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真相



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虚無感とでも言おう、この異様な虚しさはそうとしか例えられまい。
一度打ちのめされた精神とはなかなか立ち直れるものではない。
引きこもりを罵倒していた頃、言わば数日いや数時間前のことなのだが、それが懐かしく思える。

妹が死んだ。

原因は刺殺、全身数十箇所を滅多刺しにされた、見るに耐えないほどの惨殺だったらしい。
現場を見てない限りなんともいえないが…
見なくて良かったかもしれない。誰が好き好んで妹の惨殺体など見る?
よほどの死体マニアでない限り、願わぬことだ。

容姿、学業、人当たりとまぁ絵に描いたような完璧人間で、誰からも恨まれること無く、
むしろ常に他人の憧れの的、それが俺の妹だった。
それが他殺、その才能故の殺人であるのならば、俺は加害者を一生恨むであろう…
なんていっても、今の俺にはそんな事考える余力など残されてはいない。
ただこのなんともいえない絶望感に打ちひしがれているだけ。

暫しの休暇を挟み、いざ学校へ行ってみると、周りから何かささやかれるわ、
友人知人からの第一声は「大丈夫?」やら「残念だったね」やら、
止めてくれ、まだ整理がついていないんだ、と応える。
そんな状態で出席した授業など、当然耳に入るはずも無く、
教師は教師で気を使ってんのかなんだか知らんが、俺を指名することも無く、
ぼーっとしていても咎めることすらしなかったりした。

「早瀬君、ちょっといい?」
放課後まで完全無気力人間だった俺は、そのペースを下駄箱まで持ち込んでいたところ、
クラスメイトの神凪綾香に呼び止められた。
「なんだ?」
そっけない返事、まぁ顔が知れた仲だから別段気にすることもないが…
状況が状況だ、こいつにまで同情されたくはない。
「…ちょっと付き合いなさい」
ふぅ、と溜息をつかれたが、いつものようにうるさく咎められることはなかった。
放っておいてほしいんだが…

つれてこられたは屋上だが、当然放課後なので人はいない…とゆうか…
「マジメ人間のお前が何故禁止区域に入るかね?」
それ以前に、ここは立ち入り禁止区域なのだ。
風紀委員面したこの風紀委員所属女、ありとあらゆる面で他人、自分に容赦ないはずなのに…
「非常時だからね」
そういって鍵の束をジャラジャラと鳴らし、悪戯っぽく微笑んだ。
「単刀直入に問おう、用件とはなんだ?」
「単刀直入に言うわ、あなたの妹さんの事よ」
またそれか…いや厚意はありがたいんだがね、
「俺としてはまだ自覚したくはないのだがね」
「いい加減現実に目を向けなさい」
厳しく、いやいつも厳しいが、其れを上回るほどの険しい目つきで俺を見据えながら、
厳しく言い放った。
「あなたの妹、麗華さんは亡くなったの、この世にはもういないの」
「止めてくれ…」
最後の朝、「おはよう、兄さん」と微笑みかけてくれた…
「もう、あなたにお弁当を作ってあげる人はいないの!」
「止めてくれ…!」
毎朝、律儀に弁当を手渡してくれた…
「もう、放課後あなたを迎えに来る人はいないの!」
「止めてくれ…!!」
「兄さん」聞こえた先に目をやると、いつもそこには…
「もう、あなたに−」
「止めてくれ!!!」
麗華はもう、いない。
ようやく認識できたのかもしれない、だが同時に襲い掛かってきたのは、
感情の濁流。
決壊した俺の精神は、みっともなく俺に涙を流させた。
自らの肩を抱き、震え、膝を着き、しゃくりあげながら…
「そう…麗華さんはもういない…」
わかってる、分かってるけど…!
「でも…」
「今日から私が、あなたの妹になってあげる」
「え?」
汚れた顔で見上げる
「私が毎朝あなたを起こしに行ってあげる、私が毎日…その…
  麗華さんほど上手じゃないかもしれないけど…お弁当を作ってあげる、
  わたしが毎日、放課後迎えに行ってあげる、だから…」
いつになく柔和な笑みを浮かべる、刹那、震えも涙も、全て治まった。
「もう…迷わないで…ね?」
そう、手を差し伸べられる。
漫画とかによくある、ありきたりなパターンだが、何故だろうか、
暖かいな、切にそう感じながら彼女の手に近づく、
気のせいかな?気のせいだろう、一瞬彼女の手が赤黒く光って見えたが、
俺はその温もりに身を委ねた…。

2007/10/15 完結

 

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