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メルティ:メルティ;

第1回


1

 信吾は手元にある二つの小袋を見て、溜息を吐いた。
  一つは同級生の少女に貰ったもので、もう一つは先輩に貰ったものだ。
詳しく言うなら同級生に貰った小袋は木綿製の手作り品で、
その中に安い小粒のチョコが幾つか個入っているもの。
先輩のものは逆に手作りではないが随所に刺繍のされた豪華なもので、
やはり小粒のチョコが幾つか入っていた。金が掛っているのは分かるし、
それが愛情の度合いを示すものだと分かっている。
手作りのものは個人的な事情もあるのだろうが、前提として愛情が込められているものだと思う。
  だからこそ、悩む。
  悩み、悩んで、悩み抜いて、出た結論は、どうして自分なのだろうかという疑問だ。
  自分は特に個性が強い訳でもない、どこにでも居るような凡人だ。華がある訳でもない、
人と違う部分と言ったら母親譲りの高い身長だけだ。
趣味であるバンドを続けさせて貰う為の条件として一応成績は上位に食い込ませているが、
それでも一応だ。
自分なんかより頭が良くて成績も良く、外見だって良い奴など掃いて捨てる程に存在する。
それなのに、何故、自分なのだろうと考える。
特にチョコをくれた人物の片方、先輩ならば、美人だし成績も学年のトップをキープしている。
渡す相手など選り取り見取りだろう。
自分などは単に軽音部のメンバーの一人でしかないし、
たまに色っぽい冗談でからかわれたりはするものの、
常識で考えればチョコを渡すメンバーの中にすらカウントされない筈だ。
  吐息。
  続いて考えるのは、同級生のことだ。
「道丘の奴、何を考えているんだろうな?」
  こちらは、ある意味では先輩以上に分からない。
「どう思うよ?」
  傍らに置いたドラムのマイスティックに声を掛けるが返答は当然無いし、余計に虚しくなるだけだ。
わざわざ無機物にまで問うた自分のことを考え、そのことに自己嫌悪の気が強くなる。
馬鹿馬鹿しいと天井を見れば無機質な光の蛍光灯が目に毒で、
変え頃になってきたコンタクトに染みてきたので慌てて眼を逸らした。
  その先にあったものは広くない部室の唯一の出入り口であるスライド式のドアで、
耳を澄ましてみれば足音は聞こえてこない。まだ時間制限までは、幾らか余裕があるらしい。
先輩・重恩も、同級生・ヒトツも、掃除当番の役目から解放されていないのか。
それとも何か用事でもあるのだろうか。そんなことを逃避気味に考え、しかし慌てて首を振る。
  決めなくてはならない、どちらを選ぶのかを。
  たった三人しか在籍していない軽音部で、しかも男は自分一人。片方を選べば残された方は
気不味くなるだろうが、どちらも選ばないままグダグダになるよりは、
すっぱりと男らしく決めた方が相手も悔いが残らないだろうし、全体の雰囲気も崩れにくいだろう。
「しかし、困った」
  悩む一番の原因は、同級生の少女だ。

 今朝、ヒトツからチョコを受け取ったとき、二つの言葉を聞かされた。
  学園の中では知る者は少ないが、ヒトツは同じ中学を卒業した者の中では、
貧乏として知れ渡っている。過去に彼女の家に遊びに行った際、冷蔵庫から水の入った瓶を出されて、
「これが我が家のジュース」と言われた。ラベルを見れば原液を薄めるタイプのものだ。
これは後に彼女なりの冗談だということが分かったが、そんな冗談を言える位にヒトツは貧乏だ。
だからチョコを渡してきたときに、無理して義理チョコなど渡さなくても良いと信吾は言ったが、
返ってきた言葉は、
「義理チョコなんて買う余裕ないわ」
  というものだった。脱色も染めもせずに、それどころか普段は無造作に切り揃えてあるだけの髪も、
いつもより心なしかお洒落にしていたような気がする。
常に浮かぶ暗い表情も青白い顔も、幾らか健康的なように感じた。
  それだけならば話は何も無いままで終わり、後は信吾とヒトツが付き合うなり何なりで
考えるだけになるのだが、その次に言われた言葉は想像を超えたものだった。
信吾が手に持っていた、重恩から渡された小袋を見るとヒトツは目を細め、
「重恩先輩も本気だけど、出来れば私の方を選んでほしい」
  そう、珍しく感情が分かる声で言ったのだ。
  今まで意識していなかったからこそ、信吾は頭を抱えることになった。
重恩が普段からセクハラ紛いの言葉でからかってきたり、
男女にしては度を少し超えているスキンシップを仕掛けてくることがあったが、
それが本気の裏返しだと理解できた。
もっと酷いのは、ヒトツの方だ。
今までに何度か体の関係を持ったことがあるが、それがヒトツ自身が口にするような
日頃のカンパの礼だというものと、口には出していないものの、
こちらに好意を向けて抱かれていたのでは話が変わってくる。今までは悪いことだとは思いながらも、
十代の性欲に逆らえずに享受していたが、事実を知った今では、
これからどう対処すれば良いのか分からなくなっている。
  無茶だ、と、泣き言のような言葉が浮かんできた。
  選べない、どちらに転んでも、確かに雰囲気は崩れないだろうが、ヒトツにとってより
悲惨な状況になるのかを考えると、結論が出せない状態になる。
例えばヒトツを選んだりした場合でも、今まで通りに接することが出来るのか分からない。
それに最悪、その怨恨で苛められるかもしれないと思う。
重恩は苛めをするタイプではないと思うのだが、
事実、ヒトツは中学時代に同級生の苛めにあっている。それを繰り返したくはない。
しかし先輩を選んだ場合には、ヒトツの行為を切り捨てることになる。
それが原因でヒトツとの関係が失われてしまうのは嫌だと思う。
  答えを出せないまま、信吾は首を捻った。

 □ □ □

 掃除が予想以上に手間取り、気付けば予定の時間より十分も遅れてしまった。
そのことに内心で毒を吐きながら重恩は階段を飛び降り、
ステップ一つで慣性を消しながら部室へ歩を進めてゆく。
一歩一歩が大股で、体を前に飛ばす度に普段のミニよりも更に短くしたスカートの裾が翻るが、
気にするものではない。今日は勝負の日だ。
いつ、どんなことを信吾にされても良いように、
下着は自分の持っているものの中でも一番良いものを選んできたのだし、
恐れることなどありはしないからだ。
  鏡に映る自分の姿を横目で確認し、少し曲がったタイを直す。
  完璧だ、と重恩は笑みを浮かべ、更に加速。
  考えるのは、これからのことだ。自分が持てる金額の全てを費やして買ったチョコは、
既に今朝、信吾の下駄箱に投入済みだ。後は彼が、袋の底に入れておいた恋文に気付いて
読んでくれていれば良い。もし読んでいなくても、自分から告白するだけの話だ。
本当は彼の方から告白してくれるのが理想だが、贅沢は言っていられない。
何しろ、信吾の近くには厄介な鼠が居る。
今までは完全にノーマークだった。三人しか在籍していない部の中での付き合いは
自分かヒトツに限定されるが、地味で暗く貧乏な彼女など、数に入らないと思っていた。
同じ中学だということは話に聞いていたが、精々そのくらいだと。
  そう安心しきっていた、一週間前までは。
  テスト期間の三日目、今まで通りにアピールを続けながらも勉強を教えるという計画を
実行しようと彼の教室に訪れたが、そこに信吾の姿はなかった。
クラスメイトに尋ねた所、ヒトツが迎えに来て、一緒に帰ったと聞かされた。
あの二人が付き合っているらしいとも聞かされた。
部室の中で見る限りでは付き合っているという様子はなかったし、
そんな話を信じたくないという気持ちが走り、気付けば色々と話を聞いていた。
そうしたら周囲もそのような認識だったらしく、驚く程に証言のようなものが出てきた。
一緒に昼食を食べているのを見た、一緒に登下校しているのを見た。
挙句の果てには、ヒトツが頻繁に信吾の家に出入りしているという証言まで出てきたのだ。
飽くまでも噂だとは思うが、二人は既に肉体関係もあるという話まである。
  衝撃を受けたが、諦めたくないという気持ちがある。
聞いておいて悪いとは思ったが、話は飽くまで他人の証言だ。
信憑性に欠けるものがあるし、普段の二人を見ていても交際しているようには思えない。
だが、だからこそ、と言うべきかもしれないが、その意思は重恩に今回の計画を実行させた。
今までのスローペースなものでは遅く、信吾に届かない。
半ば強硬策のような姿勢でチョコを買わせ、手紙を書かせ、
「負けない」
  部室の前で足を止めさせた。
  居る。
  憎き恋敵が部室のドアの前に立ち、挙動不審に部室の中を覗き込んでいた。

「何しているの?」
  尋ねると、ヒトツが振り向く。こちらに向けた表情は相変わらず暗いもので、
表情にも力と言うか生命力のようなものがない。
瞳には殆ど光が見えないし、背中の半ば辺りまで無造作に伸ばされた黒髪や
細過ぎと言える身体付きと合わさって死人のようにすら見える。
こんな娘が信吾と付き合っている筈がない、そう心中で呟くと目を逸らされた。
ヒトツの視線は部室の中、恐らくは中に居る信吾に向けられている。
隠れていないで、さっさと中に入れば良いのに、と思う。
普段からベタベタしているなら構うものではないでしょう、
と言いそうになり、言わない代わりにこぶしを強く握った。
  ねぇ、と声を掛ける。
「ヒトツって、信吾と付き合っているの?」
「付き合ってはいません」
  なるべく感情を抑えて言った言葉に返ってきたのは、簡潔な否定の言葉だ。
  しかし、「は」という一文字に疑問を覚えた。思い出すのは肉体関係があるという噂だ。
だがすぐに否定の意見を思い浮かべ、付き合っていないという事実の方に意識を向ける。
そうだ、こんな娘よりも自分の方が相応しいに決まっている。
そう自分に言い聞かせて、湧き上がってくるものを押し殺した。
自分も地味なタイプには違いないが、ヒトツよりも外見が上だという自覚はあるし、
身なりにも気を遣っている。
成績の方も頑張ってトップをキープしているし、どこに出ても恥ずかしくない、
自慢の彼女で居られるように努力を続けている。少なくとも、ヒトツよりは。
  ヒトツは、言葉を続けた。
「付き合ってはいませんが、そうなりたいと思います。先輩、彼は渡しません」
「渡しません、って。信吾はモノじゃないでしょ?」
「彼は、私のモノです。人が持っているものを殆ど持てない私の持てる、
たった一つの、そして何よりも大切なモノ。だから渡せません」
  彼と寝たことありますか、という脈絡のないヒトツの言葉に、重恩は耳を疑った。
「私は何回も寝ました、抱かれました。キスも沢山してもらいました」
  聞きたくないと思うが、しかし握った拳が開かず、声が耳に流れ込んでくる。
いやらしい、という言葉が、自然と口から漏れた。セックスをしている、
という事実がそうではなく、その方法がだ。
不幸を撒き餌にして、身体を餌に、信吾を手に入れた方法。
許せない、と言葉が続く。きっと自分の方が信吾のことを愛している、
それなのに信吾はこの女に囚われている。方法自体も許せないが、何よりも、その事実が許せない。
  意識と体の動きは同時だ。
  二度目の、許せない、という言葉と同時にヒトツの肩を掴み、右手を振り抜いていた。
  乾いた音が響き、掌に痺れにも似た痛みが来る。
「殴りたいのなら、殴っても構いません。ですが何度殴られても、彼は渡しませんよ」
  は、と吐息が漏れ、手が止まった。
「それを決めるのは、アンタじゃない」

 □ □ □

 渡さない、絶対に渡したくない。そう呟きながらヒトツは薄い胸に掌を当てた。
  痛みが走る、頬ではなく胸の奥の方に。
  きっと彼は先輩を選ぶ、そのような幻聴さえも聞こえてきそうな程に思考が乱れ、
息が荒くなっていく。先輩は美人だ、と聞こえる声に、彼は顔で選ばないと答える。
成績優秀、という声に、彼はそんな部分にこだわらないと答える。
金持ちだ、という声に、本人の金じゃないと答える。
性格が良い、という声に、人の本心は分からないと答える。
  でも、先輩と話をしているときは楽しそうだ。
  その言葉に、答えることが出来なかった。
  誰が今の問いを発しているのか、それに何故、問いに答えることが出来ないのか。
その意味を理解しているからこそ、沈黙が答えになる。
嫉妬の裏返しだ、ということは、ヒトツ自身が一番理解しているものだ。
信吾が重恩と会話をしていると、腹の底から粘りの強い、黒いものが湧き上がってくる。
最初は小さな靄だったものは少しして液体になり、確かな重さをもって体内に溜まっていく。
その水気が抜けると残ったカスが腹の内側へとこびり付き、
二人の会話を見ているときには干乾びたカスが内壁を執拗に指してくる。
  今だってそうだ。信吾が悩んでいるのは自分と重恩を天秤に掛けているからだし、
その後の最悪な展開を想像して湧き上がってきた痛みに、ヒトツは長い吐息をした。
  大丈夫、と自分に言い聞かせる。きっと彼は、自分を選んでくれるのだ、と。
その為に出来ることは何でもやったし、これからも続けていく。
どんなに惨めな思いをしようとも、それは変わらない筈だ。
  自分で思い浮かべた「惨め」という言葉に、自嘲の笑みが浮かんだ。
  普通にしていたら誰にも敵わないのは分かっているから、
だから自分でも引いてしまうような方法を取ったのだ、と。
貧乏で、不幸で、情けなくて、そんな自分を照らす太陽のような信吾の優しさを、
自分だけのものにしたくなった。当の信吾自身は普通にしているつもりなので気付いてないだろうが、
誰にでも優しく接する性格は、ヒトツには驚く程に眩しいものだった。
特に不幸が特徴のヒトツには優しく接し、励まし、仲良くなり、
結果、ヒトツは信吾に惚れ込んでいた。
初めて知った密の味は濃いもので、薄いものは要らなくなった。
そして接種を続ければ毒か麻薬のように入れ込み、そして他人に出回るのすらも惜しくなってくる。
  だから、惨めになってでも、
「渡さない」
  境遇を使い、身の上を使い、そして抱かれるようになり、離れられなくなる。
  依存。
  漢字二文字、平仮名にしても三文字で終わる言葉は、的確にヒトツの心情を表わし、
「彼は」

 踏み出す一歩は、独占欲に塗れた心情の音を発した。
  他には何も要らない、信吾が居れば、それで構わない。
  重荷として扱われ捨てられないように本人の前で感情を発露することは無いが、
重恩と二人きりの今は話が別だ。奪わないで、という懇願の言葉ではなく、
奪うな、という威圧の言葉が薄い唇から漏れてくる。
  恋人でもないくせに、抱かれてもいないくせに、
「ベタベタと引っ付いて」
  鬱陶しい、彼は私のものだ。
  そう言って、また一歩。
  今朝は彼に「負けない」と言ってしまったが、大体、何故彼は悩まなければならないのだろうか。
勝負にならないと、そう決まっているのに。
  何故か妙にクリアになってきた頭で思考する。
  溶けそうだ、とも思う。
  今まで我慢して溜め込んできたものが、言葉として吐き出されていくのが、感覚として分かる。
我慢なんてしなくて良い、しても損をするだけだ、と遺伝子が告げる。
胸は高く鼓動を鳴らし、祝福のラッパとして脳に響いてくる。
何故、自分は今までこんな単純な事に気付くことが出来なかったのだろうか、
そう考えて、出る結論は一つだ。
  自分の思考に遠慮をしていたからだ。
  でも、ケジメが今日で付くのだから、そんなことは関係ない。
  彼は自分を抱いてくれた、つまり選んでくれた。好きでもない相手を抱くことなんて、
きっと彼はしない。優しい彼が、そんなことをする筈がない。
だったら彼が現在、悩んで苦しんでいる原因は、目の前で怯えた表情をしている女のせいだ。
下らない色仕掛けなどして彼を困らせ、妙な方向に話を進ませようとしている。
無駄にでかい胸や尻で誘惑して自分から引き剥がそうなんて、どれだけひどい女なのだろうか。
  でも、それも終わりだ。
  一歩。
  ひ、という単音が重恩の唇から漏れた。
  数歩という分だけ詰まった距離を離すように重恩は後退し、背中がドアに当たって軽い音をたてた。
それは、これ以上逃げることが出来ないということを示す音だ。
背後に壁がある以上は、進むという選択肢以外は存在しない。
  鈍音。
  重恩の頭部を挟むようにして、背後のドアに手を突いた。
後はこれを僅かに寄せ、力を込めれば、細い喉など簡単に詰まるか折れるかするだろう。
超が付く程の至近距離。鼻先が擦れ、相手の瞳孔の奥さえも視認出来るような距離で、
ヒトツは唇の端を釣り上げた。
「死んでしまえ」
  腕に力が込められる。

 □ □ □

 前に居るのは誰だろう、彼女は、こんな表情を浮かべない。
  こんな笑顔を浮かべる筈が無いし、こんなに怖い表情は人間に作れない。
  一年を共に過ごした後輩の満面の笑みを見ながら、重恩はそう思った。
  しかし、直後に妙な浮遊感が重恩を襲った。

 □ □ □

 簡単な話だった、そう信吾は結論した。
  悩むことなど何もなかったのだと、そう答えは告げている。
悩んでいた理由も、結局はヒトツのことを思ってのことだった。
それはつまり、いつの間にかヒトツのことを好きになっていたということだ。
自分のことを好きになってくれた、表情や感情の起伏が少ない、
しかしそれを自分に向けてくれる同級生の少女の横顔を思い出し、
それが自分の答えだということを確認する。
  安物のチョコでも、たぶん予算をケチって作った小袋でも構わない。
  幸せの一欠片を食べようと思った直後、鈍い音がして、信吾は思わずそちらを向いて、
「……何、してんだ?」
  自分の正気を疑った。
  重恩が居るのも、ヒトツが居るのも構わない。寧ろ、テストが終わって今日から部活が再開だし、
現実逃避に先程一瞬確認した時計の盤面を思い出せばそろそろ良い時間だったので、
二人ともいるのが当然だ。
  しかし何故この同級生は、物理的な意味で今まで見たことが無いくらいの満面の笑みを
浮かべながら、先輩の首を絞めているのだろうか。しかも四つ這いに覆い被さった体勢で。
二人の下に敷かれたものはドアだったもの、先程の音の原因はこれらしい。備品を壊すと
貧乏が加速するぞ、と妙な考えが頭の中に浮かんでくる。幸い蝶番が外れただけらしいが、
それを理解するのにも時間がかかった。
  そして状況を直視し、理解し、飲み込み、脱力した腕から二つの小袋が落下した。
  口が開いて中身が飛散する。
  床に当たったときに乾いた音がした安物のチョコや、長く手に持っていたせいで溶けて
しまった重恩のチョコ。もったいない、と信吾の心の隅で声がして、
「あ」
  ココアパウダーが付いて僅かに汚れてしまってはいるが、
それでも小奇麗に見える一枚の白い、小さな紙切れが、視界の隅に入ってきた。

2008/02/18 完結

 

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