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ご愁傷様、矢代君

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第6話 第7話      


1

 尻に、筋張った手が張り付き、うごめいていた。
  その尻は俺の高校の女生徒用制服のスカートに包まれている。
  手は、俺の手ではない。
  そして尻の持ち主の女生徒は顔をこわばらせたまま、身じろぎ一つしない。
(ばか、振り払え!)
  声を出さずに目線で女生徒に語りかけてみたが、エスパーでもないので、俺の思いは伝わらない。
  もっとも、朝の大手私鉄の上り列車、しかも信号故障でのろのろ運転中と来れば、
混雑度は殺人クラスとなる。
  尻を動かそうにも思うほどは簡単じゃないはずだ。現に俺もすぐに側にいってやれない状況だ。
  不安と不快感で揺れる涙を浮かべた女生徒の目が俺を認めて、希望の光をともす。
  ついでにた・す・け・ての四文字も金魚の様にパクパクと開閉する口から読み取れた。
  女生徒の名は、片桐沙織(かたぎり・さおり)という。俺の同学年同クラスの女だ。
  顔立ちは綺麗で繊細だが、いつも小動物のようにびくびくおどおどとしている。
  表情を引き締めればもっとその綺麗さも周囲に認識されるだろうことは俺も確信している。
  しかし彼女の性格とそこからでる仕草は、彼女の美しさを大いに減じたうえで、
さらにどこか人の神経に障るものを感じさせた。
  例えば、常に上目遣いで人の顔色をうかがう大きな黒目がちの瞳が、
ハの字になっていかにも困ってますというふうに寄せられた細い眉毛がなぜかいらつく。
  あるいは小ぶりで整った鼻が、細く綺麗な桜色しているのに力ない笑いしか浮かべない口が、
やたらと細いイメージを与える顔と細い首の輪郭が気に入らない。
  それゆえ中学ではいじめられていたと聞くが、外見から与えるこの印象を考えれば
むべなるかなという感じだ。
  そのくせ、髪は思わず手に取りたくなるほどさらさらつやつやの絹のようなストレートで
小柄な背中の中程まで伸びている。
  彼女の前胸部はといえば、大きく扇情的に盛り上がっていて、尻もまたスカート越しだが、
魅力的に柔らかそうな曲線を描いている。
  なんというか、気が弱そうで付け入るのが容易でそのくせ顔も体も妙に陰性の色気が漂う女が、
片桐沙織だ。
  その陰性の色気と弱々しさを体と顔全体で表しているが故に、痴
漢を全力で引きつけている原因ともなっている。
  昨年高校に入学したときから、彼女が痴漢されているところに俺が何度となく出くわしたのは、
これが一番大きい理由だ。
  彼女の乗車駅が俺と同じと言うこともあるだろうが、
彼女が一度たりとも痴漢を自分で排除しなかったのもある。
  彼女は被害に遭うと、顔の表情を消して手を握りしめて、
声を上げることもなく体で振り払うこともなくただただひたすらに耐えた。
  そして俺は、彼女の目にうっすらと涙が浮かび、顔をうつむかせているのをみると、
たまらなく「彼女に」いらついた。
  そう、俺はいつも痴漢にではなく、理不尽に抗おうとしない片桐に、たまらなくいらつくのだ。
  彼女のそんな姿を見れば、初めは心の中で大声をだせと怒鳴りつけ、
次第にいつまでも我慢してろと毒づき、やがてその我慢強さにあきれて、最後にいらつくのだ。
  結局、俺自身が我慢できなくなるという、善意とはほど遠い理由で、
俺は彼女を助けにはいることになる。

「前方赤信号です。しばらく停車します」
  アナウンスとともに列車が揺れて、車内の人々が前方によろける。
  その瞬間を利用して、彼女の方に倒れかかりながら、彼女の手を乱暴に思いっきり引いた。
たぶんちょっと痛いと思う。
  だけど力を入れた甲斐があって、彼女の体が痴漢の側からするりと抜け出し、
俺の側に引き寄せられる。
「あ、ありがとう」
  そういうと彼女は俺の前に体を入れて、向かい合うようにたった。
  すぐに混雑した車内が俺と彼女を圧して、お互いの体を密着させる。
  それでまた俺はため息をつくことになった。
  片桐は痴漢から逃れて安心したのか俺から離れない。それは当然のことだ。
  だが問題は片桐の体だった。俺の精神衛生上にとても悪いのだ。
  ただでさえ、異性に密着されるといろいろと危ないことになるのに、
片桐ときたら俺の胸を二カ所ほど狂いそうなほど柔らかい肉で押してくれるのだ。
  そんなこちらの状況も知らず、痴漢から助け出すと彼女は必ず俺にくっついた。
  決して役得なんてものではなかった。
  そもそも俺は女性に強いわけもない。
それどころか俺は、胸を張って女は苦手だと公言してきたのだ。
  ゆえに彼女に密着されると逃げ出したくなる衝動と触ってしまいそうになる欲望、
そして下卑た欲望に対する自己嫌悪、それを押しとどめる理性が心を吹き荒れた
  俺はいつもそういった精神的暴風とそれを知られまいとする緊張に必死に耐えることとなる。
  そう言う意味で片桐はやっかいな女だった。
助ける前もやっかいで助けた後もさらにやっかいだった。
  今日もなんとか煩悩発生源から遠ざかろうと、俺は揺れにあわせてわずかに半歩後退する、
  だが片桐はそれを知ってか知らずか、さらに俺に体を押しつけ、
柔らかい肉が俺の胸板にすりつけられる。
  俺のため息はさらに深くなった。いっそ煩悩がため息と共に出て行ってくれないかと
盛大にため息をついた。
  だがそんなことが起こるわけもなく、もはや俺に出来ることは到着までの駅数を数えるだけだった。

「おはよう、矢代くん。さっそくで悪いんだけど、体育祭の資料、どこまでできて……ム?」
  混雑しきった地獄の通学電車を脱出したとき、時間はそんなに遅れていなかった。
  ホームに吐き出されるとこれ幸いと片桐と別れた。そして早足で学校を目指せば、
時間の遅れは最小限となって、予鈴に充分な余裕をもって校門をくぐった。
  しかし教室に入った途端、俺を待っていたらしい眼鏡をかけた女生徒が
ずんずんと足音高く寄ってくる。
  その上、挨拶もそこそこに要件を切り出し始めたので、
俺は鞄からファイルを引っ張り出し女の鼻先に突きだした。
  受け取った資料を女が開いて眺める間に、俺は解説を加える。
「備品数のチェックは先週。破損に入ってるのは修理すれば使えそうなのも入れてる。
でもどうせなら予算通して買った方がいいと思うけどな。
パイプイスは一応講堂のものも入れてあるけど、それをグラウンドで使う際は先生に確認してくれ。
スターターピストルは試射してない。来賓招待用の葉書文面は最終ページ」
  驚きの表情で資料をめくる女生徒を見て、俺は朝のモヤモヤがすこし晴れるのを感じた。
  この女生徒は中塚里香(なかつかりか)。クラス代表をしている。
  ショートカットのヘア、眼鏡で覆われている大きく理知的な瞳と通った鼻筋、
端正な口元は、才女の印象を周囲に与える。
  体も女性としては標準の身長に、そこそこの胸、太くはない腰、
そして小ぶりの尻に細く締まった脚が続く。
  その体を規定を完全に守った端正かつ清潔感あふれる制服姿で覆っている。
  中身もそれに違わないもので、学年上位の成績と清廉実直な優等生ぶりで
主に教師と生徒会から絶大な支持があった。
  反対に言えば彼女は一般生徒からみれば、かなり煙ったい女生徒でもある。
  クラスを仕切り、遠慮無い言葉をずばずばと投げつけ、学則にうるさい。
  そういう委員長的なキャラクターなので、へこませると結構面白いのだ。
  今のように驚きで口を開け、眼鏡を光らせながら資料を読んでいるような姿は、
興味深いものがある。
  とはいえ、そんな顔を見たいから資料作りを頑張ったのではなく、
面倒事をとっとと終わらせるために頑張ったのだ。
  ゆえにこの楽しみは余録に過ぎない。
「じゃあ、これでいいな?」
「え? ええ」
  その言葉と共に、中塚を置き去りにして自分の席につく。
  彼女と会話をすると余計な頼まれ事が増えるのだ。
というか彼女は俺を使い勝手がいい助っ人だと思ってる節がある。

「よう。朝から中塚をへこますとは、相変わらずさすがだな」
  その言葉と共に寄ってきたのは、吾妻亮、親友というには俺的には微妙な奴だった。
  それでもこいつは俺が会話を交わす数少ないクラスメイトではある。
  女達の紹介が続いたので、ここで手短に俺と吾妻の紹介をしておく。
  俺は矢代雅史(やしろまさふみ)、人からはおそらく協調性のない
成績だけのガリ勉だと思われているだろう。
  外見は、野暮ったく光るところのない中肉中背の男。
人望は無く、女性受けも悪く、友人も少ない。
  もっとも俺はそれを気にしていない。自分の性格が一匹狼であることは
小学校の時から自覚しているからだ。
  俺は正真正銘の欠陥人間で、とにかくこう団体生活に適応できないのだ。
  班を作れば、最後まで余る。フォークダンスでは手を繋ぐことを女に拒否されたので、
当日さぼって担任にどやされた。
  もちろんさぼったのは四年生の頃から中三まで毎年だ。
中学の頃は体育祭も文化祭も仮病でずる休みした。
  修学旅行では、最後に余った寄せ集めチームとなった。そこで集団行動する振りをして、
各自勝手なところに行った。
  そんな有様なので、他人と調子をあわせるという発想に乏しい。
だれかのご機嫌をとろうなどと思わないのだ。
  だから女達の間に入って気の利いた会話をしようとも思わない。
女と何を話して良いのかもわからない。
  そういうふうに女生徒と会話をする意志も能力もなく、会話をしなければ親密にもならない。
  ましてや、人に興味がないので他人を好きになることもない。
つまるところ俺は恋愛とか好きになる感情とかが理解できない。
  たぶん、俺の脳には恋愛機能がついていないのだろうと思う。そう言う意味でも欠陥人間だ。
  そんな俺にたいして、吾妻亮という男は実に対照的だ。万事そつなくうまくやるのが奴の特徴だ。
  奴の友人の話を聞いても、奴は昔から成績優秀な優等生でかつ、スポーツ万能でもあり、
必然的に女から非常にもてた。
  この高校にはいっても、成績優秀は変わらず、スポーツもサッカー部のストライカーだ。
  その上、やせぎすの長身で、顔も甘い二枚目で、物腰は自信にあふれている。
  ゆえに奴の周りには男女問わず人が取り巻いているのだが、
どういう訳か吾妻は時々俺に話しかけてくる。
  たぶん俺と吾妻はあまりに違いすぎるので、たまの会話が毒抜きになるのだろう。
「たまたまだ。時間が余ったから片付けていったら早く済んだだけさ」
「あの資料作りがたまたまで早くできるかよ。こんなことならお前をクラス代表にしとくんだったよ。
  うざい中塚より気楽にやってくれただろうにな」
「だ〜れが、うざいって?」
「さて、だれのことかな?」
  いつのまにか中塚が俺達に寄ってきて、額に小さな青筋をたてて会話を聞いていた。
  吾妻の言葉は当てつけだったらしい。吾妻は曖昧な笑いを浮かべてとぼけたが、
口には人の悪い笑みが張り付いている。

「どうした、中塚? 間違っているところがあったか?」
  見直しはしたはずだが漏れがあったのかと思い、俺は中塚に尋ねる。
  その言葉で中塚は表情を真顔に戻した。
「ううん。ざっと見たけど無い。そうじゃなくて、
  これだけ出来るならこれからも私を手伝って欲しいのよ」
  きた。
「その資料で、体育祭においては、委員でもないヒラとしての貢献分は果たしたと思うが?」
  まずは前哨戦。彼女に押し切られた際の論理を持ち出してみる。
「ええ。でもね矢代くんはクラブも執行部もクラ代もしてないでしょ? 同好会にも入ってないし」
「それは俺の事情。中塚に関係ないよ」
  突き放す俺の言葉に、中塚の顔がこわばる。が、なんとか気を取り直したらしい。
「矢代くんのそういう態度は、問題だと思う。そういうのでは、友達もできにくいし、
  恋人とかなんてもっとできないよ?
  矢代くん、才能あるし、優しいところもあるのに、
  そうやって人と壁を作るところがよくないと思う」
  眼鏡の奥から綺麗な瞳を俺に見据えて真面目に語る中塚に、すこしだけ俺はこそばゆくなった。
  中塚のまっすぐすぎるところが、ひねた俺にはくすぐったいのだ。吾妻も同じだったらしい。
「おやおや矢代。おまえ、性格にダメだしされてるぞ。
  いまのままじゃ年齢=彼女いない歴=高齢童貞だとさ」
「あー、この性格は俺の顔と同じく不治の病だ。だから恋人も結婚も楽しい青春も、
  俺には関係ないことだ。
  そんなものになんら期待していないよ。俺はこの学校で無事に三年過ぎて、
  卒業証書がもらえればそれで良いんだ」
  俺の言葉に吾妻は笑う。本気で語ったつもりだが、奴は冗談だと思ったのだろう。
もっともそれを訂正する義理はない。
  むしろ、本気が伝わったのは、中塚だった。
「矢代くん? それ本気? 私に言わせれば、矢代くんは何もせず勝手に壁をつくって
  あきらめてるだけ。不治の病?
  そんなの言い訳。臆病なだけ。……私、すこし矢代くんにむかついた。
  ニヒルなのが格好良いとでも思ってるわけ? ばっかじゃない?
  ニヒル気取るんだったら、最初から私の頼み断ればいいじゃない。
  矢代くんはね、自分で思っているより優しくてまっすぐな人なのよ。
  そうでなきゃこんな資料つくれない!」
  俺は肩をすくめた。中塚の声のトーンが上がり、瞳が少し潤みさえする。
  何が彼女の逆鱗に触れたのかはわからなかった。
俺としては生き方の違いを訴えたつもりだったのだが……。
  そう思いながら吾妻を見ると、奴も意外に真剣な目で俺をみていたりした。
「なんだよ?」
「いや、確かにおまえは一匹狼をきどるわりには、頼み事を引き受けるって思って」
「……おまえも中塚に毒されたのか?」
  だが、吾妻はそれに答えず、俺と中塚を何度か見比べ、やがてにやにや笑い出した。
  その視線に、中塚も口を閉じて微妙な表情で吾妻をみる。
「なーるほど。……中塚、まあ、頑張れ。おまえ、男を見る目はあると思うぜ」
「は?」
「な、何を言ってるのよ! そ、そういう変な勘ぐりはっ!」
  訳がわからない俺の隣で、中塚にしては珍しく湯気が出そうなほど真っ赤になって、
わめいていた。
「はいはい、わかったわかった、ツンデレ中塚。そろそろ授業が始まるぜ」
「ちょっと、待ちなさい……きゃあっ」

 自席の方に戻っていく吾妻に火を噴くような剣幕で追いかけようとした中塚の姿が突然消えた。
  代わりに立っていたのは……片桐だった。衝突して中塚が転倒したと理解するには
三秒ほど必要とした。
「ごめんなさいごめんなさい。だ、だいじょうぶですか?」
  どこか抜けたような、そして何か神経にさわる謝り方で、彼女はなんども頭を下げた。
綺麗な黒髪が地面に付き添うなほど何度も垂れ下がる
  だが、床に倒れた中塚に彼女が手をさしのべることはなく、ただごめんなさいを繰り返した。
  業を煮やして俺は席から体を乗り出して中塚を助け起こした。
「大丈夫か? 痛むところがあるなら保健室に連れて行くが?」
  礼を言いながら中塚が体をさすりつつ立ち上がった。
「……ん、だいじょーぶ。……ちょっと、もう、気をつけてよ!」
「そう言うな。片桐はさっきから謝っている」 
  その言葉で中塚は眼鏡を直して、片桐をみる。片桐はまたもや頭をぺこぺこと下げ始めた。
  過剰に謝る片桐の姿がなにか俺のいらつきを誘って、俺は片桐や中塚から視線をそらした
「もう、いいよ。ぶつかったの、わざとじゃないし」
  中塚の落ち着いた言葉と共に女二人はそれぞれ自席に戻っていき、俺の席に平穏が戻ってきた。
(どうして女が絡むと、物事はこうやかましく複雑になるんだろう?)
  ため息をついて、教科書を引っ張り出して広げる。
  授業になっても吾妻がにやにや笑いを浮かべながら、またもや俺と中塚を見比べている。
  中塚もなぜか俺をちらちら見ていて、あまつさえ片桐すら俺を時々みていた。
  朝、電車のポイントが動かなくなったように、俺の歯車も今日は調子が悪いらしい。
  頭を振って授業に集中する。
  女に見られているからと言って、特別なことが起きるわけでもない。
  そんな当たり前のことを思い出したのだ。
  過剰な自意識のみっともなさに心の中で苦笑いを浮かべる。
  俺は何もしていないのだから、何かが起きるわけもない。
  そう思い直してざわつく心を押さえつけた。

 もちろん俺はこのとき完璧に間違っていた。
  それを思い知るには、昼休みのイベントと放課後までの時間が必要だった。

 飯は一人で食べるのが信条だ。味に集中できて自分のペースで食える。
気楽で考え事に浸っていても問題ない。
  それは小学校の給食の時からの俺のルールだ。変えることはありえない。
  ……そう思っていたのだが、あっさりとお邪魔な女によって信条は破られた。
十年ばかり守ってきたのだが。
「何? 私のお弁当分けて欲しいの? その肉団子と交換ならいいけど?」
  俺の正面に座って弁当を広げ、とぼけた事を言うのは、言うまでもなく中塚だ。
「里香が肉団子食べたいだけでしょう? 矢代くん、困ってるよぉ?」
「違う違う、お弁当で矢代くんを餌付けして、里香の仕事に引き込む魂胆なんだよ」
「ついでに、愛も深めあったりして」
「な、何言ってるのよ! 矢代くんとちゃんと話す良い機会だからって話したでしょう!」
  焦ったように中塚は否定したが、友人の女二名は笑いを浮かべながら
あっさりと無視して話を続けた。
「でも里香が男子と一緒にご飯を食べるなんて画期的だよね」
「うん。すごい進歩だよ。やっぱり誰にでも春は来るんだよ」
「ば、ばっか! そんなのじゃ」
「矢代くん、里香はね、突っ走り系でそのくせすぐ落ち込む子だけど、根は良い子だから」
「はぁ」
  せっかくのAランチなのにもう味がわからない。
愛想笑いをして相づちをうつだけで気力を総動員しているせいだ。
  中塚は、一人で飯を堪能していた俺の対面にいきなり座ったあげく、
友人どもを俺の横と斜めに座らせた。
  つまり四人掛けの机で、俺は三人の女に囲まれて飯を食うという、あり得ない状態に陥ったのだ。
  中塚一人ならば、苦情を言って席を替わることも出来た。
  しかしこの状態でそんな大人げないことをして、罪のない中塚の友人達に嫌な気分をさせるのは、
ためらわれた。
  俺が一人で気兼ねなく飯を食う権利があるように、
彼女たちもしゃべりながら楽しく飯を食う権利はある。
  全ては無辜の人間を巻き込む中塚が悪いのだ。
「それで中塚さん、話ってなんだい?」
  煮えくりかえる思いを笑顔で隠して、明るく優しい口調でとっとと本題に入りやがれと、
中塚に催促をした。
  じぶんで中塚につけた「さん」という敬称で、鳥肌もたった。
俺はこのとき紛れもなく自分をとても偽っていたと思う。
「うん、朝の話なんだけどね。やっぱり矢代くんに手伝って欲しいなって」
  彼女もやたらと明るく爽やかに振る舞っていた。中塚の友人達がにやつきながら俺達を眺めている。
「だけどなぁ」
「……確かに手伝ってもらいたいのに交換条件なんにもなしというのは悪いとおもったの。
今までもちょこちょこ助けてもらってたし」
  話の雲行きが変わり、俺は首をかしげた。
「交換条件?」
「ええ」
  中塚がびっくりするほど優しく明るい笑顔を浮かべる。そのことに俺はとまどいを覚えた。

 彼女の弁当のおかず入れから、いくつかの料理が取り出され、俺のA定食の皿に載せられた。
  そして肉団子が取り上げられ、彼女の口に放り込まれた。
  幸せそうな表情で肉団子を頬張る彼女を、生温かい視線で見守ってやった。
  やがて口から肉団子が消えた頃に、彼女は話の続きを始めた。
「お金をあげることなんてできないし、矢代くんは私より成績が良いから
  勉強を見てあげるとかもできないよね。
  だから私にできることを考えたらね、これになったの。食べてみて? これ私が作ったの」
  そういうと彼女は、俺の皿の上の彼女の料理を食べるように勧めた。
  一つを箸でつまんで口に入れる。上品なだしで作った繊細な味が舌に広がる。
「……うまい」
「よかったぁ! 矢代くんの好みわからなかったからちょっと不安だったんだよ」
  思わず漏らした俺の賛辞に中塚は目を糸のようにして満面に笑みを浮かべた。
  こればかりは偽りなくうれしそうな顔だった。
「それでね、仕事を手伝ってくれたら、私の手作り弁当をご馳走するよ。
もちろん一回だけじゃなくて、手伝ってくれたらその度ごとにね? どう?」
  正直、魅力的な提案だった。すでに定食の味など飽きている。
  俺の家はといえば、もう十年も前からすでに家庭じゃない。
  最後にお袋が真面目に飯を作ったのは、八年も前の話だ。
  しかしこの魅力的な提案はあくまでも体育祭、よくて文化祭ぐらいまでで、
来年彼女とクラスが別れれば消える話だ。
  なのに手作り料理で舌を馴らしてしまうと後がつらい。
そういう青春は俺には不要というかむしろ有害だ。
「……申し出はありがたいけど、中塚にそこまでしてもらうことはないし……」
「えー? 断っちゃうの?」
「え?」
  反撃は思わぬところからでた。俺の横に座っていた中塚の友人Bだ。
  ……別に仮名にする必然性があるのではなくて、あんまり話したことのない女の名前など
記憶していないに過ぎない。
「矢代くんは女の子の手作り弁当の意味、わかってないよね?」
  斜め前に座る友人Aが俺を軽くにらむ。
「し、しかし、俺のことでそんな手間をかける必要は……」
「お弁当なんて一人分も二人分も手間はたいして変わらないよ。
  そんなことで矢代くんは里香の気持ちを踏みにじるの?」
  またもや友人Bがコメントする。先ほどまでの黄色い笑い声と会話はどことやら、
卓上はなにやら俺の糾弾会となりつつあった。
「ふ、踏みにじるって、そんなつもりはない」
「じゃあ、受けたらいいじゃない。それとも誰か好きな人がいるから里香のお弁当いらないの?」
  友人Aがにたりと笑う。
「そんなのいるわけないだろ。そういうことじゃなくてさ、なんというかそのだな……」
「定食のお金も浮くし、おいしいお弁当食べられるし、いったい何が不満なの?」
  友人Bが納得行かないって顔で俺をにらむ。

「……そのさ、だからさ、中塚が誤解されたらかわいそうだろ?
  中塚だって好きなやつがいるだろう?
  なのに俺が中塚の弁当食べて、その好きな奴に誤解されたらどうするんだ?
  俺は責任とれないぞ?」
  その言葉で女三人は驚きの表情で顔を見合わせた。
  やがて友人AとBが、くすくすと笑い出し、中塚は曖昧な力の抜けた笑いを浮かべた。
「な、なんなんだ? 何がそんなにおかしいんだよ?」
「や、矢代くんっておっかしいぃ」
「ほんと、ピュアっていうかなんというか」
  そんな女達をしり目に、中塚は微笑む。
「とにかく、お弁当作ってあげるから、矢代くんは私を手伝ってくれるよね?
  頑張ってくれたらボーナスもあるから」
「ボーナス?」
「うん。今は言えないけど」
  若干迷いはしたものの、答は限定されていた。くすくす笑いながらも友人AとBの視線は
俺に注がれていたからもある。
  だが何より中塚の目がやけに真剣な、まるで祈るような光を宿していて、俺はその光に屈した。
「わかったよ。ありがたくお弁当食べさせていただきます。……はぁ」
「そんなため息付かないでよ? 腕によりをかけておいしいお弁当たべさせてあげるから」
「そうそう、里香ってこう見えて意外と家庭的だしね」
「こう見えてって、どういう意味?」
  黄色い声で笑い合う女達をみていると、押し切られて中塚の仕事を手伝うのも、
まあ悪くはないかという気になった。
  いずれにせよ、これは体育祭が終わるまでの話だ。
  皿に載った彼女の弁当の品を口に放り込みながら、たまには美食もいいだろうと思った。
「じゃあ、悪いけど食い終わったんで、先に戻るから」
「あ? うん、じゃあ矢代くん、今日の放課後からさっそくお願い」
「オッケ。せいぜいがんばるよ」
  そういうと俺は空になった皿が載ったトレイをもって立ち上がり、中塚と友人達に軽く手を振る。
  そして緊張に満ちたテーブルから抜け出したところで、
すぐ隣のテーブルに片桐がいたのに気が付いた。
  彼女は俺に気付いていたようで、そっと目礼をよこし、俺も軽く手を挙げてそれに答えた。
  それだけで片桐は視線を外し、俺もトレイを持って返却棚に向かう。
  一人で食べている片桐の姿が視界に入り、
やっぱり食事は一人で食うに限ると改めて俺は思い直した。
  ……この時、俺は迂闊にも忘れていた。
  同じクラスの女に弁当を作って来てもらうと言うことは、その女と一緒に飯を食うと言うことに。
  あまりに想定外なことだったから、そんな単純なことにも思い当たらなかったのだ。
  だが、それは単に序章に過ぎない。俺の人生の転換点、この日の放課後が迫っていたのだ。
  このときの俺は、それに気付かない。ただ無邪気に今日と同じ明日が来ると思いこんでいた。

「さすがねー、矢代くんがやると何でもスムーズにすすむもんだねー」
「去年までの資料をみて、わからないところを三年生に聞きまくって、まとめただけだ」
「でも、進み具合はうちのクラスが一番進んでるよ。
  クラスのみんなのクラブ所属表を作っておいて正解だったね
  クラス対抗の競技出場割り振りたいへんだもんね。
  先輩達も割り振り案出来るのが早いって驚いてたよ?」
「出場選手の編成は、ホームルームで最終的に承認を得ておく必要がある。
  早めに決めておけばクラブ対抗競技との調整もやりやすくなるしな」
「うん、じゃー早速明日のホームルームの議題にするよ。ほんと、今日は助かったよ。ありがとう」
  そういうとぴょこんと中塚が頭を下げた。
仕事が進んで上機嫌な中塚はこういってはなんだが意外と可愛かった。
  口やかましくていらいらしている彼女を見る方が多かったので、
こんな表情を見ると、手伝うのも悪くはないなどと思ったりもする。
  とはいえ、一応体育祭までの話だ。
  俺は体育祭実行委員会室で資料をまとめるとカバンにしまおうとして、
あたりを見回した。カバンがない。
「うわ、しまった。カバン教室だったか」
「どうしたの?」
  カバンに資料をしまい込んで、肩にかけた中塚が俺を見た。
「カバンを教室に置きっぱなしにした。……教室によって帰るよ」
  外は既にオレンジの光にまみれていて、まもなく夜闇が降りてくるのを予告していた。
「あららら。私、ここで待ってよっか?」
「……中塚、おまえ、初めは何かの用事に間に合わないって焦っていただろ?」
  その指摘に上機嫌に細められていた目が見開かれ、開けられた口に手が添えられる。
「うわぁ、そうだった! ……矢代くんごめん!
  お返しは明日のお弁当でするから。ほんとうにごめん!」
「ああ、はいはい。俺のことは良いから早く帰りなって」
  その言葉と共に携帯電話で時間を確認していた中塚は部屋の出口に突進した。
  そして出口で再び俺に振り返り、
「矢代くん、明日はお昼まで変なもの食べたらダメだからね。
  とびっきりのお弁当つくってあげるんだからね。約束だからね」
「わかったって! いいから早く帰れ!」
「うぅぅ、そんな言い方は酷い。笑顔でバイバイって言ってよ」
  追い立てる俺の言葉に、なにか中塚は変にかわいらしいすね方をした。
「しょーがねー奴だ。……また明日な」
  中塚のリクエストに応え、笑顔を浮かべて小さく手を振ってやる。
「うん、また明日」
  赤い光の中で中塚の顔が妙にかわいらしく朱に染まった。……たぶん光線の加減なのだろう。
  数秒後には彼女の姿が消え、さらに一分後には校舎を出て行く中塚の姿が見えた。
  俺はその後ろ姿を見送ると、暗さをましつつある校舎を、自分の教室に向かって歩いた。

 教室の扉を開け、中が暗いから壁の電灯のスイッチをまさぐってつけ、後ろ手に扉を閉める。
  蛍光管が瞬き、赤黒いオレンジ色の世界がたちまち脱色されて、
白色光の無機質さによってお馴染みの教室に戻る。
  ……いや、戻らなかった。
  色は確かに戻ったが、教室の状況は……およそ非現実的だった。
  その非現実は俺の席に座り、入ってきた俺を驚きの目で凝視していた。
  制服の上着は、胸の部分がはだけられて、下着がずらされ、
でかくてとてもやわらかそうな肉がはみでている。
  その肉を乳房と言うことをさすがの俺も知っていたが、生で見るのは初めてだった。
……この際、母や姉のものは勘定から外すとして。
  問題なのは、その肉を持ち主自身がわしづかんで先端をつまんでいることだ。
  問題は他にもある。
  問題の人物の頭は、俺の机にのせられていた。
正確には机の上に載せられた俺の汗にまみれた体操服を口にくわえていた。
  下半身を見ると一応スカートは履いているが、まくり上げられて、
とても女の股間を隠す役目を果たしていないことだ。
  さらに最終防壁となる下着はない。それらしいものはその女の左足に丸くなって
引っかかっている白いものと思われた。
  とんでもなく問題なのは、股間に差し込まれた手が何かを握り、
性器とおぼしき部分に押し当てていることだ。
  その握られた何かには見覚えがある。……たぶんあれは、俺の携帯電話……。
  そして一番の問題は、そのような非現実を演出しながら、
俺の登場に驚きまくっている人物が、顔見知りということだ。
  ……つまり片桐沙織は、俺の体操服を口にくわえながら、自らの胸を揉み、
下着をおろしてむき出しの股間に俺の携帯電話をおしつけていた。
  とても現実の光景ではなかった。三流エロ作家だって
もっとましなシチュエーションを妄想するだろう。
  だが呆然と見合う俺達の間で、先に変化を見せたのは、片桐だった。
  震えだして、やがてぼろぼろと大粒の涙が瞳からいくつもこぼれ落ちて、俺の体操服を濡らした。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
  いつもは聞いているといらいらするこの謝り方も、予想外の事態でふっとんだ頭には、
妙に現実感があって俺をほっとさせた。
  だが依然俺は指一本動かせず、声一つたてられずに立ちつくすばかりだった。
  やがて彼女が泣きながら立ち上がり、俺によろよろと歩み寄り始める。
「……お、お願いです、避けないでください。嫌わないでください。お願いします」
  性別逆なら普通に避けられて変態呼ばわりされて破滅なのだがと、近寄る彼女を前に、
俺は頭は空転して無意味な思考を続けていた。
  突然、彼女の姿が消えた。蛙がつぶれるような音が床から聞こえる。
  視点を下げると、片桐が床に大の字でうつぶせになっていた。……転んだらしい。
  それで金縛りのような状態が解けた。
「だ、だいじょうぶかよ?」
  駆け寄って手を伸ばし、片桐を助け起こす。近くで見ると意外と綺麗な顔なのだが、
鼻と額が打撲で赤くなっていて間抜けだった。
  だが、涙で濡れた目には、珍しく強い光が宿っていた。
そして助け起こした俺の手を片桐はしっかりと抱え込んだ。
「ちょ、ちょっと? どうしたんだよ!」
「お願いです。話を聞いてください。突き放さないでください」
  それを繰り返しながら、片桐はむき出しの胸や柔らかな内股、
そして濡れた陰毛と性器らしきものが俺の手にあたるのも構わず、
さらに全身で俺の右手にからみついた。
  ふりほどこうと手を動かすと、胸の谷間に挟み込んで抱え、太腿で締め付ける。
  そして顔を俺の肩におしつけ、お願いを繰り返した。
  俺はさらに数度腕を抜こうとする試みを繰り返して、ついに片桐に根負けすることとなった。

2

 片桐は服を直しているときも、俺がカバンに資料を入れてるときも、
教室の電灯を消して扉を閉めるときも、一切俺の手を離さなかった。
服のボタンを止めるときなんか、俺の腕に腕を絡ませて、
さらに太腿で手を挟み込んでボタンを素早くとめたぐらいだ。
学校を出ても、駅について電車に乗っても、降りて改札をくぐっても、
彼女は俺の手を抱え込んで密着し、決して放そうとはしなかった。
「……逃げないからさ、いい加減放してくれないか?」
さすがにあきれて、片桐に言ったが、彼女は無言で首を横に振る。
綺麗と言える女に密着されて嬉しくないって言えば嘘になる。
しかし元となる出来事があれならば、やはり困るほうが圧倒的に大きい。
脳天気にうれしがってばかりはいられないのだ。
「ふう……まったく。……で、どこでお前の話を聞けばいい? マックでいいか? ドトール?」
訳のわからなさにため息をついて、俺は駅の出口に並ぶ店をぐるりと眺めた。
女受けする店なんか知らないので、適当なファーストフード店をあげた。
吾妻ならこういうときはセンスのいい店を選ぶんだろうと思ったりもする。
だが、片桐はただ首を振るだけだった。目の前に並ぶ店には興味がないらしい。
「じゃあ、どの店がいい? 悪いけど俺そんなに金がないぜ」
対案なしに拒絶だけされてすこし嫌気がさしたので、俺の口調がわずかに荒れる。
空腹なのもあった。
「……矢代くんの……おうちで……」
消え入りそうな声で片桐がつぶやいた。彼女の視線は地面に落ちたまま。
「俺の家? だめだめ。今、家には誰もいないから」
別に片桐を襲わない自信はある。
ただあんな事があった以上、きちんと一線を引いておく必要があると考えたのだ。
正直にいえば、片桐の意図が読めず、二人きりというのに漠然とした不安を感じている。
今のこの片桐が腕にしがみついている状態にすら、俺は納得していない部分があった。
だがそれをそのまま言うのは片桐に厳しすぎる気がして、
俺はもう少しわかりやすい理由を言うことにした。
「そうでなくても俺は、おまえにあんなところ見せつけられてるんだ。
俺が変な気を起こしたら、レイプされるかもよ?
わかる? ご・う・か・んだよ? 助けを求めても誰もいないし、犯されてから泣いても遅いよ。
だから俺の家はやめとけって。
静かに話したいというならそういう店を探すから」
「わ、私が、いやらしいから、矢代くんは私をおうちにあげたくないんですね」
しかし返ってきた答は遙か斜め上で、俺は馬鹿みたいに口をぽかんと開けてしまった。
「はぁ? あのさ? 女が他に誰もいない男の家に上がり込む意味ってわかってるか?」
その言葉で片桐の顔が初めて俺のほうを向いた。こくんと一つうなずく。
「……なにをされてもいいです。……私がしてほしいから」
綺麗に頭が真っ白になった。俺の持っていた女に関する概念や理解を全て超えたためだ。
思考がエラーを吐き出して止まる。
致命的エラー、ゼロで除算しましたというダイアログが出そうだった。
「……聞き間違いか?」
「矢代くんが好きだから、矢代くんなら……ひどいことされてもいいです。
嫌われて、避けられるくらいなら、……矢代くんに……おそわれたい……」
顔を真っ赤にして目を潤ませその言葉を吐き出す片桐は、
いつもの彼女ではなく……たとえようもなく妖艶だった。
俺はその顔をただ呆然と眺めることしか出来なかった。

 自分の家への道なのに、俺を引っ張っているのはなぜか片桐だった。
先ほどまでと違い、彼女は笑顔で生き生きと歩き、俺をぐいぐい引っ張った。
やがて俺の家が見えてきて、門にたどりついた。……俺の家を知っていたらしい。
門をあけたのも片桐で、玄関の前では、うれしさを抑えきれないように俺の顔を見上げたりする。
「……なあ、考えなおす気は」
「ないです」
この女がこれだけはっきりとものを言ったのを俺は初めて見た。
それに気圧されて、差し込んでいた鍵をひねり、扉を開けた。
自宅に帰っただけなのに、なにか取り返しのつかないような事をしている、
そんな気分に俺は襲われていた。

「ほんとに誰もいないんですね」
片桐は俺のベッドに寝ころび、タオルケットにくるまってうっとりしながらぽつりと漏らした。
万年床となって寝乱れたシーツが放置しているベッド、漫画から洋書、
エロ本まで雑然と積み上がった書棚。
安っぽい液晶モニターとPCが机の端に載り、机には音楽とゲームのCD、
参考書と問題集が積みあがっている。
少なくとも女がうっとりする部屋とは対極であり、有り体に言って人を呼べる部屋ではなかった。
短時間の片付けすらせず部屋に入れたのは、片桐が玄関から俺の部屋に直行したためだ。
その片桐は部屋にはいると、髪をなびかせて俺のベッドへダイブしていた。
そして、怪しげなうめき声をあげながらベッド上をもだえ転がり、
俺が掛け布団代わりに使っているタオルケットを体にまきつけてようやく静かになった。
全くもってその行動は理解不能だったが、一応静かになったので、俺は気にしない事に決めた。
「だから言った。……話があるんだろ。それ話したらさっさと帰れ。
そして襲われてもいいなんて冗談でも口にするな」
「……矢代くんになら、本気で襲われたいです」
片桐の奇態にあきれていたため、俺は突き放した言い方で話を促したが、
またもやこの女はズレた反応を返した。
しかも普段のように怯えながら言うならまだしも、
顔を紅潮させ笑顔を浮かべているところがどうしようもなく異常だった。
「あのなぁ! ……おまえ、レイプを舐めてるだろ?」
いつも痴漢で固まっているくせにと俺は思い、いらつきが高ぶるのを自覚した。
いいかげん毎度毎度痴漢から助けるのも鬱陶しくなっていたし、
彼女に振り回されるのにも疲れてきていた。
何より腹が減り、断りもせず俺のベッドに女の臭いをつけるのもむかついていた。
座っていた机の前の椅子から立ち上がると、俺はベッドに大股で歩み寄る。
俺の意図を読めず、きょとんとした女の顔は、著しく嗜虐心を誘った。
怯えさせ、泣かせて、追い出してやる、そう思った。
力ずくで彼女が巻き付けていたタオルケットを剥ぐ。
何が起こったか理解できず悲鳴すらあげられない女を突き飛ばして押し倒し、
のしかかって肩を押さえつけた。
「……もう下らない話はたくさんだ。本題に入れ。でないと……おい?」

 恐怖に怯えるはずの顔が、さらに赤く染まって喜びに輝き、片桐の足が俺の足に絡まった。
「ちょっと待て! 何考えてんだ?」
「……抱きしめてくれたら、……話しますから……お願いです……」
まるで恋人と抱き合っているかのように熱い息を吐きながら、片桐がもじもじしながら言った。
何かひどく間違えているような感覚に陥りながら、俺は肩を押さえていた手を外した。
途端に片桐の手が伸びて、俺の首を抱き取り、俺は一気に引き寄せられて、ベッドに落ちた。
そして片桐の顔が俺の肩に埋まり、胸が押しつけられ、片桐の手が俺の背中にまわされて、
足がさらにからみついた。
「片桐っ!?」
「……欲しいんです、矢代くんが。……もう我慢できなくて、……どうなっちゃってもいいくらいに」
「かた……ぎり?」
片桐の顔がある首もとで熱い吐息をまた感じた。
「狂いそうなほど欲しくて……自分でしても全然満足できなくなって……我慢できなくなって……」
俺の首筋に生ぬるいものが這い始め、背筋をぞくぞくしたものが這い昇った。
「あはぁ……矢代くんの味だぁぁ。臭いも生(なま)矢代くんだよぉぉ」
「生ってゆーな! 生って」
「だってぇ、今日一日何度もお手洗いで慰めたのに、ぜんぜん満たされないんですぅ」
またもや背筋に得体の知れない寒気が走った。なのに片桐の体はたまらなく熱く柔らかく、
でもしなやかにからみついたままだった。
「……か、片桐? 嘘だよ……な?」
「矢代くんがあの人のお弁当食べるって言って……そしたらどうしようもなく悲しくなって、
欲しくなって」
「え? 弁当?」
熱い片桐の体が、時折震え始める。
「恋人作らないって言ってたのに……、だから我慢してたのに……」
肩に熱い滴を感じた。
「ひどいです……どうして……ひぐっ……どうして……えぐっ……」
華奢な体が何度もおこりのように震えて、嗚咽が漏れた。
さらさらの髪が嗚咽と共に揺れて手を優しく触れる。
「いやぁ……矢代くんが私を見てくれなくなるのはやだぁ……」
肩が熱く濡れ、俺は困惑といたたまれなさを感じる。なんとかしてやりたくて彼女を抱きしめ、
髪をなでた。
「どうしてぇ……あの人は頭も良くて明るくてあんなに強いのにぃ……
どうして矢代くんに近づくのぉ?」
「片桐、あれは体育祭の準備の手伝いなんだ。
俺と中塚は片桐が思っているような関係じゃないから!」
なんで俺は片桐に言い訳しているんだろうといぶかしく思いながらも、
とにかく泣きやんで欲しくて言葉を紡いだ。
「嘘です。……お弁当食べる約束してました」
「あれは、手伝った礼として、作ってくれるという約束だ。恋人同士の弁当とは違う!」
「……じゃあ、私のお礼も受け取ってくれるんですか?」
「お礼?」
「……痴漢から助けてくれました」
「あ? ああ、それね。……わかった。ありがたくいただくよ」
その言葉と共に嗚咽が止まり、俺は安堵した。
「ほんとうに?」
「そんなことで嘘ついてどうするんだよ?」
ベッドに倒れ込んで抱き合い、俺に密着していた片桐の体がすっと離れて、上体が起きた。
俺も上体を起こしたが、キスができるような至近距離で向かい合うようになっただけだった。
「じゃあ、食べて下さい」
「弁当か? 夕飯か? 手作りお菓子?」
泣きはらしてはいるが、涙が止まった片桐の目をみて、俺は努めて明るく尋ねた。
繰り返すけど俺は腹がかなり減っていて、そして食い物ならば、
まあ問題は少ないと思っていたのだ。
もちろんそれは激しく誤っていた。

俺の言葉に片桐は首を横に振る。そして唇に指をそっとあてた。
「……私のファースキスを、……唇を食べてください」
「い?」
そして片桐が制服のボタンを一個一個外し、ブラジャーを器用にずらして体から抜いた。
現れた重々しく揺れる豊かな胸を彼女は左腕ですくいあげる。
乳首が完全にとがりきって、小さなペニスのようにそそりたっていた。
「む、胸もたべて……ください」
完全に凍り付いた俺を尻目に、さらに片桐はスカートを外し、ショーツを脱ぎ捨てる。
顔を赤らめて恥じらいを示したものの、片桐は膝立ちになってあらわになった秘所に指を滑らせ、
二本の指で広げた。
「……そ、そして……わ、私の……こ、ここも……食べて……ください」
ごくりと部屋に響くほど盛大な音がでたと思った。もちろん俺の唾液を飲み込む音だ。
口の中が乾ききり、股間が痛いほどはちきっていた。
それでも俺の理性が最後の抵抗を示す。
イヤイヤするように首を振りながら、少しだけ後じさったのだ。
当たり前だが全く無駄な抵抗だった。
「嘘つき」
小さな抗議の言葉と共に衝撃と共にベッドにひっくり返ったときには、唇はもう奪われていた。
片桐の舌が全てを舐め尽くして吸い尽くさんばかりに俺の口の中を巡る。
そして俺の舌を見つけると、軟体動物の交尾のごとく舐めあげられつつかれ絡まれる。
それだけで腰に痺れるような快感が沸いた。
俺の左手が引っ張られ、恐ろしく柔らかな乳房に導かれる。
手は極上の布団と毛皮を合わせたものよりも滑らかで弾力性のある肉に埋まり、
手のひらを固まりがつついた。
右手は彼女の股間に導かれ、彼女の手によってぬるついた肉に押さえつけられている。
さんざん俺の口の中をねぶり倒した片桐が唇を離し、
俺の唾液が混ざったものをコクコクと飲み下すと至福の表情で桃色の吐息を漏らした。
「はぅぅぅ、矢代くんとのキス〜〜」
そしてもう一度俺の唇をむさぼりながら、腰を揺らめかせて、俺の手に陰部をすりつけていたが、
突然口づけを中止して上体を起こした。
胸に埋まっているものの動きを止めたままの俺の手を、片桐はその大きな瞳でじっとみつめた。
「……矢代くん……やっぱり私のこと……」
ついさっきまでキスに喜んでいた顔が、いきなり曇りだし、瞳に涙が盛り上がる。
「違うんだ。ただ俺は驚いて……」
「お願いです。こんなやらしい女嫌われて当然です。
……でも、……私……矢代くんじゃないとだめなんです。
……自分でもおかしいくらいに……。胸が矢代くんに可愛がってもらいたくて……
痛いほど張るんです。
あそこが……すぐにびちゃびちゃになるんです。……お願い……」
悲しみに満ちた笑いが俺の理性を吹き飛ばし、切なそうな瞳が迷いをはじけ飛ばす。
欲望のままに跳ね起きて女体を組み敷き、白い胸肉にかぶりついた。
もう一方の乳も俺のものなのでつかんで揉みしだいた。

 美味だった。たとえようもなく柔らかな肉は、顔ごと押すと軟らかく顔を包み返した。
頂点の固まりをなめ回して、舌でミルクが出るすぼまりをつつきまわしこじあけようとした。
舌でなめ回すと女体が叫んで飛び跳ねたので、
固くなった乳首に軽く歯を立てて唇で転がしてやった。
「あはぁぁぁ、た、たべられてるぅぅぅ、うぁぁぁ、矢代くんにわたしぃぃぃ、
たべられちゃってるぅぅぅ」
乳首を舌でつつくと、そのリズムあわせて女が声を上げて体を震わせた。
全然言うことを聞かなかった女が、舌で乳首を転がすだけで、
操り人形のように動くと征服感がわき上がった。
もちろん片方だけで容赦するわけはなかった。
顔を上げて、補食する笑いを女に見せびらかした。
女は一瞬凍り付き、そして溶けたように微笑んだ。
反対側の乳をむさぼった。先ほどまで食べていた胸もつかんで絞り上げ先端をくじってやった。
女が再び震えた。何度も震え、叫んだ。乳をほおばり、先端を思う存分舌で転がし、
押して柔肉に埋めてやった。
今までいらいらさせられた礼とばかりに、ピンク色の乳首を歯で甘く咬み転がし、
舌でなめ回し、唇でミルクがでそうな程吸った。
それだけで女が涙を流して快美を叫び、背をのけそらしてぴくぴく震えた。
そのうち、こんな美味い柔肉を片方ずつむさぼっているのがまだるっこしくなった。
どうしたものかと一旦口から肉を放して、女の荒い呼吸に合わせて震える乳を眺めた。
「……おねがい……やめないでぇ……」
突然伸びてきた手が頭を押さえつけて、俺の顔を胸肉に埋める。
頭をふって手からふりほどき、顔を少し上げて両方の乳を寄せられるだけ寄せると、
両方の先端をまとめてほおばった。
女が頭をのけぞらし、もう一度手で頭を抱え込んで、胸に押さえつけた。
俺は女が食べられたがっているのをはっきりと理解して、思う存分柔らかい肉を両方同時に味わう。
だが、そろそろ胸肉だけでは物足りなくなった。
手を下に伸ばし女の足に触れる。
怯えたように一度震えて、そして足は手を付け根に招くように開いた。
聞き分けがいいので、ご褒美に両乳首をまとめて甘噛みして少し引っ張ってやった。
「あはぁぁぁぁぁ、だめぇぇぇぇぇ、胸でぇぇぇ、胸で変になるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
途端に女ががくがくと壊れた機械のごとく大きく震え、腰が浮き盛大にのけぞった。
涎が垂れて歯を食いしばり、目が焦点を失って瞳孔が開ききった「逝った」目になった。
この女をもっと狂わせたくなった。
下にやった手をぬるつく股間に這わせる。
下は全部ぬるぬるだった。太股の半ばから陰毛、尻まで全てがぬるついている。
濡れた陰毛をかきわけ、滑らせていった指先に、肉の小さな固まりとひだを見つけた。
滑りが良くなった指で固まりを優しくこすった。
「ひゃぁぅぅぅぅ、だめぇぇぇぇぇ」
電撃でも食らったかのように女の白くなめらかで細い足が跳ね上がる。楽しい光景だった。
乳首をなめ回して吸いながら、リズムを合わせてクリトリスをなであげる。
「ひぃぅぅ、ひゃぁぁん、くぅぅぅん、うあぁぁぁあん」
面白いように女が頭をふり、手や足をバタつかせて踊った。俺の心も躍った。
指の腹でクリトリスをゆっくりとこすりながら、膣の入り口をなで回し、指の先端を膣に埋めた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ、いくぅぅぅぅぅぅぅぅ」
跳ね上がった足がさらに跳ね、浮き上がった腰がさらに浮いて背は弓なりになった。
穴は俺の指を食い締めながら、液を小さく飛びちらかした。
やがて女は背中をベッドに落とし、四肢をだらりと投げ出し、
放心した表情でただ大きく胸を上下させるだけとなった。
俺も乳をむさぼるのに満足したので口を放し、起きあがる。
胸肉には満足したが、食欲は治まらなかった。
女の投げ出した足の間に、膝立ちで入る。中途半端に広げている太股を大きく割った。
「なあ、片桐は処女?」
食欲をそそる白い太股のせいで、出せる言葉は短く単純になる。
「……、や、矢代くんだけ……です」
一つうなづいて、息を整えながら彼女はそう答えた。
その目はさっきまでの焦点をうしなった目ではなく、真剣で真摯な光が宿っている。
俺の食欲がさらに高ぶった。
「ふうん、じゃ、いただきまーすと」

 両太腿を肩に抱える。目の前に女の性器が広がった。
恥ずかしがった女が逃げようとしたが腰を押さえつける。
息を大きく吸うと口を限界の限界まで開けて、俺は女の股間にむしゃぶりついた。
クリトリスも尿道口も大小の陰唇も膣口もまとめてねぶりまわす。
「ああああああっ、や、矢代くんがぁぁぁぁ、わ、わたしのぉぉぉぉぉぉぉ」
またもや女が反り返る。打ち上げられた魚のようにばたつき、
伸びてきた女の手が俺の頭を抑えようとする。
とがりきったクリトリスを吸いたて、舌の先端でつつきながらそろりと舐める。
「うはぁぁぁぁぁああああ」
電撃で打たれたように女の体が痙攣して、伸ばされていた女の口に戻る。
太腿が痙攣しながら極上の肉質で俺の顔を挟んだ。
実に素晴らしく爽快で、わくわくする光景だった。
唇でヒダを挟んで舐めた後、舌を滑らせ、穴の周りを舐めた。女の反応はあまりない。
少し残念に思いながら舌をとがらせ、侵入をこばみがちな穴の中に、ゆっくりと舌を突き入れる。
「ああっ、うああっ、な、中にぃぃぃ、し、舌が、はいってくるよぉぉぉぉぉぉ
舌を絞ってくる穴の中に苦労しながら、ぬめる壁の中をゆっくりと丁寧に舐めあげる。
壁が舌を押し返しながら捕らえて奥に引き込もうすることに、なにか変な感動を覚えた。
太腿がさらに力を込めて俺の顔を挟む。だがその滑らかな皮膚と素晴らしい弾力性のおかげで
痛いどころか気持ちがいいくらいだった。
舌でひたすらに穴を掘った。女の反応が鈍れば、クリトリスを吸いながらなめ回し、
舌で先端をぐりぐりした。
そのたびごとに女の腰が跳ね上がり、手で押さえつけないと太腿が肩から外れ落ちそうになった。
女の腰をさらにひきよせ、腕を伸ばす。二の腕で腰を固定し、手探りであの柔らかな肉を探す。
すぐに震える二つの胸肉が手に触れ、それぞれを両手でわしづかみ、頂きを指でつまむ。
舌でつついていたクリトリスに、優しく優しく歯をたてて吸った。
同時に乳首をねじり先端をこする。
「ああああああっ、いくうっ、またいっちゃうぅぅぅぅ、こわいぃぃ、
こわいのがくるぅぅぅぅぅぅぅ」
途端に女の体が背骨の曲がりの限界まで反り返る。太腿が恐ろしい力で俺の頭を締め上げ、
女の手が俺の顔を滅茶苦茶な力で股間におしつけた。
鼻も口も女陰の肉に覆われて息苦しさに襲われながらも、俺はクリトリスに歯を立てて吸い、
乳首をいじり続けた。
「あっ、あっ、ああああああああっ、……」
声と共にこわれかけのような痙攣が女の体に走り、女は叫びすぎて、叫び声をとぎれさせた。
無我夢中で女の股間を攻めていた俺の顔に、生温かい液体が浴びせかけられる。
唐突に女の体から力が抜けた。
性器から口を離し、女の尻を抱えてベッドに降ろす。
女の足からは完全に力が抜け、しかし不規則に痙攣のような震えが足から全身に走っていた。
片桐の目は、焦点を失ってどんよりと濁り、ただ荒い息だけをついていた。
肉に対する飢えを晴らしたものの、股間は痛いほど張っていた。
ベッドを降りて、濡れてしまった上着もアンダーシャツも脱ぎ捨て、ズボンを降ろす。
前髪から垂れてくる液体が気になり、腕で顔中を拭きまくった。液体には臭いがなかった。
トランクスを降ろすと、勃起しきった息子がでてきた。
一瞬コンドームのことを考えたが、下半身のたぎりが瞬時にコンドームのことをを振り切る。
何も考えられなかった。
再びベッドにあがり、もう一度片桐の足の間にわって入った。
その時すっと足が開かれて、俺は片桐をみた。
意識を取り戻していた片桐は、微笑んでいた。
それはいつもの怯えて人をうかがう笑みではなく、
全てを受け入れることを決めた静謐な笑みだった。
俺は場違いにも、その笑みの中に美しく清らかなものを感じた。
「そ、その、い、入れちゃうよ?」
言葉に出して自分で馬鹿だと思った。やりたい放題やった男が言う言葉ではない。
だが彼女は、ただうなづいて、そしてつぶやいた。
「……手を……握っててください」

 伸ばされた両手を握り、腰を進める。
片手をほどいて、痛いほど立った肉棒を入り口にあてた。ゆっくりと腰を進め……
すべって肉棒がはずれる。
「あ、あれ?」
もう一度繰り返し、また外れる。三度目の正直とばかりに腰を進めて、
やっぱり滑って入らなかった。
「な、なんで?」
その時、冷たい手がそっと俺の肉棒を握り、先端を入り口にあてた。
「片桐?」
「……そのまま」
「あ、うん」
片桐に促され、腰を進めていくと、傘の部分が埋まっていき、やがて先端が熱い肉に包まれた。
「は、入った」 
そんなことで単純に嬉しくなって片桐の顔をみると、彼女は顔をしかめていた。
「痛い?」
「だ、だいじょうぶです」
その答は口だけで表情は全く裏切っている。
俺は少しの罪悪感と胸にわき起こる温かい何かに突き動かされて、ほどいた手をもう一度握った。
一気に貫きたい衝動を抑えてゆっくりと腰を進める。
途中でなにかを破った感じがして片桐の体が震えたが、構わずゆっくりと腰を入れる。
熱くこわばった中の壁が、俺を締め付け、射精感を必死にこらえた。
やがて、全部埋まり、俺と片桐の恥毛が絡み合った。
「全部入ったよ」
目も歯も食いしばった片桐に告げ、のしかかって唇を奪う。
痛みを与えているとしても、彼女を自分の性欲のおもちゃにしているのではないことを
伝えたかった。
彼女の唇は答えてくれた。初めの時の激しさはなかったが、
俺の入れた舌に彼女は舌を絡ませ返した。
その口づけによって、彼女の中も少し軟らかくなった。それで俺は我慢できなくなった。
「ごめん。動くよ」
初めはなんとか気を使って動いていた。
しかし陰茎の付け根から徐々にせり上がってくるものに狂わされ、出し入れが早くなってきた。
それでも片桐は痛いと一言も言わなかった。ただ俺の手を握りしめ、目を閉じて耐えていた。
限界が近づいてくるにつれて、コンドームをしてないことが気に掛かり始めた。
そして、尿道をせり上がるものを自覚し、俺は肉棒を抜こうとした。
「そ、外に出すからっ!」
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
がっきと腰に足がからみつき、引き寄せられる。
からみついていた壁が、肉棒を引き込もうとして、本能的に腰を一番深くまで打ち込み、
そこで目の前に火花が飛び散った。
壁がからみついた先端からはじけるような快感が押し寄せ、ともどもない拍動感と放出感に変わる。
奥深い満足感に満たされながら、手を握りしめた。
体の力がぬけかかり、片桐の体の上に崩れ落ちた。
頭が片桐の胸の間に落ちる。手が優しく離され、片桐の手が俺の頭を抱いた。
ひんやりとした片桐の肌を伝わって鼓動が聞こえ、肉棒が最後の拍動とともに精子を吐き終え、
硬さと大きさを失い抜け落ちる。
ぼやけそうな意識の中でかろうじてふんばって、体をずらしてベッドに落とす。
片桐が俺のところまで下がって、俺の腕の中に潜り込んでしがみついた。
二人ともしばらく荒い息をつくだけで、息が整ってもしばらくは無言だった。

 俺は何をしゃべって良いのかわからなかった。だから片桐を抱きしめてやるしか出来なかった。
「ありがとう」
やがてかなり時間が経って、ぽつりと片桐が礼を言った。
言うべき言葉が見つからなくて、俺は片桐の目を見つめる。
「私、今、本当に落ち着いたんです」
「……でも痛いだろ?」
だが片桐は俺の疑問に笑みを返した。
「痛いですけど、でも体も心も本当に満たされたんです。……やっと落ち着きました」
「落ち着きましたって、俺、中出ししてたりするんだけど、わかってる?」
「それは私がして欲しかったんです。……私が中に欲しかったんです」
理解に困る言葉が出てきて、俺は思わず体を起こした。
「妊娠する気か? まだ付き合っても居ないんだぜ、俺達?」
だが片桐は首を振って否定した。
「矢代くんの子供欲しいですけど、でも矢代くんが欲しいと言うまで我慢します。
それまではピルを飲みますから」
「ピル? 飲んでるのか?」
「はい。……矢代くんのを中に欲しかったから」
そう言うと、片桐は腹に手を置いて、慈しむような目をした。
なにかよくわからないが、妊娠はさけられそうで、俺はほっとして再びベッドに寝ころんだ。
「だけどさ、避妊とか性病とかいろいろと危ないのにどうして中にこだわるんだ?」
「私の体、私の心と同じくらい矢代くんが大好きなんです。
そして好きで好きで、すぐおかしくなるんです。
今、矢代くんを中にもらって、やっと体も満足したんです」
俺はきっと怪訝な顔をしていた思う。それを見て片桐は恥ずかしそうに微笑んだ。
「私、とてもいやらしいんです。……性欲がとても強いんだと思うんです」
彼女が俺の胸に顔をすりつける。
「小学校の時から自分ですることを覚えて、机の角とか椅子とかにしてたんです。
5年生くらいの時には、親のエッチな本とかを盗み読みして、自分であそこを触ってました」
片桐は俺の胸に顔を伏せていたが、わずかに見えるところは紅潮していた。
「でも、ずっといじめられていたんで男の子は怖かったんです。
中学では、男子に虐められることはなかったんですけど、女子に虐められてましたから。
……人を好きになる余裕がなかったですし、孤立していた私に優しくしてくれる人も
いませんでした」
「知ってるよ。片桐がかなり虐められてた事は、片桐と同じ学校だった奴から聞いた」
「でも高校生になって、痴漢にあってとても怖かったとき、矢代くんが助けてくれたんです」
その言葉を聞いて、いつもの疑問が思わず口をついて出る。
「毎度思うんだけどさ、なんで痴漢を我慢してるんだよ? はっきりいって見てられないよ」
「……怖いんです。声を上げればいいと頭ではわかってるんですけど、怖くて……」
その時、片桐はいつもの上目遣いをしていた。けれどももう俺はいらつかなかった。
「まあ。いいや。で、俺が痴漢から助けて?」
「……好きになりました」
俺は呆けた。助けた理由は、ただ単に見てられなかっただけだったのだ。
「その次助けられて、もっと好きになりました。何回も助けられてるうちに、
矢代くんが怖くなくなりました。
そしたら、私の体も矢代くんを大好きになってたんです」
顔を赤くして、胸にほおずりしながら、彼女は続けた。
「矢代くんを想って、あそこを触るとすごく気持ちよくなりました。
そのうち矢代くんがないと全然満足しなくなりました。
矢代くんにくっつかないと、寂しくて悲しくてどうしようもなくなって……」
「いや、待て。くっつかないと寂しくて? ひょっとして痴漢から助けた後妙にくっついたのは?」
「はい。……矢代くん、必死に我慢してたのがわかって、かわいそうで、でも可愛くて……。
触ってくれないかなってずっと思ってたんですけど、矢代くんすごく我慢強くて。
それでますます好きになって」
自分の努力が馬鹿らしくなって、俺は深いため息をつく。
「そのうち、矢代くんのものを借りて、……その……慰めるようになって」
「……体操服とか、携帯電話とか?」
片桐は肯いた。もっとも俺の体操服は二三着まとめて持って帰って
まとめて洗って持ってくることをしてた。
多少オナニーに使われようが、全然わからなかったし、
そもそもそんなこと想像すらしていなかった。
「で、それが中塚の弁当とどうつながるんだ?」
片桐は中塚の名を聞くと、笑顔を消した。

「……矢代くんは中塚さんのこと、好きだから、手作りのお弁当、食べるんですか?」
見上げてくる目には、のっぴきならない光が宿り始めていた。
「違うって! さっき言っただろ。仕事手伝ったから、作ってくれるんだって」
「でも中塚さんは、矢代くんのこと、好きです」
片桐は憂鬱そうな目をしながら、もじもじと指をいじった。。
「……片桐も男女をみたらカップルと思うタイプか?
好きとか、そういうのじゃないって中塚自身が言ってる。
なんでもかんでも恋愛にからめるなよ。まったく!」
憤慨しながら言い切った俺を、片桐は不思議そうな目で見た。
「え? まさか、本気で信じてるんですか?」
「本気も何も中塚自身が言ってる」
俺がそういうと変な沈黙が続いた。片桐が何かを考え込み始める。 
しばらくして、片桐が顔をあげた。
「それじゃ、中塚さんのお弁当を断ってくれますか?」
「良いけど、理由はどうするんだ?」
「……矢代くんを好きな女の人が、嫌だって言っているって伝えてください」
「そんなんでいいのか? まあ、言ってみるけど中塚が納得するかどうかは保証できないよ」
俺の返答に、片桐は花が咲くような笑顔をみせた。やはり初めて見る顔だった。
「はい。……その代わり、私がんばりますっ!
お弁当もですけど、矢代くんが一人の時はお夕食も作ります。
私、料理とか掃除とか洗濯とか大好きなんです」
「ありがと、気持ちだけで充分……」
「私、本気です! 矢代くんはちゃんと栄養バランスとか考えてますか?
悪いですけど、そういうこと考えないですよね?」
突然に片桐ががばっと体を起こし、目を輝かせて力説を始める。
「考えているさ。ちゃんと毎日ビタミンサプリ飲んでる。繊維質も入ってる奴だぞ」
「野菜とかは? 茶色と黄色と緑色をバランス良く食べてますか?」
「野菜はビタミンサプリ取ってるから食べなくても大丈夫だろ? その色はいったい何?」
片桐がため息をついて顔をしかめ、首を振った。
「ぜーんぜん駄目です。ほんとに男の人って……フフ」
そして何かを言いかけて、うっとりとした顔をした。
俺はといえば、食べ物の話を聞いて、忘れていた空腹を思い出して、腹を鳴らす。 
「冷蔵庫に何かあったっけな?」

「いーから、座っててください!」
片桐がいきなり強くなった。
俺達が空腹に耐えかねてキッチンに降りてからだ。
空っぽだという俺の予想と違って、冷蔵庫には姉さんが入れたと思われる素材が入っていた。
留守中にやってきていたらしい。 
もっとも料理など面倒くさいので、スルーしてカップ麺をあさろうとしたところで片桐が変わった。
なぜか俺のシャツを素肌に羽織り、姉さんが置いていったエプロンをつけると、
彼女は俺に命令した。
「台所は女の戦場なんです。男の人は黙って後から見てれば良いんです」
また古風な、と思ったが、包丁を持っているうえに得体の知れない迫力があったので、
俺は黙って座ってることにした。
俺がおとなしく座ったのを確認して、彼女は長い髪を揺らして鼻歌を歌いながら、
どこからともなく取り出した米をとぎ、炊飯器にかけた。
包丁が芸術的に舞って、野菜が魔法のように切れた。
あの包丁がそんなに活躍できるものだとは今まで思わなかった。
パンの袋を破るのにしか使っていなかったのだが。
「いたっ!」
「お、おい、大丈夫か」
あわてて駆け寄ると、片桐のひとさし指に赤い線が入っていた。線の端から赤い玉が盛り上がる。
「あっ!」
俺は何にも考えずにその指を口に含み、そして我に返った。
あれほどやっておいてなんだが、断りもなく女の指を口に含むという行為が
何か少しいやらしいように感じたのだ。
ゆっくりとさりげなく、指を口から離して、壁まで後じさる。
「え、えーと、絆創膏さがして……」
ばつの悪い思いで片桐を見ると、彼女は頬をそめていた。
そして何か大事なもののように、俺の唾液がついた指を口に持って行って含んだ。
そのまま片桐は夢中で自分の指を吸って舐めた。
「か、片桐?」
「えっ? あ、あはは」
驚いた俺の声に、片岡が我に返って照れ笑いをして、照れ隠しに怪我のない方の腕を振る。
刹那、キラリと何かが光り、何気なくよけた。
鈍い音と共に、俺の顔の10cmほど横で、包丁が壁に突き立っていた
冷や汗が、だらりと額から鼻の横を滑り降りていく。
「キャッ、キャァァァァァ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「……ははは、すいません。……おとなしく座ってます」
頭を下げまくる片桐に、俺は返事を返すのがやっとだった。
……しょんべんをちびりそうだったのだ。

「これは、……本当にうまいな」
空腹は最上のソースというが、並べられた料理は明らかにとても美味だった。
つい夢中になってがっついてしまい、空いた茶碗に湯気の立つ白米を盛られて、
片桐に意識が戻った。
「あ……。ごめん、つい夢中で食ってしまって。片桐も食べてくれよ」
「はい、ちゃんといただきますから」
そう言いながら、彼女は箸をつけずに、俺を穏やかな笑顔で眺めている。
「……なあ、片桐。食欲がないのか?」
「ううん、そうじゃないです。なんか気持ちよく食べてもらえると、すごく幸せで、
それでお腹いっぱいになります」
そういうものだろうか? と思ったが、それ以上は言わないこととした。
俺を見る片桐が、良い表情をしていて、それを壊すのがもったいないような感じがしたのだ。
結局、片桐は俺が食べ終わってから、食べ始めたのだった。

 浴槽を洗い、洗い場に落ちている陰毛を流した。
それ以上は今はどうにも出来ないし、一応俺的基準では綺麗だった。
湯沸かしスイッチを押して、蛇口から湯が出るのを確認すると風呂を出て、ベランダに駆け上る。
取り込んであったがたたんでない洗濯物から、ましなバスタオルと洗ったジャージを選んで、
ダイニングキッチンに駆け下りる。
女物の下着というのはこの家にはないので、これだけとなる。
「片桐ぃ、悪いけどジャージしかないんだ。いいか?」
「は、はい」
「んじゃ、これ貸すから。あ、まだゆっくり食っていていいよ。湯を入れ始めたばっかりだし」
「で、でもぉ」
「いいから風呂入っていけって。……俺、体中をなめ回してしまったんだし」
自分で言って恥ずかしくなって少し顔がほてる。
「……ありがとうございます」
「んじゃ、ジャージとタオルは脱衣所に置いておくから」
「で、でも、お、お風呂は矢代くんが先に入ってください!」
ダイニングを出て行こうとしたとき、片桐が茶碗と箸を持ったまま立ち上がった。
「どうしてさ? 客なんだから片桐が先に入ったらいいじゃないか」
「……わ、私ぃ、お風呂長いし……、その……」
顔を伏せてもじもじしながら、片桐は何かをぶつぶつとつぶやく。
「なんか都合悪い? じゃあ、先に入るけど?」
「はいっ! 先に入っててください! 私も後から行きますから」
理由がわからないが都合悪そうだったので、助け船をいれる。
するとなぜか笑顔になり、片桐はそのまま椅子に座って急いで食べ始めた。
「……よくわからんが、まあいいか」
俺は自室に下着と替えの服を取りにあがった。

 湯船に入る前にシャワーを浴びる。いろいろと汚れていたのを自覚して、頭を洗った。
シャンプーをつけて髪の毛をかき回していると、風呂の扉が開いた音がした。
「片桐、どうしたー?」
そのまま頭を洗い続けていると扉が閉まった。
何だったんだろうと思いながら、シャワーで泡を洗い流してさっぱりしたところで、
肌色の人影に気がついた。
もちろん、裸の片桐だった。
またもや、予想外での行動に絶句して、ボディシャンプーを取ろうとした姿勢で固まる。
かろうじて胸と陰部を薄いタオルで隠した片桐が、ふらふらと近寄って俺の背中にまわった。
「お、お背中をっ、な、な、流しますっ」
緊張で裏返ったらしい片桐の声が聞こえて、俺も緊張した。
「え? ええ? ええええええ?」
振り向いて、樹脂製の風呂場の壁に張り付いた。
壁に取り付けられた鏡がひんやりと背中にあたっている。
俺の驚きに構わず、片桐はボディーシャンプーを手に取った。
そしてなぜか、容器の中身を片桐は己の体に……タオルに包まれた胸から腹に多量に振りかける。
その所作に疑問が生じたが、俺の脳裏がそれに対する一つの回答を示していた。
まさか。脳裏の回答は下劣な部類に属する回答だった。即座に理性が否定しにかかる。
「か、片桐?」
「か、体を、あ、洗って、あげますから、せ、背中を」
もちろん俺は動かなかった。
片桐が何を思ったのか、寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待て!」
思わず突きだした右手が片桐に取られ、胸の谷間に押し込まれる。
手のひらから前腕までが、柔らかい肉とぬるついたボディシャンプーによって快感に飲み込まれる。
やがて反対側の手も取られ、同じように融けそうなほど柔らかな胸に挟まれ揉まれて洗われた。
「じゃ、じゃあ、つ、次は前を」
そのまま迫ってきた彼女の唇が重なり、熱く柔軟な肉が俺の胸に密着する。
唇が離れても、心地よい肉が胸をくすぐり、俺は思わず立ち上がってさらに墓穴をほった。
半立ちになった息子を、彼女の目の前にさらけ出したのだ。
片桐は、心からの笑顔で俺を見た。
「ち、違うから! ……片桐、違うんだ!」
だがその言葉はあっさりと無視され、肉棒が胸の中に埋まる。
腰の力が抜けそうな快感に包まれて天を仰いだところに、
肉棒先端にぬるりとした温かいものが這って、抵抗できなくなった。
柔肉からはみ出た先端を、片桐はひどく一生懸命になめ回していた。
やがて柔らかすぎる肉に揉まれながら、舐め続けられ、尿道口を吸われるに至って、
俺はだらしなく射精させられた。
顔と胸一面に飛び散った白い粘液を片桐はひたすらに舐め取り飲み下していく。
そして大方を舐め取ると、彼女はまたもや顔を赤らめ、うつむきながら、しかしはっきりと言った。
「こ、今度は、わ、私の、か、体を、洗ってください」
この言葉の後、顔どころか肩まで赤くした彼女の姿が、またもや俺を獣にした。
……俺はこのとき、自分の理性が存外にもろいことを学習した。

「だいじょうぶか?」
「だ、だいじょう……んぃっ……ぶですっ」
次の朝、駅までの道上、片桐は出来の悪い人形のような歩き方をしていた。
「……ほんとうにごめん」
「……あう、あは、矢代くんのせい……ぅっ……じゃないですから」
受け答えの途中でも走る痛みのせいで、片桐は顔を歪め、体を震わせた。
「本当にごめん。海より深く反省する。けだものでごめんなさい」
まるで片桐が乗り移ったかのように俺は頭を下げまくった。
結局あの後、俺達は猿のようにSEXをしまくった。どろどろになってやりまくったのだ。
だが片桐は処女だった。なのに俺は調子に乗って後背位とか、
対面座位とかやりまくってしまったのだ。
当たり前だが、素っ裸で抱き合って眠った俺達が、ベッドで目を覚ましたときから、
片桐はこうだった。
正しく言えば、片桐が愛液なんかでいろいろ大変なシーツを発見し逆上して、
持って帰って洗うと言いだしてからである。
シーツを丸めてベッドを降りた途端、片桐は股間の痛みで涙目になってしゃがみ込んだのだ。
「矢代くんのせいじゃないで……んきゃぁ!」
肉を地面にたたきつける音がして、俺は思わず目をつむった。
すぐに片桐の姿をさがす。
……片桐は転倒の痛みと股間の痛みの合わせ技で悶絶していた。
俺は思わず天を仰ぎ、片桐を駅まで背負うことに決めた。

「線路内に人の立ち入りがありましたので、安全確認が終わるまでしばらく停車します」
アナウンスが無情に告げる。
いつもの電車、いつもの車両、いつもの景色。
違うのは、片桐だった。今日は初めから俺に密着していたのだ。
立っているだけなら痛みもましなようで、穏やかな顔をして俺の胸に頭をもたせかけている。
「はぁ、まったく」
呟いたとき、片桐の体がびくりと震えた。
どうしたと片桐を見ると、彼女は目に涙をためて俺を見上げた。
「痛いのか?」
だがその言葉に首を振り、片桐は背後に目を落とす。
その目線を追うと、片桐の尻に手がうごめいていた。
瞬時、怒りが炎のように脳裏を駆けめぐる。……その尻は俺のものだ!
怒りに駆られて片桐の体を引き寄せ、その尻を俺の手で覆う。
片桐がわずかに声をもらしたが気にしないことにした。
置いて行かれた痴漢の手が、尻を追って伸び、俺の手の甲に触れた。
気持ち悪くしめった生温かい手で、触られたのが手の甲なのに、俺の体にも悪寒が走った。
感触が違うことに気付き、戸惑った様に痴漢の手が尻を探して動いた。
片桐が尻を触らせまいとして俺の腕の中でまわり、痴漢の方に向く。
背を向けていた痴漢が、戸惑ったように俺達に顔を向ける。
それは冴えない気の弱そうな壮年の男だった。
片桐が浮いた俺の右手を取って、スカートの中に導く。そして俺の左手を自らの胸に押し当てた。
「私は、この人のものなんです」
ぽつりと呟いた言葉が通じたのか、痴漢の顔色が変わり、手を引っ込めて俺達に背を向けた。
「安全確認が終わりました。発車します」
アナウンスがあり、電車が揺れた途端、痴漢は乗客の中に紛れて去った。
片桐はそのまま俺に身を預け、幸せそうに声を出さずに笑った。俺も彼女に笑い返した。
数分後、少し向こうから女の悲鳴が上がり、あの痴漢の手が誰かの手に掴みあげられる。
「何やってんのよ、この変態おやじ! 痴漢!」
「あんた、次の駅で降りろよ」
車内がざわつき、やがて停車して開いた扉から、あの壮年の男とスーツ姿の若い女、
そしてごつい体格の若い男が降りた。
顛末を見届けようとしたが、遅れていた電車はすぐに扉を閉め、走り始める。
痴漢の姿が遠ざかり、やがて単調なレール音が響き始めた。
「あの親父、何やってんだか」
「きっと、私が矢代くんのものになっちゃったから、びっくりしちゃったんですよ」
そう嬉しそうに小声で語る片桐の顔は、愛しすぎて魅力的すぎて、俺には正視できなかった。

 昼休み。仕事を効率的に片付けようという中塚の提案で、
俺達は体育祭実行委員会室で昼食を食べていた。
中塚の言うところの、とびっきりの弁当は、確かにとびっきり美味だった。
それが少し悲しかった。食べられなくなることが、ではなく、
この労力を否定してしまうことが悲しかった。
中塚は楽しげに話しかけ、俺も礼儀として話を盛り上げるべく相づちをうった。
弁当はがっつかずに、丁寧に味わって食べた。おかずの種類ごとにちゃんと感想も言った。
二人して食べ終わったとき、中塚はこの上なく上機嫌だった。
眼鏡の奥の目がほんとうに輝くような色を浮かべていた。
蓋を閉め、両手を合わせ、ごちそうさまをいった。中塚がお粗末様と返した。
「中塚」
「ん? 何?」
「悪いけど、明日から、弁当は作らなくていいよ」
中塚の労力に配慮して真面目な口調で言うと、中塚が怪訝な顔をした。
「どうして? 私のことなら気にしないで」
俺は少しだけ言葉をためらった。だが言わない訳にはいかないと思い直し、心を決めた。
「俺を好きな女が、中塚の弁当を食べないで欲しいって言った」
音なき爆弾が破裂したように、中塚の表情が激変する。
「……嘘」
「本当だ。昨日の夕方、告白された」
あれを告白と言うべきかは少し悩んだが、告白と言うことにした。
「……嘘よ」
中塚の顔が下を向き、やがてしずくが滴る。そのことに俺は少なからず驚いた。
好意を抱かれてることは理解していた。
しかしそれは男女の好意ではなく友情のたぐいだと思っていた。
矢代くんに告白した女がいたの? ものずきねー。 弁当断っても仕事はしてもらうからね。
返ってくるのはこんな言葉だと思っていた。
だが今、彼女はまるで振られたかのように涙を流している。
「い、いや。その嘘を言う理由がないんだが。……本当なんだ」
そのまま長い沈黙と、中塚が涙を流して鼻をすする音だけが続いた。
後ろめたさで逃げ出したくなってきたとき、中塚が顔をあげた。
目が赤く、涙の跡が両目にあったが、しかし彼女はかすかな笑い顔を浮かべていた。
「……あーあ、先を越されちゃった。……私だって狙ってたのにね」
「中塚?」
眼鏡を外して涙を拭きながら彼女は続けた。

「矢代くんだけだったんだよ。私の悪口を言わないで、ちゃんと手伝ってくれて、
ちゃんと話をしてくれる人」
「え? だって昨日の中塚の友人は?」
「……一年の時は親友だけど、クラスが違っちゃったからね。私、矢代くんがうらやましいよ。
矢代くんはどうして一人でいてもそんなに強いの?」
「強い?」
「そうだよ。恋愛も結婚もどうでもいいって言い切って、成績すごくて、すごく大人で。
なのにちゃんと話をすると助けてくれて。誰かと一緒になってぐちぐち悪口言わないし」
「強いって訳じゃない。……こんな風にしか生きられないだけなんだよ」
彼女はしかし、否定するように首を振った。
「私は駄目。クラスを良くしようとして頑張って、それでみんなに嫌われて。
先生への印象を良くするのもクラスのためだと思ったけど、先生に媚びてるって言われて。
ほんと、吾妻くんに言うとおり、矢代くんがクラス代表の方が良かったよね」
「何いってるんだ。俺にそんなの勤まらないって。……中塚は良くやってると思う。ほんとに。
みんな、中塚に任せっきりで、中塚も仕事こなしちゃうから、ありがたみがわからないんだ」
だが俺の言葉は中塚の心に届かず、中塚が疲れて悲しい目をしてため息をついた。
「矢代くんは優しいね。だから、好きだよ。冷たそうに見えるのにほんとは優しくて。
私ね、矢代くんと朝会うためだけに学校きてるんだ。
矢代くんは仕事押しつけられそうって警戒してたのわかってたけど、
仕事ないと矢代くんに話しかけられなかったの。
だから仕事を頼んで、そしたらすごく早くて正確にやってくれて。
それで何かお返ししたくて、あの子達に相談したらお弁当だって教えてくれて。
昨日やっとお弁当食べてもらえることになって、第一段階成功だって、すごく嬉しかったんだ」
俺に出来ることは、ただ謝ることだった。
「……その、ごめん」
「ううん、いいの。私がぐずぐずしてたから。……ところで、ね、教えて。
矢代くんは誰に告白されたの?」
中塚は赤く腫らした目にそれでも明るい光を無理矢理宿して、俺に尋ねた。
「……片桐なんだ」
少し照れて言った答えに、中塚は答えなかった。
目から明るい光が消えて、怒りとも悲しみともつかない表情になった。
やがて、彼女が能面のような表情をしながら、唯一目に憎しみをたたえて呟く。
「そんなの……許さない」

3

「そんなの許さないと言われてもなぁ……」
中塚のつぶやきを聞いてから、約二週間が経つ。
残念なことに中塚との関係は冷たくよそよそしいものなってしまった。
それでも俺は彼女の仕事を手伝っている。
片桐にも尋ねられたが、やり始めたことだから体育祭が終わるまでは
やり遂げる責任があると答えた。
本当は、中塚の漏らした弱音が気になっていたからだった。
だが俺はそこに踏み込まず、仕事は完遂することに専念しようと思っている。
片桐がいるのに中塚の事情までに首をつっこむのは、節操がないと思ったからだ。
だから中塚と俺が事務的なやりとりで終始しても、俺は淡々と、そして丁寧に仕事をこなした。

「よーしっ、みんなお疲れさん! これで準備は終わり! みんな、拍手!」
まばらな拍手には気が抜けていた。疲労ゆえだ。
「じゃあ、これで解散! 明日は本番だ! 今日はよく寝て、疲れを取ってくれ。
頑張りすぎて倒れた、英語のホネヤマみたいになるなよ」
体育祭実行委員長の小ネタに力無い笑いが漏れる。
ホネヤマというのは、痩せた中年男性の英語教師で、本名を細山という名前なのだが、
骨が折れそうにひょろひょろなのでホネヤマと呼ばれている。
先日、体育祭のリハーサル中に、テントの下に座っていたにもかかわらず、
気分不良により救急車で運ばれ即入院となったのだ。
体育祭前日、午後八時。結局俺はきっちりと実行委員会に巻き込まれてしまった。
仕事を進めるために積極的に顔出しをしているうちにメンバー扱いされて、
正式なメンバーで無いと知られると委員長権限で委員にされたのだ。
散会の言葉と共に委員達がけだるく立ち上がり、各自帰り始める。
俺はボストンバッグを取り出し、実行委員会室に持ち込んだ私物のノート型PCや
ケーブル類を片づけ始めた。
「何? 荷物、ひきあげちゃうの?」
「ええ。明日は疲れて何もする気なくなっちゃいますし、委員としては後は反省会だけですから」
声を掛けてきたのは、3年の副委員長をやっている女の先輩だった。
落ち着いた雰囲気ながら姉御肌でもあり、実は実行委員長よりも頼られている人だ。
容姿もなかなかに綺麗で好感を持つ男は多数いるだろうが、
当の本人は実行委員長とつきあっているらしい。
「そんなの置いときなさいよ。文化祭実行委員になればまた使うでしょ?
矢代は文化祭もやってくれるんじゃないの?」
露骨な勧誘に俺は苦笑した。
「ははっ、勘弁して下さい。なんか、こういうのはがらじゃないですよ。
中塚の手伝いで深入りしちゃいましたけど」
「何いってんの。君ががらじゃなかったら、他の子はどうなるの?
君の動きでみんな相当助かってるんだから」
「俺、人付き合いは苦手なんです。体育祭は中塚への義理もあるから頑張りましたけど、
文化祭までは無理ですよ」
「……中塚と何かあったの?」
ふと先輩の真剣な目に気づき、俺は思わず片づける手をとめた。
「……合ったというか、俺の不始末というか……」
「謝っちゃいなさい。謝り倒して、つきあってくれって土下座して頼みなさい」
「せ、先輩?」
「矢代は、中塚とつきあいなさい。君はフリーだったから他の子に目移りしちゃうのは
仕方がないし、さっさと告らない中塚もまぬけだけど、謝って許してもらいなさい」
「いぃ? あ、あの先輩? いったいどこまで知ってるんですか?」
「そんなことはどうでもいいから。……ちょっとそこに座りなさい」
そういうと先輩が、有無を言わさない態度で、側の椅子を指し示す。
逆らいがたいものを感じ、素直に椅子に座ると、先輩も椅子を持ってきて俺の正面に座った。
綺麗な足を組み、腕組みして、俺を見据える先輩は、はっきりいって教師よりも威厳があった。

「矢代、君はもてる方じゃないから、女の子に寄ってこられるとデレちゃうのは
仕方がないと思うよ。でもね、つきあう相手を最低限は選びなさいよね?」
「……片桐の事、知ってるんですか?」
何もかもお見通しという口調にいささかショックを受けながら、俺は尋ねた。
「多少はね。……中学の時はいじめられてたらしいから気の毒な子だとは思うけど、
だけど私はあの子、気にくわない」
いつも明るくさっぱりとした性格だった先輩がなにか不快なものを見たというように横を向く。
そのことに俺は絶句していた。
「男ってどうしてこう女を見る目がないのかな? 私はそれが不思議で仕方がないよ。
あの子、女の友だち、誰もいないでしょ? 女の私から言わせれば、あの子は自分の好きな男以外
どうでもいいって顔してるのよ。
女なんか無視して、男だけに良い顔して媚びて、しかも弱い女って感じで男の気をひくのって、
根性いやらしいくせに計算高くて、嫌いよ」
その嫌悪感の激しさに、またもや衝撃を受けて、俺は声を無くす。
「でもまあ、中塚だって褒められたもんじゃないけどさ」
呆然とした俺の顔をみて言い過ぎたと思ったのか、先輩は話を中塚にそらした。
「ど、どういう意味ですか?」
「あの子は空気読まずに自分が正しいって思ったことを言うでしょ?
矢代がうまく仕事したから最近はかなり減ったけど」
そういう傾向を感じていなかったわけではない。もっとも彼女の行動と態度が正しいので
説得力はあるのだが。
「でも、実際あいつは間違ったことしてませんよ?」
「だけど言われた方にしてみれば言い方もきついし、納得どころかむかつくだけ。
間に入る私達にしてみれば余計な仕事を増やしてくれるしね。
矢代がうまくフォローして、中塚に余計なしゃべりをさせなかったから、
今回はすごくスムーズに進んだのよ。
それに中塚、矢代といるとうれしそうなのがまるわかりだし。何かって言うと君をみてたから。
だからギスギスせず仕事できたんじゃない?
好きな男といるとおとなしくなるなんて、まあ、中塚も可愛いよね」
先輩の中塚への評価の厳しさに呆然としていると、部屋の入り口で物音がした。
俺と先輩は意図せずシンクロして入り口に振り返る。
そこには中塚が立ちつくして、こっちを見ていた。いつからかは知らないが、
明らかに話を聞いていた風だった。
気まずい雰囲気が流れ、先輩が頭をかく。
中塚が泣きそうな表情をしながら背を向け、走り去った。
残された俺達が顔を見合わせる。
「先輩!」
「矢代、追っかけなさい!」
「はい?」
「中塚をこのままにする気? なぐさめてやんなさいよ。そのまま押し倒していいから」
「先輩っ! 何考えてるんですかっ!」
「中塚と付き合いなさいっていったでしょ。これっていいチャンスじゃない。
私の事は悪者にしていいから謝って口説いちゃいなさい。
それじゃ、私はお邪魔だし、帰るから。……片桐って子なんか、さっさと別れなさいよ? じゃね」
そう言うと先輩は無責任に手を振って出ていき、俺は途方に暮れながら、
夜の校舎内を中塚を探して歩き回った。

 中塚が見つかったのはしばらくたってからだった。俺達の教室の中塚の席に座って、
暗い教室で彼女は声を殺して泣いていた。
「……中塚、あの話、気にするなよ?」
静かに泣く彼女にどう声をかけていいか迷ったあげく、
俺は、まったく芸のない話の切り出し方をした。
「先輩にさ、片桐と別れろって言われてさ、そこから中塚の話になっただけなんだ」
泣くだけで答えない中塚を出来るだけ傷つけないように言葉を選んで話し続けた。
中塚とつきあえと言われたことはあえて言わなかった。
……俺の口からそれを言うのは、傲慢で無神経に思えたのだ。
「もう無茶苦茶だよ。片桐の事、めったぎりにされてさ。先輩はいい人だけど、
ちょっとお節介というかさ、人の気持ち考えないところあるよな。
先輩さ、中塚のこと正論で人を不愉快にするっていってたけど、
その先輩もあんまり人のことはいえないと思うからさ。
……好きに言わせておけばいいよ」
正論で人を不愉快にするという言葉に、中塚が体を震わせる。
「でも……でも、私……」
しゃくりあげながら、中塚はなにか自分を否定するような言葉を吐こうとしたように思えた。
しかし俺は中塚に自分を傷つける下らない言葉を言わせるつもりはなかった。
「先輩はさ、中塚がまっすぐに正論を言ってくれたから、仕事が進んだことをわかってないんだ。
相手がさ、締め切り破ったり、提出物出してくれなかったりしたとき、
中塚がちゃんと正論を言ってくれたから、交渉ができた。
俺だけじゃ、そんな相手に何か言うのめんどくさくなってさ、
そんな奴ら放置してしまえって思っちゃうんだよな」
中塚のしゃくり上げ方が少し小さくなったのを見て、
俺は自分の言葉が届いていることを確信した。
……委員会の仕事をしていれば、多少なりとも見えてくるものもあった。
自分の欠点、他人の長所。一人で行動していたときには思いも寄らない事があった。
「……俺さ、すぐに人を見限ってしまうんだよ。一人でやる癖がついてさ、
こいつ駄目だって思ったら、話をしようと思わなくなる。
人とつきあうときに粘りがなくて、分かり合えないなって思ったら、
何も言わず身を引いちゃうんだ。人に嫌な顔をされても、言うべき事を言うってのが
俺にはできないんだ。勝手にしろ、俺も勝手にするってすぐに結論しちゃう。
中塚が言ったとおり、人との間に壁を作ってると思うんだけど、……俺の悪い癖だよ」
自分語りなどと自意識過剰なのはわかっていたが、悲しいかな、
それ以外で彼女に伝える言葉がなかった。
気にするなとか、お前は悪くないとか、無根拠に慰める言葉だけで済ませるには、
俺は中塚に共感しすぎていた。
中塚が顔を上げて、眼鏡越しに潤んだ目をこちらに向けた。
着実に言葉が伝わっていることを感じて、何より自分がようやくほっとしてきたことに気付いた。
悲しむ中塚をみて、俺が一番落ち着いていなかったらしい。
「中塚はさ、嫌われても通すべき筋を通そうと頑張って、しかもあきらめないんだ。
俺は、そこをほんとうにすごいと思ってる」
「……しつこいだけよ」
憎まれ口に近い反論ですら、そういう元気が出てきている証拠であることに俺は気付く。
「正しいと思ったことで粘れるってのは、すごいことなんだよ。……ただ、言われる方はさ、
わかってて自分でも気にしていることなんだよ。
だから正しいことを言うときには、相手を追いつめないで
ちょっとだけ優しさをもてばいいと思うよ」
「無理よ。そんな器用なこと」
「大丈夫、ちゃんとできてたよ、中塚。だって俺に弁当を作ってくれただろう?」
似合わないとは思いつつ、精一杯笑顔を作ってウィンク。中塚の思わずあわてた顔に、
俺はすこし慰められた。

「そ、それは……」
「片桐のことで弁当の件は悪かったと思ってる。でもさ、あのときの中塚はとても優しくてさ、
俺、勘違いしそうで、恐かった」
「勘……違い……?」
中塚の目が見開かれる。俺はあの時の思った事を深く掘り下げて、
そして彼女に渡すべき小さな真実を漁った。
それは心の奥底にあった、その時は意識すらしなかった「怖れ」だった。
「うん。……中塚の好意が、友達としてなのか、それ以上なのか、わからなくなりそうで恐かった。
だから……友達なのにそこまでしてもらうと悪いと思いこみたくて、断ろうとしたんだ。
……中塚に勘違いしないでって冷たく言われるのだけは嫌だった」
俺の投げ出した真実で小さな沈黙が落ちた。俺は焦らなかった。
伝えるべき事は伝えたと思ったのだ。
やがて中塚がうっすらと笑みを浮かべた。
「……馬鹿」
「ごめん。……でも中塚の優しさも可愛さもまっすぐさも俺が保証するから、……もう泣くなよ」
俺の言葉は逆効果となった。
またもや中塚の目からみるみる涙が滴り落ちはじめたのだ。
そして今度こそ中塚は声をあげて泣き始める。
だが俺はもう何も言わなかった。心にも不安は無かった。
ただ側に立ち、待てばいいことをわかっていた。
押し倒していいなんて先輩はまるでわかっていないと俺は小さく微笑んだ。
性欲なんか欠片も感じなかった。
そこには、強がりに疲れた泣き虫の女の子がいるだけだったのだから。

 校舎の中央出口は鍵が掛かり固く閉ざされていた。 
「どうしたの?」
後ろから尋ねたのは、当然中塚である。
「……閉じこめられたらしい」
「え? えええーーーーーーーーー」
泣きやんでもまだ赤い目をまん丸にして、中塚が叫んだ。
俺はあの後中塚が泣きやむまで馬鹿正直に付き添っていた。
それから中塚とともに荷物をまとめ、実行委員会室まで戻って電灯を消して、一階に下りた。
無言だったが温かい雰囲気で中央出口まで歩いたところで、鍵が閉まってることを発見したのだ。
「……たしか午後9時で自動的にロックされるとかいってたような」
「そうよ! 警備会社のオートセキュリティで鍵が掛かって出入りできなくなるから居残るなって」
「……まずいな」
思わず、俺は中塚の顔を見る。彼女も顔を引きつらせていた。焦りを感じているらしい。
「まずいわよ。泊まり込み禁止を破ったら、下手したら停学なんだから!」
「げっ! なにそれ?」
「数年前に泊まり込んでタバコは吸うわ酒は飲むわ、おまけにやっちゃったバカップルが
いたらしいの」
そのバカップルを呪いたい感情に襲われながら、打開策を探して視線をあちこちに飛ばす。
やがて窓に視線が止まった。
「……窓を開けてでる?」
「速攻、警備会社が飛んでくるから」
そういうと中塚が天井を指し示す。赤外線らしいセンサーが張り付いていた。
「……明日、学校が開くのは?」
「午前七時のはず。朝練の連中が七時半集合だから」
「……こっそり泊まる、しかないか」
「親にうまいこと言わないと、学校にばれるから注意してよね」
携帯電話を取り出して、家に掛けるが、誰もでない。
いつものように親父は泊まり込んでいるらしい。
舌打ちしてメールを確かめるが、姉からのものが一通あるだけで、親父からのものは無い。
親父の平常運転を確認し、ため息をついて携帯電話をしまった。
「で、どの部屋に行く? 実行委員会室は駄目だぞ? 朝一番にみんなやってくるし」
「私のせいだから、とっておきの裏技……、使うから」
連絡を取っていた中塚も携帯電話をしまうと複雑そうな表情を浮かべて、そう言った。

「茶道部……かぁ。なるほど」
「ここ合宿にも使うんだけど、その時は女子マネ部屋になるの。内側から鍵も掛かるし」
「そりゃ、ばっちりだけど?」
扉を開けると、中塚は真っ先に窓に近づき、ブラインドを降ろした。
部屋が暗闇に閉ざされる。
「壁にスイッチがあるから」
手探りでスイッチをつけると、白色の光が闇に慣れた目に突き刺さった。
小さな六畳ほどの和室が照らし出されて、その光景にほっとするものを感じる。
「ドア閉めて。光が漏れると警備員さんの巡回で見つかるわ」
「お、悪い」
あわてて扉を閉める。上がり口の土間に靴を脱ぐと、土間の障子を閉めた。
部屋では中塚が押し入れの下段に上半身をつっこんでいた。残った尻がぴょこぴょこと動いている。
「あった……けど、一組しかない……」
「何を探してるんだ?」
「布団。敷き布団も掛け布団もあったけど、一組だけしかないの」
中塚は押し入れから布団を引っ張り出してくると、ぽんぽんと布団を指し示すように叩いた。
「……しょーがないさ。中塚は布団で寝てくれ。俺は……」
室内を見渡す。床の間があるが、横になれる広さではない。
畳の上は、……仕切りも何もなしで、恋人でもない男女が二人きりで一緒に寝るのはまずい。
「……押し入れで寝るよ」
「ちょっと、なんでそんな変なことを考えるの? ドラえもんにでもなったつもり?」
俺の言葉に中塚は顔をしかめて抗議をする。
「恋人でもない男女が仕切りもなしで同じ部屋はまずいだろう?」
「そんなの仕方がないし、矢代くんなら信じてるから」
肩をすくめて弁解する俺を、中塚は眼鏡越しに疑いや怯えを捨てた優しい目で見つめた。
思わず毒気を抜かれて、俺は中塚の顔をまじまじと見た。
「……あのな?」
「もちろん、対策はするわよ?」
そういうと中塚はいたずらっぽく笑った。

「じゃ、おやすみ」
「ああ」
スイッチの音がして、視界が暗くなった。電灯が消されたはずだ。
左側で布団がごそごそして、それに混じって呼吸音が聞こえた。
俺は今、枕代わりに座布団を丸めたものを頭に敷いて、体に学生服の上着をかけている、はずだ。
……目隠しをしているから、はずとしか言えない。
つまり中塚の言う「対策」とは、俺をタオルで目隠しして、
手を荷造り用ビニール紐でくくることだった。
これで覗くこともいたずらすることも出来なくなり、中塚は安心して眠ることが出来る
というわけだ。
実を言うと、昨今片桐相手に理性をふっ飛ばし気味な俺にとっても、安心できる対策だった。
過去を考えれば、自分の理性に根拠なく自信を抱いていた自分が我ながら笑えた。
いずれにせよ、手は窮屈だが痛くないし、目隠しもきつくはない。
寝るしかないと決まっていれば、睡魔の侵入も容易に許すわけで、まもなく大あくびがでた。
「ねぇ?」
「うにゃ?」
「寒くない?」
「ちょっと寒いけど?」
少し冷え込みがあり、それが睡魔への抵抗となっていた。とはいえ、仕方がない。
中塚から話しかけてきたにも関わらず少しの間、変な沈黙が漂った。
「……なんにもしないって約束してくれるなら、布団に入れてあげるけど?」
「別に何もする気はないけど、中塚はいいのかよ?」
「うん。なんか矢代くんが寒そうでかわいそうだから、……矢代くん信じてるし、
ちゃんと対策してるから」
「そう? できれば少し寒いんで入れてもらえるとありがたいけど?」
その言葉と共に中塚に肩をひっぱられた。
布団の方に背中で這いずって横に移動し、布団の端にのる。
掛け布団が掛けられ、その柔らかさと温かさに知らずにほっとため息をついた、
「ふぅぅぅ、やっぱり極楽だな。布団ばんざい!」
「ふふっ」
中塚の笑いが思った以上に近いところで聞こえ、少し驚く。
それを悟られないように挨拶をした。
「じゃあ、中塚。お休み」
「うん」
そのまま部屋が静寂に包まれる。
今日あったこと、中塚の泣き声、先輩の嫌悪の表情、明日の予定、
片桐の事が脳裏に浮かんでは消えた。

 すこしうとうとしていたらしい。
気がつくと、足に中塚の足がからみついていた。それも巻き付いて挟み込まれるレベルの絡み様だ。
腕には中塚の頭らしきものが押しつけられて、脇腹には柔らかいものがあたっている。
「ちょ、ちょっと?」
だが中塚の答えはない。
それどころか熱い柔らかな体がますます押しつけられ、からみついた。
「中塚?」
「……ねぇ、あの子ともう『した』の?」
唐突に掛けられた中塚の、すこしトーンの下がった声に粘りつくものを感じる。
「したって、な、なにを?」
「……セックス」
聞き間違いかと思った淡い希望がすぐに打ち砕かれた。中塚の手が俺の手の甲におかれ、
爪が立てられる。
言うべきかごまかすべきか躊躇したが、中塚にはそれで充分だったらしい。
「……したんだ」
「あ、あんな風に大胆に迫られてしまうと、ホモでもない限り理性はとんでしま……アチッ」
鋭い痛みを感じるほどに爪がくいこんだ。
「やっぱり、……許せない」
ぞっとするような暗い響きの小さな声が、耳に届く。
「どうせ体でたぶらかしたんだと……そんなことだと思ってたけど……」
「あの……、中塚?」
「いいよね? 正しいって思ったことはあきらめなくて? さっき、そう言ってくれたよね?」
「え? あ、うん。言ったけど……」
ごそりと俺の側で布団が動いた音がした。
「優しさを持てば、正しいことで粘ってもいいんだよね?」
中塚の言葉に、何か俺は非常に追い詰められた感じがしていた。だが吐いた言葉は飲み込めない。
「ああ。そう言った……!?」
柔らかいものが唇に押しつけられた。それが唇だとわかったのは、
中塚の舌が俺の舌に絡まってからだ。
片桐より稚拙な動きで、でも熱さは変わらない舌が、俺の舌を必死で吸っていた。
たまった唾液が中塚に音を立てて吸われ、飲み下す音が続く。
ふと舌が離れて、ふさがれていた唇が解放される。
「な、中塚っ!」
「……矢代くんを取り返すの。矢代くんがあきらめなくていいって教えてくれたから、
あきらめないの」
俺は思わず言葉を無くす。
黙っていると突然に目隠しが取り去られ、視界に俺の側で上体を起こした中塚が入ってきた。
その瞳には思い詰めたような狂おしげな光が浮かんでいる。
「矢代くんは勘違いしそうになったんだよね。……それ、勘違いじゃない、友達以上の『好き』だよ。
……だから、もうあきらめないの」
「だ、だけど俺には片桐が……」
「矢代くんはセックスしちゃったら誰でも好きになるの? 迫られちゃったら、愛しちゃうの?」
「なっ……、そんなことは……」
「じゃあ、私を好きになってっ! 私の方がずっとずっと好きなんだから!
もう、矢代くんがいないと、私、駄目なんだよ……
優しく笑ってくれるだけじゃ嫌! 慰めてくれるだけじゃ嫌! お願い、私を……私を愛して!」
ブラインドから漏れるわずかな光が、こぼれ落ちる涙を次々ときらめかせる。
「でも……、俺は……」
「ちゃんと比べて! 比べもしないで、嫌わないで!」
中塚の瞳に浮かんだ色をみて、俺は自らに選択肢が無いことを自覚した。
俺は自分が一人でいることに苦痛はない。嫌われたって疎まれたって、どうってことはない。
利害得失で近づいて来る人間も気にはならない。そういう人間が去ってもいっこうに構わない。
だけど、自らを捨てて俺という存在を求められた時、俺は狂ってしまうらしい。
片桐だって、常識的に考えればおかしいとしか言えない行動をとる女なのに、
俺は彼女をはねのけられない。
俺は余り物で無価値だから、そんな自分を求めてくれる人の思いを踏みにじることなんて、
できなくて……。
気がつくと縛られていた手で中塚を押し倒していた。

「わかっているのか? 俺、片桐とセックスやってるよ?
中塚みたいなまっすぐでいい奴が俺ごときに二股かけられて、それでいいの?」
願わくば、ここで俺をはねのけて欲しい。
「いいっ! ここでなんにもされないくらいなら……」
間髪入れない答えに、俺のかすかな期待が瞬時に粉砕される。やっぱり選択肢なんかなかった。
「手をほどいてくれ」
中塚の目の前に縛られた手を見せる。解かなければ、ためらえば、すぐに手を引くつもりだった。
だが躊躇無く紐は解かれる。……俺は最低の男になるしかなくなった。
「中塚、両手を出せ」
いぶかりながらも俺の言葉に従って、彼女は両手をだした。
その手に俺は自らの手を縛っていた紐を巻き付け縛った。
「矢代くん?」
さすがに不安そうな表情が中塚の顔をよぎった。
「中塚はさ、レイプされちゃうんだ。好意で一緒の部屋に寝ようとしたのに、
勘違いした俺に犯されちゃうんだ。
だから……略奪とか横恋慕とかそういうのじゃなくて……。中塚は悪くないから。
俺が片桐と付き合っていることに嫌だと思ったら、なんにも言わずに俺から離れていっていい」
中塚の体が一度大きく震えた。
「……じゃあ、犯すから」
そういって俺は中塚の上着に手を掛けて、そしてためらった。
他に方法はなかったのか、彼女を傷つけずにこんなことをせずに済む方法はないのか、
そう思ったのだ。
俺の手の甲に、小さく華奢でひんやりとした手が置かれる。
思わず中塚の目をみると、彼女は笑っていた。
「私、迂闊で……矢代くんを挑発しちゃったから……犯されちゃうのは自業自得なんだよね」
「馬鹿」
せっかくの俺が用意した言い訳を彼女は無駄にしてしまった。
なのになにか、たまらないものがこみ上げて、俺は彼女の眼鏡を取り去り、唇を奪う。
性欲だけではない、尊く温かいものに心を震わされながら、
彼女の唇を何よりも大切にすって舐めあげる。
俺の思いをこめて彼女の舌を舐めあげ優しく吸った。
頬に彼女の熱い涙がつく。俺は気にしないことにした。ただ一心不乱に彼女の口を愛した。
不規則にしゃくり上げながらも不器用に答える彼女の舌は、たとえようもなく愛しかった。
それを俺が穢していることは、どうしようもなく心が痛んだ。
その痛みから逃れたくなって、唇を外し、俺は彼女の服のボタンを外していく。
暗闇の中で、まぼろしのような白い裸身があらわれる。下着は無く、中塚は身じろぎしなかった。
呼吸に伴って小さく揺れる控えめで柔らかな胸の盛り上がりは、やはり魅力的だった。
胸に手を伸ばし、かすかに揺れる盛り上がりをそっと掬う。
もう一度中塚の体が震える。
それが本能的なおびえによるものだとわかり、俺はもう一度ためらった。
だが手のひらを刺激する快い柔らかさが、ためらいを振り切る。
どうせ、俺は最低な男で、もう止めることもできはしなかった。
頂きで小さくそそり立つ桃色の固まりにそっと口をつける。
さらに震える体に愛しさを感じながら、口の中の固まりを舌で包み、平らな頂点をつつく。
中塚の体が小さく跳ねた。
反対側の胸に手を伸ばす。それは手のひらにすっぽりと収まりながらも端正な美しさがあった。
そして手触りは絹のごとく滑らかで、柔らかさは手にまとわりつくような感じだった。
歯を軽く乳首をくわえ、舌で優しく撫で転がす。もう一つに乳首は緩やかに指で挟んで撫でた。
「ひゃうんっ……んんっ……あっ……うぁっ」
体が続けざまに震え、中塚の縛られた手が俺の頭を胸に押しつける。
そのかわいさに満足感を覚え、口を大きく開けて乳首ごと胸肉を頬張った。
軟らかく滑らかな極上肉を吸うと、舌や歯に肉がやわらかくからみつく。
「はぁぅぅぅ。む、胸がたべられちゃってるぅぅ……あうぅんん」
反対側では、指でいじくっていた乳首が懸命に屹立し、
それをこすって弾くと面白いように体が震えた。

 もう一方の胸に顔を移し、とがりきった乳首にキスをして、唇で挟んだ。
「きゃぅぅんん」
小さな悲鳴があがって、体がまた大きく震えた。
さっきまで吸っていた乳首のてっぺんを、唾液のぬるみを利用して優しくさする。
唇で挟んだ乳首に舌を突き刺し、肉に埋もれるほど舌で押す。
舌を離すぽんと飛び出てきたので、歯で軽くかじって受け止め、根本を舌でなぞって吸った。
「だめぇぇぇぇ……おかしくなるぅぅぅ……私、へんになっちゃうぅぅぅ」
中塚の震えが止まらなくなったのに味をしめ、乳首の先端を舐めながら、
歯でさらに転がしながら軟らかくかじり、乳輪を唇でつまんで吸った。
「あはぁぁ、ふぁぁ、うぅぅぅぅぅああああああああっ……」
突然のけぞった中塚が何度も体を震わせ、やがて力が抜けて布団に倒れ込む。
胸から顔を離した俺が見守る前で、目を閉じ荒い息をついてぐったりとしている。
俺の下半身は既にいきり立っていたが、まだ入れるには早いだろうと思った。
中塚の足下にすこし下がり、スカートを降ろす。なぜかまたもや下着は無かった。
それを少しだけ疑問に思ったが、構わず足の間に入って両太腿にそれぞれ手を置いた。
「……や、矢代くん?」
少し怯えたような問いに答えず、俺は中塚の足を持ち上げる。
開脚させた膝を中塚の肩につくほど曲げ、そのまま太腿を手で固定した。
俗に言うまんぐりがえしって格好となって、中塚の白い腹と白い両太腿の裏側、
そして突き出された真っ白い尻と陰部と肛門が丸見えになる。
「い、いやぁぁぁ、は、恥ずかしいから、み、見ないでぇぇ」
じたばたと中塚が暴れたが、俺は太腿を手で抑えたまま、陰部のとがった固まりに口づけをする。
「ふぁぁぁぁぁ」
かすかな女の臭いが鼻をつき、と少し酸っぱくて塩辛い味が舌を刺した。
とがった固まりを舌でぞろりと舐めあげると、力が抜けて暴れることをやめた中塚が
体をぶるぶる震わせる。
舌をできるだけとがらして、舌先でクリトリスをつつき、ゆっくりとなぞった。
その動きごとに中津が震え、涙目をうつろにして、息を荒くしていた。
そっと太腿を押さえていた手を外すが、もう中塚は陰部を隠そうとしない。
指でクリトリスを挟み震わせる。はみ出た部分を唇で吸って舌でつつきまわした。
「ひっ、くぅっ、はぁぁうっ、あはっ、んふっ」
もう中塚は一筋の涎を垂らしながら、俺の手と口の動きに反応して体を震わせる人形となっていた。
わき出る愛液に、ひとさし指を浸してぬらす。
クリトリスへの愛撫を続けながら、指を滑らせて、穴の縁をなぞった。
「んんんああぁぁ」
耐えきれないように中塚がまた少し反り返る。
濡れたひとさし指をゆっくりと芋虫のようにこすりながら、少しずつ穴の中に沈めていった。
「んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
クリトリスを舐めあげると、指を締め付ける膣肉が緩む。
空いたスペースで軽く指を曲げて周囲の肉を時間をかけて優しくこすった。
「あはぁぁぁぁぁぁ、指がぁぁぁぁぁぁ」
「中塚、力を抜いて」
わき出る液で手をぬらしながら、じりじりと指を進める。
中の肉がまるで絞り上げるように指にからみついた。
やがて指が根本まで埋まり、中塚の中が俺の指を食い締めた。
もう一度クリトリスをなめあげ、軽く歯を立てながら、指の腹で細かく中をこすりたてる。
「んぁぁぁあああ、だめぇ、だめだめだめぇぇぇ……んんんんんんんんんっ」
中の肉が痛むほど指をしめつけ、中塚が壊れた人形のごとく体を不規則に震わせながら
のけぞらせる。
唐突に中の締め付けが緩む。しかし体はのけぞったままだった。
やがて体に走る震えがゆっくりと減っていき、震えが止まる。
中塚の背が布団に落下し、折っていた足が投げ出される。
その目は虚ろで焦点を失い、あえぐように息をしている半端に開けられた口の端には
水の筋がついている。

 俺はすこし余裕が出来たと思い、中塚に背を向けると鞄を引き寄せ、コンドームを取り出した。
本当はそれは片桐とのためのものだ。
ピルで避妊しているのだからと片桐は嫌がったのだが、飲み忘れのときのためといって買ったのだ。
……こういうことを考えて片桐は嫌がったのかも知れないと、俺はふと思った。
「……なに……してるの?」
「ん? コンドーム」
中塚に背を向け四苦八苦しながらコンドームをつけようと頑張ってると、声がかかった。
「……大丈夫だから。安全日だから」
「そういう問題じゃない。ちゃんと避妊はしないと……うわっ」
やっと付けられそうになったとき、背後から伸びる縛られた両手がコンドームを跳ね飛ばす。
「おい!」
「いやっ! 私は、あの子よりも矢代くんと深く結びつきたいのっ!」
振り返った俺の目に、中塚の強い光を宿した目が映った。
「そういうことじゃないだろ?」
「矢代くんは私とじゃ、つけないとできないの? 
いつでも私を捨てられるように、責任とらなくて済むようにコンドームつけるの?
あの子のところに平気な顔して戻るためにコンドームつけるの?」
「な、何を言ってる?」
暗がりの中で、彼女は目だけを光らせ、俺を責めるように睨む。
まるで避妊がいけないことであるかのような中塚の口ぶりに俺は混乱した。
「私、子供できてもいい。……ううん、子供が欲しいくらい。
矢代くんが産んでいいといったら産みたい」
「ちょ、ちょっと! 子供って!」
「わかってる。赤ちゃんを産むって事がそんな簡単じゃないことぐらいわかってる。
でも、避妊してセックスして、そのときだけの思い出で終わってしまうのはもっと嫌。
ずっと側にいてくれないなら、私、矢代くんの子供産むから!」
脅迫とすら言える内容もさることながら、俺はそれを言わせる中塚の心に衝撃を受けていた。
そして片桐への敵愾心に、かるい恐怖すらあった。
言うべき言葉を模索して、頭が高回転を続けるが、うまい言葉は無かった。 
そもそもに選択肢はなかったのだ。
しばらくの沈黙の後、俺は全面降伏に至った。
「……はぁ、わかったよ。……今日、安全日なんだよな? 」
「うん、ほんと」
「いっとくけど、危険な日は絶対に避妊するからな? 
……妊娠したら親や学校が出てきて、めちゃくちゃになって最後には別れてしまう奴らが多いの、
知ってるだろ?」
「うん」
「俺は、中塚をやり捨てるとかそんなつもりはないから。信じてもらえないかも知れないけど。
たださ、妊娠させてお互い気まずくなって別れるのは悲しいだろ?」
「……うん」
「そういうの俺も嫌だからさ……。まあ、それはともかく続き……だけど」
久しぶりに俺の論理が中塚に通じたのを感じて、俺はそっとため息をついた。
だが犠牲は大きかった。
ある感触に俺は己の股間をみる。
見事に萎えていた。子供の話が直撃だったらしい。
「……その、えーと、ちょっとまって……」
「どうしたの?」
中塚が俺の股間をのぞき込んで、笑った。
「小さくなっちゃったんだね。私が手伝ってあげる」

 もはや、レイプとかいう建前はどこかに吹き飛んでいた。
中塚の手を縛っていた紐は解いてしまっていたし、今は俺が中塚に責められている有様だった。
そう、明るく笑った中塚は俺の股間に潜り込むと、萎えた息子を口に含み舐め始めたのだ。
さすがに処女にそれはどうかと思ったので腰を引こうとしたのだが、中塚が許してくれなかった。
しっかりと俺の急所をつかみ、やりたい放題に舐めていたのだ。
もちろんうまい舐め方ではなかったが、込められた気持ちにより肉棒は瞬く間に
腹を叩くほどそそり立った。
「な、中塚? も、もう……くっ……充分……うっ……だから」
そして既に制止は三回目だが、彼女は一向に止める気配を見せなかった。
その間に何度もしびれるような感覚が尻から背中を駆け上がる。
精液が肉棒の中程までせり上がり、一瞬でも気を緩めるとほとばしりそうになるのを
歯を食いしばって全身の力で必死にこらえた。
「な、中塚っ! そ、それ以上は……でて……しまう……から……ぐっ……そのへんで」
その言葉で中塚は上目遣いで俺をみた。目がまたもや笑みの形になり、
先端に生暖かいものがまきついた。
目の前に星が飛び、腰が浮くような放出感とともに、肉棒の先端が弾けた。
息をすることも忘れて放出感に浸り、拍動ごとに腰から重さが消えて頼りない脱力感に変わった。
拍動が治まり、頭がしびれるような感覚が去る。
やっと中塚のほうを見ると、苦しそうな顔をして何かを飲み込もうとしている。
働かない頭を無理矢理動かして、飲み込んでいる「もの」に気付いた。
「……ばば、馬鹿っ! 吐き出せっ! 飲み込むなって!」
鞄を引き寄せてポケットティッシュを引っぱり出し中塚の前で広げるが、
彼女は首を振って嚥下を続けた。
呆然とする俺の前で、彼女は口内のものをゆっくりと飲み下し、やがてため息を一つついた。
「変な味」
「当たり前だ! んなもの飲む奴がいるかっ! AVじゃあるまいしっ!」
「でも飲んであげたかったし、矢代くんも気持ちよかったでしょ?」
「そ、そりゃ、まあ……って、そういうことじゃないって!」
だが中塚が心の底からうれしそうな顔をして俺に抱きついてくる。
「だって矢代くんだって私のを舐めてくれたし。それに好きな人のが私の中に混ざったんだよ?」
「な、中塚?」
「あはっ、また元気になってきた」
俺の肉棒がまた起ち上がり、中塚の腹をうった。
私の中に混ざったと言って腹を押さえた時の満足そうな中塚の顔が
ひどくエロティックだったためだ。
「と、とにかくっ、続き」
俺は赤面しそうなのをごまかすと、中塚を優しく押し倒して足の間に膝立ちで入った。
彼女の恥ずかしそうな目を見つめながら、口づけを交わす。
肉棒を中塚の濡れそぼった性器に当てて、ゆっくりと腰を進めた。
「いっ、いたたたたたっ」
尻が逃げていく。中塚が上にずり上がった。
「ごめん。もっと丁寧にするから」
逃げた尻を追っかけて、肉棒の先端を丁寧にそろそろと押しつけた。
「ぐっ! いたーーーーーい」
尻がまたもや逃げた。。
「な、中塚、ちょっとだけ我慢だから」
「もっと優しくしてぇ」
今度こそ気をつけて、出来るだけ痛くないようにそっと入れる。
「いたいよーーーー、んきゃっ!?」
叫んで逃げた中塚が壁に頭をぶつけ、頭を抱えて丸まった。
「だ、だいじょうぶか?」
男はそれほどでも無かったが打ったところに手をあて、さすった。
中塚が涙目になって俺を見上げる。
「痛すぎるよぉ」
「……指は入ったんだけどなぁ。……仕方がない。今日はここら辺でやめとくか?」
肉棒は元気だったし、入れたい気持ちは充分にあったが、あそこまで逃げられてしまうと
可愛そうになった。

 もうレイプのレの字の無い有様だったが、これはこれで良かったのかもと俺は思った。
中塚は違った。
「そんなの駄目っ! そんなの、安全日の意味がないよぉ! 最後までやろうよぉ」
なにか言うことが男女逆だと思った。しかし中塚の目はとんでもなくやる気満々だった。
「でも痛いんだろ?」
「うぅぅぅぅぅ」
股間を押さえながら、彼女はうなった。その様子はわんこみたいで可愛い。
「そ、そうだっ! 女の子が上になれば痛くないって聞いたことがあるよっ」
名案を思いつきましたって笑顔で中塚はとんでみないことを言いはなった。
それは俺が考えたが、脳内で却下を下したアイデアだったのだ。
……処女で騎乗位って、それなんてエロゲ?

 そして数分後、中塚は布団の上に寝ころんだ俺の腰の上で、青ざめていた。
「や、矢代くんのそれって、大きすぎない? 巨根っていうか、大砲というか」
「……計ったことあるけど、日本人の平均よりちょっとだけ大きいくらい。そんなに大きくない」
まあ、中学生の頃に誰もが一度はやることだ。
計った後で大きかろうが小さかろうが使う場面が無いと意味がないと気づき
自己嫌悪に陥ったりしたが。
「やっぱり大きいよ。裂けちゃうかも」
「……じゃあ、やめる?」
「ね、ねばーぎぶあっぷ! 負けないもん!」
こいつはそういう女だった。粘り強くて言いだしたらやり通すやつなのだ。
何かを決意するように中塚が目を強く閉じた。
肉棒の先端に濡れた肉が張り付き、徐々に飲み込んでいく。
中塚が少しうめいたが、腰は少しずつ落ちていった。
不意に先端が温かい肉に包まれる。中塚が短く息を吐いた。 
そのままゆっくりと腰が下がり、少し抵抗を感じた後、弾力のある肉が引き込むように
肉棒にからみついて、腰に甘美なしびれを発生させる。
俺は布団を握り締めて、突き入れたい衝動を必死に抑えた。
やがて中塚の腰が根元まで下がりきり、恥骨同士が皮膚を隔ててぶつかり合う。
「は、入った?」
「ああ、根元まで」
俺の答えを聞いた中塚が安心したように大きくため息をついて、俺の胸に倒れこんだ。
中塚のひんやりとした滑らかな体が二つの柔らかい肉を押しつぶして、俺に密着する。
「ふぅぅぅ、矢代くんの熱いのが、口から出そう」
「そんな大げさな」
安心したような表情を浮かべて言う中塚に、俺は苦笑いを返した。
「ほんとだよぉ。今でも……ほらっ、矢代くんのがぴくって動くと、
おなかがかきまわされそうだもん」
口をとがらせながら下腹部をなで回す中塚の唇をキスで塞ぐ。
驚いて見開かされた目がたちまちとろりとした喜びに濁った。
舌を絡ませ、口の中を舐めながら、片手で中塚の胸を弄くった。
もう一本の手は中塚の尻をなで回して感触を楽しむ。
小ぶりながらすべすべではちきった尻は、撫でるだけで深い満足感を覚えた。
それだけで我慢が出来なくなり、小さく緩やかに腰を揺すり始める。
ぴんと張られた白いうなじがおいしそうで、体を起こして吸い付いてみた。
「ひゃぁぁぁぁぁぁうんんん、だめぇぇぇぇぇ」
反応は激烈だった。
中塚の体がおおきくのけぞり、中の肉も絞るように肉棒を締め付ける。
その反応が楽しく嬉しいので、首筋にキスを降らせ、舌を這わせる。
尻の手を背中から脇腹に移動させると、そこでも中塚の体が震えた。
「中塚、可愛いよ」
首筋を攻めながら、脇腹を触るか触らないかの微妙なタッチで撫でると、
中塚は声も出せずに震えた。
そして中塚の中の締め付けも強く心地よくなりすぎ、腰が勝手に動いて肉棒を打ち込み始める。
乳首をひねるように挟んで先端をこすり、首筋を舐めながら吸って、脇腹を丁寧にさする。
それだけで突き入れている肉棒を包む肉が軟らかく奥へと引き込むようにまとわりついて、
一層快感がわき起こった。
「あぅっ……はぁぁぁ……んんうああぁっ……ひぃぃんん……ああああああっ」
中塚自身はもうしゃべることも出来ずにただ喘いでいた。そして……
「あああああぁぁぁ、いっちゃういっちゃいいくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
のけぞりと共に俺の肉棒は痛むほど絞られ、瞬く間に精液が肉棒の中を走り抜け、
先端で吹き出した。
拍動感が続き、のけぞったままの中塚の奥に注ぎたくて、さらに奥まで突き入れる。 
頭から血が引いていくような感じに襲われて目がくらみ、中塚の体にしがみついた。
やがて俺達は抱き合ったまま布団に崩れ落ちた。

 お互いものも言えず荒い息を続け、しばらくたってようやく落ち着きを取り戻す。
上に乗った中塚がまた下腹部をなでた。
「……すごく熱かった」
しかし満足そうに息を吐きうっとりと目を潤ませていた中塚が突然あたふたとし始める。
疑問に思う間もなく唇を重ねられ、手を取られて乳房の腕に置かれた。
さすがに乳首はもうとがっていない。
「ん、よしよし。危なかったぁ」
口の中を舌でひとしきりまさぐられた後、唇を離すと中塚がほっとした様子でつぶやいた。
「いったいなんだ?」
俺の疑問にすぐに答えず、中塚の手が俺の肉棒をもつと、中塚は腰を動かした。
抜けかかっていた肉棒がまた根元まで飲み込まれる。
「うん? 矢代くんのが小さくなって抜けちゃいそうだったから、入れ直したの」
「……出したら萎えて抜けるのは当たり前だが?」
中塚が何をやりたいのかわからず、俺は首をかしげた。
「うん、だから大きいままで私の中に居て欲しいの」
「は?」
「朝までね、矢代くんとずっとつながっていたいなって。
そうすれば私のここも矢代くんのがぴったりはまる形になるし」
「……おーい?」
「それにあんなに痛い思いして入れたんだから、すぐに抜くともったいなくて」
恥ずかしそうに中塚は顔をあからめた。なにが恥ずかしいところなのかよくわからなかった。
俺は頭痛を覚えて額を押さえる。
「入れたまま? 朝まで?」
「うん。矢代くん、あの子とけっこうやっちゃってるんでしょ?
じゃあ、私は回数ではすぐに追いつけないから時間かな? って」
「時間かな? って、……入れてる時間?」
「そう。一つになっている時間。だから……ゆっくりしていってね……なーんてね、えへ」
舌を出して笑う中塚に、ポカンと俺は口を開けた。

「うう、ほんとに頭がフットーしそうだよぉ」
「……頼むからそのセリフは止めてくれ」
ニコニコと微笑みながら言われた中塚の言葉に、俺はひどく疲れを覚えた。 
闇に閉ざされた人気のない校舎の中を俺は歩いていた。
互いに上着だけ羽織り、中塚を駅弁スタイルで抱き、しかも……つながりながらである。
変態だ変態だと小さな存在が脳裏のどこかできーきーとわめいていたが気にしないことにした。
走り出したい気分をぐっとこらえ、中塚が痛くないように、静かにしかし早く歩いた。
やがて目標である俺達の教室につくと、俺は中塚を抱えたままそっと扉を開けて入った。
「俺の机?」
「うん」
中塚が手で指し示した机、つまり俺の机に、俺はよたよたと歩いていった。
到着すると、机の上に抱いていた中塚を降ろし、さすがに疲れて中塚から離れ椅子に座り込んだ。
裸の尻にひんやりとした感触を伝えた椅子は心地よさと違和感を同時に心にわき上がらせた。
そんな俺の目の前に、机に腹ばいになった中塚の尻が突き出される。
そんなに大きくないはずなのに、女独特の曲線で構成された滑らかな双丘は、
生唾を飲むほど淫らだった。
「私ね時々、誰もいない教室の矢代くんの机で、矢代くんに後ろから犯される夢を見るの」
その声とともに目の前で開ききった女性器に二本の指が添えられて、女性器をこねはじめる。。
「そんな夢をみるとたまらなくなるの。……矢代くんの指を舐めたくなるの。
矢代くんの目で犯されたくなるの」
指はクリトリスをつまみ、女性器をなで回す。指を伝って滴りが伝いおちるのを
暗がりの中で確かにみた。
「はぁ……来て。ここは、……私のオマンコは、矢代くんのものだから……」
その言葉と共に女性器が指によって広げられる。
理性は瞬時に蒸発し、気がつくと俺は尻を抱えて突き入れ、中塚は顔を喜びに染めて、
絶叫していた。
中塚の口を手でふさぎ、腰を押さえて、食いつきたくなるような尻の間に
ひっそりと息づく性器の奥の奥まで、子宮にまで押し込まんとばかりに打ち込む。
「矢代くぅぅぅん、好きぃ、好きぃ、大好きぃぃぃぃぃぃっぃ」
中塚は「逝った目」をしながら、俺の机に乳房をすりつけ、口を押さえた俺の指をしゃぶった。
限界はすぐに来た。中塚の中が、俺を離すまいと引き込み絡みついて絞ったからだ。
目の前が真っ暗になり、尻の柔らかく弾む感触の中にめり込みながら、
中塚の腹の中にしこたま放つ。まるで命が流れ出るかのように、
股間の拍動とともに手足の力が抜けていく。
そして俺はもうろうとした意識で中塚に覆い被さった。

 目が覚めると、室内にはわずかな明るさがあった。 
ブラインドから太陽光線がわずかに差し込んでいたのだ。
まだ早朝のようで、柔らかな静寂が薄明の室内を満たしている。
そして俺たちは、まだつながっていた。
教室からつながったままこの部屋に戻り、そこでさらに二回ほど交わったというか
出してないから二発ということになるか。
まさにセックスを覚えた猿のごとくやりまくって、
疲れ果てて二人とも意識を失った結果が今の状態である。
ちなみに中塚は、満足しきった顔で、俺の胸の上で軽い寝息をたてている。
それをどこか誇らしくそしてうれしく思った時、脳裏に片桐の顔がよぎった。
それで脳天気な気分が吹き飛び、自らの最低さを思い知らされることになった。
どちらかを選ぶなんて、できはしなかった。
傷つけるのが嫌というのは確かにあった。
しかしそれ以上にあったのは、真剣な気持ちの女達のどちらかだけを選ぶ
という行為の傲慢さに対する違和感だ。
俺にはそんな資格がないことを自分で良くわかっていた。だから選ぶなんて出来なかった
……同じ最低ならば、一人に憎まれるのも二人に憎まれるのも同じ事……
刹那、そんな考えが頭をよぎる。
彼女たちから奪ったものは、返すことができない貴重なものだった。
それでもずるずると二股を続けるよりは、ましだと思った。
ごめん。胸に乗った中塚と脳裏の片桐の顔に、俺は心の中で謝った。

 

 その日、天候にも恵まれて体育祭は始まり、実行委員各自の奮闘により
プログラムは滞りなく進んでいった。
「よーし、みんな。これで最後だ。フォークダンスは実行委員も全員参加だぞ」
全ての競技が終了し、閉会の挨拶も終わって、父兄が引き上げていく中、
実行委員長の指揮でラストプログラムのフォークダンスが始まる。
音楽は、教師が面倒を見てくれるらしい。
スピーカーから去年も聞いた優雅なクラシックが流れ始める。
誰もが好きな異性とのダンスを心待ちにして、踊る輪の中に飛び込んでいった。
「矢代、君も踊りなさいよ」
「ええ、すぐに行きます」
副委員長の先輩が俺に声を掛けて、輪に向かっていく。
だけど俺は動かない。ただ立ちつくして、踊る人々を外から見ているだけ。
片桐とは踊る資格がない。そして中塚と踊れるほど恥知らずじゃない。
あかね色に染まる空の下で、去年までと同じように、俺はダンスをただ傍観していた。
去年と違うのは、俺が二股をかける最低な男に成り下がったことだけ。
優雅で軽快な音楽が続く。踊る生徒達の笑顔が、ひどく遠いものに見えた。
なにかに耐えられなくなり踊る輪に背を向けたとき、二人の女が待っていたことに気付いた。
精算は早いほうがいいよな、そうつぶやく。
音楽が終わり、歓声がどっと沸く中を、俺は女達に向かう。
憎まれてもいいから、このただれた関係を終わらせよう、そう決意して一歩一歩近寄っていく。

 だがそれは偽善に過ぎず、男の身勝手でもあり、異性経験が浅い故の甘さでもあった。
要するに俺はその時どうしようもなく、未熟だったのだ。

4

「幽霊がでたんだってよ? 矢代」
放課後まであと一時限。体育祭は終わり、昼休みも過ぎた、晴れた暖かい日のまったりした午後。
男女の取り巻きに囲まれた吾妻が俺に声を掛けてくる。
「季節外れだな。で、今度は何が出た?」
「女のすすり泣く声と悲鳴だそうだ」
吾妻が何か面白いことを知っているという顔で答を返す。
「なんだ。ありふれているな」
「そういうけどね、体育祭の前日にはっきりと聞いた人がいるんだから!」
吾妻の取り巻きの女生徒が力説する。噂をばらまいている当人らしい。
俺はどきりとした表情をしたと思う。それを見た吾妻がわずかに怪訝な顔をした。
ばさりと音がして、誰かが教科書を落としていた。そっと横目でうかがうと
済ました顔の中塚が教科書を拾い上げている。
「ククク、それきっと幽霊じゃないぜ」
「吾妻、どうしてそんなことが言えるんだよぉ?」
吾妻が含み笑いともに断言して、これも取り巻きの男子生徒がつっこんだ。
「簡単さ。俺達の四こ上の先輩に、学校で飲酒喫煙セックスのフルコースで
停学になったカップルがいただろ?」
俺は中塚の話を思い出していた。
「実はその先輩達、普段から学校でやりまくっていて、声が漏れていたんだけど、
怪しい声がするって怪談になっていたんだとさ」
吾妻の取り巻き達が何とも言えないきまりわるげな顔をする。
「今回のも絶対それだぜ。体育祭前日で、羽目を外して……いやはめまくった連中がいるんだぜ。
……というわけで矢代」
「……お、おれぇ?」
突然に話を振られて、少し動揺する。
「お前、実行委員だっただろ? 学校に残っていた奴とか知らないか?」
だが尋ねる吾妻の目は感情をうかがわせなかった。
「いや、知らない。……そもそもこの校舎は夜九時で出入りできなくなるし、居残りは禁止のはずだ。
その幽霊を見た奴という奴のほうが、いろいろ怪しいんじゃないのか?」
吾妻の目が興味深げな光を宿す。
「なるほど、発見者が犯人なぁ」
吾妻の言葉で取り巻きが顔を見合わせる。
誰もが黙り込んだところで、見知らぬ女生徒が入り込んでくる。
取り巻きの女生徒が一瞬きつい顔をしたが、すぐに表情をやわらげた。

「兄さん」
「なんだ、美優(みゆ)か」
珍しいことに吾妻の顔が優しい色を浮かべていた。
彼の前に立つ女生徒はどこか吾妻の面影を残しながら清楚で凜としたものをにおわせる、
肩胛骨あたりで切りそろえたストレートロングの美少女だった。
小柄な体に薄めの胸、小さい尻、しかし目は切れ長で適度に大きく、鼻筋はとおり、唇は桜色で、
吾妻の妹としては大変に可憐だった。
吾妻の取り巻きの男達が、彼女をみて、顔を一斉にとろけさせたので、俺は苦笑してしまう。
妹と話していた吾妻がなぜか俺を指した。
それをみて、吾妻の妹がこちらを向き、近寄ってくる。
「矢代先輩。これ、ありがとうございました」
なにか感謝に輝いているような目と共にノートが差し出される。
「え? あ、これ?」
「悪いな。美優が困ってたんで、売ってもらった」
吾妻が全然悪いと思っていない顔で弁解する。
俺は半ばあきれながら、ノートを見返していた。
このノートは一年の時に化学で赤点取りかけてた友人のためだけに作ってやったノートだった。
この友人限定にしたのは、他の奴にノート目当てで寄ってこられるのが
たまらなくうっとうしいからだ。
そいつは、中学の時から一緒で、修学旅行の時に俺の趣旨に賛同してくれた奴だった。
ベタベタした付き合いをしてこないので俺とウマがあい、化学で困ってたそいつのために
修学旅行の借りを返すつもりで作ったのだ。
結局そいつは無事進級したが、今年はクラスが違ってしまったのだ。
それ以来は交流も途絶えがちだったが……。
「売ってもらったって、なんでこのノートの事を知っている?」
「? 何を言ってる。あいつ、三学期に化学の成績が急に上がりすぎて、
先生がカンニングを疑って、奴を呼び出したの知らなかったのか?」
重要な情報の欠落を指摘されたときは、いつも一匹狼の不利を痛感させられる。
特に愕然とさせられるものが俺に届いてなかった場合は。
「いいっ?」
「んで、奴はお前のノート差し出して、潔白を証明したらしいんだが……」
「私、授業中に先生がそのことを言ってたのを聞いて、私も化学は得意でないので、
兄さんに頼んだのです」
吾妻の言葉を引き取って妹が続けた。なぜか妹の目に星がきらめいているような気がした。
「……でも兄さん、売ってもらったって、どういうことですか?」
そんな彼女が、しかし憤然とした顔で吾妻に向き直り、吾妻がこれも珍しい弱気な顔をした。
「しかたないだろ。譲ってくれって言ったら、奴は矢代に特別に作ってもらったもので、
関係ない人間に安易に譲れないとか言うんだぜ?
一年の時の授業用資料なんか持っていても仕方がないのにな。
しょーがないから、美優以外には見せないって約束して買い取ったんだ」
俺はあきれた。きっと金だけではなく強引な交渉をやったのだろうが、
たかがノートにそこまでやった吾妻の爆走っぷりに心からあきれた。
「……シスコン」
「そう言うな。かわいい妹の頼み事を、兄というものは断れないものだ」
俺のつぶやきに、吾妻がバツの悪そうな顔をした。
「俺は姉さんの頼み、いくらでも蹴飛ばせるぞ?」
「妹に比べれば、姉などという存在は、太陽の前の月、バラの前の野草に過ぎない」
周囲の目が複雑そうな光を浮かべて吾妻を見つめる。
まるでタチの悪い病気が出たとでも言うようだった。
「に、兄さん!」
「……妹さんと末永くお幸せに」
羞恥で顔を赤くする妹と、妹の反応に不思議そうにしている吾妻から、
俺は視線を外して黙考にふける。
……俺には考えなければならないことがあったのだ。
片桐沙織と中塚里香、二人の女を抱え込んでうまくやっていく方法を切り開いて行かなければ
いけなかったのだ。
だから吾妻の妹などどうでもよかった。 
俺のことをチラチラと横目でうかがう二人の女こそが、俺の優先すべき重たい現実だったのだから。
そう、俺は二人の女と別れることが出来なかった。
安易に手を出しておいて、謝れば別れることが出来る、そんな考えが男の身勝手だと、
体育祭の日に俺は思い知らされていた。

 ……二人に別れを告げるという俺の選択は、結論から言えば甘すぎた。
砂糖を五杯入れたミルクティーよりも甘かった。
体育祭が終わりの時、俺が出した平等に二人と別れるという提案は、多数決で否決された。
評決時間は二秒もなかった。
そして片桐は浮気したと泣いた。中塚はもともとの所有権を主張した。
俺は再考を求めて即座の却下を食らった。
片桐が中塚との手切れと中塚に出した回数分の性交を要求し、
中塚は片桐との手切れと夜の時間の独占を要求した。
俺は二人に沈静化とさらなる再考を求めようとして却下された。
とにかく片桐と中塚が要求項目を提示しあって否定しあい、俺の提案は全てとにかく却下された。
修羅場だった。とにかく修羅場だった。
委員会の仕事があるからと無理矢理打ち切ってみれば、続きは俺の家で実行されてしまった。
……人目が無くなったのが悪い方向に影響したのか、
自宅での修羅場第二ラウンドはひどいものだった。
二人は泣き、金切り声で叫び、髪の毛を引っ張り合い、つねり、ひっかき、ものを投げまくった。
話の内容は記すまでもない。別れなさい、わたしのもの、罵詈雑言、どっちにするの。
その四つで事足りた。というか、それ以外ろくな事を話し合っていない。
仲裁に入った俺は、体中を叩かれつねられひっかかれ、と修羅場の嵐の直撃を食らった。
俺の耳は女達の高周波で機能異常を起こした。目は般若のような彼女たちを見ることを拒否した。
……もうふて寝するしか無かった。
二人の女の姿をした嵐にぼろくずにされた男に出来ることは、それしかなかったのだ。
未熟な男である俺に、この修羅場を収める方策はなかったからだ。
舵が壊れた船が荒海で暴風雨まかせに漂流する気分だった。
そしてふて寝しようとした俺を最初に襲ったのは、片桐だった。
「抜き方が足らなかったんですよね。そうですよね。もうそんな気が起きないほど
満足させてあげます」
ベッドに飛び込んできた片桐は、すでに目が嫉妬で逝っていた。
俺のズボンを魔法のようにひっぺはがし、俺の腰に抱きつこうとした。
そこで中塚のインターセプト。突き飛ばされて、片桐はベッドを転がった。
「汚い手で私のものに触らないでっ!」
……たぶん中塚が言ってる私のものは、俺の節操がない肉棒のことだと思う。
そして第?ラウンドのキャットファイトが開始される。
先手、片桐。アイアンクロー。中塚のシャツが襟から思いっきり引っ張られてやぶけ、
左胸のブラジャーが丸見えになった。
後手、中塚。やっぱりアイアンクロー。恐るべき力で片桐のシャツが音を立てて破れ、
ぼろ布になった。
二人の顔はひっかき傷だらけ、髪の毛はばさばさで、ケンカでぼろぼろの雌猫二匹という有様だ。
「ふん、そのいやらしい胸で矢代くんを誘惑したくせに!」
荒い息をつきながら、中塚が破れ目からのぞく片桐の胸を見据えて毒づく。
「黙りなさいよ、ひんにゅーメガネザル! 委員会にかこつけて誘惑しておいてよく言うわね!」
こちらは片桐。アイアンクローをアイアンクローで迎撃して、
二人は手を握り合いながら奇妙なダンスを踊っている。
「ホルスタイン! 恵まれない男子にミルクでもあげてきたらどう?」
「メガネブスメガネブスメガネブス」
……ふて寝もおちおち出来ない。
女の金切り声と泣き声は、神経にさわった。
怒鳴りたい気分になるが、原因が俺であるために出来なかった。
仕方がないので片桐を背後から抱きかかえて、中塚から引きはがす。
「片桐、もうやめろって。悪いのは俺なんだから」
「どうしてですか! どうしてあんな女と!」
片桐が涙を流して叫ぶ。俺は謝るが、片桐は興奮しきって聞いちゃくれなかった。
中塚の眉がつり上がり始めるのを見て、またもや爆発しかけているのを察知する。
猶予は残されていなかった。
心の中でため息を盛大につく。しかし最低な事をやった報いであることは承知していた。
心を決めた。最低な人間にふさわしい解決法だと思った。

 俺は、叫ぶ片桐の口を、己の唇で塞いだ。背後から伸ばしていた手で片桐の胸を揉む。
片桐はうめきながら激しく暴れたが、俺は離さなかった。たぶん卑怯だとか騒いでいるのだろう。
だがそれに構わずただ丁寧に優しく舌を愛撫し、胸の先端を柔らかくつまんで転がした。
やがて片桐の体から力が抜けていく。
「片桐……いや、沙織。愛しているからさ、もう止めよう……な?」
自分で言って自分の言葉に鳥肌が立った。どこの悪い男だと思ったが紛れもなく俺自身である。
だが効果的ではあったようで片桐……じゃない、沙織の目からとげとげしい光が消え始める。
「愛してるよ、沙織。俺が悪いからさ」
いつまでもこんな修羅場をやっているわけにもいかない。
俺は、興奮した女をなだめる方法を、これしか知らない。
となれば、その場しのぎの甘い事を言うのも仕方がないと覚悟した。実に最低な解決策だった。
沙織をベッドに押し倒し抱きしめながら、さらに深いキスを交わす。
涙を唇でぬぐってやり、愛してるとささやき続ける。
どんと背中に衝撃が走った。
振り向くと涙だらけで鼻水まで垂れた顔で、中塚が俺に張り付いていた。
「わ、私は? 私は嫌いなの? 私のこと、嫌になったの?」
かわいそうに悲しみで震える声で、俺に尋ねる姿をみて、俺の心が盛大に痛む。
「そんなことないよ、里香。大好きだ。食べちゃいたいくらい愛している」
腕を回して中塚……里香を沙織の隣に押し倒して、口づけをした。
途端にすごい勢いで舌が入り込んで巻き付いてくる。涙を流しながら中塚は懸命に俺の口を吸った。
サイテーサイテーと脳内で喚き続ける虫を振り払って、里香の唇をむさぼり体をまさぐる。
落ち着かせようとぎゅっと中塚を抱きしめてやると、徐々に体から力が抜けた。
突然頭が引っ張られた。怒りと涙をたたえた沙織の瞳が俺を射抜く。
わかっているとばかりに激しく沙織の唇を吸い、ショーツの中に手を差し入れる。
沙織の下半身はわずかしか濡れていなかった。
だがどうすればいいかは、よく知っている。
手のひらをクリトリスに押しつけて、ゆっくりと円を描くようにこすった。
指は膣の入り口をゆっくりとなぞる。
沙織の体が震え、膣から滴りがあふれ始める。
肩が思いっきり引っ張られて、里香の体の上に落ちる。
片手で沙織の愛撫を続けながら、口で里香のブラを引っ張ってずらし、はみ出た乳首に吸い付く。
残った手を里香の股間に這わせ、クリトリスを挟んでこすると、里香の息が荒くなった。
俺は里香の胸から顔を離し、沙織の胸に舌を這わした。
やがて二人の股間から手を抜き、沙織の胸から顔を離して、俺はベッドの上に座った。
二人がなぜ止めるという顔で俺を見る。
俺は二人を助け起こして、ベッドに座った女達を両手にそれぞれを抱いた。
「ごめんよ、俺が選べなくて。でも二人とも大好きで選べないんだ」
嬉しさと不満が、女達の顔にそれぞれ浮かんでは消える。
「嫌いだから別れようと言ったんじゃないんだ。どちらかを選んでどちらかを捨てるなんて、
出来なかったんだ。
でもこんな争いを続けるなら、……別れるしかないよな?」
女達の体がそれぞれに震える。
「わ、私は矢代くんとずっと居たいです。でもこの女が……」
「私は本当に好きだから。なのにこの子が……」
二人は顔を見合わせると、また罵り合いをはじめようとする。
俺は二人をさらに強く抱き寄せた。
「仲良くしろとは言わないから。ケンカはやめろってさ。ったく、女なのに顔にひっかき傷作って。
普段はとても可愛いのにな」
俺は二人の顔の傷を丁寧になめる。浮きかけた歯は、意志の力で押さえ込んだ。
今ならホストクラブも勤まると思った。

「さあ、顔を寄せて」
二人の肩を抱き寄せ、二人の唇を寄せて、同時にキスをする。
舌で沙織と里香の唇を交互になぞった。
女達は唇を閉じていた。三人でのキスに抵抗感があったのだろう。
その気持ちは俺にも良くわかった。
それでもあんなケンカを繰り返させるわけにもいかず、俺は辛抱強く丹念に彼女らの唇を愛した。
最初に口を開けたのは里香だった。
しぶしぶと開けたその開け方は納得いかないという思いが丸わかりだったが、
それでも彼女は舌を絡ませ、俺の唾液を飲み込み始めた。
俺は心からの笑みを彼女に見せて、肩の手を彼女の頭に載せた。
感謝の思いを込めて彼女の頭を優しくなで、唇をついばむ。
里香の顔に喜びが満ちて、俺の舌を吸う動きに積極性がでてきた。
それで沙織も口を開けた。沙織は一旦口を開けると、
もう積極的に俺の舌も里香の舌も構わずなめ回した。
彼女が何を欲しがっているかは明らかだった。
沙織の頭を抱き寄せ、なでくりながら彼女の舌をなめ回した。
そうなると里香の迷いも消えて、二人はもう俺の舌も相手の女の舌も
混ざり合った唾液も構わず吸って絡ませあった。
十分ほどたつとさすがに舌が痺れてきて、顔を離すと唾液が三人の間で糸をひいた。
「ありがとうな」
二人は互いの目線を決して合わさなかったが、頭をなでる俺の手を振り払うこともなかった。
何より、やっと落ち着いて、俺の言葉が耳にはいるようになった。
その様子を見て改めて、理屈が通用しないと思い知らされ、俺の心に苦いものが湧いた。
二人と平等に手を切るというのが偽善や自己満足で男の身勝手だったことを刻みつけられた。
手を出したのなら、嘘や欺瞞や不道徳を重ねても、彼女たちを最後まで面倒見なくては
いけないということらしい。
人を傷つけて自分だけイイ子になる責任の取り方なんてお子様レベルのやり方だったわけだ。
何のことはない、最低の男をずっとやっていくしかないわけだ。
ご愁傷様、矢代くん、ハーレムはそんなに甘くない。
そうならば、もうやることは一つしかない。目の前の二つの女体を好きなだけむさぼることだ。
彼女らに突き入れ、柔肉を嬲って、快楽に浸らせて、ケンカをする気力も暇も奪うことだ。
ふうと小さくため息をつく。迷いは消えた。
手を伸ばしてそれぞれの女の乳房を掴んで寄せ、そのうまそうな二つの果実を
二ついっぺんにほおばった。
「あん」
「はぁうん」
二つの乳首を並べて舌でなめずって、交互に吸い付き、歯を立てて転がす。
もう何も考えないようにして、ただ女達の美肉をむさぼった。
なんだかんだいっても、俺はこの女達をかなり……いやとても好きらしい。
それぞれの乳房を愛おしいと思った。そしてどっちも手放したくないと本気で思った。
乳輪を舌でなぞり、乳首以外の滑らかな胸肉に鼻を埋めて臭いを嗅いだ。
いつしか俺の頭は彼女らの胸に挟まれていた。俺を左右から抱いた彼女たちによって
前も後ろも右も左もおっぱいになった。
……最低だけど、まあ、それはそれで悪くない。もともとそんなに俺は価値があった人間でもない。
単純だが、俺はおっぱいで吹っ切れたらしい。
手を伸ばしてもう二つの胸を掴む。四つのおっぱいを自分のものにすると
なにか非常に満足感が沸いた。
体を震わせる女達の反応に喜びながら、俺は白い胸肉をしゃぶり、吸って、歯を立てて、
顔を埋め、やりたい放題やった。
もちろん、女達からは文句は一切でなかった。

 吹っ切れたらやることは一つだった。
胸への愛撫で軽く達していた沙織を押し倒し、そのまま正常位で突き入れた。
「矢代くぅん、矢代くぅん、ああぁぁぁぁぁぁ」
「ごめんよ。つらかったよな。悲しかったよな。もう別れるなんて言わないから。
ずっと俺のものにするから」
その言葉だけで、沙織の中が恐ろしい力で締まり、股間で液が数度噴いた。
沙織は泣きながら何度も達し、その沙織に俺は奥の奥まで突き入れてた。
「くるのぉぉぉ、おおきぃのがぁぁぁぁぁ、ああああああああ、
ああうううううううううぅぅぅぅぅぅ」
痙攣のように体を不規則に震わせて何度も沙織は達した。
股間はもうずぶ濡れになり、沙織の噴いた液が俺の膝まで垂れる。
やがて体を突っ張らせたままとなり、数十秒後にベッドに倒れ込む。
「さ、おいで」
それを見届けて、後ろを向く。
飛び込んできたのはもちろん里香だ。
「私も、私もぅぅぅ」
「里香はまだ股間が痛いんだろ?」
泣きそうになりながらすがりついてくる里香に俺は言った。
昨夜彼女の処女を奪い、今朝まで気を使ったとはいえ、いろいろやった。
今、無理して入れる意味はない。
「でもぉ」
あの可愛い眼鏡越しの涙目で里香は俺を見上げる。
「昼間、かなり痛かっただろ? 我慢してたみたいだけど」
里香が視線を泳がせる。里香が昼間ぎこちなく歩いてたりしてたのを俺は知っていた。
「明日からはちゃんと入れてあげるけど、今日はやめときな。その代わり、いっぱいなめたげるから」
こっくりとうなづく里香の頭を俺は思わずなでくった。
沙織から肉棒を抜いて、ベッドに寝転がる。……沙織はそのまま寝てしまったらしい。
「ほら」
俺の言葉と共に里香がおそるおそる俺の頭をまたぐ。里香の顔が赤い。恥ずかしいらしい。
それでも彼女の尻はゆっくりと降りてきた。少し赤くなった大陰唇が痛々しい。
彼女は俺の下半身の方に向いているので、尻肉の盛り上がりがド迫力で俺の視界を塞ぐ。
沙織に比べれば小ぶりなのだが、それでも里香の尻もまた新鮮な白桃のごとく
食欲をそそるものがあった。
その尻が視界いっぱいになり、口を濡れた性器が覆い、頬や額を柔らかな尻肉が気持ちよく押した。
やることは難しくはない。ひたすら丁寧に、性器のヒダ一本一本に舌を泳がせ、
クリトリスを唇で転がし、膣に鼻を埋めた。
時々、舌を思いっきりとがらして、膣に差し込み入り口をぐるりとなめ回す。
舐める度に震えていた里香が、すぐに俺の体の上に倒れ込んで、いきり立った肉棒を掴んだ。

「あうぅぅ、……やっぱり私もぉぉぉ、ほしぃぃぃ」
「今日はがまんがまん」
そういうと、クリトリスを舌で押さえて転がした。
「あはぁぁぁ、だめぇぇぇぇぇぇ」
ぶるぶると蠱惑的に震える尻に、追い打ちを掛けるべく指を膣に滑り込まして、
優しく壁をこすった。
「くひぃぃぃ、あうぅぅ、はあんんん、ひゃぅあんん、いやぁぁぁぁ、指じゃいやぁぁぁぁぁ」
突然里香の絶叫と共に尻が消え、股間の肉棒が根元まで肉に包まれる。
みると、里香が俺のものを深々と根元までくわえ込んで、満足そうな表情を浮かべていた。
「はぁはぁ、私だけ……仲間外れ……いやなの」
俺は少しあきれた。だが里香の真剣さにほほえましいものを感じもしていた。
体を起こして対面座位になって里香をだきよせる。
「しょうがないなぁ。じゃあ、ゆっくり動くから」
ほっとした顔でこっくりと里香が肯く。そんな彼女にキスを降らせながらささやいた。
「大丈夫だから。のけ者になんかしないから。里香も俺のものだから」
里香も泣き始めて、涙を唇でぬぐいながらゆっくりと腰を動かす。
肉棒を締め付けからみつく壁を、今日ばかりは突き通すのではなく、
肉棒で細かくこすりつけるように出し入れをした。
腰を打ち付けるのではなく、中を愛するような動き。
絶頂を目指すのではない、ただつながるための挿入。
里香は痛みの声をあげなかった。瞳が悦楽に溶け、かすかに開けられた口が
かすかな喘ぎを漏らした。 
彼女の痛みを少しでも散らしてやりたくて、首筋を攻める。
「ふわぁぅぅぅぅ」
相変わらず反応が良く、中も締め付けてきた。  
唇をごく軽くあてて首筋を往復し、舌先で鎖骨のラインや首の筋肉のラインをなぞる。
「だめぇぇぇぇぇ、よわいのぉぉぉぉ、そこはぁぁぁぁぁ、だめなのぉぉぉぉぉx」
軽く吸いたてながら、時に舌を這わせ、時には歯を立てたりもする。
そのたびごとに里香は震えて叫んだ。
しかし限界を迎えたのは俺が先だった。
首筋を攻めると実に気持ちよく肉棒を締め付けられたからだった。
スピードを落とそうとしても腰の動きが激しくなり、彼女の奥が欲しくなった。
射精を我慢しようと、さらに首筋を吸ったとき、ひときわ強く里香の膣が俺を絞って引き込んだ。
「ひぃぃぃうんんんんn」
止める間もなく、精液が肉棒の中を駆け上り、彼女の中に止めどもなく噴出する。
「はぁぅぅぅぅ、わ、私の中でぇぇぇ、でてる、でてるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
不意に里香がのけぞってびくびくと不規則に震え、目から焦点を失って舌をだらりと垂らした。
俺はそんな彼女をみながら体にしがみついて、ただ拍動と共に注ぎ込み続けた。

 やがて二人ともベッドに倒れ込んだ。
寝ている沙織を空いた腕で抱き寄せると、寝ぼけながら沙織が腕の中に転がり込んで来た。
もう女達は何も言わなかった。幸せそうに目をつぶり、腕を枕にして、顔を胸にこすりつけていた。
大きさの違う胸が脇腹にしっかりと押しつけられ、滑らかな足がそれぞれ俺の足にからみつく。
タオルケットを引っ張って、俺達の上にかける。
「二人とももう俺の女だもんね」
それは、ふと嬉しくなってつぶやいた言葉だったが、彼女たちはうなずき、
さらに俺にしがみついた。
俺はそれぞれの女の腰を抱きながら、深い充足感の中で眠りに落ちた。

 ……というのが、体育祭の夜の話だ。
それ以来、俺に自由はない。
昼休みは目立たない中庭の一角で、彼女たちの弁当を食べさせられる。
俺には箸もフォークもスプーンを与えられない。
はい、あーんの声で口を開けさせられ、料理が口に放り込まれるのだ。もちろん二人交互に。
しかも当然だが二人がいきなり仲良くなるはずもない。
時にどちらかが相手の弁当をつまみ食いし、味に文句をつければ、
もう片方も即座にやり返したりもする。
こんな風に。
「ちょっと、これ、塩っ気効き過ぎでしょう? 矢代くんを高血圧で殺す気?」
「あなたは、野菜ばっかり、薄味ばっかりで矢代くんの好みを無視しすぎなんです。
健康ばかり追求して老人みたいなご飯をたべさせてどうするんです?
そういうのって押しつけでしょう?」
「私は、将来の矢代くんのことを考えて言ってるのよ! あなたはそこまで考えてないでしょう?」
「あなたは何でも管理してやりすぎてうっとうしがられてぽいって捨てられちゃえばいいんです」
とまあ、握った箸を突きつけあって、相も変わらずケンカ三昧だったりする。
放っておくとまたつかみ合いを始めるので、切りが良いところで収める算段が必要になる。
そう言うわけで俺は二人の背中から腕をまわして、大きさも柔らかさも違う胸を
それぞれ手に収め、柔らかく揉んだ。
「ひゃぁぁん」「ふわぁぁんん」
音色の違う可愛い悲鳴の二重奏と、手応えが違う二種類の胸肉は、
いつも俺をとても幸せにしてくれる。
残念なことに、やりすぎると二人のエロスイッチを入れてしまうので、すぐに手をひっこめた。
「や、矢代くんっ!」「……」
少し怒った顔の里香と顔を赤らめる沙織はみているだけで幸せだが、
鼻を伸ばしすぎると馬鹿なので顔を引き締める。
「はいはい、ケンカはそこまで。里香が栄養を考えて、沙織が好みに合わせてくれてるんだから、
バランスとれてるじゃん?
その気持ちだけでうれしいよ」
そういうとそれぞれの頬にキスをする。
「でも俺はまだ二人の弁当を食べたいんだけど? もう終わり?」
その言葉で二人は気まずそうに、食事を再開してくれた。
とても楽しいのだが、残念なことに一人でゆっくりと食べる気楽さは無く、
時々その気楽さを懐かしんだりもする。

 放課後になれば、もっと自由はない。
学校から駅までは、べたべたできないが、少し距離をたもった彼女らに囲まれて
歩いているだけのこと。
べたべた出来ない理由は簡単で、学校関係者の目の前で女の子二人といちゃついて歩くことが、
高校生活においていかに致命傷になるかってだけのことだ。。
その認識については、里香はもちろん沙織も理解してくれた。彼女らにだって学校生活はある。
しかし電車に乗れば事情は異なり、車内では両脇を密着され、電車を降りたら完全解禁となる。
改札をくぐれば、俺の自由は消失し、女達の不思議なレィディーズワンダーランドの時間が始まる。
たいていは子供を守る母熊のごとき剣呑な光を目にたたえて、
俺の右手を片桐が抱え込むことから始まる。
彼女の抱えこみ方は、胸があたるとかそういうレベルを越えて、
しがみつくとか押し当てるとかいう表現がふさわしい。
反対に、中塚は、一見すると余裕の表情で俺の左手を抱く。
だがもちろん、ヤヴァイ部分はしっかりと腕にあたり、
抜け出すことが出来ないようにホールドはきっちりされていたりする。
「矢代くん、行きましょう」
「矢代くん、行こうか?」
そしてこのように二人が同時に俺に声を掛けて、視線がたまたま交差すると、
帯電した視線がかちあって火花を散らす……そんな幻覚を俺はいつもみる。
もちろん彼女らはすぐにそっぽむき、俺を引きずって歩き出す。
当然だが俺の意志は省みられない。……そういう選択肢はないらしい。
そして俺はうきうきと弾むように歩く二人の女に引きずられながら、
自宅へと帰って行くことになる。

 体育祭が終わってからは、毎日こんな状態が続いている。もちろん、今日も同じだ。
家路に向かう途中でスーパーでの買い物が入るのは恒例行事だ。
家につくと、もはや勝手知ったる何とやらで、女達は俺の鍵で玄関を開け、キッチンに向かう。
ちなみに俺の家の鍵は既に2本複製された。
スーパーマーケットで買い物している間に行われたのだ。
女達が料理の下ごしらえをしている間に、俺は勉強の準備をする。
せめて、勉強会を開くという体裁は必要だったし、やりまくって成績落とせば、
俺達の非常識な関係が露見する危険もあった。
さらに言えば、女二人を抱え込んだと言うことで、
かなり真面目に人生設計を建てなければいけなくなったこともある。
安易にサラリーマンや公務員という訳にはいかないのだ。
二人の女と同時進行しながら、幸せを追求するという道は意外と険しい。
女達の親に文句を言わせないぐらいの事はして見せなければいけないわけで、
かつ俺達の関係が明るみになっても首にされない仕事を選ぶ必要がある。
女達と付き合うまでは漠然としか意識していなかった学歴や就職が、
急に具体性を帯びて立ちはだかるようになったのだ。
……皮肉にも後ろめたいことを貫徹するために、全力で真面目に優等生をしなければ
いけなくなったのだ。
彼女らが下ごしらえが終われば、勉強に取りかかる。
ここでは俺と里香が、沙織を教えるということになる。
俺は勉強会での二人のケンカは絶対に許さなかった。
沙織が里香に勉強の面で劣るのは仕方がないことだが、
それを叩く材料に使えば沙織に反撃する手段はない。
不毛でかつ怨恨だけが残るようなやりとりは許すわけにはいかず、最初の一回でやめさせた。
そして沙織の成績を維持して、学校に真面目にやってることを示すことが目的だということを
よく話し合った。
そのあたりに関しては、里香は以前に比べ変化した。
以前ならば言っても仕方がない正論をたてにもう少しぶつくさ言ったのだが、
今は素直に納得して言うことを聞いてくれる。
そして沙織も落ち込まずネガティブにならず頑張るようになった。
俺自身も人に教えるということで、予想以上に効果的な復習になっていた。
弱い部分が補強されていった感じだ。
一人の時に比べて、今は地に足をつけた学生なりの家庭生活というものに変わったと
俺は考えている。

 勉強が終われば、後は本当の意味での女達の時間となる。
最近になって予算の関係から彼女たちなりの献立でのコンビネーションを取るようになってきた。
もちろん、彼女たちの心がこもったできたての夕食で、俺が箸やスプーンを手に取ることはない。
それこそ、彼女らは誰にはばかることなく、箸で口まで運んだり、口移しをしたり、
つまみぐいしたり、けんかしたりとやりたい放題をする。
それに付き合うのは俺の大切な役目であり、心温まる楽しい時間でもある。

 昨日までなら、この後はいちゃいちゃと入浴して、その後は夜のお楽しみ時間だった。
だが今日は、一つの異変が起こった。
食事中に、玄関の鍵が開けられたのである。
扉が開く音が続き、誰かが入ってくる音とスーパーのビニール袋のようながさがさした音がした。
「親父?」
「まーくん、もうなんか食べ……、あれ、お友達が来てるの?」
俺の問いかけに答えたのは、若い、だが未成年ではない、しっかりした女の声。
軽い足音とともに、二十代半ばの女が一人顔をのぞかせる。
紺のスーツ姿に、肩の上で切りそろえたストレートの髪とつり目がちな目が、
有能なキャリアウーマンを思わせる。
鼻はすっきりと通り、唇は薄めで、白い首筋が艶めかしい。
スーツ姿の胸は見事な形で張り出していて、反面砂時計のように腰はよく絞られ、
臀部は迫力がある大きさながら垂れていない。
膝から見えるストッキングに包まれた足は、細く長い。
そのキャリア美人に浮かんでいた笑顔が、俺達をみて瞬時に凍り付いた。
ちょうど俺は、沙織と里香の二人同時に箸で料理を口に運んでもらっていたのだ。
「……雅史、説明しなさい」
「姉さん!」
キッチンがあり得ないくらいに凍り付いていた。
姉さんはこめかみに青筋を立て、俺は一番見つかりたくない人間に現場を直撃され、
沙織と里香はただただ固まっていた。 

 修羅場が女達とだけだと思っていた俺は、間抜けだった。
二股同時進行という悪行が身内に知られれば、身内との修羅場も当然起こるわけで。
しかも姉は、俺にかまいたてるうっとおしい女だった。……俺はまだまだ甘かったのだ。

5

「で、その二人とはどういう関係?」
「恋人」
「……どっちが?」
「両方。どっちも、俺の愛しい女」
それで、姉さんは爆発した。椅子を鳴らして起ち上がり、もともとつり目気味の目が
もう三角になって、上品な口も怒鳴るために大きく開いた。
「いいかげんにして!」
声は爆音+高周波で、正直つらい。両脇の沙織や里香も目を閉じて身をすくめている。
姉さんと違ってこっちはかわいい。
ダイニングでは、姉さんによる俺への審問が行われていた。
不適切な関係についての釈明を聞くってやつだ。
直接的な証拠を掴まれていないのなら、まだ言い逃れとかごまかしとかも考えてもよかった。
けれども、こうも決定的な場面をみられると、言い訳をしようという気力がわかない。
「それは二股でしょう! 雅史は、二股掛けられる女の子の気持ちがわからないの?」
そんな馬鹿ではない。道徳論がとおらない事態に陥っているだけだし、
そこは俺が最近悩み抜いたところだ。
結論はすでにでている。机にのりだして俺を睨みつける姉さんの目を、
俺はいっさい視線をそらさず見返した。
「気持ちを考えたから、二人と付き合っている。独占させてあげられないつらさはわかるつもりだ。
だから、沙織と里香をできるだけ愛してやり、できるだけ悲しみを少なくするように努力している。
できているかどうかは、わからないところがあるけど」
俺の言葉を聞いた二人がそっと俺の手を握ってくれた。
「馬鹿言わないで! そんなのは都合のいい言い訳よ!」
「じゃあ、どうしろと?」
「別れなさい! 二人に頭を下げて、……ううん、土下座して、謝りなさい!
そして何を言われても耐えなさい。
雅史がやったことは、それだけ酷いことなんだから!」
それも俺がすでに通ってきた道だった。
「で、別れて、誰が幸せになるの?」
「雅史っ! 二股を続けても、女としての幸せはないのよっ! 
別れれば、その子達をそれぞれ愛するふさわしい人が出てくるかも知れないのに、
あなたはそれを邪魔しているの。わかる?」
俺はここで初めて姉さんから視点を外し、二人を交互にみた。
「姉さんの言葉に一理はあるけどどうする? 里香や沙織を独占して愛する男が
出てくるかもしれないのはその通り。
女の幸せに関しては、俺にはわからない。でもやっぱりこの関係に耐えられないって言うなら、
それは仕方がないと思う。
相手に負けるみたいで悔しいとかそういうのを抜きにして、もう一度よく考えてみてくれ」
そういうと俺は目を閉じて待った。姉さんも少し落ち着いて腰を椅子に下ろした。
いずれ、明るみに出れば批判は来るし、第三者の目にさらされると保たない関係なら、
今壊れるのも仕方がないと思う。
良い夢を見ることが出来たと思った。俺には過ぎた夢だった。後悔はない。

「私は、矢代くんの側に居たいです。……ううん、矢代くんだけなんです、
私を受け入れてくれたのは。
本当は矢代くんを私だけのものにしたいです。……中塚さんがいると腹が立って悲しいです。
……でも、矢代くんに捨てられるのは、……い……や……です……」
沙織の語尾は泣き声で震えていた。体を震わせてしゃくり上げる沙織を俺は抱き寄せ、
頭を優しく撫でる。
俺を必要としてくれることへの心からの感謝の気持ちで、抱きしめた。
キスして押し倒して入れながら抱きしめたくなったが、それは我慢した。
「お姉さんは、つらかったときに、誰にも理解されなかったときに、
ただ一人側にいてくれて助けてくれた人をあきらめることができますか?」
うつむいていた里香が、眼鏡を光らせながら、姉さんの目をみつめた。
「それに愛してくれる人がまた出てくるなんてどうして言えるんですか?」
「あのね、あなたは雅史に二股……」
「私が矢代くんを奪い返したくて、片桐さんと付き合っていた矢代くんを誘惑しました。
片桐さんに奪われてそれっきりなんて絶対に嫌だったんです。
あきらめたくて、あきらめようとして、毎日泣いて、でも矢代くんは優しくて、
そしてわかってくれるんです。
もう嫌なんです! あんな苦しいのは嫌です!
片桐さんは大っ嫌いだけどそれでも、それでも……」
里香が絶句して、そして透明な滴だけが後から止めどもなく流れ落ちる。
空いた手で、里香を引き寄せて、そっと涙をぬぐう。
途方もなく自分が幸せ者だと気付かされて、
同時に沙織と里香を支えなければいけない責任の重さも感じて、足が震えそうになった。
一人、自分のことだけ考えて気ままに過ごした日々を、懐かしくさえ思った。
かけがえのない愛を二つも手に入れた代わりに、自由も放埒も、たった今失われたのを知った。
子供の日々が終わったのだと、手に入れた愛の重さが告げていた。
「な、何を……、あんたたちは何を言ってるの? ……そんな関係って……雅史!」
呆然として震える姉さんは、俺をみて叫ぶ。でも、すでに俺を呼ぶその声にに力はない。
「姉さん、確かに俺は人に言えないような事をしている。モラルに反している。
姉さんの言うとおりだと思う。
だけど、沙織も里香も俺を必要としてくれるから、応えてやりたいんだ。
モラルに反するからって切り捨てても沙織も里香も幸せにしないんだ。
ほんとは二股なんて悪いことなのに、どうしてだろうね。
……ともかく、俺は自分が二股をかける最低の男って言われても、
それを受け止めることにしたんだ。
自分が正しくあるよりも、沙織と里香が幸せな方が、たぶん、とても大事な事だから。
……ごめん、姉さん。心配をかける悪い弟でごめん。……ごめんなさい」
涙を浮かべて目を見開く姉さんの姿に、頭を下げながら俺の心が痛んだ。
誰かを幸せにしようとして、別の誰かを傷つけていくことが、何よりも悲しい。
けど俺は全員を幸せにする方法を知らない。そんな力を持っていない。
だから、せめて俺を好きになってくれた沙織と里香だけでも幸せにしてやりたい。
もしかしたら俺達の未来が苦い結末に終わり、二人が俺から去り、俺は全てを失うかもしれない。
でもそんな不確定な未来で、彼女達の今の思いを踏みにじる理由にすることはできない。
姉さんはきっと俺を軽蔑し、嫌悪するだろう。だが、それは避けようの無い結果だ。
「ごめん、姉さん。……今までありがとう」
「どうして……どうして……」
姉さんが泣いていた。力なく椅子に座りこんで、嗚咽を殺して、こぼれ落ちる涙を拭きもせず、
静かに泣いていた。
「沙織、里香、行こう」
放って置いていいのかと目で語りかける二人に俺はかぶりを振った。
姉さんの信頼も愛情も裏切った最低の男が、これ以上舌を動かしたとしても、
それは姉さんを傷つけるだけだと思ったのだ。

「泣いていたけどいいの?」
「言い訳をしても二股は二股だから。何を言っても姉さんを傷つけるだけだから」
里香が俺の言葉を聞いて、顔をうなだれさせる。
沙織はつないでいた手に少し力をいれた。
自宅から駅までの夜道を俺達は歩いている。
夜空は晴れ上がって輝く砂粒をばらまいたように満天に星がきらめいていた。
涼風が俺達の間を吹き抜けていき、紙屑を転がしていった。
「でも……お姉さんも矢代くんをすごく愛してるんですね。すこし妬けます」
沙織の言葉に、俺は複雑なものが心をよぎるのを感じた。
「愛してる……か。どうだかな。あの人は本当に俺を愛しているのかな?」
「何を言ってるの? 普通ならあんなに怒らないんだから!」
俺の言葉に里香が少し怒ったような表情をした。
「きっと、姉さんは温かい家庭が欲しかっただけなんだよ。
だけど血のつながらない父親への違和感がどうしても残って。
それでも母親に迷惑掛けたくなくて、だから、俺と仲良くすることでそれを埋めようと頑張って。
……それで昔の俺が無邪気に応えてしまったから、姉さんは俺の世話をすることが、
姉さんの望みにすり替わったんだ。
いまでも俺の世話をして、姉さんが望む、昔の俺達の家が戻ってくると思ってる。
……もう他人なのにな」
心に浮かんだ言葉をふと垂れ流して、俺は周囲の沈黙に気付いた。
沙織も里香も、驚いた目をしていた。
「なに? どうしたの?」
「ちょ、ちょっと待って! 血のつながらない?」
「もう他人ってどういうことです?」
「あっ! ……あ、いや、家庭の事情ということで」
「……おかしいとは思ってたんです。矢代くんの家、女物がありませんでした。
女性が生活している気配が無いんです」
「それどころかいつ来ても誰もいないし、私、二週間ほど通って、初めてお姉さんにあった」
普段はけんかしているくせにこういうとき、女は団結するらしい。
「私も初めてです。実はいろいろと聞きたいことがありました」
「うん、ちょっと嫌だけど、片桐さんに同感。というわけで」
俺の肩に里香の手が掛けられる。沙織が腕を抱き込んだ。
「「詳しい話を聞かせてもらいましょうか?」」
二チャンネルステレオ音声での命令に、俺が逆らえるはずもない。

 ファーストフード店のマークが印刷された紙コップに残ったコーヒーはわずかだった。
店内では食欲の解消にいそしんだり、新聞や本を読んだり、
雑談したりと思い思いに客が過ごしている。
「簡単に言えば、姉さんは義理の母の連れ子。俺は親父の連れ子。
そして、義理の母と親父はすでに五年ほど前に離婚ずみ」
俺の前に沙織と里香が珍しく並んで座り、ジュースを飲んでいる。
俺の家庭事情に興味津々というわけなのだが、俺は長々とした自分語りに酔うつもりはなかった。
不幸といえるかも知れないが、悪いことばかりだったわけじゃないからだ。
「あ、あの、変なこと聞いちゃって、ごめんなさい」
「……私は謝らないから。私は矢代くんの事を知りたいし、知るべきだと思う。
矢代くんは弱みを見せたくないって思って、すぐに人の間に壁をつくろうとするけど、
もうこんな関係になったんだから、そういうの私許さない」
頭を下げた沙織が傲然と胸をはる里香を驚きの目で見上げた。
だがその里香の顔もすこしばつの悪そうな色が漂っている。
俺は肩をすくめた。
「いいさ。里香の言うことは正しい。……沙織も、もう謝らなくていい」
「じゃ、突っ込んで聞くけど、実のお母さんは?」
「……四年前の夏休みの時は、ヤクザみたいなヒモの女をしていた」
二人の女の顔が凍り付く。特に尋ねた里香は、顔面を蒼白にしていた。
「気にするなよ。ナイーブな中学生が、親の離婚を契機に本当の母親のことが気になって、
訪ねてみたらそうだったってだけのことだから。
それ以上は知らないよ。良かったら次の質問どうぞ?」
動揺はない。昔の話だし、真実というものが残酷過ぎて小気味良いので、
割り切りやすかったというのもある。
子供を捨てた母親に幻想をみた俺が間抜けなだけという話だ。
「……その」
「謝るのはなし。里香と沙織が俺の家庭事情を知ることのどこが悪い?」
顔を曇らせて頭を下げかける里香を制止する。善意なのだろうけど謝られると惨めな気分になる。
「……義理のお母さんと矢代くんのお父さんが離婚になったのはどうしてですか?」
勇気を出して訊いてみましたって顔をして、沙織が尋ねた。
「義理の母に好きな男が出来たから。義理の母は、前の旦那とよりが戻っちゃったんだよ。
よりが戻りかけても一旦は別れるとかなんとかしたんだけど、結局完全に戻っちゃって、離婚した」
二人の顔がますます重くなる。 
これだから身の上話はいやだった。俺は残ったコーヒーを飲み干した。
「ああ、もう。そんな変な顔するなって。俺のお袋達の話はもういいよな?
聞きたいのは姉さんのことだろ? ついでに親父のことも話しておこうか?」
二人は顔を見合わせ、やがて戸惑ったようにうなづく。
「じゃ、親父のことから。親父は今年の初めくらいから三十代のバツ一女性にはまってて、
そっちの家に泊まり込んでる。
少し前に紹介されたから、俺が高校卒業したら結婚するんじゃないかな?」
女達の応えはない。その後悔と罪悪感に満ちた顔を見て、
舌打ちしたい気分になったが、こらえて話をすすめる。
「で、姉さんだけど、さっきも言ったとおり、義理の母の連れ子だから、
血のつながりがなくて離婚したら他人なわけ。
だけど、姉さん的には親父と義理の母にもう一度再婚してほしいらしいんだ」

「それって!」
「無茶だろ? ただ、あの人……ああ、ごめん。義理の母ね。
あの人は前の旦那とよりをもどしたらさっそくそいつにに殴られて酷い目にあったんだってさ。
たぶんあの人は根っからのDVマゾ体質の女なんだよ。
殴られないと愛されている実感が湧かない人なんじゃないかな?
あばらと鼻を折られて離婚したのに、再婚した俺の親父が殴らなかったから、
愛されているかどうか不安になったらしい。
それで、よりが戻ったらまた殴られて、ついには腰の骨折って入院だってさ。
もうどうしようもないよ。
けれども姉さんにとっては、自分の母親だからなんとかなって欲しいって思うんだろうね。
時々俺の親父にもう一度やり直せないかって言ってる」
「そんなの最低の女です……あっ、その……」
沙織の顔が嫌悪に歪み、非難したのが俺の義理の母であることに気付き、あわてた。
「いや、その気持ちはわかるよ。ただ、やり直したいって思ってるのは姉さんで、
昔家族だった時の俺達の温かい関係を取り戻したいらしい。
だからたまに俺の家に来て、俺や親父のために飯を作ってさ、また家族になりたい、
あの人とやり直せないかって訊くんだ。
親父は大人だからさ、姉さんの気持ちを察してはぐらかして答えないんだけどさ、
答えないから姉さんは、まだ希望を持ってる」
二人は、もう一言も発しなかった。
俺は涙を浮かべていた姉さんの顔を思い出す。
ちくちくと刺す胸の痛みは平気な顔を取り繕って耐えた。
「だから、姉さんは、もう他人なのに、昔のように俺の姉さんで居たいんだ。
壊れてしまったものなのに、それでもとりもどしたいんだよ。
でも姉さんはさ、不倫で狂ってたあの人と俺達の間で板挟みになりながら、
必死で頑張って俺を愛してくれた人なんだ。
だからそう言う人をむげにはできないんだけど、……それでも沙織や里香を悲しませてまで、
姉弟ごっこする必要はないよ。
悪いけど、姉さんには本当に悪いけど、俺にはどうすることもできない。
きっと今がそんな空しい夢を終わらせるしおどきなんだと思う」
重たい空気を吹き飛ばしたくて、俺は大きくため息をついた。
「ふぅぅ、さ、つまんない話はこれでおしまい! これ以上遅くなったら怒られるだろ?
もう帰らなきゃ」
起ち上がった俺を四つの瞳が、冴えない色で見上げる。俺は彼女らの手を引いて起ち上がらせた。
「もう終わったことなんだ。今、そんな顔をして悩んでもとりかえしはつかない。
それに、俺達だって偉そうな事は言えない。
俺のやってることは、親父を裏切ったあの人とあまり変わらないから」
その言葉で二人の顔に緊張が戻った。
「だから、俺は沙織や里香をできるだけ幸せにするしかない。
いや、俺が沙織や里香と一緒に幸せになって、姉さんなんかいらないって事を
見せつけてやらなきゃいけないんだ。
そうやって姉さんを俺と過去とあの人から解放してやって、
姉さんがいい人を捜すようにしむけなきゃ。
それが、俺の姉さんに対する最後の恩返しだよ。……さあ、帰ろうぜ」
そうして二人の手をひいて店を出たとき、俺はしゃくり上げる声を聞いた。
振り返ると、二人ともこぼれ落ちる涙を手でふきつつ泣いていた。
「な、なんで泣くわけ?」
彼女たちは答えなかった。だから俺は二人を引き寄せた。
「大丈夫だよ。口で語れば酷いことばかりに聞こえるけど、楽しいこともいっぱいあったんだ。
二人が思うほど酷くて悲しいもんじゃないよ。ただ、ちょっと関係が複雑なだけでさ」
だが彼女たちは泣きやまない。
泣いているのは彼女たちなのに、なぜか俺の心が解放感と温かさに包まれていた。
よくわからなかった。よくわからなかったけど、見上げた空に優しく星が瞬いていた。
この時のことを、俺はずっと後になっても克明に思い出すことが出来た。

 二人を送って家に帰ると、電灯は全て消えていた。
姉さんは帰ったのかと思いながら、電灯をつけて俺は息が詰まるほど驚くことになった。
ダイニングの暗闇の中で、姉さんがじっと座っていたのだ。
「姉さん! ど、どうしたんだよ?」
その言葉で目を泣きはらした姉さんが顔をあげる。それを見て、俺の胸が潰れそうに痛んだ。
「……まーくん、……ご飯食べるよね?」
見ると、テーブルには料理が並んでいる。……沙織と里香が作ったものではないが。
「……う、うん。食べるよ」
俺に選択肢があるはずもない。
いそいそと立ち上がってご飯を盛りつけ始める姉さんの目を盗んで俺はゴミ箱をのぞく。
……俺が食べさせてもらっていた料理は無惨な姿でそこにあった。
ため息をついて、俺は見なかったことにした。

「はい、あーん」
そりゃ、ここんとこ毎日こうだったし、楽しんでもいた。だが、
「姉さん、……頼むから箸をよこして下さい」
頭を抱える俺のすぐ横で、姉さんが箸で料理をつまんで、俺の口に運ぼうとしていた。
米飯を茶碗に盛って、お茶を入れると、姉さんは俺の左にわざわざ椅子を寄せ、
密着して座ったのだ。
箸が用意されていなかったから、はじめっからそのつもりだったのだ。
泣きはらした目も、今現在はなぜかきらきらと喜びに輝いていたりする。
「あの子達にさせて、私じゃ駄目なの? 昔は私が食べさせてあげたのに」
「昔って俺が二歳や三歳の頃じゃないですかっ!」
抗議をするが、姉さんはがんとして動かなかった。
俺には姉さんの考えがさっぱりわからなかった。
……俺の周りの女ってどうしてこういうのが多いのだろうかと思った。
「はい、あーん」 
「姉さん!」
「……そうなんだ。あの子達の料理は食べられても、私のじゃ駄目なんだ」
見る見るうちに姉さんがしおたれて、うつむいた姉さんの顔から左手の皿に、
涙とおぼしきしずくがしたたり落ちはじめる。
「わ、わかりました。わかりましたってば! 食べますから!」
だが姉さんは顔を上げない。
「ごめんなさい、姉さん。どうか俺に食べさせて下さい。お願いしますから」
「そう? もうまーくんってば、甘えたさんなんだから」
ぱっとあげた顔には満面の笑みが浮かんでいて、涙は一滴も見あたらない。
頭を殴られるような衝撃と共に「また、やられた」という感慨が通り過ぎた。
小さい頃からこの手を何度食ったことか。俺も大概進歩がなかった。
だが姉さんは俺に反撃の隙を与えず、料理がつままれた箸を俺の口に突き出した。
観念して口を開け、入れられたものを咀嚼して飲み込んだ。
「はい、あーん」
姉さんは何か知らないけどやる気だった。

 姉さんに飯を食べさせられた後、風呂に入り、俺は自室にひきあげた。
姉さんはこの家に泊まるときは、昔の姉さんの部屋を使っている。
どうせ親子二人には広すぎる家なのだ。
いろいろと精神的に疲れたが、問題集はやっておくべきだったので済ませる。
切りの良いところまで進めると、時間は寝る時間になっていた。
スタンドの蛍光灯を消し、小さくのびをする。
机から起ち上がって、明日の授業の準備を行い、
手帳を見てやり忘れた課題がないかどうかを確かめる。
見落としはなく、必要なものを鞄に詰め、明日着ていくワイシャツと制服を取り出して壁に掛けた。
そのまま部屋の電灯を消して、ベッドに転がり込み、やけにベッドが温かい事に気付く。
手を伸ばして探ると、柔らかく温かいものが触れた。
「姉さん! いつのまに!」
ふとんを剥ぐと、過激なほどセクシーなナイトウェアを来た姉さんが微笑んでいた。
「勉強ご苦労様。集中してたから邪魔しないようにそっと入ったの。さあ、一緒に寝ましょう?
いらっしゃい」
ぽんぽんと自分の隣を軽く叩いて姉さんが俺を誘った。もちろん、いけるわけがない。
「姉さん、俺はもう子供じゃないんだから」
「まだまだ子供よ。私はまーくんのおむつを替えてあげて、ご飯食べさせてあげて、
おっぱいも吸わせてあげたのよ?」
「姉さん!」
「三歳の時、ママのおっぱい欲しいって泣いて、母さんのところに行ったけど、
嫌がられて私のところに来たでしょう?
そのくせ、私のオッパイがぺったんこだって泣かれて、私まで涙が出ちゃったんだから。
私、小学校の四年生だったのに」
こうなると俺に反撃の手段はない。
「いや、あのね」
「その後、私の胸が大きくなったら、まーくんは小学校に入っても、
オッパイ吸いたいって来たわよね?」
「そ、そんなこともあったようななかったような……」
「おねえちゃん大好き、おねえちゃんのおっぱいも大好きって、妙な歌を作って歌ってたわねぇ」
恥ずかしさに身もだえしたくなったが、かろうじて耐えた。
これだから姉さんには勝てない。
「あのかわいい子達に、この話したら、喜んでくれるかしらぁ?」
「よ、喜んで添い寝をさせていただきます、お姉様」
俺はいそいそとベッドに潜り込んだ。
……だから俺は言った。俺の人生はそんなに酷いことばかりじゃないと。
恥ずかしいこともそれなりにあるわけで。

 俺がベッドに潜り込むと、姉さんは昔話を始めた。幸せだった頃の話だ。
ディズニーランドに行ったときの話や、温泉旅行の話。初詣に、クリスマス。
本当にそう悪いことばかりじゃなかった。
あの人がおかしくなるまでは、俺達はほんとうの家族だった。
過ぎ去った日々の懐かしい記憶。それをつかのま、俺達は共有していた。
温かい気持ちに浸っていると、不意に姉さんが言った。
「……ねぇ、まーくん」
「ん?」
「姉さんのおっぱい、吸ってみない? なんかおっぱい吸われるの、懐かしくなったのよ」
「いいっ? ちょ、ちょっと?」
「まーくん、驚きすぎ。やらしいこと考えたでしょう?」
驚く俺に姉さんはちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
「あのねぇ、俺の年を考えてくれよ」
「ごめんね。でもなんか、まーくんに吸って欲しい気分なの。いいでしょ?」
「うーーー」
だが俺がうなっている間に、姉さんはいそいそとナイトウェアの胸元を開けていた。
暗闇の中ででっかくて真っ白い柔らかな乳房がさらけ出された。
「さぁ、ほら」
迷っていると頭を抱えられて、乳房に押しつけられる。
正直、始末に困るおっぱいだった。
一人前の男が乳首を吸うだけで満足する訳はない。
だからといって、義理とはいえ姉である人の胸を愛撫するわけにもいかない。
「どうしたの?」
「いや、あのね」
「もう、早くぅ」
さらに胸が押しつけられて、鼻も口も白く柔らかな甘い匂いのする肉に覆われる。
仕方なく、おためごかしに乳首に口をつけた。先端をほんのすこしだけ唇ではさむ。
上目遣いでのぞくと、姉さんの目が満足そうな三日月の形になっていた。
「そうそう。まーくんは私のおっぱいを吸ってればいいの」
頭を抱え込まれ、形だけくわえた乳首が根元まで口の中に滑り込んできた。
足が俺の足に絡みつき、姉さんの股間が俺の太腿に当たり始める。
なぜか、口の中で乳首が太さと硬さをましつつあった。
二人の静かな息づかいだけが部屋に流れる静かな時間が過ぎた後、ぽつりと姉さんがもらした。
「ねぇ、まーくん。もう他の女の子のおっぱいについて行っちゃだめよ?」
姉さんは相変わらず穏やかに笑っていた。
俺は口から乳首を離した。
「……俺、別れないよ。沙織も里香も、大切な女だから」
胸が再び強く押しつけられる。だが俺はもう口を開けなかった。
「姉さんこそ、俺とこんな事をしてちゃいけないよ。……姉さんはそろそろ自分の幸せを考えなきゃ」
俺を胸に押しつける力は弱まらない。
「……姉さんは楽しかった過去に囚われすぎだよ。俺だってもう昔の俺じゃない。
俺はあいつらのことを愛してる。だから、もう姉さんとこんな事はしない。
姉さんも好きな人に抱かれて、その人に愛してもらわなきゃ駄目だ。
姉さんは美人だから、きっと恋人なんてすぐに出来るんだから。その気になれば結婚だって……」

 胸から顔をもぎ離し、体を起こして俺は姉さんを見据えた。
……そしてゆっくりと起きあがった姉さんの顔が怒りと悲しみの入り交じったものへと
歪むのを目撃して、俺は絶句した。
「何が恋人よ! 何が結婚よ! 自分の妻を殴って大怪我させて刑務所に行くような父親と、
そんな夫にいまだに未練たっぷりにくっつく母親。
そんな両親を持つ女に幸せが来るって思ってるの? 本気で思ってるの?
どこに私を愛してくれる人がいるの? 犯罪者の父に頭のおかしい母の娘なんて、
誰が受け入れてくれるのよっ!」
手で顔が覆われ、心がねじ切れるような悲痛な嗚咽が漏れ始める。
俺は言葉をなくして、ただ呆然と泣く姉さんを見つめた。
「姉さん……」
「私はまーくんと居るときだけが幸せだったのに! なのに、それも奪われちゃうの!
私は幸せになっちゃいけないの!」
「姉さん! そんなことないから! 姉さんを好きになる人は絶対にいるから!」
「じゃあ、まーくんが私を好きになってよ! 私をまーくんの恋人にしてよ!」
俺にすがりつき泣き叫んで睨む姉さんに、俺は再度絶句する。
頭の血が下がってくるような自失感に襲われて、すがりつく姉さんによってベッドに押し倒された。
「姉さん……」
「まーくんが悪いんだよ。私はまーくんともっと一緒にいようって頑張ってたのに、
まーくんが他の女の子に手を出すから」
そんなことを言いながらすがりついてきた姉さんが、俺のパジャマのズボンを
パンツごと引き下ろす。
気を取り直したときには、姉さんは俺の肉棒を握っていた。
「ね、姉さん! やめろって!」
答は肉棒を強く握る手の動きだった。俺は痛みで何も言えなくなる。
「これ、私のものなのに」
強く握られたまま肉棒が強引に引きずり出される。
手が離れたと思ったら、俺の肉棒は全部、姉さんにくわえられていた。
ためらいどころか、至福の表情すら浮かべて、姉さんは口で俺の肉棒を嬲った。
手は片手で俺の袋を握り、片手で俺の太腿を握っている。
舌が肉棒に巻き付き、先端を這いずった。その動きは奉仕でも愛撫でもなく捕食だった。
舌の一つ一つの動きが、俺をむさぼっていた。
固く張り詰めてきた幹をなめ回すのは、俺を快感に追い落とすためではない。
その肉棒に姉さんの匂いがついた唾液をたっぷりすり込むためだろう。
先端をなめ回すのは、きっと肉棒が快感に震える姿が楽しいからだ。
尿道口の奥まで舌を入れるのは、俺を犯して、精液をすするために違いない。
腰が浮き、目の前に何度も星が散って、姉さんの頭を押しのけるために伸ばしたはずの手が
逆に姉さんの頭を押さえていた。
「駄目だっ! 姉さんっ、くぅぅぁぁぁぁぁぁああ」
爆発してしぶくような勢いで、精液がほとばしり出る。腰から力が抜けて目にかすみがかかる中、
姉さんは笑顔すら浮かべて精液を飲み下している。
それどころか、放出の拍動が終わったばかりの肉棒が、再度吸われた。
残っていた精液が吸い出される快感で、萎えかかっていた肉棒が硬度を取り戻し、
俺は際限なく吸われそうな不安に襲われた。

 ようやく肉棒から口を離した姉さんが、俺を吸い尽くすような肉食獣の雌の笑いを浮かべた。
「なんだかんだ言って、まーくんはおちんちん吸ってあげれば素直になるのよね。
でもこんなもので終わりじゃないわよ?」
姉さんが上体を起こし、ナイトウェアを見せつけるように脱ぎ捨て、
両方とも全てが露わになった大きく柔らかそうな胸を誘うように揺らす。
「まーくんはおっぱい大好きだよね?」
そういうと姉さんはくすくすと笑った。
「だからまーくんのおちんちんを胸で包んであげる。
胸の中に埋めてこすって、先っぽを思いっきり吸って舐めてあげる」
そういいながら姉さんが自らの手で、胸を寄せ揉み潰し、乳首を舌で舐めあげる。
そして胸の肉を左右にかき分け、深く広い谷間が出来た胸を俺の股間に降ろした。
挟まれるだけで、気が狂いそうになった。姉さんの胸肉が俺の肉棒に
いやらしくからみついたからだった。
だが姉さんはその肉で先端をこすりあげ、肉の中に埋め込んだ。
そそり立った乳首で尿道口をこすりまわった。
なすすべなく快感が押し寄せ、腰は震えるばかりで力が入らなくなった。
俺は女のように声をあげて喘ぎ、姉さんに支配されていった。
突然全部が姉さんの胸肉に埋まっていたはずの肉棒の先端だけが、外気にさらされた。
淫らな双乳の白い肉が俺の肉棒に巻き付きはさみこんいる中で、先端だけが外に飛び出ている。
その上で姉さんが舌なめずりをして笑っていた。
何をするのかがわかってしまい、俺は怖くなるような快感を予感し、呆けた。
いかなる予告もなくずるりと先端を舌が這った。
快感が脳髄を打ちのめして俺はなすすべもなくのけぞる。目の奥で火花が散った。
ぬるりと舌が先端を這い回ると目もくらむような刺激に打ちのめされ、
自分の顔を覆って体を震わせるしか出来なくなった。
胸肉が肉棒を絡め取るように動くと同時に、先端を乳首がこすりまわり、
肉棒の尿道口に姉さんの舌が突き刺さってほじられる。
出たのが生命力そのものかと錯覚を起こすほど、精液は盛大に噴出し、
体が痺れて力が抜けベッドに倒れ込んだ。
俺が無様に口を開け、喘ぐように息をしていると、
またもや肉棒は姉さんに残った精液をすすられる。
俺の意志と全く無関係に射精したばかりの肉棒が再びそそり立ち、
白濁液を唇につけた姉さんが満足そうに笑った。
「まーくんのおちんちんは、私のおっぱいが大好きになったみただけど、
……ふふ、こっちも味わって欲しいな」
大の字になって脱力している俺の腰のところで姉さんが膝立ちになって、俺の腰をまたいだ。
痺れる頭の中でやばいという予感が走る。
姉さんの内股が濡れ光って、暗くなった外のわずかな明かりを照り返していた。
騎乗位になった姉さんの濡れた太腿と黒い翳りが降ろされ、肉棒と接触した。
先端が叫び声を漏らしそうなほど柔らかなものに飲み込まれ、からみつかれた。
沙織とも里香とも違うしなやかさと柔らかさに満ちた姉さんの膣は、
先端を飲み込んだだけにも関わらず、俺を奥に引きずり込もうとうごめいた。
肉棒から走るしびれで、続けていた荒い息が止まる。
姉さんは、いささかもためらわなかった。避妊も、姉弟として暮らしてきた今までも、
全く省みた様子はなかった。
その顔にあったのは俺を中に収める喜びと自らの体に酔わせる征服感だけ。
姉さんのからみつくヒダとそれによるしびれが、肉棒を根元まで飲み込み、
俺の腰を滑らかな内股がはさんだ。
「んふ、根元まで入った。……もう出したいって顔ね。……いいわよ?
まーくんが私のものになるっていうならね」
姉さんが、ゆっくりと腰を動かすと、からみついたヒダが肉棒を嬲った。
歯を噛みしめて射精感をこらえる。途端にぴたりと姉さんの腰が止まった
「まーくん、さぁ、私だけのものになるって言いなさい。
素直になったら、ここに好きなだけ、出していいのよ」
姉さんが自分の下腹部をそっとおさえた。
「私だけのものになったら、私のおなかをまーくんので、いっぱいにしていいのよ?」
快感が去りかけるところで、姉さんがまた腰を動かす。
姉さんの中の小さなぶつぶつが肉棒の先端をこすり、思わず腰をつきあげる。
「はああん! ……はぁ、はぁ、だめよ、まーくん。ちゃんと私のものになるって言ってくれなきゃ」
姉さんが震えながらのけぞったが、すぐに俺の腰を押さえつけた。
根元に貯まった精液が気の狂いそうなほどのもどかしさを感じさせる。

 必死に我慢する俺の顔を見て、姉さんがほくそ笑んで、また腰をゆらめかした。
「そんなに我慢しないで……。あの子達と別れて。私と二人で、また家族になろうね?」
そういうと姉さんが上体を倒し、豊かな胸を俺の胸でおしつぶした。
屹立した乳首が犯すように心地よく食い込み、軟らかな肉が抱くように
俺の胸板を覆って張り付いた。
俺の腰を自らの腰で押さえつけながら、姉さんが唇を寄せて、俺の口をむさぼる。
また姉さんが腰を動かすと、俺の腰から背中に快感が走った。
「そうよ、義父さんが母さんと再婚しなくても、私とまーくんが結ばれれば、また家族になれるの」
ゆっくりと嬲る意図で動かされる腰によって、姉さんの中が俺の先端から根元まで
舐めるように絞るようにからみついた。
「まーくんはね、私にどくどくだして、私のことだけ考えてればいいの」
先端をまたざらつく内壁がこすり、気の狂いそうな射精感に襲われる。
だが腰の動きが止まり、射精には至らない。
「だめよ。そんなにおちんちんをびくびくさせても駄目。……あの娘達を忘れるって言って。
私だけのものになるって言って」
耳元で吐息と共にささやかれるだけで快感が満ちた。
耳の穴に舌が差し込まれ、それだけで爆発しそうになった。
「さあ、もうあの娘達を忘れなさい。私がずっと包んであげる。
……私の中に帰ってきなさい、大好きなまーくん」
ふと、脳裏に寂しそうな沙織の顔が浮かんだ。泣き顔の里香も浮かぶ。
舌を出して喘ぐような息しか出来ず、下半身はしびれ続けていた。動かせば出てしまいそうだった。
でも姉さんも大好きだった。胸も尻も顔も背中も太腿も腕も髪も好きだった。あこがれていた。
精液が循環する脳みその片隅で、節操のない最低な男と罵る声がした。
そして悪魔がささやいた。どうせ最低なんだから、この女もいただいてしまえと。

 手を伸ばして腰をつかんだ。すべすべでしっとりした肌が手に吸い付いた。極上の肌だった。
歯を折れそうな程噛みしめる。射精する前にやることがあった。
「姉さん……」
俺の声で姉さんが至福の表情となった。
「別れないよ」
姉さんの顔は変わらなかった。きっと言ったことを理解できなかったと思う。
姉さんの子宮を目指して、俺は下からつきあげた。からみつく中をこすりあげながら、
子宮を犯そうとして突き入れた。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
陰部から尿と間違えそうなほどの量の愛液がしぶいた。上々の反応だった。
うねりからみつくヒダを引きはがしながら半ばまで抜き、もう一度奥の奥まで押し入った。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
背骨が折れそうなほど姉さんが反り返った。
力が入らない手足を動かして、なんとか体を入れ替え、姉さんを組み敷く。
柔らかそうなくせに、形を保って揺れる乳房は絶景だったが、
快感に体を小刻みに震わせる姉さんはもっと絶景だった。
こんな素晴らしいものは犯さないと損だった。
俺は上体を起こして、肉棒を全部抜いた。
「ぬ、抜いちゃだめぇぇぇ」
「わかってるよ、大好きな姉さん」
語尾にハートマークさえつけて、子宮の入り口まで突き下げた。そのまま何度も突いた
「あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああ、はぁぁぁぁ、うぅぅぅぅぅ、うあん、ひぃぅんん」
「でも、沙織や里香とは別れないよ」
別れないけど姉さんはたっぷり犯すつもりで突きまくった。
「いやぁぁぁぁ、だめぇぇぇぇぇ、そんなのぉぉぉぉぉ、ひどぉぉぉぉぉぉぃぃぃ」
姉さんは快感に浸りながらも首をふって抗議をした。当たり前だった。
ちなみに胸も揺れてやっぱり絶景だった。
けれども、大好きな姉さんにここまで誘惑されて告白までされたら、
もう姉さんを手放すつもりはなかった。
うん、我ながら、最低だった。もう笑うしか……いや犯すしかなかった。
「大丈夫。姉さんも俺のものだから。愛してるから。大好きだから。姉さん!」
刹那、快感に追い立てられていた姉さんが目を見開いて、信じられないって顔をした。
姉さんの中がきゅっと俺を食いしめる。
ほんとだよって答えたくて、姉さんの中を入り口から奥まで丁寧に何回も肉棒でこすってあげた。
「ああああああああ、そんなのってぇぇぇぇぇぇぇ、そんなのってぇぇぇぇぇぇ、
ずるぃぃぃぃぃぃぃぃ」
でも姉さんは体のほうが正直で、体の方は、口とは違って潮をふいて
びちゃびちゃになって喜んでいた。
「姉さんの体は、喜んで俺を締め付けてるよ?」
せり上がる精液を押さえ込みたくて、姉さんのあちこちを突きまくった。
もっと精液がせり上がってきた。
姉さんの体も震え続けて何度も反り返って、手がシーツを必死に握りしめていた。
「ちがうのぉぉぉぉぉ、そんなのぉぉぉぉぉぉぉ、ちがうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「そう? ごめん。じゃ、やめるよ」
もどかしさに頭がしびれていたが、歯を食いしばって、腰を止めた。
そして姉さんの腰も渾身の力で押さえつける。
「いやぁぁぁぁぁぁ、とめないでぇぇぇぇぇぇぇ、うごいてぇぇぇぇぇぇぇ」
じたばたと姉さんがあばれた。かわいそうで最後までいかせてあげたかった。
だけどやることがあった。

「俺は沙織や里香と別れない。それがいやだって姉さんが言うなら、ここでやめるよ?」
「ひどぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、おねがいぃぃぃぃぃぃ、いやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ」
頭を振り乱して姉さんは抗議した。かわいそうなので一回だけ突いてあげた。
「じゃあ、姉さんも俺の女にするよ? 沙織や里香と同じように。
三股で同時進行だけど、でも姉さんを心から愛してあげる。
姉さんが去っていかない限り、俺は姉さんを愛し続けるよ」
「いやぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁぁ、まーくんはぁぁぁぁぁぁ、私だけのぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ゆっくりと数回姉さんの中をこすった。
「ありがとう、姉さん。だけど、俺は沙織や里香を絶対に捨てない。だから、選んで。
ここで止めて他人になるか、それとも続けて、俺の女になるか」
少しだけ沈黙があった。
やがて姉さんの目から透明な液体が止めどもなく流れ落ちた。
「なるからぁぁぁぁ、まーくんの女になるからぁぁぁぁぁぁぁ」
「姉さん、大好きだ。もう一生離さないから」
そして突きまくった。思いに任せて、心にのせて、姉さんの中を愛した。
ざらついたところを先端でこすりたてた。壁を全て味わいたくて前後だけでなく左右にも動いた。
姉さんの上にのしかかって、姉さんの唇をまさぐった、舌も突き入れて、姉さんの舌に絡めたが、
逆に姉さんに口の中を吸い尽くされた。
手は乳房をまさぐった。大好きなおっぱいだった。夢に見た感触そのままだった。
姉さんの腕が俺の背中にまわり、爪が立てられていた。
姉さんの足が腰に回され、抜くことを許さなかった。
もっとももう抜くことなんか、まったく、これっぽっちも考えてなかった。
無責任かもしれないが、姉さんを本気で孕ませるつもりだった。俺はもう姉さんに狂っていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ、きちゃうきちゃうきちゃうきちゃうぅぅぅぅぅぅぅ……
いくぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅ」
姉さんが白目をむいて、反り返りながら不規則に何度も震えた後、
全身をすごい勢いで突っ張らせる。
さんざん我慢していたため、射精はむしろ安堵感すら覚えた。
放出感を伴った拍動と共に体の力が抜けていき、姉さんにしがみつくしかなかった。
姉さんの鼓動を聞きながら、意識を遠くしていった。

 

 ふと意識を取り戻したときも、二人の体勢は変わっていなかった。
俺が重いだろうと考え、姉さんの上から滑り落ちて、ベッドに寝転がる。
姉さんはかすかに呼吸をしているだけだった。完全に寝ていた。
また、やっちまった。そうは思ったが、姉さんが怒ったときからこうなるような気もしていた。
いろいろと義理の母がらみでひどいことがあったけど、
それを恨まないで居られるのは姉さんのおかげだった。
お互いがいたから、生き延びることができたというべきだろうか?
事実親父達が離婚した後、俺は孤独癖がひどくなり、姉さんの表情は冴えなくなった。
そしていくらもしないうちに、姉さんは縁が切れたはずのこの家に度々訪れるようになった。
そんな姉さんと他人になるという選択肢があるわけもない。あったら、とっくに他人だった。
姉さんの寝息が少し高くなり、そちらを見る。
姉さんの寝顔は、久しぶりにとても穏やかだった。
「うーん、まーくん、んふ……むにゃ」
寝言とともにねーさんが寝返りをうつ。
眼前に見事な尻がさらけ出された。大きくて白くてすべすべで男心を捉えて放さない曲線だった。
……姉さんは俺のものだった。だからこの尻も俺のものだった。
いたずらしなければ人生の損だった。
理屈はどうでも良くて、ただあの尻に顔を埋めたかっただけだった。うん、男なんてそんなもんだ。
数秒前の感傷的な気分などどっかに放り出して、俺は姉さんのお尻の探検をすることにした。

 尻肉は最高だった。おっぱいも素晴らしいが、
尻は柔らかくて弾力があって二つにわれてて丸くて最高だった。
姉さんのでっかい尻を間近から見るだけで、男に生まれて良かったと思った。涙がでそうだった。
ちなみに姉さんはまだ寝ていた。俺は姉さんの足の間にうつぶせで寝転がって尻探検を始めていた。
寝ているときにいたずらをするというのは、胸躍るものがあり、これまた良かった。
尻肉をつかんで広げると、色の薄い肛門がある。
指でつつくと肛門がすぼまるように動き、姉さんの体もぴくっと動いた。
さすがに何の準備もしないアナルプレイは臭そうだったので、それ以上はあきらめる。
というか、寝ている間に肛門まで襲っちゃうと、さすがに本当に嫌われそうだったので自重した。
俺にもちょっとは理性も残っていたらしい。でも理性はそれで作動終了だった。
未練を残して、下におり、性器にたどり着く。
濡れた尻肉の間で、赤みがかったピンク色で性器が俺を待っていた。
だらしなく膣口が開いていたものの、クリトリスは小さくなっていて、
持ち主のように寝ているらしかった。
けしからん眺めなので、罰を与えることとした。
膣の下に丸い皮に包まれた突起がある。なんかつつくといいことが起こりそうなので、舐めてみた。
姉さんの体が震えるが、抗議は無い。
舐めても問題なさそうなので、舌で舐めまくると、どうしてか液体が垂れてくる。
どっか液漏れがあるようなので、とりあえず舐めながら、開いた膣口に指を入れて栓をしてみた。
「うぅぅん……あん……はぁうん」
尻の向こうで誰かが変な声を上げてるけど、気にしない。
全然液漏れが治らないので、姉さんのお尻が心配になって、膣に入れる指を二本にしてみた。
漏れた液体は、責任をもって舐め取ってあげた。
ついでに可愛いクリトリスちゃんも舌でツンツンしてから美味しそうなので歯で軽くかじってみる。
液漏れが全然止まらないので、姉さんの中を愛情込めてこすってあげた。
どうしてか液漏れがさらに酷くなったけど、気にしない!
「はぁぁぁぁぁん……、ま、まーくん! 何してるの!」
ついに目を覚ました姉さんが顔を後に向けて俺をみた。
「姉さんのおしり☆」
「おしり☆、じゃないでしょ! あうん! ちょ、ちょっと!」
なにか照れた様子で顔を真っ赤にして怒る姉さんはかわいかったので、クリトリスを吸ってあげた。
当たり前だけどこんな魅力的な白くでっかい尻肉をちょっとやそっと怒られたくらいで
手放すわけはない。
だって、このお尻は、おれのもの! だれにもやんない。
「はひぃぃぃぃぃんんんんんん、……はぁはぁ、ダ、ダメよぉ、……はぁはぁ、……まーくん!」
目の色が快楽で飛びそうになりながら、姉さんはまだ抵抗した。
まったく姉さんは時々強情だからいけない。
「姉さんは俺のもの、このお尻も俺のもの、わかった?」
入れた指でざらついたところをこすりながら、クリトリスを舌の舐めあげて、軽く歯をたてた。
「ば、馬鹿ぁぁぁぁぁ、うはぁぁぁぁぁぁ、あうぅぅぅぅぅぅぅ」
姉さんの目がいってしまって、体がぶるぶると震える。
入れたくなって、顔を尻から離し、膝立ちで、尻に近づいた。肉棒は腹に付くほど元気だった。

 肉棒を膣口にあてがって、食べたくなるような丸みを帯びた尻をわしづかんだ。
しみ一つない姉さんの背中とベッドでつぶされてはみ出た大きな胸がみえた。
それだけで、姉さんを後から犯す実感がわき、背筋を泡立たせるような電流が走った。
手のひらから伝わるすべすべで柔らかく弾力性が失われていない尻の感触に感動しながら、
肉棒をゆっくりと沈めていった。
「まーくんがぁぁぁぁぁぁ、またぁぁぁぁ、はいってくるのぉぉぉぉぉぉぉ」
背中が奇跡的な美しいラインを描いて反り返る。
肉棒を根元まで埋めると、姉さんの尻が俺の腰に密着して、最高の弾力を伝えてくれた。
姉さんの中は相変わらず俺を搾り取ろうとしてうごめいてくれる。
腰をつかんで、一番奥まで突き入れ、からみついてくる姉さんの中をこすりながら引き抜く
「へんなところがぁぁぁぁ、……あたるのぉぉぉぉぉぉ……あはぁぁぁぁぁぁぁ」
「姉さん、沙織や里香とできるだけけんかしないでね」
「あぁぁぁぁぁぁ、ばかぁぁぁばかぁぁぁぁぁぁぁ、あうぅぅぅぅぅぅぅ」
丁寧にお願いしたのに馬鹿って言われちゃったので、姉さんの中をかき混ぜてご機嫌をとった。
「頼むからそんなこといわないでよぉ。……姉さん大好きだからさ。愛してるから」
しれっときざったらしくて恥ずかしいセリフが口から滑り出る。やっぱり俺は最低らしい。
けれども姉さんの中は、その言葉に反応して、肉棒をぎゅうぎゅう締め付けた。
「まーくんはぁぁぁぁぁ、ひどぃぃぃぃぃぃ……ああああああぅぅぅぅ、ひどいよぉぉぉぉぉぉぉ」
泣き叫びながらも姉さんは腰を振り、姉さんの中は俺の肉棒を離すまいとした。
今度は一切止めなかった。俺は姉さんの背中に上体をかぶせて、
背筋を弓なりにそらせて喘ぐ姉さんの口を背後から奪う。
「ほんとうだよ。……俺の大好きな姉さん。……お尻も唇もおっぱいも……」
腰使いにあわせて揺れる胸をすくい取って手のひらで覆った。はみ出た肉が指にからみついた。
「全部……姉さんのお腹も全部……俺のものにしちゃうから。もう離してやんないから」
「あああああああああああああああああああ」
姉さんが唇を離して、震えながらさらに反り返って叫んだ。姉さんの中が肉棒を痛いほど引き絞る。
もう我慢できなくて渾身の力で打ち込んで、姉さんの奥をむさぼった。
「愛してる」
「いくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
焦点を失った目で涙を流しながら姉さんは叫び、声がとぎれても声なき声で快美を訴え、
唐突に意識を失った。
俺も全てが出て行きそうな勢いで姉さんの中に放ち続け、
やがて射精が終わるとその背に崩れ落ちた。

 

 翌日、朝。
駅までの道は、悩み通しだった。だが俺にできることは真実を話すしかない。
悩んでも仕方がないことだった。
姉さんは、そんな俺を薄い笑いを浮かべながら見ているだけだ。
けれども姉さんが俺から離れる事もない。俺の腕に腕をからませ歩調を合わせて歩いていた。
朝起きたときから、姉さんは怒ってこそいなかったが、優しくもなかった。
コーヒーは濃く苦く、トーストにはバターを塗ってくれず、目玉焼きに醤油をかけてくれなかった。
鬼畜な事を要求して無理矢理通してしまったために文句を言える筋合いでもなかった。
仕方なく姉さんを傍らに伴いながらも、俺はひたすら無言で駅まで歩いた。
いつもなら駅で沙織と里香が俺を待っているはずだった。
それを考えると、俺は気分が重かった。

 改札から少し離れた柱にもたれて、沙織はいつものように待っていた。
そしていつものように俺を見つけるといつものように彼女は笑顔を浮かべ、
すぐにいつもと違った不審な顔をした。
駆け寄った彼女は、俺の空いた手を取り、不審さ百パーセントの目で姉さんを眺めた。
俺に出来たことは、最低な事実を言葉を選びながら、沙織に伝えることだけだった。

 いきさつを知った沙織は泣いた。俺は謝ることしか出来なかった。
「ごめんね、悪い弟で。……嫌になったら、すぐに捨てていいのよ、こんな子は」
姉さんが気の毒そうな声と顔で、沙織を慰める。
その唇のはしにわずかに笑みが浮かんでいるのを俺は見た。
しかし俺に言える言葉があるはずもない。下手な慰めはただのお為ごかしにしかならない。
しかし沙織はすぐに泣くのを止めて、顔を引き締め涙を拭いた。
「……でも矢代くんは、私と別れるって言わなかったですね?」
「え? ええ。ほんとに馬鹿な弟で」
姉さんが焦ったように言葉をとりつくろった。沙織はそれに頓着せず静かに言葉を続けた。
「なら、私も別れません。……ほんとはお姉さんの矢代くんに対する怒り方、
おかしいって思いました」
姉さんが沙織の言葉で顔に驚きの表情を浮かべる。
「目が女でした。好きな人を奪われたような目をしてました。
そして矢代くんは無節操に女の人にちょっかい出す人じゃないです。
だから……失礼ですけど……お姉さんが誘ったんですよね?」
沙織の目が姉さんの目を鋭く見つめる。
「……十年、家族として過ごして、その後親の離婚で別れて五年。
ずっと姉と慕ってくれて、そして支えてくれた大事な弟なの。
それをどこからともなくあらわれた泥棒猫なんかに、はいどうぞって渡せるって思う?」
姉さんも目に危険な光をちらつかせて、沙織を見返した。
「十年だろうと、家族だろうと、私が矢代くんの一番初めなんです。
私が矢代くんの最初の女なんです。
それを横取りするような、しかもほんとは他人なのに家族のふりをして誘惑する女に、
渡しちゃう方が馬鹿ですから。
私、思うんですけど、お姉さんには、もっとふさわしい年齢の男の人が
いいんじゃないでしょうかって?」
沙織はもう泣いていなかった。静かにしかし一歩も引かない覚悟で姉さんに立ち向かっていた。
「そう……馬鹿な娘ね。あなたぐらいならいくらでもかっこいい男の子が恋人になるでしょうに」
「お姉さんこそ、矢代くんに構っていたら、婚期を逃しておばさんになってしまいますよ?」
けんかしないでくれって言ったつもりだがなぁ、と部外者にされた俺はそんなことを考えながら
彼女らを待っていた。
結局けんかを終わらせたのは時間だった。
電車に乗る時間が迫っていて、俺は強引に改札内へと二人を追い立てた。

 里香は、話を聞くと俺の頬をはった。
「ひどいよっ」
里香はいつもホームで待っている。沙織と姉さんを連れてホームに上がった俺を、
里香は驚きの目で見た。
そして俺はやはり最低な事実を話したのだ。
「矢代くんを叩かないでください! 矢代くんを誘惑した中塚さんが
そんなことを言える立場ですかっ!」
吐き捨てるように沙織がかみつく。
「ごめんなさい、ほんとに酷い弟で。あなたのようないい娘は、
もう弟に関わらない方が良いと思うわ」
姉さんは沙織の時に増して丁寧な口調で里香に語りかけた。
だが里香は沙織も姉さんも完全に無視した。
「お姉さんに今すぐ謝って、なかったことにしてもらって!
一夜の過ちでしたって言って、関係を断ち切って」
「一夜の過ちって……」
「ちょっと待ちなさい! 何が一夜の過ちよ。私達は結ばれるべくして結ばれたのよ。
あなたのように突然やってきて略奪して、恋人面した浅い関係じゃないわけ。わかる?」
「いいえ、全然わかりません!」
姉さんの咆吼に、里香は眼鏡を光らせ、その向こうから敵意と決意を込めて姉さんを睨んだ。
「私と矢代くんは、お互い、本当に必要としあった仲なんです。
そこの変態女や、どこかの姉弟ごっこの姉気取りな女が、いやらしい体で誘惑するから
いけないんです。
そんな贅肉だらけのいやらしい体でも、好きだっていう男の人は多いでしょうから、
矢代くん以外を誘惑してください。
矢代くんは、私と本当のパートナーになるべきなんです」
「姉弟ごっこ? よくも言ってくれたわね。まーくんの優しさにほだされただけのくせに」
「自分勝手な正義ばっかり振りかざして、周りの人にそっぽむかれた人がよく言いますね、まったく」
……俺はこの時ばかりは、この私鉄のダイヤを守る努力に、心の底から感謝をした。
この恐るべき三つどもえの対立が、とにもかくにも回避されたのは、
いつも乗る電車が時間通り入線してきたからに過ぎなかった。

 そして車内で、俺は三人の女にはさまれた。
彼女らの体はたとえようもなく熱く柔らかだった。だが雰囲気はドライアイスより冷たく固かった。
魂が削れてゆくとはこのことかと、俺は実感した。

 そしてなぜか姉さんは、俺達と同じ駅で降り、同じ出口から出て、同じ道を歩んだ。
まるで少し距離を開けて歩く沙織や里香のごとく、姉さんも少し距離を開けて同じ方向に歩いた。
「ね、姉さん? どうしてこっちに?」
「ん? 後でわかるから。今は秘密よ」
そういうと姉さんはそれ以降口を開かず、やがて驚愕する俺達を尻目に、
俺達の学校の中に消えていった。
俺達三人は、ただ顔を見合わせるだけだった。 

「矢代、ちょっと話があるんだ」
「なんだ? 吾妻が俺に用って?」
「内緒の話なんだ。昼休み、俺についてきてくれ。いいな?」
教室に入るとすぐに吾妻がやってきた。そして言った言葉がこれだった。
強引な話に、さすがに少し文句を言う。
「……ここで話せないのか?」
「俺は構わないが、お前達がやばいぜ?
俺は優しくて気が利くからな、ちゃんと内緒の話にしてやるよ」
言い方はともかく何らかの意図はあるらしい。
「……わかった。昼休みだな? しかし、いったいなんなんだ?……」
だが吾妻はそれに答えず席に戻っていく。
少しばかり嫌な気分で始まった一日は、ホームルームの始まりでさらに変転を迎えた。

「入院されました細山先生の代わりに、しばらく二年の英語を担当することになった
大和田美春(おおわだ・みはる)先生です」
教頭の紹介でクラスに歓声がわく。きりっとしたキャリア美人的な女性教師が入ってくれば
そりゃ男どもは騒ぐだろう。
調子に乗ってお定まりのスリーサイズを聞く奴がいても、
それをにこやかにいなせばそれも騒ぎになる。
少しきついような容貌も、話し出せば穏やかでなにより笑えば花が咲くような雰囲気を与える。
女子ですら、少し喜んでいた。喜んでいないのは、クラスで三人だけ。
俺と沙織と里香は、その女教師を紹介される前から知っていた。
会ったのはついさっき、登校する道で。
そう、姉さんが女教師になって俺達の前に現れていた。
「先生、恋人はいますかぁ?」
何も知らないお調子者の男子生徒がそう聞いた。
「ええ、います。とても悪くて愛しい人が」 
そういうと姉さんは顔に喜びの色を表し、手を胸にあて頬を染めながら、そう答える。
その姿は、俺ですら鼓動を跳ね上げるほどの色気にあふれ、少しの間、クラスに沈黙をもたらした。
やがてどよめきながら盛り上がる教室の中で、俺は視線のレーザービームを二本浴びることになる。
いわば、人を射殺せそうな視線という奴だ。
出所は見なくてもわかる。そちらを見る気など微塵もおきなかった。
いろいろとたまらなくなって顔を伏せようとした俺を、姉さんが見つけてウィンクをした。
女二人の視線レーザーの出力が増強された。
焦げて風穴が開いたのは、俺の心だった。

 昼休みに入るとすぐに、吾妻は俺を視線だけで促した。
しぶしぶと立ち上がり、吾妻の後をついていく。
しかし教室を出たところで、吾妻は一人の女生徒に捕まっていた。
「しつこいな。俺の前に現れないでくれって言わなかったか?」
扉のとこで聞こえた低いが険のある吾妻の声に、俺は思わず立ち止まる。
相手は、清楚で小柄な日本人形的な整い方をした女生徒だった。
だけど、先輩と呼びかける口調から見て一年らしい。 
「俺はおまえに興味ないんだ。前にそう言ったよな? もうつきまとわないでくれとも言ったよな?」
そう言い放つ吾妻の視点が、さっと下を見て戻った。
女生徒の手には弁当とおぼしき四角い包みがある。
「わかったら、どいてくれ。俺はこいつと話があるんだ」
吾妻が顎で俺を指し示し、その女生徒の視線が俺を見た。
訳もなく、俺はぞっとした。暗く虚ろで濁った目だった。
そこに憎悪という光がぽつんとともっている。
なぜそんな感情を向けられるのか、まったくわからなかった。
「おい、矢代。その女は放って置け」
「し、しかし……」
「おまえには関係ないだろ。いいから来い!」
いらだった吾妻の声に押されて、俺は女生徒の前を通り過ぎて、吾妻を追った。
あの暗い目が俺を見ているのをはっきり感じ、背中の毛が逆立つ。
今すぐ引き返して、沙織や里香や姉さんに抱きつきたくなった。
もちろん、そんな事が出来るはずもなく、俺は吾妻の後を追った。

 数分後、俺達は四畳程度の小さな部屋にいた。
中は埃だらけで、訳の分からないガラクタが置かれている。
日光が差し込んでくることだけが唯一の救いだった。
ドアには汚い紙が目隠し代わりに張り付けられていた。
これもやっぱり埃だらけの丸椅子を、吾妻が二つがらくたの中から引っぱり出し、
埃を払って俺達はそれぞれ向かい合って腰掛けた。
やがて吾妻は俺の物問いたげな視線を察知して話をはじめた。
「さっきの女は、これからの話には関係ない。忘れてくれ」
不機嫌と決まり悪そうな目をした吾妻に、俺は肩をすくめて見せた。
吾妻は一年の時から既に六人以上の女とつきあっては別れることを繰り返していた。
少なくとも噂の上では。
だからそんなものに首を突っ込むつもりはさらさらなかった。
それが確認できればあの女生徒のことなど俺にとってはどうでもよかった。
「じゃあ、話って?」
俺の言葉に、吾妻はいつもの余裕を取り戻した。
にやにや笑いが復活し、いつものいたずらっぽい目の光が戻る
「おまえ、学校で中塚とやってただろ? 体育祭の前日」
吾妻の単刀直入にも度が過ぎる言葉で、自分でも顔色が変わるのが自覚できた。
まさしく血が引くってやつだ。
無論、言葉など出るはずもなく、ただ吾妻を凝視して息を荒くするだけだ。
「副委員長に聞いた。お前、中塚を慰めに行ったんだって?
そして私物を体育祭前日に持って帰るって言ってたのに次の日に持って帰っていったってな」
息が止まりそうになった。状況証拠は限りなく黒い。実際黒なのだが。
「まあさ、別に他人がセックスしようがどうでもいいんだ。証拠があるわけじゃないしな」
そういうと吾妻は全てわかっているといわんばかりににやりと笑った。
「たださ、おまえ、片桐とも付き合っているよな? 電車の中でくっついているだろ?」
たたみかける追求に、むしろ考えることが出来なくなって俺の表情は凍り付いた。
「真面目な優等生の矢代が、女を二股かけてる……これを教室で言わないあたり、
俺って優しいだろ? な?」

 吾妻の笑い顔が、俺に覆い被さってくるような幻影に襲われる。
ついにこの時が来た、そう思った。
悪事の露見が、恐れと共に安堵や解放感すらもたらしたのは、意外だった。
だが、錯乱することも自暴自棄になることも俺には許されていなかった。
沙織を、里香を、そして姉さんを、守らなければならない。
頼りなく震えそうになる膝を押さえつけ、歯を強く噛みしめて、ひたすらに思考する。
それは一匹狼を気取っていた俺が始めて行う、守る戦いで、かかっているのは、彼女達の人生。
その重さが叫びだしそうな心を押さえつけた。
覚悟を決め、逆襲の機会をうかがい、俺は吾妻の目を見据えるのだった。

To be continued.....

 

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