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修羅サンタ 〜水面に映る花火編〜

第1回 第2回                
正月編 バトルチョコ編 白い日編 トナカイ恩返し編 黒いサンタ編 6月の花嫁編 水面に映る花火編 外伝 砂浜の砂時計編 壇上の決闘編
運命の交差点編 三択の二択編 二人のサンタクロース編        
美紗の狂愛編 最後のサンタクロース編        
Grunnlegger編 起 老章 前編          


1

五月蝿い蝉が僅かな命を燃やして鳴いている真夏の大通りを、女性二人に左右から挟まれながら、
ズルズルと引き摺られている男性がいた。

右の女性は、気の強そうな釣り上がった目。起伏の無いボディライン。
常に瞳の奥に殺意を漲らせ、卓也に近づく泥棒猫に対しては一遍の躊躇も無く殺しに掛かる、
外に跳ね返っている癖毛と額の傷がトレードマークの

「塚本美紗」

 

左の女性は、出ている所は出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる
メリハリの効いたスタイル。白く透き通るような肌。何時も明るく振舞っているが、
時折憂いを帯びた表情が魅力的な、ミニスカートをこよなく愛する

「三択・ロース」

 

そしてその二人に挟まれている、二人の喧嘩に毎回巻き込まれ疲れ切っている

「塚本卓也」

今日、この三人は近々始まる花火大会に着ていくための浴衣を買う為に、
百貨店まで買い物に来たのだった。

その道すがら、三択がバテ気味に

「う〜〜……話には聞いていたけど、日本の夏がここまで暑いなんて……」

そんな三択の愚痴に、卓也はクスッと笑い

「三択さんはノルウェー出身ですからしょうがないですよ。慣れてても
今日のこの暑さはキツイですね」

そんな、三択を気遣うようなことを言ったことが面白くないのか、美紗がフンッと鼻で笑い

「だったらノルウェーでも何処でもとっとと帰れば?いや、今すぐ帰れ!!」

そんな美紗の安っぽい挑発に、意外にも三択は

「そうね、帰るか」
「え?」
「本当?よっしゃ――!!!」

だが次の瞬間、卓也を引っ張るように三択が走り出して

「それじゃ、卓也。一緒にノルウェーに帰りましょ♪あ、荷物やパスポートは後で何とでもするから。
さ、「善は急げ」よ!!」
「ち、ちょっと三択さん!!んな無茶な!!」

物凄い力でズルズルと引き摺られること数メートル。
このまま空港まで一直線だと思われたが、急に何かに引っ掛かった
のか動かなくなった。

「ん?あれ?どうしたのよ卓也?早く行きましょ……って妹!!何で邪魔するのよ!!」

よく見ると、ちょうど反対側に卓也の右手を握っている美紗が、足を踏ん張って止めていた。

「あんた……いーー度胸してるじゃない。この私の目の前でお兄ちゃんを
連れて行こうだなんて……帰るなら1人寂しく帰れ!!」

グイッ

「そっちこそバカ言わないでよ!!帰るなら卓也と一緒よ!!妹こそ1人寂しくオナってな!!」

グイグイッ

「あ、あのーー二人とも、痛いんですけど……」

「離ーーせーー!!ムキーーー!!!」
「そっちこそーーー!!」

「痛い痛い痛いーーー!!二人ともいい加減にしろーーー!!!」
「お兄ちゃん?!」

パッ

三択と美紗の綱引きの綱にされていた卓也が悲鳴を上げた瞬間、
反射的に美紗は手を離してしまい、勢い余って三人とも後に転んでしまった。

「イタタ……。お兄ちゃんの声を聞いちゃったらつい手を離しちゃったよ。……
そういえばこれって、確か昔話で子供の本当の親を調べるために子供を引っ張り合って、
子供が泣いたら手を離した方が本当の親だった、っていう話があったわね。……
はっ!!ということは私は兎も角お兄ちゃんにも私の気持ちがバッチリ伝わったわよね!!
お兄ちゃーーーん!!……あれ?」

地面に尻餅をついたままあれこれ考えていた美紗だったが、ふと気が付いて周りを見てみると
誰も居なかった。
ただ、遥か前方で卓也を引き摺りながら走っている三択の後姿が見て取れた。






「三択さんちょっと!!本気ですか?」
「本気も本気。さーー、愛の逃避行するわよ!!」

このまま空港まで一直線に行こうと思っていた時、後から声がした。

「三択!!!」
「ん?」

名前が呼ばれたため条件反射で振り向くと、目前に空気を切り裂き、
弧を描きながら木刀が飛来し、次の瞬間三択の脳天に直撃していた。

 

「さ、浴衣売り場に着いたよ」
「くう……まだ頭がズキズキするわ」
「ちっ、汚い脳みそが飛び散る様が見れると思ったのに……」

途中から、逆に卓也がいがみ合う二人を宥めながら、何とかここまで来たが、
全く怒りが収まらない二人は―――

「ふん!!あんたのその貧相な体で卓也が喜ぶわけないでしょ!!そんな洗濯板に擦られる
卓也を想像しただけで涙が……うっうっ……」
「お生憎様。私はこれからナイスバディになるんだから!!そっちこそ既に地球の重力に
負けている垂れ乳なんて何の価値もないわよ!!あーーまあ歳相応って言うのか……」
「歳は関係ないし、まだ垂れてないわよ、ブラコン!!」
「ブラコン言うな、色ボケ女!!」

ハア……そろそろ止めないと、夜のニュースのトップを飾りそうだ

「はいはい二人とも、その辺にしとこうね」
「お兄ちゃん?だってこいつが……」
「卓也?だってこいつが……」

お互いがお互いを指差し、目で威嚇しあい唸り声を上げている姿を見て卓也は
二人の頭を軽く小突いた

「イタッ!!」
「キャッ!!」
「だーかーらー、公衆の面前で騒ぎを起こすなって……さ、そろそろ二人とも
自分に似合う浴衣を探したらどうだ?」

着いた先の浴衣の特設コーナーには数百着の浴衣があり、毎年夏祭りや花火大会が近くなると
買い物客で溢れかえるほど盛況なのだ。

「うん、分かった。三択よりずーーっとずーーーっっっとカワイイ浴衣探すからね!!」

美紗が走って浴衣売り場の奥へ消えていくのを見ていると、おもむろに三択が

「さて、私も探すか。良いのあればいいけど……」

そう言って美紗とは反対側の売り場へ消えていった。

暫くして

 

「美紗、気に入ったのはあったか?」
「お兄ちゃん?うーーーーん、有るには有ったんだけど……」

そう言って美紗は、二着の浴衣を卓也に見せた。
一着は向日葵の絵がプリントされた浴衣。
もう一着は青一色に染め上げたシンプルな浴衣だった。

「ねえ、どっちが良いと思う?」
「うーーん、そうだな……俺は青一色のシンプルな方が良いな」
「本当?じゃあこっちにしよっと。私もこっちの方が気に入ってたんだーー」

ふう……やっと決まったか。というか何時間悩んでんだよ。2時間も
あーでもないこーでもないって悩むなんて……
よし、次は三択さんだ

 

卓也が三択の居る方へ向かうと、三択は何やら店員と話しているようだ。

「このデザインで宜しいですか?」
「そうね、それでお願いするわ。余り時間は無いから急いでね」
「分かりました」
「三択さん、決まったんですか?」
「卓也?……そうね、結局気に入った物が無かったからオーダーメードで作ってもらうことにしたわ」

三択さん、えらい気合はいってるなーー
それにしてもこれだけの品揃えでも無いなんてどういうのを探してるんだ?

「じゃあ卓也、買い物も終わったことだし帰ろっか」

それから数日後、花火大会当日の開始数時間前……

 

「姉さん、本当にいいのかな……」
「いいのいいの。コイツにゃ恨みもあるし、何よりこれは三択さまの指令なんだから」
「それは、まあそうだけど……」

そうよそうよ。あの時、こんな可憐でいたいけな美少女姉妹をあのクソチビは
事も有ろうに木刀振り回して追い掛け回して殺そうとしたんだから!!
たまたまあの時は卓也さんが近くに居たから助かったけど、居なかったらどうなってたか……
これでギャフンと言わせてやるわ!!!

卓也の家の台所に侵入したロケットとミサイルは、誰も居ないことを確認するな否や
冷蔵庫を開けて牛乳を取り出すと、懐に入れてあった液体が入った小瓶を開けて
牛乳の中に注ぎ込んだ。

「これでよし、と。いい?ロケットちゃん。これは「性技の戦い」なのよ。受けた恨みは
消費税込みで倍返しなんだから!!」
「姉さん、今卑猥な単語が……」
「ああもう!!細かいことはいいから!!ほら、そろそろヤツが帰ってくる頃だから隠れてなきゃ」
「う、うん」

ミサイルとロケットが居間の押入れに身を隠して暫くすると、玄関から話し声が聞こえて来た。

「あ、この声は卓也さまとアイツの声だわ!!帰ってきたのね」
「姉さん、女がこっちに来ます」

暫く押し入れの隙間から覗いていると、部屋でジャージに着替えてきた美紗が
居間に現れ、近くに置いてあるラジカセを弄り始めた。

「アイツ、何してるんだろ……」

暫くすると、ラジカセから音楽が流れ始め

「ハーーイ♪全国の貧乳諸君お元気かな?今日も元気に豊胸体操をして、目指せFカップ!!
それじゃ、早速始めよう!!先ずは準備体操から……」

その後、音楽に合わせて体操をする美紗の姿が、二人にはぼやけて見えてきた

「姉さん……涙でよく見えない」
「私もよ……もうとてもとても……」

「「痛々しくて……」」

「ふうーーー、あちぃーーー、喉渇いちゃった」

「姉さん、もしかして……」
「正にビンゴだわ」

台所の方からガタガタと音がして暫く待つと、美紗が口を拭いながらまた戻ってきた

「あーー、やっぱり牛乳は美味しいわ。今日の体操と合わせて2〜3cmは大きくなったかも……
ん?あれ?」

急に美紗が両手で目を押さえ、フラフラと膝を付いたかと思ったらそのまま床に倒れこんだ。

「姉さん、成功したんですか?」
「そのようね。三択さまの読みがズバリ的中したわ」

前日深夜―――

(いい?ミサイル、ロケット。明日はいよいよ花火大会が始まるわ。
私は直接卓也の家まで迎えに行くけれど、絶対妹もくっ付いてくるはずだわ。
そ・こ・で考えた作戦なんだけど、確かな筋からの情報だと、卓也とその家族は
午前中出掛けるらしいわ。で、貴方達には明日、出掛けている間に、
冷蔵庫に入っている牛乳にこの薬品を入れて欲しいのよ。
どうやら妹は絶対帰ってきたら痛々しい体操始めて、
それが終わったら牛乳を飲むハズだから。効果が表れたら―――)

「うんしょ、うんしょ……っと。よいしょ!!」
「ふうーー、意外に軽いわね。さすがAAカップだわ。さて、次はこのガムテープで―――」

薬の効果で眠らされている美紗を、ミサイルとロケットは美紗の部屋のベットに寝かせ、
テープで手足を縛り、更に口を塞いだ。

「よし、OKね。後は書き置きの手紙を書くだけなんだけど……」
「姉さんは日本語は読めても書けないじゃないですか。私が書きますから、文面を考えてくれない?」
「分かったわ。えーーーっと……」

 

「美紗ーー、そろそろ行くかーーー?」

時間は夕方。普段ならこちらから呼ぶ前には仕度を済ませ、待っている美紗が今日に限って
時間になっても来ないので、心配した卓也が部屋まで呼びに来た。
だが、部屋の前まで来た時、扉に封書らしき物が張ってあった。

「何だ?これ」

中を開けて見ると、一枚の便箋が入っていた。内容は

「拝啓お兄ちゃんへ。妹失格の私は先に花火大会に行ってます。お兄ちゃんは
可憐で美しくてお淑やかで……(中略)……な三択様と一緒に来てちょうだい。  美佐」

「姉さん、あの文面で上手くいくの?」
「大丈夫大丈夫。完璧よ」

そんなロケットの心配もあったが、暫くしたら扉の前にいた卓也は一階へ降りていった。
そしてちょうどいいタイミングで、三択が迎えに来てそのまま花火会場へ向かっていった。

ガタガタ……ガタン!!

ううん……

ガタッ、ゴトン
「姉さん、何か見つかった?」
「うんにゃ。な〜〜んにも」

うん……どっかで聞いたことある声……だな

「しっかし、コイツの机の引き出しって卓也さまが写っている写真ばかりだな……」

「卓也」その単語を聞いただけで、微睡だった美紗の意識は一発で目覚めた。

「ん?ん?んーーーー!!んーーーーー!!」
「あ、姉さん目覚めたようです」
「意外に早かったなーー。ハローー、元気??」
「んーー!!んーー!!」
「「んーー」だけじゃ何言ってるか分かんないよ。って言っても
口と手足のテープは外せないけどねーー♪」
「姉さん、「アンタ達、此処で何してんのよ!!」って言ってるわ。それよりも……」
「ロケットちゃん、コイツの言ってること分かるんだ……、おっとそうだったわね。
アンタはそこで大人しく見ててな」

ミサイルとロケットはそう言って、再び美紗の部屋を引っ掻き回した

「んーーー!!んーーー!!もがーー!!」

「姉さん……すごいわね」
「これは……キモウトの基本だけどさ……」
「ん!!んんーーーーーー!!!!」

美紗の押入れの奥や机の引き出しから、出るわ出るわ。
男物の洋服
男物の下着類
謎の割り箸や紙コップ等等……

「服は分かるけど、何この割り箸とかのゴミは」
「姉さん……ちょっと耳を貸して」

ロケットがミサイルの耳元でヒソヒソと呟いた。
それを聞いたミサイルは、表情を険しくさせ

「本当?それ」
「ええ……多分」
「そう……ま、コイツだったらやりかねないな。じゃ、これらは服もゴミも燃やしましょ」
「んーーーーー!!んんんん!!!!」

口をガムテープで塞がれた美紗は首を振って何か言っていた。

「姉さん、「やめろ、それに触れるな!!」って言ってるけど……」
「やめろって言われてやめるわけなーーいじゃーーん♪さ、ロケットちゃん片付けましょ」
「そうね、姉さん」
「んーーーーーーーー!!」

 

「……んっ……んっ……ずずっ」
「姉さん、コイツ泣いてるけど……」
「いいのいいの、ほらこーーーんなに綺麗になったじゃない!!」

美紗の押入れにあった服とゴミ(美紗には宝物)は今現在庭で燃えていた。

「しっかし、いくら卓也さまが使った物だからって後生大事にとっとかなくても……」
「姉さん、そろそろ見つけないと……」
「おっとそうだったわね。何処かな〜〜」

しかしその後、いくら探してもミサイルとロケットが探している物は出なかった。

「姉さん、これだけ探しても出てこないってことは……」
「うん……無いのかな……」

う〜〜〜ん、三択さまの予測が外れたってこと?
「アイツには絶対弱味があるはずだから、ついでにそれを見つけて」って話だったけど、
無いのかも……それともコイツの体に聞こうかしら?

三角木馬にムチとローソクという組み合わせを思い浮かべながら、普通に部屋に置いてあった
ラジカセに何気なく近付くミサイル。
すると、美紗の表情に明らかに焦りの表情が見て取れた。

「……?」
「……………………」

その表情の意味する所が分からないミサイルだったが、変な直感が働いたのか、
そのラジカセに近付いて

「ん〜〜、別に普通のラジカセだけど……あれ?CDが入ってる」
「!!!!!!!!!!!」
「姉さん、「それに触るな!!触ったら三択共々殺してやる!!」って言ってるけど……」
「触るなって言われると余計に触りたくなっちゃうのよね〜〜♪ポチッとな!!」

カチッ

「ザーーーーーーーーーー」
「……ノイズの音しかしないけど……」
「本当ね。おっかしいなーー」

どのトラックを押しても聞こえるのは砂嵐の音だけだった。
だが、最後のトラックで―――

「あ、これは何か聞こえてきた♪何だろ〜〜」
「……誰かの声が聞こえてくるわ」
「んーーーーー!!んんーーーー!!」

ザ、ザザ…………ピッ

「「美紗」「俺は」「お前」「の」「こと」「を」「愛?」
「ガガッ、ピー……してるんだけど?」「ガンッ、……いてて、ん?何だこれ―――」
「ゴトッ、ああ、やりたいねーー美紗」「やらしてくれよ」「……はあ、はあ、疲れた……」ピッ」

「……………………」
「……姉さん、これって卓也様の言葉を集めて繋ぎ合わせたように聞こえるんだけど……」
「しっ、それを言っちゃダメよロケットちゃん。それよりも、このCDは使えるわ。
持っていきましょ」

ミサイルがCDを取り出そうとラジカセに手を掛けた瞬間

「姉さん、危ない!!」
「え?きゃ!!」

ロケットがミサイルを突き飛ばした次の瞬間、爆音と共にラジカセはCD諸共真っ二つに割れていた。

「いったぁ……ロケットちゃん急に突き飛ばしてどうしたの?」
「ね、ね、姉さん……う、後……」
「後?後がどうかし……げっ!!」

ロケットの後には、力任せにガムテープを引き千切り、怒りで目を真っ赤にした美紗が木刀を構え、
黒い殺気を纏いながら口に張り付いたテープを剥がしつつ二人を見据えていた。

「ミタナ……、キイタナ……、ヨクモヤッタナ……」

抑制の無い、まるで機械から発せられたかのような声で喋りながらロケットとミサイルに
ゆっくりと近付く美紗。

「ね、姉さん……私……」
「大丈夫大丈夫。この私が居る限りへっちゃらだから」

その言葉を聞いて、少し安心した表情をするロケット。だが、ミサイルは―――

うわーーーーん!!怖い!!怖いよーーー!!
どどどど、どうしよう……何とかしないと……
前回の情に訴える作戦はコイツには効果無かったし、二人掛かりで反撃してもバラバラに
されるのがオチだし!!
まだ死ねないわ!!冷蔵庫のプリンを残して死ねないわ!!

ロケットを後に庇いながらジリジリと後ずさっていると、足元にある袋が目に入った。
中を見ると―――

これは!!……よし、これを上手く使って舌先三寸で切り抜ける!!

素早く「ソレ」を掴み、美紗の顔面に投げつけた!!

「アンタ!!それを見なさい!!」
「姉さん?!」

投げつけられた物を見た瞬間、美紗の動きが止まった

「そう、それは先日買ってきた浴衣じゃないの?そして花火大会は7時から開始だったわね。
時計を見てごらん!!」

ミサイルが指差した壁掛時計は、8時30分を指していた。

「ふっ、まだ事態の深刻性を理解していないわね。いい?三択さまと卓也さまは7時には
会場に入ってるのよ。今の今までずーーーっと二人っきりなのよ!!」

ミサイルの言わんとしている事を瞬時に理解したのか、見る見る美紗の顔色は青白くなり、
目も真っ赤から普通の黒になり、更に動揺の色が出てきた

よし、トドメに入るか

「多分今頃は……うん、ロケットちゃんこっちに来て」
「?」

ミサイルの後にいたロケットを前に出したかと思ったら、
いきなりミサイルはロケットを抱きしめた!!

「ねねねねね、姉さん!!ななななな」

(しっ、ロケットちゃんちょっとだけ話を合わせて。私卓也さまやるから、三択さまやって)
(は?……あーなるほど、う、うん)

「ああーー、花火が綺麗だねーー、でも三択さん……いや、三択、君の方が綺麗だよ」
「卓也……私……私……」
「イヤーーー、やめて、やめてーーー!!」

今、美紗の眼にはミサイルとロケットの姿は卓也と三択に見え、正に二人が抱き合っているように
脳内変換したようだ。

「ちゅ、ちゅ、ちゅーー。ふふ、キスで照れるなんてカワイイなーー。じゃあここはどお??」
「あっ……そこはダメ……」

ミサイルはロケットのスカートの中に手を突っ込み、ショーツを弄り始めた。
すると、ロケットの顔は湯気が上がるほど真っ赤になり

「おー、すっかり濡れてるな……それじゃ、俺も我慢出来ないからそこの草むらで……」
「……うん……」
「あ、あ、あ、三択の中は……気持ちいいーー、俺もう……出、出してもいいか?」
「卓也……貴方の好きにして……いいよ……」
「も、もう……あ、あーーーー、……はあはあ……と、いうことを今頃しているかも……あれ?」

バンッ!!!!

何時の間にか、美紗は浴衣に着替え、部屋を飛び出していった。
ミサイルが窓から覗いて見ると、自転車に乗った美紗が猛スピードで何処かへ走り去る姿が見えた。
おそらく花火会場へ向かっていったのだろう。

「ふうーーー、助かったーー。何とか命拾いしたわね、ロケットちゃん……ん?どうしたの、
顔真っ赤にして」
「姉さん……続き…………」
「続き?そんなのないわよ……あれ?ま、まさかロケットちゃんスイッチ入っちゃった?……
ちょ、ちょっと落ち着いて。ね。……あ、そうだわ!!早く私達も三択さまと合流しましょ。ね。」
「姉さん……誤魔化さないで……第一どうやって行くの?……それならここで」
「ほ、ほ、ほら、そこの道路に停めてある「アレ」に乗って、ね」

花火会場

 

 

 

「さすが日本の打ち上げ花火は綺麗ね……。特に空に打ち上がった花火が川に映って
幻想的でもあるわね……」
「ここの花火大会は全国的に有名ですからね。空の花火と川に映った花火で2倍楽しめますから」

数十という屋台、浴衣などで着飾った観光客、子供達のはしゃぐ声……
さほど広くも無い河川敷は花火を見に来た人達でごった返しており、
そんな中かなり早く来ていた三択と卓也は逸早く花火の絶景ポイントの土手をゲットし、
腰を下ろしていた。

しかし、卓也は浮かぬ顔をして

「しかし三択さん、美紗先に着てるはずなのに来ませんね」
「うんそうね。でも卓也の話なら書き置きもあったことだしそのうち来るでしょ。
ねえねえ、それよりもこの浴衣どお?似合う?」
「三択さんらしい浴衣ですから似合いますけど……」

正月の時に着ていたミニスカ晴れ着もインパクトあったけど、この浴衣も凄いの一言だよな……
大体長身の金髪美人っていうだけでも人の目を引くのに、こんな浴衣着たら飢えた狼に
襲われちゃうんじゃないかな。

卓也が心配するのも無理なかった。
三択が着ている浴衣は、まるで血で染めたかのような深紅の色に膝上までしかない丈、
開けた胸元というおよそ男なら視線を集中させてもおかしくない格好だった。
そんな過激な浴衣を着ている三択はというと、寄る男共を全く相手にせず、ただひたすら
卓也との二人っきりの時間を満喫していた。
そんな花火を楽しんでいた二人だったが、ふと卓也が「何か買ってきます」と言って三択と離れた。
暫くすると、帰ってきた卓也は手にかき氷を持って来て

「はい三択さん。暑い夏といえばこれですよ」
「あっ♪かき氷!!気が利くじゃないーー」

三択にはいちご味、卓也はメロン味を選びスプーンでかき混ぜながら
口へ運んだ

「〜〜〜っ!!頭が〜〜!!」
「慌てて食べるからですよ。ゆっくり食べれば大丈夫ですから」
「そうなの?…………うん、冷たくて美味しいーー!!」

すっかりかき氷が気に入った三択はその後三杯ほど食べ、暫くの間夏の暑さを忘れられたようだ。

「この暑さはキツイけど、こういう食べ物があるのはいいわね」
「そうですね……でも、この真夏特有の蒸せるような暑さも、空に映る花火を見ていると
それすらも花火を楽しむための1つの要素って思えませんか?」
「あら、ロマンチックじゃない。でもね……」

瞳を潤わせながらスススッ、と三択は卓也に体を密着させてきて

「こうやって好きな人と一緒に居るほうが、私は好きだな……」
「さ、三択さん、ちょっと……」

しかし尚三択は体を摺り寄せ、その豊満な胸を卓也の腕に押し当てていた。
まさに「当ててんのよ」状態だ

「数日前さ……卓也の手を取って空港まで走っていこうとしたじゃない。あれってさ……
冗談っぽく聞こえていたかもしれないけど、あれってけっこう本気だったのよ」
「え?!でもそれだと……」

卓也は自分の腕に嵌められている銀の腕輪を見た。
すると三択は

「あの時さ、一瞬だけ全部のしがらみを捨てて遠い遠い国に卓也と二人っきりで
暮らすってのも……って考えちゃったんだけどさ、まあ今考えれば無謀よねーーはは……」

ちょっとだけ自嘲気味に笑う三択。
卓也はそんな三択を見て、今夜空に打ち上がっている花火と重ねて見えた。

三択さんって、何だかある日突然消えて居なくなるような……
そうまるで打ち上げ花火や蜃気楼のような……そんなイメージを感じるのは
唯の気のせいなのかな……

「こ〜〜ら、何難しい顔してんのよ♪」
「いだだだだだだ!!!」

眉にしわを寄せて三択の顔を見ていた卓也は、ふいに三択に頬を引っ張られた。

「んもう……せっかく二人っきりなんだから楽しんでよ!!」
「え……」

引っ張られた頬を擦っていると、むくれた顔をした三択が不機嫌そうに

「何か難しいことでも考えていたの?いい?今は私のことだけ考えて!!
キスでもしようかな〜〜?とか後の草むらでグフフ……とかそういうことを考えるもんでしょ!!」
「そんなこと考えてません!!」
「じゃあ何考えていたの?」
「う………………………」

返答に窮した卓也に、三択が詰め寄り

「ほれほれ〜〜黙ってないでお姉さんに話してごらん?」

正直に話せるわけないじゃん…………

とはいえ言い逃れができる状況でもないので、何とか誤魔化そうと考えていた時だった。
卓也の視界の端で、空に花開く花火を背景に有り得ない物が空を走っていた。

良く見ると……

じ、自転車が空を飛んでる!!!!!

しかし、卓也は見覚えがあった。自転車に跨っているその人物を……

「美紗!!!!!」

 

周りは人々の喧騒や、花火の音、鉄橋を走る電車の音などおよそたった一人の声など聞こえる
はずはなかった。
だが、美紗は卓也が叫んだ瞬間、声のした方を振り向いた。双眸に青白い光を放ちながら…………

そして、卓也と三択の姿を確認するや否や自転車からジャンプし、
真っ直ぐ三択めがけて急降下して来た!!

「見つけたーーーーー!!!!!!!!」






「小賢しい真似をしやがって…………」
「きゅう…………」

空から急降下した美紗は、そのまま三択の顔面を踏みつけ着地した。
顔面を踏まれた三択は、目を回して倒れてしまい、美紗は卓也の姿を見つけるや否や駆け寄り

「お兄ちゃん酷いよ!!何で私を置いて先に行っちゃうの?お兄ちゃんと一緒に
花火見たかったのにーーー!!」
「何でって……美紗の部屋の前に書置きがあって「先に行ってて」って
書いてあったから……」
「書置き?そんなの知らないわ!!ということは……」

美紗の瞳に不気味な光が宿り始めた

「なるほどね……分かったわ。ちょうど犯人は気絶してることだしトドメをさしてやるか」

ゆっくりと三択に近付きつつ、懐からさっきたこ焼き屋からパクッた千枚通しを取り出し

「うふふ……蜂の巣にしてあげる♪」
「美紗!!!!――――」

止めようと卓也が駆け出した瞬間、今度は後ろからスクーターのエンジン音と共に、
聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。

「キャーーーー!!退いて!!退いてーーーー!!」
「あ、姉さん!!あそこにターゲット発見!!」
「よっしゃーー!!フルスロットル全開よ!!」

河川敷を爆走しているスクーターが、猛スピードで花火の見物人を跳ね飛ばしながら、
卓也の元に真っ直ぐ向かってきた。

「姉さん!!地面に三択様が倒れてるわ。避けて―――」
「死ねーーー!!!!」
「何で加速するのーーーー!!!」
「きゃーーーーーーー!!!!」

三択に気を取られて反応が遅れた美紗は、真っ直ぐ向かってくるスクーターに全く反応できず、
モロに正面から衝突して後方の川に吹き飛ばされてしまった
運転していたのは―――

「痛ったぁ〜〜、けどギリギリ間に合ったわね、ロケットちゃん」
「え、ええ……何とか。あ、それよりも三択様は?!」

美紗を跳ね飛ばした瞬間、バイクから投げ飛ばされたミサイルとロケットが見た三択は、
顔面に踏みつけられた足跡と、「何者」かによって腹をバイクで轢かれたタイヤ痕が
くっきりと残っている見るも無残な三択の姿だった。

「三択さま!!…………酷い、誰がこんなことを!!」
「…………姉さん、確かあの女に激突する前に車線上に―――」
「ロケットちゃん、これは多分あの女の仕業よ!!うんそうだわ!!全く
三択さまにここまでするなんて…………仇は討ちましたので安らかに眠り下さい……」

ああ、姉さん。そうなんですか。
無かったことにするのね。
その満面の笑みはそれを表しているのね。

「酷いことするわよね〜〜ロケットちゃん?」
「…………はぁ〜〜そうね、姉さん」
「こら!!酷いのは君たちだ!!」
「「きゃ!!!」」

ミサイルとロケットが振り向くと、こめかみを指で押え、呆れ顔の卓也の姿があった。

「とにかく事情を話してくれ。何でまたスクーターでここまで来て、
しかもブレーキも掛けないで三択さんを轢いたんだ?」
「あ〜〜、まあブレーキは……その……ちょっと勢い余って……
ここに来たのは……三択さまがここにいるから……私達も……」
「分かった分かった。それじゃまず救急車を―――」

「その必要はない」
「「「え?!」」」

突然声がしたので三人が振り向くと、川に落ちて気絶している美紗を抱えている人影がいた。
漆黒に白文字で「殲滅」と書かれたミニスカートの浴衣
黒くて長い髪
眼力で人を殺せそうな目
もう間違いなく学校の保険医の―――

「黒百合さん?!どうしてここに……」
「ああ、この花火大会の救護室の助っ人に来たんだ。見た所この二人は打撲程度だし
救護室で介抱すれば大丈夫だろう。
お前はその暴走姉妹と付き合って花火を見たり屋台でも案内しててくれ。
目を離すと何するか分かったもんじゃない。それと二匹とも!!」
「「はい!!」」

黒百合の威圧するかのような空気に、ミサイルとロケットは硬直し

「今回のこの行為は喧嘩両成敗ということで不問にするが、次に主人である三択を傷つけたら……
分かってるな??」
「「はい!!肝に命じます!!」」
「よろしい」

そう言って、ズブ濡れの美紗とタイヤ跡と足跡の付いた三択をヒョイと持ち上げ、
人の波の中に消えていった。

後に残ったのは、ポカンとした卓也、ミサイル、ロケットと
プスプスと煙を上げているスクーターだった。
やがて落ち着きを取り戻した卓也が、溜息混じりに二人を見て

「……ふう。黒百合さんはああ言ったけど、心配だから俺らも救護室に行こうか」

ところが、ミサイルは卓也の右手をガシッと握りピョンピョン飛び跳ね

「卓也さま卓也さま!!五月蝿いのも居なくなったし私私、お好み焼きと、たこ焼きと、
焼きそば食べて、くじ引きと、金魚すくいがしたいーー!!」

ロケットは、卓也の左手を優しく握り

「卓也様……あ、あの…………綿飴……」
「お、おい二人とも。三択さんの心配しないのか?」
「え〜〜?黒百合が付いているなら大丈夫でしょ。そんなことよりも屋台屋台♪」
「黒百合様の命令は絶対ですから。ご心配には及びません」

二人とも、意外に薄情なのか?
とはいえ、今救護室に行くと有らぬ騒ぎを起こしそうだしな。
命に別状が無いならここは―――

「よ〜〜〜っし!!今日は何でもお願い聞いちゃうぞ!!」
「やったーーーー!!!卓也さまだーーーーいすき♪」
「卓也様、あまり御無理を為さらない方が……」
「いいっていいって。それぐらい大丈夫だよ」
「卓也さまーー、肩車してーー」
「ちょっと姉さん!!無遠慮にも程がーーー」
「ああ、お安い御用だよ。ほら」

卓也が屈むと、素早くミサイルは卓也の肩に乗り

「どうだ?高いか?」
「わあ〜〜高いーー!!」
「……………」

ロケットは指を銜えて、卓也の肩に乗ってはしゃぐミサイルを羨ましそうに眺めていた。
すると、その視線に気付いたミサイルがにっこりと微笑み

「ロケットちゃんにも後で替わってあげるからーー」
「え?いえ私は……」
「だからもうちょっと待っててねーー、さーー先ずはあそこのお好み焼きからだーー!!」

 

 

 

修羅サンタ「水面に映る花火編」完

2007/08/01 完結

 

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