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優しさと愛しさの不協和音



1

“こんなはずじゃなかった…”
いつもゆーくんは優しくて、ちょっと鈍感だけれども、それでも私のとなりにいつもいてくれた…
“なのにあの親子が…あいつらがゆーくんちに来たときからそれが変わってしまった…!”
ううん、本当はあいつらとか呼ぶのもいやだ
ゆーくんのお世話をするのは私なのに、
ゆーくんの隣にいるのは私なのに、
ゆーくんの笑顔をもらうのは私だったのに…

小さいころゆーくんは母親をなくしてしまった。
なんで死んでしまったのかは忘れたけれども
それからゆーくんのお父さんは人が変わったように仕事人間になり、家に寄りつかなくなった

それからのゆーくんは見るのも辛いほどに落ち込んでて、話しかけても私なんて気にかけてなくて、
小さいころからゆーくんが好きだった私にはそれが辛かった…
だから私はお母さんに頼み込んでゆーくんをうちに呼ぶようになった

ゆーくんができるだけ元気を取り戻すように、ゆーくんがちゃんとご飯を食べれるように、
そしてゆーくんがちゃんと私を見てくれるように…

ゆーくんのためにご飯を作りたかったから料理も覚えた

そしてある日ゆーくんは私に笑いかけてくれた
「おいしいよ」
たったそれだけで私の今までの思いが報われた気がした

そしてますます私はゆーくんのお世話を焼くようになった

だんだんと元気になったゆーくんは優しくて私の事をいつも気にかけてくれる私だけのゆーくんだった
みんなに優しいけれども私だけは特別に優しくしてくれるような気がした

そう私だけのゆーくんだったのに…

あの日奴らがあの牝狐たちがゆーくんの家に来てからゆーくんは変わってしまった
違う。変わったんじゃない
牝狐達がゆーくんを拘束するようになったのだ
ゆーくんは優しいから嫌とは言えないだろう

今までゆーくんの事をほおっておいたのに、なんでいまさら再婚してゆーくんと同居させるのよ
ゆーくんのお父さんは本当気がきかない
ゆーくんがあれだけ助けを必要としてた時にはいなかったのに、
必要なくなった今になって牝狐達を家にいれるんだもの
あの二匹の牝狐の次にやってしまいたい
本当空気が読めないおじさんは嫌だ

ゆーくんには私がいて、私にはゆーくんがいる
ただこれだけでよかったのに

窓の外に目を向ければゆーくんちのリビングのあたりの明かりがついている
母狐がゆーくんとご飯を取りたがるものだからゆーくんは夕飯に来なくなってしまった
朝食も作らなくてもよくなってしまった
学校にいくときも娘の方が二人きりの時間を邪魔をする
しかもこの娘の方は空気が読めない
あの中年と一緒で空気が読めないのだ
普段は会話に参加せずゆーくんを心配させているのにいい雰囲気になってるときに邪魔をするんだ

お昼もお弁当を作らなくてもよくなってしまったし、友達が少ないとかなんとかで牝狐もやってくる

私だけのゆーくんをあいつらは奪っていこうとしてる

ねぇゆーくん。
私はどうしたらいいのかな
どうすれば振り向いてもらえるの?
私が今までやってきたのはなんだったの?
ゆーくんのためにできることが私には段々となくなってくるよ
ゆーくんは私を見捨てちゃうのかな?
私は、わたしは、ワタシはあれだけゆーくんのためにやってきたのに、
ねぇゆーくん助けてたよ
心臓が押しつぶされそうで血がどくどくいってるのに、頭のなかは真っ白だよ…
気分がワルいよ…
ねぇゆーくん…

2

「…さん、兄さん起きてください。
もう朝なんです。」
朝のまどろみの中で気持ちよくなっていると体を優しく揺さぶられる
目をあけるとそこにいたのは小さいころから慣れ親しんだ幼なじみではなくてちょっと驚いてしまう

あーそうか。最近は直が俺を起こしにくるんだと思いながらも体を起こす
多分詩織さんも下で朝ご飯つくって待ってるはずである
その証拠とでも言うべきか直が少しじれったそうに僕を見る
まぁ無口な直の考えを読みとれるようになったのは嬉しい事だ
やっぱり家族とは良好な関係でいたいしただでさえ無口な直の事だから
ほっておいたらため込んでしまうのが怖い
それは自分の経験から来るべきものと言うべきか

だけど直一つ言っていい?
いくら家族だからといってさすがに女の子がいるところで着替えるのはちょっときついんだけど…

だからそこ顔を赤らめたようにしないで
恥ずかしいならでてってよ直・・・

「おはよう優磨さん、朝食できてますよ」
下に降りると詩織さんがテーブルの上にはいかにも洋食って感じの奴が乗っていた
席に座ってパンを食べ始めるがちょっと違和感がある
やっぱ僕には朝食は和食って感じなのかも…

とか思いながらも朝食をすすめる
やっぱりこれはこれで食べないといけないし

ふと詩織さんと直の方を見るとなんか食べ方が似ている
そんなところやっぱり親子なんだなと思ってしまう
普段は全然似てないのに

そんなことを思ってると詩織さんは
「優磨さん?何笑ってるんですか」
ってちょっと不機嫌そうに言ってくる

「すいません
あまりに詩織さんと直の食べ方が似ていたので…」
サラダにフォークを突き刺すときなんて本当に同じだったし
やっぱり小さいころから一緒にご飯をとってると似てくるのかもしれない
僕も裕美と似てるところがあるのかも知れない

ご飯を食べ終わると席を立ち外にでる
「行ってきます」
と詩織さんに言って玄関のドアをあけると幼なじみの裕美がいた

「おはよう優磨くん」
そう言いながら僕に笑いかけてくる裕美は、やっぱり綺麗だった
小さいころから見慣れてるけど裕美はやっぱり美人なんだと思う

「おはよう裕美」
思わず裕美に見とれてしまうのを恥ずかしく思い誤魔化すように返事を返す

直は直接は声に出さないが頭を軽く裕美に下げたようだ
裕美には別にファンクラブがあるとかそういう事はある訳ではないが中学生のころから、友達に
「お前はいいよなー。あの“裕美”ちゃんかいて」とか言われることがしばしばあった
そのたびに否定はしていたが最近は別の攻め方もでてきてちょっと困っていた

直も美人だったのだ
もっとも直は裕美のように愛想はよくないが、それでも凛とした感じの美人だったので
時々直を紹介しろとも言われてしまう
まったく
「学校では裕美ちゃん、家では直ちゃんがいるお前は本当羨ましいよ。
本当刺し殺したくなるくらいだ」
とかいう友人がいるので本当困る
詩織さんまで見られたら本気で死にそうだ僕…
とか考えながらも学校へ歩いていく

「直、学校には慣れたか?」
裕美と僕は口数は多いほうではないが自分から話をできるからいいが、
直のほうは結構無口なのでいつも気にかけてしまう
僕としては新しくできたこの妹が心配だ
直は自分から話を振るタイプじゃないから振ってくれる人がいないとな…
って過保護だぞ僕

「うん。慣れたと思う」
「それはよかった」とりあえず兄としてはこの無口な妹に友人ができるのかやっぱり心配だった

でもなんだろ裕美って直苦手なのかな?
僕には話を振ってくるけれども直に直接話を振ることがないんだよな…

「優磨くん宿題はちゃんとやった?」
とか
「優磨くん今日の体育はマラソンだよ。私走るのあんま得意じゃないんだけどな。」
とかちょっと世話好きな面を僕には見せてくれるのに

「じゃ直昼休みにね」
学校につくと中庭のところで僕達はお別れだった
裕美はともかく学年の違う直は別の学年のげた箱に行くからだ
「わかった、兄さん」
そして裕美と一緒にクラスに行く

「おい優磨、今日もラブラブだったな。両手に華とは羨ましいぜ」
と教室につき自分の席に座ると悪友であり僕の命を狙ってるであろう須藤がやってきた。

いつものように
「お前を殺して俺がその位置に座る」とか冗談にとりづらいことをいってくる
須藤は成績はいいし頭の回転もはやいんだけど、そういうとこがバカなんだと思う
というか須藤

お前顔いいしスポーツもできるしでモテるんだから、いい加減あきらめてくれないかとか思うが、
須藤に言わせれば
「それとこれとは別」なんだそうだ
相変わらず理不尽な悪友である
と須藤とじゃれあってるうちに授業が始まりそうになる

めんどいけれどちゃんと受けないと…

二時間目は数学だった
教壇に立つのは『暴君』『皇帝』『現代に現れたネロ』とか訳のわからない異名をもつ数学教師狩野
やつの授業は説明はうまく、ちゃんと聞いてさえいれば大半のことは理解できるのだが、
要求してくることが尋常ではない
ある単元が終わりそうになると宿題をだし、それと平行して小テストをやるのだが
それが尋常ではなく難しく大学受験もかくやというレベルだった
もちろんここは進学校みたいなので出すのはわからないでもないが、
いくらなんでも受験レベルの問題はないだろって感じである
授業を聞いてればわからないでもないのだが、
聞き逃してるとわからないようなレベルの問題もあり全く授業に気が抜けない

まー須藤は頭がいいので授業は寝はしないが軽く聞き流してるみたいだ。
裕美は頭はいいんだけど数学が苦手みたいで後でよく僕に聞きにくる
もちろん僕もそのとき苦手な国語あたりを聞くのだけど、
単元の終わり頃になると皆どこかに集まりだし勉強会をやる

もちろん僕も須藤と裕美と一緒に僕のうちでやる

みんなそうでもしないと狩野の宿題でまずつまづき、テスト勉強すらできないのだ
ちなみに宿題をやってこなかったり小テストで点が悪いと評価に響くので、皆必死になってやるようだ

そして魔の数学が終わりを告げる鐘がなった時、教室中が死屍類似となっていた…

三時間目の体育は裕美が言ってたようにマラソンだった
ちなみに須藤はスポーツ万能の癖にこういう時、よくサボっている
サッカーとかになると本気でやる癖に…
あいつによれば保健室の先生が美人で、その人が呼んでいるそうな
まぁそれは方便だと思うが、須藤は実に多くの女性から人気がある
バレンタインとかはヒドかった…

須藤に渡すように女子から迫られ泣かれ脅されて、ちょっとトラウマになりそうだった
しかも何を勘違いをしたのか、いつも義理チョコを渡してくれる裕美が
「そんなにチョコもらったんなら私からはいらないよね」
とか不機嫌そうになってたので機嫌をとってチョコをもらうのが大変だったような…

あーもう今年のバレンタインもあんな風になるのかなと
グラウンドを走りながら嫌な事を思い出してしまう。
まったく癖の強い友人を持つと困るな…

昼休みになり、裕美と一緒に弁当を持って屋上に出る。
既に直がいて食べる準備をしている
そしてもうしばらくすると須藤がやってくる

直が僕らと一緒にご飯をとるんだけど、新しくできた友達と一緒に食べればいいのに
わざわざ僕にあわせなくてもいいのにな

今日の須藤の弁当誰のだろうな?
「須藤、今日の弁当は美人の保健の先生か?」
「よくわかったな。先生の弁当はやっぱり大人の女って感じがして好きなんだよな〜」
「須藤くん昨日はみーこちゃんの弁当は可愛くて好きなんだよな〜とか言ってなかった?」
「それはそれ、これはこれだ」
まったく本当須藤刺されても知らないからな…

とそこでみな適当に座って弁当をあける
須藤の弁当はちょっと凝ったような感じだが見た目もよく、
栄養も考えられてる感じで確かに大人の女性が作った感じである

まぁ僕と直の弁当も似たようなものであるが
確かに詩織さんこういうの凝りそうだしな…
昔は毎日食べていた裕美の弁当はそのころよりもますます上手になったみたいで
色彩もあざやかで確かに食欲を誘う様子である

そんな事思ってると
「優磨くん。私のお弁当食べたいの?」
とかいってくる裕美がいて

「おー優磨さんは羨ましいな。殺したくなるくらい…」
と茶化すような感じで言ってくる須藤がいて

「兄さん…」
とかちょっと恨みがましい目で睨んでくる直がいて…
いや直、裕美の弁当食べたいのなら直接言えばいいじゃないか
っというか裕美卵焼きを箸でつまんでこっちに向けないで
屋上には他にも人がいるし恥ずかしいじゃないか

どうすればいいんだよ僕

ちょっと裕美人がいるから、ちょっと恥ずかしいから僕こういうの苦手なんだから
そういうの察してよ裕美

だからほら須藤もなんかにやけた笑いをしてないで助けてくれ
いつも僕須藤から迷惑かけられてるんだからこういうときこそたすけてよ

あー教室帰ったらラブラブだねとか言われて
家に帰ったら結婚届書いて明日には役所にいくんだろうな
そして子供は男の子と女の子1人ずつで結婚記念日には毎年旅行行って
マイホームをたてて・・・・

本当どうするんだ僕
なんか何言ってるかわからなくなってきたぞ

3

「兄さん」
帰りのホームルームがおわると、いつものように直が僕の教室にくる

「じゃあそろそろ帰ろっか」

僕は裕美と直の二人を促し、教室を出た

ちなみに須藤のやつはホームルームがおわるとすぐに
「かわいー女の子が俺を待っている」
といつものようにナンパしに行ったからな・・・

いつか刺されるぞといつものように結論づけながらも
まぁでも須藤は要領いいから、意外とそういうの慣れてるかもしれない
あいつ妙に淡泊だし、恋愛自体は好きだが、相手にあまり興味がないのかもしれないな

全く変なことになるなよと心配してしまう
本当須藤が好きなる子も、須藤を好きになる子も、かわいそうだよな
あいつの身勝手な恋愛につきあわされて…
とそんな事を直と裕美の二人に話すと
「須藤さんだから」「須藤くんだしね」と、妙に納得して三人で苦笑してしまう

よかった…
昼休みのあれから微妙に二人の雰囲気が悪かったんだよな…

なんだろやっぱり僕って鈍感なんだろうな
嬉しそうとか機嫌悪そうというのはわかるけれども、その理由が全然分からない

たまに会う年上のいとこには、
「優磨ってさ優しいけれども、酷いよね」
とか言われてしまう
その度に僕は反応に困りながらも、内心妙にへこむことになるのだが…

とりあえず僕としては二人とも仲良くして欲しくて、でも二人は妙にぶつかってしまうので、
その度に冷や冷やするのにその理由が分からないから困るんだよな
全く難儀な妹と幼なじみを持ったものだ
晴れた空は僕の悩みには関係なく、雲が流れていて、
その雲のように、風のように生きられたら、どんなに楽だろうとは思うんだけど

そんな事を考えてると、僕らの家の前につく

「じゃ裕美また後で」
「うん。後で来るから」

「えっと…(中略)だからなのでこうするんだよ」

真剣な眼差しでノートに目をむける裕美に、一つ一つ今日の数学の要点を教えてゆく

「凄いね、優磨君。私全然わからなかったよ」

帰ってきて自分の部屋に入り着替えると、しばらくすると裕美がやってきて、
いつものように勉強会になる。
まぁ裕美は数学が苦手みたいなので、いくら狩野の授業が分かりやすいとはいっても、
理解しずらいところはあるみたいで、そこを教えるのが僕の努めだ

まぁ変わりに僕は苦手の国語を教えてもらう
だがどうしても小説とか物語の登場人物が、何を考えてるのかいまいちわかりづらいし、
説明されてもやっぱりピンとこないから苦手だ
裕美とか国語の教師あたりに言わせれば、そういうのはその人物の描写を見ればわかるというのだが、
普段から人間関係に鈍い僕はそういうのは苦手で、テストのたびに国語だけ時間が足りない

ちなみにテスト前になると、須藤のやつと直のやつがこの勉強会に加わる

さすがに数学のテストは凄いので、僕にもわからない問題は須藤に教えてもらうしかないのだ
だけど須藤のやつ天才肌のせいか、教えるのは得意じゃないみたいで、
僕が理解してからそれを裕美に教えるという変な流れになっているが

直は一学年下なので、僕らが勉強を教えてあげている
といっても直は優秀みたいなので、あんまり教える事がないけれども
須藤と同じで、学年でのトップ10に入ってるみたいだ
まぁ直のほうは、努力の秀才という感じかもしれない

「っとこれで今日の宿題は終わりかな」

「優磨君今日もありがとう」

「うーん僕も教えてもらってるし、お互い様だよ」

「ううん、優磨君の教え方がいいから」

「あはは、ほめても何も出ないよ?」

「そういうんじゃないんだって」

そう言った裕美の顔はちょっと寂しげで、声をかけてあげないととは思うけれども、
かける言葉が見つからなくて、僕らの間には微妙な雰囲気が漂ってしまう

どうにも気まずい感じになってしまったので、ごまかすように
「もう夕飯だね。いい匂いがするよ。詩織さん今日は何を作ってくれたんだろ?」
というと裕美はますます悲しそうな顔をするがそれも一瞬、
すぐに取り繕うように、笑顔になると

「詩織さん料理上手みたいだしね。私もおなかすいたから家に帰るよ。」
というと片付けをさっさと終わらせ、玄関まででていく

そうして僕は裕美を見送ると、リビングへと向かう。

「優磨さん、今日のご飯はハンバーグですよ」

僕がリビングに入ってきたのに気づいた詩織さんが、ニッコリと微笑んでくれる
ちょうど夕飯の支度が終わったみたいで、テーブルの上にはいかにもおいしそうな感じの
ハンバーグが乗っている
ほかにもサラダにコンソメスープが乗っていて、いかにも食欲を誘ってくれる

直はもうテーブルに座っていて食事の準備は万全のだった

やっぱり人のいる食事はいい
食事が始まると詩織さんがまず僕に質問をし、それに僕が答え、それで直に振っていく形が多い
まぁ僕が先に答えた方が直も答えたやすいだろうし、詩織さんも新しい息子である僕と
コミュニケーションを取りたいんだろう。
人と人のつながりは大切だからね

このテーブルもキッチンも一時期は全く使われていなかったが、
詩織さんたちが家に来てからまた使われ始めた
昔ののことを思い出すと本当に裕美に申し訳ないし、感謝の気持ちでいっぱいだ
だからこうやって僕が新しい家族となごんでいるのは、裕美にちょっと申し訳ないとは思ってしまう。
だけど新しくできたこの家族とも、僕はうまくやっていきたいし、やっていかないといけないと思う

詩織さんは父さんにはとって、本当に大切な人だと思うから
あのときから父さんはふさぎ込んでしまって、家にも帰らなくなってしまった
僕には裕美という幼なじみがいたけれども、父さんには誰もいなくて、本当に孤独だったんだと思う

そんな父さんを救ってくれた詩織さんには、僕は感謝の気持ちでいっぱいだ
父さんは今出張でいないけれども、二人は毎晩電話してるし、凄く仲はいい
本当見てるこっちの方が恥ずかしいくらいだけど、あの二人なりにいろんな事を考えたんだと思う

僕が口出しできことじゃないよな
直は口数は少ないけれども、凄くかわいい妹だ
何者も寄せ付けない雰囲気をだしながら、実は寂しがりやな感じがしてついつい面倒を見てしまう

初めてあったときは触れればきれてしまいそうな、そんな感じがして刺々しいんだけど痛々しかった
まるで昔の僕を見ているようで、ほっとけなかったのかもしれない
僕と直の持っていた傷は同じじゃなかったけれど、似ていたからこそ苦しみが伝わってきて

詩織さんはあんま話してくれなかったけれども、直も直で色々あったという話だ
割れたガラスのようなそんな雰囲気が出ていた直

僕にとって裕美がいたように、父にとっての詩織さんがいたように、僕も直を助けたかったんだと思う

直は口数は少ないけれど、昔よりは雰囲気が柔らかくなってる

だから直が僕に段々と心を開いてくれるのが嬉しかった
直の心が少しでもあの暗闇からぬけだせたことに喜びを覚えていたんだ

だからこそ僕はこの新しい家族に、新しい生活に、希望を見出しそれがうまく行くことを願ってたんだ

4

ぼくがいて、かのじょがいて、かーさんがいて、とーさんがいて、おばさんがいて、おじさんがいて。

だけどあのひから、そうあの時から僕の世界は真っ暗になった。
前が見えなくて、昔に戻りたくて、母さんが恋しくて、
誰かに甘えたくて、だけど誰も傷つけたくなくて、僕はそんな世界に閉じこもってしまった。
「ゆーくんあそぼ?」
「ゆーくんごはんたべないとだめだよ?」
僕を心配する彼女の気持ちを軽く見て、誰にも僕の気持ちはわからないと決め付けて。

そしてとうとうある日、僕は決定的に彼女を傷つけてしまった。
その時になってやっと気づくのだ。
僕が母さんの事で苦しんでいたように、彼女も僕の事で苦しんでいたのだと。
まだ幼かった僕はそんな事にも気づけずに、ひたすら彼女を傷つけていた。
いや幼かったなんて言い訳にならない。
自分が傷ついていたからといって、誰かを傷つけていいはずがない。
そんなことに僕は初めて気づいた、いや気づかされた。

だから僕にとって彼女はひたすらに大切な存在なのだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

小鳥がさえずり、目がまどろみ、頭がぼーっとする。
なんだか変な感じで目覚めてしまった。
窓の外はもう明るくて雲ひとつない晴れ晴れとした空だ。
いつもは朝が弱くて目覚ましも効かないから、直に起こしてもらっているというのに
今日はなぜか早起きしてしまった。
なんだか目の辺りに違和感を覚えて触れてみると、水滴がつく。

「涙?」

よく小説なんかで悲しい夢を見ると涙を流すシーンがあるが、僕は悲しい夢でも見たのだろうか?

わからない

ただ昨日の裕美が見せた寂しそうな笑顔が気になって、感傷的になってたのかもしれない。
僕にとって裕美は大切な人なのだ
それに嘘偽りなどない。

だから裕美がなぜ寂しそうにしてたのかはわからないが、僕にとっては気にかかることだったのだ。
だけど悲しいことに僕に他人の感情は掴めない。
考えを理解できない。
鈍いのだ、決定的に他人の感情に。
こういうときそういうのが恨めしい。
彼女の考えてることがわかれば、助けて上げられるというのに。

 

「兄さん?もう起きてたんだ?」

ふと考えにふけっていると、いつのまにか部屋の中に直がいた。
というか僕が一人で起きてることに驚いて、開いた口がふさがらない様子だ。
そんなに僕が一人で起きたことが信じられないのかと、少しショックを感じながらも
直に僕の感情を悟られないように、少し声を明るくしながらベッドから降りる。

「おはよう直。そんなこんなに晴れなのに今すぐ雨が降るなんていうような顔しないでよ。
  僕が起きてたことがそんなに珍しい?」

直も立ち直ったように見えて、まだまだ完全には立ち直れてないのだ。
こんなことで直を心配させてはいけない。

「うん。兄さんってこの世が終わっても一人じゃ起きれない気がしたから。」

なんか直が言うとそれ冗談に聞こえないぞ?
というか朝には弱いが、目覚めはいいほうだぞ僕。
というかなんでそんな残念そうな顔してるんですか直さん。
僕が起きてた事がそんなにショックだったんですか。
それって兄としての威厳を尽くつぶされる感じがするんですが。

「っとこんな事言ってる場合じゃないね。せっかく早く起きたんだし、余裕をもって学校に行こう。」

そういいながらまだ残念そうな顔をする直を半ば強制的に部屋の外に出すと、僕は着替え始めた。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

教室に着くと、いつものように須藤が現れる。
それもいつものように呪いの言葉付で。

「よっ、優磨。憎いね色男。今日も美女二人を引き連れて登校ですか。」

とか大声で言ってくるのだ。
僕としてはたまったものではない。
そのたびに教室中の男子から憎しみと嫉妬が混じった視線を受けることになるし、
隣の裕美は裕美でなんか恥ずかしそうにするしで居心地が悪い。

というか裕美、そんな態度とられるととっても困るんですが。
なんだか僕が直と裕美に二股かけてるダメ男みたいじゃないか。
全く須藤じゃあるまいし、僕に二股する勇気もできるような顔も持ってない。
そんなことを思いながらも自分の席に着く。
須藤が僕の後ろの席なのが恨めしい。

まあ裕美については昨日の出来事だったのでいつものように心配していたのだが
家から出たとき、裕美が待っていてくれたのだがいつものような笑顔で

「おはよう、優磨君。」

と言ってくれたので安心したのだった。

やっぱり彼女は僕にとって大切な人だから、笑って隣にいてほしかったのだ。
とはいっても裕美は大切な幼馴染ではあるが、恋愛対象ではないし、
義妹の直についてはいわずもがなだ。
まさかいくら血がつながってない美人の義妹とはいえ、漫画や小説じゃあるまいし
恋愛対象になるはずがない。

全く須藤のやつ、僕の考えてることを見透かしてるくせにこういうとこ面倒なんだよな。
なんか昨日とか起きてすぐとか、須藤に相談でもしようかと実は悩んでいたのだが、
こいつにわざわざ餌を与える必要はない。
与えてしまったが最後また僕はクラスで針のムシロになるのだ。

というか僕こんなやつに相談しようとしたのがあってるのか心配になってきた。
須藤のやつ何を考えてるのかわからないくせに、時々妙に鋭いことを言って
密かに尊敬したりするのだが、
そんなに鋭いのなら女の子の気持ちくらい気づけという話だ。
毎年のようにあんな悲劇にあっちゃ僕の身が持たない。
それともあいつ女の子の気持ちを知りながらもあえて受け流しているのか?
それならそれで幻滅する話だが、なんとも掴めないやつだ

それでも付き合っているのはあいつといるのが気楽なせいか。
クラスのみんなは用がないのにべらべらと世間話をし、放課後になると毎日のように街へ繰り出す。
それが悪いとは言わないが、いかにもうすっぺらすぎて僕にはあわない。
どうでもいいような周りと話すのは最低限にしたい。
もちろん大事な人である裕美や直や詩織さんや父さんとの何気ない日常は大切だ。
だけどそれをどうでもいいような他人に適用できるかといえば、僕には無理だ。
せいぜい世間話をして、笑顔で周りと合わせるだけ。

須藤もそこらへん同じなようで、みんなのまえでは僕を困らせてはいるが、
基本的に僕個人には興味はない。
だから僕と須藤二人きりになると会話はない。
会話する必要がないほど仲がいい、以心伝心とか言葉がある。
だけれども僕と須藤の仲は逆だ。
会話しなくていいからこそ仲がいい。疲れないでいい。
だから僕と須藤が二人きりになってるところを見た人が言うには
「お前らの空間はいれねえ」「須藤君と弘瀬君ってあれなの?」「三角関係?ってもえるねー」
とかいわれてちょっと顔がひきつったことがある。
あれ以来あんま二人きりにはならないようにしてるが。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

いつものように昼休みを裕美と直と須藤といっしょに屋上で食べた。
またいつものようになぜか裕美と直がかみ合わないのはちょっと諦めていた。
裕美が
「今日のも食べて」と箸であーんとしてくるし、
直はちょっと不機嫌な顔で
「兄さん」とか言ってくるし、
須藤は須藤でいつものように、全てを見透かしたようなすました目で笑いを堪えていた。

ちょっと個人的には勘弁してもらいたい状況だったけど、
昼休みの恒例行事にでもなってしまうのだろうか。

まーそれはいいとして
本題は帰りのホームルームだ。
全く勘弁してほしい。
今は二学期で、僕らは二年生で、来年受験だから今年ちゃんとしたものがしたいのはわかる。
それで劇をしようといったのもわかる。
わかるのだが勘弁してほしい。
配役を決めるとき僕は主役になった。
気乗りしないが主役になった。
だがそこまではいい。問題はそこからだ。
いくら僕が女顔で、いくら須藤と仲良く見られてるとはいえ、なぜ須藤を主人公の男役で
なぜ僕が「ヒロイン」役なのですか。
しかも一部の女子は妙に熱っぽい目で僕と須藤を見くらべてるし、
須藤は須藤でまたいつもの笑いをしているし、
一部の男子と女子は哀れんだ目で僕を見てるし、裕美は少し思いつめた目で僕を見ている。

僕が一体何をしたんだ。なんでこんなことになるんだ。
というか須藤とラブシーンなんて想像しただけで吐き気がするし怖気がする。

 

 

 

神は死んだ

2007/09/07 To be continued....

 

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