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アイしてください



1

桜が舞っている。
人によっては足を止め、ボーっと眺めていたくなるような光景なのだろうが
あいにく俺にはそんな美的センスは無い。っていうよりそんな時間は無い。
なぜなら...
「たけちゃん、間に合いそう?」
「いや、このままだと滑り込みアウトだな」
「えー、もうそんな時間なの。私今日は早起きしたはずなのに」
「お前が調子に乗ってご飯3杯もお替りしたからだろ。」
「えーー、何でそのこと知ってるの。もしかして覗き?」
「ちげーよ。待ってる間にお前のおばさんから聞いたんだよ。そんなことよりとにかく走るぞ。
これじゃあまた遅刻しちまう」
そう言って俺たちは学校に向かって走り始めた。

俺の名前は山本 武、高校2年生だ。
となりで走っているやつは三島 春香。
俺より1つ年下の高校1年生だが、見た目にはせいぜい中学2年生くらいにしか見えない、
そんなバツグンの低身長、幼児体型を誇る俺の幼馴染だ。

家も隣なので二人で登校しているのだが、今日みたいに春香に巻き込まれ遅刻するのが
もはや日常となっている。中学生のころ遅刻するのが嫌で、1回だけ春香を置いて
(それでも20分は待った)一人で学校に行ったことがあるが、そのあと2週間春香は機嫌を悪くし、
機嫌を直すために結局パフェ3杯&今後はどんなことがあっても2人で学校に行くことを
義務付けられてしまった。
俺は悪くないと思って拒否しようとしたが、その時の春香はものすごく怖く、全く反論できなかった。
我ながら情けない。
それ以降どんなに春香が遅刻しそうでも毎日2人で登校するようになった。
「わっ」春香が脚をもつれさせ、転びそうになった。
とっさに腕で支える。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう..っ痛」
どうやら足をくじいてしまったらしい。これ以上走るのは無理だろう。
「ほら、肩使え」
とりあえず肩を貸す。走ったおかげでここからなら歩いても何とか間に合うだろう。
「え、でも...」
「いいから、このままじゃお前動けないだろ」
「うん」
怪我したというのに何がうれしいのかそこからの春香はずっとにやけていた。

校門に着いたところで予鈴が鳴った。
とりあえず春香を保健室まで連れて行く。
「じゃあね、たけちゃん。またお昼ね。」
「ああ、じゃあな。気をつけろよ」
春香にそう言って俺は自分の教室へ走った。間に合えばいいんだが...

教室に入り、先生が来ていないかどうか確認する。よし、まだ大丈夫だ。
さすがに3日連続で遅刻は気まずいからな。
「おはよう武、ぎりぎりセーフだね。今日も春香ちゃんと2人で登校かい?」
「ああ。そのせいでまた遅刻寸前だ」
こいつは 佐野 優。俺のダチだ。成績優秀で顔も性格もいい、男の願望を実体化させたような男だ。
当然もて、美人な彼女もいる、そんなうらやましすぎる男だ。
なんか羨ましすぎて殺意が沸いてきた。
「まったく、あいかわらずうらやましいくらいラブラブだね、君たちは」
そんなことを俺が考えていると知ってか知らずか佐野は能天気そうな顔をして
アホなことをほざきやがった。
きっと脳みそが腐りかかっているのだろう。
とりあえず殴ろうか?

「そういえば今日うちのクラスに転入生が来るって知ってた?」
ちっ、殴る機会を逸した。運のいい野郎だ。
「へー、こんな春先に珍しいな。どんな奴だろう?」
とりあえず話を合わせておく。
「さあ。噂では前の学校を牛耳っていた不良とか、かなり電波の入ったオタクとか言われてるけど」

どっちだよ!つーかどっちにしろロクな奴じゃねーな。

「まあもうすぐ教室に来るはずだし、その時分かるよ」

そういうと佐野は自分の席に戻っていった。
同時に先生も入ってきた。

 

「えー、これからHRを始ます。みんな知っているかもしれないけど今日から
うちのクラスに転入生が来ることになりましたので、これから自己紹介してもらいます。
じゃあ高瀬さん、入ってきて」

事前情報からその「高瀬」とやらがろくでもない奴というのは分かっている。
変な因縁をつけられないようにとりあえず下を向いとこう。

教室のドアが開く音がした。どうやら自己紹介が始まるらしい。
「皆様、はじめまして」

...あれ、女の声じゃね?

「今日からこの学校に転入させていただくことになりました高瀬 睦美と申します。
まだこの学校に入ったばかりで分からないことがたくさんありますが、よろしくお願いします」
...言葉遣いも丁寧だし。どこら辺が不良でどこら辺が電波なんだ?
しかも『睦美』って聞いたことあるような...
おそるおそる顔を上げてみると、黒板の前にはきれいでスタイルの良い、
そして懐かしい女性が立っていた。

あちらも俺に気づいたようで、驚いたように眼を見開いた後、うれしそうに微笑んだ。
高瀬『睦美』 彼女は3年前に親の仕事の都合で引っ越してしまった俺のもう一人の「幼馴染」だ。
父親が資産家で母親が超人気デザイナーという大金持ち一家の一人娘で、
小さい頃よく一緒に遊んでいたのを覚えている。
小学校に入ってからは気恥ずかしさからおおっぴらには遊べなかったが

それでもとても仲が良かった。

彼女が引っ越すと聞いたときは本当に悲しかった覚えがある。

しかし彼女の名前は佐藤『睦美』 だったはずだが...何があったのだろう?

「じゃあ紹介も済んだし高瀬さんは山本君の隣の席に座って下さい。
では、1限の先生が来るまで待っていてくださいね」
そういうと先生は教室を出て行った。

睦美は隣の席に座るとまた微笑んで言った。

「よろしくお願いします、山本君」
「ああ、よろしくな。えーと...」
「昔みたいに睦美って呼んでいいですよ」
「じゃあ俺のことも昔みたいに呼んでくれ。『山本君』なんて呼ばれたら居心地が悪すぎる」
「分かりました、じゃあよろしくお願いします、たけしくん」
そういってまた睦美は微笑んだ。
「ああ、よろしくな。睦美」
俺は照れて少し顔を背けながら答えた。
なぜ照れたって?
睦美の笑みは何度見ても綺麗だな、なんてらしくもないことを不覚にも思ってしまったからだよ。
        

 1限が終わり休み時間に入ると、睦美の席に多くのクラスメートが集まった。

「どこから来たの?」
「何で引っ越してきたの?」
「好きなものは?」
「趣味は?」

などなど色々な質問をされている。
そんなに同時に質問したら答えれるモンも答えられねーだろ、っと少々呆れて眺めていると、今度は

「そういえば高瀬さん、うちの学校のこと良く知らないよね。俺が案内するよ」
「いや、僕がします。」
「まて、高瀬さんは俺が案内する」
...暴動でも発生しそうな空気になってきた。まあ睦美は本当に美人になったし気持ちは分かるがな。

こんなことを考えていると、困り顔の睦美と眼が合った。

睦美は少し思案顔になった後、名案でも思いついたかのように顔を輝かせながら言った。

「たけしくん、お昼休み暇ですか?もしよかったら学校を案内してほしいんですけど」

教室の空気が急に重くなった。おい、そこ、なぜ俺を睨みつける。

「あー、特に用事も無いし別にいいが」
できる限り平静な態度で答えた。

「本当ですか、じゃあおねがいします。約束ですよ」
そういって睦美は教室の外に出て行った。

それを見届けた後だれかがポツリとつぶやいた。
「今、高瀬さん、山本のこと『たけしくん』って呼んでなかったか」
...気のせいだ。
「春香ちゃんだけで飽き足らず、高瀬さんにも手を出すとはいい御身分だなぁ」
...春香とも睦美とも幼馴染なだけだ。
「どういうことか説明してもらおうか、『たけしくん』」
...説明するからとりあえずこれ以上殺意のこもった目で俺を見るな。
               

その後俺と睦美がただの幼馴染だということをできるだけ丁寧に説明したが...
「あんな美人と幼馴染だと!許せん!」とか
「神よ、あの女たらしに天罰を!」とか
「許してほしかったら高瀬さんを紹介してくれ」とか2限が始まるまで好き勝手言われ続けた。





2限が終わるとすぐに、睦美が話しかけてきた。
「たけしくん、じゃあ学校案内よろしくお願いします」
分かった分かった、そう急かすな。
睦美に半ば引っ張られながら教室の外に出る。
「じゃあどこか行ってみたい場所あるか?そんな特徴もない学校だけど」

「そうですね、お腹も空きましたし学食とかありますか?」

「ああ、あるよ。じゃあ行って見るか。」

ってあれ、なんか忘れてるような...
「たけちゃん、ご飯に行こう♪ってあれ、なに、その女。そんなに近くにいて暑苦しくない?」

そうだ、春香に睦美のこと教えるの忘れてた。

にしても上機嫌かと思ったら一瞬で攻撃的になったな、おい。

「お久しぶりです三島さん、睦美です。今たけしくんに学校案内してもらってるんです。
これから2人で食事を取るつもりなんです、では」

あれ?睦美もなんかよそよそしいな。

「あー、あのめすね...いや、むつみさん、ひさしぶり。でもたけちゃんは私と

お昼を一緒に取る事になっているの。残念だけどあなたと食事なんてできないの」

「でもたけしくんが今日は暇だから1日中学校を案内してくれるって約束してくれましたよ。
春香さんこそ諦めてください」

いや、睦美、俺1日中なんて言ったか?

あー、そういえば何故か春香と睦美は昔から仲が悪かったな。それで未だにお互いに
苦手意識を持っているんだな。じゃあここは...

「まあまあ、じゃあせっかくだし幼馴染3人集まったんだから3人で食事にしようぜ」

2007/11/13 To be continued.....

 

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