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小さな恋の嫉妬物語



前編

ランドセルを背負った影が3っつ。
男の子が1人。
その両脇に女の子が2人。
仲良く並んで登校…遠目から見たらそう見えるであろう。

「ちょっと!引っ張らないでよ!」
右の女の子が左の女の子に向かって怒りをぶつける。
「そっちこそ!くっつき過ぎなんじゃないの!」
左の女の子が右の女の子に向かって怒りをぶつける。
「……はぁ。」
真ん中の男の子は溜息を吐き出し、がっくりと俯く。
男の子の右腕にしがみ付いてる女の子は、髪をツインテールにして、きつそうな印象を与える女の子。
男の子の左腕にしがみ付いてる女の子は、髪をショートにした、活発な印象をあたえる女の子。
どちらも与える印象は違うが、よく似た顔立ちをしていた。
恐らく双子であろう。
双子は互いに腕を引っ張りあいながら歩き。
男の子はその様子を諦めたかのような沈んだ顔で見ようともせず、ただ溜息をつく。

「大体なんであんたがいるの!早く起きた方が一緒に登校するって勝負したじゃん!」
「起きた時間は同じだったでしょ!」
「嘘言わないでよ!私の方が2秒早かったんだから!!」
「いーえ!本当はあんたより先に起きてたけど布団から出られなかっただけだもん!」
「この嘘つき!!」
「そっちこそ!!」
終始そんな調子で、教室で先生に怒られるまで双子は喧嘩を続けていた。

男の子は「相葉巧」
ツインテールの女の子は「北条有香」
ショートの女の子は「北条美香」
3人はどこに行くのにも一緒の、産まれた時からの幼馴染。
3歳まではただの幼馴染という関係だった。
それが崩れたのは6年前。
3人が3歳になった頃。
ある時、相葉家で飼っている犬が双子に噛み付いてきた。
元々双子には懐いてなかった犬だったが、その時は機嫌が悪かったのか、
いきなり強い力で噛み付いてきたのだ。
双子はあまりの痛さに泣き喚く。
犬は大型犬、まだ3歳の女の子は身を守る術すら知らず、ただ恐怖と痛みに泣くしか出来なかった。
丁度両親達も不在。
双子はあまりの恐怖に固まり、もうダメだと覚悟した――――その時。
「いじめるの、ダメ!」
双子と犬の間に割って入り、精一杯の勇気で立ち向かう巧。
その時から、双子の恋は始まった。

それ以来、双子は常に巧にべったりくっつき、
今ではどちらが一緒にいるかで喧嘩するのが日課となっていた。
だがその双子にも最近注意しなければならない相手……
つまり『ライバル』と呼ばれる者が現れたのだ。

「にいたんにいたん!!」
「ただいま、遥。」
小さな女の子が開いた玄関目掛けて走り、嬉しそうな表情で巧に思いっきり抱きつく。
その様子を双子は巧の後ろから睨みつける。
そんな双子には目もくれず…というか、最初から居ないかのように全く気にしていない様子の女の子。

相葉巧の妹、相葉遥。
弱冠4歳にして、双子にライバルとして認識されている(双子にとっての)危険人物である。

「にいたんにいたん。」
「なぁに?」
巧は遥と目線を合わせる為、しゃがみこむ。

「(あ、あんなに顔を近づけて…!)」
「(私だってあんなに顔近づけた事ないのに!)」

双子は揃って唇を噛み締める。
遥は小さな手を開き、小さな輪っかを巧に差し出す。
「ゆいわ!作ったの!にいたんのよ!」
「お兄ちゃんに作ってくれたの?ありがとう!大事にするよ。」
にっこり微笑み、巧は嬉しそうに遥の頭を撫でる。
「ゆいわかして!はるかがにいたんにつけゆの!」
そう言い、巧の手から指輪らしきものを取り上げる。
「うん。じゃあお願いするね。」
双子に嫌な予感が走る。
「えへへ…にいたんとはるかのだいじだいじのゆいわ〜♪」
そんな歌を歌いながら左の薬指に指輪をはめていく。
「つぎはにいたんがはるかにゆいわつけて〜。おんなじとこによ。」
はいっとお揃いの指輪を渡し、にっこり微笑む。
「はいはい。じゃあつけてあげるね。」

「「(これってまさか…!?)」」

双子の嫌な予感は的中した。
これは俗に言う、結婚式ごっこというやつだ。
巧はどうやら気づいてないようだが、遥はわかっていてこれをやっているのだろう。
双子はなんとしてでも止めようと、2人に駆け寄る。
だがそこに白い影。
「ワンッ!」
「「ひっ…!」」
昔、双子を噛んだ犬だ。
双子は噛まれてからというもの、この犬が大の苦手になってしまったのだ。
犬はまるで2人を守るかのように門番の役割を果たす。
そうしている内に巧は遥の小さな指に指輪をはめようと、遥の手をとる。
「「あああぁぁ〜〜〜!!!!」」
指輪は遥の左の薬指にはまる。
それを嬉しそうに、子供とは思えない程『女』の表情を浮かべて喜ぶ遥。
「こえでにいたんとはるかはずっといっしょなのよ。」
「そうだね、お兄ちゃんはずっと遥の傍に居るよ。」
巧は遥の頭を優しく頭を撫で、愛しそうに目を細めて見つめる。
その姿はどこからどう見ても仲の良い兄妹にしか見えなかった。
――が、そうは見れない者が2名。
双子は握り拳を作り、悔しそうな目でそれを見つめながら逃げ去るかのように玄関の戸を閉めた。

その様子を俯きながらも横目で見ていた遥は。
口の端を吊り上げ、双子を嘲笑うかのような微笑を湛えていた。

「なんなのよあの子!!!!」
有香はベッドにあったクッションを掴み、思いっきりドアへと叩きつける。
その反動でツインテールの髪が揺れる。
「ああーーーー腹立つ!!絶対あいつ見せ付けてた!」
美香は机を強く叩き、悔しさを露にする。
「何も知らない私の巧君にあんな事して………!!」
「…ちょっと、今聞き捨てなら無い言葉が聞こえたんだけど?」
「気のせいじゃない?」
しれっとシラを切る有香。
「言っておくけど、巧君は私の物なんだからね!あんたの物じゃ絶対ないから!
っていうかありえないから!」
美香も負けじと言い返す。
「何よこの男女!あんたみたいな女巧君が相手にするわけないじゃない!」
「なっ…!なんですって!私とあんたなら、巧君が相手にしないのは蟹女の方でしょ!」
「蟹言わないでよ!この髪型気に入ってるんだから!」
そう言い、有香は2つの髪の束を掴んで睨む。
「何度でも言ってやるわよ。この蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹蟹!!!!」
「言うなって言ったでしょーがーー!!」
思わず掴み掛かろうとするが、はっと先程の光景を思い出し。
「…こんな事してる場合じゃないじゃない!」
「それもだったわね…。」
双子は真剣な表情で黙り込む。
「……いっそあんな子、居なくなっちゃえばいいのに…。」
ボソっと、美香が呟く。
「…!?」
有香が何かを思いついたかのような表情をし、まるで悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべ。
「それよそれ!」
「は?」
「あの子が居なくなればいいんだ。そしたら巧君は安全になる!」
「それはそうだけど、でもあの子が勝手に居なくなったりするわけないよ。」
「そんなの私だってわかってるもん。だからさ…。」
双子は顔を近づけ。
「あの子をどこかに置いてきちゃえばいいんだよ…。」
「ええーーっ!?」
思ってもみなかった有香の言葉に、美香は若干の戸惑いを覚えるが。
遥が居なくなった時の事を考えると、それもいいかと思い。
「…いいアイディアかも、それ。」
双子は互いの顔を確認し合うかのように見つめ、固い決心を秘めた目で頷き合う。

さて、双子は愛しい彼を泥棒猫の魔の手から引き離す作戦を思いつく事が出来るのでしょうか。

後編

二段ベッドの下段にショートカットの女の子。美香。
2つ並んだ勉強机。その1つの椅子にツインテールの女の子。有香。
部屋はペアになっている物が多く、2人の少女のそっくりな容姿と相まって全てがペアになった
不思議な空間となっている。
今この女の子らしい可愛らしい部屋には似つかわしくない空気が漂っている。
それは部屋の主である2人の少女の真剣な眼差しと、
その背後から滲み出ているかのようなどす黒いオーラによるものであろう。
先に口を開いたのはツインテールの女の子だった。

「で、どうやってあいつを巧君から離すかだけど…。」
「うーん、正当にいってもあいつ結構頭いいから…。」
「こういう時は作戦を考えるのよ!」
「作戦………。」
有香と美香はそっくりな顔で暫く宙を仰ぎ、考えを巡らせていた。
と、美香がゆっくりと口を開く。
「…こんなのはどう?」
「なになに?」
有香はわくわくしながら顔を近づけ、美香の思いついた言葉を待つ。
「今度巧君と出かける約束あったでしょ?その時に、あいつだけ違う電車に乗せるの。」
どうだ!と、自信満々に言い放つ。
だが有香の表情はどこか不満そうだ。
「…つまんない。」
「はぁ?」
「つまんないわよそんな作戦!」
「つまんないってあんたねぇ……。」
「そんな作戦却下!だ〜い却下!」
腕で大きくバツを作り、断固拒否の意志を貫く。
美香は呆れの篭った大きな溜息をつく。
「じゃああんたは何かいい作戦思いついたの!」
「ふんっ、当然じゃない。」
「言ってみなさいよ…。」
不満気な顔でベッドに座りなおし、腕を組む。
「聞いて驚くんじゃないわよ……。」
「う、うん…。」
ごくりと生唾を飲み込み、何を思いついたのかワクワクしながら言葉を待つ。

「あいつをダンボールに入れて、誰かに拾ってもらうの!」
「……。」
美香は呆れと落胆の表情で有香を見つめる。
「な、何よ、『拾ってください』って書けば誰か拾ってくれるでしょ!」
自分を見つめる目に呆れが篭っているのに気づいたのか、慌ててフォローする。
が、逆効果であったらしく、美香の呆れの色は益々濃くなる。
「…あんたばっかじゃないの。」
「なっ!バカにバカって言われたくない!」
「犬猫じゃないんだから、そんなのに引っかかる奴いるわけないじゃん。」
「う…、でももしかしたら拾ってくれるかもしれないじゃない!」
「ありえない!」
「そんな事無い!」
2人はそっくりな顔を近づけ、互いに睨みつける。
「……じゃあいいわ、妥協してあげる。」
「妥協って………まあいいけど。」
このまま喧嘩を続けていても平行線になるだけというのは互いによく解っているらしく、
喧嘩は中断する事となる。
「あとは、あの子を教会に預けるとか!」
「教会?」
何故教会が?と、美香が疑問を持つのも仕方が無いだろう。
それ程有香の発言は意味不明だった。
「漫画とかでよくあるじゃん。教会で拾われた子が施設で育って〜…っていうやつ!」
「あんたさぁ…。」
今回二度目の、大きな溜息を吐き出した美香であった。
「これなら文句ないでしょ!」
美香とは対照的に、胸を張って自信満々の有香。
「文句っていうか、どこから突っ込んだらいいのかわかんないよもう。」
「む、それどういう意味よ。」
「その通りの意味!あんたの作戦どれもダメ過ぎ!!」
「なっ、なんですってぇ!」
「どれも実行したら警察に保護されて終わりでしょ!」
「…そ、そう?」
「そう!!」
途端に自信がなくなったのか、有香はしょんぼりして心なしかツインテールの跳ね具合も
悪くなったような気がする。
「もう私の作戦に決めるからね。」
「な、なんであんなパッとしない作戦なのよぉ…。」
「文句言わない!あんたの作戦は穴だらけなんだから私の使うしかないじゃん。」
「……むぅ……わかったわよぉ……。仕方ないから妥協してあげるわ!」
不満そうにフンッと鼻を鳴らし、美香の立てた作戦に同意せざるおえない現実を受け入れる。

かくして、双子の作戦は決まったのであった。

数日後―――。

「巧君早く〜!」
「早く来ないと置いてくよー!」
「ま、待ってよぉ……。」
「にいたんまってまって!」
有香、美香、巧、遥の4人は電車の改札を走りながら通っていく。
有香の手には可愛らしい袋がぶら下がっており、買い物をしてきた帰りだというのが窺える。
だが4人が駆けるのにはまだ若干時間が早い。
まだ電車が発車する時間ではない筈だが…これこそが、双子の立てた作戦の一端であった。

「もー、早いよ2人とも…。」
走るのが遅い遥を抱えながら、階段を駆けてきた巧は息を切らし、
その様子を遥が心配そうに見ている。
「にいたんいじめるのだめ!」
頬をむっと膨らまし、双子を睨む。
双子はそんな遥には目もくれず、目当ての電車を目で追う。
双子の目が1番線のホームに止まっている電車で止まる。
どうやらこれが目当ての電車のようだ。
「ほら、電車来てるよ。」
「早く乗ろうよ。」
双子は互いの顔を見合わせると、巧の腕を強引に掴んで電車へと乗せる。
そのすぐ後から遥がとてとてとついてくる。

4人は一番前の車両に向かう為歩いている。
それは作戦の為であった。
車内には人が殆ど居ず、巧はその様子を見て首を傾げる。
「ねぇ、ホントにこの電車で合ってるの?」
双子は動揺を表に出さぬよう勤め、笑顔を浮かべながら。
「「気のせい気のせい。」」
なんとか巧を安心させようとする。
巧は2人の動揺に気づきもせず、言われた事を鵜呑みにして安堵の表情を浮かべる。
「そっか、僕の気のせいだったんだね。」
双子はほっと胸を撫で下ろす。

「…ああぁぁぁ〜〜〜〜!!」
突然、有香が少々わざとらしいすっとんきょんな声を上げる。
その声は車内に響くが、そもそも車内に人影はあまりなかったせいか、注目される事も無く。
ただ、巧、遥を除き、その声に驚く者はいなかった。
「有香ちゃんどうしたの?」
「あ、あのね、私の買った物がないの……もしかしたらどっかに落としたのかも。」
確かに有香の手にあった可愛らしい袋はいつの間にか無くなっている。
「大変じゃない!急いで探そう!」
「そうだね、折角買ったものだし。」
3人は落としたであろう物の話題でいっぱいだったが、
1人興味なさそうに持参したお菓子を食べ始める遥。
「ねぇ、もうすぐ電車出ちゃうから3人で探しに行かない? 遥ちゃん可哀想だし…。」
「それもそうだね。 遥、ちょっとの間待っててくれる?」
遥は巧に話しかけられるとやっと3人の方を見て。
「うん、はるかまってゆよ。」
にっこり、可愛らしく微笑む。
巧はその笑顔を見て安心した様子で。
「じゃあ待っててね。すぐ戻ってくるから。」
遥の頭を優しく撫でる。
双子はその様子を内心憎らしく思いながら、作戦実行の為にさっさと歩き出す。
2人を追うようにして巧もすぐ後ろからついていく。

3人は車内をくまなく探すが、目当てのものは一向に見つからなかった。
それもその筈、その袋はホームに有香が置いてきたのだった。
これこそが双子の作戦。
電車が発車するギリギリに袋を発見し、それを取りに行くと電車のドアは閉まり。
残された遥1人だけが家の反対方向に行く事となる。
双子は小声で会話をする。
「ねぇ、この電車どこに行くの? 遠くじゃないとあいつ戻ってきちゃうかもよ。」
有香がツインテールを揺らしながら囁く。
「その辺に抜かりは無いわ。 山鈴村って辺鄙な村に行くみたいだからこの電車。」
美香がショートに切り揃えた髪を揺らしながら囁く。
「ふふふ…あいつの泣き叫ぶ声が聞こえるようだわ…。」
「巧君を独り占めした罰よ…。」
双子は10という歳には似つかわしくない黒い笑みを浮かべながら、
想像の中の泣き叫ぶライバルを嘲笑う。
「そろそろ時間ね……いくわよ美香!」
「いつでもいいよ…有香!」
そして、作戦決行の時がやってきた。

「あああーー!」
有香がホームを指差す。
「どうしたの有香!」
少しわざとらしく美香が駆け寄る。
「あったー!あったよ巧君!」
「よかったね有香!巧君、行こう!」
2人は後ろに居た巧に向かって振り向く。
――が、そこには後ろに居たであろう巧は居なかった。
2人は目を丸くし、固まる。
だがその2人をもっと驚愕させるものが目に映る。

「おーい!有香ちゃん美香ちゃん!」
巧の声が背後から聞こえ、2人は急いで振り向く。

何故かホームに居る巧の姿と…その手には探していたはずの袋。
そして、その隣には罠に嵌めようとした筈の遥の姿が…。

プルルルルルル―――――。

扉が閉まるベルが聞こえ、2人を乗せたまま電車のドアは閉まり、
目的に地に向かう為電車は走り出した。
その間2人は固まったままだった。
2人が現実を理解したのは電車が走り出してからであった。
最後に見たホームの2人は、1人は慌てた様子で電車に駆け寄ろうとし。
もう1人は可憐な、歳相応の笑顔を浮かべ、双子に向かってその小さな手を振っていた。

「「なんなのよぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!」」

双子の絶叫は車内に響き渡った。

その後、山鈴村に到着した双子は泣きながらホームの周りをうろつくが、人一人来る事は無かった。
日も暮れ、辺りがオレンジ色に染まってくると1人の女性が彷徨っている双子に気づいた。
その女性は双子に事情を聞き、警察へと連絡を取ってくれた。
そして双子はその女性から色々な話を聞いた。
泥棒猫の撃退方法、好きな男の子への誘惑方法等等…。
およそ10歳の子供では理解できないであろう内容ではあったが、2人は真剣に耳を傾けた。
警察が到着し、別れ際にその女性はこういった。

「大丈夫だよ、男の子は女の子の身体には弱いの。だから2人とも、女の武器はちゃんと使うんだよ。」

その言葉は双子の頭にしっかり刻み込まれた。
女性は花のような笑顔を浮かべ、栗色の髪を揺らしながら振り向く事無く帰っていった。

家に帰ると両親にこっぴどく怒られ、翌日には学校中に知れ渡る事となっていた。
誰か……恐らく遥が流したであろう噂話は、双子をしばらく笑い者にさせたのだった。

だが双子は諦めてなどいなかった。
巧を遥から引き離す、その心は忘れず。
2人はいつもの、喧嘩の耐えない日々へと戻ったのであった。

2007/04/20 完結

 

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