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ハッピーバレンタイン



1

「ハッピーバレンタイン♪」

 

この家は少々古いが、中はそれなりに綺麗な家だった。
俺が今居るこのリビングも、母親が綺麗好きな為かかなり綺麗に整頓されていた。
学校から帰ってくるまでは…確かにそうだったんだ。
だけど今俺の目の前に広がる光景は……想像を絶していた。

家具やテレビは無残に破壊され、朝母親が水を入れ替えていた花瓶も割れ、
綺麗に咲いていた花はぐちゃぐちゃに踏まれて床に散らされている。
そして壁と床には血が飛び散り、血溜まりになっている部屋の隅には人であったモノが
無造作に置かれている。
まるで地獄絵図のような光景だ。

地獄のような部屋の惨状とは対照的に、俺の目の前に居る人物は本当に嬉しそうな笑顔を湛えている。

川口美佐。
頭脳明晰、容姿端麗。おまけにクラスの委員長もしていて、男子女子共に人気が高い。
彼女を知る者は「欠点の無いパーフェクトな人間」と思っている事だろう。
だが俺は違う。
いや、俺も昔はそうだった。
美佐と話すだけで雲の上にいるようだったし、目が合えば胸が張り裂けそうな程苦しく、
熱くなったものだ。
でも違う。それは本当の川口美佐ではない。
綺麗な薔薇には棘があるというけど、彼女の棘は俺を追い詰め…
今こうして地獄のような光景を生み出している。

「み…さ…? な、なんのつもり…なんだ…。」

部屋の惨状に怯えているのでも、部屋の隅にある人であったモノに怯えているのではない。
俺は美佐に怯えていた。

「なんのつもりって? 見ての通りだよ。」

美佐は両手を広げ、誇らしげに胸を張った。

「お……お前…は………。人の…家族を殺して……一体なんのつもりなんだ!!!!」

俺は精一杯声を張り上げる。
隅にある人であったモノ。それは紛れもなく俺の両親と妹だった。
顔すらわからない程ぐちゃぐちゃにされてはいるが、朝見た家族の服を身に纏っている。
美佐は俺が声を上げた事に少し驚いた様子だったが、また元の嬉しそうな笑みに戻り。

「ふふ、邪魔者を始末してあげただけじゃない。
  またこの前みたいに邪魔されちゃったら困るもの。」

美佐は一歩一歩近づいてくる。
俺は恐ろしくなり、美佐が一歩進む度に一歩下がる。

「もう大丈夫……。 私達の邪魔をする者はどこにもいないから…。」

とうとう壁に追い詰められる。

「ずっと一緒。これからは片時も離れず……ずーっと…一緒…。」

これからどうなるのか、最悪の状況を何度も考えていた俺だったが…。
今まで見た中で一番綺麗な美佐の笑顔を見て、全てが吹き飛び…。
美佐はやっぱり綺麗だな…と、場違いな事を考えてしまった。

その瞬間、体に電撃のようなものが走り、俺の意識は途絶えた。

2

私はいつも1人だった。
親は仕事で殆どいえには帰ってこないから、顔を合わせるのなんて週に3回くらいしかない。
メイドはいるけど所詮家事諸々をする人。私と積極的に話をしようとする人なんて皆無。
学校の友達は良い人達ばかりだったけど、私の心に踏み込んでくるような人は誰一人いなかった。
それでも告白してくれる人もいた。
けどその人達も同じ…、私の上辺を好きになっただけだった。
だから私はいつも1人。
周りに人は沢山いるけど、孤独だった…。

そんな孤独を抱えていた高1の秋―――

「よろしくお願いします。」

見慣れない制服、見慣れない顔には緊張した表情が張り付いている。
彼は転校生。どうやら席は私の隣に決まったみたい。
先生は委員長の隣の方が何かといいだろうと言ってたけど、私は何も出来ない。
頼られても困るだけ…。
でもそんな意見が言えるはずもなく、彼は嫉妬の視線を受けながら私の隣に座った。

昼休み。
私は1人校舎裏へと来た。
ここには私だけの秘密の場所がある。疲れた時、ここによく来るのだ。
そこは使われてない古びた倉庫。
制服のポケットに入った小さな鍵を取り出し、扉につけられた南京錠に差し込む。
この鍵は私が取り付けたもの。誰かに私の秘密の場所を荒らされたくはないからね。
扉を開けて、やっと張り詰めていたものが緩んだ気がした。

「今日も疲れたぁ…。」
子供の頃から使っている古くなったぬいぐるみ。子供の頃に秘密で集めていたカードやラジコン。
昔から使っていて、ほどよく身体にフィットする座椅子。小さめのテーブル。
その他に昔使っていたものなどが整理されずに置かれている。
どれも古くなったせいで両親に捨てられそうになっていたものだ。
どれも愛着がある、私の大切な宝物。
こうして宝物に囲まれていると日々の疲れがとれるよう。
その時、外から騒々しい声が聴こえてきた。
私は気になってそーっと外を見てみる。

「お前!転校したてだからっていい気になるなよ!」
「そうだ!お前みたいな奴なんか美佐さんが相手にするはずないんだからな!」
「俺はそんなつもりじゃ……。」
「うるさい!二度と美佐さんに近づけないようにしてやる!」

あの転校生を2人が取り囲み、怒声を辺りに響かせている。
は〜あ………よりにもよって私の事で…かぁ。
いじめるなら私の見ない所でして欲しいわね。
面倒事ら関わりたくない私は開けた扉を閉めようとした、が。

ゴン!

よく響く良い音がいじめの現場あたりから聴こえ、驚いて見てみると。
転校生が壁に寄りかかって頭から血を流し、周りの2人はおろおろしている。
「お、おい……こいつ動かないぞ…!?」
「まずいって!早く行こうぜ!」
「そ、そうだな、こいつがいけないんだ!」
そういい残しながら2人は去っていった。
あの転校生はぐったりしていて動く気配が無い。まさか本当に…?
さすがに気になり、物置から出て近くへ駆け寄る。
「ちょっと、大丈夫?」
頬を叩いてみると、小さい呻き声をあげた。
どうやら最悪の事態ではないようだ。
私は救急箱を物置から持ってきて応急処置をした。
彼はすぐに目を覚まし、目の前にいる私にびっくりしているみたいだ。
「あ、あれ?どうして川口さんが?それにあいつ等は……。」
「私は偶々ここを通りかかっただけよ。君のほかには誰もいなかったし。」
「そっか……。…あ、手当てしてくれたんだね。ありがとう。」
「気にしないで。でも念の為に保健室で診てもらったほうがいいと思うよ。」
「うん、そうする。」
……会話が途切れ、気まずい沈黙が流れる。
折角の昼休みが台無しになっちゃった…。
「………なんか、転校早々かっこ悪い所見せちゃったな…。」
「気にしちゃダメよ。」
相当気にしてるみたいね。まあ当然か…。
「こんな姿見られたら、親になんて言われるか。」
自嘲気味に笑う彼。
「ご両親には説明し難いわよね…。」
「それに家の親ってすごく厳しいんだ。テストの点数も一定以上じゃないとダメだし、
  門限も厳しいし。」

「息苦しいんだ……家の中なのに、とても…。」

同士。
その言葉を聞いた時、私が思った事だった。
親はあまり帰っては来ないけど、その分メイド達に厳しく私を教育しろと言っている。
門限を破れば2時間3時間正座をさせられて反省文を書かされ、少しでも点数が悪くなれば
徹夜で勉強させられる。
耐える事には慣れてしまったけど、自分の気持ちには嘘はつけない。
私も息苦しいと感じていたのだろう。

「君と私は似てるんだね…。」
だからだろうか、自然とそんな言葉を口にした。

「え?」
「私も、親が息苦しい……。ううん、親だけじゃない。」

ああ、その先は言ってはダメ。
折角耐えてきたのに…。

「学校も!友達も!私の役割も!全て全て全て全て全て全て全て!!!!」

私はそう叫びながら泣いていた。
始業を知らせるチャイムが鳴っても、それでも私は泣いていた。
そんなどうしようもない私に彼はずっと付き添ってくれた。
支離死滅な話を沢山聞いてくれた。
何もせず、何も聞かず、ただ私の気の済むまで話を聞いてくれた。

それだけで…恋に落ちるには充分だった。

そして私達は付き合うようになった。
本当に…あの頃は幸せだった。
世界中の幸せは私達の為にある。あの頃は本気でそう思っていた程。
でも幸せは長く続かなかった。

彼の家に初めて行った時にそれは起こった。

「へぇ、結構綺麗な部屋なんだね。」
「ああ、綺麗にしないと母親がうるさくてさ。」
「ふぅ〜ん…。」
彼の部屋は綺麗に整頓されていてとても男の子の部屋とは思えない。
でも部屋には彼の生活の匂いがする。とても素敵な部屋…。
「今日は本当にご両親は帰ってこないの?」
「うん、2人とも出張に行っちゃって、今日は妹と2人だけなんだよ。」
「そっか…。」
沈黙。
なんとなくわかってる。彼が望んでる事も…私が望んでる事も…。
だから………私達は身体を近づけ、顔を寄せて………。

「お兄ちゃん!誰か来てるの!」

バンッ!という音と共に、中学生くらいの女の子が勢いよく入ってきた。
予想もしない侵入者に私達は固まり、彼女も固まった。
だがその顔は段々変化していった。怒りの形相へと…。

「…貴方、誰?」
私を睨みつけながら低く暗い声でそう尋ねる。
「私は川口美佐……。」
「名前を聞いてるんじゃないわよ!!!」
今にもつかみかかりそうな彼女を彼が慌てて押さえつける。
「奈々子落ち着けって!」
「落ち着けるわけないじゃない!どこの馬の骨ともわからない女が
  お兄ちゃんの部屋に上がりこんでるのよ!!!」
「彼女はそんなんじゃない!!俺の恋人だ!」
彼女の動きが止まった。
いや、あまりの怒りに身体が動かなくなっているというのが正しいのだろうか。
「どういう事よ………。」
「だから彼女だよ。 付き合ってるんだよ俺と彼女は。」
「彼女……。」
虚ろな目をしながらうわごとのように呟く。
「もういいだろう…。部屋に戻れ。」
「………。」
「あの、私帰ろうか…?」
さすがの私もこの空気には耐えられそうもない。
何より彼に迷惑をかけてしまう。
「ごめんな…ホント…。」
「ううん、大丈夫だから。」
私が部屋を出ようとした、その時。

「ぐぁっ…!!」
突然世界が反転した。
そして気がついた時には私は仰向けに倒れていた。
頭に激痛が走り、何があったのかすぐに理解が出来なかったが、
時間が経つにつれて段々わかってきた。
私は彼女に押し倒されたのだ、思いっきり。
そしてその事に気がついた時には遅く、彼女は私の上にまたがっていた。
「どうして!あんたみたいな奴が!お兄ちゃんの恋人になってるのよ!」
頭、顔、目に付く所を思いっきり殴られる。
痛くて辛いけど、どうして彼の妹にこんな事をされなければいけないのか理由がわからない。
だって兄妹…じゃない。ありえないわ…。
「お兄ちゃんは私のものなの!!あんたみたいな顔だけの女には渡さない!!
  絶対に渡さないんだからッ!!!!!」
「やめろ!!!やめてくれ!!!」
「いやぁぁぁぁ!!!離してよ!! 殺す!!殺すの!!!」
彼に羽交い絞めにされる彼女は妹ではなく、嫉妬に狂ったただの女だった。
…ああそうなのか……彼が好きなんだ…。
「ごめん美佐、今日は……。」
彼の意図を察し、私は痛む身体を引きずって部屋を出る。
心配をかけないように彼に微笑みながら。

その日から、幸せだった日々は壊れてしまった。
私達の交際は親達にバレ、私達は別れさせられた。
もちろん私は反対した。でも彼は…受け入れてしまった。

「どうして!どうして別れるなんて言うの!」
「ごめん……でも仕方ないんだ…。」
「嫌…嫌だよ!!!絶対嫌!!!」
信じられなかった。信じたくなかった。
絶望的な彼の言葉に私は押しつぶされそうだった。
「わかってくれよ…。俺だって別れたくない。けど……。」
そう言って彼は目を伏せる。
「何があったの…? お願い、教えて。」
長い沈黙の後、彼は口を開ける。
「妹…奈々子が、リストカットしたんだ…。」
やっぱりあの妹……!あいつが原因…!!
私は知らず知らずの内に奥歯を噛み締める。

「もう家は滅茶苦茶なんだ、奈々子が情緒不安定になって、親は原因は貴方にあるんだから
  責任もって別れろって言うし…。」
責任?ふざけんじゃないわよ。
全てあの女がいけない事じゃない。あの女が勝手に狂っただけじゃない。
どうして彼が責任を取るの?おかしいわよ。
「だからもう…これしかないんだよ…。」
「……私の答えは変わらないよ。」
「お願いだ………別れてくれ……。 もう疲れたんだよ………。」
彼はやつれた顔で頭を下げる。
私はそんなにまでして彼を追い詰めた彼の親が憎かった。
そして一番憎いのは、結局あの女が彼を手にしたという事実。
憎くて憎くてたまらない。
彼が去った後、私は口から血を流している事に気がついた。

それからというもの、彼は私を避けるようになった。
話しかけてもすぐにどこかにいってしまうし、目すら合わせようとしない。
私の想いを綴った手紙を下駄箱や机に入れておいてもすぐ私の元へと戻ってくる。
プレゼントもお菓子も全部。私の渡すもの全て戻ってくる。
こんなに好きなのに、こんなに愛しているのに、どうして?
愛してるの世界中の誰よりも愛してるの。他の誰もいらない貴方だけ。貴方が邪魔というのなら私自身を殺す。ううん、いっその事貴方が殺して。

多分私は狂ってきてる…冷静な自分が自分を分析してる。
でも狂ってしまったらあの女と一緒。それだけは嫌だった。
だから彼に私の想いが届けば、それで……それだけで満足………出来ないけど、するしかなかった。

そしてバレンタインも近くなってきたある日。
私は久しぶりに家に帰ってきた親に呼び出された。

「最近お前あの男にストーカー紛いの事をしているそうじゃないか。どういう事だなんだ!」
部屋に響き渡る怒声。相当怒られるんだな、と私はどこか冷静に考えていた。
「何を言っているのかよくわかりません。」
「ふざけるな!ちゃんと証拠だってあるんだ!」
茶封筒から写真を取り出し、テーブルに叩きつけるように私に見せた。
そこには私がプレゼントを置いている様子や、彼を待っている様子、
彼にしがみついている様子等様々なものが写っていた。
「向こうは裁判も考えていると言ってきている。 お前は川口家の家名を汚す気か!!」
結局家の事しか考えてないのね……。
「どうなんだ!なんとか言ったらどうだ!」
私は貴方のお気に召すような事は何一つ言えません。
「まったく、あんな男のどこがいいんだ!!」
あんな男…?
「あの男は少し成績が良いだけだろう!かっこいいわけでも、
  ましてや金を持っているわけでもない!」
この男は何を言っているんだろう……?
「最低な男だ!お前とは全く釣り合わん!!」
最低…? 最低なのは貴方でしょ?
「あんな男の事は早く忘れろ!男が欲しいんだったら俺が紹介してやる!」
彼以上の男なんていない。私には彼しかないない。私のことなんて何も知らないくせに
勝手に私の人生を決めないで。決め付けないで。
彼を悪く言わないで。悪く言うのなら例え誰であろうと許さない。許さない許さない許さない許さない
許さない許さない許さない許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない
ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。

「彼を悪く言わないで!!!!!!」

気がついた時、私は血溜まりの中にいた。
呆然と目の前にあるモノに視線を合わせる。
それは紛れもなく、父親だったモノ。
私のたった1人の父親だったモノ……。
「………いやあああぁぁぁぁぁぁぁああああぁあああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわらないわからないわからない
わからないわからないわからない!!!!!!
何があったの!!!!これは本当に私がやったっていうの!!!!!
身体に付着した血、手に持った赤く染まった灰皿。
私が実の父親を手にかけたという証拠。

昔は優しかった。
小さかった私の手を引いて、よく遊びに連れて行ってくれたお父さん。
あの頃の私はお父さんのお嫁さんになるのが夢だった。
それなのに……どうしてこんな事になってしまったのだろう…?
どこで歯車は狂ってしまったのだろう…?
わからない……。今となってはもう…わからない…。
私はただ声を上げて泣くしか出来なかった。

街はバレンタイン一色。ハート型がよく目に付く。
何日か泣きはらした後、やっと外に出る事が出来た。
何度か部屋のチャイムや電話が鳴ったが、どれも出なかった。出たらきっとバレてしまう。
いや、もうバレるのは時間の問題。そうしたら私は警察に行かなくてはならない。
だがそれも仕方が無い、私は恐ろしい事をしてしまったから…。
でもせめて、そうなる前にあの人に会いたかった。
愛しい彼に……一目会いたかった。

彼と妹が腕を組み、楽しそうに話をしている。
あの女は……私から全てを奪ったくせに、のうのうと生きている!!!!
幸せそうに!!!
この世の全ての幸せを手に入れたかのような憎々しい笑顔で!!!!!!!!!!!!!
彼に見つからないよう尾行していくと、2人は私に気づかないまま家へと入っていった。
と、玄関が開き、あの女が出てきた。
そして嫌らしい笑みを浮かべ。

「出てきなさいよ!この負け犬!!!」

大きな声で続けてこう言った。

「どうしたのよ! か・わ・ぐ・ち・み・ささん!」

心底バカにしたかのような言い方。
私は狂おしい程の憎しみを抑えながらあの女の前へと姿を現した。
「やっと出てきたのね、負け犬。」
ふんっ、と鼻で笑う。
挙動一つ一つが憎たらしい。
「何しに来たの?お兄ちゃんはもう貴方に用は無いのよ?」
「あんたには関係ない……。」
「関係あるわ。だってあんたみたいな汚らしい女にお兄ちゃんが触れられたら
バイキンがうつっちゃうもの。」
「汚らしいのはどっちよ!!!!」
思わず声を荒げる。
「あんたに言われたくないわよ。どうせバレンタインのチョコもお兄ちゃんは
貰ってくれないんでしょ?」
「うるさいうるさいうるさい!!!そんな風にしたのは誰よ!あんたでしょ!!!」
「そうよ。私の勝利。私こそがお兄ちゃんを手に入れたの、貴方じゃない。このわ・た・し♪」
自分の言葉に酔いしれているかのような勝利宣言。
そう、私は負けたのだ……この女に。妹という立場を利用されて…!!!
なんという浅ましさ!なんという汚らわしさ!汚い手を使って私達を引き離し、
私がいた場所に図太く居座り続けるこの女!!!!!!
憎たらしい!!!!憎たらしいなんて言葉では言い表せない!!!!!!!!!!!!

「アハハハハハハハハハッ!! 悔しくて何も言い返せないんでしょ?」

「そうよね、そうよね! だって貴方負けたんですもの!」

「私は妹という立場だけじゃない。もうすぐ恋人の立場も手に入れるの!
  バレンタインはお兄ちゃんと私が結ばれる日よ!!!」

「貴方は惨めにそうやって自分の立場を噛み締めてるといいわ。負け犬という立場をね!!」

高笑い、そしてバタンという音を聞いたのを最後に、私の記憶は曖昧になった。

彼の為に美味しい手作りチョコを用意したの!
私の沢山の想いが込められた美味しい美味しいチョコ!
ふふっ、彼喜んでくれるかな♪
あ、でもその前に学校にずっと行かなかった事を心配してるかしら?

鼻歌を歌いながら、血でべっとりした汚らわしいモノを端に寄せる。
流石に私1人の手じゃどうにも出来ないわね。もうすぐ彼も帰ってくるし。
…ふふっ、いい気味。
どう?負け犬に負けた感想は?
って、貴方もう何も言えないんだったわね。
アハハハハハハハハハ!!!!

「ただいまー。」

あ、帰ってきた!
愛しい彼がやってきた、私のとっておきのチョコを渡さないと。
そしてずっと一緒にいるんだ。ずっとずっとずっとずっとずっと一緒に。
このチョコのように、あま〜いあま〜い時間を過ごそうね♪

 

「ハッピーバレンタイン♪」

2007/02/15 完結

 

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