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Weekendにさようなら



1

 一日目
あの女が死んでから十数日が経った。愛しい愛しいあの人の家に行くと、
あの人はまるで魂が抜けたようにベッドの上に横になっていた。悲しいことだ。
いくらあの女がただの害虫といえど、唯一の家族だ。だから彼が悲しむのも当然と言えるだろう。
少し、いやかなり苛立たしいけれど。
  でも、そんな女狐ももういない。死んだんだ。……あくまでそれは事故。
駅のホームにいるあの女にちょっとよろけて手を付いたりしたけど、
誰もそれを知らないからそれは事故として処理された。殺人事件な筈がない。事故よ事故、あはは。
  こうやって日記を書いていると、知らず知らずの内ににやにやと笑っている自分に気が付いた。
キーボードの上で指を踊らせながらモニターの前で笑う私は傍目からはきっと変に見えるのだろう。
でもいいの。これであの人に纏わりつく害虫は誰もいなくなったのだから。うふふふふ。
  今日のことを書こう。葬式などの面倒な事柄が終わり、
あの人の家にもようやく静けさが戻ってきたところだ。
あの人はきっと傷ついているだろうから、ここで私が出て行って慰める。完璧な作戦だ。
  私がノックをして部屋に入っても、全く反応を返さないあの人。
その姿に胸がちくりと痛むとともに、半端な心の傷を残して死んだあの女に対する恨みが
湧き上がってきた。もっと早いうちにに『よろければ』よかったなあ。
  ベッドの上で死んだように呆けているあの人を、私は優しく撫でつづけた。
いきなり強く押してはいけない。邪魔者はもういないのだから、
少しずつゆっくりと慰めていけばいいんだ。そうして、今日一日は終わっていった。
  あの人は帰り際に、少しだけ私のことを意識してくれた。少しだけ名残惜しそうな声を発したのだ。
それだけで私は天にも昇る気持ちだ。あの時の表情を思い出すと今でも胸に快感が走る。
……これを書き終わったら少しだけ自分を慰めることにしよう。

 二日目
今日は嬉しいことと憎らしいことが同時に起きた。
  昨日と同じようにあの人の部屋に行くと、あの人は大分落ち着きを取り戻したようだった。
私のことを見ると、どこか安心したような表情をしてくれた。
私を頼ってくれている、そう思うと私も頑張らなくちゃいけないと思えてきた。
彼の想いは私の原動力だ。
  今日も昨日と同じようにあの人を撫で続け、慰めの言葉をかけてあげた。
そうして暫くすると、急に何かが唸るような音が聞こえてきた。
どうやらあの人のお腹が鳴ったらしく、あの人は頬を赤らめながら頭を掻いていた。
その子供らしい可愛らしい仕草に、思わずその身体を抱きしめ唇を貪り股をすりつけ
あの人のモノを咥え……たくなって必死に自制しなければならなくなったほどだ。
  話を戻そう。どうやらあの女が家事の一切を取り仕切っていたらしく、
あの人は料理が出来ないらしい。これはチャンスと言わんばかりに、
私は自らの腕をふるうことにした。
  そして出来あがった私の料理を食べた彼は、とても満足そうな表情を浮かべた。
当然だ。ずっと昔から私はいつか愛する人に食べてもらう為にと料理の腕を磨き続けてきたのだから。
  だけど、次の瞬間私をとても苛々させることが起きた。
料理を食べていた彼がふとその手を止め、遠くを見るようなさびしそうな眼で
「また、お姉ちゃんの料理食べたかったなぁ……」
と洩らしたのだ。その後すぐに済まなそうに謝り食事を再開したのだが、
私の心に一瞬にして妬みの炎が黒々と燃え上がってしまった。
  あの女、どこまでこの人の心に巣食えば気が済むのよ……!
  邪魔者の癖に、死人の癖に、血の繋がった姉の癖に……!
  だけど、私はその想いを表に出さないよう必死でこらえた。私にとって彼女は
『愛する人のお姉さん』で『不慮の事故で亡くなってしまった可哀想な人』なのだから。
間違っても『憎い女狐』や『邪魔者』ではない。
  怒りを必死に内側に押し殺しながら、食事は終わり、今日は帰ることになった。
  焦ってはいけない。いくらあの人の心に巣食っていようと、もうあの女は死んだんだ。
だから、ゆっくり確実にあの人を私の物にすればいい。
  まだ、始まったばかりだ。

 三日目
嬉しい! あの人が私の名前を呼んで、微笑みかけてくれた!
  いつものようにあの人の家に行き、あの人の部屋のドアを開けた。
あの人が私の姿を見ると、ぱぁっと花が咲くような笑顔を見せてくれた。
その笑顔はとても眩しく、性欲とかそういうものではない、
もっと純粋に『この人を愛していきたい』と想わせるような輝きを秘めていた。
ああ、可愛い、可愛いよ……。
  あの人も大分落ち着いてきたようで、以前のように微笑み、笑いかけてくれる。
さりげなくあの人のすぐ隣に座り、その可愛らしい仕草の一つ一つを目に刻みつけた。
あの人の匂い、あの人の身体つき、あの人の髪の柔らかさ……。
  全身であの人を感じていると、ふいにあの人が話しかけてきた。
「ねぇ、なんで君はこんなに僕に優しくしてくれるの……?」
愚問だ。全くこの愛い子はにぶちんだなぁ、そこが可愛いのだけど。
疑問を持つあの人に、優しく語り掛けるように離しかけた。
「それはね、私にとってあなたがとても、とっても大切な人だから。
大切な人が悲しんでいたら助けてあげたいと思うのが当然でしょう?
  だからいいの。私がいつでも守ってあげるからね」
そう言い放つと、あの人は少し戸惑っていたけど、でもとても嬉しそうに
「うん、ありがとう……」
と返してくれた。その一言は私の股間を刺激するには充分過ぎる威力で、
家に着いた後の私を全力で慰めさせたのは言うまでもない。
  今日は撫でることはせず、一緒にお話をしたり、お掃除をしたりご飯を作ってあげたりした。
これって、よく考えれば『通い妻』ってやつだよね……?
  あはっ、あははは! 嬉しいなぁ、やっぱりあの人には私が一番ふさわしいものね!
  あんな女じゃない、私が一番なのよ! 私ならあの人をずっと愛していられる、
私ならなんでも出来る、そう、子作りだって……。姉で死人なあの女に
は何一つ出来ないでしょうけどね。あはは。
  そうだ、今度食事にお薬でも混ぜてみようかしら。あの人がいくらまだ幼くても、
いくら女の子のような可愛い顔をしているとしてもれっきとした男だし、
外堀から少しずつ埋めていけばきっと私のことを身体で愛してくれるはず……。
あの人が望むならちょっと変態ちっくな、縛られたりお尻の穴を使ったりとかもしてあげちゃう、
私の身体はあの人の物だから……。
  あは、あはははは! 夢が膨らむなぁ。それも殆ど実現したようなものだし。
さぁ、明日は何をしてあげましょうか。

 四日目
  いつも通り家に行くと、今日はあの人はベッドで眠っていた。
その可愛い寝顔をひとしきり堪能したあと、私は部屋の掃除をすることにした。
昨日はキッチンやお風呂場だったから、今日のあの人の部屋を掃除しようと思ったのだ。
  あの人が寝ているから音の出る掃除機はまだかけられないので、
軽く物を整理しようと思ったときのことだ。机の上の本棚に、妙に分厚いタイトルの無い本があった。
手にとって見てみるとそれは日記のようで、今日と昨日の境目にしおりが挟んであった。
  あの人の日記。もしかして私のことが書いてあって、嬉しいなありがたいなとか書いてあるのかな
もしかしたら私のこと好きってああそんな訳無い好きはまだもう少し先だでももしかしたら……
なんてのんきなことを日記を手に取ったときは考えていた。
  しおりのあるところを開くと、日付から昨日の事が書いてあると分かった。
内容は……ああ! 思い出しても苛々する! あの女、あの女……! この苛々を忘れない為にも、
日記の内容をここに書き出しておくことにしよう、内容は、一字一句余すことなく頭に入っている。

 今日も頼子さんが家に来てくれました。毎日家に来て、昨日はご飯まで作ってくれました。
すごくありがたいけど、どうしてそこまでしてくれるのでしょうか。
彼女にとって僕はちょっと不幸なただの子供だというのに。
気になったので、聞いてみることにしました。
  すると、頼子さんは僕のことがとても大切な人だと言って、優しくほほえみかけてくれました。
それは嬉しいことなのだけど、お姉ちゃんのことを思い出してしまって少しさみしいです。
  お姉ちゃんも、生前は僕のことを「とても大切な人だから、
お姉ちゃんがずっと守ってあげるからね」と言ってくれてたから、
やっぱり思い出さずにはいられません。嬉しいけれど、さみしい。
  ずっと守っていてくれるって言ったのに、なんで、なんで先に行っちゃうんだよぉ……!
  お姉ちゃん……さみしいよぉ……!
  もう枕を濡らしたくなんか無いのに、今日もまた夜に泣いてしまいました。

 あの女狐! 飼い殺しにしてた癖にずっと守るだなんてふざけたことをあの人に吹きこんで!
  あの人を一番大切に思ってるのはお前じゃない! 私だ!
  しかも、ページの下の方には水滴が数滴落ちて、ページを滲ませていた。
きっとあの人は日記を書きながら泣いていたんだ。あの女、あの女、あの女……!
  あの人もひどいよ! 私が一生懸命尽くしてるのに、まださみしいの?
  もっともっとしてあげないとだめなの? 朝も、昼も、夜もずっと側にいてあげればいいの?
  もっと、もっと、もっと!
  一ページを読んだところであの人が眼を覚ましかけたので、急いで本を本棚にしまい、
掃除を再開することにした。
  その日はいまいち気分が乗らないまま一日が過ぎて行った。
どうすればあの人の心から女狐を取り除くことが出来るだろうか。
どうすればあの人に私だけを見てもらえるのだろうか……。

 五日目
苛々する。すごく苛々する。あの女、あの女、あの女! あの人に何を、何を!
死体の癖に、女狐の癖に! 許せない! 許さない! なんであの女なのよ!
私じゃなくて!
  ……落ち着け、落ち着くんだ私。日記にやつ当たりしても仕方がない。
落ち着いて今日あったことを書こう。今日もちょっと早めにあの人の家に行って、
日記を読むことにした。昨日は一ページしか読むことが出来なかったから、
今日はも他のページも読んでみよう、と。

 今日は頼子さんが来てくれて、なんとご飯まで作ってくれた。
お姉ちゃんが死んでから、本当に適当な物しか食べてなかったからすごく助かった。
でも、人の手で作られた食べ物を食べると、やっぱりお姉ちゃんのことを思い出してしまう。
  ああ、お姉ちゃんの作ったご飯がまた食べたかったなぁ……。お姉ちゃん特製のシチュー。
お姉ちゃんが生地から作ったパン。お姉ちゃんが……。
  ここまで考えたところで、頼子さんがすごく暗い顔をしてるのに気がついた。
もしかして声に出てたのかな……。そうだとしたら、作ってくれた本人の前で
違う人の作る料理の事を考えていたのだからとても失礼なことだ。悪いことをしてしまったなぁ。
  ご飯を食べ終わり、頼子さんは家に帰っていった。
その後、お姉ちゃんのことを思い出してまた泣いてしまいました。ああ、僕は情けないなぁ。

 今日は目が覚めると、頼子さんがもう家にいました。どうせもう僕しかいないし
わざわざ鍵をかけるのも面倒だったから入れて当然だけど、ちょっとだけびっくりしました。
  なんだか頼子さんは気分がよくないみたいで、一日中暗い表情をしてました。
やっぱり本当は僕の家に来るのは面倒なんじゃないのかな……?
  最近は毎日来てるし……やっぱり大変なんだろうなぁ。
  頼子さんの、そして何よりお姉ちゃんのためにも早く元気になら……なれ……
やっぱり無理だよ……お姉ちゃんはもういないのに……。
  思わず泣いちゃったけど、雫が日記に落ちなくてよかった。
これでお姉ちゃんが死んでから毎日泣いてるなぁ……あはは……。

 ああ! あの人は私に隠れて毎日泣いていたのだ! もういない姉を思い起こして!
  早く忘れればいいのに、早く私だけを見ればいいのに!
  どうしても我慢できなかったから、眼を覚ましたあの人に少し説教をすることにした。
今思い出してもすごくすごく苛々する!
「ねぇ、お姉さんがいなくなってさみしい?」
「ど、どうしたの? 頼子さん、いきなり」
「寝顔をちょっと見てたけど、泣いてたよ……?」
「え? そ、そうかな?」
「早く忘れて、元気になりなよ……。お姉さんもきっと早く元気になって欲しいと思ってるよ。
例えお姉さんを忘れることになっても、幸せになってと思ってる筈よ」
「……」
「ね? そうだ、今日はどこか外へ行ってご飯食べましょうか。私美味しい店いくつか知ってるよ?
  それにお買い物もしましょうよ。いっしょに明日のご飯の材料を買おう?」
「……お姉ちゃんはそんなこと言わなかった」
「……え……?」
「いつもお姉ちゃんは、『もし私がいなくなっても、ずっと私のことを覚えててね、
私のことを忘れないでね』って言ってた……。だから……そんなにすぐ元気にはなれないよ」
「そ、そうよね……ごめんなさい……。私急用思い出しちゃったから、今日のご飯作ったら、
今日は行くね」
「うん、ごめんね……頼子さん」
「いいのよ、私が悪かったんだから、ね?」
「うん……」
「それじゃ」

 ああ、悔しい、悔しいなぁ! それに憎い! あの女、死んでまであの人を縛り続けるなんて!
  死んだら早く消えなさいよ! 死んで灰になって埋葬された癖に!
  あの女狐、何よ、何よ、何よ! もう私に譲りなさいよ!
  生前何年もあの人を縛り続けたんだから!
  もう我慢出来ない。このまま放っておいたらいつまでたってもあの人は
女狐の幻影を追い続けることになるかもしれない。今の内に私の物にすべきだ。
早急に、即急に、今すぐに。
  私の部屋の本棚の上の鍵付き宝箱の底敷きの裏にしまってある、
インターネットの怪しいサイトで購入した秘蔵の薬を使おう。あれを明日の夕食に混ぜれば、
きっとあの人も獣になる。それを私が受け止めて中に出してもらえば、もう既成事実だ。
ちょっと自分で慰める時に使ったけど、まだ充分に余っている。
  あの人は、私の物だ。

 むいかめ
あああああああのひとに拒否されたああああああ
くすりを混ぜて、あの人が苦しそうにして、わたしももう我慢出来ないからそっと横に座って、
瞳を潤ませるあのひとの顔に、我慢できなくて、おしたおしたら拒否されて、お姉ちゃん助けてって!
  僕の身体はお姉ちゃんだけのものだって
あああああああああなんであの女実の姉の癖に肉体関係をあの人を抱いてあの人に抱かれて
あああああああなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで私じゃないんだなんであのめぎつねなのよおおおおお
ああああああなんでわたしじゃないのわたしとあいつのどこがどこがちがうのよぉぉおおおおおおおお
おおおおおなんでなんでなんでなんでなんでわたしじゃないのあのおんなよりやさしくしてて
あのおんなよりきれいでスタイルもよくてわがままもいわなくてなによりあなたをこんなに
あいしているのになんでわたしじゃないのわたしじゃだめなのわたしのどこがいけないn

 

 ……ああ、そうか。何が違うのか分かった。私は勘違いをしていたようだ。
そういえばとある漫画にもそんな台詞があったなぁ、あはは。そうと決まれば早速準備をしに行こう。
あの人の待つお家へ。

 夜が明けた。私は目前にいる、軽く縛られたあの人の柔肌を眺めながら
ちょうど十回目の絶頂を迎えたところだ。本当ならあの人の身体を使いたいが、
無理に動かしてあの人を起こしてはいけない。
「ん……う……」
あの人が眼を覚ましそうだ。ずり下がった下着を直し、ベッドの前に置かれた椅子に座りなおした。
「ほら、もう起きて、朝だよ」
彼に手をかけることはせず、優しく呼びかける。暫くもぞもぞと動いた後、あの人は目を覚ました。
「ん……あれ? 頼子さん? どうしたのこんな早……あれ? これ何?」
「うふふ、おはよう。今日はとても重要なお話があってきたの」
「え? そ、それはいいけど、この縄何? なんで僕縛られてるの?」
「それは大丈夫、ちょっと緩めに縛ったから三十分くらいあれば自分でほどけるわ」
「え? これ頼子さんがやったの? なんで? え?」
「……なんで私が選ばれなかったのか、私とどこが違うのか……。これだけ貴方を愛しているのに、
なんで報われないのか。その答えは、死は終わりじゃないってことよ。
人が死ねば、その人は思い出となり美化されて永遠に記憶に残る。
『生きていれば、いろんな欠点も見えてくるだろう。でも死人は無敵だ』ってね。
それを知らなかった私が愚かだった。だから、だからね……」
用意した包丁を手に取る。それがあの人の目に入った途端、あの人は表情を一変させた。
ああ、驚いたその表情も可愛いなぁ。
「え……? ね、ねぇ頼子さん! その包丁で何をするの! だ、だめだよやめてよ!」
「私も死ねばいいのよね」
包丁で、腹部を切り裂いた。

「うわああああああああ!」
あの人の悲痛な叫び声が聞こえてくる。これで私のことはあの人の心に一生刻み付けられる筈だ。
無理矢理監禁して私の物にするという手もあったが、私は心が欲しいんだ。
勿論身体だって欲しいけれど、一番重要なのは心だ。
あの人に無理矢理ひどいことをして嫌われたら死んでも死にきれない。
だから、これであの人の心の中に一生住み続ける。
あの人は、一生私のことを想いながら生きていくんだ。こんなに嬉しいことはない。
「うふふ、うふ……ごふっ、ああ、痛い、痛いなぁ」
「頼子さん! 頼子さん! これほどいてよ! 救急車呼ぶから! だから死なないでよ!
  止めてよ! なんでこんな、こんなことするんだよ!」
「あなたを愛しているからですよ……げふっ、私は、あなたを、こんなに愛しているのに……
あなたは私を見てくれない……だか、ら、げほっ……あなたが見続けている人のいる所に、
私が、がはっ、代わりに、行けば、私を見て……くれます……よね……」
口とお腹から漏れた血が周囲に広がり、部屋はしだいに赤く染まって行った。

「頼子さん好きだから! 僕も頼子さんのこと愛してるから! だから死なないでよ!
  死んじゃ嫌だああああああ!」
「ごほっ、わた、しのこと、だけ、を、あいして、くれます、か?」
「愛してる! 頼子さんだけを愛すから早くこの縄を、救急車を呼んでよ!」
「あ、あはっ……うれ、しい、うれし、い、なぁ……あはっ、あはは、あは……」
「頼子さん! 早く、早く救急車を、頼子さん!」
「ね、ねぇ……さい、ごに、き、す、して、も……げふっ、いい、です、か……」
「いいよ! キスだっていくらでもしてあげる! 元気になったらキスもするよ、
一緒に住んでもいいよ、セックスだってするよ! だから止めてよ! 死なないでよ!
  最後だなんて言わないで!」
「あはぁ……うれ、しい……」
目もかすみ意識も薄れてきたが、必死にあの人の元へ這い寄る。あの人は私に説得を続けながら、
未だに必死の形相で縄を外そうとしている。かわいいなぁ。そんなあの人の唇に、そっとキスをした。
口から漏れた血があの人の唇に付き、美しく深紅に唇を染め上げた。
「う、ふふ、わた、し、の、ふぁーすと、きす……だい、じに、して、いきて、
くだ……さ……い……ね……」
そろそろ限界のようだ。姿勢を維持することが出来ず、ベッドの脇にべちゃりと崩れ落ちた。
「頼子さん? ねぇ、しっかりしてよ! 頼子さん! 頼子さん!」
「わた……し……は……ずっ……と……ずっ……と……あな、た……だけを……
あいし……て……いま……」
「頼子さん! 頼子さん! 返事してよ! 死んじゃ嫌だよ! ねぇ頼子さん!」
大好きなあの人が私を呼び続けるる様を体で感じながら、私の一生は幕を閉じた。

2007/05/11 完結

 

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