ピーーーーッ
火にかけたケトルがけたたましくも自身の役目が終わったことを告げる。
良平はコンロからケトルを取り上げると、手慣れた様子でコーヒーをいれ始めた。
「電気ケトルが欲しいんだよな〜」
「そう?私は火で沸かした方が好きだけどな」
「持ってるからそういうことを言えるんだよ」
ほい、と良平ははカフェオレ仕立てのコーヒーマグを沙弥香に手渡す。
ありがと、と小さく呟き、沙弥香は小さな唇でそっとマグに口をつけた。
「うん、おいし」
良平は沙弥香の満足そうな顔を見ながら、ローソファに座る彼女の隣に腰かけた。
半年前、クリスマスを直前に控えた時期に、当時付き合っていた男の二股が判明し、
大ゲンカの末に別れたのだが、その時に傷心の沙弥香を慰めてくれたのは、親友の綾だった。
その時、綾と一緒に慰めてくれた良平に、傷心の沙弥香が惹かれてしまったのも、
無理のないことなのかもしれない。
良平と沙弥香はいつしか二人きりで会うようになり、
関係を持つようになるのにひと月とかからなかった。
ほんの数時間前、綾に二人の関係を告げたのが翔太郎ではないことを確認したばかりだったが、
翔太郎に目撃されてしまったことを、沙弥香は良平に言いそびれていた。
知り合いに見られたことを良平が知ることで、今の二人の関係が終わってしまわないか、
それが気掛かりだった。
「沙弥香……」
「ん……」
良平の手が沙弥香の豊なバストを弄り始めた。
たぷんとしたボリューム感ある感触が良平の掌に伝わる。
その頂にある小さな突起は興奮で既に堅くなっていた。
「あぁ……」
良平の掌がその突起物をこするたび、沙弥香はため息のような艶っぽい吐息を吐く。
「良平君……いいよ」
沙弥香は良平の手を取り、じっとりと汗ばんだ自分の内股にその手を誘い込む。
タイトなミニスカートが頼りなく沙弥香の下半身を包んでいた。
良平はそのスカートを脱がすこと無く、下着越しにゆっくりと沙弥香の秘部を撫で回した。
「濡れてるな」
「恥ずかしいよ……」
恥ずかしさと、親友を裏切っているという背徳感が沙弥香をより昂ぶらせていた。
「あんっ」
良平の指先が黒の下着をかき分け、遠慮無しに侵入してくる。
沙弥香の膣はしとどに濡れそぼり、無骨な侵入者をしっとりと迎え入れていた。
「これが良いんだ?」
そう言うやいなや、良平は第二間接まで侵入させた指先をぐりっと折り曲げ、
ざらつく膣襞を遮二無二擦りつけた。
「それっ、感じる……」
ビクン、と上体をわななかせると、沙弥香はより強い刺激を求めて腰を淫らにくねらす。
「沙弥香、上に乗って」
隣を見ると、良平は既にその怒張を剥き出しにしており、まっすぐと屹立したペニスを指差していた。
「うん……」
沙弥香は良平をまたぐと、向かい合う様にして首筋に抱きついた。
ペニスが膣口を捉えると、おずおずと沙弥香は腰を落としていく。
「あぁぁ……」
ずぶずぶと良平の陰茎が沙弥香の膣に押し入ってくる。
じわりと広がる快感に、沙弥香思わず視線を泳がせてしまう。
ペニスが深々と突き刺さったことを確認した良平は、そのままの体勢で激しく沙弥香を突き上げた。
「あぁぁっ良平君っいいっ」
ずんっずんっと突き上げるたび、沙弥香のバストが大げさに上下する。
その表情は何かを堪えるような艶かしいものだった。
ぎゅぅっと膣に締め上げられた良平のペニスは、情けないほど早くその限界を迎えようとしていた。
「沙弥香っうぅ……」
「あっああっ……良平君っもっとぉ」
「う……」
良平は恋人の親友と紡いだ背徳感溢れる行為に、自身の欲望を溢れさせた。
「うぅ……」
はぁ、はぁ、と二人で熱く息を紡ぐと、結合したままの二人は、長いキスを楽しんでいた。
暗い……
当然、か。日が沈んでからだいぶ経つもんね。
暗闇の部屋の中、パイプベッドの上で私は丸くなっていた。
何をする気にもなれない。何もしたくない。
自分がここまで落ち込むなんて、考えたことも無かった。
予定していた家庭教師のバイトが急遽キャンセルになり、
良平を驚かしてやろうとこっそり彼の部屋を訪ねてみた。
自慢の手料理でも振舞おうかな、とも考えていた。
なのに……
知らなかった。良平のアパートの薄いドアは、中で行われている出来事を、
包み隠さず外に漏らしていたなんて。
知らなかった。良平と沙弥香がそんな関係だったなんて。
知らなかった。恋人と親友に、同時に裏切られると、こんな気持ちになるなんて。
あのドアをノックする勇気は、私には無かった。
すぐに良平に電話とメールをしたけど、返事なんて無かった。
良平の声が聞きたかった。アノ声はアダルトビデオか何かの音だって、言って欲しかった。
会いたかった。会いたかったけど……私にはあのドアを開けることは出来なかった。
その場から逃げ出すことしか、出来なかった。
いつからなんだろう?私と付き合う前から?
どっちから誘ったんだろう?ソレを知って、私はどうするの?
良平は、何を考えてるんだろう?私、振られたのかな?
頭の中はぐちゃぐちゃだった。
考えたくないのに、色々な妄想が沸き起こる。沙弥香を抱く良平。
沙弥香に愛を囁く良平。私のことを考えてもいない良平。そして、彼を受け入れる沙弥香……
私は私を憂鬱にしていく。
良平から電話も無ければ、メールも来ない。
ばふっと大き目の枕に顔を埋めてみた。涙が止まらなかった。
翔太郎は悩んでいた。
彼の風体、立ち居振る舞い、そして独特の口調。みな面白がるが、それだけ。
決して近くまで来てくれることは無かった。
そんな彼を友人と認め、何かにつけ構ってくれたのが良平だった。
高校で知り合った彼だったが、大学まで一緒になった時は本当に嬉しかった。
だからこそ、昨年、大学に入学したときに知り合い、初めて恋心というものを教えてくれた女性が、
良平と恋人関係になったと聞いたときも、翔太郎は素直に二人を祝福できていた。
親友だと今でも思っている。思っているが……
綾の親友、沙弥香と良平がラブホテルから出てくるのを目撃したのは偶然だった。
たまたま翔太郎がバイトの用事で隣の県まで出向くことになり、
たまたま通りがかったラブホテルの前で、
たまたまホテルから出て来た沙弥香と目が合ってしまったのだ。
沙弥香の隣にいた良平はそのことに気付いてはいないようだった。
沙弥香にしても、目撃されたことを良平に話してはいないらしい。
そうであるなら、翔太郎も自分からこのことで波風を立てるつもりはなかった。
沙弥香もまた、翔太郎にとってはかけがえのない友人の一人なのだから。
しかし……
しかし、このことを綾が知ってしまったとなると、話は別だ。
4人のバランスをどうこうするつもりはなかったが、
今、綾を支えてやれる人は誰がいるのだろう?
沙弥香から良平との秘事を綾に気づかれてると聞いた日から、既に一週間が経とうとしていた。
あの日以来、終ぞ学校で綾を見かけることは無かった。
良平にそれとなく聞いた時も、良平はごまかす風でも無く知らないと話していた。
風邪でも引いたのではないかと。
それなら見舞いの一つにでも行くべきだろうと詰め寄ってみても、
良平にはその素振りが見られなかった。
「ふむ、様子だけでも見に行くべきだろうか」
翔太郎は悩んでいた。
ひとりで女性の家など訪ねたことなど、人生20年のうちにただの一度も無いのだから。
それでも、翔太郎は綾の事が心配だった。
恋人の浮気と親友の裏切りの二重苦が同時に綾を襲っているのだ。
例えば自分ならそんな状況に陥ったらどうするだろう?
似たような自問を繰り返し、その度に怖じけづく。翔太郎はそんな一週間を過ごそうとしていた。 |