彼、小野峰衛治は姉が嫌いである。
その原因を過去から辿ろう。
幼少の時分。
年上のくせにめちゃくちゃなきむしで、いつも弟の背中に隠れる。
言うことを聞かないと泣く。なぜか親に怒られる。
もっぱらままごとを強要された。
「エーくんとあたしは夫婦なんだから、ずっと一緒なんだからねっ」
「ぇえ……っ」
「なんで嫌そうなのよぉっ! 返事は、ねえ、返事はっ!?」
「わ、わかったよ、わかったから泣かないで、お姉ちゃん」
「な、泣いてないもん、ぅ、うぅっ……ふ、ぇ」
さて小学生の時分。
「えっ!? お前まだ姉ちゃんと風呂一緒に入ってんのっ!?」
「ぇ、え、だって姉ちゃんが普通はそうだって言ってるから……っ」
「普通じゃねえよっ!」
友達に突っ込まれて盛大にからかわれた。はずかしかった。
「姉ちゃん、今日から別々に風呂入らないっ?」
「駄目」
「いや、聞いてよ、今日それ言ったら友達にめちゃくちゃからかわれてさ」
「駄目」
「……、だから聞い」
「駄目」
「……」
そして事件は中学の時分に、起こってしまう。
「ただいまぁ……あらっ?」
姉のくつがすでに玄関に転がっていた。
おかしい。今朝、俺今日帰るの遅くなるからといったとき、
「ぁ、あたしも」
と続けて姉は言ったのだ。確かに。
そして衛治はと言えば、遅くなるはずだった学校の用事が後日に流れたので
普通に帰宅してきたのだが。
姉も放課後の予定が流れて普通に帰ってきたのか。
とりあえず姉が帰宅しているのならさっさと自分の部屋に退避するべきだ。
高校生にもなってまだ弟にべたべたよってくる姉に彼氏でも出来ないだろうかと思いながら、
階段をのぼる。
そこで気付く。
自分の部屋のドアが僅かに開いている。隙間から、部屋の明かりが漏れている。
誰かがいる。
衛治はこっそりと廊下を移動して、隙間から自分の部屋を覗いた。
「……」
姉がいた。
衛治のベッドの上で、衛治のトランクスを片手でかぎながら。
「ぁ、エーくん、エーくん、ひゃ、あぃ、いい、きも、ち、ぃっ」
片手は股間に伸びていた。
数秒だけその光景を眺めて、衛治は足音に注意しながら一階におりた。
鞄を持ったまま玄関で再びくつを履いた。
「……キモイ」
その一言に尽きた。
ベッドのシーツはすぐに替えないと。汚い。
姉ちゃんは、きもい。
結局本屋で時間を潰して、六時過ぎに再度帰宅した。
姉が笑顔で、おかえりといってきた。
「どけよ、きも姉」
睨みつけていった。
ぇ、え、と姉が慌てる。あほが。見たんだよ、お前が俺の部屋でなにやってたのか。
「お前金輪際俺の部屋に近付くなよ」
ごめんなさいを連呼してくる。
無視した。一階で替えのシーツを乱暴に引っ掴むと、
衛治は泣きながら謝っている姉を横切って階段をあがった。
シーツを早速替えた。部屋の外まで来ていた姉にそれを投げつけた。
死ねといいかけたが、本当に死なれてはかなり困るので抑えた。
その夜。事件の本番はこれからだった。
深く寝入っていた衛治だったが、息苦しさを感じて意識が浮上する。
くちもとに違和感。
ぴ、ちゃ。
「ぁ……っ!? ぅ、あむ、ぅ」
「む、ぁ、エーくん、はあ、はあ、っ」
姉の顔が、眼前に。
舌を舌でなめられていた。
この変態、と両手でつきとばそうとするがまったく動かない。衛治は焦った。
姉は行為におよぶ直前、衛治の両手と両足をロープでベッドに結んでいた。
それが見えない衛治には何故動かないのかわからない。わからないから怖かった。
口内を舌で犯される。きもちわるい。やめてくれ。他人の唾液なんて飲みたくない。ぬめぬめする。
「ぷ、ぁ、はあっ」
「ぉ、げぇ、ぅげ、ぇ」
やっと解放される。口内の陵辱から。
透明な糸が、衛治の舌と姉の舌とで繋がり、窓からもれる月光でそれが輝いた。
「ぁ、あっ」
「ぅ、ふふ、エーくん、きもち、いいっ?」
姉の手が優しく股間を撫でる。
嫌なのに。それでも衛治も男なのだから、快感が走ってしまうのはどうやってもとめられない。
きもちよかった。とても嫌で怖かったけれど射精したいと思ってしまう。
大声を出すしかない。はずかしいが両親に助けてもらうしか。
「ぇいっ」
「……む、ぅっ!?」
何かでくちを塞がれる。
しまった。駄目だ。声が出せない。なんだこれは。
混乱しているあいだに姉は衛治のズボンをずらしていた。
いきりたった衛治の息子がトランクスから解放される。
姉の呼吸が異常に荒い。
「はあ、はあっ……ぁ、あた、あたしね、エーくんに、どうすれば許してもらえるか、
はあ、はあっ……。
考えたの、はあ、はあっ。そ、それでね、思ったの、はあ、はあっ……」
姉が震える指先で衛治のそれにコンドームをかぶせる。
馬鹿かこいつはっ!? 嘘だろうっ!? 衛治の心の声が絶叫する。
「ぁた、あたしの、処女、あげちゃう、エーくんにあげちゃう、それで許して、はあ、はあっ。
ねっ。エーくんも、きもちよくなったら、きっとわかる。
お姉ちゃんがあんなことしちゃった理由、きっと、わかる。
こ、これは、ね、だから必要なことなの。
ちっとも悪いことじゃないの、は、はあ、はあっ……ぇ、へっ」
姉がパジャマを脱ぐ。
衛治は、必死に首を振る。
「じゃ、じゃあ、あ、いくね、入れちゃうね、ね、大丈夫だよ、
お姉ちゃんに任せておけば、はあ、ああっ」
駄目だこいつ……。
しかし自分の息子はいっこうになえない。心臓が盛んに動いてしまっている。
「エーくん、好き、好き、大好きっ」
はいった。キスされた。
その後は語るまい。ただ犯された弟である。
「この変態っ! 馬鹿かお前、俺たちきょうだいだぞっ!?
手と足縛って、あげく口までガムテープで塞いでっ! 普通じゃないよっ!?」
「はあっ!? なに不思議そうな面してんだよ、おめでたいなほんとっ……。
これレイプだぞお前、なあおい、わかってんの、これ」
「ああっ……? お前のことが好きかってっ? は、ははっ……?
だいっ嫌いだよっ! この変態。死ねよ、消えろっ!
は、ははっ……お前ってさ、ほんと」
狂ってるよな。 |