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修羅サンタ 〜6月の花嫁編〜

第1回 第2回                
正月編 バトルチョコ編 白い日編 トナカイ恩返し編 黒いサンタ編 6月の花嫁編 水面に映る花火編 外伝 砂浜の砂時計編 壇上の決闘編
運命の交差点編 三択の二択編 二人のサンタクロース編              
美紗の狂愛編 最後のサンタクロース編              
Grunnlegger編 起 老章 前編          


1

6月○○日 AM7:30 通学路

紫陽花と、梅雨のコントラストがよく似合う6月のある日―――

通学路を対照的な表情をしている二人が、傘を差して学校に登校していた。

1人は、朝から雨でちょっと欝が入っている卓也。
もう1人は、毎年6月は何故かハイテンションになる美紗だった。

「でねでね、先々週新しく保険医が赴任したじゃない。え〜〜っと、そうそう「黒百合」って
名前だったわね。それがさ、赴任早々ファンクラブができちゃってさーー、体育館で
ファンらが決起集会してたのよ。それで邪魔だったから強制排除したって訳。
いずれ三択のファンクラブもこの手で……」
「美紗、ちょっと聞きたいことが……」

このままほっとくと話が危険な方向に行きそうなので、卓也は美紗の話の腰を折って聞いた。

「ん?何?」
「黒百合……先生から、何か聞かれなかった?」
「聞かれたこと?う〜〜〜ん」

腕組みしつつ考えることしばし、何か思い当たることがあったのか

「そうだ!!思い出したわ!!アイツ、赴任して間もない頃、廊下で
すれ違った時「お前は悪い子だ」なんて言いやがったんだわ!!そりゃ、成績は悪いし、
ちょっとだけ喧嘩もするけど……でもでも、いきなり初対面の人にそう言われる
筋合いは無いわよ―――」

この後、美紗が何言ったのか卓也は覚えていなかった。
黒百合が美紗に放った言葉―――「お前は悪い子だ」
この言葉が持つ意味を知っている卓也は

「美紗!!」
「きゃっ!!ど、どうしたのお兄ちゃん、急に大声出して」
「美紗、俺のお願いを聞いてくれるか?」

素っ頓狂な顔をしていた美紗だったが、兄の願いと聞いては燃えない訳が無く

「水臭いなーー、お兄ちゃんのお願いならたとえ火の中水の中、三択のアジトにだって
行っちゃうわよ」
「そんなに難しいことじゃないんだ。出来るだけ黒百合先生には逆らわないで欲しいんだ」
「え?そんなこと?……まあ今の所逆らう理由も無いし別にいいけど……」

とはいえ、これじゃ一時しのぎにしかならないからいずれ、何とかしないとな……




AM9:30 教室

リーーーン、ゴーーーン……

6月の貴重な晴れた日。教会のチャペルに響き渡る鐘の音……
今日、一組のカップルが晴れて結婚式を開いた。
その新婦の控え室では、新婦が両親との別れを惜しんでいた。

「お父さん、お母さん……私、いっぱいいっぱい幸せになるから」
「……綺麗だよ、美紗」
「お兄ちゃんと幸せにね」

純白のウェディングドレスに身を包んだ美紗は、両親に別れを告げ、声が掛かるのを待った。
暫くして―――

コンコンッ

「塚本美紗様。準備が整いました」
「それじゃ……いってきます」

ああ……ついに、ついにこの時が来たのね。
幾多の艱難辛苦を乗り越え、お兄ちゃんと―――いいえ

卓也さんと夫婦になれるんだわ!!

意気揚々と礼拝堂へ歩く美紗。
だが、近くまで来た時ある事に気付いた。

あれ?礼拝堂って確か私の貸切じゃ……

礼拝堂に近付くと、パイプオルガンの音楽が聞こえ、中で美紗より先に式を挙げている
カップルがいるようだ。
近くにいた人に美紗は聞いてみると

「ねえねえ、中で誰か式を挙げているの?」
「はい、今は塚本卓也様と三択・ロース様の式を挙げている最中です」

「………………………………は?」
「いえ、ですから塚本卓也様と三択……」
「も う 一 度 言 っ て み な ?」

 

なるほどね。私と卓也さんが結婚する前に自分がしちゃおうって魂胆か。
どうせ嫌がる卓也さんを無理やり引っ張ってきたんでしょうね。
いいわ、そっちがその気だったら……最後の決着をつけてやるわ!!!

美紗の眼光に気負わされ、廊下の隅っこでガタガタ震えている案内人を無視し、
礼拝堂の扉を開けた―――

バンッ!!

「卓也さん!!」

「おめでとう!!」
「おめでとう!!」
「二人とも幸せにな!!」

礼拝堂は幸せと祝福で一杯だった。
大勢の人たちが祝福する中、奥の壇上にいる礼服を着た卓也と、真っ赤な
ウェディングドレスを纏っている三択が、今まさに互いの顔を近づけ―――

「卓也……」
「三択さん……」

「ダメダメダメーーーーーーー!!!!」






「おい、美紗、起きろって」
「う〜んう〜ん……達磨になった気分はどお?うふふ…………」
「どんな夢見てんだよ!!ほら、早く起きないと三択さんに気付かれちゃ…………遅かったか」

 

三択の奏でる数学という名の子守唄の効果で、美紗は夢の中に居た。
その机の横に顔は満面の笑みだが、目は笑っていない三択が立っていた。

「あらあら、いーー度胸ねーー。この私の授業中に爆睡するなんて……さて、どうしようかしら」

全くこいつは授業受ける気ゼロね。
他の先生に頼んで補習授業をやらせたのにこの体たらく……
少しお仕置きしなくちゃ!!

このまま窓から外に放り投げようと襟首を掴んだ瞬間、ガバッと美紗が立ち上がり

「三択!!卓也さんと結婚なんてさせないわ!!…あ、あれ?」

一瞬にして静寂に包まれた教室。
誰も彼も一言も発することが出来なかった。
唯1人を除いて……

「はあはあ……ふう、夢か……しっかし途中までは最高だったのに……三択の奴、斬っても斬っても
手足が生えやがって……まるでトカゲの尻尾みたいだったわ……ん?三択何よ、ニヤニヤして」

「美紗、卓也との結婚式には呼んであげるからネ♪」

PM15:45 武道館

放課後、美紗は校舎内にある武道館で剣道の練習をしていた。
スポーツだけは万能の美紗は、時々助っ人として試合などに呼ばれたりする上に、教えるのも
上手いのでたまにこうして放課後に指導していた。
唯し、今日は練習そっちのけで、ちょっと興奮気味の後輩から質問攻めにあっていた。

「それにしても美紗先輩、凄い騒ぎでしたね〜〜」
「そうそう、私たち丁度真下の教室だったけど、爆音は響き渡り、天井はひび割れるんだもん。
しかも窓の外を見ると、椅子や机や男子生徒までもがドンドン下に落ちていくんだもん」
「あんたたち!!無駄口叩いてないで練習しなさい!!」

イライラしている様子の美紗は、竹刀を床に叩きつけてはしゃぐ後輩を叱りつけた。
「はーい」と生返事をして練習に戻る後輩の背中を眺めながら、美紗は―――

三択の奴、何が「結婚式には呼んであげる♪」だ!!!
ふざけた事ぬかしやがって……でも、夢ではあったけどアイツとお兄ちゃんの結婚式……
あれが予知夢だって言うんだったら……ウフ、ウフ、ウフフフフフ……

「美紗先輩……血走った目で竹刀を頬ずりしてどうしたんですか?」

PM18:50 塚本宅

「ただいまーー!!」
「おかえり。あ、美紗。郵便物が来てるわよ」
「郵便?……あ、来たんだ!!」

母が指差した居間のテーブルに置いてあった郵便物を見てみると、その表紙に書いてあったのは

「幸せな貴方に贈る結婚式場のご案内」

「ね、ねえ美紗……一応聞くけど、誰と結婚する気?」
「やだなーーお母さん、お兄ちゃんに決まってるでしょ?」

その言葉を聞いた母は、青褪めた表情で

「美紗、ちょっとだけ話を聞いて。
  兄妹の仲が良いのは良いんだけど、結婚は兄妹は無理だから―――」
「お母さん!!!」

母の話を遮り、怒りの表情の美紗が

「兄妹だから結婚出来ない?兄妹だから愛し合っちゃダメ?そんなの誰が決めたの?
少なくとも私には関係ないわ。私はお兄ちゃんと結婚する!!その為ならどんなこと
でもするんだから!!」

母の叫び声を尻目に郵便物を握り締めて、自分の部屋に戻った美紗は深い溜息をつきながら、
今日届いた郵便物を眺めて

どうして誰も分かってくれないのよ……
兄妹ってのはそんなに足枷になるの?
私はただお兄ちゃんを愛しているだけなのに……

自分宛に届いた郵便物を開け、中に同封されていたカタログを取り出した。
数十ページのカタログには、綺麗なウェディングドレスの数々や予算に合わせた幾つかのプラン。
そして幸せそうな新郎新婦の写真に書かれている見出しが、目に飛び込んできた。

「6月に結婚したカップルは幸せになれるという言い伝えがあります。さあ!!
思い立ったら即実行!!ご予約の電話は0120-○○○-□□□」

―――綺麗―――

写真を見た美紗の率直な感想だった。
写真の新婦を自分に当てはめて考えるだけで、美紗は幸せな気分になれた。

私も……早く着たいな……

ふと、視線を机に向けると
そこには高校入学の時に撮った、卓也と美紗の2ショット写真が飾られていた。
ちょっと緊張気味の卓也に対して、美紗は卓也と手を組み、幸せそうな笑顔をしていた

お兄ちゃん……私のお兄ちゃん……私だけのお兄ちゃん……
私が生まれた頃から「兄」としてではなく、「1人の男性」として見てきて……
これまでも、そしてこれからも、ううん、来世でも一緒よ……

PM20:00  塚本宅での夕飯

「さ、お兄ちゃん食べて♪」

一歩踏み出す美紗

「激しく遠慮する」

一歩下がる卓也

「も〜〜、そんなに照れなくてもいいのに……お兄ちゃんの照れ屋さん♪」

さらに一歩踏み出す美紗

「美紗、俺は黒くて刺激臭のする肉じゃがは食っちゃダメってばあちゃんに言われてんだ」

台所に立って何かしてるなって思ったけど、まさか料理をしてたなんて……
どう考えても食える代物じゃないだろ、アレは。
あ、美紗の奴目つきが悪くなって唸り声まで上げてきたな。
こりゃ暴れるまえに……

「ううーー、お兄ちゃん!!私の愛がたっぷり詰まった肉じゃがなんだから!!
一口ぐらい食べてよ!!……あ!!ちょっと、何処行くの!!待ってよーー!!」






「……ふう。ここまで逃げれば大丈夫だろう。後はほとぼりが冷めるまで隠れてるか」

執拗な美紗の追跡の手から何とか逃れた卓也は、家から少し離れた電信柱の影に隠れていた。
体力的に不利な卓也は、逃げると見せかけて電信柱に隠れた為、辛うじて美紗をまくことに
成功したのだった。
卓也の家の周りには街路灯が設置されていなかったという幸運もあったが、まだ安心できなかった。

美紗の奴、俺のことになると恐ろしく勘が働くからな…………
まだ外を探しているうちに、早く家に帰って風呂入って歯磨きして寝るしかない。
そうすれば美紗も無理強いして毒物を食わせようとしないだろう。
よし、そうと決まれば即実行だ!!

電信柱の影から静かに顔を出し、周りに誰かいないか覗いてみた。

静かだ……誰もいないな。

だが、周りを伺っていた卓也の顔の前を一陣の風が吹いた。
そして次の瞬間、闇の中から二本の腕が伸び、口元を押さえつけられた!!

「見ぃ〜〜つけた♪」
(み、美紗?!しまっ)

それは一瞬の早業だった。
美紗は、卓也の口の顎を一瞬で外し
開いた口の中に黒い物体を放り込み
また一瞬で顎を元に戻して、そして顎を掴んで強引に咀嚼させた。

「お兄ちゃん、美味しい?」
「………………」

バリッ、ボリッ、ゴリッ…………

か、硬てーー!!
食感だと、多分ジャガイモみたいだけど、ちゃんと茹でたのか?
まるで一瞬だけお湯に通しただけ、みたいだな。

しかもこの味は……苦いような、酸っぱいような、塩辛くて甘いような…………

出来れば吐き出したいけど、美紗の奴恐ろしいほどのバカ力で顎を押さえつけやがって……。
あ、こら!!顎を上げるな!!吐き出そうと思っていたのに、喉の方に……

ゴクン

ああ……飲み込んでしまったよ……
喉越しも最悪だ……。それに美紗、顎を離してくれたのはいいんだけど、
その期待に満ちた目は何だ?確かあの目をしている時は、褒めてもらいたい時の目だな……。
あ、あれ?口が開かない……。何か痺れているような……。
いや、手足もやばいな。感覚が無くなってきた……。
もう立っていられない……。

「……兄ちゃん?……ちゃん!!どう……しっかり……!!」

美紗の声が段々遠くなってきた……。
ああ……おかしいな……瞼を閉じているはずなのに、とっても明るい……
あ、誰かが手を振ってる……今行くよ…………

PM23:00  卓也の部屋

 

「はあ……危なく天に召される所だったよ……それにしても、まだ舌がヒリヒリしてるな……。
何処をどう料理したらあんな味になるんだ?」
「う…………ん、お兄…………ちゃん…………」

布団の中で頬を擦りつつ、ボソッと呟いた卓也だったが、隣で腕を掴まれたままスヤスヤと
寝ている美紗を見ていると、あれほど酷い目に逢ったというのに、なぜか本気で
怒る気にはならなかった。

まあ俺の為に作ってくれたんだから、その気持ちは嬉しいんだけど…………
さて、もう夜も遅いし寝るか…………

 

――――そして――――

AM○○:□□  とある神社の裏山

草木も眠る丑三つ時…………
月も雲に隠れている暗闇の中、明かりも点けずに石畳の上を歩く白い人影が歩いていた。
一点の明かりも無い道を迷うことなく進むこと数分。
着いた先には一本の杉の木がそそり立っていた。

白装束に身を包んでいるその女性は杉の木の前に立つと、左手に握っていた藁人形を
杉の木に押し当てると、懐から一本の五寸釘を藁人形の胸に刺し、右手に握っている
ハンマーを一気に振りかぶり―――

 

数日後――――

 

「……ええ、そうなんですよ。私も長年住職をしておりますが、ここ最近は多いですね。
数日前も釘を打ち付ける音がしたので、翌朝この山の御神木まで行って見ると、一体の藁人形が
突き刺さっておりましてね……。名前、ですか?ええ、藁人形の胸辺りに書いてありましたが、
名前なのでしょうか、血文字で「三択」って書いてあるのですが、何のことでしょうか……。
あ、「三択」の所は編集でピー入れといて下さい。ああ、それとこの名前の藁人形ですが、
もうかれこれ数十体に上ってるので、相当深い恨み辛みがあるんでしょうね……」

 

 

修羅サンタ「6月の花嫁編」   完

2007/06/25 完結

 

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