ジリリリリリ!!!!!
うるさく鳴り響いている愛用の目覚まし時計を少し乱暴に叩いて止める。
バイトの疲れがまだ完全にとれていない。
薄く目を開けて時間を確認してみる。7時30分。
学校まで歩いて30分はかかる。朝のSHRは8時30分からだ。
よし!まだもう少し寝ていよう。朝食は急いで食べれば大丈夫だろう。
だからあと、15分くらいなら・・・
コン、コン。
「兄さん、起きてますか?」
しかし、ツバメがいつものように起こしに来てしまった。
コン、コン。
「兄さん?入りますよ?」
がちゃっ。
僕がまだ返事をしてもいないのに、ツバメはためらいもなく部屋に入ってきた。
「兄さん、まだ寝ているんですか?早く起きて下さい。」
そう言いながら、ツバメは僕の布団を剥いでしまった。
「うぅ〜、ツバメ。お願いだから、もう少し寝かせてくれない?」
「駄目ですよ。早く起きて顔を洗って、スッキリさせてきて下さい。」
「分かったよ。それにしても、まだ返事もしてないのにいきなり入ってくるのは、
マナー違反じゃないかな?」
「兄さんが寝ているのが悪いです。」
「でも、もし僕が起きていて着替中だったらどうするの?」
「その時は、僭越ながら私が着替えの手伝いをさせていただきます。」
「えっ!!それは困るんだけど・・・」
「冗談ですよ。それより、早く支度して下さいね。」
「はいはい、分かりました。」
そして、ツバメは部屋から出て下の階へと降りていった。
それにしても、ツバメは冗談と言っていたけど目が本気だったな。
今度からは気をつけよう。もしかしたら、本当に着替えを手伝うかもしれないぞ・・・
着替えを済まして、洗面所で顔を洗い朝食を食べるために居間に入る。
テーブルには既にツバメが朝食を並べてくれていた。
「おはようございます、兄さん。」
「おはよう、ツバメ。叔母さんは?」
「もう仕事に出掛けましたよ。お母さんは今日も遅くまで仕事だそうです。」
叔母さんは現役の看護士、叔父さんは設計士だ。
叔父さんは今、設計現場である大阪にいるため家にはいない。
「そうなんだ。昨日も遅かったのに大変だなぁ。
それにしても、忙しいのに毎日朝食をちゃんと用意してくれるのはありがたいな。」
「いえ、今回の朝食は私が作ったんですよ。」
「えっ!!ツバメが作ってくれたの?」
「はい。たまには、お母さんに楽をさせてあげようと思いまして。」
「そ、そうなんだ。偉いね。」
クソ!!油断した!!これは覚悟を決めるしかないな・・・
いや、でもまだ分からない。朝食はシンプルにトーストとベーコンエッグだから、大丈夫なはずだ。
「それじゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
パクッ!
甘かった。2つの意味で僕は甘かったようだ。
「あの〜、ツバメさん?この目玉焼き、なんで甘いんですか?」
「私はこれがおいしいんですが。もしかして、兄さんは嫌いでしたか・・・?」
ツバメは目に分かるほど落ち込んでしまった。まずい!
「そんなことないよ!甘い目玉焼きも新鮮でいいかもしれない!」
「本当ですか?無理をしなくてもいいんですよ?」
「無理なんかしてないよ!おいしいよ!!
いやぁ〜、さすがツバメだな!こんな美味しい朝食を作ってくれるなんて、僕は嬉しいよ!」
「もう、兄さんそれは言い過ぎです。誉めても何もでませんよ?」
そうは言ってるが、ツバメは顔を赤くして照れていた。
何とか機嫌を回復させることができたな。
しかし、ツバメの”甘党”には驚いたな。まさか目玉焼きにも砂糖をかけるほどだなんて。
今度からは気をつけないと・・・
僕は何とか甘い目玉焼きを完食し、ツバメと一緒に登校することとなった。
いつもの時間に家を出ることにできたからゆっくりと歩いていく。
学校まであと3分の1となったところで、あいつが現れた。
「おっはよう!ツバメちゃん!」
「おはようございます、村鎌先輩。」
「朝からツバメちゃんに会えるなんてラッキーだな〜。
今日の運勢、テレビでは最下位って言ってたけど、ありゃなんかの間違いだな!」
「お〜い。僕に挨拶は?」
「はいはい、おはよう晃。」
「その投げやりな挨拶は、非常に不愉快なんだけど。」
「挨拶したんだから文句言うなよ。」
こいつは僕の友人の村鎌 聡史(むらかま さとし)。中学校からの付き合いだ。
「ところで晃。今日提出の数学の宿題やった?」
「当たり前だよ。教室に着いたら貸してあげるから心配しなくていいよ。」
「さっすが晃!愛してるぜ!!」
「大声で変なこと言うなよ。周りに迷惑じゃないか。」
「気にすんなって!」
その後も聡史が一方的に喋り続けるおかげで、
学校に着くまで周りから注目を浴びることとなってしまった。
下駄箱の前でツバメと別れることになった。
「兄さんと村鎌先輩。私はこれで失礼させていただきます。」
「うん、それじゃあ。」
「またね、ツバメちゃん。」
僕と聡史は同じクラスなので、2人で教室に向かって歩き始めた。
教室で自分の席に着いても、聡史はずっと僕に話しかけてくる。
キーンコーンカーンコーン
「おっ!チャイムが鳴ったな。そんじゃ、またあとでな!
数学の宿題借りていくからな!お礼はちゃんとするから!」
そう言って、聡史はやっと自分の席へと戻っていった。
お礼といっても、どうせまたジュースを奢るだけなんだろうな。
まぁ、お金が浮くのは嬉しいから良いんだけどね。
さて、今日もまた学生らしく勉学に励もうとしますか。
時間が経つのは早く、もう放課後となった。
今日はバイトが休みなので、家に帰ってゆっくりするか寄り道して帰るか迷っていた。
ちなみに聡史は用事があると言い、さっさと帰ってしまっている。
どうしようか迷っていると、廊下を歩いているツバメを発見した。
「ツバメ!」
「兄さん。どうかしたんですか?」
「いや、今日はバイトが休みだから一緒に帰ろうかなって思って。」
「そうしたいのですが、今日は委員会があるので・・・」
「そっか。残念だな。」
「すみません。私も一緒に帰りたいのですが。」
「ツバメが悪いわけじゃないよ。残念だけど、僕は先に家に帰るよ。」
「分かりました。それではさようなら、兄さん。」
ツバメに先に帰るって言っちゃったからな。まっすぐ家に帰るとしよう。
そう思い、僕が校門を出たところで、
「沢風く〜ん!!」
バイト先の先輩に呼び止められた。
「先輩でしたか。先輩も今日はバイトが休みなんですか?」
「そうだよ。今帰りかな?
良かったら途中まで一緒に帰らない?」
「良いですよ。喜んで一緒に帰らせてもらいます。」
「よし!じゃあ出発〜。」
こうして、僕は先輩と途中まで一緒に帰ることとなった。
だけどこの時、校舎の方から僕たちのやり取りを憎らしそうに睨みつけている少女いた。
少女は2人に気付かれないように尾行を開始した。
「沢風くんは彼女とかいないの?」
「急に何を言いだすんですか?」
「いいから答えて!」
「いませんよ。それに、僕に彼女なんてできるわけないですよ。」
「でも、昨日店の前にいた女の人は彼女じゃないの?」
「あれは前に話した、僕の義妹ですよ。」
「お〜。あれが噂の義妹さんですか。」
「噂のって、何ですか?」
「いや、別に深い意味はないよ。私が勝手に付けただけだから。」
「勝手に付けないで下さいよ・・・。」
「男の子が細かいこと気にしないの!」
それから、僕は先輩とバイト先の愚痴や今日学校であったこと等、他愛もない話をした。
学校を出てから10分経ったくらいで、交差点にさしかかった。
「それじゃぁ私、こっちだから。」
「そっちってことは、先輩は電車通学なんですね?」
「そうだよ。家が遠いからね。」
「そうだったんですか。それでは先輩、また明日。」
「またね。これは私からのプレゼントね。」
そう言うと先輩は、いきなり僕に抱きついてきた。
あまりにもいきなりだったので、僕は喋ることができず、口を金魚のようにパクパクさせていた。
周りから見たら、さぞ変な顔をしていたに違いない。
ほんの数秒のはずなのに、僕はとても長い時間に感じられた。
「それじゃあね。バイバイ!」
先輩はようやく離れ、顔をほんのりと赤くして走り去ってく。
僕は先輩が見えなくなるまで、ただ茫然とその場で固まっていた。
未だに先輩に抱きしめられた感触が残っている。
先輩は冗談のつもりで抱きついたようだし、早く忘れるとしよう。
でも、今度会った時にどんな顔をすればいいのだろうか?
そんなことを考えながら僕は歩き始めた。
今日はちょっと大胆過ぎだったかな。
でも、こうでもしなきゃ沢風くん気づいてくれないんだろうな。
結構、あの子鈍感なのよね〜。バイト先でもアプローチしているのに気づいてないし。
でも、今回のアレはさすがに意識しちゃうでしょうね。
昨日の女の子は義妹って言ってたし、一応念のために彼女がいるかどうか聞いたけど、
いないってはっきり言ったから大丈夫なはず。
よし!これからはもっと積極的に責めていこう!!
だとしたら、どうしようか・・・
”三番乗り場に列車が参ります。御乗りの方は、黄色い線の内側に御下がり下さい。”
彼女は気付かないでいた。一歩後ろに居る、酷く歪められた笑顔をした少女に。
そして、これからの自分に・・・。
トン。
彼女は押される感触と共に変な浮遊感を感じていた。横を見たら電車がグングンと迫ってきている。
(えっ!押された!?いったい誰が!!)
彼女が後ろを向いた時、押した少女は何かを呟いていた。
”さ”、”よ”、”う”、”な”、”ら”
駅から少女は離れ、近くの路地裏へとやって来た。
駅で人身事故があったと、誰かの声が聞こえてくる。
少女は周りに誰もいないのを確認した後、
「あ、はははははは。あっははははははははははははははっは!!!!!
ひゃあっはははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!
あははははははははははははははははははははははははあっははははははははは!!!!!!!」
大声で嗤った。 |