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蒐集家と依存者と電波娘



第一話「コレクター未来、推参!」

冷たく、透き通っているような冬の空。
空を見上げながら、冷たい空気を胸一杯吸い込む。
そのお陰で冴え渡る頭。
小学校、いやもっと昔から冬の間はこうだったかなぁ。
お、そろそろ────

ガチャッ
「ゴメンね恵ちゃん!」

静かな冬の朝に響くのは、ドアを開ける音と、それに続く聞き慣れた声。
その声は────

「未来、そのセリフを聞いたのは一万回目だよ」

俺の幼馴染み、朝生 未来の物だ。

「恵ちゃん違うよ?
まだ1726回目だよ?
恵ちゃんたらうっかりさんなんだから〜」
プンプン!って言い出しそうなくらい頬を膨らませながら言う未来。
未来は天然なので、色々とオカシな部分があるが、いつもの事なので気にしない。
「未来も適当だろ?
ほら、早く学校行くぞ!」
未来は適当な数字を言ったのに妙にリアルな数字だった。
ま、トロそうに見えて頭悪くないからな、未来は。

「待って!、忘れ物しちゃった!」
「…またですか」

お決まりのパターンその2
2日に一回は忘れ物をする。
ま、トロそうに、じゃなくて、本当にトロい部分もあるからね。
今日はいつもより焦ってたみたいだなぁ…、何か大切な物でも忘れたのかな?

「おまたせ〜」
「遅い。もう結構ヤバいよ」
「あわわ、今何時?」
「8時ジャスト」
「なんだ、まだ余裕あるよね?」
「あと30分で学校に着けと?」
「うん」
「はぁ…、走らなきゃならんでしょうが」
どうしてこう未来は楽観的なんだろ?
いや、幼い頃から甘やかした僕の責任か…orz
「そうだよ〜?ね、早く行こ?」
そう言って俺の前に立ち手を差し伸べる未来は、冬の星のように輝く、澄んだ笑顔だった
俺は未来が時折見せるこの表情が好きだった。
そうして今日も20分のマラソンに興じることになった。

…登校中
「そう言えば未来なに忘れたんだ?」

「乙女の秘密!」
この時は、この素朴な疑問に対する本当の答えを知るとき、
俺と未来の関係が大きく変わってしまう事に気付かなかった

『未来…未来…』
誰かに名前を呼ばれた気がして、重い瞼を持ち上げる。

「ん…、おはよう恵ちゃん」

上半身を起こして、此処には居ない幼馴染みで、『想い人』の守屋 恵ちゃんに挨拶する。
…あ、レズかと思ったでしょう!
恵ちゃんはね、めぐみ、って書いて、けい、って読むんだよ?
だから立派な男の子!
あれ、何で恵ちゃんの説明なんかしてるんだろ?
「うーん……はっ!今何時!?」

何だかおまぬけな事を考えてる内に、恵ちゃんが来るまでもう少しになっちゃった!
「お風呂入らなきゃ!」

急いで階段を降りて、お風呂場に飛び込む。
急いでシャワーを浴びて、ドライヤーをかける。
目の前の大きめの鏡には、肩の辺りで切りそろえた、亜麻色の髪の女の子が映ってる。
自分で言うのもなんだけど、かなりかわいいと思う。
おっきな目、小ぶりなお鼻、可愛らしい唇。
ふぅ…なんで伝わんないんだろ?
「恵ちゃん……」

想い人の名を呟き、暫しトリップする。

はぁ…こんな感じの朝になるのは1592回目。
何年経っても冬は寝起きが悪いんだよねぇ。
ま、恵ちゃんが待っててくれるからいいんだけど!

着替えも身だしなみもちゃんと整えて、家を出た。

「ごめんね恵ちゃん!」

ドアを開けると、家の前に恵ちゃんが居た
王子様だ!
こう思うのは初めて会った時から毎日だ。
サラサラの髪の毛、優しさを帯びた瞳、キリッとした眉毛、スッキリとした鼻梁、etcetc…
とにかく魅力的なの!。
恵ちゃんのお顔に見とれていると、流石の恵ちゃんも少し呆れてるみたい。

「未来、そのセリフを聞くのは一万回目だぞ」

恵ちゃんたら適当なこといって!

「恵ちゃんたら違うよ?
まだ1726回目だよ?
も〜恵ちゃんたらうっかりさんなんだから〜」

プンプン!って感じだよ!もぉ!
「お前も適当だろうが!
ほら、早く学校行くぞ!」

適当じゃないのに!
まぁいっか!
あれ?なんか忘れてるよーな……!!!
あーーーーっ!!!
『アレ』忘れちゃった!!!
「待って!、忘れ物しちゃった!」
「…またかよ」

慌てて家へ入り、靴を脱ぎ捨て、部屋へ飛び込む。
『アレ』は机に備え付けの引き出しの一番下の段に……あった!!!

その引き出しの中は私の宝物(コレクション)が沢山、と言うか山ほど入ってる。
恵ちゃんの使用済み消しゴム、使用済みストロー、使用済みティッシュ、…etc.etc.

その中でもとびっきりの『アレ』
『アレ』は私にとっての御守り
よく小さな女の子が使うような安っぽい宝石箱。
だけど、私にとってその中身はどんな宝石より大切で、価値のある物
大切な大切な────恵ちゃんの髪の毛。
426本。その全てに恵ちゃんと私の思い出が詰まっている。
その宝石箱を大切に鞄の中に入れて、再び家を出た。

「おまたせ〜」
「遅い。もう結構ヤバいぞ」
「あわわ、今何時?」
「8時ジャスト」
「なんだ、まだ余裕あるよね?」
恵ちゃんってば、いつも大袈裟なんだから
「あと30分で学校に着けと?」
「うん」
「はぁ…、走らなきゃならんだろが」
「そうだよ〜?ね、早く行こ?」

そう言って手を差し伸べる。
けれど、恵ちゃんはその手を握ってはくれなかった。
いつからか手を繋いでくれなくなった恵ちゃんを少し恨めしく思った。

2

キーンコーンカーンコーン…
間の抜けたチャイムの音と共に、脱力し机に突っ伏す物が居れば、
いそいそと鞄から弁当を取り出す奴、走って購買へ走る奴も居る。
つまり、今は昼休みと言うこと。
朝のあの後、20分に及ぶマラソンのお陰で間に合った。
そのおかげで朝のホームで脚がツってしまったのだけど。

「あぁ…、昼休み、つまりランチタイムだ!」
そう俺の前で軽快なステップを披露しやがるのは、栗輪 和(くりわかず)だ。
あだ名はもちろん────
「黙れ、『クリリン』」
だ、だからといって、コイツはスキンヘッドでもなく、額に六つの点があるわけでもない。
どんな奴かと言うと、割と遊び人なタイプだ。

「地球人最強なんだぞ!
…ところでご一緒にランチしません?」
「おまえ佳奈ちゃんはどうしたんだよ?
この間まで『ラヴ・ランチ』してたじゃないか」
「ご想像にお任せします」
相も変わらず彼女がよく変わる奴だ。
ラヴ・ランチは栗輪の『じゃ、佳奈ちゃんとラヴ・ランチしてくるから』
と言う捨て台詞より抜粋

「しかたねぇなぁ…」
そう言いながら机を合わせ、弁当を鞄から取り出す。
ちなみにこの弁当は僕が作った。
料理は出来るからな。
料理の出来ない未来にも作ってやってる。
「いやぁ、久しぶりだなぁ」
「で、どうして別れたんだ?」
遠い目をする栗輪にそうツッコむ。
未来の次くらいに付き合いが古いので遠慮は要らないしな。
「いや、その…」
急に口ごもる栗輪
「浮気?」
「…バレた?」
いや、それ以外の理由でお前が別れた事無いから。と心の内でツッコむ。
半ば呆れ果てながら弁当箱の蓋に手を掛けた瞬間、ガラッ。と教室の戸が開いた
「守屋 恵先輩は居ますか?」
飛び込んできたのは、俺の所属する邦楽部の後輩、澄須(スミス) エリナちゃんだ。
輝くブロンドのショートカットに、空色の大きな瞳。
上級生相手に緊張しているのか、不安げに八の字に曲げられた眉に、
思わず抱き締めたくなるような可愛らしさを感じる
確実にこの学校の五本指に入るほどの美少女だ。
スミス、なんて名字や、ブロンドなのは、父親が帰化日本人だからだそうだ。

「どうしたの?エリナちゃん」
椅子から立ち上がり、エリナちゃんに近付く
「いえ、その…、お昼ご一緒しようと思ったんですが…」
チラリと栗輪の方をみて、
「…先輩のお邪魔になる様なので…」
酷く落ち込んだ様子のエリナちゃん
あぁ、栗輪を警戒してんのかな?
奴は在る意味有名人だからな。
「全然邪魔なんかじゃないぞ?、栗輪も一緒で良いなら一緒に食べようか」
「えっ?いいんですか?」
パッと顔を輝かせるエリナちゃん。やっぱり可愛い

「いやぁ、エリナちゃんみたいな美少女とランチ・タイムを御一緒できて光栄だよ」
「そ、そんなことないですよ!」
「僕もそう思うよ?」
僕がそう言うと、チラリと此方を見て頬を赤らめる。
照れてるんだろうか…?
そう考えると鼻血が出そうになった。
この後のエリナちゃんは栗輪に対しても楽しげに接していた。
警戒してた訳じゃなかったんだな…

 

放課後
今日も邦楽部の部室による。
未来は女子バスケットボール部でエースでキャプテンなので、放課後は殆ど会わない。

邦楽部は、みんなで好きな曲を聴いたり、バンドをやったりする部活だ。
毎週水曜の昼休みには、リクエストに応じて曲を放送したりもしている。
邦楽部にはプロデビューした凄い先輩達のバンドがあるお陰で音楽室が部室になっている。
今日も部室に一番乗りだった。
今日はmaniac loveの『Too deep love』を聴こう。
maniac loveは先述の先輩達のバンドだ。
最近ではよくマニラなどと呼ばれるガールズバンドで、
激しく、一途な女の子の愛が歌詞になっている。
それが受けたのか、大流行して、年末の音楽番組で、数々の新人賞を受賞している。
だけど、マニラの影響で、女性による監禁や、恋敵の惨殺事件なども増えているらしい。
マニラのメンバーには一人一人、恐ろしい話があって、
ひとりは恋敵を東京湾に沈め。
ひとりは恋敵をミンチにして。
ひとりは恋人を監禁し。
またひとりは他のメンバーがやった事を全部やったらしい。
ま、噂だろうけど。

『Too deep love』

朝目が醒めて 最初におはよう 伝えたいアナタは隣にいない

どうしていつも そんなに優しくできるの 私なんか 突き放せばいいのに

目と目があって telepathyで『アイシテル』 伝えたいアナタの隣にはアイツ

どうしていつも 隣にアイツが アイツなんか 殺してしまおう

夜目を閉じて 最後にオヤスミ 伝えたいアナタは 物言わぬ屍

アナタはワタシと永遠に一緒

ワタシの愛の海底で

ワタシだけを見つめてて
────────

うーん…、相変わらず凄い歌詞だなぁ
えーっと…、作詞はMIYAKO?メンバーじゃない人だ。
なんて聴きながら考えていたら、突然ドアが開いた
「遅れてスイマセン!」
そう慌てて部室に入ってきたのはエリナちゃんだった。
「オッス!エリナちゃん」
片手を上げ、声を掛ける
「オッスです!先輩!」
エリナちゃんも元気よく返事をしてくれた。
「ところで、遅れてって何に?」
邦楽部には、開始時間も活動日も特に決まって無いので、何かに遅れる、と言うことが無いんだけど…

「先輩…、もう忘れちゃったんですか…?」
不安げな瞳のエリナちゃん
その眼差しにちょっとドキッとした。
や、ヤバい!
このままではエリナちゃんを悲しませてしまう!
考えろ!考えるんだ僕!
「えーっと…そうだ!マニラの曲の練習だったね?」そういえば、昼休みにそんな約束したなぁ…。
エリナちゃんはあの電波バンドの大ファンだそうだ。
「はい!」

 

2時間後…
「エリナちゃんは凄いなぁ、もう簡単に弾けちゃうなんて」
「そんなこと無いですよ!
私なんかまだまだ先輩には及びません!」
謙遜するエリナちゃん。
良い子だなぁ〜、ホント。
家の隣の誰かさんとは大違いだ。
「きっとすぐ追いつくよ、
…そろそろ暗くなるし帰ろうか?」
それに、エリナちゃんみたいな美少女に誉められると照れるな…
「えっ!、は、はい!帰りましょう!」
なんだか慌てた様子のエリナちゃん
うーん、流石は美少女。どんなときでも可愛いな。

今更だけど、エリナちゃんは俺より頭一つ分背が低いなぁ。
それもあって、余計に可愛く思えるのかもしれない。

部室をでて、玄関に向かう。
「エリナちゃん」
「な、何ですか?先輩」
「やっぱりエリナちゃんみたいな美少女がひとりで帰るのは危ないから送ってくよ」
うん、当然だな。
エリナちゃんが一人だと確実に襲われそうだし
「いいんですか…?」
何故か俯いて答えるエリナちゃん。
耳が赤く見えるのは夕日のせいだろう。

 

と、まあ、この後は特に何もなく、2人で話しながら帰った。
時折、こちらを見る瞳や、無邪気な笑顔が眩しい。
本当に美少女だなぁ…
あ、そういえば、栗輪曰く未来も学校で五指に入るくらいの美少女だそうだ…。
身近すぎて実感わかないけど……

「じゃあ、俺は此処で」
あれこれと世間話をしている内に家の前に着いてしまった
「あ、先輩…」
「どうした?エリナちゃん」
「あ、いえ…、その…」
何か煮え切らない態度のエリナちゃん。
「…?どうしたの?」
「な、なんでもないですっ!!」
「?ならいいけど…、あ、また何かあったら言ってね!」
「えっ?良いんですか?」

「エ、エリナちゃんの頼みなら何でもやっちゃうよ!」
心底嬉しそうに微笑むエリナちゃん。
僕との身長差のおかげで上目遣いになってる。
あぁ、こういう時に人は犯罪を犯して仕舞うんだなぁ…、と思った。
「じゃ、じゃあ、もう帰るね!」
「はぃ…」
「そんな悲しそうな顔しないでよ、明日、またね!」
「また、明日です…先輩」
そう言ってエリナちゃんに背を向け、歩き出す。
心臓がドキドキしてる…
もしかしたら、恋してしまったのかもしれない…

 

すっかり日も沈み、所々で道を照らす街灯を頼りに帰宅する
家の前に佇む人影に気付かずに…

2007/01/06 To be continued.....

 

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