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クロユリ



第1話 My sister encountered the girl.

寒さで目を覚ますことが多くなってくるであろう今日この頃。
皆さんはどのようにお過ごしですか?

「……ほら、稜(りょう)。起きなさい」
ゆさゆさと俺の防寒城を切り崩す存在。
この程度では、城壁は崩れん。
「また遅刻するわよ?」
大丈夫。遅刻ボーダーまではあと10分もある。
「窓、開けとくから」
そのような脅しには断じて負けない!!
……
………
…………
……The 崩壊

「死ぬっっ!!!!」
「朝の挨拶はおはようでしょう?」
「……おはよう。姉ちゃん」

まぶたを開けばそこにいるのは我が姉こと鶴川綾音(つるかわ あやね)だ。
一応都内の大学に通っている花も恥らう(?)女子大生。
まあ、見た目がボーイッシュだから、恥らいはしないだろうな。

「朝ご飯作ってあるから、下降りてきて食べちゃって」
「ん。今日、大学は午前だけ?」
「そ。なんか夕飯に食べたいものある?」

食べたいものと聞かれれば、悩んだ末に何でもいい、と答えるのがデフォルトだけれど、
姉ちゃんの場合にそれをやると本当に「食べられそうな物体」が出てくることがある。
それだけは避けなければならない。

「んじゃあ、三ツ星チャーハン」
「その、三ツ星って何よ?」
「味、量、愛の三拍子そろったチャーハンさ!!」
「ごめん。最後の一拍子無理だわ」
「orz」
「口で言うな!」

結構努力したのにな。orzの発音。
今日の部活で流行らすか。
制服に着替え、部屋を出て階段を下りる。
この家もずいぶん狭く感じるようになったな。
廊下突き当たりのドアを開け、リビング、イン。

「夕食だけど、チャーハンでいいのね?」
「うん。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますでしょう?」
「………よろしくお願いいたします」
「よし」
「それじゃ、いただきまーす」
「うん。食べたらお皿片付けといてね。それじゃ、いってくるから」
「いってら〜」

朝のニュースをBGMにしつつ、朝食のサンドイッチを頬張る。
先週から学校は冬休みに入ってるから、今日は午前中に部活だけだ。
俺は弓道部に所属していて、一応副主将になってる。
まぁ、腕前の方はと聞かれれば、そこそこですと言うしかないな。
ん、そろそろ家を出ないとまずいな。

 

ガスの元栓オッケー。電気オッケー。施錠ヨシ。
立派な一軒家だけど、住んでるのは二人だけだしな。用心するに越したことは無い。
俺たちの両親は4年前に他界してしまっている。あの時は、テレビでも大々的に報道されてたな。
死因は二人とも心臓まで達する刺し傷による失血死。何でも人間関係の縺れらしい。
父さんと母さんって恨まれるような人たちじゃなかったのにな。
そんな波乱があって一時期は鶴川家は大混乱した。生活費は両親の保険金で何とかなってるみたいだ。
そういえば、家事とか家計とか全部姉ちゃんに押し付けちゃってるなあ。
鶴川家長男として情けない。機会があれば家事でも手伝おう。

俺が通う学校までは一度バスで駅まで出てからまたバスに乗って行かなければならない。
ずいぶんと不便なところへ進学しちまったもんだ。
学力は中堅ってところ。変わった行事なども無い平凡な学校だ。

学校に着いて直ぐに弓道場へと向かう。弓道場までの道には、学校がある日でも人通りは少ない。
果たしてこの学校に弓道場があるということを何人の生徒が知っていることやら。
っと、到着。

10年くらい前の建替えと同時に新設された弓道場。
現在の部員数は男女合わせて25人。大所帯のような気もするが、
サッカー部と比べたら月とすっぽんだな。
現在時刻7時45分。何故にこのような早朝に弓道場へ来なければならないのかというと、
副主将が故にである。
弓道場の鍵は主将が持ってるから、こうして外で待たなければならない。

「はぁ〜っ。しばれるのぉ〜〜」
一人で呟くのって、寂しいな。
早く来い〜〜〜〜〜。さみい〜〜〜〜〜。
「お待たせ!!鶴川君!!!」
極寒の大地にて待つこと5分。ようやく主将様のご退場だ。
川野夏美(かわの なつみ)である。いつもポニーテールに結わいてある髪が
おろしてあるところを見ると、どうやら寝坊したらしい。
「さみいよ〜〜。川野さん〜。」
「ごめんね〜。寝坊しちゃった」
「だいじょぶさ。俺のハートは凍りはしない!!」
「鍵、開いたよ」
「orz」

道場に入って荷物を置き、道具と的のセッティングを済ませる。
こんな寒い日に袴着たらマジで凍傷になるかもな。

「あ、そうだ鶴川君。」
「うん?どうしたの?」
「今日部活終わったら午後、時間あるかな?」
「午後ならあいてるよ。何か用事でも?」
「うん。明日、部で新年会やるでしょ?それの買い物に付き合って欲しいんだけどいいかな?」
「おっけ。それじゃあ、駅で買い物かな?」
「そうだね。よろしくお願いね」

着替え終わって更衣室から出てきた川野さんは、いつもどおりのポニーテールになっていた。

お、そろそろ他の部員の来始めたみたいだな。

「それじゃ、そろそろ挨拶しようか?」
「りょーかい」

いつもどおりの練習メニューをこなしていくうちに、練習終了時間がやってきた。

「これで今日の練習を終わります。ありがとうございました」
「「ありがとうございました〜!!」」

本日の営業終了っと。あとは片付けしてから買い物だな。

 

全ての部員が道場を出たのを確認して、戸締り確認。道場の鍵を閉めて今日の部活はおしまい。
あとは朝に川野さんに言われた通り駅で、新年会の買い物だ。

バスに川野さんと隣同士で座る。なかなか新鮮な感じだ。
揺られること十数分、駅に到着。女の子が隣に座ってて軽く緊張していたのだろうか、少し疲れたな。

「それで、何を買いに行くの?」
「え〜とね、とりあえずは食材かな」
「よっし、じゃあ駅ビルに行こう」

駅ビルスーパーで食材を買うことにした。だって、当たり前だろ?

 

 

Side綾音

午前中は大学。教室内は暖房が利いていて集中力が散漫になる。
この講義が終わったら今日はもうお終い。
今日の夕飯はチャーハンだ。稜からのリクエスト。
リクエストするだけしておいて何も手伝わないから腹が立つ。
思えば、4年前から今の生活形態になって、家事全般をこなすようになった。
自分なりに、稜を守っていこうとして、手探りながらうまくやってこれたと思う。
そろそろ、稜にも自立していってもらおうかな。

チャイムが鳴り響き、講義の終了を知らせた。

「よっし、今日はこれでおしまい!」
「綾音、じゃあね〜」
「うん、また〜〜!」
帰りに駅で夕飯の買い物をするとしよう。

自宅からの最寄駅は一応ターミナル駅になっていて、周辺も発展しているから買い物には困らない。
特に駅ビルのスーパーは痒いところに手が届く品揃えで日ごろから利用している。

駅には冬休み中もあってかカップルが目に付く。
「私も恋人作らなきゃな〜。でも家の事が忙しいし………」

そうこうしているうちに駅ビルのスーパーに到着し、早速チャーハンの具材を探す。
左右をきょろきょろと見回していると、見知った背中を見つけた。
弟の稜だ。こんなところで何をしているんだろう。
「お〜い!!りょ……」
「鶴川君!!これなんて明日にどうかな?」
「おっ!!いいねぇ。ナイスセンス!」
目に映ってきたのは、知らない女の子と楽しそうに買い物をする弟の姿だった。

姉としての日常は、終わりを迎えようとしている。

第2話 The chemistry between I and you is changed.

「今日はどうもありがとう!!明日は盛大な新年会ができそうだよっ」
「いやいや、お役に立てたならなによりだよ」

買い物自体は1時間もかからずに終わり、今は昼食がてら駅前の喫茶店で俺はコーヒー、
川野さんはミルクティーを飲んでいる。
たまにはこういった時間の使い方もいいかもな。
店内を見回していると、目の前の席から視線を感じた。
視線を戻すと川野さんがこちらをじっ、と見つめていた。

「??どうしたの?」
「うん……えっと、ね…」

視線をテーブル上に置いてあるミルクティーに向けたまま、
声を絞り出すようにボソボソと話し掛けてくる。
頬を紅色に染めていて、とても可愛らしい。

「今日、買い物に付き合ってもらったから、何かお礼がしたくて……」
「いやいや、お礼だなんてそんな」
「ダメ……かな?」

ミルクティーに向けた視線をこちらに向けて話す。いわゆる上目遣いというやつだ。
これがこんなに破壊力の強い攻撃だったとは。
俺の返事を待たずに川野さんが続ける。

「鶴川君って、映画好きかな?」
「うん。よく観に行くけど」
「えっとね。来週の日曜日なんだけど、観に行かない?チケットをもらったの」

そういいつつショルダーバッグに手を入れチケットを見せてくれる。

「これは、SchoolDays【劇場版】じゃないか!!いやぁ〜前から観たかったんだよね〜」
「!!それじゃあ……!」
「うん。ありがたく行かせていただきます!」

俺の返事を聞いたとたん、川野さんは向日葵にも負けない笑顔を見せてくれた。
………可愛いな……

その後も色々雑談をして、時計はすでに5時を回っていた。

「それじゃ、そろそろ帰ろうか?」
「うん。また明日ね。鶴川君」
「また明日〜」

駅前で川野さんと別れ、家路に着く。
そういえば今日はチャーハンだったな。

Side綾音

チャーハンの材料が入ったビニール袋を手に、帰宅。
スーパーで女の子と買い物をする弟の姿を目撃し、声を掛けづらく、そのままスーパーを出た。
スーパーを出てから駅前をぶらつく。
男女仲良さそうに歩いていく学生。
皆笑顔だ。さっきの弟のように。

思えば4年前から稜とはこの世に二人っきりの姉弟になった。
家事、家計は自分が守ってきたけれど、弟とのスキンシップはめっきり減っていた。

「来週の日曜日にでも一緒に遊びに行こうかな」

弟との久しぶりで楽しいであろう週末を想像する。
映画なんてどうだろう。うん。そうしよう。
そうと決まれば早速チケットを買おう。思いついたら即行動だ。
胸の奥底で、忘れかけていた感覚が、脈を打ち始めた。

第3話 I noticed that I love you.

玄関の鍵を開け、扉を開ける。
家の中に入ると同時に薫る匂いが、姉ちゃんの作るチャーハンのものだと理解するのに
刹那とかからなかった。

「ただいま〜」

キッチンにいる姉ちゃんに声をかける。手を止めこちらを見た後、時計を確認し、
「おかえり。メールの時間どおりの帰宅だね」
と一言。再び調理を再開。
できたてを直ぐに食べたかったので帰宅予定時刻を事前に連絡しておいたのだった。

「それじゃ、着替えてくる」
「うん。直ぐできるから」
「りょーかいっす」

階段を上り自室に入る。
着替えつつ頭に浮かぶのは、川野さんのこと。
頬を赤らめながら自分の見たかった映画に誘ってくれた川野さん。
そんな姿を見せられれば川野さんが自分に好意をもっているのかな、と思えてくる。
でも、実際は本当にもらったチケットがあまっただけなのだろう。
頬を赤らめていたのは喫茶店のなかでそんな話をするのが恥ずかしかったから。
合点がいく。
弓道部、いや、学校の中でも純情可憐な弓道美少女として名が高いのだ。
入学してから最初に聞いた告白のウワサは彼女のものだった(後に断ったということが判明したが)。
実際、弓道部にも川野さんのことが好きって奴らがいるだろうし。
かくいう俺も川野さんのことは気になっていたりする。
まぁ、そんなヒトと映画を観に行けるのであれば、たとえチケットがあまったという理由だろうが、
嬉しいものは嬉しいもので。

思考の沼から抜け出し、着替えを終えて、階下に向かう。
リビングへのドアを開けるとすでに姉ちゃんが夕食の準備を終えて席に着いていた。

「それじゃ早速食べようか」
「よっし。ん〜、いい匂い。うまそ〜」
「当ったり前じゃない。お姉ちゃんが作ったのよ」
「だね。いつも本当にありがとう。姉ちゃん」
「っ!ど、どうしたのよ?急に素直になって。誉めても何もでないわよ?」
「いやさ、いつも家事とかやってもらってるからお礼は言っとかないと」
頬を赤らめる姉ちゃん。失礼ながら姉ちゃんにもそんな顔できたんだ。
今日は紅色の頬を見るのが多い日だなぁ。

「それじゃ、いただきま〜す」
「……いただきます」

さっきから何故か口数が少ない姉ちゃん。なんだか喫茶店での川野さんの姿と重なる気がする。

「ん。やっぱりうまいや!」

空気がたまらなくなり、姉ちゃんの発言数に反比例して喋る俺。

チャーハンを半分くらい食べたところでようやく姉ちゃんが口を開いた。

「あの、さ」

口調はいたって普通。だが、視線を俺の目に向けない。
いつもは俺が目をそらしても無理やり目を合わせるのに。俺の右耳あたり?
を見ながらどうもばつが悪そうに話す。

「今度の、日曜日、映画観に、行かない?」

久しぶりの姉からの誘いだった。

 

Side綾音

勇気をもって声を絞り出す。
稜相手になに緊張してるんだろう、わたし。
どうせ暇なんだろうし、こんなことで緊張するなんて中学生みたい。
とりあえず、どんな服を着ていこうか、この間買った服でも見せてやるかな。
想像が来週の日曜日にだんだんとフォーカスをあわせる。

「あー、来週の日曜日は、ごめん」

楽しい日曜日は雲散霧消した。

「………あの女…の子?」

自分でも驚くほど低い声。無意識に出た真っ黒い氷のような声。
別に稜が女の子と仲良くしたって自分には関係ないはずなのに。
ただ、稜が女の子と仲良くしてるっていうのがあんまりないから、驚いてるのかもしれない。
今日の昼、駅ビルのスーパーであの女の子と笑顔で話していた稜。
………そう。あの笑顔。小さい頃、稜がよく私と遊んでいたときのもの。
その笑顔をあの女の子に向けてた。それがけで、自分の中でたくさんの感情が渦巻いていく。
あの頃の私は、確かに稜のことを…………
でも、あの頃の私は稜とは添い遂げられないことをなんとなく理解し、その気持ちを封じ込めた。
どうやら、その気持ちが今になって決壊するらしい。
ごめんね、稜。
わたしもう、我慢したくない。
だけど、この気持ちを稜に拒絶されたらどうしよう。
今まで稜には冷たくして来ちゃった。なんてことをしてしまっていたのだろう。
いきなり態度を変えたら、嫌われるかもしれない。そんなのはいや。いや。いや。
少しずつ稜に身も心も近づいていこう。
そうすれば、十数年越しの夢を、叶えられそうだ。
いろいろと準備をするものがある。
悔しいけれど、今回の映画はあの女に譲ることにしよう。
稜にとって優しい姉でいるのも、わたしの喜びになるだろうから。

 

Side稜

「………あの女…の子?」
沈黙。
今まで姉ちゃんと暮らしてきて、初めて聞いた声だ。
暗く重い、地割れの底から響いてくるような声。
受け答え方が悪かったのか?
姉ちゃんの表情には怒りは無い。むしろ、戸惑っているような。
だがその表情も直ぐに無表情に変わり、ボソボソと呟いている。
正直言って、怖い。こんな姉ちゃん初めて見たし、どうして日曜日に映画に行くのを断っただけで、
こんな空気になるのだろうか。
女の子と行くから?まさか、チケット消費のためだし、第一姉ちゃんが難色を示すのは違うな。
それとも久しぶりの誘いだったから?あるかもしれない。
最近姉ちゃんとは出かけたりしてないからな。
それらの思考は姉ちゃんの言葉で吹き飛ばされた。

「それじゃ、楽しんでおいでね」
そう言う姉ちゃんの顔は、やわらかい微笑みに包まれている。
なんだ、良かった。怒ってなかったんだ。
「誘い断ってごめん。その代わりに今度どこかに遊びにいこうよ」
「うんっ!約束だよ?」
色あせていた姉との日々に、色が戻り始めた。

第4話 I wish I were an innocent girl.

朝の日差しを受け、ゆっくりと目を開く。
携帯の画面に目をやる。時間は朝の7:30。
冬休み中だが、自分のリズムを作って生活するというのは大切なことだ。
弓道部に入る前は冬休み中にこのような時間に起きることは無かったが、
どうやら精神が鍛えられたらしい。
それに今日は部の新年会の日だ。
昨日の買い物で、面白そうなものも買ったから、楽しくなるはずだ。

寝間着のまま部屋を出て、1階のリビングへと向かう。
……いくら起きられるとはいっても寝起きは寝起きなわけで。
少し気だるい気分でリビングのドアを開けつつ姉ちゃんに挨拶。

「ふはぁ〜。おはよう姉ちゃん」

しかし、返事は無い。この時間なら姉ちゃんはとっくに起きててテレビでも見てる時間なのに。
それともまだ寝てるのか?一応確認するか。

さっき降りてきた階段を再び上り、姉ちゃんの部屋へと向かう。
ドアの前に立ち、軽くノック。
………返事なし。
もう少し強めに。
……返事はない。
直接居るか居ないか確認しよう。
ドアノブをまわし、ドアを開く。姉ちゃんの部屋に入るのは久しぶりだ。
ベッドにはシーツがきっちりと敷かれている。
どうやら部屋の主である姉ちゃんは出かけているらしい。
いつもは部屋に入れてもらえないからここぞとばかりに観察してみる俺。
机の上に置いてある30センチ四方くらいの大きさの厚い本が目にとまった。
あれは、確か、アルバムだな。こんなところにあったのか。
開かれているページを覗き込むと、そこには満開の桜の木の前に立つあどけない少年と少女の姿が。
これは……小学校の入学式か。今から10年ほど前の出来事だ。
姉ちゃん、変わってないな………
写真に写っている少女は今と変わらず、ボーイッシュな格好で少年、
つまりありよき日の俺、の肩に腕を回して首を絞めている。
フレーム内の俺は、苦しそうな顔をしている。よく我慢したな。俺。
そんな小学生になりたての俺は、苦しそうな顔をしながらもまんざらでもない様子が、
容易に見て取れる。
あのときはようやく姉ちゃんと同じ"小学生"になれたということで嬉しかったんだった。
記憶の中に残る姉ちゃんの姿はクラスの男の子と遊んでいるイメージで一杯だ。
今の姉ちゃんのボーイッシュな風貌はそのときに完成されたに違いない。
思い出に浸っている間の時間は、意外なほど早く進む。
道場へ行かなければならない時間にギリギリ間に合うバスが来る時刻が迫っていた。
ヤヴァイ。遅刻するっ!!!
急いで学校へ向かうのだった。

Side夏美

現在時刻7時40分。
あと5分で鶴川君が来る時間。
冬の朝特有の凛とさせてくれる空気を胸いっぱいに吸い込み、道場の前で待つ。
バスのブレーキ音が聞こえてくる。
鶴川君が来るんだ。
寒いとしきりにさすっていた手の動きを止め、弓道場から校門へとつながる道の先をじっと見つめる。
現れる人影。見慣れた姿だ。
「お〜っい!鶴川ク〜ン!!」
いつの間にか寒さは感じない。あのヒトの名前を呼べば。

Side綾音

いろいろと用意するものがある。
どうして今までこの気持ちを抑え付けていたのだろうか。
……稜が好き。そう思うだけで世界が色づく。価値のあるものになる。
日曜日は残念だけど、別にいい。
これからの稜と過ごし続ける時間を考えると、とても小さなものなんだ。
ただ、気がかりなのは、相手の女。
稜は映画が好き。だから誘いに乗るのはわかる。でも、その女はどうなのかしら。
稜は優しい。だから誘いに乗るのはわかる。でも、その女はどうなのかしら。

朝早く家を出て綾音が向かった街は、日本中、いや、世界にも広く知られる電気街だ。

買わなくちゃいけないものがたくさんある。

綾音はさまざまな品を見ながら考える。

受信距離は隣の部屋だから短めでも大丈夫かな。
こんな小さなカメラでも綺麗に写るのね。
なんだかストーカーみたいになってるけど、稜の保護者としてなんだから仕方ないわ。

ポイントが5桁分貯まるほどの買い物をした。

十人十色の日曜日はやってくる。

2007/03/17 To be continued.....

 

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