「はぁ〜〜〜、暇だぜぇー。クーちゃん、どこか出かけない?暇潰しにさ。」
「その意見には賛成しかねます、マスター。いつ依頼の電話がかかってくるかわかりません。
それに私はクーちゃんではなく、CODE-クロッカス・5030です。」
「あーあーはいよ、わかったって、クーちゃん。」
2101年、新世紀になったとはいえ、相変わらず暇だった。別に無職ってわけではない。
職にはついているが、その職が暇なのだ。
「はぁーぁ。」
あまりに暇なため、ソファーにねっころがりながら、胸ポケットから名刺を取り出す。
たくさん作ったは良いが、使う機会がなくて腐りそうだ。
『なんでも屋・水谷賢哉』
そう、名刺に書いてあるように、なんでも屋をやっている。二十二歳にもなってなんでも屋ってのは
考え物だが、自分でなりたくてなったわけじゃない。
あのクソ親父が変な遺書を残したからだ。『私の経営するなんでも屋を継ぐこと。』と。
この世界にとって、遺書というのは最重要事項になる。
もしそれに反すると、特A級犯罪……よくて無期懲役、へたすれば死刑にまでなる。
とんでもない法律があったもんだ。
「ひ、ま、だ。」
「マスター、今ので通算二百九回、本日十回目の暇だ、の発言です。」
顔色変えず、冗談だか本気だかのつっこみをいれたのが、さっき自分で名乗ってたように、
『CODE-クロッカス・5030』という。
いわゆるアンドロイドだ。俺がここを継いだときに雇ったのが彼女だ。C
ODE-クロッカスというのは、そのアンドロイドの仕様タイプだ。
クーちゃんことクロッカスは事務タイプ。他にもスズランが家事タイプ、
ゲッケイジュが戦闘タイプ、カトレアが……売女タイプだ。
最後のソレを買いたかったが、残念。クーちゃんに財布を握られているし、
酷く冷たい目で見られたから断念した。
まぁ、さすがは事務タイプというだけあって、そこらへんのことは完璧。
お金のやりくりまでみんな任せてある。
「しかし、本気で暇だな。こう、ドーンと一回で丸儲けができるような仕事が……」
プルルルルル……
「マスター、お電話です。」
「キタヨー!」
ガチャ
「はい、こちらなんでも屋、水谷賢哉。あなたの依頼なら、殺人、強盗、誘拐。
法に触れること以外ならなんでも行います。」
「あ、ああ……その、依頼する前に聞きたいんだが、ここにある、依頼人の素性にいては
いっさい知らせなくていいというのは本当か?」
「ええ、本当です。」
町中に貼ったビラに書いてあることだ。電話先の相手は、初老かそれより少し若い男性だ。
「そ、そうか。それで、依頼についてなんだが……」
緊張か恐れか、声が震えている。チラとクーちゃんに目を配ると、無言のままコクリと頷く。
依頼人の素姓は知らせなくていいというのは半分嘘で、
電話番号から相手の名前だけは調べることにしてる。
「それでは、依頼の方を。」
「ええ、実は……私の娘が誘拐されてしまいまして……なんとかして助けて欲しいのです。」
「誘拐、ですか?それはまた……」
誘拐というだけで、なんとなく依頼人がわかってきた。
本来ならこういったことは警察に言うべきだ。
それをなんでも屋に依頼したとなると、警察には知られたくないということだ。
この街でそんな人間は……
ピピッ
(お?)
丁度クーちゃんから俺のパソコンへと依頼人のデータが送られた。北原清三、五十四歳。
北原アンドロイドメーカーの社長だ。そのシェアは全アンドロイドの半分を占めるという。
クーちゃんもこの社製だ。
だがこの馳馬清三、相当悪どいことをして今の地位を手にしたらしく、
警察にも目をつけられているという噂も聞く。
警察に弱みを握られたくないために、俺の方に依頼してきたのだろう。
「はい、それでは娘さんがいなくなった時のことを詳しく……」
電話で話を聞きながらも、それなりに犯人の目安をつける。データからすれば二つ。
まず一つ目は、同じアンドロイドメーカーの西川社社長、西川巧。
ここもかなりの大手だが、どうしても北原社には劣る。いわばライバル同士なのだ。
それ故、互いに潰し合いをしており、それに娘が巻き込まれたという線。
もう一つは、またまたアンドロイドメーカーの元社長、東甚助。こちらは他の二社とは違い、
とても小さな会社だった。それを北原社長による圧制により、多額の借金を背負って倒産したという。
それによる恨みのためか。
まだこの二つに決まった訳ではないが、これを中心に調べていくことにしよう。
「はい、それではお任せください、ただちに調査に取り掛かります……はい……はい。」
ガチャン
「いよっし、クーちゃん、待ちに待った依頼だ!早速、調査に出かけるぞ!」
「了解しました、マスター。では、準備を。」
久々の依頼に意気揚々と飛び出す俺とクーちゃん。
だがこの事件がとんでもないことになっていくとは、この時は知るよしもなかった…… |