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DIS-CYCLER(仮)



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ぽとぽとと血が零れ落ちていた。私が持っている包丁は姉の腹部に深々と突き刺さっていた。
尋常ではないこの光景に私の心は絶望と底なしの暗闇に引き裂ける寸前であった。
わかっていたんです。
私は・・お姉ちゃんに嫉妬していることを。

大好きなお兄ちゃんは私よりも甘やかしてくれるお姉ちゃんばかりに目を向けていた。
私は二人に構って欲しかった
臆病な気弱な私にはそんな一言が口から出ることなんてありません。ありえなかったんです。

だって、拒絶されたら恐いもん

大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃんにそんな冷たい目で見られると私は狂ってしまう。
表だけの優しさがなくなるのは、今の私にとっては辛い。
私はこの二人の大切な家族を打ち壊した張本人であり、償いができない罪を背負っているんです。

それは、私はお父さんと愛人の間に生まれた、家族の異端児だから。
お兄ちゃんは私が家族として迎えられる前に孤児院から引き取られていました。
小さな頃はお兄ちゃんとお姉ちゃんは仲良くて、その頃の家族は幸せに満ちていたと、
私はアルバムを見て思います。
こんなにも笑顔で笑っているお兄ちゃんとお姉ちゃんを見ればわかりますよ。

その幸せを壊したのはお父さんが愛人、
いえ、本当のお母さんと浮気して妊娠出産したことによって歯車が壊れました。
お姉ちゃんのお母さんとお父さんが毎晩毎日喧嘩をして、
お母さんが家を出て行きました。愛人である本当のお母さんは私がいると邪魔なので
お父さんの家に捨て去るように置いていかれました。お父さんは・・仕方なく私を引き取りました。

家庭をメチャクチャにした原因の象徴である私を、
最初はお姉ちゃんとお兄ちゃんは快く思っていませんでした。
私の血の繋がった唯一の家族であるお姉ちゃんに嫌われ、
お父さんは現実を逃避して仕事に逃げて、お兄ちゃんは無視される毎日。

だからでしょうか? 
私は子供ながらに思ったかもしれません。

私さえ生まれてこなければ、生まれてこなければ、この家族はずっと幸せだったのにと。
そうです、私さえ居なければ良かったんです。
私がいるからお姉ちゃんもお兄ちゃんも恐い顔をして睨まないでくれる。
きっと、私がいなくなるだけで微笑みが零れ出すはずです

だから、家出を決行しました。
行く先もなく街を歩いて歩いて・・私の足が動く限り・・。

夜になると私は公園のベンチで一人で座ってました。夜の絶対的な暗闇が私を襲います。
恐がりな私は涙を零しながら、ひたすら朝になることを望んだ。帰る家がないってことはそれだけで
心細くなって瞼から流れだす涙を止める手段は一つもなかった。

いいの。私は誰からも生を望まれずに生まれてきたんだから。
ここで死ぬことになっても後悔はしない。

だから、お願いです。

神様。

今度、生まれ変わる時は私に温かい家族をください。

その場所には、怒りと後悔と悲しみがなくて

常に笑いが絶えない幸せな家庭を。

望みを叶えるはずがない神様に私は祈りを捧げる。
それがどんなに虚しいことなのかは幼くても理解できている。

覚悟は決めた。

その時でした。奇跡が起きました。
憎悪の対象であった私を迎えにお姉ちゃんとお兄ちゃんが迎えに来てくれたのです
私は少し戸惑う間に、お姉ちゃんは私の体を優しく抱きしめて・・。
ごめんなさい。ごめんなさい。と、涙を零しながら必死に謝っている。
お兄ちゃんもすまなかったと温かい手で優しく頭を撫でてくれた。

この一件で私という厄介物を家族として迎えられて・・
お姉ちゃんとお兄ちゃんと楽しい生活を送れるようになりました。
私が望んだ温かい家族がそこにあったのです。

それから数年の月日が経ちました。

成長した年頃の女の子になった私はある一人の男性に恋心を抱いてしまいました。
そう、一緒に家族として暮らしている兄を・・好きになってしまっていたのです。
恋する乙女の心は兄の言葉や仕草に胸の鼓動を鳴らし、
一緒にいるだけで嬉しくてこそばゆい気持ちになってゆきます。

でも、お兄ちゃんの好きな人はお姉ちゃんなんです。
いつも元気で人柄の良い太陽のようなお姉ちゃんに心を惹かれている。
それは仕方ないことです。
内気で人見知りが激しくてお姉ちゃんと比べると私は劣等感で一杯になってしまう。
弟のように可愛がって甘やかしているお姉ちゃんがお兄ちゃんと会話をするだけで
私の胸のモヤモヤが大きくなってしまう。

どうして、お兄ちゃんはお姉ちゃんがいいんですか?
私じゃあダメなんですか?

異母姉妹でスペック的に劣っている私が選ばれない。

私だって兄さんの大切な妹なんだよ。

どうして・・。私じゃないの?

胸の中に孕んでくる憎悪と嫉妬が抑えきれなくなる。
お兄ちゃんを独占したい気持ちが自分が大切にしていた家族よりも大きくなる。

その抑え込んでいたはずの衝動が溢れ出してしまったのは
姉妹で仲良く料理をしている最中でした。
お姉ちゃんはお兄ちゃんの好物を頑張って作っている。
なんて、幸せそうで楽しい表情を浮かべているのであろう。
私と一緒にいる時よりも本当に楽しそうであった。
私は包丁で材料を叩き落とすように切り裂いてゆくと・・今度は姉の方に向いて・・。

それはほとんど無意識に近い行動であった。

私は大好きなお姉ちゃんの腹部に包丁を突き刺した。
エプロン姿のお姉ちゃんから膨大な血が流れてゆく。
困惑と驚愕を浮かべて、何かを悟った風に優しい表情を浮かべた。

「ごめんね」

たった、一言を呟いて倒れつきました・・。

その一言で私は自分の手が震えているのに気付いて、正気に戻る。
今、自分がやってました取り返しの付かないこと。
血塗れになっているお姉ちゃんを見て・・

「嫌ぁぁぁぁっっっっっっ!!」

悲鳴をあげることしかできなかった。

私はまた家族を壊してしまったのだ!!

2007/02/25 To be continued....

 

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