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タッタ一ツノ存在ヲ

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話A
                第9話B


1

普通の生徒ならば訪れようとしない屋上に続く廊下。
そこでは青年は、少女と向き合っていた。

「愛<めぐみ>にずっと前から言いたい事があったんだ」
「な、何かな?気になるな〜」

さっさと告げようじゃないか。

あるいは初めてとなる、
      、、
   正式な拒絶を。

 

タッタ一ツノ存在ヲ

 

幼馴染は期待に頬を染めていた。
正式な交際を申し込まれる、そう思っているからだ。

「俺、華凛<かりん>と付き合うことにしたから」
「・・・・・・・・・嘘でしょ克樹?やだなぁ〜」

数秒ほどの空白を置いて少女は上ずった声で精一杯の平静を装った。

「もう、そんな事言ってないで私に愛の告白でもしてよ〜」

その表情は引きつりつつも、辛うじて笑みをかたどる。
対して克樹はもう一度はっきりと告げる。

「・・・俺、華凛と付き合うから」
「や、やだな。克樹ったらエイプリルフールはもう過ぎたよ?」

事実だ、と彼は付け足した。
瞬間、彼女の表情からぎこちない笑みは消し去った。
それも彼にとって見ることない醜い・・・般若の面そのものだった。
だが、唾を呑み込み彼は続けた。

「だからこれから、僕を起しに来なくていい。」

ああ、なんて俺は残酷なことをしているのだろう。

「朝食を作らなくていい。僕の弁当を作らなくていい」

しかし、けれど、だが、そう思っても切り出したからには・・・。

空白を置いて、

「端的に言ったほうがいいかな。・・・・・・僕に付きまとわなくていいから」

僕は自分のできる限りの無表情を作った。
どんな表情でいえばいーのか?それがとってもわからなかったから。
眼を盗み見ると愛のソレは絶望に歪められていた。

 

 

彼女自身が嫌いでこんな話を切り出したわけでない。
むしろ僕における彼女に対する感情[おもい]は好意的だ。
この幼馴染とは、そう短くない付き合いをしていた。
どちらも両親が仕事熱心な事に明け暮れ、碌に家に帰ってこなかった。

いつからだったのか?詳細な時期は覚えてないけれども、
彼女が克樹の身の回りのを一切合切する、なんて言い出したのは。

確か、あの頃だった。おぼろげな記憶を辿る。
・・・小学校の高等部。そうだ。

僕が何かを言ったらしい。その影響だったとか。
ともかく小学校高等部・中学・高校と、
自然に、徐々に、克樹と愛の距離は狭まった。

それこそ愛が克樹の家にいるのも公認となっているほど。
愛に起こされて、愛と朝食を食べ、愛と登校し、愛の手作り弁当を食べて・・・。
そんな毎日が僕の『当たり前』となっていった。

               、、、、、、
縮まっていく距離につれ、しかし彼女との距離[ふつりあい]を感じた。

才色兼備、容姿端麗、家事万能とくれば
彼女に近寄ってくる男子は少なくなかった。

中学の頃から先輩、同級生、後輩と、様々な人が愛に告白をした。
そりゃぁ、一週間に一回はあるってぐらいに。
そして必ずと言っていい程振られた奴らは、
『なんでこんな屑が』と言わんばかりの眼で僕を見た。

愛が告白を断る際、僕を理由に挙げたのか、
ただ単に傍にいた僕に逆恨みしてるだけなのかそれは知る由もない。
ただ、その頃から劣等感と言うものが芽生えてたのかもしれない。

 

もちろん、僕なりに勉学、鍛錬をしたつもりだ。
それでも良くて、上の下を成績をキープするのが精一杯。
運動部に入っても大して筋肉質になるわけでもなく、中肉中背だった。
顔だって良い訳ない。悪くないって位だ。

 

単刀直入に言おう。
      、、
どこまでも凡庸だったのだ、斎藤克樹という存在は。
故に、
完璧とも言える、愛には、僕なんて重荷に過ぎない。
そう、いつしか、思うようになった。

 

その時だった。
“克樹〜、暗い顔してどしたー?”
女友達だった華凛がとても煌いた存在に見えたのは。

 

 

「愛のことがずっと好きだった」
「なら、なんで、なんでよぉっ!!克樹ぃっ!!」
必死に己の肩に縋り付く幼馴染を、冷たい目で見つめた。

「想いを告げようと思ったことは何度もあったさ」
「私を捨てないでよっ!! 好きなんでしょ!?」

――――私、強くて格好良くて何でもできる人が良い――――
「でも、君の望む理想像が高すぎた」   嘘だ。
「それはっ、克樹にもっと成長して欲しかったからなの!!」

本当は、自分が、彼女の重荷になってる、
そう感じたから、なんて言えない。

――――私はなんでもできる人じゃないよ?――――――
「そしてあまりの君との距離の遠さに気付いた・・・いやずっと前から気付いてた」
「克樹に、もっと見てもらいたかったからなのっ!だからいつだって必死に頑張ったッ!!」

こんな時になってまで、ちっぽけなプライドのために、
嘘をついてしまう僕に、嫌気が差した。

そしてそんな僕は、愛の隣にいるべきではない。

 

克樹は知らない、彼女のそれこそ血に滲む努力を。
  愛は知らない、彼に架せられた愛という重圧を。

 

「だから、君とは付き合えない」
「そんな事、言わないでっ!!! お願いッ!!」

「済んだっ?」
ひょこっ、と壁から顔を出す少女へと、僕は笑顔にしてを向けた。
「ん、もうちょっと、だから終わるまで待っててね、『華凛』」
「うん、待ってるね」

修羅場と化した場所に訪れたのは、心配だったのだろう。
話すけど来なくていいって言ったのにな。

「納得できたかな、『折笠』さん」
「待って、待ってっ、待ってぇ!!!」

僕は、さらに縋り付こうとする手を、強引に振り解いた。

「これからは、僕に構わないでくれ。折笠さん」

僕は、幼馴染に、拒絶の意を、告げた。

その時には、拒絶が、泥沼へ踏み込む、要因だなんて、露ほども思ってなかった。

この拒絶が、僕にとって、最善の選択だと、信じて疑わなかったから。

 

「ふふふ、ははは、はあっはhっはっはっは」

壊れた哂いを浮かべる少女。
『告白』を受けた彼女だけが、夕暮れの中ポツンと立っていた。

「そうなんだね、克樹。あの泥棒猫が騙したんだね」
「なら、安心して。私が消し去ってあげるッ!!」

 

羅刹女の顔をした少女は、しかし決意を決めた。

盗人をなんとしても『消去』すると。

2

MEGUMI SIDE

 

私は克樹君が嫌いだった。
というよりも苦手意識に似た物を抱いてた。

ただ家が隣だからっていうだけで、『幼馴染』だとか言う彼が。
馴れ馴れしい癖に、巧く言えないな分厚い心の壁を持つ彼が。

別に吐き気がするとか言うんじゃなくて、イラつかせる『存在』。

 

でも、そんな関係に転機が現れた。

彼の魅力に気づけたキッカケ。
これは、本当に、与えてくれた『存在』に感謝している。
神でも、仏でも、イエス様でもなんでも。もっとも私は無宗教だけど。

小学校の中等部だったころ、私は日直で夕方まで残ってた。
帰る際、近道をしようとして通った裏道。
すると曲がり角から、見るからに獰猛そうなノラ犬が二匹。
私を睨み付けてずっと動かなかったのだ。

「ちょっと、あっち行きなさい。しっし」

怖くなった私はそう言ってジリジリと下がると、
子供からすれば自分より大きい巨体を動かしてにじり寄ってきた。

そして跳躍する。
私に噛みつくためだ。
駄目だ、と思って目を閉じた。

「危ないっ」
「キャッ」

私は突き飛ばされて尻を打つ。
何が起きているのか、わからない。

「くっ」

思わず眼を閉じてしまった目を恐る恐る開けると、
スタンガンを片手に追い払おうとする克樹がいた。

数年後わかることになるのだが、
護身用と称し年の離れた従兄弟から誕生日に貰った物らしい。
何危険な物持たせんのよ、とは思ったがこれのおかげで私は助かった。

閑話休題。

 

結果として彼は野良犬を追い払う事に成功した。
立ち上がるよう言う彼に、驚愕のあまり腰が抜けたこと。
それを伝えると、無口ながらも私を背負って家までおぶってくれた。

私は重くはない、と自負している。
が小学生の男女・・・ましてや十歳では体重は大して変わらない。
おぶられた恥ずかしさを誤魔化すあまり、
私は”さっき痛かったじゃない”って文句をぶつくさ言った。

「ああ、悪い。助ける方法が思いつかなくてさ」

 

      、、、
だけどあれは間違いだったのだ。
彼・・・克樹が私の所為で、噛まれたなんて、気付きもしなかったから。
そして、狂犬病という恐ろしいウイルスを宿すなんて思いもしなかったから。

 

狂犬病。
彼の身体には病原菌が棲み付き始めていたのだ。
この病気の特徴は発症すれば命を確実に奪う。
エイズに並んで『最も致死率が高い病気』ことで有名な病気だ。

発症して生き残った人間というのは、史上六人しかいない。
今の科学力を以ってしても、生命[いのち]を蝕もうとするウイルス。
狂犬病は本当に恐ろしい病気なんだと、彼を以って知ることになった。

 

彼は私の前では見事隠し通し、犬に襲われて三週間後。

克樹は、家で倒れた。

彼の異常さに感付いた父親が、救急車を呼んだ。
彼の両親が仕事熱心な共働きで、よく家を空ける中
・・・このタイミングで倒れたのは不幸中の幸いだった。

といっても、彼は病に“発症”していた。
つまりは手遅れとイコール付けすることと同じだ。

ワクチンを打ってから数時間後、すぐさま昏倒状態に陥った彼。
学校に来れる訳もなく彼は病欠ということになった。

表向きには病気に掛ったとだけ言われたので、
そんな気にも留めてはいなかった。

だが、家に帰ってみると、靴が余聞に二つ有った。

「いつも母さんお仕事で遅くまで帰ってこないのにな」

そう思いつつも、にこやかにした私は居間に入ろうとした。
そこには克樹のおばさんは目の下にクマと泣き腫らした充血を作りながら、
所謂[いわゆる]危篤と医者に告げられたことを両親に伝えていた。

私はその話を聞いて、彼が私を突き飛ばした『くっ』と苦渋に満ちた声を、思い出した。

あれは、噛まれたから上げた声ではなかったのか?
あれは、私を助けるために噛まれたのではないか?

私の所為だ。と幼心[おさなごころ]に自責の念に駆られた。

「あら、どうしたの?愛」

言え、なかった。
私の所為で、克樹君は噛まれたんです、なんては。

自分の娘が原因と知らない、自分の母親には。
危篤状態の原因である私が、克樹の母親には。

 

面会拒否の状態で、彼の傍には居れなかった。
その間、いらつきは募るばかりだった。

 

彼は一週間死の淵を彷徨ったあと、深夜に目を覚ました。
それこそ奇跡と言うしかないようだったらしい。
しかし頑なに噛まれた経緯を話すのを拒んだ。

彼の両親が興奮気味に我が子が助かったことを話していた。
電話越しに…といっても、マイクフォン状態なのだけども。
事の顛末を聞いて思わずトイレに私は駆け込んだ。

 

――――責任を感じたのだ。

私がいなければ、そんな事にならなかった。
鍵を内側から掛け、涙を流し、息を押し殺し、むせび込んだ。

 

 

これから話すのは彼の家族と私達家族だけの秘密だ。
彼は狂犬病に発症し生き残った、史上七人目の人間になった。
だから学会での発表だの、なんだのという話をされ、
彼の血液をサンプリングするという話になった。

もちろん彼の記録を独占するために、秘密裏に行う、という話だった。
彼たちの手柄を横取りされたくないため、教授と家族だけで話し合う。
だが克樹は表舞台に立つ事を拒否し、さらに条件を出した。
両親も、無事命を取り戻した息子の意見を尊重したいと言った。

一つ、世間に自分と関係者の名と顔は出さない事
一つ、克樹に掛った医療費の全額を免除する事。
一つ、自分の挙げる市内の民間児童養護施設に援助する事。
一つ、狂犬病をカモフラージュする為、違うカルテを出す事。

もちろん、教授たち大学病院側は渋ったが、名誉の為ならばと了承した。

 

そして“骨折入院”した彼は無事退院することが適った。
学校に復帰し学校に入った彼は、やはり変わらぬ彼だった。

「いやー皆すまんなー。帰ってきたぞー」
「お前なんで骨折ったならそうだと言わねーんだよ」
「病気だって言われたから、心配したんだぞー」
「みんな病院行きたかったのによー」
「はっはっは、朝寝ぼけて骨折したなんて言えるかよ」
「って言ってんじゃねーか。ヌケサクだなー、克樹」
「うっせー、笑うんじゃねえよ。このキョンが」
「ああっ!?キョンじゃねぇよー。俺の名前は恭介だろうがっ」
「はっ、貴様にはキョンがお似合いだ。もっとも電波女は存在しないが」
「なにぉぅー!!」

愉快にクラスメートと笑う彼に、

もやもやしたキモチを背負って、

克樹を眺める日々が始まった。

 

 

ある日彼と同じ班で調理実習を受けた日のこと

私の自信作・・・というか克樹のためにスタンドプレーじみた実力。
獅子が兎を狩るのに全力を出す、位私は頑張った。

克樹曰く“こんな料理が毎日食べられたらな”と笑いながらも、
間接的に“死に追いやった”私をとても優しく褒めてくれた。

 

――――嬉しかったのだ。

私はこう言った。「わたしね、かつきくんのめんどうをみるっ!!」
数年後、克樹からこう聞かれた。
“なんで愛はエロゲのように甲斐甲斐しく身の回りの世話をするんだ”
あなたの所為です。私はあなたが原因で恋に堕ちちゃったんですから。
そう思って、克樹君に『秘密♪』と彼の口に人差し指を当てて微笑んだ。

そして、いつしか私たちは高校生になっていた。
既にこの感情を認識できていた、これは恋なんだと。

 

誰にも渡したくない、何にも変われない、克樹。

そう、これは私と彼のための世界[ものがたり]だったはず。

克樹君の為に、料理を作れるよう頑張った。
克樹君の為に、勉強ができるよう頑張った。
克樹君の為に、運動ができるよう頑張った。
克樹君の為に、髪を長くするよう頑張った。
克樹君の為に、肌と体重には細心の注意をした。

克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、
克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、
克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、
克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、
克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、克樹君の為に、

それこそ一々挙げていたら、キリがないほど克樹君のために、私は何かをしていた。

 

なのに、なのに、なのに、

「なんでッ!?なんでッ!!なんでなのよッ!!!!」

克樹君の部屋で、彼の匂いがついたクッションを抱きしめ、そう叫んだ。

あの泥棒猫は、なんであんなに容易く盗むのッ!!!

私が6年以上も、外堀を埋めて、埋めて、埋めて、
やっと手に入れた場所だって言うのにッ!!!

あの女、許して置けない。
待っててね、克樹君。絶対救い出してあげるから。

でも、今だけはあなたの匂いに酔わせて下さい。

ブラウスとスカートを脱ぎ捨て、ショーツとブラだけの姿になって、
彼に包まれる、そう感じさせるベットへと倒れこんだ。

「御休み、克樹」

願わくば、明日には悪夢[ゆめ]が醒めてますように。

3

KATUKI SIDE

克樹は『過去[うしろ]を振り返るな』
と先ほどから何度も自分に言い聞かせていた。

 

あの出来事から一時間も経っていた。
ファミレスで夕食を済ました克樹は、華凛と夜道を歩いている。

ふと克樹は華凛を見詰める。
くりっとした目付き。腰まである黒髪を一まとめにしたポニーテール。
比較的社交的な彼女だが、髪を触らせるのは僕だけだ。
もっとも触ろうとするのも僕だけか。

愛と華凛。
どちらも美形だ。
可愛いのが愛ならば、
美人なのは華凛だ。

もっとも砕けた話し方は美しさを破壊してるようにも思えたが。

 

タッタ一ツノ存在ヲ 03

閑話休題。

 

あれでよかったのか?と克樹は
後ろ髪を引かれる思いに溢れていた。

「どうしたの、克樹?」
「ああ、いや、その・・・」

彼女、華凛の覗き込む瞳に僕は思わず目を逸らす。

――――――醜い僕[ほんしつ]を見られたようで。

ブンブンと頭[かぶり]を振って、思考を追い払った。

「考えているの、さっきのことでしょ?」

ギクッと挙動不審になった僕に、華凛はやっぱりと溜息をついた。

「しょうがないよ、だって克樹には荷が重すぎるもん」
「・・・・・・」
「だいたい、似合わないって何年前から言ってるのさー」
「克樹にはー、私みたいな子がお似合いなのー」

なんだかんだで彼女を選んだ身だったんだ、僕は。
そうだな、と相槌を打つと僕は携帯を取り出した。

「気まずいから、今日は家には帰れないな」

青年の何気ない一言に、しかし少女は眉を潜めた。

 

「え?どいうこと」
「親にも電話入れなきゃな」
「ちょっと克樹ッ、どいうことよッ」

制服の襟[えり]を掴む華凛。
ビックリしたせいで携帯を足元に落してしまう。
、、、
あっ、と目線を下げると、途中に羅刹女がいた。
観念した様子で、彼は喋りだした。

「いや、だから、合鍵持ってるんだよ、愛は。信頼してるから親から渡してたんだよ」
「じゃぁ、女ぎつ・・・あの子は自由に克樹の家に出入りできるってこと」
「ああ?愛はなんも仕出かすようなやつじゃないからな」

ふぅ〜んと不満げに襟を放す華凛。
落ちた携帯を拾い上げ、動作を確認する。
壊れてないかな?おし、ちゃんと動く。

「ともかく、今日だけは泊めてくれよ」

華凛は、しきりに彼女の手をにぎにぎしたりしていた。

「どうした?赤くなって」
「そ、そいうことするの」
「そいうこと?・・・おまっ、ちょっ・・・」

ば、馬鹿と返し、顔ごと逸らした。
いや、僕まで“そんなこと”を考えてしまい、
それしか返せなかったのだ。

お互いに、赤面したまま無言で歩を進めた。

    彼女のうちへと。

 

 

着いた先には、庶民的な家が正面にあった。
築二十年位かな?

「ただいまー」
「おじゃまします」

彼女に先導されて緊張気味に玄関で靴を脱ぐと、
奥のドアが空いてにょきっと首が生えた。
いや、単に気だるげに顔だけ覗き出しただけか。

「お、華凛も男を連れ込む歳になったかー」

華凛と違って髪を下ろした彼女は、華凛によく似ていた。

「姉ちゃん、そんな事言ってないでよっ」

華音と名乗った女性は・・・「いてて」
見るまでもない、華凛が頬をつねっていた。

「彼女の姉さんに、手を出さないでよ、克樹」

そう釘をさして、自分の部屋へと逃げ込んだ。
あやつめ、掃除してないんじゃなかろうな?
幻滅させるなよー、彼氏[ぼく]を。

そんな阿呆なことを考えている矢先、
華音さんは、後ろから僕を抱きしめた。

「少年。歳上のお姉さんはどうだ?」
「ちょ、む、胸が当たってるんですけど」
「そうか、じゃぁ続きは胸ででも、なかでも出して・・・」

力ずくで外せない事もないけど、って思うと彼女は首をひょっこと出し、僕の唇に――――。

き、キスするつもりなんだ。この人は。
必死に体を捻ろうとする、動いた視点には華凛が写ってた。

「ってかドアの間から覗いてる華凛に殺されたくないんで止めときます」
「そうか、残念」

 

華凛の姉さんは、華凛をもっと大人びたくしたような感じ・・・といえば当たり前なのだが。
流石に愛を捨て華凛を取った僕が、そんなことするようでは彼女に呆れられる。
そう、正面のドアからぞくぞく背筋を凍らせる視線と、じーーーーと声に出される擬音。

「じゃぁ、彼女の部屋に入らせてもらいます」
「まぁ、彼氏君。妊娠だけには気をつけてね」
「ぶっ、な、何を言ってんですか」
「初心だねー。いいよ、あんたみたいな奴は好きだ」

”でも片親だからねー、ウチ。できちゃった婚だと苦労するよ”と笑いながら

しかし残念そうに、彼女は僕の拘束を解くとドアを閉めた。
そっか、華凛家族のこと話したがらなかったもんな、と顔をしかめた。

 

華凛の部屋はいかにも少女的ではあった。
もの自体は少ないのだが、果たして先に入る必要はあったのだろうか?

物を動かしたような音と形跡はなかった・・・。まぁ、いいか。
と自然に呼吸すると、匂いが・・・女性特有の甘い薫りが鼻腔に吸い込まれた。
ベットに座ると、どっと疲れがでてきたのかまぶたが降りてくる。

「眠いの?克樹」
「ああ、ちょっと駄目らしい」
「あのね・・・・・・」

華凛が腰掛けていた椅子から、僕の隣に座る。

彼女の言葉がだんだんと聞き取れなくなって、
十数秒もすると克樹は安定した寝息を立て始めた。

 

 

KARIN SIDE

「Zzzz」
「寝ちゃった・・・ね」

ベットに寝た・・・いや、“薬によって”寝させられた克樹の髪を梳[と]いているのは、
やはり薬を服用させた華凛だった。

「いやしかし、心配だったよね。うん、だって幾ら遅効性の薬とはいえ」

気持ちよさそうに眠っている彼に、彼女は語りかけた。

「家に着くまで眠らないかドッキドキだったよ」

心地良さげに克樹の頭を撫でる。

「うーん、まだ私のヴァージンを貰ってもらうには早いかな」

「最高のタイミングでヴァージン破ってもらうんだから」

華凛はニヤついた笑みで、彼の『全ての』服を脱がし、また自らも一糸纏わぬ姿になった。
そして、ベットの中で克樹に抱きついた。

「でもー、せめて一緒に裸で寝てあげよ。ふふふ」

 

疲れてたんだね。
今まであの女狐に。
領域[こころ]を犯されて可哀相。

絶対に渡さないから、私の、私だけの、克樹。

それだけ、つぶやくと、彼女も、彼の胸元で、すやすやと眠った。

 

願わくば、この幻想[ゆめ]が一生続きますようにと。

4

KATUKI SIDE

僕は、目を開けると、目前に見知った顔があった。

「・・・・・・華凛だ」

それは間違いない。
そして今の状況に気づいた。

華凛は、その細い体を押し付け、
足を克樹の腰に巻きつけるように眠っていた。

何よりも僕を驚愕させるのは、
僕と華凛どちらも“全裸”だということだ。

さぁーと全身の血が引いた。
一体、僕は、何を、やらかしたんだ、と。

だが彼女の女らしい二つの膨らみを感じて、
『僕』のアレは正直に反応し始める。

「むぅ〜、克樹」

寝ぼけたように、しかし嬉しそうに、
彼女はつぶやいた。

夢でも見てるのか?

彼女は幸せそうな夢[げんそう]を。
僕は現実という夢[あくむ]を。

『一線を越えたられた』と考えるべきかそれとも、
『人生の墓場』へ突入してしまったと考えるべきか。

複雑な心境だった。

 

 

 

「お、おはよう」
「おはよー克樹ぃ」

ぎこちない挨拶する僕。
華凛は起きたばかりなせいか舌足らずな調子で喋る。

「克樹、寝ちゃうだもの」
「せ、き、に、ん、取ってね」

僕の頭はフリーズした。

「って、冗談だよ?」

おどけてみてる華凛に、
僕のCPUとメモリはやっと処理を再開し始めた。
って嘘かよ。

「でも、その、・・・・・・アレが私にあたってるんだよね(///)」

彼女が恥ずかしげに頬を染める。

「だから、抜いてあげよっか?私が」

僕は首に掛かる吐息にゾクッとした。

が、なけなしの理性で

「大丈夫、だから」

といってベットから起き上がった。

綺麗に畳まれた僕の衣類・・・。
彼女がやったのだろう・・・を手に取り身に着けた。

僕は華凛の彼氏なのだから、
僕は彼女のことをもっと知ってから、

と所謂天使と悪魔の囁きに葛藤しつつも、学生服の上着を着た。

 

 

春原家のテレビを見詰めていた。

『え〜、今日の運勢一位はみずがめ座』
『いろいろ大変なことがおきたけれども、今日は快適に過ごせるかも』
『でも寝室にはアンラッキーがたまりすぎてるから気をつけて♪以上〜』

「どんだけ詳しく当たってんだよっ」

そうおもわずテーブルの醤油を投げつけようとしていた僕だった。

俺は朝食をご馳走になると、家に寄ることにした。
学校とは逆方向なので華凛には先に行くよう促す。

 

しかし、なんで?なんだ?

ただ家に入って、教科書と参考書を鞄に入れ、
体育で使うジャージと換えの服を取ってくる。

それだけの話だったのに。

何故、愛が、俺のベットで、寝ている?

 

 

ブルブルッと僕のポケットで振動する何か。
携帯電話だ。それににハッと意識を戻すと、
ディスプレイに表された折笠-純一・・・愛の父さんから電話が来ていた。

一度部屋を出てドアを閉める。

「はぃ、もしもし」
『あ、克樹君かね?』
「おじさんですよね、ご無沙汰してます」
『ああ、そうだな。で、済まないがうちの愛を知らないかね?
昨晩からずっといなかったようなんだ、電話も繋がらないし』
「うちにいますよ」
『そうか、ならよかった。いつもなら置手紙があるだがなくてね』
「はぁ・・・」
「でも、鞄とかはあったからもしかすると、と思ってね」
「疲れてたようなのでそっとして置きました」

嘘だ。

「流石に夜遅かったので伝えるのが遅くなってすいません」

適当に言い返し、さも関係が普通どおりのように装う。

『うむ、すまなかったな』
「いえ、おじさんもお仕事頑張って下さい。
そろそろ学校の支度の時間なので失礼します」
『うむ』

ピッ、と電子音を鳴らして電話を切った。

 

「あいつ、そんだけショックだったということか?」

ドアを開けて、ベットのふちに寄り添う。
その顔は泣き腫らした痕があった。
そっと手が彼女のセミロングほどの髪へ伸びた。

「んっ〜」
「起きたか?」

寝顔を見られたショックで後ずさる愛。

「えっ、え、・・・か、かつきくぅんっ!?(///)」
「おい、そっち時計があるっ」

案の定、ガツッと背をぶつけた彼女だった。

「いててて、あれ?ゆめじゃない?」
「そうだよね、そうだよっ!!」

「私を克樹君が捨てるわけないよ、はははは」

違う。

「愛」
「なぁに?克樹君。私が魅力的だからって襲っちゃ駄目だよ?」

違うんだ。

「愛」
「あー、朝ご飯食べてないよねっ! よりをかけて作るから待ってて」
「一緒に食べようね、克樹君」

「違うんだよッ!!」
「ひっ」

俺の喚声に、愛は後ろにずり下がった。

 

「僕と愛は、もう唯の隣人に過ぎないんだ」

克樹がしぼりだす声は、儚く掠れた声だった。

「だから、距離を置いてくれ。お願いだから」

自分の身勝手さに、彼女から背を向けた。

「お願いだからッ、これ以上構わないでくれッ!!!」

そういって俯いた克樹を後ろからゆっくりと、だかしかし確実に、抱き止めた。

「大丈夫・・・」

正目に回った彼女は背伸びをして、克樹を抱き締め直した。

胸にうずくまれた僕が抱いた感情は、劣情ではなく“慈愛”だった。
そうして、いつのまにか、泣き崩れた僕を、優しく、愛が慰めていた。

「これじゃぁ、一限間に合わなくなっちゃったね」

くすっと笑う彼女に僕は申し悪そうにそっぽを向いた。
最悪だ。彼女と分かれるために、僕は決意を出して言ったというのに。
結局ふりだしに、戻ってるじゃないか。

 

 

MEGUMI SIDE

ふふ、よかった。
なんだかんだ言って、克樹が戻ってくるんだもの。

そりゃぁ、私だって悪夢だと決め付けたいけど、
これで一層私と克樹の仲が深まるわね。

ありがとう、泥棒猫さん。
あなたのおかげで克樹君の『存在』。
再確認させてもらったわ。

まぁ、もっとも、
私に適うわけないでしょ?

そう、涙を流す克樹君を膝元であやしながら、
開いた片手で彼の携帯電話の電源を切った。

ふふ、これなら邪魔できないでしょう?
残念だったわね、クソ女。

5

[KARIN SIDE]

遅い、遅すぎる。

幾らなんでも荷物を取りに行く位で、
時間が掛かりすぎじゃないの?

それに克樹は理由もないのに、
一限までをすっぽかす人間じゃない。

つまりは二限目に入ったということは、
“何かが起きた”事を示唆している。

華凛は机に置いた携帯電話と睨めっこをしていた。

「まったく、何でメールはともかく、電話にも出ないのよ・・・留守電まで入れたのに」

こういう時に限って、ディジタル機器ってうらめしい。
それを見かねた教師は教科書を片手に注意をした。

「これ、春原[すのはら]〜、授業中に携帯電話を出すんじゃないー」
「はい、すいませんでした」

頭ごなしに注意する教師に、『この糞教師が』
と思いながら私は携帯を仕舞う。

だが、表面上は反省したように振舞った。
一応これでも来年受験を控えた身なのだ。
できるだけ評価は高いに越したことはない

しかし、心中ここにあらずといった彼女だった。
もっとも、勉強はそこそこしかできないのだが。

 

 

そこへ、

「すいませーん、遅れました」
「・・・遅れました」

入室してこようとした、二つの影があった。

前者は声高らかに、後者はどんよりとした声。
・・・愛と克樹だ。

もしかして、あの女狐?
彼に襲い掛かったんじゃっ!?
そう考えると、合点がいく。
そして私の心は千切れそうになる位、不安に駆られた。

 

「これー、二人とも遅刻届を貰ってきなさい」

 

克樹を、取られるなんて、絶対嫌だ。
折角掴み取った幸せなのにッ!!

重い足取りでドアを閉める克樹を見て、十数秒ほどして私の手は挙げられた。

「すいません、先生。私アレな日なので」

男子教諭は気まずそうに、トイレへ行くよう促した。

「あ、ああ。行ってきなさい」

残念だけど、まだまだ先なのよね。
そもそも、彼と初めて交わりたいから安全な間なのよ。
ま、だけどこういうとき便利よね、女の子は。

職員室へ向かう二人に追いつき、愛の肩をつかんだ。

「あんた、克樹に何をやったのっ!?」
「今朝、克樹君が泣いたので慰めただけですよ」
「ま、まさか、あんたっ!!」
「そういうあなたはどうなんですか?」
「なによっ」

怒りを露わにして真っ赤になる華凛に対して、
冷ややかな目付きで愛は睨み付けた。

「克樹君は朝まで帰ってきませんでした。
つまり克樹君をその貧弱な躯で誘惑でもしたんですか?汚らわしい」
「なっ、なんですって、あんたこそ慰めたって―――」

とうとう今まで口を閉じていた克樹が叫んだ。

「―――二人とも止めてくれっ!! もう、僕は嫌なんだッ!!
誰かが喧嘩するのを見るのはッ!!」

 

私達の声を聞きつけたのか、校長が職員室から出てきた。

「君達、何をしてるのかね?」

「・・・すいません、トイレへ行きたいので」

形勢が悪いと感じ、私はトイレへ具合が悪いよう装って向かった。
背中越しに聞こえる女狐の声は、燦々[さんさん]としていて気味が悪い。

「えーと、私と克樹君は遅刻したので・・・遅刻届を」
「ほぉ、珍しいな。優秀で品行方正な君が。確か二人の届は白紙だったと思うが」
「幼馴染の彼が熱っぽいと言っていたので」
「ならば、保健室に行くのがいいだろう。なんなら私が彼を送ろうか?」
「いえ、だるさも取れてきたって克樹君も言ってますので」

「そうか、なら健康に気をつけてな」

 

 

[KATUKI SIDE]

校長が後ろ手を組んで満足そうにここを去ると、
愛はふぅと息をついて、職員室のドアに手を掛けた。

鳴り響く、鐘の音。
二限が終わったのだ。

職員室に入ろうとする二人は、

「あ、チャイムが鳴っちゃったね。今のうちに早く取りに行こうか」

そう言って入っていった。

ふらふらと僕はまるで母の背中についていく子供のようについていった。
僕は、何を、やっているのだろうか?
あのあと三限目を受けたが、頭にまったく入らなかった。

四限の授業は、体育だ。こういうとき、男女別でよかったと思う。
もっとも、その隣には体力馬鹿の恭介は、
「お前はブルマのロマンがわからないのか」とどうせ言うんだけどね。
まぁ、ブルマなんてとっくの昔に終わったらしいけどね

僕は各自の筋トレが終わると専ら球技やらのゲームを観戦する側。
いつもそうだったので不自然に思う奴はいない。

そこへ、四時間がそろそろ終わるのか、体育教師がやってきた。
僕は憂鬱な躯を動かして、整列していた。

 

授業が終わった後、恭介に事情を話した。
すると、慰められる、なんて思いは、間違いだった。
首元を掴みかかっているのだ、小学から馴染みの彼に。

「おぃお前、なんて言ってるか自分で分かってるのか」
「分かって、るよ」

恭介は、愛を好きになったことがあった。
そして克樹への想いにあきらめて、
僕らと数少ない友達でいる一人になっている。

だから、僕が愛を捨て、華凛と付き合うという選択肢を見るのは、
何ものに耐え難い屈辱、あるいは侮辱だったらしい。

「それでもっ」

掴みかかられた手を振りほどこうとする。
駄目だ、恭介に筋力で真正面から適うはずがない。

 

「この糞野郎がッ」

殴られた。

 

痛い、

 

物理的にも痛かったけど、
なにより数少ない友に殴られたこと自体がショックだった。

 

数分後、氷の入った袋を乱暴に放り投げると、彼は消えていった。
彼がたまり場にしている運動部から、かっぱらってきたんだろう。

乱暴者なりの、おせっかいだった。

 

その気遣いが、僕には殴られた痛覚より、胸を暖かくさせた。

「サンキュー」

誰にも、捉われることもなく、言葉は風に攫われていった。

 

更衣室で私服に着替え、シャワー室で汗を流す。
財布と使ったジャージを片手に、僕は購買へと寄った。
教室に向かえば、愛が『作った弁当を食べよう』というだろう。
部室に向かえば、華凛が『一緒に』と誘うだろう。

僕は、食欲のわかない、しかし躯はエネルギーを確実に要求していた。

 

あそこで、食べるのに、使わせてもらおう。

思い付いた場所へと、歩みを向けた。

 

「失礼、するよ」
「あらら? 克樹さんじゃないですか?」
「久方ぶり」
「どうしたんですか、頬を腫らせて」

僕は眼鏡を掛けた理知的な彼女へ、ジャージを見せ付けた。

「うーん、ちょっと授業でラフプレーされてね。氷で冷やしてるんだけど」
「確か氷袋・・・あ、ありました。これでーえ〜と」

彼女、佐藤鞘子は新たな氷袋を差し出した。
こいうとき、彼女のささかな優しさが染みる。

ひんやりとした感触が、頬へと伝わった。

しばらくだんまりとしていた僕だったが、
少しずつ堰があふれたように、
昨日から今日に掛けてを話してしまった。

朝の華凛のことは除いて。

 

彼女は、眼鏡を、外して、

「そう、だったんですか」

僕は驚愕した、

「知ってました?如月克樹さん」

彼女の瞳が、あまりにも、あまりにも、

「私、あなたが好きだったんですよ?」

どす黒い輝きを放っていたから。

「あなたが医大に援助させた養護施設の出なんですよ」

そう彼女はのたまった。

 

彼女は、事故で、両親を亡くした。
後見人が降りた保険金を片手に夜逃げし、
親戚をたらい回しにされたらしい。
そして辿り着いた先が、この市内の児童養護施設だった。

その施設は、彼女が入居して一年後に資金調達ができなくなった。
スポンサーも見つからないまま、潰れるかという時になって、
医大が急遽支援すると言い張ったらしい。

そして、その養護施設の園長のご好意と、
自分自身の優秀さで特待生として在学できるようになったと。

 

そんな?馬鹿な・・・。
ただ僕は、若さゆえの偽善心を埋めようと、
条件に加えた、それだけだったというのに。

何故、彼女が頬を染めていてる?
何故、彼女が近づいてくる?
何故、彼女が僕に告白をしている?

「最初は、知らなかったんですよ」

「ただ、優しい人だなーって」

「驚いちゃいましたよ、園長からあなたが、だと聞いて」

「年齢も、風貌も聞いてましたから一層思いも募って・・・」

「だから、あなたが好きです。
例え私だけを愛さなくてくれても、私は一生あなたを愛します」

何故、彼女の眼がこんなにも“濁って”いるのだ?

 

僕は、身に着けた貴重品だけを持って
しなだれてくる彼女を押しのけ、
第二図書室から出て行った。

 

もう、僕は、一体、どうすれば、いいんだ?

 

何を、誰を、信じれば、いいんだ?

6


『全ては必然よ-四月一日[わたぬき]
この世に偶然なんて存在しないの』
xxxHOliC 壱原 侑子

[KATUKI-SIDE]

順を追って説明しよう。

僕が愛[めぐみ]を助けたとき居合わせた理由。
それは"彼女をびっくりさせよう"という思惑からだった。
後ろを追っかけて、気がつけば守っていただけなのだ。

それに彼女に感謝される云われはない。
なぜならば驚かそうと思った僕に対する、
一種のばつかと考えたからだ。

そして、華凛と話会うようになったのも、
たまたま男女と違えど部を同じくしただけだった。

さらにいえば、佐藤鞘子・・・鞘と話すのも、
高校の図書室にあった漫画やラノベを見ようと思ったから。

ただそれだけ、だったはずなのに。

 

何故こんなにも容易く、

 愛は脆く壊れ、華凛は嫉妬に狂い、鞘も綺麗な眼を濁らせている?

 

あくまで僕を第一に考え、なおかつ何事にも好成績を残す愛。
僕はその才能に見合うだけの男ではない、そう思った。

だから、華凛と付き合うことにした。
だというのに、いつのまにか僕は愛の膝元で泣き続けていた。

涙が収まったあと学校に登校したらば、愛と華凛の修羅場が形成される。

本来、僕は、争いを、好き好んでいるタイプじゃないのだ。
だからできるなら目を背けていたかった。

だからこそ、カウンセラー室よりも理想[オアシス]である第二図書館へと、
赴いた[にげこんだ]というのに彼女に告白される。

 

何故、こうも24時間の間にぐるぐると状況が悪化し続けるのか。

 

嫌気が差した僕は校庭の離れへで寝そべっていた。

この場所は、学生の駐輪場からはまったく見えない。
見えるとしたら、よほど凝らして見なければいけない。
そして、そこまで注意を向けるはずもない。

今の僕にとっては、五限なんて糞喰らえだった。
こんなことになってる時に、授業を受ける余裕は僕に残っていない。

 

こんなにも、僕らは、荒れ狂っているのに。

 

風は、穏やかに、僕を包んでい・・・。

 

僕は、ひなたの気持ちよさに、暗闇に、意識を、落とした。

 

 

「あ、起きたね。克樹」

目が覚めれば、華凛に今までされたことはなかった膝枕をしていた。
いや、女友達に過ぎなかったので、当たり前か。
彼女の柔らかなふとももと、長髪の毛先に頬をくすぐられ、
しっとりとした唇を見つめ、僕は意識を覚醒した。
とその後ろから覗く二人の顔がある。

「克樹さんも起きたので、本題に入りましょうか」
「ええ、もちろんよ」
「私を選んでくれますよ、克樹さんは」

どういうことだ?

「克樹君、今日ぐらい一緒に帰ろうよ」
「駄目、克樹はこれから一緒に部活やるんだから」
「私とお茶しに来てくれませんか?克樹さん」

彼女達は三者三様の誘い方で、克樹へ迫る。

そういえば、部活・・・顔出してなかったな。
適当といってはなんだけど、自主性ではあるが。
何も言わずに部活を休むと何故か個人メニューが倍増する。
二乗されたていったらダルマ式に膨らむだろう。

 

「部活、いくよ」
「えー?克樹君、いいじゃないー」

むすっとする愛とは対照的にしゅんとうなだれる鞘。
勝者故の余裕か、華凛は克樹の腕に抱きついた。
だから、胸が当たってるんだってば。

「あー!!、克樹君に抱きついちゃ駄目っ」
「・・・・・・華凛さん、ムカつきますね」

僕は誤魔化すように、

「そうだ、愛。晩飯は―――」

途中まで吐き出した言葉を、はっとして飲み込む。

やらかした。

 

愛に“構わないでくれ”僕は今朝そう言ったじゃないか。
長年あったやりとりなのだからしょうがないと見るべきか?
もしくは、緊迫感を持たない男と思うべきなのか?
いずれにせよ、彼の行動が迂闊だったことは確かだ。

「はい、克樹君の大大だぁーい好きなカレーライスですねっ?
わかりました。私、克樹君の家で作って待ってますねっ♪」

それこそ天真爛漫の笑顔を、
純粋な笑顔を浮かべて、
鼻声を歌わんばかりに駆けていった。

僕は呆れるどこか、自分の愚考に口が開かなかった。

気づけば、腕に抱きつく華凛と、鞘は
綺麗な顔を苛立ちの色を隠そうともしなかった。

「私も、夕餉にお邪魔してよろしいですか?克樹さん」
「えと、・・・その」

言いよどむ僕。華凛は、腕をぎゅっと締めて、

「駄目に決まってるでしょっ!!」
「あなたに謂われる筋合いはありません。黙ってください」
「ッ!? でも、あんた電車通学でしょっ!?
「いいえ、どちらにせよ本の納入で最終下校時間までいるつもりでしたから」

多少、遅くなろうとも、構いませんから。と眼鏡を上げながら付け足した。

自分が言い負かすのは無理だと理解した華凛は、俯いてさらにぎゅっと克樹の腕を握り締めた。

克樹は溜息をつきながら、華凛の頭を撫でる。

「・・・しょうがない、いいよ」
「では、その時間に待ち合わせしましょう」

7

[Katuki Side]

バスケットボールは籠に入れるというルーツの球技だ。

 

「なのに、なんで俺はカエルジャンプしてんだよっ」

ボードに連続十回触れるまでジャンプし続ける。
しかもそれを10セットという無茶苦茶なメニューを
文句だらだら、汗だらだらでこなしていた。

「黙っとれ、この馬鹿ちんが。自主休部は認めんっつってんだろ」

そういうのは、俺がサボらないように睨む男顧問。
それ位なら他のメンバーを見張らんかい。
他の男子メンバーは女子に混ざって団体練習をしていた。

この部のの顧問は、部活になるとマジの目付きになる。
いまどき熱血の教師なんて似合わないっての。
たとえSLAM DUNKその世代でも、それなんて時代遅れです。
だからキザな二枚目の癖して全然モテないんだよ。

「聞こえてんぞ、こら。腹筋腕立て百回追加ね」
「ひぃぃっ!!てめぇふざけんじゃねぇーーー」
「いやぁーやってるねー。克樹」

ぎゃあぎゃあ言い合いをしている中、途中から会話に参加してきたのは華凛だ。

気づけば向こう側のコートでは、女子バスの試合が初まっていた。
華凛はシックスマン・・・つまりは秘密兵器的なものだと思って良い。
だから試合に入れなかった彼女は、おおかたシュート練習でもしに来たのだろう。

というかよく考えてみれば、端に備え付けられたゴールはあと二つある。
だが、それにも関わらず一番奥のこのゴールに・・・。

 

「じゃっシュート打つね♪」
「ついでだ、ボールに対して反射神経鍛えとけ」
「のーーーー、ってかやめぇい」

「って別に他のゴールに移っても」
「却下♪」

どこから持ってきたのか、この顧問は竹刀を振り回し、筋トレの再開をせかす。

「大丈夫だよ、克樹。愛のパワーで♪」
「無茶だーーーー!!」
「アレ、お前ら出来てたっけ?」
「え、先生知らなかったんですか?私と克樹の仲」
「ずいぶんとませてるなー」
「ってちょっと、華凛さんや。シュート成功率ガタ落ちですけどー」

ゴールを弾いてこちらへ飛んできたボールを、頭をそらして避ける。

「大体ッ、無理が、あんすよっ!」
「なんだぁー?貴様、俺様にケチつけんな」
「だってッ、男子部員ッ、4名しかッ、いないじゃッ、ないっすかッ」
「ま、そりゃそうだよね」

相槌を打つ華凛・・・もっともな話だ。
克樹たちのバスケットボール部は、克樹を含め、男子は四人しかいない。
インターハイなど、夢のまた夢だった。常識的に無理な話だ。

 

だが、いまだ俺は懸命に飛び跳ねていた。

「8、9ッ、10ッ終わり」

息を荒げてハァーハァと膝に手を当てる。
無理難題な練習量に躯は休憩を求めていた。

無常にも顧問は、

「あー、克樹。まだ腹筋腕立て百回ずつね」
「鬼ぃぃーーーー!!?」

「先生ぇー、女子の試合終わりましたけどー?」
「ん、じゃぁ、克樹出ろ。男子対女子で始めるぞ」

でも、やっぱり『終わったらすく筋トレ再開なー』
と残酷な事を、顧問は告げやがった。

 

「しかし、スパルタだよな」
「いやー、しょうがないっしょ克樹」
「女子と戦うために重り合計10キロも付けてるんだぜ?
ありえねぇーちゅうの」
「ははは、だって男の子だもんねー」
「抜かせ、お前にごぼう抜きされた数は少なくないぞ」

女子の一人を借りて、彼女たちと一コーター。
8分マッチののバスケットを行うことになった。

何故か、レギュラーを外して、かつ華凛を相手チームに入れるって
なんでだよとは思ったものの、付き合ってる奴らを同じチームにしたくないって言う
あのもてない顧問のくだらない策略だと考え、自己完結的に思考を閉ざした。

シューターガードと、フォワードセンターを兼任する俺。
明らかにぶつかりあわないけれども、彼女はカットインしてくるだろう。

余裕の表情で我が男子部ガード信二君をフェイントで避け、
ヘルプに出たフォワードの伊藤を初速で振り切る。
俺は華凛を、正面から迎え撃った。

「克樹甘いよっ」
「ふん、華凛に負けるほど鈍っちゃいねぇー」

足元で止まった一歩目、フェイクだ。
二歩目、本命がやってくる。俺はジャンプした。

「打たせるかっ」

しかし、彼女は無茶な回転を掛けて向かって斜め右へと跳んだ。
フェイダウェイかっ!?
そう思った僕は届きそうに無いボールをを、無理やり、気迫で弾いた。

「しゃぁーーー。どうだ見たかっ!!」

だが現実には、ピーーと笛が鳴り、審判がバイオレーションと叫んだ。
つまりはスローインで女子チームの攻撃で始まる。

「あはは、克樹。あれじゃぁ弾きすぎだよー」

と彼女は汗を煌かせてにこやかに笑った。

顧問は克樹の姿を見て、「お前は桜木花道かっての」と一人呟いていた。

 

 

同時刻
[Megumi side]

愛[めぐみ]は前掛けエプロンを付け、上機嫌に具材を炒めていた。

克樹君、やっぱり私の手料理が最高って云うことだよね。
うんうん、よく判ってる。伊達に6年以上も作っているわけじゃないのだ。

あれは決してあの女狐を寂しがらせないとかじゃなくて、部活動のためなのだから。
克樹君はなんて優しくて心が広い人なんだろう。と私は自分に言い聞かせた。

でも、やっぱり私に一番注いで欲しいな。
あなたの気持ちを。

私は煮汁や炒めた具材を、鍋に移して煮始めた。
それを見つめて、私は閃いた。

・・・私が彼を襲うんじゃなくて、彼が襲ってくれればいいんだ。
私は火をいったん止めると、駆け足で自宅に戻った。

自分の部屋に入り、鍵が掛かる引き出しをそっとあけた。

 

媚薬とバイアグラ。

 

もし克樹君が私以外の汚らわしい泥棒猫に取り付かれたら、
彼に既成事実を作ってもらって取り返すために、と考えた切り札の一つだ。

 

通信販売で購入したときは、火が顔に出るくらいだったけど。

 

でも、そろそろ仕掛けないと、泥棒猫共にかっさらわられるかも?
そう考えていると、だんだんと私は一抹の不安に駆られた。

 

結局私はその二つの瓶を克樹君ちまで持ち出し、
ビンの中身と砕いた錠剤を”すべて”鍋の中に入れた。

 

私が彼を襲うかもしれないけど、
それでも彼は物理的に拒否は出来ないだろう。

 

もし、駄目だというならば・・・・・・流しに置いた包丁を、じっと見つめた。

 

 

[Karin side]

彼と会って本当に楽しいと思う。

私が試合中にわざわざカットインで切り込むのも、
司令塔なのにも彼の場所へ攻め込もうとするのも、
試合の後、汗を気にしつつも彼に擦り寄るのも、

 

全てが克樹を愛しているから。

 

あなたがいるだけでいい、その事実があれば。

 

克樹は、表沙汰には、付き合っているとは云わないから、
だから行動で皆に、知らしめる必要がある。

 

もし駄目なら、私があなたを。

スポーツバックの奥底に眠る、あるものの感触を確かめる。
私が、彼から奪い取って、それでも女狐に言い寄られたときの最終兵器。
硬い柄の部分を握り締めて、私は克樹に微笑んだ。

 

もちろん、克樹が夕飯に誘った女狐に、
見せ付けるように、胸を押し付けてだ。

 

 

[Sayako side]

私は、一度、コンビニに寄った。
もちろん、克樹さんと雌犬には気づかれないよう。

カッターと剃刀、それにカモフラージュのため図形用紙と洗顔材を買った。

 

これで準備万端。

 

彼に擦り寄る雌犬を排除できる、機会があれば良いな・・・。
横で克樹さんに淫らな事をしている、雌犬。
克樹さんには、見えないように、睨み付けた。

 

[Katuki side]

そういえば、じいちゃんにもらったアレ。
最近、振ってなかったな。

あの趣味・・・というか習慣だけは、
付き合いの長い愛にも話したことは無かったんだよな。

磨いてもないし久しぶりに、油も注ごうと、思った。

 

唯一、自宅で僕の管理下にある一振りを、
思い描いていた僕は華凛に抱きつかれた。

何故だろう、僕には、華凛が影になって鞘が見えないのだけども。
殺気だったオーラを出している気がして、ならない。

 

修羅場にならないと、いいな。
そう思う僕は、まだこの数時間後の出来事を、知る由も無かったんだ。

8

[katuki]

「ただいま」

部活が終わり鞘を待ち合わせ、我が家の鍵を開けると、
家の奥からは食欲をそそる匂いが漂ってきた。

「おかえりさなさい、克樹君」

と愛[めぐみ]の天使も照れるその笑顔は、
だが確実に、急激に曇りだした。

「克樹君、なんでその人たちを連れて、きたんですか」
「ごめん、そのー、二人とも家に着たいって言うから」

愛は顔を俯かせ、

「お願いだから、克樹君。その人たちを家に入れな―――」

と言い切る前に、後ろから少女達が言葉の狙撃を行う。

「―――別にいいんですよ愛さん、帰っても。私は克樹さんに許可を貰っているんですから」
「そうそう、カレーの鍋だけ持ち帰って一人寂しく食べれば?私は克樹と食べるけど」
「ッ!! わかり、ました」

辛辣な心を抉る言葉の前に、愛の声はやけにかぼそい声で反応した。

 

 

家のリビングは四人掛けの四角いテーブルだ。
僕の隣に、愛。向かって華凛。そして対角線上に鞘だ。
もちろん、この配置に二人が愛の席に異議を申し立てるが、
かといって僕にとって愛の定位置と化しているので取り下げた。

 

うん、やっぱりなんだかんだ言っても、愛の料理は旨い。
そこらの下手な料理屋より、遥かにうまいし、タダだ。

昔、両親に食費として出してもらおうか?と僕は愛に提案してみたことがあったのだ。
しかし、愛は頑なに頭を振らなかった。
曰く「一人増えたところでそれほど変わらない。自分の両親から食費をもらっている」
そう言った彼女は、僕の双眼を見て、こうのたまった。

「その、代わり、克樹君と、もっと、一緒に、いたい、です」

上目遣いに、もじもじと呟いた愛。

それは愛が僕の家で家事をやり始めて数週間の出来事で、、
僕はまだどう愛と接すればいいのか悩んでたころだった。

僕にとって、彼女はツンツンしていた頃のイメージが根付いてたから、
一昔前のギャップに胸をキュンとさせられてしまっていて
かつ、その核弾頭並みの破壊力に照れ、ああとうなづくしかなかった。

 

「克樹、どうしたの?」
「ああ、いやなんでもない」
「相変わらず、うまいなって、思って」
「克樹君っ、そんな褒めても何も出ないよっ(///)」
「今度、中華料理を私が作ってあげましょうか克樹さん?」
「むー、私だって克樹の為に、取って置きのオムライス作るんだからねっ」

会話がヒートアップしそうだな、と鈍感だと自他認める僕でも感じた。
故に少し食べる速度を早め、僕らの夕食はお開きとなった。

 

 

僕らが食べ終わり彼女達が食器を仲良く片付ける。
・・・もっとも表面上の話だと後に理解したのだが。
食後のお茶を啜りながら、テレビを見ていた僕に愛は言った。

「克樹君、そろそろシャワー浴びた方がいいですよ」
「わかった」

僕は服を取りに行くために、一度自室へと向かった。
衣装棚から下着と部屋着を持った僕は、突如背中を奔ったモノに一抹の不安を抱く。

これが悪寒か、と初めて気づいた僕は、慌てて棚のベニヤ板を取り外した。

 

そこに眠る、一振り。

 

昔、じいちゃんが、僕に譲り受けたものだ。名は正宗。

刀に詳しくない僕でも知っている銘。
でもじいちゃんは
「正宗という名工は幕府のお抱えでな、作品が多いんじゃ。
ただでさえ造りに贋作や無銘が多いからこれもそうかもしれんな」
と呟いていた。

 

僕もウィキペディアで検索すると、
どうやら現存しているのは、彼の短剣数振りだけらしい。
大体鎌倉時代の作が現存まで原型を留めていて使用できるなんて、
よほどのことが無い限り無理だと思うのだが。

あ、そういえば、おじいちゃんとは、
ここ数ヶ月会ってないけど、無事に過ごしているだろうか?

 

ともかく、それを僕は袋越しに握り締め、脱衣籠の陰に立てかけた。

 

 

所は変わり、居間。

三人の少女達は、澱んだ空気と濁った眼を晒しながら、
ぶつぶつと己の気持ちを、言い分を、ぶちまけ始めた。

「私から、克樹君を取らないで下さいッ!!
もういいでしょうっ!? 私は、克樹君のために、努力してきたのに。
なのに、なんであなた達は、克樹君の心に、土足で踏み込むのッ!?」

羅刹女の気迫を漂わせて、愛は叫んだ。
だが、それでも華凛や鞘子は後には引かない。
・・・いや、後には“引けない”のだ。

「あなた、だけじゃ、なんですから。5年以上も思い続けていたんですよ」
「わ、私だって質だけで言えば、克樹の思いは二人には絶対負けないッ」

「「「「交渉決裂(です)(だ)ね」」」

その言葉を機に、ある者は使い慣れた包丁をキッチンから取り出し、
ある者は己のスポーツバックからナイフを取り出し、
ある者は心細いカッターと剃刀を取り出した。

「「「克樹(君)(さん)は私のもの!!!」」」

 

[katuki side]

僕は、騒がしくなった居間を感じ

すぐさま体を拭いて、浴室を出た(true ending)。
愛がどうにかするだろ、と放っておいた。(ending a)
華凛がどうにかするだろ、と放っておいた。(ending b)
鞘がどうにかするだろ、と放っておいた。(ending c)

2008/04/25 To be continued.....

 

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