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修羅サンタ 〜白い日編〜

第1回 第2回                
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運命の交差点編 三択の二択編 二人のサンタクロース編              
美紗の狂愛編 最後のサンタクロース編              
Grunnlegger編 起 老章 前編          


1

「流血のバレンタインデー」から20日後……

最後まで入院していた卓也は、晴れて今日退院した。
久々の外の空気を胸一杯吸うと、入院中の騒動が嘘のような静けさだった。

とはいえもうここには入院できないだろうなあ……

卓也より一足先に、美紗と三択は退院したが退院した翌日から「お見舞い」
と称して毎日卓也の元に来ていた。

しかし来る度に

ある時は、診察に来た看護師(♀)に美紗が木刀を構えて威嚇したり
またある時は、三択が卓也に食べさせようとノルウェー名物
「シュールストレミング」を病室で開けて大騒ぎになったり

そして極め付けは―――

 

退院まで後数日のある日。体の調子もほぼ問題無くなり病院内を歩けるぐらい回復したそんな時―――

いつものように先に退院した美紗が差し入れにリンゴを持ってきた時のことだった。

「はいお兄ちゃん、あ―――ん♪」
「おいおい、自分で食べれるよ……」
「ダメ!!お兄ちゃんはまだ病み上がりなんだから!!だから私が食べさせてあげるの!!」

卓也の寝ているベットの脇で、剥いたリンゴをフォークに刺して卓也の口に運ぼうとしている。
そんな美紗の甲斐甲斐しい姿に卓也は苦笑しつつも

「わかったよ。……もぐもぐ……うん、美味いよ」
「美味しい?良かった……お兄ちゃんにもしものことがあったら……私……」

卓也が倒れた原因が半分は自分にあることを医者から聞いた美紗は、酷く落ち込み

「自分のせいでお兄ちゃんが……」

と自分を責めていたが、卓也は笑って許した

「何だ?まだ気にしてるのか?もう終わったことだ。そんなに落ち込むな。それよりもリンゴくれ」

俯いている美紗の頭を卓也は優しく撫でると、美紗は嬉しそうな顔をして

「お兄ちゃんはやっぱり優しいね。この優しさは誰にも渡さない……」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何でもない」

ああ……幸せだわ。
私の人生の中でベスト5に入るぐらい幸せだわ!!
ず―――っと、ず―――っとこうしていたい……

だったら治らなきゃ…………

それは余りにも衝撃的だった。
悪魔の囁きにも似たこの甘い言葉に、一瞬眩暈を覚えたがすぐに頭から振り払い

バカバカ!!私のバカ!!
そんなこと一瞬でも考えちゃダメよ!!
大体そんなことになったら登下校は私1人で……
遊びも外出も1人で……
夜、ベットで1人で寝て……

イヤーーーーーーー!!!!

「おおおお兄ちゃん!!早く、早く治して退院して!!」
「あ、ああ……。」

そんな他愛無い話をしていたら、突然館内放送が流れた。

「お見舞いに来院されている皆様。まもなく終了のお時間になります。
また明日来院して下さい。繰り返します……」

病院内に響き渡るお見舞い時間終了の放送により、帰らなきゃならないが案の定美紗は愚図り始めて

「……やだ……やだよ……グスッ、お兄ちゃんが居ない家になんか帰りたくないよ……」

「美紗……」

どう慰めようか卓也が考えていた時、急に美紗が額を押さえながら苦悶の表情を浮かべて

「いたっ!!痛い……来たわね!!!」

バンッ!!

勢いよく扉を開け、部屋に飛び込んできたのは無駄に大きい胸を持ち、
ミニスカートをこよなく愛する自称サンタクロースこと三択その人だった。
しかもなぜか真っ赤なナース服を着て、でっかい注射まで持っていた。

「はーーーーい!!愛する卓也元気??まあ元気が無くても私が元気にしてあ・げ・る♪」
「ちょっとアンタ!!何でナース服なんか着てんのよ!!しかも色が変!!」
「卓也を看病する為に着て来たのよ。色は問題ないわ」

はあ?!こいつバッカじゃないの?
ナース服着たからってナースになったつもりなの?
自称サンタクロースだから頭の中毎日クリスマスパーティーでもしてんのかしら。

美紗が人を小馬鹿にしたような表情で三択を見ていたら、
逆に三択も美紗を小馬鹿にしたような表情で見ていた。

「……何よ」
「いや〜〜、べっつに〜〜。ま、「見舞い」に来たアンタはさっさと帰れば?
「ナース」の私は卓也と一緒にいるから」
「馬鹿なこと言わないで!!そんなこと出来るわけないでしょ!!
大体アンタはナースじゃなくて教師じゃない!!それとも何?
ナース服着たらナースだって言い張るつもり?」
「そうよ。今の私は「教師の三択」じゃなくて「ナースの三択」なんだから」

あまりにもムチャクチャな理屈にさすがの美紗も開いた口が塞がらなかった。

「さ、それじゃお薬飲んで安静にしてね。あ、見舞いの人は早く帰って。シッシッ。
後は私が……ね。うふっ」

美紗はぎりぎりと歯軋りし、プルプル震える手から血が滲むぐらい拳を握り締め

 

こいつ、あくまでもナースで押し通すつもりね。
こんなアホにお兄ちゃんを看病させたらどんな改造されるか……
お兄ちゃんは私だけの……私だけのお兄ちゃんなんだから!!!

「あ、そうそう。座薬持ってきたからズボン脱いでお尻出してね」
「え?!そ、それは遠慮します……うわっ!!三択さん、ズボン引っ張らないで!!」

 

 

ブチッ

 

「お兄ちゃんに……お兄ちゃんに…………」

卓也の隣のベットを鷲掴みにした美紗は一息に頭上に持ち上げ、
ターゲットを三択に定めて

「その汚い手で触るな――――――――!!!!」
「きゃあああああああああ!!!!」
「何で俺まで!!!!!!」





その後のことは、卓也は思い出したくなかった。
何しろ窓を突き破ってベットは外に投げ出され、部屋は台風が通り過ぎたのかと
思うぐらい荒れ果てていた。
そして卓也は入院日数が延びたのだった……

「ま、まあこうして無事退院できたし、二人とも悪気は無かったんだしな。
っとそろそろ迎えが来るかな?」

退院の日には三択と美紗の二人が、「「迎えに行くから!!」」
と言っていたので、卓也はこうして病院の正門前で待っていたのだ。

と、そこへ

「お兄―――ちゃ―――ん!!!」

遠くから聞き慣れた声がしたので見てみると、美紗がブンブンと手を振りながら走ってきた。

「おう、ここだよ」

卓也もつられて手を振った。
そこでふと卓也は、美紗の後ろからこちらに向かって爆走してくるスポーツカーに気付いた。

ああああああああ!!!!すげ――――!!!
あれ、フェラーリの「612 Scaglietti」だ!!
かっこい――――!!誰乗ってるんだ?

だが様子がおかしかった。
スピードを緩めるどころかどんどん加速し、真っ直ぐ美紗に向かって―――

「美紗――――!!!!」

卓也が美紗の元に走ったのと同時に、美紗は空に投げ出された。

鈍い音と共に木の葉のように空を舞った美紗はそのまま地面に激突し、真っ赤な血溜まりを作り
美紗を跳ねたフェラーリは卓也と美紗の間に割り込んで止まり、その車の運転席に居たのは―――

「た〜〜くや♪迎えに来たよ。さ、乗った乗った」
「三択さん?!何で!!どうして美紗を!!」

卓也は大混乱に陥っていた。
何で?!何で三択さんが美紗を?!
いくら仲が悪くてもそこまではしないと思っていたのに……
あ、そんなことより美紗を病院に!!!

美紗に駆け寄ろうとした卓也だったが、三択に腕を掴まれて

「あいつなら大丈夫よ。そんなの放っといてデートでもしよ♪」
「ふざけないで下さい!!大丈夫なわけないでしょう!!」
「……あれでも?」
「え?」

見ると、血の海に沈んでいた美紗だったが、フラフラしながらも
ゆっくりと立ち上がった。

ちっ……、手ごたえはあったのに。

「美紗!!美紗――――!!!」

卓也の必死の呼びかけに対して美紗は―――

くそっ……、血が目に入って何も見えないわ。
それにしてもあんのクソババアが!!車で跳ね飛ばしやがって!!
一瞬早く額の傷が疼いて身を捻ったから致命傷にはならなかったけど
殺る気マンマンってことね。
でもさすがに車とぶつかったから無事ってわけでもないわね。
体のあちこちから激痛がするし、特に頭がハンマーで殴られたように痛むわ。
ああ……、お兄ちゃん、どこ……、どこに居るの……

「……紗!!……紗!!!」

あ!!お兄ちゃんの声だ!!どこ?どこにいるの??

血が目に入っているため本来は見えるはずはなかった。だが美紗には三択が車に卓也を押し込め
Uターンしていくのがハッキリと視えた。

「そこか――――――!!!!!!!!!!」






「さって、退院祝いにどこか遊びに行こうか」
「遊びって……そんなことより戻って下さい!!美紗が大怪我してるんですよ!!!」

卓也の抗議に対して、フェラーリを運転している三択は面白くないのか

「ふん!!あんなブラコン死ねばいいのよ!!!貴方達もそう思うわよね」
「そ〜よそ〜よ。あんなゴミはどっかのゴミ処分場で燃やしちゃえ――!!」
「姉さん、それはダメよ。燃やしたらダイオキシンが発生しちゃうかもしれないわ」

後部座席から声がしたので振り向くと、小さい女の子が二人ちょこんと座っていた。

「三択さん、後ろの女の子は?」
「ああ、紹介するわ。トナカイの―――」
「姉のミサイルといいま――す。よろしくね、卓也さん♪」
「私は、妹のロケットと申します。姉さん共々これからも宜しくお願い致します」

顔が瓜二つで見分けがつかないが、どうやら髪が長くて馴れ馴れしい方が姉で、短くて
丁寧な言葉使いの方が妹のようだ。しかし……

「トナカイって……俺には人間に見えるんですけど……」
「ああ、サンタのトナカイは変身出来るのよ……って渋滞か……」

見ると、前方は病院の出入りする車で渋滞が起きていた。
美紗からは数百メートルしか離れていないため、これではすぐ追いつかれる距離なはずだが、
三択は余裕顔をしていた。

ふふん、あれだけの怪我なら今頃は病院送りね。本当なら霊安室送りにしたかったけど
再起不能にしただけで良しとするか。
それよりもこれからどこに行こうかしら。
「あ〜〜ん、道間違えた〜〜」
ってとぼけてラブホに入って女の武器を使うのも手なんだけど、
さすがにそれは「まだ」出来ないわね。

あれこれ行き先を考えていたら、バックミラーを見ていたミサイルが

「三択さま〜〜、後からさっき轢き殺しかけたアイツが追ってきてるんですけど〜〜」
「え?!うそ!!そんなはずが……」

驚いた三択だったが、バックミラー越しに写った流血で顔を真っ赤にして走ってくる美紗を
見るや否や驚きは収まり、代わりに心の奥底から沸々と怒りが込み上げて来た。

死にぞこないが!!あのまま大人しくくたばってればいいのよ!!

「きゃああああ!!!」
「ち、ちょっと三択さん!!もうちょっと安全運転を……うわあああ!!」

公道だということを忘れてドリフトなどのテクニックを駆使して威嚇した三択だったが―――

「あ〜〜ん、お兄ちゃ〜〜ん、怖〜〜い♪」
「三択さん!!美紗が怖がってるじゃないですか!!ここはレース場じゃないんですから
安全運転して下さいよ!!」

卓也の膝の上で鼻息を荒げ、わざとらしくガタガタ震えている美紗を卓也は優しく
頭を摩ってあげていた。

何よ何よ何よ!!そんなに妹の方が大事なの?
こいつもこいつで、この時とばかりにベタベタ甘えやがって!!
今に見てなさいよ!!

羨ましそうに美紗を見ていた三択だったが、ふと目が合うと美紗は

あっかんべー

「姉さん、三択様ハンドル齧って唸り声上げてますけど、どうしましょう?」
「し―――、喋っちゃダメよロケットちゃん。関わっちゃうと怪我するわ」





そしてホワイトデ―当日

放課後、バレンタインデーのお返しにと、あちこちで可愛い包みを持った
男子生徒が歩いている光景を尻目に、美紗は廊下を歩いていた。

う〜〜ん、お兄ちゃんったら急に屋上に呼び出したりして、何か話しでもあるのかな?
それとも今日はホワイトデーだから、バレンタインデーのお返しをくれるのかしら。
んもうお兄ちゃんったらそんなに気を使うこと無いのに……
ちょっと手でも握って愛を語ってくれればそれだけでもう……
お兄ちゃん待っててね〜〜、今行くから〜〜♪♪

上機嫌でスキップしながら廊下を歩き、屋上に続く階段の入り口まで来た時―――

「むっ!!」
「……何睨んでんのよ」

反対側の廊下から三択も同じ様にスキップしながら階段に近づいてきた。

ちっ、嫌な奴に遭っちゃったわ。
おっと、こんな奴の相手なんかしてられないわ。早くお兄ちゃんに逢って……グフフ♪

階段を上る美紗。その後ろからついてくる三択。

「……何でついて来るんですか?」
「それはこっちのセリフよ」
「ついてこないで!!」

少し早足になる美紗。ついて来る三択。
さらに早足になる美紗。まだついて来る三択。

最後には猛ダッシュで走り、三択もダッシュしていた。
屋上に出れる扉まで来た時には二人同時に着き、同時に出ようとしたために出口で
引っかかってしまい

「ちょっと邪魔!!私が先よ!!」
「アンタこそその無駄にデカイ胸を何とかしろ!!」

出口で押し合いへし合いして暴れていたら、出口で挟まっていた
これもまた無駄にデカイ三択の尻が外れ

「きゃ!!!」
「いたた……やっと屋上に出れたわ」
「二人とも何してるんですか……」

声がしたので、二人して見て見ると卓也が呆れ顔して立っていた。

「お兄ちゃん!!……んもう愛の告白なら家の方が……」
「さて、妄想に浸ってる妹は放って置いて……どうしたの?急に呼び出したりして」

むっとした美紗を無視して話しを進める三択に対して、卓也は

「今日はホワイトデーじゃないですか。だからはい、プレゼント」

卓也は手に持っていた包みを二人に渡した。
ちょっと驚いた二人だったが、直ぐに笑顔で

「あ……ありがとうお兄ちゃん……ちぇ、告白じゃないのか……」
「あら、ありがとう卓也。開けて見てもいい?」
「ええ、どうぞ」

三択は、卓也から貰った小さな包みを開けた。中には―――

「へぇ〜〜いいじゃない。気に入ったわ。ありがとう」

それは真紅に染まったハイソックスだった。

「三択さん、いつもミニスカートじゃないですか。だから似合うかな……と思って」
「お、お兄ちゃん!!わ、私も見て良い?」
「もちろん」

あいつがハイソックスなら私は何だろう?
まあお兄ちゃんからのプレゼントだったらどんな物でも嬉しいんだけどね。
美紗も続いて袋を開けた。すると―――

「え?!これってまさか……」

それは漆黒に染まったハイソックスだった。

「ね、ねえお兄ちゃん……一応確認するけど、このハイソックスってもしかして……」
「そう、三択さんのハイソックスとお揃いだよ」

それを聞いた瞬間、美紗は握っていたハイソックスを本能で屋上から投げてしまうのを、辛うじて
理性で押し留めた。
如何なる物であろうとも、愛しい兄からプレゼントされた物は美紗にとって宝物なのだ。だが―――

「お、お、お、お兄ちゃん!!!何で!!どうしてよりによってこのクソババアと
お揃いの物なのよ!!」
「ふん!!それはこっちのセリフよ」

睨み合っている二人の視線の間に卓也は割り込み、優しく美紗の手を握り締めて

「お兄ちゃん……」
「いいかい美紗、三択さんが来てからというもの喧嘩ばかりしてるだろ?
つい先日も車に轢かれて大怪我したじゃないか。このままだと取り返しのつかない事態に
なるんじゃないかって心配なんだ」
「う、うん……」
「だから、手遅れにならないうちに三択さんと仲良くなってもらおうと思って
このプレゼントを買ったんだ。三択さんも美紗と仲良くしてもらえますか?」

横で冷ややかな目つきで聞いていた三択は、暫く考えて

「まあ……私は異存ないわよ。だって将来私の「妹」になるんですもの」
「そんなことは未来永劫ありません!!!」
「三択さん!!そうやって美紗を怒らせるから喧嘩になっちゃうんですよ。
さ、握手して仲直りして下さい」
「「え―――…………」」

露骨にイヤな顔をした二人だったが、真剣な表情の卓也を見てとりあえずこの場を収めるため、
二人は渋々握手をした。

(卓也の手を握ったこんな手、潰れろ!!)
(お兄ちゃんに近付くこの魔の手を捻り潰してやる!!)

 

 

修羅サンタ「白い日編」   完

2007/03/14 完結

 

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