両方とも全てが露わになった大きく柔らかそうな胸を誘うように揺らす。
「まーくんはおっぱい大好きだよね?」
そういうと姉さんはくすくすと笑った。
「だからまーくんのおちんちんを胸で包んであげる。
胸の中に埋めてこすって、先っぽを思いっきり吸って舐めてあげる」
そういいながら姉さんが自らの手で、胸を寄せ揉み潰し、乳首を舌で舐めあげる。
そして胸の肉を左右にかき分け、深く広い谷間が出来た胸を俺の股間に降ろした。
挟まれるだけで、気が狂いそうになった。姉さんの胸肉が俺の肉棒に
いやらしくからみついたからだった。
だが姉さんはその肉で先端をこすりあげ、肉の中に埋め込んだ。
そそり立った乳首で尿道口をこすりまわった。
なすすべなく快感が押し寄せ、腰は震えるばかりで力が入らなくなった。
俺は女のように声をあげて喘ぎ、姉さんに支配されていった。
突然全部が姉さんの胸肉に埋まっていたはずの肉棒の先端だけが、外気にさらされた。
淫らな双乳の白い肉が俺の肉棒に巻き付きはさみこんいる中で、先端だけが外に飛び出ている。
その上で姉さんが舌なめずりをして笑っていた。
何をするのかがわかってしまい、俺は怖くなるような快感を予感し、呆けた。
いかなる予告もなくずるりと先端を舌が這った。
快感が脳髄を打ちのめして俺はなすすべもなくのけぞる。目の奥で火花が散った。
ぬるりと舌が先端を這い回ると目もくらむような刺激に打ちのめされ、
自分の顔を覆って体を震わせるしか出来なくなった。
胸肉が肉棒を絡め取るように動くと同時に、先端を乳首がこすりまわり、
肉棒の尿道口に姉さんの舌が突き刺さってほじられる。
出たのが生命力そのものかと錯覚を起こすほど、精液は盛大に噴出し、
体が痺れて力が抜けベッドに倒れ込んだ。
俺が無様に口を開け、喘ぐように息をしていると、
またもや肉棒は姉さんに残った精液をすすられる。
俺の意志と全く無関係に射精したばかりの肉棒が再びそそり立ち、
白濁液を唇につけた姉さんが満足そうに笑った。
「まーくんのおちんちんは、私のおっぱいが大好きになったみただけど、
……ふふ、こっちも味わって欲しいな」
大の字になって脱力している俺の腰のところで姉さんが膝立ちになって、俺の腰をまたいだ。
痺れる頭の中でやばいという予感が走る。
姉さんの内股が濡れ光って、暗くなった外のわずかな明かりを照り返していた。
騎乗位になった姉さんの濡れた太腿と黒い翳りが降ろされ、肉棒と接触した。
先端が叫び声を漏らしそうなほど柔らかなものに飲み込まれ、からみつかれた。
沙織とも里香とも違うしなやかさと柔らかさに満ちた姉さんの膣は、
先端を飲み込んだだけにも関わらず、俺を奥に引きずり込もうとうごめいた。
肉棒から走るしびれで、続けていた荒い息が止まる。
姉さんは、いささかもためらわなかった。避妊も、姉弟として暮らしてきた今までも、
全く省みた様子はなかった。
その顔にあったのは俺を中に収める喜びと自らの体に酔わせる征服感だけ。
姉さんのからみつくヒダとそれによるしびれが、肉棒を根元まで飲み込み、
俺の腰を滑らかな内股がはさんだ。
「んふ、根元まで入った。……もう出したいって顔ね。……いいわよ?
まーくんが私のものになるっていうならね」
姉さんが、ゆっくりと腰を動かすと、からみついたヒダが肉棒を嬲った。
歯を噛みしめて射精感をこらえる。途端にぴたりと姉さんの腰が止まった
「まーくん、さぁ、私だけのものになるって言いなさい。
素直になったら、ここに好きなだけ、出していいのよ」
姉さんが自分の下腹部をそっとおさえた。
「私だけのものになったら、私のおなかをまーくんので、いっぱいにしていいのよ?」
快感が去りかけるところで、姉さんがまた腰を動かす。
姉さんの中の小さなぶつぶつが肉棒の先端をこすり、思わず腰をつきあげる。
「はああん! ……はぁ、はぁ、だめよ、まーくん。ちゃんと私のものになるって言ってくれなきゃ」
姉さんが震えながらのけぞったが、すぐに俺の腰を押さえつけた。
根元に貯まった精液が気の狂いそうなほどのもどかしさを感じさせる。
必死に我慢する俺の顔を見て、姉さんがほくそ笑んで、また腰をゆらめかした。
「そんなに我慢しないで……。あの子達と別れて。私と二人で、また家族になろうね?」
そういうと姉さんが上体を倒し、豊かな胸を俺の胸でおしつぶした。
屹立した乳首が犯すように心地よく食い込み、軟らかな肉が抱くように
俺の胸板を覆って張り付いた。
俺の腰を自らの腰で押さえつけながら、姉さんが唇を寄せて、俺の口をむさぼる。
また姉さんが腰を動かすと、俺の腰から背中に快感が走った。
「そうよ、義父さんが母さんと再婚しなくても、私とまーくんが結ばれれば、また家族になれるの」
ゆっくりと嬲る意図で動かされる腰によって、姉さんの中が俺の先端から根元まで
舐めるように絞るようにからみついた。
「まーくんはね、私にどくどくだして、私のことだけ考えてればいいの」
先端をまたざらつく内壁がこすり、気の狂いそうな射精感に襲われる。
だが腰の動きが止まり、射精には至らない。
「だめよ。そんなにおちんちんをびくびくさせても駄目。……あの娘達を忘れるって言って。
私だけのものになるって言って」
耳元で吐息と共にささやかれるだけで快感が満ちた。
耳の穴に舌が差し込まれ、それだけで爆発しそうになった。
「さあ、もうあの娘達を忘れなさい。私がずっと包んであげる。
……私の中に帰ってきなさい、大好きなまーくん」
ふと、脳裏に寂しそうな沙織の顔が浮かんだ。泣き顔の里香も浮かぶ。
舌を出して喘ぐような息しか出来ず、下半身はしびれ続けていた。動かせば出てしまいそうだった。
でも姉さんも大好きだった。胸も尻も顔も背中も太腿も腕も髪も好きだった。あこがれていた。
精液が循環する脳みその片隅で、節操のない最低な男と罵る声がした。
そして悪魔がささやいた。どうせ最低なんだから、この女もいただいてしまえと。
手を伸ばして腰をつかんだ。すべすべでしっとりした肌が手に吸い付いた。極上の肌だった。
歯を折れそうな程噛みしめる。射精する前にやることがあった。
「姉さん……」
俺の声で姉さんが至福の表情となった。
「別れないよ」
姉さんの顔は変わらなかった。きっと言ったことを理解できなかったと思う。
姉さんの子宮を目指して、俺は下からつきあげた。からみつく中をこすりあげながら、
子宮を犯そうとして突き入れた。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
陰部から尿と間違えそうなほどの量の愛液がしぶいた。上々の反応だった。
うねりからみつくヒダを引きはがしながら半ばまで抜き、もう一度奥の奥まで押し入った。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
背骨が折れそうなほど姉さんが反り返った。
力が入らない手足を動かして、なんとか体を入れ替え、姉さんを組み敷く。
柔らかそうなくせに、形を保って揺れる乳房は絶景だったが、
快感に体を小刻みに震わせる姉さんはもっと絶景だった。
こんな素晴らしいものは犯さないと損だった。
俺は上体を起こして、肉棒を全部抜いた。
「ぬ、抜いちゃだめぇぇぇ」
「わかってるよ、大好きな姉さん」
語尾にハートマークさえつけて、子宮の入り口まで突き下げた。そのまま何度も突いた
「あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああ、はぁぁぁぁ、うぅぅぅぅぅ、うあん、ひぃぅんん」
「でも、沙織や里香とは別れないよ」
別れないけど姉さんはたっぷり犯すつもりで突きまくった。
「いやぁぁぁぁ、だめぇぇぇぇぇ、そんなのぉぉぉぉぉ、ひどぉぉぉぉぉぉぃぃぃ」
姉さんは快感に浸りながらも首をふって抗議をした。当たり前だった。
ちなみに胸も揺れてやっぱり絶景だった。
けれども、大好きな姉さんにここまで誘惑されて告白までされたら、
もう姉さんを手放すつもりはなかった。
うん、我ながら、最低だった。もう笑うしか……いや犯すしかなかった。
「大丈夫。姉さんも俺のものだから。愛してるから。大好きだから。姉さん!」
刹那、快感に追い立てられていた姉さんが目を見開いて、信じられないって顔をした。
姉さんの中がきゅっと俺を食いしめる。
ほんとだよって答えたくて、姉さんの中を入り口から奥まで丁寧に何回も肉棒でこすってあげた。
「ああああああああ、そんなのってぇぇぇぇぇぇぇ、そんなのってぇぇぇぇぇぇ、
ずるぃぃぃぃぃぃぃぃ」
でも姉さんは体のほうが正直で、体の方は、口とは違って潮をふいて
びちゃびちゃになって喜んでいた。
「姉さんの体は、喜んで俺を締め付けてるよ?」
せり上がる精液を押さえ込みたくて、姉さんのあちこちを突きまくった。
もっと精液がせり上がってきた。
姉さんの体も震え続けて何度も反り返って、手がシーツを必死に握りしめていた。
「ちがうのぉぉぉぉぉ、そんなのぉぉぉぉぉぉぉ、ちがうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「そう? ごめん。じゃ、やめるよ」
もどかしさに頭がしびれていたが、歯を食いしばって、腰を止めた。
そして姉さんの腰も渾身の力で押さえつける。
「いやぁぁぁぁぁぁ、とめないでぇぇぇぇぇぇぇ、うごいてぇぇぇぇぇぇぇ」
じたばたと姉さんがあばれた。かわいそうで最後までいかせてあげたかった。
だけどやることがあった。
「俺は沙織や里香と別れない。それがいやだって姉さんが言うなら、ここでやめるよ?」
「ひどぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、おねがいぃぃぃぃぃぃ、いやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ」
頭を振り乱して姉さんは抗議した。かわいそうなので一回だけ突いてあげた。
「じゃあ、姉さんも俺の女にするよ? 沙織や里香と同じように。
三股で同時進行だけど、でも姉さんを心から愛してあげる。
姉さんが去っていかない限り、俺は姉さんを愛し続けるよ」
「いやぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁぁ、まーくんはぁぁぁぁぁぁ、私だけのぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ゆっくりと数回姉さんの中をこすった。
「ありがとう、姉さん。だけど、俺は沙織や里香を絶対に捨てない。だから、選んで。
ここで止めて他人になるか、それとも続けて、俺の女になるか」
少しだけ沈黙があった。
やがて姉さんの目から透明な液体が止めどもなく流れ落ちた。
「なるからぁぁぁぁ、まーくんの女になるからぁぁぁぁぁぁぁ」
「姉さん、大好きだ。もう一生離さないから」
そして突きまくった。思いに任せて、心にのせて、姉さんの中を愛した。
ざらついたところを先端でこすりたてた。壁を全て味わいたくて前後だけでなく左右にも動いた。
姉さんの上にのしかかって、姉さんの唇をまさぐった、舌も突き入れて、姉さんの舌に絡めたが、
逆に姉さんに口の中を吸い尽くされた。
手は乳房をまさぐった。大好きなおっぱいだった。夢に見た感触そのままだった。
姉さんの腕が俺の背中にまわり、爪が立てられていた。
姉さんの足が腰に回され、抜くことを許さなかった。
もっとももう抜くことなんか、まったく、これっぽっちも考えてなかった。
無責任かもしれないが、姉さんを本気で孕ませるつもりだった。俺はもう姉さんに狂っていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ、きちゃうきちゃうきちゃうきちゃうぅぅぅぅぅぅぅ……
いくぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅ」
姉さんが白目をむいて、反り返りながら不規則に何度も震えた後、
全身をすごい勢いで突っ張らせる。
さんざん我慢していたため、射精はむしろ安堵感すら覚えた。
放出感を伴った拍動と共に体の力が抜けていき、姉さんにしがみつくしかなかった。
姉さんの鼓動を聞きながら、意識を遠くしていった。
ふと意識を取り戻したときも、二人の体勢は変わっていなかった。
俺が重いだろうと考え、姉さんの上から滑り落ちて、ベッドに寝転がる。
姉さんはかすかに呼吸をしているだけだった。完全に寝ていた。
また、やっちまった。そうは思ったが、姉さんが怒ったときからこうなるような気もしていた。
いろいろと義理の母がらみでひどいことがあったけど、
それを恨まないで居られるのは姉さんのおかげだった。
お互いがいたから、生き延びることができたというべきだろうか?
事実親父達が離婚した後、俺は孤独癖がひどくなり、姉さんの表情は冴えなくなった。
そしていくらもしないうちに、姉さんは縁が切れたはずのこの家に度々訪れるようになった。
そんな姉さんと他人になるという選択肢があるわけもない。あったら、とっくに他人だった。
姉さんの寝息が少し高くなり、そちらを見る。
姉さんの寝顔は、久しぶりにとても穏やかだった。
「うーん、まーくん、んふ……むにゃ」
寝言とともにねーさんが寝返りをうつ。
眼前に見事な尻がさらけ出された。大きくて白くてすべすべで男心を捉えて放さない曲線だった。
……姉さんは俺のものだった。だからこの尻も俺のものだった。
いたずらしなければ人生の損だった。
理屈はどうでも良くて、ただあの尻に顔を埋めたかっただけだった。うん、男なんてそんなもんだ。
数秒前の感傷的な気分などどっかに放り出して、俺は姉さんのお尻の探検をすることにした。
尻肉は最高だった。おっぱいも素晴らしいが、
尻は柔らかくて弾力があって二つにわれてて丸くて最高だった。
姉さんのでっかい尻を間近から見るだけで、男に生まれて良かったと思った。涙がでそうだった。
ちなみに姉さんはまだ寝ていた。俺は姉さんの足の間にうつぶせで寝転がって尻探検を始めていた。
寝ているときにいたずらをするというのは、胸躍るものがあり、これまた良かった。
尻肉をつかんで広げると、色の薄い肛門がある。
指でつつくと肛門がすぼまるように動き、姉さんの体もぴくっと動いた。
さすがに何の準備もしないアナルプレイは臭そうだったので、それ以上はあきらめる。
というか、寝ている間に肛門まで襲っちゃうと、さすがに本当に嫌われそうだったので自重した。
俺にもちょっとは理性も残っていたらしい。でも理性はそれで作動終了だった。
未練を残して、下におり、性器にたどり着く。
濡れた尻肉の間で、赤みがかったピンク色で性器が俺を待っていた。
だらしなく膣口が開いていたものの、クリトリスは小さくなっていて、
持ち主のように寝ているらしかった。
けしからん眺めなので、罰を与えることとした。
膣の下に丸い皮に包まれた突起がある。なんかつつくといいことが起こりそうなので、舐めてみた。
姉さんの体が震えるが、抗議は無い。
舐めても問題なさそうなので、舌で舐めまくると、どうしてか液体が垂れてくる。
どっか液漏れがあるようなので、とりあえず舐めながら、開いた膣口に指を入れて栓をしてみた。
「うぅぅん……あん……はぁうん」
尻の向こうで誰かが変な声を上げてるけど、気にしない。
全然液漏れが治らないので、姉さんのお尻が心配になって、膣に入れる指を二本にしてみた。
漏れた液体は、責任をもって舐め取ってあげた。
ついでに可愛いクリトリスちゃんも舌でツンツンしてから美味しそうなので歯で軽くかじってみる。
液漏れが全然止まらないので、姉さんの中を愛情込めてこすってあげた。
どうしてか液漏れがさらに酷くなったけど、気にしない!
「はぁぁぁぁぁん……、ま、まーくん! 何してるの!」
ついに目を覚ました姉さんが顔を後に向けて俺をみた。
「姉さんのおしり☆」
「おしり☆、じゃないでしょ! あうん! ちょ、ちょっと!」
なにか照れた様子で顔を真っ赤にして怒る姉さんはかわいかったので、クリトリスを吸ってあげた。
当たり前だけどこんな魅力的な白くでっかい尻肉をちょっとやそっと怒られたくらいで
手放すわけはない。
だって、このお尻は、おれのもの! だれにもやんない。
「はひぃぃぃぃぃんんんんんん、……はぁはぁ、ダ、ダメよぉ、……はぁはぁ、……まーくん!」
目の色が快楽で飛びそうになりながら、姉さんはまだ抵抗した。
まったく姉さんは時々強情だからいけない。
「姉さんは俺のもの、このお尻も俺のもの、わかった?」
入れた指でざらついたところをこすりながら、クリトリスを舌の舐めあげて、軽く歯をたてた。
「ば、馬鹿ぁぁぁぁぁ、うはぁぁぁぁぁぁ、あうぅぅぅぅぅぅぅ」
姉さんの目がいってしまって、体がぶるぶると震える。
入れたくなって、顔を尻から離し、膝立ちで、尻に近づいた。肉棒は腹に付くほど元気だった。
肉棒を膣口にあてがって、食べたくなるような丸みを帯びた尻をわしづかんだ。
しみ一つない姉さんの背中とベッドでつぶされてはみ出た大きな胸がみえた。
それだけで、姉さんを後から犯す実感がわき、背筋を泡立たせるような電流が走った。
手のひらから伝わるすべすべで柔らかく弾力性が失われていない尻の感触に感動しながら、
肉棒をゆっくりと沈めていった。
「まーくんがぁぁぁぁぁぁ、またぁぁぁぁ、はいってくるのぉぉぉぉぉぉぉ」
背中が奇跡的な美しいラインを描いて反り返る。
肉棒を根元まで埋めると、姉さんの尻が俺の腰に密着して、最高の弾力を伝えてくれた。
姉さんの中は相変わらず俺を搾り取ろうとしてうごめいてくれる。
腰をつかんで、一番奥まで突き入れ、からみついてくる姉さんの中をこすりながら引き抜く
「へんなところがぁぁぁぁ、……あたるのぉぉぉぉぉぉ……あはぁぁぁぁぁぁぁ」
「姉さん、沙織や里香とできるだけけんかしないでね」
「あぁぁぁぁぁぁ、ばかぁぁぁばかぁぁぁぁぁぁぁ、あうぅぅぅぅぅぅぅ」
丁寧にお願いしたのに馬鹿って言われちゃったので、姉さんの中をかき混ぜてご機嫌をとった。
「頼むからそんなこといわないでよぉ。……姉さん大好きだからさ。愛してるから」
しれっときざったらしくて恥ずかしいセリフが口から滑り出る。やっぱり俺は最低らしい。
けれども姉さんの中は、その言葉に反応して、肉棒をぎゅうぎゅう締め付けた。
「まーくんはぁぁぁぁぁ、ひどぃぃぃぃぃぃ……ああああああぅぅぅぅ、ひどいよぉぉぉぉぉぉぉ」
泣き叫びながらも姉さんは腰を振り、姉さんの中は俺の肉棒を離すまいとした。
今度は一切止めなかった。俺は姉さんの背中に上体をかぶせて、
背筋を弓なりにそらせて喘ぐ姉さんの口を背後から奪う。
「ほんとうだよ。……俺の大好きな姉さん。……お尻も唇もおっぱいも……」
腰使いにあわせて揺れる胸をすくい取って手のひらで覆った。はみ出た肉が指にからみついた。
「全部……姉さんのお腹も全部……俺のものにしちゃうから。もう離してやんないから」
「あああああああああああああああああああ」
姉さんが唇を離して、震えながらさらに反り返って叫んだ。姉さんの中が肉棒を痛いほど引き絞る。
もう我慢できなくて渾身の力で打ち込んで、姉さんの奥をむさぼった。
「愛してる」
「いくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
焦点を失った目で涙を流しながら姉さんは叫び、声がとぎれても声なき声で快美を訴え、
唐突に意識を失った。
俺も全てが出て行きそうな勢いで姉さんの中に放ち続け、
やがて射精が終わるとその背に崩れ落ちた。
翌日、朝。
駅までの道は、悩み通しだった。だが俺にできることは真実を話すしかない。
悩んでも仕方がないことだった。
姉さんは、そんな俺を薄い笑いを浮かべながら見ているだけだ。
けれども姉さんが俺から離れる事もない。俺の腕に腕をからませ歩調を合わせて歩いていた。
朝起きたときから、姉さんは怒ってこそいなかったが、優しくもなかった。
コーヒーは濃く苦く、トーストにはバターを塗ってくれず、目玉焼きに醤油をかけてくれなかった。
鬼畜な事を要求して無理矢理通してしまったために文句を言える筋合いでもなかった。
仕方なく姉さんを傍らに伴いながらも、俺はひたすら無言で駅まで歩いた。
いつもなら駅で沙織と里香が俺を待っているはずだった。
それを考えると、俺は気分が重かった。
改札から少し離れた柱にもたれて、沙織はいつものように待っていた。
そしていつものように俺を見つけるといつものように彼女は笑顔を浮かべ、
すぐにいつもと違った不審な顔をした。
駆け寄った彼女は、俺の空いた手を取り、不審さ百パーセントの目で姉さんを眺めた。
俺に出来たことは、最低な事実を言葉を選びながら、沙織に伝えることだけだった。
いきさつを知った沙織は泣いた。俺は謝ることしか出来なかった。
「ごめんね、悪い弟で。……嫌になったら、すぐに捨てていいのよ、こんな子は」
姉さんが気の毒そうな声と顔で、沙織を慰める。
その唇のはしにわずかに笑みが浮かんでいるのを俺は見た。
しかし俺に言える言葉があるはずもない。下手な慰めはただのお為ごかしにしかならない。
しかし沙織はすぐに泣くのを止めて、顔を引き締め涙を拭いた。
「……でも矢代くんは、私と別れるって言わなかったですね?」
「え? ええ。ほんとに馬鹿な弟で」
姉さんが焦ったように言葉をとりつくろった。沙織はそれに頓着せず静かに言葉を続けた。
「なら、私も別れません。……ほんとはお姉さんの矢代くんに対する怒り方、
おかしいって思いました」
姉さんが沙織の言葉で顔に驚きの表情を浮かべる。
「目が女でした。好きな人を奪われたような目をしてました。
そして矢代くんは無節操に女の人にちょっかい出す人じゃないです。
だから……失礼ですけど……お姉さんが誘ったんですよね?」
沙織の目が姉さんの目を鋭く見つめる。
「……十年、家族として過ごして、その後親の離婚で別れて五年。
ずっと姉と慕ってくれて、そして支えてくれた大事な弟なの。
それをどこからともなくあらわれた泥棒猫なんかに、はいどうぞって渡せるって思う?」
姉さんも目に危険な光をちらつかせて、沙織を見返した。
「十年だろうと、家族だろうと、私が矢代くんの一番初めなんです。
私が矢代くんの最初の女なんです。
それを横取りするような、しかもほんとは他人なのに家族のふりをして誘惑する女に、
渡しちゃう方が馬鹿ですから。
私、思うんですけど、お姉さんには、もっとふさわしい年齢の男の人が
いいんじゃないでしょうかって?」
沙織はもう泣いていなかった。静かにしかし一歩も引かない覚悟で姉さんに立ち向かっていた。
「そう……馬鹿な娘ね。あなたぐらいならいくらでもかっこいい男の子が恋人になるでしょうに」
「お姉さんこそ、矢代くんに構っていたら、婚期を逃しておばさんになってしまいますよ?」
けんかしないでくれって言ったつもりだがなぁ、と部外者にされた俺はそんなことを考えながら
彼女らを待っていた。
結局けんかを終わらせたのは時間だった。
電車に乗る時間が迫っていて、俺は強引に改札内へと二人を追い立てた。
里香は、話を聞くと俺の頬をはった。
「ひどいよっ」
里香はいつもホームで待っている。沙織と姉さんを連れてホームに上がった俺を、
里香は驚きの目で見た。
そして俺はやはり最低な事実を話したのだ。
「矢代くんを叩かないでください! 矢代くんを誘惑した中塚さんが
そんなことを言える立場ですかっ!」
吐き捨てるように沙織がかみつく。
「ごめんなさい、ほんとに酷い弟で。あなたのようないい娘は、
もう弟に関わらない方が良いと思うわ」
姉さんは沙織の時に増して丁寧な口調で里香に語りかけた。
だが里香は沙織も姉さんも完全に無視した。
「お姉さんに今すぐ謝って、なかったことにしてもらって!
一夜の過ちでしたって言って、関係を断ち切って」
「一夜の過ちって……」
「ちょっと待ちなさい! 何が一夜の過ちよ。私達は結ばれるべくして結ばれたのよ。
あなたのように突然やってきて略奪して、恋人面した浅い関係じゃないわけ。わかる?」
「いいえ、全然わかりません!」
姉さんの咆吼に、里香は眼鏡を光らせ、その向こうから敵意と決意を込めて姉さんを睨んだ。
「私と矢代くんは、お互い、本当に必要としあった仲なんです。
そこの変態女や、どこかの姉弟ごっこの姉気取りな女が、いやらしい体で誘惑するから
いけないんです。
そんな贅肉だらけのいやらしい体でも、好きだっていう男の人は多いでしょうから、
矢代くん以外を誘惑してください。
矢代くんは、私と本当のパートナーになるべきなんです」
「姉弟ごっこ? よくも言ってくれたわね。まーくんの優しさにほだされただけのくせに」
「自分勝手な正義ばっかり振りかざして、周りの人にそっぽむかれた人がよく言いますね、まったく」
……俺はこの時ばかりは、この私鉄のダイヤを守る努力に、心の底から感謝をした。
この恐るべき三つどもえの対立が、とにもかくにも回避されたのは、
いつも乗る電車が時間通り入線してきたからに過ぎなかった。
そして車内で、俺は三人の女にはさまれた。
彼女らの体はたとえようもなく熱く柔らかだった。だが雰囲気はドライアイスより冷たく固かった。
魂が削れてゆくとはこのことかと、俺は実感した。
そしてなぜか姉さんは、俺達と同じ駅で降り、同じ出口から出て、同じ道を歩んだ。
まるで少し距離を開けて歩く沙織や里香のごとく、姉さんも少し距離を開けて同じ方向に歩いた。
「ね、姉さん? どうしてこっちに?」
「ん? 後でわかるから。今は秘密よ」
そういうと姉さんはそれ以降口を開かず、やがて驚愕する俺達を尻目に、
俺達の学校の中に消えていった。
俺達三人は、ただ顔を見合わせるだけだった。
「矢代、ちょっと話があるんだ」
「なんだ? 吾妻が俺に用って?」
「内緒の話なんだ。昼休み、俺についてきてくれ。いいな?」
教室に入るとすぐに吾妻がやってきた。そして言った言葉がこれだった。
強引な話に、さすがに少し文句を言う。
「……ここで話せないのか?」
「俺は構わないが、お前達がやばいぜ?
俺は優しくて気が利くからな、ちゃんと内緒の話にしてやるよ」
言い方はともかく何らかの意図はあるらしい。
「……わかった。昼休みだな? しかし、いったいなんなんだ?……」
だが吾妻はそれに答えず席に戻っていく。
少しばかり嫌な気分で始まった一日は、ホームルームの始まりでさらに変転を迎えた。
「入院されました細山先生の代わりに、しばらく二年の英語を担当することになった
大和田美春(おおわだ・みはる)先生です」
教頭の紹介でクラスに歓声がわく。きりっとしたキャリア美人的な女性教師が入ってくれば
そりゃ男どもは騒ぐだろう。
調子に乗ってお定まりのスリーサイズを聞く奴がいても、
それをにこやかにいなせばそれも騒ぎになる。
少しきついような容貌も、話し出せば穏やかでなにより笑えば花が咲くような雰囲気を与える。
女子ですら、少し喜んでいた。喜んでいないのは、クラスで三人だけ。
俺と沙織と里香は、その女教師を紹介される前から知っていた。
会ったのはついさっき、登校する道で。
そう、姉さんが女教師になって俺達の前に現れていた。
「先生、恋人はいますかぁ?」
何も知らないお調子者の男子生徒がそう聞いた。
「ええ、います。とても悪くて愛しい人が」
そういうと姉さんは顔に喜びの色を表し、手を胸にあて頬を染めながら、そう答える。
その姿は、俺ですら鼓動を跳ね上げるほどの色気にあふれ、少しの間、クラスに沈黙をもたらした。
やがてどよめきながら盛り上がる教室の中で、俺は視線のレーザービームを二本浴びることになる。
いわば、人を射殺せそうな視線という奴だ。
出所は見なくてもわかる。そちらを見る気など微塵もおきなかった。
いろいろとたまらなくなって顔を伏せようとした俺を、姉さんが見つけてウィンクをした。
女二人の視線レーザーの出力が増強された。
焦げて風穴が開いたのは、俺の心だった。
昼休みに入るとすぐに、吾妻は俺を視線だけで促した。
しぶしぶと立ち上がり、吾妻の後をついていく。
しかし教室を出たところで、吾妻は一人の女生徒に捕まっていた。
「しつこいな。俺の前に現れないでくれって言わなかったか?」
扉のとこで聞こえた低いが険のある吾妻の声に、俺は思わず立ち止まる。
相手は、清楚で小柄な日本人形的な整い方をした女生徒だった。
だけど、先輩と呼びかける口調から見て一年らしい。
「俺はおまえに興味ないんだ。前にそう言ったよな? もうつきまとわないでくれとも言ったよな?」
そう言い放つ吾妻の視点が、さっと下を見て戻った。
女生徒の手には弁当とおぼしき四角い包みがある。
「わかったら、どいてくれ。俺はこいつと話があるんだ」
吾妻が顎で俺を指し示し、その女生徒の視線が俺を見た。
訳もなく、俺はぞっとした。暗く虚ろで濁った目だった。
そこに憎悪という光がぽつんとともっている。
なぜそんな感情を向けられるのか、まったくわからなかった。
「おい、矢代。その女は放って置け」
「し、しかし……」
「おまえには関係ないだろ。いいから来い!」
いらだった吾妻の声に押されて、俺は女生徒の前を通り過ぎて、吾妻を追った。
あの暗い目が俺を見ているのをはっきり感じ、背中の毛が逆立つ。
今すぐ引き返して、沙織や里香や姉さんに抱きつきたくなった。
もちろん、そんな事が出来るはずもなく、俺は吾妻の後を追った。
数分後、俺達は四畳程度の小さな部屋にいた。
中は埃だらけで、訳の分からないガラクタが置かれている。
日光が差し込んでくることだけが唯一の救いだった。
ドアには汚い紙が目隠し代わりに張り付けられていた。
これもやっぱり埃だらけの丸椅子を、吾妻が二つがらくたの中から引っぱり出し、
埃を払って俺達はそれぞれ向かい合って腰掛けた。
やがて吾妻は俺の物問いたげな視線を察知して話をはじめた。
「さっきの女は、これからの話には関係ない。忘れてくれ」
不機嫌と決まり悪そうな目をした吾妻に、俺は肩をすくめて見せた。
吾妻は一年の時から既に六人以上の女とつきあっては別れることを繰り返していた。
少なくとも噂の上では。
だからそんなものに首を突っ込むつもりはさらさらなかった。
それが確認できればあの女生徒のことなど俺にとってはどうでもよかった。
「じゃあ、話って?」
俺の言葉に、吾妻はいつもの余裕を取り戻した。
にやにや笑いが復活し、いつものいたずらっぽい目の光が戻る
「おまえ、学校で中塚とやってただろ? 体育祭の前日」
吾妻の単刀直入にも度が過ぎる言葉で、自分でも顔色が変わるのが自覚できた。
まさしく血が引くってやつだ。
無論、言葉など出るはずもなく、ただ吾妻を凝視して息を荒くするだけだ。
「副委員長に聞いた。お前、中塚を慰めに行ったんだって?
そして私物を体育祭前日に持って帰るって言ってたのに次の日に持って帰っていったってな」
息が止まりそうになった。状況証拠は限りなく黒い。実際黒なのだが。
「まあさ、別に他人がセックスしようがどうでもいいんだ。証拠があるわけじゃないしな」
そういうと吾妻は全てわかっているといわんばかりににやりと笑った。
「たださ、おまえ、片桐とも付き合っているよな? 電車の中でくっついているだろ?」
たたみかける追求に、むしろ考えることが出来なくなって俺の表情は凍り付いた。
「真面目な優等生の矢代が、女を二股かけてる……これを教室で言わないあたり、
俺って優しいだろ? な?」
吾妻の笑い顔が、俺に覆い被さってくるような幻影に襲われる。
ついにこの時が来た、そう思った。
悪事の露見が、恐れと共に安堵や解放感すらもたらしたのは、意外だった。
だが、錯乱することも自暴自棄になることも俺には許されていなかった。
沙織を、里香を、そして姉さんを、守らなければならない。
頼りなく震えそうになる膝を押さえつけ、歯を強く噛みしめて、ひたすらに思考する。
それは一匹狼を気取っていた俺が始めて行う、守る戦いで、かかっているのは、彼女達の人生。
その重さが叫びだしそうな心を押さえつけた。
覚悟を決め、逆襲の機会をうかがい、俺は吾妻の目を見据えるのだった。 |