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1

いつの日からか始まった妙に現実味のある夢。
その夢の中で私……片瀬未亜は自由に行動でき、いつもと同じ学校生活を送っている。
だれもが違和感ないほど、現実と変わらない性格、行動……
けれど、全ては夢に違いなかった。あらゆる感覚が感じられたが、痛覚…痛みだけが感じられない。
夢か現実か…私にとってはどちらでもよく、何より……
彼と……大好きなあの人と普通より長くいられることが嬉しかった。
現実でも、夢でも、変わらない笑顔、優しさで接してくれる。
そのうち、夢だと分かれば私は現実とは違い、積極的に彼に近付いていった。
現実でないのなら……失敗しても怖くない。
現実では味わえないようなできごとを経験できるかもしれない。
だんだんと、私は大胆になって行く。
告白したり、彼にいきなりキスをしたり、抱き付いたり、ペ〇スを急に握ったり……
『あの…ずっと前から、その、す……好きでした!』『おはよう、……君。チュッ』
『むぎゅ。えへへ……君って暖かいよ』『……どう?気持ち……いい?』『だぁめ、まだお預け』
いつしか、夢と現実は大きくかけ離れていった。
現実では相変わらず彼とは距離があるまま。遠くから見つめるだけ。
触れることはおろか、話すことさえできない。しかし、夢の中では彼は私のもの。
付き合うこともあれば、一方的に言い寄ることもある。
夢と現実……そのあまりのギャップが私を苦しめる。
私の彼にクラスの女が話しかける、手を触る、匂いを嗅げるほど近付く、
委員会の仕事を手伝ってもらう…
ギリリ……
どれも、夢の中で私がして来たことばかりだ。
私の、彼を……
何よりも許せないのは、彼がそれらの行動を許すことだ。
頼まれれば手伝い、誘われれば一緒に帰る……
必然的に、夢の中での行動がエスカレートして行く。
付き合えば交わり、付き合わなければ無理やり拉致って監禁、やはり交わる。
『もっとぉ……君の、大きな、ペ〇スで、私の、中を、かき回してぇ』
『えへへ……もう、逃がさない。……君は私だけのもの。さあ、繋がろう?ずっと、ずぅ〜っと、
私が満足するまで止めないからね?』
『他の女と一緒に帰っちゃだめ。手伝ったらだめ。話すのもだめ。近付くのもだめ。
目を合わせるのもだめ。ううん、視界に入れるだけでもだめ。私を、私だけを愛し続けてね?』
しかし、夢がエスカレートするに連れて、現実ではますます他の女が彼にまとわりつく。
ベタベタ
イチャイチャ……
私はただそれを遠くから見つめ続ける。なんの感情も表情に出さない。
ただひたすら、能面の様に、無表情で見つめ続ける。
いつしか、私の目は光を失い、どんより、黒く、……濁っていった。

気がつけば、制裁が始まっていた。もちろん、夢の中でだ。現実で彼に近付いた女を陥れ、
辱め、あらゆる弱みを探し出し……人前に、彼の前に現れないようにしていった。
メス豚は私が排除する。
しかし、なんの因果か……
メス豚を排除すればするだけ、次の夢で女が彼にまとわりつく。
それを排除すれば、また新たな女がまとわりつく。
ゆっくりと、しかし確実に夢の中の私と彼の距離は開いていった。
いつしか、夢も現実と変わらないほどに墜ちて行く。
気付いた時には、すでに彼は私の元からほぼ離れ去っていた。
そのころから、私の狩りが始まった。
制裁では済まさない。
彼にまとわりつく女たちを片っ端から処刑して行った。
校内で、グランドで、道で、家で……
朝に、登校時に、昼に、下校時に、夜に……
一時も休まず狩り続ける。
あるときはバットでぐちゃぐちゃにし、あるときはカッターで切りつけ、あるときは背中を押し、
あるときは拉致って道具で〇し尽くし、あるときは罠にはめ男どもに〇させ……
それでも、どれだけ処刑しても豚は減らない。
きりがない。処刑すればするほど現れる。
だから、私も片っ端から処刑していく。
毎日毎日、何度も何度も……
いつしか、私は処刑が楽しみになっていた。
どう〇すか。どう罠にはめるか。どう〇すか。どんな喘ぎ声、悲鳴をあげさせるか。
どんなプ〇イをするか。どう精神を壊すか……
一種のシミュレーションゲームだ。
処刑する……それが楽しくて、快感で……
しかし現実は残酷だった。
最近噂になり始めていた彼と5組の桜田……それが完全に付き合い始めたのだ。
現実での彼が完全に私から離れ去る……
ギリリ……
許せない。彼に近付くあの女が……
私の方がスタイルいいのに。あの女はただ小柄なだけ。
顔がそこそこいいだけで、他にいいところなど何も無い……なのに……
殴る、刺す、〇す、〇させる……
何度も何度も……繰り返し処刑する。しかし、それだけではつまらない。私の気持ちが満たされない。
気絶させては縛り上げ、服を破き、道具を使って凌辱し、それを道に放置する。
時には教室や校門に放置したり……あの女の評価が地に墜ちるのを見て楽しんだりもした。
夢の中、決して彼に桜田を近付けさせなかった。
彼をあの女なんかに渡さない。
そうやって女を消して、彼に近付いた。
久しぶりに彼の傍による。そして久しぶりの抱擁……しかし

『…………あの女の匂いがする』

何度も何度も何度も何度も何度も何度も処刑してきた。
相手の姿を、形を、声を、悲鳴を……それこそ黒子の位置を覚えるほどあの女に近付き処刑してきた。
そのときに鼻についた汚らわしい匂い……それが今の彼から漂ってくる。
なんど〇しても、なんど凌辱しても、桜田は私から彼を引き離し、ついには所有権を主張してきた。
いいかげん、○すだけでは変わらないことがわかってきた。
処刑しようがあの女は何回でも現れる……
ならば、いつもと違うことをするしかないだろう……

 

『……私の彼に近付かないでください』
帰り道の途中、人気の無い細い道に桜田を呼び出す。
『なんで?なんで片瀬さんがそんなこと言うの?彼は私の彼氏なんだよ?』
しらじらしい……私から彼を奪っておきながら……
『彼はあなたの彼氏なんかじゃありません。私のモノです』
『片瀬さんのモノ?それって酷くない?人をモノ扱いして。それに彼言ってたよ?
最近片瀬が怖い、気持ち悪いって。いつもじっと見てきて、何をする時も後ろにいて……
気味が悪いってさ』
『嘘だッ!!』
怖い? 気持ち悪い? 気味が悪い?
私が? こんなにも彼を愛している私が?
『彼がそんなこと言うはずありません。私と彼は結ばれてるんです!』
『結ばれてる……?はぁ……まさかそこまでおかしくなってるなんて。
妄想も行き過ぎはよくないよ?そしてそれを他人に押しつけるのも。
だってね、彼の初めてをもらったのは私なんだから。
お互いに初めてで……それからはそれ以外の人と交わったことなんてないの。
だから勘違いでも片瀬さんのモノなんて言わないでね?
こう言っちゃ彼に悪いけど……あなたには言わせてもらうわ。
彼は私のモノなんだから。それに……私、彼との子ができちゃったし』
『!』
いま……なんて?
子供……?
私ですら妊娠してないのに?
『まだ彼には報告していないけど、彼ならきっと喜んでくれる。
だって、私たちはずっと一緒なんだから。あなたなんか関係ないの。
だからあなたが私たちに近付かないでね』
それじゃ、と言って背を向けて歩き出す桜田。
我慢できなかった。殺しても現れるなら、説得できればどうにかなると思っていた。
けれど……もうダメだっ!
『ギャッ!』
鞄から、鉄でできた文鎮を取り出すと桜田の無防備な後頭部に思いっきり振り下ろす。
『ちょ……冗談でしょ?やばいって……やめっ!』
殴られた部分からは真っ赤な鮮血が飛び散り、流れ始める。
それでも当たりが浅かったのか、逃げ出そうとするメス豚。
慌てふためき混乱している桜田を、血の付いた文鎮を振り上げて、感情のない瞳で見下す。
『わ、わかったから……彼には近づかないから。
だから……ね? その手に持ったもの……置こう?』
醜い。
急に媚びる桜田。
そして、そんなに簡単にも彼を諦める精神。
……どれだけ謝られようが、許す気などない。
それが伝わったのか、再び謝り続ける。
『許して……、お願い、許して……なんでも言う事聞くから。彼だって諦めるから。
なんだったら、片瀬さんと彼の橋渡ししてもいい。手伝ってあげるから。ね?
  だから……殴らないで。殺さないで。許して……』
必死の命乞い。
本当に言っていることを実行するなら悪くはない。
しかし……

『……この泥棒猫ッ!!』

再び文鎮の……渾身の一撃が桜田の顔面に食い込む。
グシャ、メキメキ……
嫌な音が辺りに響き渡った。そして一瞬感じる手の痛み。
けれど、振り下ろす手は止まらない。再び上に上げては、勢いをつけて叩きつける。
いつもやっていることだ。いまさら止める必要も無い。
ぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃりぐしゃり
その可愛い目、可愛い唇、小さな胸、細い腕、細い足、淫らな秘部、孕んだ腹……
それらを残さず潰していく。
『泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫泥棒猫ッ!!
あははははははははははははははははは!!』

『…………片瀬?』
気がつけば、彼が道の入口に立っていた。私の足下にはただの肉と化した一人のメス豚の残骸。
『なにを……桜田は?』
私がこの女を呼び出したところを見たのか、一緒に歩いていたところを目撃したのか……
もしくは後ろをつけてきたのかもしれない。
『あ、……君。こんにちは。見て?……君のためにやったんだよ?ね、これで今回は一緒になれるね』
全身を返り血で染めたままにっこりと微笑む。
もう、顔にはかつての片瀬未亜の面影は残っていなかった。あるのは狂気と化した女の顔……
『う……ぁ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
彼はその場に崩れ落ちる。そして、恐れを含んだ目で私から遠ざかろうと、ジリジリと後退する。
『なんで……?なんで……君が私から逃げるの?ほら?こんなに頑張ったんだよ?
  私たちを邪魔するメス豚は、これで消え去ったんだよ?』
褒めてくれたっていいのに。
彼を堕落させる害虫を駆除したんだ。
そして、愛する私のもとに戻ってこれるのだ。
なのに……
『よくも……よくも桜田を……この化け物めっ!』
化け物め……その言葉が私を打ちのめした。
『そっか……、……君も私を受け入れてくれないんだ。そんな……君、もう死んでいいよ?
次の……君に優しくしてもらうからさ。でも、私を裏切ったんだから、
この……君にはその女以上の苦しみを与えてあ・げ・る』
文鎮をその場に放り投げると、今度は鞄から包丁を取り出した。
『う……ぁ……、やめ……ろ。く、くるな……』
座ったまま後退する彼と、立ったまま見下ろすように一歩、一歩と近づく私。そして……
『うぎゃぁぁぁぁぁっ!!』
『あははははははははははははははっ!』
何度も、何度も……○してしまわないように包丁を振るう。
もう、止まらない……
最初のころは響いていた彼の叫び声が、だんだんと小さくなっていった。
数時間後、私は手を止めた。
辺りはすでに闇に包まれている。
他人に気付かれた様子もない。
手には血まみれの包丁、服は返り血で完全に真っ赤に染まり、顔には邪悪な笑み。
彼をいたぶる夢も……なんだかいいかもしれない。
じっくり時間をかけて彼をいたぶった私は、笑いながら家に帰っていった。

HRが始まる。いつもなら全員そろっている時間だ。
けれど、クラスには空席が一つ。
一日経っても彼は学校に来なかった。いや、来れなかった。私が彼を夢で○したから。
いや、実際に○してしまったから?
嘘だ。彼を○してしまったなんて。夢、夢、夢…
昨日のことも、今もきっと夢なんだ。現実なんかじゃない。そう、きっと夢なんだ。
それに、今が現実だったとしても、彼はただ風邪を引いただけかもしれない。
家の用事で遅れるだけかもしれない。
心配することはない。きっと大丈夫だから。いつもどおりの日常だから。
彼は私のものになったんだ。何も、心配することはない……
『……君ですが、昨日、お亡くなりになりました…』
……………え?
先生今、何…て?
『非常に言いにくいんですが、何者かに殺害されたようです。犯人はまだつかまってないので、
登下校はまとまってかえってください。あと、部活は当分中止です』
ざわざわ……教室内は生徒達のざわめきで騒がしくなる。
けれど、私の耳には何の音も届いていなかった。
彼が……死んだ? しかも……○された?
犯人はまだ…つかまってない?まさか……まさか……あれは、あれは……現実……?
『……た話しによると、あいつ、5組の桜田とイチャイチャしてたときに○されたらしいぜ。
二人とも帰り道に』
5組の………桜田。
聞きまちがえるはずもない。彼に…私の彼に付きまとっていた、うるさいメス豚。
私が○してやった、ひぃひぃ命乞いした女…………
それと彼が○された?
しかも帰り道に?
あは……あはは……
それって、私じゃん。
私が○したんじゃん。
彼が、私に振り向いてくれなかったから。他の女ばかり見てたから。
なにより、私を認めてくれなかったから……
手を真っ赤に染めて、何度も、何度も、すぐ○さないように痛めつけて……
あは、あはは……
そんなはず……ないよね?
私……人○しなんかじゃないよね?
これも、夢……だよね?
夢だ。これは夢だ。夢だから、寝れば…気を失えば覚めるよね?

私はゆっくりと自分の頬に手を持っていき……爪を立てた。ぶちっ!
爪が頬に食い込み、皮膚を突き破り、肉を傷つける。鮮やかな血糊は頬を伝わり、
指を伝わり、服を……机を……床を……少しずつ、少しずつ真紅へと染めていく。
私は立ち上がった。
『あは、あはは、あはははは!』
『せ、先生!か、片瀬さんが……』
『片瀬……さん!な、何を!?』
突然の私の行動に、回りの皆は驚き、声を無くす。けれど、私には彼らなど関係がなかった。
『あははは。痛く……ない。夢だ。痛くないから……これは夢だ。あはは。
痛くない痛くない痛くない痛くない……』

頬にある手をゆっくりと下へと下げていく。
血の付いた指を肌に沿わす姿はなんとも魅惑的で、回りの人も思わず見とれていた。
そして、私は手を自分の喉まで持っていくと……
力一杯かきむしった
強く、深く、何度も、何度も…
爪に引き千切れた自分の肉が付いても、辺りが赤く染まっても、
私はやめること無く爪を食い込ませ続けた。
そのうち、とうとう爪が動脈を傷つけ、一気に血が吹き出す。
『いひ、あはは、あははははははははははは!
痛くない、痛くない!夢、夢だ。夢、夢、夢夢夢夢夢夢!
あははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははは…………………………………………』

そして、彼女は二度と目を覚ますことはなかった。
END

2007/08/23 完結

 

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