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タフは男の生存条件



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「ぐおおおおおおおおおお!!」
気合の一声を振り絞る。腕に力を込め、両腕を引き上げようとするけど無理だった。
それでも何とか全ての力を抜ききることだけは避けようと、
浅い呼吸を繰り返して体制を維持しようとする。尋常じゃなく苦しい。
「見なさいよ!一太がすごく苦しそうじゃないの!あんた落ちなさい!!」
「拒否します!!先輩が苦しそうなのは見るに耐えませんが、落ちるのは貴方であるべきです!!」
現在、俺の腕にぶら下がっている『錘』たちがなにやら叫んでいる。
それすらも、ちょっと遠いところに聞こえてきそうだ。ああもう意識を保てないのだろうか。
そもそも、何で俺ぁこんな超ド級のピンチに陥ってるんだっけか?

あれはついさっき。何事もない至ってふっつーの昼休み。
屋上で、俺に懐いてくれてるかわいい後輩と昼飯食ってたら、何となくいい雰囲気になって、
「先輩…私と付き合ってくださいっ!」
なぁんてかわいい告白されちゃって、そうそうこの時点までぁ俺は有頂天だったんだ。
問題はここから先。いきなり屋上のドアがバーンと開いて、
「ちょっとまったーーーー!!」
って実に惚れ惚れするセリフがとどろいたんだよな、うん。
声の主は幼稚園からの幼馴染の和美で、こいつも俺のことが好きだったらしい。
お前、そういうのはもうちょっと分かりやすい態度で示してくれよ、
って言ったらこの鈍感野郎!と和美に怒られて、
私を無視しないでください!とこちらもお怒りの後輩、千恵ちゃんにも怒鳴られて、
どっちを選ぶべきかちょっと悩んでたら二人に襟首掴まれて迫られて、
で、そうそう。俺が屋上の端に足引っ掛けて、
押し寄せてた二人が勢いそのまま屋上から落下しそうになったんだよな。
で、何とか二人が落ちる前に二人の上着を掴むのに成功し、
俺は今こうして未曾有の危機に陥ってるわけだ。

酸素の供給がヤバイ状態でよく回想できました、俺。
「一太、あんたもう右腕振り払っちゃいなさい!こういう時は事故だから仕方ない、
ってことで別に見捨てても罪になんかならないから、ねっ!」
「先輩!今の聞きましたかッ!こういう時は、こういうの言い出した奴から落とすべきだと思います。
その方が良心の呵責も少なくてお得ですよッ!!」
俺の両腕に掴まってるお二人は、この命の危機もなんのその、なにやら叫び足を振り回している。
やめてやめて止めて。あんたらそれだけ動いて喋れたら俺をよじ登れるでしょう。
特に千恵ちゃんは俺の後輩なんだからそこそこ鍛えてるはずなんだし。
俺はといえば、いつもの状態ならこんな錘簡単に持ち上げてくれる上腕二等筋も後背筋も
不自然な体制でいるせいで現状維持が精一杯。限界ギリギリにいるんですから。
「おい…二人とも…いいからっ…登れ…っ!!」
「二人とも!?そんなの駄目!!こいつはここで落としておくべきよ!」
怒りに赤く染まる和美。怒ったお前の顔もかわいいけどTPOを考えて欲しい。
「そう…ですね…先輩、いいですよ、もう私を落としても…」
と、突然千恵ちゃんが殊勝なことを言い出した。
「千、千恵ちゃん…いいから…君は間違いなく…登れるだろ?…ね?」
「私…先輩のこと愛してるから…!先輩のためなら、死ねます!!」
うるうると俺を見上げてくる(まぁ位置的に当然なんだけど)千恵ちゃん。
ポニーテールと日本美人的な顔、それに涙。ああやっぱこの子かあいいなー。
…は!いかんいかん!意外に自分の頭に余裕があることを確認できたが、そんな場合じゃねぇよ。
「千恵…ちゃん…死、死ななくていいから
…う、うおお!…な、ちょっとだけ、腕に力を込めて、屋上に戻ってだな…。」
息も絶え絶えに彼女を説得する。
「わ、私だって!!私だって一太のこと愛してるんだからーーー!!!
小学生の時に裸見られてもうこの人のところにお嫁にいくしかないと決めて以来
ずっとずっとずっとーーーーー!!」
和美、嬉し恥ずかしな告白をぶちまけてくれる。
お前そんな頃から俺を好きだったのか…言ってくれれば抱きしめて色々舐めて
その肉厚な唇も奪ってお子様にはいえないあんなことやこんなことをだな…。
「分かりました。貴方がそんなに先輩のこと愛してるなら、貴方が先に落ちてください。
幼馴染を失って傷心する先輩は私がきっちり体も心も慰めてあげますから。」
先ほどの涙はどこへやら、冷酷といえる声で千恵ちゃんが宣告する。
喪服の知恵ちゃんが悲しむ俺を慰めて…あ、これいいシチュエーションだなぁ。
喪服って何だか萌えるよね。そこへもってしてこの千恵ちゃんのプロポーション。
ああ、目の前に幸せな情景が。

「 この   落ちろ  !!  ていりゃあ  !!
「泥棒  こが   蹴りで私に   思って   はっ!!」

どこか遠いところから、格ゲーばりの戦闘音が聞こえてきた。
あれ? 俺、 道場で 沈んだ? それとも、 テレビつけっぱなしだったか?
あー もう   わかんねー   つか…れた…

2007/03/11 完結

 

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