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独占欲な彼女達

第1回 第2回 第3回              


1

 「えっ…、いまなんていったの…?」
  人気のない放課後の教室、
  俺の言葉で一人の女子生徒が、狼狽した感じでこちらの様子を伺っている。

 「別れようって、言ったんだ」
  俺は、なるべく感情の動きを出さぬよう、淡々と喋る。

 俺、大之木大樹は、恋人のつもりだった相手、日野桜に別れを告げているのだ。

 「な…なんで…?り、理由を教えてよ…」
  桜が、俺の目を見据えながら言葉を吐く。
  「ねえ、教えてよ…、私に何か悪い所でもあったの…」
  涙声に桜が訴える。

 そんな桜の態度に、俺は”わざとらしい”としか思えなかった。

 「答えてよ!付き合ってまだ一ヶ月も経ってないんだよ!」
  興奮を抑え切れなくなったような、桜の大声が教室に響く。
  「俺じゃあお前の彼氏には向かない、それだけだ」
  桜のテンションに乗せられないよう、俺はなるべく平静を保って、その言葉を言った。

 その言葉に嘘はない。
  理由は俺の器が小さいから、
  俺の嫉妬が深すぎるから。

 「そんなの分かんないよ!」
  「この一ヶ月でキスもしなかったから?」
  「それは大樹とゆっくり関係を進めたかったからで…」
  桜が錯乱した様に俺に詰め寄ってきた。

 確かにこの一ヶ月に、俺と桜との関係に進展はなかった。
  だが、俺にしてみれば大きな問題じゃない。
  俺達は、まだ高校生だし、俺も桜との関係を大事に育てたかったから。

 「他に好きな女が出来たの?」
  急に冷静になった彼女が言う。
  その問いに俺はゆっくりと首を振る。

 桜と付き合えたこの一ヶ月、俺は幸せな夢を見られていたのだ。
  別れを切り出しながらも、俺は今でも桜の事が好きなのだから。

 「じゃあ、なんで!」
  桜が怒鳴る。
  その怒鳴り声には、涙が混じっている。

 その全てが俺には、”演技”にしか見えない。

 「ねえ!何か言ってよお!」
  俺の胸に縋り付く桜は、完全に泣き出した様子を演じていた。
  数日前にあの光景さえ見なければ、俺は桜を抱きしめたくなっていただろう。

 「無理なんだよ、もう…」
  桜を突き放しながら、冷静に言ったつもりだ。

 もう俺は桜を信頼する事が出来ない。
  恋人を信頼出来なくなったら終わりだと、俺は考えているから。

 「私はこんなにも大樹が好きなのに…」
  「どうして…どうして分かってくれないの!」
  俺から突き放された桜が、声を張り上げた。

 そんな桜の言葉は、俺の脳内では”利用し易い相手”と変換される。
  「俺はそこまでお人好しにはなれないんだ」
  思った通りの言葉が、意外にしっかりと口から出てくれた。

 「ど…どういう意味?私は大樹が好きなのは本当なんだよ」
  心なしか、桜は少しだけ慌てた口調になる。

 その言葉が嘘だと言う事は俺にも分かる。
  同じ口で、俺じゃない相手と濃厚なラブシーンをしていたのだから。

 「もう、これ以上は話したくない」
  自分の気持ちをストレートに口にする。
  これ以上に桜を嫌いになりたくなかったから。

 「まだ、話は全然終わってないよ!」
  「私…大樹と別れたらどうしたらいいか…」
  桜が虚言を喚き出す。

 これ以上に桜の声を聞いていたくはなかった。

 だから、言った。
  「桜なら、彼女の存在を認めてくれる相手を捕まえられるさ」

 「え…、それって」
  俺の一言に、桜が動きを止める。

 「愛しい彼女と上手くやってくれ」
  その言葉を最後に、俺は逃げる様にして、俺は教室を飛び出した。

 「ま、待って!」
  「違うから…違うからぁ!」
  という、桜の名演に耳を塞いで。

 * * * * *

 学校からも出た俺は、何処をどう歩いたかも分からないまま、気付けば近所の土手に来ていた。
  人のいない自宅へは帰りたくなかったからだろう。

 「ただのピエロだったんだよな…」
  人通りのない、その場で寝っ転がりながら、吐き捨てる。

 あの一ヶ月に恋人気分で浮かれていたのは俺だけで、
  同棲愛者だとカミングアウト出来ずにいた桜にとってみれば、
ただのカモフラージュ相手に過ぎなかったのだろう。

 「何やってたんだろうな、俺は…」
  涙も出てくれない情けなさの中、誰にも当たれない悔しさだけが滲む。

 桜の好みに合うよう、自分を変えてみたり、
服装や髪型を少しでも善くしようとしたりしていたのは、
  相手からして見たら、ただのバカに写っていた事だろう。

 「情けねぇな…」
  自嘲の笑いだけが漏れた。

 「あ、いたいた!」

 自分の惨めさを噛み締めていた俺の耳に、聞き慣れた声が入って来た。

 「やっぱり此処に来てたんだ」
  声の主は、明るくそう言うと、ゆっくりと俺の隣に来て、その場に座り込んだ。

 声の主は俺の幼馴染みで、良き喧嘩相手兼相談相手でもある女、白鳥若葉だ。

 「んだよ…、今日はお前の相手をしている暇はないんだ…」
  若葉から顔を反らし、自分の表情を悟られないようにしながら言う。
  「なに?せっかく、人が心配して来てやったってのに」
  皮肉めいた言い方で、若葉が返す。

 「大きなお世話だ」
  「そんな言い方ないでしょう?ここ数日、元気ないからこっちだって心配してたんだから!」
  突き放す為の俺の言い方に、若葉が勢い良く反撃してきた。

 「仕方ないか、せっかく出来た恋人のあんなシーンを見たんじゃ…」
  そこまで言ってから、自分の言い過ぎに気付いたのか、若葉は口を閉ざした。

 俺が、桜とその彼女とのキスシーンを見たのは、若葉の頼みで偶然に体育館裏に行った時の話だ。
  だから、若葉はその事を知っている。

2

「やったぁ!」
私、日野桜は嬉しさの余り小躍りしてしまった。
死ぬ気で告白した大之木大樹くんから、オッケーがもらえたのだ。
今日からどちらか一方が相手をフるその時まで、二人はカップルとなるのだ。

私が大樹くんをフることなんて考えられない。
もし、二人に破局が訪れるとすれば、それは私が大樹くんにフられる時だ。

けれどもそんなことは起こりっこない。
大樹くんに好かれるためなら、私はなんだってするつもりでいる。
髪型や服装だって、大樹くんの好みに合わせて彼の気に入るように変わってみせる。
もしも大樹くんが望むなら、メイドだって猫耳だって辞さない構えだ。
私はそこまで大樹くんのことが好きなのである。

ハッキリ言って大樹くんは特別に格好いい男の子じゃない。
格好悪いというんじゃないけれど、クラスには「キモい」なんていう子もいるのは確かだ。

けど、私は知っているから。
外見では窺い知れない彼の優しさを。
雨の日に見つけた捨て猫に、こっそりミルクをあげている姿…
「ウチじゃ飼えないから…ゴメンな」なんて謝っている姿…
そんな大樹くんを見ているうちに、私は段々と彼のことを好きになってしまったのだった。

ところが大樹くんと付き合うには強力なライバルがいた。
白鳥若葉…大樹くんの幼馴染みだ。

幼馴染みだけあって二人は本当に仲が良く、お似合いのカップルに見えた。
私なんかが付け入る隙は無さそうだった。

しかし大樹くんのことを諦めきれない私は、まず若葉と仲良くなることにした。
少しでも二人のことについて知ろうと思ったのだ。

そして充分に親しくなった1月の終わりごろ、彼女にある問い掛けをしてみた。
「もうすぐバレンタインデーだね。若葉は誰かにチョコあげるの?やっぱ、大樹くん?」
すると若葉から思いもかけなかった返事が返ってきた。
「あげるのはあげるけど…あんなの義理チョコ。なんて言うか、まあ年中行事の一つだね」
若葉はケラケラと笑って答えた。

私も大声を上げて笑った。
これが笑わずにおれようか。

私が大樹くんに告白したのは、それから3日たった放課後だった。
大樹くんはその場で返事をくれなかった。
その辺りの慎重さが如何にも彼らしい。

そして彼が真剣に考え抜いた末に出した答えは「オッケー、こちらこそ」だった。

* * * * *

私たちが付き合い始めてから、そろそろ一ヶ月になろうとしていた。
デートも何回かしたし、手を握って下校するようにもなっていた。
呼び掛けにも「大樹」「桜」と互いにファーストネームを使っている。

しかしまだキスもしていない。
今どきの高校生としては珍しい部類に入るのかも知れない。

けど、私は大樹くんとは真剣なお付き合いをしようと考えていた。
二人の関係はゆっくり進めていこうと思っていたのだ。
大樹くんも同じ考えでいてくれているらしく、ガツガツしたところなど見せなかった。
それが私には本当に嬉しかった。

それでもさすがにそろそろ次のステップに移っても善い頃だろう。
私だっていつまでも中学生みたいな恋愛関係では寂しすぎる。
「そろそろキスくらいいいよね」

次の日曜日には彼と映画を見に行く約束をしている。
その帰りに公園の展望台に誘ってみよう。
あそこならいい雰囲気になれるし、自然な流れでキスできるに違いない。

どんな感じでキスするのか考えているだけで胸がドキドキと高鳴るのが分かる。
「やっぱり、私…その時になったらふるえちゃうのかな」
そんなことを考えている時、若葉が深刻そうな顔つきで教室に入ってきた。

若葉とは、大樹くんと付き合い始めてからも仲良くしている。
一時はギクシャクしたこともあったが、それは彼女の日常のバランスが崩れたせいだったのだろう。
新しい環境に慣れると、私たちの交際をまるで自分のことのように祝福してくれた。

本当に素晴らしい友達…まさに一生ものの親友である。
その若葉が深刻な顔で私にお願いをしてきたのだから、放っておくことはできなかった。

「あのね…他ならぬ桜だからお願いするんだけど…」
若葉はモゴモゴと口籠もった。
「なによ、水くさいわね。私たち親友じゃないの」
私は本心からそう言って若葉に先を促した。
「じゃあ…親友に甘えることにする」
そう前置きして若葉が語ったのはとんでもない話だった。

「えぇっ、キスの練習台になれって?」
私の出した大声を、桜は人差し指を自分の口元に添えて制する。
「私の後輩にあたる子なんだけど、その子が今度彼氏と初キッスなのよね」
若葉はウンザリした様子で天を仰ぎ、申し訳なさそうに先を続ける。

「で…その子にとってファーストキスになるんだけど、彼氏の前で恥をかきたくないっていうの」
その彼氏というのが結構進んだ人らしく、キスの下手な女など一発で捨ててしまうらしい。
だから事前に練習して、少しでも上手なキスができるようになっておきたいというのである。

「私が相手になってやる約束してたんだけど…どうにも外せない用事ができちゃって」
若葉が両手を合わせて私を拝む。
そんなこと言われたって、私に同棲愛の趣味はない。
女い同士のキスなんて、考えるだけで寒気がする。

「幾ら何でもダメだよね。ごめん、忘れてちょうだい」
若葉が申し訳なさそうに頭を下げた。

親友のそんな姿を見ていると何だか申し訳ない気持ちになってくる。
それにキスの練習というのには激しく興味をそそられた。
私自身が次の日曜日には大樹くんと初キッスする予定なのだ。

「いいわ、若葉。親友の頼みだもの…私が代打で出てあげる」
そう言った途端、若葉の顔がパァッと輝いた。
「ほんと?恩に着るわ。放課後、体育館の裏で待ってるように言ってるから」
若葉は嬉しそうに飛び跳ねながら私の両手を握って上下にゆさ振った。

そんな姿を見ていると、私までが嬉しくなってきた。

* * * * *

「あっ、桜せんぱぁい」
指定された時間に体育館裏へ行ってみると1年生の女子生徒が待っていた。
小さい体でピョンピョン跳びはねながら、私に向かって手を振っている。
なかなかに可愛らしい子である。

「今日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございます」
彼女は屈託のない笑顔になり、ペコリと頭を下げる。
つい釣られて私も頭を下げてしまう。

「じゃあ…さっそく先輩の唇、頂いちゃっていいですかぁ?」
なんか語弊のある言い方ではあるが、早く済ませないと大樹くんの下校時間に間に合わない。

それにこんな所を誰かに見られでもすれば一大事である。
人気のない体育館裏だからといって、誰も来ないとは限らないのだ。

しかし、私は何をどうやっていいものか分からず、後輩の子と向き合ったまま突っ立っていた。
「ところで先輩…先輩はキスしたことあるんですかぁ?」
見るとその子は、私をバカにするようにクスクス笑っていた。

私はムッとしながらもそれに耐え、後輩の肩を抱いてグッと引き寄せてやった。
後輩は嫌がるどころか、尖らせた唇を私に向けて突き出してきた。

「ふ…振りだけだから…ホントにはしないからね」
私はそう忠告すると、同じく唇をぎこちなく尖らせる。
そして彼女の唇スレスレにそれを近づけた。

そのまましばらくジッとしている。

その時であった。
「こんなんじゃよく分かんないなぁ…先輩、ゴメンね」
後輩はそう言うと、私の唇に自分の唇を重ね合わせてきたのだ。
声を上げる暇もなかった。

逃げようとしても、首に巻き付いている両腕がそれを許さない。
ものすごい嫌悪感が私の全身を押し包んだ。

そのうち後輩は強引に舌先を私の口の中にねじ込んできた。
舌と舌がネットリと絡み合う。

「む…むむぅ…」
こんなキスが本当に未経験者のものなのであろうか。
心では嫌悪しているのにもかかわらず、体はとろけそうになっている。
膝がガクガクして立っていられない。

その時、私は背後に人の気配を感じたような気がした。

しかし、振り返って確かめるような余裕などとてもなかった。

3

 「許さない…許さない…絶対に許さない…」

 あたし、白鳥若葉は怒っている。
  誰に何と諫められようと、この怒りは収まりそうにない。
  だって、大事な大樹をドロボウ猫に横取りされたのだから。

 「あぁ〜ん、お姉さまぁ…も、もっと優しくぅ〜ん…」
  あたしにペニバンで突かれている美々子が甘い泣き声を上げた。

 美々子はあたしに懐いている1年生の後輩だ。
  週に何回か、こうやって保健室のベッドで可愛がってやっている。
  バイブでイかせてあげている代わりに、何でも言うことを聞いてくれる便利な存在だ。

 いつも可愛く甘えてくる美々子だが、今のあたしにはその甘ったるい声すら鼻についた。
  イライラしたあたしは余計に激しく腰を使ってやる。
  黒光りしたバイブが、美々子の大事なところを深々と抉りまくる。

 「ひぃ…ひぃぃっ…?」
  急に勢いを増した責めに、美々子は激しくのたうち回る。
  その顔があのドロボウ猫にダブって見えた。

 「うふふっ、今度はこうしてあげる…どう、美々子…ほら、ほらぁ…」
  あたしはバイブを中心にして、大きく円を描くようにお尻を動かす。
  「あっ…あぁっ…お姉さまぁ…こ、これダメェェェーッ」
  敏感すぎる部分を掻き回された美々子は一気に登り詰める。
  そして、遂には白目をむいて失神してしまった。
  そのアゴがまだガクガクしている。

 「ふぅぅぅっ…」
  流石に疲労感を覚えたあたしは、失神した後輩の上にガックリと覆い被さった。

 虚しい…。
  こんなことやっても何にもならないのに。
  後輩を苛めてみても奪われた大樹が返ってくるはずがないのだ。

 思えば自分がこれほど大樹のことを大事に思っているとは知らなかった。
  幼馴染みとして育ってきた大之木大樹のことはもちろん好きであった。
  彼に他の女の子が近づいたりすると、あたしはたまらなくイライラする。
  それが大樹に対する恋愛感情の現れであることは自覚していた。

 とにかく自分から告白することはできないのに、
大樹が誰かと付き合ったりするのは我慢できないのだ。
  だから大樹には申し訳ないが、彼に関するキモい噂をこっそり流したりもした。
  全ては彼に女の子を近づけさせないためである。
  そう言うあたし自身は、こうやって女の子とエッチなことを楽しんでいたりするのに…。

 そんな自分を身勝手で独占欲の強い女だと自己嫌悪したりもする。
  でも、自分の感情に嘘をつくのはもっと我慢できないあたしであった。

 「大樹がただの幼馴染みだなんて…どうして桜にあんなこと言っちゃったんだろう…」
  あたしは最近仲良くなった日野桜の顔を思い浮かべた。

 それまでさして親しくなかった桜があたしに接近してきたのは、3学期になったばかりの頃だった。

 桜は結構目立つ容姿をしていて男子の人気も高い。
  仲良くなって損はないクラスメートである。
  それに、上手くいけば彼女ともっと深く親密な仲にもなれるかも知れない。
  そう考えたあたしは、桜と友達になることにした。

 急激にあたしとの友情を深めていった桜は、当然のこととして大樹とも仲良くなった。
  それは節度ある親しさだったので、あたしは安心して大樹との仲を認めていた。
  ところが──それはあの女の演技であり、
全てはあたしを騙して大樹に接近する手段に過ぎなかったのである。

 バレンタインデーを2週間後に控えた1月の終わり、桜は突如として牙を剥き出しにした。

 「もうすぐバレンタインデーだね。若葉は誰かにチョコあげるの?やっぱ、大樹くん?」
  それが罠であることなど、人の善いあたしは全く気付いていなかった。
  「あげるのはあげるけど…あんなの義理チョコ。なんて言うか、まあ年中行事の一つだね」
  あたしは照れ臭さを隠そうとケラケラと笑って答えた。
  するとあの女もバカみたいに大声で笑った。

 その顔を見ながら、あたしは内心でほくそ笑んでいた。
  このバカ女なんかにあたしの本心など分かるまい。
  あたしがどんな思いで毎年大樹にチョコを贈り続けているのか。

 もしかすると、大樹からホワイトデーのマジ返しがあるかも知れない…。
  そう思うだけであたしはドキドキしてしまい、それだけで満足してしまうのだ。
  こんな可憐な乙女の思いなど、バカ女に分かるはずもない。

 しかし…本当のバカはあたしの方だったのだ。

 それに気付かされたのは2月14日の放課後のことであった。
  あの女は、なんとあたしの目の前で大樹に告白するという凶行を犯したのだ。
  あたしはと言うと、不用意に発した義理チョコ宣言を錦の御旗とされ、
口を挟む権限を奪われてしまっていた。

 「全てはこの日のための計画だったんだ…」
  それに気付かされたあたしは、ただ呆然と立ちつくすしかなかったのである。

 何という遠大で、残酷な計画だろうか。
  そして、それを冷徹に実行する行動力…。
  あたしは桜に対し、怒りを越えて恐怖すら覚えていた。

 あたしがショックから立ち直るのに数日を要した。
  今だって完全に立ち直ったわけではない。

 しかし、このままでは済まされない。
  奪われた獲物は奪い返すのが猫のルールなのだ。

 「とにかく、二人の間に亀裂を入れなきゃ」
  それには、まだ付き合って日も浅く、信頼関係を築ききれていない今がチャンスである。
  日を置くと肉体だけでなく、精神も一つになり強固な信頼で結ばれてしまう。

 「けど、どうやって…」
  何不自由なく過ごしてきたあたしは、こういう悪巧みには向いていない。
  誰かいい参謀役でもいればいいのだが。

 ふと、現実に返ると、意識を取り戻した美々子がバイブに舌を這わせていた。
  無機質なシリコンを、あたしの分身のように丁寧に清めている。
  忠実で可愛いあたしのペットである。

 「そうだ、美々子…ちょっと相談に乗ってくれない?」
  あたしは彼女なら信頼できると思い、苦しい胸の内を打ち明ける決心をした。
  「うぅ〜ん、どうしよっかなぁ?」
  美々子はしばらく頭を捻っていたが、いきなり四つん這いになってお尻を向けてきた。
  つるつるで赤ちゃんみたいな可愛いお尻である。

 「んとね、もう一回してくれたら…お姉さまのお願い、何でも聞いたげるぅ」
  美々子はそう言うと両手をお尻に回す。
  そして引き締まっていたアヌスを大きく開いてあたしに見せつけた。

2008/02/18 To be continued.....

 

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