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二人の姫君



1

大陸暦995年

タイラント王国

「ア〜ル〜」

―――おれを呼ぶ声がきこえる。またかと思い声のするほうへ走っていく。

「なにかご用でしょうか。姫さま」
「はやくいっしょにあそぼ?」
この国の王女であるラナ姫さまが屈託の無い笑顔で聞いてくる。
「あの、今、訓練中なので・・・」
「は〜や〜く〜あ〜そ〜ぼ〜?」
「あの、だからですね――」
「・・・アル、あそん、で、くれない、だね、う、うぅ」
姫さまは笑顔から一転して今にも泣き出しそうになった。
「はぁ・・・、隊長・・・・・・」
「仕方ない、アル、今日はもうあがっていいぞ」
「ほんとっっ!!じゃあはやくお庭にいこっっ!!」
隊長が言うやいなやすぐにおれの手を取って走り出していく。
さっきまで顔をグシャグシャにして泣いていたのが嘘のように笑顔になっている。

 

 

このタイラント王国には少年騎士団がある。
騎士団と言っても貴族の息子や戦災孤児なんかが騎士見習いとして所属していて、
正規の騎士になるための訓練兵みたいなものだ。
おれもここに戦災孤児として所属している。
姫さまとは一年前の入団式のときに会い、それ以来ずっとこんな調子だ。

「きょうはおままごとね」
「・・・・きょうは、っていつもと同じじゃ・・・」
「はい、アーンして」
・・・人の話も聞かず空の器からスプーンですくうマネをしておれにスプーンを向けてくる。
そしておれはいつものように食べるマネをする。

「おいしい?」
「・・・おいしいです」
無難な返答をかえす。
「えへへー、よかったっ!じゃあ、つぎは・・・・・」
「姫様、王様がお呼びですよ」
いきなり侍女のマリアさんが遮るように現れて言った。
「ええ〜お父さまがー?あとでじゃ、だめ?」
「だめです」
「もーしょうがないなー。ちょっとまっててね、アル」
「はい」
姫さまは不機嫌そうにマリアさんと歩いていく。
おれはそれを見送っていった。

 

 

ボーっとしていると渡りの廊下でメイドの女の子が洗濯物を大量に運んでいる。
それも前が見えないほどに。
大丈夫か?と思ったら―――

「きゃあ!!」

案の定、こけた。

「大丈夫ですか?」
「ああ、すいません!!すぐに片付けますから!!」
メイドの女の子は廊下にぶちまけた洗濯物を慌てて拾っている。
しかしすごい量だな・・・

「手伝いますよ」
「えっ!!」
この洗濯物の量を一人で運ぶのは大変だろう。
「でも・・・騎士さまにこんなこと・・・」
「いいんですよ。それに騎士って言っても見習いなんですから」
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

 

 

 

「すいません。お忙しいのに運ぶのまで手伝ってもらって・・・」
「い、いえ、そんなことはないですよ」
姫さまが待っててって言ってたけど、まあ大丈夫だろう。
しかし結構重いな・・・。二分割してもこの重さなのに、すごいなこの・・・
「えっと名前は・・・」
「ミヨっていいます。先日この仕事に就いたばかりなので、まだ慣れてないんです」
「・・・そうなんですか。あっぼくの名前は―――」
「アルさん、ですよね」
「えっ!どうして知ってるんですか?」
「みんな噂していますよ。赤い瞳の少年騎士が姫さまに取り入っているとかどうとか」
・・・しまったな。意外と有名になってるんだ・・・。
「あ、でも私はそんなことは思いませんよ。実際会ってみるととても優しいので」
「そ、そうですか?」
面と向かってこんなこと言われると照れるなぁ。
「そうですよ。・・・ふふっ」
「・・・ははっ」
つられて笑ってしまう。

「アル」

・・・後ろから聞き慣れた、そして底冷えするような声でおれの名前が呼ばれた。

2

「アル、なにしてるの?」
「姫さ、ま・・・?」

 振り向くとそこには姫さまが立っていた。
俯いていて目は前髪に隠れて見えないが口元が笑っていない。

「あ、あの、今、ちょっと手伝いを―――」
「まっててね、っていったよね」

・・・・・・・・・。

「・・・その、待ってる間時間もありましたし―――」
「まっててね、っていったよね」
・・・理由を話そうとしても話を遮られる。というより聞く気がない。
姫さま・・・怒ってるのか・・・?

「ア、アルさん、ここまででいいので・・・」
「え、あ、はい」
「じゃあ、本当にありがとうございました!」
空気を察したのかミヨさんはおれから洗濯物を取って行ってしまった。
周りに人はいなく、姫様と二人きりされてしまった。

 

「アル」

「あの子、だーれ?」

いつもと同じ口調。だけど何かが違う。
口元は笑っておらずいまだに前髪で目が隠れていて表情が読めない。

「あの子はメイドのミナといって、自分はその手伝いを―――」
「アルはわたしより、あの子のほうがいいんだ」
・・・何でそうなる。

「・・・わたしね、すぐにもどってきたんだよ。でも、そしたらアルがいなくてね。
わたしさがしたんだよ。いっしょうけんめい・・・。
でも、やっとみつけたら、アル、ほかの女の子とたのしそうにおはなししてたんだもの。
わたしじゃない女の子と・・・。
だめだよ・・・そんなの・・・。ひどいよ・・・」

 

・・・そんなにひどい事なのか?
それはともかく泣き出しそうになってきたな・・・。
おれが待っていなかったせいだからなぁ・・・。ちゃんと謝っておかないと。

「姫さま、申し訳ありませんでした。姫さまの命に背いてしまい・・・。
これからは姫さまのお望みとあればなんでもいたします」

「・・・なんでも?」
お、なんでもって言葉に反応したな。
ようやく顔を上げて見えた顔は少し嬉しそうに見える。
ま、今までも姫さまの言う事はなんでも聞いてきたがこれで泣かせずに済みそうだ。

「ほんとうに、なんでも?」
「はい、なんでもです」
「じゃあ・・・・・・わたしと・・・けっこんして!」

 

「・・・・・・・・・さすがに、それは・・・」
「・・・うそつき。なんでもするって言ったのに・・・」
・・・また泣き出しそうだ。勘弁してくれ。

「姫さま。自分は平民出の騎士、姫さまは王女です。結婚などできるわけがありません」
「・・・わかった。・・・だったらずっといっしょにいて!!」

「ずっといっしょに、ですか?」
「うん!おとなになってもずーっと!!これならいいでしょ!?」

「・・・・・・わかりました。約束、しましょう・・・」
「うん!!やくそくだよ!!!」

―――ずっといっしょに、か・・・。
ほとんど姫さまの勢いで約束をしてしまった。
でも、約束は守れそうにない・・・。
・・・ごめんなさい、姫さま。おれにはそんな資格はありません。

―――おれはあなたの、『敵』ですから・・・。

2006/12/31 To be continued.....

 

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