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1

 親の顔は知らない。生まれてすぐ捨てられたからだ。
  青空が見える路地を寝床にして私の心は次第に汚れていく。
  心地よく胸の奥底に濁った物が溜まるのを感じ始めた頃、私は病気に伏せって路上で倒れた。
  誰も助けない見て見ぬふり、人間はやっぱり一番自分が可愛いんだなと思った時
一人の男の子に手を差しのべられた。
 
「僕の所に来ませんか?」

 どこかのお坊ちゃんだと一目で分かる身なりをしたソイツの言葉を聞いて
私は言い知れぬ怒りを感じた。
 
(あぁコイツは今、私を哀れだと思っているんだな…)

 そう思った。私はソイツの掌に唾を吐きかけて言った。
 
「偽善者」

 どう見ても貴族の輩だ。今ここで殺されても文句の言えない行為をした。
  でも別に焦りとか後悔とかは感じなかった。
  思えば死にたかったんだと思う。生きていてもしかたがない人生に疲れたんだろう。
  でもソイツは腰にかけた剣の柄に手を触れさえしなかった。
 
「偽善者でもいいです。貴方を助けれるなら」

「なっ!?」

 お姫様だっこで無理やり連れて行かれた私は、男の子の紹介で病院に連れて行かれた。
病気は重病だったらしく入院をよぎなくされた。
  お金が無い私はすぐに病院を出ようとしたが医師に止められ、
男の子の家が全額支払うことになっていたことを聞かされた。
  しばらくしてやってきた男の子は無理やり病院に連れて来たことを詫びて再度聞いてきた。
 
「僕の所へ来ませんか?」

 と、別に元の生活に戻ってもらってもいいと言われたが、
無理矢理にしろ命を救ってもらったことの恩もあって断れなかった。
  そのことを皮肉めいて言ってやったら「偽善者ですから」と返されて、つい私は笑ってしまった。
  男の子との交渉は成立して、男の子の屋敷のメイドとして働くことになった。
  後で聞いた話だが、男の子は私より一歳年下だったらしい。
 

 メイドの仕事にも慣れ始めた頃、貴族の男の子改めてティークの父親が私の元へやってきた。

「これからティークが進む道は長く険しい、敵も散々と湧いてくる。
   親の私が言うのもなんだがティークは生真面目で一人ではきっと耐えられないだろう。
    一人でもいい。護衛という立場でどんな時でも息子について離れず
決して裏切らない味方が欲しいのだ。
     血反吐を吐くような厳しい訓練もあるが、
受けてくれるなら給料も今の3倍…いや4倍出そう。どうだろうか…?」
 
  私は二つ返事で了承した。
  メイドとして働くようになってすぐにティークは私のことを姉さんと呼んで慕ってくれていた。
  曰く、一人っ子で兄弟が欲しかったのだという。初めて会った時とは違い、
貴族の振る舞いが引っ込んだ無垢な子供のような態度でそう言ってきたのだ。
  貴族とそれに仕えるメイド、立場は違えど私にとっても弟が出来たような感覚があった。
  だからティークの父親からその申し出が出た時、私は迷わなかった。
 
(彼を守りたい)

 給料のことなどどうでもよかった。ただ純粋にそう思ったから了承したのだ。
  話が纏まって三日もしない内に私はメイドの仕事から外され、
ティークの父の計らいで国が抱える軍隊の訓練校へと入学することになった。
  私の苦難の人生を差し引いてもまだツライ訓練に苦しみながらも私は訓練を受けた。
 
「ゼンメイ、辛くない? 止めてもいいんだよ? 父さんには僕が言うから」

 しばらくして事情を知って面会に来たティークは、本当に心配そうな顔で私にそう言ってきた。
 
「平気です。強制されたわけじゃなく私が望んだことなんですから、
若が心配することではないですよ」

「でも…」

「帰って来た時には立派になった私をお見せします。楽しみに待っていてください」

「じゃあ…、じゃあ僕も軍隊に入る!」
 
「へ!?」

 面会でティークが宣言したことは後日ティークの根勝ちで決定したらしく。
次に会った時は訓練校の食堂でだった。
  正式に軍隊には加入せず3年後に私が、その1年後にティークが訓練校を卒業をして
元の貴族とメイドの関係へと戻った。
  ティークの訓練校の卒業祝いの時に半分酒に酔ったティークが自分の夢を語ってくれた。
 
「隣の…もう戦争で負けて属国になった国土の荒れた小さな国だけど、そこに好きな娘が居るんだ。
   その国の姫様で子供の頃に数回会っただけなんだけど、その時に一目惚れした。
    最後に会った時に彼女が言ったんだ。皆が笑える幸せな国を見たいって…
     今考えれば恥ずかしいくらいの勢いで自分が作ってみせる! てその娘に宣言した。
      いつもその娘は無表情で笑わなかったから、
その夢を叶えたらきっと彼女は笑ってくれるはずだって思った」

 その言葉を聞いて私は自分の本当の気持ちに気づいた。
  自分はティークのことを弟として好きだと思っていた。違っていた。
本当はティークを一人の男性として好きだったんだ。
  じゃないとこんな苦しくて、気持ち悪くて、醜くて、汚い気持ちになんかならないはずなんだから。
 
「叶うと…いいですね…」

 震えそうそうな声を必死で抑えて私は言った。
 
「もちろん…!」

 酒の勢いもあってか意気揚揚と拳を握り締めてティークは答えた。
  それから私とティークの間に微妙なぎこちなさを残して一年の月日が流れた。
 
「どうかなゼンメイ、服…変になってないかな」

 客室の鏡の前で自分の尻尾を追い回す犬のようにクルクル回るティーク。
  ティークと私はティークの想い人が居る隣国へと足を伸ばし、
ついさっき王様への謁見を済ました所だった。
  名門中の名門の出身にしてその身分の驕れることなく精進してきたティークの噂は小国の王も
耳にしたことがある上、過去にも面識があったため姫との縁談の件はトントン拍子に進んだ。
  すぐに姫との面談が決まり、今に至る。
 
「若…少し落ち着いたらどうですか」

「お、俺は落ち着いてる…ぞ?」

「なら聞かないでくださいよ…」

 一人称も変わり(ティーク僕は男らしくないと言って無理矢理変えた)
昔の面影を残しつつも青年へと成長したティークはそういうと椅子に座るとまたソワソワとし始める。
  それが一人の女性に向けられた態度だと思うと、私の胸はミシミシと音をたてて軋んだ。
 
「やっぱり、嬉しいですか? 姫に会うのは」

 私の心境のことなど当然知らないティークに自分の胸の声を遠回しに吐き出す。
 
「当然だよ。もう何年ぶりだろうか、…早く会いたい」

 涙が出そうになる。訓練校で心身ともに鍛えたはずなのに、
胸の底はグシャグシャになりその場から去りたくなる。
  私にとってティークは大切な存在だ。ティークだってそうだと思いたい。
  でも、それは一つの見解で大きく意味が異なっているんだろう。そう思うとまた辛くなる。
 
<ガチャリ>

 そんなことを延々と考えていると扉が開かれた。
  男装をした女性が開けた扉の奥から、控え目なドレスを身にまとった少女が現れる。
  一瞬その女性と目が合うがすぐに目を逸らされティークの向かいに座る。
その椅子の後ろにさっきの男装をした女性が立つ。
 
「…久しぶり、スラル」

 向こうからは切り出さず、しばしの沈黙の後ティークが切り出した。
  スラルと呼ばれた少女は無表情に首を振る。
  反応の薄さにティークは困りつつも次の言葉を懸命に探す。
 
「スラルの皆が笑える幸せな国を作れるよう今まで努力してきた。
きっと作って見せる。だから、結婚してください」

 今日まで深夜こっそりと練習してきた甲斐があったせいなのか、
なにか色々なことを無視していきなりの本題を噛まずにはっきりとした口調でティークは言った。
  言った後に次第に赤くなる顔に気づいたのかティークは視線を落とす。
  その時のスラル姫の反応を見たとき、私は彼女の心境を悟った。
 
「……サ……ア」

 誰にも聞こえないような小さな声で、眉を落として彼女は誰かの名前を呼んだ。
  スラル姫にも想い人は居たのだろう。それは確実にティークでは無く別の誰かで、
でも私が言える立場でもなくティークが顔を上げる頃には元の無表情に戻っていた。
 
「ティーク、あなたと…結婚…します」

 スラル姫が噛み出すように一言一言言葉を紡ぎ、紡ぎ終わった後ティークの表情は
今までに見たことの無い歓喜の表情をしていた。
  緊張していたティークにスラル姫の声からわかる心境など分かるはずもなく
その日の面談はそれだけで終わった。
  長男であるが故にティーク家に猛反対を受けたが、スラル姫の父・国王とティーク自身
たっての希望でティークはスラル姫と婿養子として結ばれることになった。
 
「夢じゃなよな!? な!?」

「夢だと思った時は頬を抓ると分かりますよ」

「いだだだ! もう抓ってるから! 痛いから止めてくれ!」

「……もう寝てくださいね。明日も国王と謁見するんですから」

「そうだな、じゃあもう寝るよ。おやすみ、姉さん」

「おやすみなさい」

 側近としてティークの護衛を務める私は部屋から出て扉のすぐ近くの壁へ背を預ける。
  男装の女性は相当腕が立つなとか、スラル姫のことを考えているとふと目の端に何かが写った。

「あれは…」

 窓の向こうに見えたそれは月夜に照らされて真白に光るカーテンの束だった。
  いくつも紡ぎあわされてロープのように地面へと落ちたそれを伝って降りていくのは、
スラル姫だった。
  そんなことをしてどこへ行くのだろう。そんなの簡単だ。想い人の所へ決まっている。
 
「若…すいません」

 そう言い残して私はスラル姫の元へと向かった。
  ばれない様に建物を影にしてスラル姫を尾行し、着いた先は城下町にある一つの宿だった。
  ちょうど宿の窓全てが見える向いの宿の主人に金を握らせてその場を観測する。
  運よく開いていた窓の中にスラル姫を見つける。
  泣いていた。一人の男に抱きつき泣いていた。男は姫が泣きやむまで抱きしめると、
淡くキスをして姫をその場から追い出した。
  その後トボトボと歩いて帰る姫を尾行して自分も城へと戻った。
 

 それから十日後、盛大にティークとスラル姫の結婚式が行われた。
 
「君を幸せには出来ないかもしれない。でも、君を絶対に不幸にはさせない」

 式を締めるキスの時に姫の無表情の中に何かを見たティークが弱気になっていった言葉だ。
  家とのイザコザも解消して、先代から国王の仕事について詳しく聞いていたティークが
その報告を受けたのは結婚式から僅か十日のことだった。
 
「スラル姫が失踪しました」

 一人の家臣が言った言葉の大きさにティークは受け止めきれず聞き返した。
そして同じ答えが返ってきた。
 
「自分に不満があったんだ」

 言葉を掛けた私にティークは言った。
 
「―――きっと帰って来てくれる。あの結婚式に言った言葉は男らしくなかったんだ。
今度はスラルを幸せにする努力をしてみせる」

 まるで取り憑かれたように執務に没頭するティークに心配して再度声をかけたが、
目の下にクマを溜めた笑顔でそう言われた。
  そして心身共にティークが衰弱したのを見計らったようにあの男装の女が動き始めた。
 
「王、少しお休みになられた方がいい」

「いや、しかし…」

「適度な睡眠を取らなければ健康を害します。
謁見もそのようなお顔では民にいらぬ誤解を招いてしまう」

「スラルのことは民には知られていない。しかもまだ仕事は山ほど残っている」

「…貴方がどれだけ仕事を前倒しでしているか私が知らないとでも思っているのですか。
   スケジュールを調節すれば数回の謁見を除いて一か月は仕事をしなくていいと聞きましたよ」
  
「…いいじゃないか、仕事を早く終わらせるのに越したことはない」

「強情ですね…」

「うわっ!? お、降ろせホーネット!?」

「無理矢理ですが寝室に運ばさせていただきます」
 
  私が見ている目の前で、遠征から帰ってきたホーネットと呼ばれた男装の女性は
ティークを抱き上げた。
  この男女の名前は本当に今知った。知る機会がなければ知る意味もない上に知りたくもなかった。
 
「ホーネット様。王は私が寝室に連れて行きますので、王自身も嫌がっていることですし」

「姉さ…ゼンメイは俺の側近のメイドだ。俺のことは彼女が一番よく知っている。
だ、だから降ろしてくれっ!」

「……そうですか。でも抱き上げついでに寝室に運んでしまいます。
私が去った後このメイドは情で動いて貴方の身勝手を許してしまうかもしれないですし」

「なっ!? 私はそんなことっ」

「なら、なぜ王はこんなに衰弱しているのだろうな?
  お前がしっかりしていればここまでならなかったはずだ」

 反論できなかった。ホーネットが言ってたことは八割がた当たっていたし、
現にティークが弱っているのは体調管理が出来なかった私のせいだ。
  ホーネットの見下すような言葉に耐えて私はホーネットとティークの後ろをついて歩くことにした。
 
「…屈辱だ」

 逆お姫様抱っこで廊下を渡っていれば当然多数のメイドや臣下、
客人にまで見られることになりティークは真赤に赤面する。
 
「罰です。今度このようなことがあれば再度この罰を受けることになりますよ」

「うぅ…」

 さらに赤みが増す屈辱の表情に私は悪いと思いながらもそれにときめいてしまう。
あぁ、こんなティークもありだな、と。
  王の寝室に着くとホーネットはティークの着替えや寝るまでの世話、
私の仕事を全て奪いティークをベッドに横にさせた。
 
「もう嫌だ…死にたい…」

「王は恥ずかしがり屋だ」

「誰の性だと思っているんだ」

「さて…誰でしょうか。私には皆目見当もつきません」

「もういい! 寝るぞ! 寝てやる。爆睡してやる!」

「ははは、お休みなさい。明日は執務室は封鎖しておきますのでそれでは…」

「んなっ!? 王が怠け者になってもいいのか!」

「貴方なら大丈夫ですよ。あ、それと…」

「な、なん―――」

<チュ…>

 不意をついてホーネットがティークにキスをした。
触れるか触れない程度のものだったが真直でそれを見た私には耐えられるものではなかった。
 
「ホーネット様っ!!」

「よく眠れる御まじないです。それでは改めてお休みなさい」

 ホーネットが背を向けた瞬間、ティークには見えないように私に向けてホーネットは
見下すような目つきをして出て行った。
  ティークは唇に指を触れて呆然としている。
 
「若…お気になさらず、ただのお戯れですよ」

「そう…だな、そうだよな、うん。…よし!
  姉さん執務室から書類を持ってきてくれ、ここで仕事するぞ」

「いいえ、もうせっかくですから寝てください」

「姉さんだけは俺の味方だと思っていたのに…」

 ティークの表情に思わず揺らいでしまうがここで押し負ければホーネットに何か言われてしまう。
 
「駄目です。寝てください」

「…わかったよ」

「………」

「本当に寝るから無言で隣に佇まないでくれ!」

 ティークに背を押されて部屋を追い出される。
そして部屋の前でまつこと数分、扉の隙間から洩れる光が消える。
  しばらくご無沙汰だった寝室前での護衛のため私はそのまま壁に背中を預けた。
  話は若干変わるがティークは姫が失踪してからあまり寝たがらなくなった。
  それには訳がある。時計が無いのでわからないが、
ティークが寝てから二時間ぐらいが立とうとしていた時、それは起こった。
 
「ゼンメイ様、ここは私達が見張りますからゼンメイ様もお休みになられては…」

 扉の両隣に控えていた兵士が沈黙に耐えきれず心配して私に話しかけてくる。
 
「これが私の仕事の内でもありますし、気持ちだけ受け取っておきます」

「そうですか、ではせめてそこの椅子に座って頂けないでしょうか。
失言ですがその…気が逸れますので」

「…わかりました」

 兵士の勧めを受けて、廊下の装飾にと置かれている椅子に私は腰を落ち着かせた。
  兵士が全く頼りにならないというわけではないが、やはり自分もやっていたほうが安心感が増す。
  そしてまた夜の静けさに加えて物音一つ無い沈黙、
しかしすぐにそれはティークの絶叫によって打ち破られた。
 
「ああああああああぁぁぁぁぁああああぁあぁぁああぁあぁっあああぁ!!!!!!」

 耳を劈くティークの絶叫に兵士達は耳を塞ぐ。
  これが初めてでは無いわけだがこの兵士達は初めてだったのだろう。
慌てて部屋に入ろうとする兵士を静止して、すぐに私は部屋の中に入りティークのの様子を確認した。
 
「××××××××××××××××××××××××!!!」

 切り裂くような鋭利な絶叫、部屋の輪郭をも歪ませれそうなほどの
既に言語化できない声が部屋中に響き渡る。
  その声の震源には目に混濁を浮かべて顔面を両手で抑えるティークが居た。
 
「若…!」

 ティークのベッドに寄り乗り私はティークを抱きしめた。
  反応して狂乱的に暴れたティークだったが、しばらくして探るように私の背中に手をまわす。
 
「痛っ…!」

 背中にティークの爪が突き刺さるほど力強く抱きしめられる。

「大丈夫…大丈夫だから…」

 子供をあやす様に背中を擦りながら何度も何度もティークの耳元で囁く。
 
「ス、ラル…」

 枯れてガラガラになった声でティークが呟く。
 
「スラルは…俺のこと、ぎらいなのか…?」

「そんなことないですよ」

「な、ら…なんで…いなぐ…なっ、たんだ」

「……」

 言葉に詰まる。真実を知っている私はどう言ったものかと考える。

「…ごめん。もう大丈夫…だから」

 最善な答えが浮かばない内にティークが離れる。
  目は血走り、涙と鼻水がとめどなくながれるそれは王の威厳などあったものではなかった。
 
「水もってきましょうか?」

「…頼む」

 姫の失踪から何度もこのティークの症状は起こっていた。
  お抱えの医者は姫が戻ってくれば止むといったが、そんなことがすぐできれば苦労はしない。
  ティーク自身は夢にスラル姫が出てきて、姫の身に散々なことが起きて
自分の元から去っていくのを見るといっていた。あながち嘘でもない。
 
「王…大丈夫ですか」

 騒ぎを聞きつけてホーネットがやってきた。
 
「このことを知っていれば無理に言わなかったのに…、私はなんて軽率なことを」

「ホーネットのせいじゃない。言わなかった自分も悪かったし、
心配してくれたホーネットの気持ちは素直に嬉しい」

「王…」

「発作は一回だけだから、もう一回寝たら普通に眠れる」

「…それでは私が隣ついておきます」

「いいよ別に、ゼンメイも居るし」

「させてください。王が許しても私が自身を許せない」

「う…わかったよ。好きにしてくれ」

「はい…!」

 蝋燭一本の光を残してティークの寝室には私とホーネットとティークが居た。
  さきの発作の疲れですぐに眠りに落ちたティークの手を握り続けるホーネットに、
私は言い知れぬ違和感を感じていた。
  その違和感の正体はすぐにわかった。
 
  ティークの発作のことはホーネットも知っていたんじゃないのか。
 
  いくら遠征をしていたからといって自国の王のことだ。耳に入ってもおかしくはない。
  聞けばホーネットはスラル姫が信頼する側近中の側近だったという。
ならスラル姫の想い人のことも失踪のことも知っているはずだ。
  どうやって姫は城の外はまだしも街の外へ出れたのか、
という疑問もホーネットの協力があれば不可能ではない。
  どんどんとカンではあるもののホーネットへの疑惑が増していく。
 
「…そう睨むな、怖いぞ」

 ホーネットが口を開く。
 
「睨んでなんかいません」

「はは、でも目が怖いのはたしかだ」

「…ホーネット様はもしかして…」

 このやりとりで私は確信した。
もちろんカンだが、証拠もあったものじゃないが間違いなくコイツが姫様を逃がしたんだ。
  そして次のホーネットの言葉で確信は確固たるものとなった。
 
「もしかしてスラル姫のことを何かしっているんじゃないのか、か?」

「……」

「あたりだよ。お前が今考えていることは全部正解」

「やっぱり。…でも、まだ腑に落ちない点があります」

「その行為に至った動機、だろ。簡単さ、王のことが好きでスラルのこと嫌いだからだ。
   子供の頃に会ったのはなにも王とスラルだけじゃない。
王は覚えてないだろうが私も王と会ったことがあるのさ。
    その時の私の家は荒れててね、やっかいもの扱いされて落ち込んでいた私を
励ましてくれたのが王だ。
  その王をなんの努力もせずに惚れさせてあまつさえ旅人の男に恋をしたスラルには
心底ウンザリさせられたよ」
 
  引出しを開けて出てきた一枚の写真をクシャリと握りしめてホーネットは私に投げてきた。
  グシャグシャになているもののそれは間違いなくスラル姫が写った写真であり、
私はホーネットに得体の知れない気持ち悪さを覚えた。
 
「まぁスラルも最後に私のために役立ってくれたからよしとするか」

「姫の場所は」

「さあね、今頃どこぞで旅人と宜しくやってるんじゃないかな」

「最低ですね」

「気持ちを隠したまま傍に居続けるお前よりはマシだよ。
   いちメイドのお前もこれ以上王には近づかない方がいいよ。死ぬだけだから」

「私がそんな大人しく見えますか?」

「見えるね。お前は王が…ティークが傷つくのを見たがらない」

 たしかに、ティークにこの件を言う気は無かった。
  姫が初めからティークに興味がなかったこと、そしてほかの男を好きになっていたこと、
それを今のティークにとってどれだけ重大なことか重々承知していた。

 
  
   *  *  *
 
  そして姫の失踪から何も進展しないまま二年の時が過ぎようとしていた頃、
姫を見つけることに成功したが既に手遅れになっていた。
  ホーネットの手で私も姫の捜索隊へと編入させられ、
目撃した部下とどうするか話をしてる最中に偶然通りがかったティークに聞かれた。
  部下は悪くなかった、王の命令だ。
私がなにがあっても言うなと言われたこと以外全てを王に話した。
 
「あぁよかった…無事なんだな、よかった…! よかった…!」

 私の言葉など聞く耳持たず、すぐにティークと私、そしてホーネットで会いに行くことになった。
  そして知られなくなかったことをティークはは知ってしまった。
 
「……」

 まずは遠くから見るだけということで姫が隠れていた街の外から眺めることとになり、
一つの民家から出てきた姫を見てティークは絶句した。
  いつかの時に見たあの男と共に出てきた姫は両手の赤子を抱き、
ティークに見せたことすらない笑顔で男と話をしていたからだ。
 
  その光景からティークは全てを悟ってしまい。壊れてしまった。
 
「夜までに軍を用意しろ。この町全てを焼き払う」

 耳疑う言葉に私もホーネットも顔を見合わせた。
  王の言葉は絶対だ。ホーネットは返事一つで馬にまたがりすぐに城へと戻る。
 
「若…」

「あのスラルと男とあの子供は捕えろ。あとは全て殺せ」

>>『狂王の宴』へ >>『Dawn of Darkness(仮)』へ >>『ティークの剣』へ

2

 町に火が灯る。私はそれを眺める。大きく強く、全てが灰に帰るほどの業火が覆う町を。
  まさに『阿鼻叫喚』という言葉は今このためにあるのだろう。
  訳のわからないまま焼け崩れた家に取り残された子供の叫び、目の前で我が子を失った母の嗚咽、
運よく難を逃れた者達の先にはそれでも希望は無い。
  老若男女問わず助かった者は町を囲む兵士達捕えられてある場所へと連れて行かれる。
 
「お前達が匿っていた王女スラルとの関係は?」

 連れてこられた者にティークは第一にそう問いかける。
 
「それより孫が…! 孫がまだ町に…」

「…王女スラルとの関係は?」

 半狂乱な老婆の言葉を遮るようにティークは再度問いかける。
 
「…ス、スラル様の子供の出産に、た、立ち会いました」

 産婆だと名乗った老婆、それを確認するように後ろで捕えていた姫にティークは目をやる。
 
「もう…もうやめて…」

「メンゼイ、スラルが目を閉じないように瞼を抑えておいてくれ」

「……はい」

 姫の泣きじゃくる声に罪悪感とい輪で胸が締め付けられる。
  でもティークの言葉には従う。私は姫ではなくティークに仕えているからだ。
 
「お、王さ…―――」

<ザンッ>

「ちっ…」

 ティークの方を振り向いてしまったために首へと振り下ろされた剣は
老婆の顔を縦一門に切り裂いてしまう。
  金切り声のような耳障りな悲鳴が姫の口から飛び出す。
 
「次だ」

「……はっ」

 ホーネットが応える。
  異常な光景だった。
  燃える町を背景に、地面には別れた無数の人の胴と首、
それを作り出しているのは目前の血に塗れたティーク、兵士の誰もが吐き気を覚えた。
私も例外では無い。
  そうして一分もしない内に次の者が連れてこられた。若い年ごろの娘だった。
 
「…王女スラルとの関係は?」

 すでに何度も繰り返された機械的な行為。
  姫との関係を明かすと同時に娘はスラルに向かって罵詈雑言の限りを尽くした。
  そして首が切り落とされた。
  全てが終わった時には夜が明けていた。
 
「どうだ? 素晴らしい光景だろう! お前達の行動が招いた結果だ…!!」

 山になった死体の前でティークは縛られた姫とその夫を見下して言った。
 
「………」

 そのどちらも硬く口を閉ざしてティークの言葉には答えない。
  しばらくその様子を見つめた後、姫へと近づき思いっきりお腹を蹴り飛ばした。
 
「ぅ…あ…」

「王の前だぞ、答えろ」

「や、やめろ。スラルの腹には子供が…!!」

 やっと口を開いた男の言葉を聞き、ティークは無表情に男を蹴った。
  一切の手加減をせず、微塵の躊躇もなく狂うように男を蹴り続けた。
 
「サーナキア! …サーナキア!!」

 呪詛のように姫の言葉が繰り返しサーナキアという男の名前を枯れた叫ぶ。
  その言葉を聞くにつれてティークは憤怒の表情に涙を浮かべてサーナキアを蹴り続ける。
  そしてそれはサーナキアの首の骨が折れる音で終わりを迎えた。
 
「先に使った軍は正規のではなく私直属の部下達なので、
その者達から今回のこと洩れる心配は無いでしょう」

「……そうか。じゃあスラルのことを公表してくれ、
あのサーナキアとか言う男に全ての罪をなすりつけてな」

「わかりました」

「あと…スラルは死んだことにしてくれ」

「…はい」

「俺の暴挙に苦労を掛ける」

「いえ、今回の件は多少の非は王にあろうとも圧倒的にスラル様が悪い。
   それは事実を公表したとしても変わらないでしょう」
  
「…気休めとして受け取っておく」

 ホーネットが部屋から出ていく。
全ての元凶は自分にあると言うのによくもそこまで言えたものだと、私は関心してしまった。
  明日から忙しくなる。こうしてティークと二人きりになるのも、これからしばらく無いだろう。

「…あの光景を見たとき、皆が笑える幸せな国を作るなんて言葉頭はの中から消えていた。
   スラルの笑顔が見たくてここまで来たはずだったのに、俺は一体なにをしているんだ…」

「若のせいじゃありませんよ…」

「でももういいんだ」

「……え?」

「笑顔はもう見なくていい。スラルは死なさない。生かしもしない。ずっとずっと苦しませる。
   アイツは俺のことを嫌いなはずだよな、
きっときっと感情の籠った顔をいっぱいいっぱいしてくれるよな。嗚呼楽しみだ」

2007/11/28 To be continued.....

 

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