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修羅サンタ 〜水面に映る花火編〜

第1回 第2回
正月編 バトルチョコ編 白い日編 トナカイ恩返し編 黒いサンタ編 6月の花嫁編 水面に映る花火編 外伝 砂浜の砂時計編
運命の交差点編 三択の二択編 二人のサンタクロース編        
美紗の狂愛編 最後のサンタクロース編        
Grunnlegger編 起 老章 前編          


1

赤いサンタの〜トナカイさ〜ん〜は、いっつもみ〜んな〜の〜わ〜ら〜い〜も〜の♪

道を歩けばあちこちから聞こえてくる聞き飽きたクリスマスソング……
ケーキの箱を持ったサラリーマンや子供連れの親子など、普段とは違う、この日だけの光景に、
目を細めつつも、一人の男は自分の置かれている状況を見る。

そう、此処はケーキ屋の前。目の前には長机の上に売り物のケーキが鎮座し、
自分はサンタの格好をしてレジの前に立っている。

はあ……何で俺がこんな日にアルバイトなんてやってるんだろう……
本当なら、今頃は彼女としっぽり楽しむハズだったのに……
いや、彼女なんていないから風俗でしっぽりか?

「ほらほらボーーッとしない!!お客さん多いんだからしっかりして!!あ、いらっしゃいませーー」

そうだ、そうだった。こいつが諸悪の根源だった。
幼馴染だか何だか知らんが彼女でもないのに四六時中俺に付き纏い、
いつの間にか合鍵まで作って不法侵入して、
しかも隣にアイツがいて外歩くと道行く人が俺らを避けて早足で通り過ぎていくから、
ナンパもできやしない。
前に風俗店に行こうとしたら、どうやって知ったのか先回りされて、
公衆の面前でフルボッコされて病院送りにされたのは……うん、もう忘れよう。

「……ん?何見てんのよ」
「いや、寒そうだなって思って」

2人してサンタの格好をしているが、レジの男はズボンに長袖なのに対して、
売り子の女の方は、生足にミニスカート、胸を強調した上着と、
このままだと凍死しかねない格好に見えた。

「雪も降り始めるし、さっき目の前でテレビのレポーターが吹雪で吹き飛ばされていたぞ。
無理するなよ」
「私だってしたくてしてるわけじゃないのよ。それよりも何か感じない?」

そう言うと、手をモジモジさせながら、上目遣いで男を見てきた。

ん?何やってるんだ、アイツ。何か顔を真っ赤にして気持ち悪い動きしてるな。
この格好に理由があるって言うことは……
ああ、分かったぞ!!そうか、そういうことか。

「ごめんな、気付いてやれなくて。しかも無神経なことまで言って……」
「え?」
「お前がそんなこと考えているなんて思わなかったから……」
「な、何よ今更……で、でも分かってくれたんだったら、
こここ、今夜、私のは、は、は、初めてを―――」
「いやーーー、お前がそこまでお店のことを考えているなんてな」
「はは、初めてをあ、あげ―――はい?」
「ま、確かに俺が売り子するよりその格好でお前がした方が売り上げも伸びるし、
あの店長にしてはナイスアイディアだな。あははは……」
「…………………………」

でもアイツもアイツだよな。
いくら店長の命令でもこんな真冬にそんな格好したら風邪引くじゃないか。
ここは少々露出が減ってももう一枚上に上着ぐらいは着てもらわないと……

「なあ、寒いんだったら上着でも―――」
「バカーーーーーーー!!!!!」

男が隣から聞こえた絶叫を聞いて振り向くと、
涙目の女がフルスイングで投げたケーキが目前に見えた。

「大体商品のケーキを俺にブン投げるってどういうことだよ!!
しかもあの後何で俺が店長に怒られるんだよ!!」
「ニブチンのアンタには分からないでしょうね。全く……期待した私がバカだったわ」
「何だよそれ」
「こっちの話。さ、鍋が出来たわよ」

夜11時過ぎ。バイトが終わった2人は夕飯の鍋の材料を抱え、アパートの自室に戻ってきた。
本当は男は1人で過ごしたかったのだが、そんなことを女に言うだけ無駄だろう。
結局今年も見飽きた面とクリスマスを過ごすことを考えると―――

「はあーーー……」
「如何したのよ溜息なんかついて。そんなにバイト疲れた?」

 

お前のせいでな!!

 

「さて、次の話題ですが、なんと今夜都内各所で空飛ぶサンタを見たという
目撃情報が寄せられました。どこかのお店の宣伝なのか、何かの見間違いだとは思いますが、
万が一ということもあります。
捕獲したか写真を撮ったという方がおりましたら、この生放送中に電話下さい。電話番号は――――」

テレビの下らないバラエティーを見つつ、炬燵で鍋を食する2人。
そして八割方食った所で女が男を真剣な目で見つめると

「ねえ……何で彼女作らないの?」
「いきなりなんだよ」
「ちょっと気になってね。で、どうなの?」

何でもクソもただ単に好みの女が居ないし、居ても既に彼氏が居るか、
居なくても声掛けても相手にされないんだよ!!
こいつ知ってて聞いてんのか?いや、そんなに嫌味な奴じゃないし、ただ単に好奇心で聞いただけか?

「彼女は欲しいさ。ただ相手がいないだけだよ」
「ね、ねえ……もしも、もしもよ。付き合って欲しいっていう女の子が居たら……付き合う?」
「うーーーーーーん……」

暫く思案したのち

「胸の大きい子だったら付き合う」
「へ?む、胸?何で?胸が大きいからって性格が悪いかもしれないじゃん!!」
「ちっちっちっ、違うな。胸の大きい子に悪い子は居ない!!俺のデータがそう言っている!!
逆にペッタンコの女は問題アリだ」

ピキッ

女の握っていた割り箸からヒビ割れる音がしたが、女は平静を装いつつ

「へ、へ〜〜、そ、そうなんだ。じゃあ、私は大丈夫だね」

女は今日家を出る時、勝負下着を着たのだが、
その時胸を少しでも大きくしようと寄せて上げるブラを付けて、
しかも胸周りの脂肪という脂肪を無理矢理寄せた為に、
元々AカップがどうにかBぐらいまでには出来たのだ。

「お前はダメ。無理。拒否」
「何でよ!!ペッタンコじゃないじゃん!!」
「お前な……何年一緒にいると思ってるんだ?お前がペッタンコなのは知ってんだよ。
しかも性格悪い。すぐ暴力振るう。チビ。何処に惚れる要素が?」

ベキッ

割り箸が真っ二つに割れ、元々忍耐力の無い女は我慢の限界だ。

「へーーー。言ってくれるじゃない。そんなに私って見た目も中身も酷いんだ」
「おーーそりゃーーもう酷いのなんのって。お前と付き合うぐらいなら死んだほうがマシってもんだ」

そう……そこまで言うんだ……
今日は聖夜の日。出来ることなら血生臭いことは避けたかったけど……
うん、ダメ。もう無理。今すぐ殺す。

怒りでブチ切れた女は、炬燵の反対側でニヤニヤ笑っている男の顔面目掛けて殴りかかった。
だが―――――

 

もう少しで拳が届く時、爆音と共に突然天井が崩れ落ち、炬燵の上に何か赤い物体が落ちてきた!!

「きゃーーーー!!」
「うわ!!!何だ何だ?」

天井の瓦礫と埃でよく見えないが、赤い物体がモゾモゾと動いていた。

「いったーーーーい!!んもう、急に雪なんて降るなんておかしいわ。多分ノルウェーのサンタね。
確か、名前は……三択ナントカだったわね。覚えてろよ!!ま、それはともかく……」

呆気にとられている男と女。
両方の視線の先にいるのは……

赤いスカート
赤い帽子
赤い上着

数時間前まで男と女が着ていた服と同じだ。

「や、こんにちは。私の名は「ティア・レント」正真正銘本物のサンタよ。
フィンランドから来ました。決してノルウェーじゃないので間違えないように」

「ティア・レント」。その名に覚えがあるのか、男は少し考えた。

ティア・レント?どっかで聞いたことあるような……
つい最近じゃなく、すごい昔だったような……
うーーーーーん……

男が考えていた時、女が立ち上がり、自称サンタを睨みつけて

「ちょっとアンタ!!一体何で天井を突き破って落ちてきたのよ!!しかも何?サンタ?
今すぐ精神病院行け!!バッカじゃないの?!」
「あらあら。お久しぶり。もう私のこと忘れた?」

ティアは思わせぶりな台詞を吐きながら挑戦的な目つきをしていた。
その目が気に入らないのか、女が更にイライラして

「アンタみたいな妄想癖持ちのアンポンタン何か知らないわよ!!」
「ま、そうよね。もう忘れてるわよね。まだ5歳ぐらいだったし……
でもね、私は忘れないわ。お前から受けた屈辱は……
だから私は戻ってきたわ。小さい頃過ごしたこの街……
そして愛する彼との約束を果たす為に……」

そう言い、床に座って成り行きを見守っていた男に近づき、そっと首に腕を絡ませ

「え?え?え?」
「驚かせてゴメンね。約束通りサンタになって帰ってきたわよ。だから貴方も約束を守ってね」
「約束?何だっけ?」
「忘れちゃった?いいわ、思い出させてあげる♪」

ティアは男の腕を掴んで自分の胸に押し当てた。

「うわっ!!いきなり何を!!」
「覚えてない?この感触……この温もり……」

そんなこと言われても……しかしでっかいな……柔らかくて気持ちイイ……
やっぱり大きい方が良いな……あれ?そう言えば俺、昔……

(やーーい、うそつき女なんかガイコクへ帰れ!!)
(お前の目ん玉青くて気持ち悪いんだよ!!)
(う………ぐすっ……)
(へーーー、青くても泣けるんだ。ほれ、もっと泣け泣け)
(おい、お前ら!!何してんだ!!!)
(あ、やべ!!逃げろーーーー!!)
(くそっ……逃げられたか。てぃあ、大丈夫か?)
(う、うん……ア、アリガ、トウ……)
(いいってことよ。それじゃあな)
(あっ、マッテ)
(ん?何だ?)
(あ、アノ……何で助けてくれるの?)
(うーーん、そうだな……確かお前って将来サンタクロースになるんだろ?)
(う、うん。パパがそうイッテタ)
(俺ってサンタ好きなんだ。だってサンタが近くに住んだらプレゼントを何時でも貰えるだろ?)
(ソウナノ?)
(それともう一つ。俺って大きいオッパイが大好きなんだ。今のお前も好きだけど
お前のオッパイが大きくなったら大好きになるぜ!!)
(……エッチ)
(俺は自分の欲望には素直なんだぜ。だからお前がサンタになってオッパイが大きくなったら
ケッコンというのをしようぜ!!)
(…………ウン、ワカッタ。ガンバル)

 

 

「あーーーーーーーーーー!!!!!!あの時の!!!!そうか、サンタになれたんだ」
「ちょっと時間が掛かっちゃったけどね。しかも、こんなに大きくなったよ」

ティアの上着からでも分かるぐらい、
胸はメロンでも入れてるのかと思うほど大きく盛り上がっていた。

「す、すごい……」
「サンタになったし、胸も大きくなれたから約束通り結婚しよ♪」
「ふざけんじゃないわよ!!!」

話の筋が全く分からない女だったが、さすがに「結婚」というキーワードが出たら
黙ってはいられなかった。

「いきなり空から落ちてきて、変なコスプレして、最後には結婚?
寝言は病院のベットの中でほざいてろ!!」
「ペッタンコには用はないわ。もう帰ったら?私は彼に「私」というプレゼントをあげるから♪」
「ちょっと!!男も何とか言ってよ!!」
「いや〜〜、でっかいな……」
「どいつも……こいつも……」

女はひっくり返ったコタツの足を引っつかむとそのまま持ち上げて

「死ね!!死ね!!死ねーーーーー!!!」

 

そして一晩中、その部屋からは悲鳴と絶叫と、すすり泣く声が聞こえてきました。

男の運命はどうなったか?女の逆転勝利は?ティアの結婚は?

その話はまたいずれ……

2007/12/26 完結

 

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